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夢の続き

NEXON提供のMMORPGアスガルドの長編二次小説を扱うクサいサイトです。MAINから登場人物紹介や小説本文へと進む事ができます。なお、作中の登場人物の名前は実際のゲーム内のキャラクター情報とは無関係ですのでご理解ください。

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Prelude:Beginnings of rebellion for "ZERO"

The final chapter Outside of Lie

 まだ自分の立場が分かっていないこの人形は、ちゃんと言ってやらないと分からないらしい。
だが、せっかく教えてやったというのに、死に掛けの彼はヘラヘラと壊れたように笑い出したではないか。

「適当言ってんじゃねーよ・・・。俺様がハデスだぞ。そうだよな、ルネア?」
「ま~だわからねえのか。」

弱々しく問いかけて来た声にルネアは何も返すことはしなかった。
それどころか、もう興味もないといったところか。視線すら注ぐ事もしない。
その横では両手を広げて呆れる男が嘲笑を垂れ流していた。

「こんなトロいのが俺様を演じてたのか。
 あのクソ羽に相当誤解されちまってるなぁ、機を見て挨拶しておかねえとナァ?」

いくら自分達が創った人形とは言え、この世界では今のところこのマヴガフがハデスで通っている。
おかげで随分と今までことがスムーズに運ぶことが出来たのはいいが、
あまり熾天使どもを調子に乗せるのも気に入らず、ちろちろ舌なめずりしはじめた。

「ハデス、妙な気は起こすなよ。」
「んなこた分かってる。いちいちうっせーよ、ウゼェな。」

ルケシオンの方角を見下ろすその眼差しは、明らかに熾天使を血祭りにして楽しもうとしている。
それをすぐに察したルネアが釘を刺すと、男は舌打しながら牙をむいてルネアに突っかかった。
だが今は、熾天使の前に始末しなければいけないものが目の前にいる。

「テメェも知ってんだろうが。ハデスってのは全てが本物であり、全てが化身だ。
 スオミに封印されているのもテメェより下位のコピー品だ。」

人間達の憎悪や憤怒、そうした闇や醜から生まれるマナの集合体。
それがハデスの原始体であり、人間が生きている限り不死身の神である。
男にとっては滑稽でならない。そうやって生まれた本物共が、我こそは神と叫ぶ姿が。
その成れの果てが今目の前の無様な姿だ。所詮、人形は人形に過ぎない。

「なぁ、そうだよなぁ、ルネア様よ?」
「あれほど出来損ないだったとは・・・そして今回も。私もまだまだ未熟と言う事だな・・・。」

失態を突きつけるかのように嫌味に塗れた口調でルネアを覗き込む男。
彼の言葉にルネアは一つため息をつくと額に手をやって自身の無明を恥じだしたではないか。
だが、マヴガフを驚かせたのはルネアの態度ではなく、その言葉であった。

「ちょっと待て・・・。ルネア、今回“も”ってのはどういうことだ!うごっ、おえっ。」

ルネアににじり寄ろうとしたその時だ。突然に足払いを喰らい視界が中に転がる。
すぐに起き上がろうとした彼の腹に足を振り下ろし、地面に打ちつける。

「いい面してんな?そう、テメェもハデス、そりゃ間違いねえ。この俺様が認めてやんよ。」

あまりに息苦しくて何も返せず苦痛に顔を歪ませる。
それを見下ろして勝ち誇った笑みを浮かべてくる男は、立場の違いを見せ付けるように足に力を篭める。

「だがよ、テメェも俺様とルネアが創った出来損ない。俺様を目覚めさせる為に創られた人形ってわけよ!」

確かに全てがハデスの化身。だが、彼らは少なくとも神ではない。
それを“本物”というだけで神を名乗るとは片腹が痛いと天を仰ぎ気に障る笑いを吐き出す。
当然だ、善神共と違い嘘が嫌いな悪神は、決して偽者などつくりはしない。
だが、数ある本物の中でも当然神は一人だけ。それがこの男。
すべての本物を創り上げてきたハデスを統べる者、悪神ハデスだというのだ。

「ハデスはセオ達五大神によって封印されていた。
 だが、今回お前が均衡の崩壊を導いてくれたおかげでその封印が弱まったのだ。」

ルネアの言葉を要約すれば、自分は利用されていたに過ぎないと言うこと。
ルネアはもちろん、このローブの男もこうなることを知っていたということか。
ダイモニオン・エムブレムを手に見下ろしてくる男は、復活を喜んでいるのかご機嫌だ。
人が瀕死の重傷を負っているその頭上で繰り広げられる神界の会話はにわかには受け入れがたい。

「ヒッヒッヒ、感謝してるぜ?マヴガフちゃんヨォ!」

感情を逆撫でる男のケラケラとした笑い声が舐めるように見つめてくる。
ヨルムンガントたちに食い荒らされ、腹を踏みつけられ身動き取れぬマヴガフは弱々しくも睨みつけるしか出来ないでいる。

「ま、“俺様”の復活に貢献できてテメェも嬉しいだろ?ヒャハハ!」

別に嬉しくなくともこの男にとってはまるで関係ないだろう。
何せ、自分の為に創った人形なのだ。どう人形が思うおうとも、結果さえ残してくれればそれで合格。

「こいつは他の化身とは違う、ハデスが創り上げた自身の権能そのものだ。
 お前達は・・・この男が創り上げた模造品に過ぎん。」

嘲笑をはきかけてくる男の横から、ついにルネアもまた真実を口にした。
どこにも逃げ場はない。ストレートな言葉がマヴガフを突き刺して彼の表情を奪う。
またローブの男は顔を手で覆いながら天を仰いで馬鹿笑いを始めている。

「嘘だらけな世界をぶっ壊そうとしてたら、まさか自分自身も嘘そのものでしたってな!
 こりゃ悲劇を通り越して喜劇だなァ、オィ?ウッハッハ~、超ツボったわ!」

認めるわけにはいかない事実を目の前にして、マヴガフの目元が震え始める。
もう、頭はすっかり悟っている。この男が、自分ではなくこの男が悪神ハデスなのだと。
否定できる材料が何もない。目の前でダイモニオン・エムブレムを開放し、ヨルムンガントを従える男から溢れ出すマナは
間違いなくハデスのマナなのだから。いや、違う、そんなはずはない。

「俺様は俺様だ!俺様こそが世界を・・・ぐあ!」
「なぁ、そろそろ答えろや?俺様が質問してんだろ?」

人形の分際で未だに立場を弁えずに喚き散らすマヴガフに舌打をしたハデスは、
眉間にシワを寄せるとマヴガフの腹に乗せていた足を軽く上げるや否やつま先で顎を蹴り上げた。
その勢いのまま仰け反った顔を踏みつけ、口元を釣り上げる。

「ねぇどんな気持ち?人のこと人形、人形って騒いで“俺様”だと思ってたら
 テメェも“俺様”に操られた人形だって知って、ねえ、どんな気持ち?」

嘲笑に揺れる声を抑えながら、人形を見下ろしてその憎悪の眼差しを観察しはじめる。
ここまで腹が煮えくり返る相手など今までいただろうか。エルピス・・・いや、この男はそれ以上に腹が立つ。
今までする側だったはずなのに、同じ顔に覗きこまれ今度はされる側。無性に腹が立って仕方がない。

「テメェ・・・必ず・・・殺す・・・ッ!」
「ギャハハハ!いいネェ、その憎悪!」

黒く光り、濁り、滾る怒りをぶつけても、ハデスは腹を抱えて笑うだけ。
何かできるものならやってみろ、そんな挑発的な目が見下ろしてケラケラ笑ってくるのだ。

「どいつもこいつも、何度顔合わせても同じ憎悪しかねえの。だけどテメェは違う!
 イヤァ!自分自身に憎まれるとは初めてだわ~!これだよ、俺様が求めてたモンはヨォ!」

よく分からない事を口走って悦に浸るハデスの下で、マヴガフは睨み続け牙で屈辱を噛み砕き続けていた。
何とかあの顔をゆがめてやろうとしても、もはや自分に残されているものは何もない。
ダイモニオン・エムブレムは奪われ、ヨルムンガントもハデスの下へ戻り、
手元に握り締める一本だけしか残っていない。この蛇も相手との力量差を前に完全に怯えており、
威嚇に唸ってはいるもののハデスが視線を移すや否やそのマナはびくついて震えている。

「ま、精々俺様のこと憎んでくれや?それが俺様の力になるってもんよ。キヒヒヒッ。」

尤も、そんな雑魚に用はないとすぐに視線をマヴガフに戻したハデスは覗き込むようにして屈み、
マヴガフに一つ挑発的な笑みを見せ付けると足を退かしてやった。
もう飽きた、というほうが正しいのかもしれないが。

「さて、と。マヴガフちゃんヨォ、テメェにはもうひとつ俺様のために役立ってもらうぜ?」

僕の蛇に命じてマヴガフを締め上げながら宙に吊るす。
その顔をにんまりと見つめたハデスは、使い古した人形へ残された最後の仕事を与える事にする。
もはや血まみれで殆ど身動き取れないマヴガフだが、それでも抵抗はやめない。

「誰がテメェなんかに・・・!いっそのこと殺りやがれ!」
「テメェに指図される筋合いはネェよ。そろそろ諦めて人形は大人しく操られとけ?楽になれんぜ。」

自分は神でもなく、世界を自身の手で再生することも叶わない。
その存在が他の誰かの道具としての価値しかないと分かった今、もうこれ以上存える意味などなかった。
それどころか、こんな男の為に生きるなど死んだほうがマシなのだが、
最後まで絶望を与えようというのか、この悪神は。その横では、不気味に何やら詠唱を始めるルネアの姿が映る。

「ハデスが封印から開放されたことを善神共に勘付かれるわけにはいかん。
 だが、彼らが気付くのも時間の問題だ。・・・その代わりを入れておかねばな。」

魔術師の神、真理の観測者ルネアの唱える呪術で浮かび上がる禍々しい魔法陣。
それは中心へと黒く、濁った渦を撒いてすべてを飲み込むブラックホールかのようだ。
つるし上げられたマヴガフは眼下に広がった底なし沼に目を見開く。

「ま、まさか?!」
「そゆこと!テメェが集めた力やダイモニオン・エムブレムは俺様が使ってやるから、安心してお寝んねしな。」

何が進められようとしているのかを察したマヴガフはもがき始めるが、神獣の締め上げる力は強くなるばかり。
焦燥とする彼の前で、ハデスは黒の聖書をマヴガフに見せ付けると背を向ける。

「ま、待てッ、待てよ!おい、コラ!やめろって言ってんだろ!」

絶望を湧き上がらせる悪神の狂気に満ちた笑いがどんどん遠ざかっていく。
伸ばせない手の代わりに首をありったけハデスへとせり出そうとするが、神は後ろ向きのまま手を振った。
ようやく振り向いた場所は魔法陣の端。彼はひときわ口元を釣り上げると両手を天へと掲げる。

「我、闇を支配せし者!冥府の扉よ今ここに開け!ダイモニオン・エムブレム、起動!!」

両手に集まった紫紺のマナを渾身で地面へと叩きつける。
電撃が走るように地面を張った蛇たちが魔法陣の中を駆け巡り中央を目指す。
彼らがマヴガフの足元、中央でぶつかり合った途端、地響きが起きて魔法陣が扉の如く口をあけた。
凄まじいマナの流れが足元で渦巻くなか、無情にも神獣たちは締め上げていた力を緩めた。

「ぐああああ?!」

底なし沼にまっさかさまのマヴガフへと伸びる無数の手。
もはや逃げ場などない彼を逃がすまいとする魔界の憤怒や憎悪に塗れた亡者たち。
マナを吸い上げられ、為すすべもないまま少しずつ、少しずつ飲まれていく。

「殺す・・・テメェら全員・・・ぶっ殺してやる!待ってろよ、コスモフォリアのクソ野郎共!!アーヒャハハハハ!」
「おー、こええ、こええ。さっすが“俺様”の憎悪はワケが違うってな、ヒヒヒッ。」

まだ諦めてはいない。必死にもがくマヴガフが怒りを迸らせる。
だが当然、ハデスにとってそれは負け犬の遠吠え。絶望に沈み行く者を見下ろして何とも楽しげ。
漲り、溢れて来る。化身から溢れ出す憎悪が、彼に力をさらに与えているのだ。

「無駄口を叩いていないで行くぞ、我々にはせねばならぬことがある。」

いつまでも悦に浸って動こうとしないハデスを後ろから呼ぶ声。
元々、出来損ないの人形に興味などないルネアが、これ以上待っていられないと歩き出していた。
指図されるのは気に入らず一度は舌打したハデスも、もはや前座は終わったと背を向けた。

「ケヒヒヒ・・・。では、参るとするか?この嘘だらけの世界を正しに。」

大分マヴガフががんばってくれたようだが、これからがメインショーの始まりと言ったところだ。
嘘つきには粛清を、崩れた均衡には再生を。それが神としての仕事。
すでにハデスには描かれていた。神界コスモフォリアを破壊し、全てをゼロへ回帰させるストーリーが。
その障壁になるであろう熾天使が舞い戻って行った下界を見下ろし、舌なめずりしてみせる。

「私には世界がどうなろうと関係ない。興味がある・・・それだけのことだ。」

観測者であるルネアにとって、均衡が保たれているか、それだけが監視すべきもの。
そのほかは全て、彼にとっては未知であり、ただの研究対象であった。
平穏な時代の未知であろうと、破壊と破滅へと向かう系譜であろうと、未知であれば彼にとってはどんな事柄でも良いのだ。
ただ、現状維持だけを良しとする世界だけはあまりにも無味乾燥で、変化をもたらそうとするハデスとの唯一の接点。
もちろん、ハデスにとってはルネアの興味など知ったことではない。
自分の役に立つかどうか、それだけである。もはや神界に未練などなく、すべて破壊の対象なのだから。

「エルピス・・・いや、シャニーだったかァ?今は花を持たせておいてやんよ、今は、な。キヒヒヒッ。」

冥界へと飲み込まれもはや腕だけしかこの世界に残されていないマヴガフを残し、
二人の神はそれぞれの為すべきを果たすために歩き出す。行き先など必要ない、全て目の前から破壊していくのみ。
ただ今は、その準備が必要だ。それが終わるまでの僅かな時間を熾天使に預け、
その間に生み出した希望で、良い絶望を熾天使が献上してくれることを精々期待して。
終わらぬ絶望は、決して途切れることはない。この世界が、嘘で創り上げられた幻想郷が消え去らぬ限り。
終止符を打とうというのだ、誰がこの道を否定できる。
偽善を語る神界に語りかけるように挑発的な笑みでローブの中から空を睨み上げるハデスは
手にした黒の聖書を完成させるべく、ルケシオンを後にするのであった。

ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~
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Last Episode:Outside of Lie

The final chapter Outside of Lie

 悪神の野望に打ち勝ち、人間達が絶望を砕き希望を拾い集めて世界へ戻っていった後、
激戦が繰り広げられた聖地はそれまでの激闘が夢だったかのような静けさに包まれていた。
マヴガフによって破壊しつくされ、荒れ果てた石造りの肌に風が吹き抜けていく。
その場所に観測を終えて一人降り立った男。
彼は静かにその中を歩き、その中に残骸を見つけて歩み寄るとじっとローブの中から見下ろす。

「何故このような場所で寝ている、シャニーはどうした。」

ルネアだった。彼はシャニーたちに破れ倒れるマヴガフを見つけていたのだ。
その問いにしばらく反応はなく、死んでいるのかとさえ思ったときだった。
仰向けに倒れ、帽子に隠れた目元からぎらりと怒りが光り、睨みあげてきた。

「見てわかんねえのか、さっさと助けやがれ・・・!」

やはり生きていた。生命反応があるから確認しに来たのだが、無様な姿だ。
もう立つこともままならないのか、倒れたまま掠れた声で咽りながら救いを求めてくる。
だが、ルネアはやはりじっと見下ろしたまま“観測”を続ける。

「ふむ・・・あのような出来損ない如き相手にできぬとはな。」

いくら熾天使の権能を継承したとは言え、今の熾天使は人間だ。
ダイモニオン・エムブレムをもってしてもその不完全に敗れるとは。
ある程度予想はしていたが、予想を下回ったのか、それとも相手が予想を上回っていたのか。
分析に入ろうとする彼に、下からまた苦しそうにかすれる声が怒りを吐き出してくる。

「あのクソ羽!次会ったら絶対殺す・・・!」

ここまでの屈辱を味わったのは久しぶりだ。あの善神共の裏切りの時以来か。
殺意を丸出しにして、牙を、そして邪眼を震わせるマヴガフ。
それまで腕組みをし、どこに視線があるか分からないような感じで空を見上げ考え込んでいたルネアだが、
マヴガフが口にしたフレーズにふと、腕組みを解いて彼を見下ろした。
そのローブの中の眉間にしわがよったことはマヴガフからも分かり、彼の怒りの口元が歪む。

「強化したとは言え、やはり・・・所詮は人形と言う事か。」

次があると思っているらしいが、実験台に次があるのは観測内容がある場合だけ。
もう十分にデータは取れた。既に彼の嗜好は次のステップへと映り、使い終わった残骸などもはやゴミとしか映っては居ない。

「あ?テメェ・・・何言ってやがる・・・俺様が人形・・・うおっ?!」

もちろん、それを言われたほうが口元にありありと怒りを滲ませて睨みあげる。
だが、もはやルネアの視線は自分にはなく、どういうことか問い詰めようとようやく立ち上がりかけたときだ。
突然背中を乱暴に蹴り飛ばされてうつ伏せに倒れこむ。
すぐに手元にヨルムンガントを握り締めて立ち上がろうとすると、今度は頭を踏みつけられた。

「ヒャー、汚ねえ面!」

頭上から虫唾が走るほどに狂喜を叫ぶ声が降り注いでくる。
一体何者だというのか。睨みあげてやりたいのだが、踏みつける足が靴裏をこすりつけるようににじってくる。
「どんな気持ちだ?あん?どんな気持ち?ヒャハハハ!」まるでそんなマヴガフの怒りを楽しむかのように、踏みつけながら上体を屈め、
彼の視線に相手があわせてきた。漆黒と深緑で染まったローブの中に光る黄金の蛇眼。
それが好戦的にこれでもかと笑っている姿に、マヴガフは思わず目を見開き声を失う。

「ど、どうなってやがる?!」

シャニーたちから受けた傷はうずき、そして今頭を踏みつけられた感覚も間違いなく本物だ。
夢でも幻でもなんでもない。だが、目の前にある光景はとても信じられない。
「な、なんで俺様がもう一人?!」黒のローブの中にある挑発的な笑みは、まさに自分のもののはず。
驚愕を叫ぶマヴガフとは対照的に、“もう一人の”マヴガフは腹を抱えて笑い出した。

「バッカじゃねーの!俺様は『俺様』ただひとりに決まってんだろーが!ヒャハハ、あ~マジウケるぜ!」

人の頭を踏みにじったまま、腹を抱えて天を仰ぐ。
するとローブの頭がするりと抜けて、中から現れたのはマナに逆立ち天を突き刺す赫然なる髪と
すべてを見つめ、飲み込まんと野心溢れる黄金の蛇眼だった。

「目が覚めたか、ハデス。」

奇声とも取れる笑い声へルネアが放った言葉は、マヴガフの目をさらに見開かせる。
一体何がどうなっているというのか。ハデスは今、足元にいるはずなのに、
明らかにローブの中の視線は、頭上でへらへらと笑う男へと向いている。
男のほうも、ルネアに名を呼ばれてそちらを向くとニッと口元を持ち上げて首をぽきぽきと鳴らして見せた。

「ア~、ようやくな。しっかし・・・結局この恰好かよ。
 天下の大魔道師様でも、五人がかりの封印は早々解放できねえってか?」

自分の姿を見おろして舌打を始める男。視界に映る姿は明らかに人間。
人形共と同じ格好というのはどうにも気に入らないが、確かに力が蘇る感覚はある。
体の隅々まで力を入れてみると、彼はまた嬉しそうに口元を持ち上げた。

「今は奴らに勘付かれるわけにはいかん。敢えてその形にしたのだ。」

為そうと思えば、元の姿で復活させてやることだって出来たが、
今はその時ではないとルネアは男に釘を刺した。決して、力を行使するなと。
まだ彼自身だって復活から浅く、マナも不安定なはずだった。
その中では、“この形”のほうがマナの安定はいい。何せ、この形用にこの世界のマナは調整されているのだから。

「ちっ・・・あのクソ共!今度こそぜってーにぶっ殺してやんよ・・・!」

忌々しい過去を思い出した男は、ローブの中でもはっきりと分かるほど牙をむき出しにしている。
その鋭く切れ上がる黄金の蛇眼が見上げるのは間違いなく天上界であり、
赫然とする髪が怒りのマナに揺らめき、またローブを吹き飛ばしかけている。

「おい・・・テメェら・・・・これはどういうことだ!」

下から弱々しい声がしがみついてきて、人の怒りに水を刺してきた。
鬱陶しそうに見下ろすと、そこには自分と似ても似つかない情けない顔が睨みあげている。
しばらくの哀れな姿をニヤニヤと見下ろしていた男は、静かに踏みつけていた足を上げる。

「うおっ、ごほっ・・・。」
「テメェ、言葉遣いに気ィつけろや。・・・殺すぞ?」

渾身を振り下ろし、情けない顔に再び地面を舐めさせた。
細い足だが、その力は凄まじく地面が拉ぐ。そのまま押し付けるように踏みにじり、
彼は立場の違いをマヴガフに見せ付けながら一つ鼻で笑う。
その声は自分とそっくりで、そっくりがゆえにその嘲りが余計にマヴガフの怒りを爆発させた。

「テメェこそ調子に乗ってんじゃねえ!俺様はハデス様だぞ!」

これは驚いたと細い目を見開いた男は、ルネアを見つめて何か言いたげだ。
だがルネアもノリの悪いもので、彼は何も返すことはしなかった。
それでも、マヴガフにはルネアの反応が何かおかしい事をすぐに察していた。
その顔を舐めるように見下ろしてきたローブの男は、負け犬の見せる牙を指差して
額に手を当てながら天を仰いで馬鹿笑いを始める。

「ギャハハハ!テメェ、なかなかギャグのセンスがあるぜ!ま~だ自分が神だと思ってんのかよ!」

今までもこうしてこの世界の人形共にハデスを名乗ってきたのだろうか。
哀れなものではないか、自分の正体も知らずに、わざわざ人の復讐に手を貸してくれていたのだ。
だが本人にその気はなく、自分こそ神だと今なお信じて疑うこともない顔は、
真実を知るものにとってはこれ以上無いほどの猿芝居で腹が痛くて堪らない。
壊れたかのような奇声が辺りに飛び散り、抵抗も許されず浴びせられる。
「うるっせぇぞ!」ついに我慢の限界に達したマヴガフは男の足を跳ね除けると距離を開け、
手先に短剣を召喚すると、その視界に男とルネアを捉える。

「喰らい尽くせ!ヨルムンガント!!」
「キャンキャン人形の癖に良く喋る奴だなァ?」

これこそ、自身が神である事の証。神獣ヨルムンガントに渾身をこめて放つ。
命を受けた蛇たちはその刀身を蛇頭に変え、牙をむいて男達へと迫るが、
男は相変わらずポケットに手を突っ込んだまま、ローブの中でニタニタと嘲笑を浮かべるだけ。

「おい、テメェら、もういいぞ、好きにしてやれ!」

迫り来る邪蛇達にひときわ口元を釣り上げた男は彼らを呼び、ポケットから出した手先をまっすぐマヴガフへと向ける。
するとどうだろうか、蛇たちは何と男の指先に操られるかのように向きを変えたではないか。
向かう先はもちろん、今まで散々主でもないのに命令してきたあの男。

「な、なんだと?!ヨルムンガント!俺の命令が聞けねえのか!」

それまで従順だった神獣たちが自分に牙をむき仰天したマヴガフは思わず腰を引く。
だが、蛇たちは明らかに喉もとを狙って襲い掛かってきており、
彼は手元に残された立った一本の短剣でそれらを弾くことで精一杯だった。
その様子にほくそ笑んだローブの男は静かに歩き出すと、放り出されていた黒の聖書を拾い上げる。
息を吹きかけ埃を払い落とし、中をぱらぱら開いて覗く口元がまたニヤリとした。
確かに、8割がた封印は開放されている。あの人形も、しっかり仕事はしてくれたらしい。

「見せてやるよ、神の真の力ってもんをなぁ!ダイモニオン・エムブレム起動!!」

そろそろ、あの人形に神ではないことを思い知らせてやらねばなるまい。
男は黒き聖書とマナを連結させると、一気に自身のマナを注ぎ込んで方陣を展開して見せた。
凄まじい邪のオーラがわっと辺りに迸り、音速に駆抜けた風だけで地は抉れ空は裂けて捻れた。
ローブの頭部が吹飛び、赫然なる髪がマナに揺らめき空を焦がす。

「なっ、くっ、くそったれ!離しやがれ!」

目の前でまさか自分しか扱えないはずの悪神界の理を起動されても、マヴガフは自衛で手一杯。
いや、それどころかついに無数の蛇に絡みつかれ、締め上げられて身動きが取れなくなっていた。

「・・・・?!」

締め上げられあまりに苦しくて天を仰いだ視界に突然映った光景は、彼に言葉を失わせるに十分すぎた。
空を覆いつくす黒の大蛇たち。それらはギラギラとその黄金をぎらつかせて自分を見下ろしていたのだ。
今まで従えて来た者達に食われる。その危機感に彼は固まっていた。
その絶望を十分に楽しんだ赤髪の男が指を一つ弾くと、繋いでいた綱が切れたかのように一斉に降り注ぐ大蛇たち。

「どうだぁ?!気持ちいいだろォ、痛ぇだろォ!」

マヴガフの体に我先にと突っ込む、その大顎で食いつき、噛み砕こうとする神獣たち。
もはや悲鳴を上げることをさえも許されず、もみくちゃにされる彼を眺め狂喜を発する男。
「叫べ!嘆け!おらおら!ヒャーッハッハッハ!」さらに蛇を召喚して、次々マヴガフへと投げつけてやる。
もはや聖地は黒一緒に染まりあがり、蛇たちが蠢く魔界と化したが
蛇たちは突然何かに勘付くとマヴガフのもとを離れて主の手元へと戻っていった。

「おい、ハデス。そのくらいにしておけ。」

ルネアがマヴガフを守るように守護方陣を張り巡らせたからだ。
男も舌打はしているが、ルネアの言っていることも分かるようでそのまま蛇たちをしまう。

「今死なれては意味がない。」

そういいながらマヴガフに近づいたルネアはマナで彼を宙に釣り上げると
まだ意識があることを確かめるようにして顔を覗きこむ。

「俺様が・・・こんな・・・クソに・・・!」

血まみれの顔の中で僅かに黄金が動き、睨み付けてくる。
虚勢を張れるほどまだ元気なようだ。もう少し遊べるに違いないと、背後から嘲笑が近づいてくる。

「おいおい、一応テメェも“俺様”なんだぜ?自分で自分をクソだなんて、自虐癖でもあんのか?」

ポケットに手を突っ込みながら睨みあげるような眼光で近づいてきた男は
ヨルムンガントたちに蹂躙されて形歪むマヴガフの顔を舐めるように見上げてケラケラ笑っている。
だが、その笑いがふっと消えると、怒りを顕に睨み付けてくるマヴガフの顎をがっと掴んで顔だけ引き寄せる。

「いいか、よぉーく聞けや。この俺様が、正真正銘のハデス様なんだよ!」

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7話:エピローグ

The final chapter Outside of Lie

 邪悪がはらわれた道を眩しい太陽が照らし、何事もなかったかのような穏やかさがある。
かもめの声が聞え、風がざわめく中を歩いていくとすぐにアンドラスたちを見つけることが出来た。

「シャニー!無事だったのね!」

巨体とその腕の中に守られる熾天使の姿を見つけたアンドラスの顔にぱっと笑顔が浮かぶと、彼女はだっと駆け出してきた。
シャニーも誰もが無事あったことにその口元が安堵に緩む。

「アンドラス!フェンネルはどうなったの?」

周りの荒れ方は尋常ではなく、激戦が繰り広げられたことを物語る。
だが、ここまでルケシオンを破壊した悪魔の姿はどこにもない。
マナの気配も感じられず、何となくを察しながらも不安そうに問う。

「突然魔法陣に吸い込まれていったわ。きっとあなたがハデスを倒してくれたからよ。」

直接聖地に立っていなくとも、熾天使とその守護者が悪神を打ち倒すその瞬間はしっかりと目に焼き付けた。
世界中の想いをその身に湛え、彼らの叫びの代弁者となって放つ光の矢。
その真澄の白の美しさと力強さに、アンドラスは感じていた。
やはりシャニーはシャニー。そして自分もまた、自分であることを。
だが同時に、やはり同じであるとも感じていた。同じ志、同じ想い、そして同じ道。
共に戦い、悪神から世界を守ることが出来たことを、アンドラスは誇りに感じてそっとシャニーの手を取る。

「メルト殿、本当に終わったのか?」

フェンネルと戦った者達は誰もが壮健で、アルトシャンの指揮が的確だったことを物語る。
当の本人もまた、未だ剣を手にしたまま剣帝の目を崩しては居ないが、
メルトの表情にすべてを察したのか、彼の許へ行き声をかける。

「ああ、ゲイルとシャニーがマヴガフを討った。もう大丈夫だろう。」

仕えるべきと誓った主が見せてくれた。守るべきと決めた理由のひとつを。
ルアスを離れ、ずっと彼女のそばで旅をしてきて良かったとメルトの清々しい表情が物語る。
無言に差し出される手。互いの健勝を讃え、メルトの目を見て笑うアルトシャン。
その誉れにメルトもまた頷き、和解はひとつの握手となって静かに、だが力強く結ばれる。

「シャニー、よく無事で帰ってきてくれましたね。大丈夫か?」

見るからに傷ついて、限界を超えて戦ったことが分かる。
愛娘の痛々しい姿に、イスピザードはすぐに彼女の治療に入る。
優しい声と共に体に流れ込んでくる温かく懐かしいマナに、シャニーはそっと目を閉じた。
吹き抜ける故郷のさわやかな風が頬をなぞり、まるで父に撫でられているかのようだ。

「お父さん。うん!ただいま!もう大丈夫だよ!マヴガフは私たちが倒したから!」

だが、自分だけ安堵と幸せに包まれていてはいけないと、
シャニーはすぐに目を開けると、イスピザードから貰った元気をすぐに彼へ満面の笑みとして返してあげた。
それを見たイスピザードの表情の何と柔らかい事か。滑りのいい金髪を撫でてやりながら感涙を流し始める。
眩しくも平和を象徴するこの太陽の下、父と呼ばれ笑いあえる日が来るなんて。

「そうか・・・これで・・・シャス様、見ていただけましたか?シャニーはもう立派な天使です。」

空を見上げ、もう二度と会うことは出来ないであろう最愛へ声をかける。
娘に過酷な運命を課した本人であるが、そのことへの葛藤を毎日イスピザードへもらしていた。
他にもやり方はあったかもしれない。だが、今その決断が世界を救ったのだ。
天界からきっと、娘の翼を広げた姿を見下ろして安堵しているに違いない。
「いいえ、私は人間だよ。」だが、父の言葉を否定したシャニーの眼差しもまた空を見上げていた。

「ただ少しだけ、人々の想いを形に出来るだけ。
 過ちを正してくれる仲間がいる、独りじゃないからやってこれたんだ。」

人間として生きてきて、人間と共に歩んできて、そして人間と共に光を掴んだ。
これから先も、人間として、人間と共に、未来へを歩み創っていく。
天界での使命を継承したとは言え、今このマイソシアに生きるシャニーは人間だった。
世界を守り、未来を創るのは、ひとりの意志ではなく皆の想いと決意。
英雄とか、そんな特別な存在は要らないと、その眼差しはまるでまわりに訴えるかのようだった。

「ま、よくやったと思うわよ。私の後継者を名乗るなら、もう少しがんばって欲しいところだけど。」

それでも、頭に載せられる手がまた一つ増えて、見上げれば姉の笑顔があった。
いつも何かと難癖をつけて決して褒めてくれないエルピスだが、今回は彼女も認めていた。
かつて自分が成し遂げられなかった事、その最初の一歩を見事妹は踏み出したのだ。
彼女なら、夢の続きを、自分達の志を継いでいってくれる。
今まで何度も彼女に権能を継承してよかったのかと疑ったことがあった。
だが今は、その時の呆れや不安のすべてを、掴んで世界の中で共に笑い飛ばす。

「では、我々はルアスに戻るとしよう。まずは、民に詫びなければならない。」

勝利の喜びに皆が酔いしれる中、アルトシャンだけは静かに剣を背負うとすでに背を向けていた。
これは始まりに過ぎない。今からこそが、本当に大事で踏み外せない道となる。
まずは過ちを過ちと認め、民に誠意を見せなければならない。
マイナスからのスタートはまだまだ喜べる状態ではないのだ。

「きっとやり直せます。時間はかかるかもしれないけれど、気付いたんですもの。」

不安に胸が押しつぶされそうになるのを、必死に総統としての強いまなざしで抑える。
親の気持ちが分かっているのか、アンドラスはすぐアルトシャンの手を取り笑顔で励ました。
独りではない、そう彼に伝えるべく。「そうよね、シャニー?」
新たに出来た同志が手を貸して欲しいと見つめてくる。

「もちろんだとも。」

シャニーは自分と同じ志を持った透き通った蒼の眼差しを見つめ、力強く頷いた。

「人が自ら気付き、過ちを正して先を目指す。それこそが進化だと私は思う。
 みんなで過ちを正したんだ。これからだよ、進化していかなくちゃいけない。」

ひとりの英雄が世界を正し、管理することなどそれは進化ではない。
誰もが思い知ったはずだ。たった一人の英雄が思い描き、創り上げた理想郷がいかに脆く矛盾に満ちているか。
空から降り注ぐ見えない混沌。その一つ一つへ皆が目を向けて、
素晴しい未来を創る為に共に支え、共に歩む大切さをシャニーは静かでもはっきりとした口調で語り、
じっと見つめてくるアルトシャンたちへそっと手を伸ばす。

「頼んだよ、アスク帝国がマイソシアの中心を担っていかなきゃいけない部分は大きいんだから。」

いつかはルケシオンも世界に誇れる町へと大きく成長させていきたい。
だが、今はまだようやく復興が終わり、村から町へとつぼみが膨らみ始めたばかり。
大国アスクが世界に与える影響の大きさはこれからも変わらないだろう。
その国の指導者達が、人間と向き合って共に前を見つめることに気付いてくれた。
今までは敵だったが、今や同士だ。握り締められた互いの手が決意を物語る。

「希光、今まで貴殿を、いや人間を誤解していたようだ。
 過ちは過ちと認め、私はここにアスク帝国の意志として詫びようと思う。」

手を結びながら、アルトシャンは深々と頭を下げた。
剣帝と呼ばれるようになってから、人に頭を下げたことなど初めてかもしれない。
そして、意志を託せる相手また初めてなのかもしれなかった。
ようやく、人間に帰ってきた。そんな感じさえする。

「詫びなんて要りません。」

だが、シャニーはすぐにアルトシャンに顔をあげさせた。
詫びて欲しくて今まで歩んできたわけではない。むしろ、これから。

「だけど約束してください。人間を愛し、守ることを。」
「むろん、そのつもりだ。まずは民に詫び、あるべきの中心に人間を据えて新たな一歩を踏み出そうと思っている。」

アルトシャンの眼差しは今も厳しいが、その厳しさは以前とはどこか違った。
はっきりと、彼もまた温かい同じ血が流れる人間だとはっきりと分かる。
彼の目は遥か遠きルアスを臨み、帰国後に何をしていくか既に地図には道が描かれているようだ。
アスクを、世界を守る剣帝アルトシャンが今息を吹き返した。
シャニーはそう確信して、彼の意志に静かに頷く。

「希光よ、今度こそより良い世界を創っていく為に手を貸してもらえないだろうか?」

ちょうど1年前だった。彼女に同じ言葉を送り、希光の称号を授けたのは。
あの時は裏に蠢く謀を隠していたが今は違う。
彼女の手を両手でしっかりと包み、はっきりと蒼の瞳を見つめる。
それはまるで希望を握り締めるかのように。

「願ってもないことです。私もルケシオンから帝国の復興と繁栄を祈っています。」

彼らには彼らの、自分には自分の帰る場所があり、そして為すべきがある。
アスクが立ち直ってくれれば、ルケシオンにもきっといい風が吹くし、逆も同じだ。
それでも、志は同じ。世界をよりよく進化させていきたい。以前は南方の晩土と呼ばれ蔑まれたルケシオンだが、
シャニーは敢えて対等な同士としてアルトシャンと手を結びこれから先を託しあう。
そこへ重ねられたシャニーと同じ白く細い手。

「シャニー、今までのこと、本当にごめんなさい。」
「ううん、あなたが気付いてくれたから私は嬉しいよ。」

アンドラスだった。彼女は改めてシャニーへと詫びる。
それにぱっと向こうに咲くひまわりの如く笑う彼女に、アンドラスの口元も自然と優しくなった。
今から思えば、以前の自分の憎悪にはゾットするし、それ以上に愚かだったと後悔するばかりだった。

「確かに私はあなたから生まれたかもしれない。けれど、今思うと同じでも良いと思ってる。
 あなたはルケシオンを、私はアスクを。守りたい大事なものは、生きる意味は違うんだもの。」

それが間違いだと顔を衝き合わせて教えてくれたすべてに感謝してもしきれない。
やはり、人間は温かい。今一度、アンドラスは人間への愛を胸に抱きしめる。
守りたい、大事なものすべてを。生きる意味を見つけた瞳は活き活きとして
もはや影を潜ませた、怯え窺う震えた心はどこにもない。

「存在価値は、自ら見つけるもの。今なら分かるわ。
 私はこれからお父様を支え、アスクをより良い国に育てる為にすべてを捧げるつもり。」

ナンバーワンは確かに大事だ。だけど国を作るためにはそれだけではいけないことを知った。
たくさんの光が集まり支えあって初めて、国という大きな力は動き出す。
誰一人として同じ光などない。その人に出来るオンリーワンを見つけて共に歩みだせるよう光を拾い集めていく事。
それこそが自身の歩む道と、自分の生まれた意味をはっきりとさせた眼差しは強い。

「アンドラス、ありがとう。同じ志を持つ人がまた一人増えて、私も勇気が湧くよ。」

彼女の言葉にシャニーも心からの喜びを顔に浮かべて頷いていた。
人々は英雄と讃えてくれるが、シャニーにとってはそれは褒め言葉ではなかった。
だが、きっとアンドラスは分かってくれた。喜びが自然と手を取らせる。
互いに同士と認め合ったところで、アンドラスがふいにウインクして見せた。

「どっちが早く復興するか勝負しましょう!」
「し、勝負?!」

突然持ちかけられた言葉に、シャニーの声が裏返りそうになる。
その反応を楽しむかのように、アンドラスは結んでいた手を離すとシャニーへ指を衝き向ける。

「あなたに負けるつもりはないわ。これからはライバルよ!」

歩む道は違う、だけど目指すものは同じ。ならば、手を取り合うがそれでも負けたくはない。
敵ではなく、好敵手として今度は宣戦布告を仕掛けたのであった。
「ライバルか・・・。」この空の繋がる向こうで、同志が一生懸命に道を歩んでいる。
その情景を思い浮かべたシャニーは嬉しそうに頷いた。

「よぉし、負けないぞ!」

さっきは和解と協力の握手だったが、今度は互いの拳に決意を乗せて軽く打ち合わす。
そっくりだが、まるで違う4つの蒼の瞳が向かい合い、にっと笑いあった。

「そろそろ行くとしよう。希光、貴殿らも勝利宣言をしにいかれよ。」

いつまでも勝利に酔いしれていられる時間はないと、アルトシャンはすでに背中を向けている。
まだ世界中は戦乱に終止符が打たれたことを知らないのだ。
民の為に戦ってきたのなら、真っ先にその民に安心と平和の叫びを届けなければならない。
互いに距離を開け、己の道へ戻る準備を始める。

「シャニー、また会いに来る。その時ゆっくり話をしよう。」

本当はこの場で色々話をしたいセインも、新たに仕える主の背に従うことにした。
それでも名残惜しく、彼はシャニーの顔をしっかりと焼き付けるように見つめている。

「兄さん、私も待ってるよ。あ、私から行ってもいいよね!」

復興もあり、セインが仕事で忙しく、ルケシオンへ来る時間などないことは優に想像できる。
イーグラーの許へ顔を出しに行かなければいけないし、ルアスは落ち着いたら一番行きたい場所だった。
だが、セインにとってはその申し出は涙が出るほど嬉しい事だった。
今までずっと身分を隠してきた自分を、彼女が兄と思ってくれているのだと感じることが出来たからだ。

「もちろんだとも。父上と共に待っているよ。」

歓迎の意をその顔中に表して、セインはシャニーの手を取った。
シャニーにとっても不思議な気持ちながら、やっと見つけた家族との笑顔に幸せいっぱいだ。
その笑顔を後ろから見つめるイスピザードの顔の何と穏やかな事か。

「ではシャニー、しばし別れの時。また落ち着いたら、ゆっくりアンサンブルをするとしよう。」

本当はもっともっと、平和になったこの時間を娘と共有していきたい。
だが、動き出した時はもう待ってはくれない。
時が穏やかに流れ始めたその時に楽しみはとっておき、そっとイスピザードはアルトシャンの下へと戻る。
「待て、イスピザード。」だが、その彼を止めたのは他でもないアルトシャンだった。

「お前はルケシオンに残れ。」
「アルトシャン様?!」

主が何の前触れもなしに命じた内容はイスピザードの目を真ん丸にさせた。
もちろん彼だけではなく、周りで聞いていたシャニーたちも驚きを隠せないようで行く末を見守っている。

「それはどういうことでしょう。」
「これからはルケシオンとも協力していかねばならない。
 その為にも、今までの関係を修復せねばならない。大使が必要だろう。」

管理し、支配するために行った中央集権。だが、これから歩む道は共に見上げ支えあうもの。
今回の事件で生まれ亀裂はそう簡単に埋まるものではない。
各地に大使を派遣し、関係を復旧させていくことからまず始まる地道な活動だ。
特に関係修復に時間がかかるであろうここルケシオンに、アルトシャンは特使を置いたのだった。

「ありがたき幸せ・・・。その使命、必ずや果たして見せます。」

帝都ルアスでの活動が最も大変だろうに、イスピザードは主の優しさに感謝し感涙を禁じ得なかった。
何度も何度も頭を下げると、彼は嬉しそうに踵を返してルケシオンの街並みを見上げる。
そしてその先には、太陽よりも眩しい笑顔が屈強な男の腕の中で輝いている。

「お父さんがルケシオンに・・・。あぁ、何て幸せなの。」

ずっとずっと探し続けて来た家族と共に生きていくことが出来る。
やっと見つけた幸せが目の前にあり、少しずつ近づいてくる。
思わずゲイルの腕の中から手を伸ばすと、優しい匂いと共にそっと抱きしめてくれた。
幼いころの記憶の欠片、その隅にずっと忘れず残してきた温かさが今彼女を包み込む。

「ずっと、ずっと夢だったんだ・・・。」
「シャニー・・・。おお、温かい。もう離さないぞ、シャニー・・・。」

どれだけ断ち切ろうとしても決して途切れることの無かった家族の絆。
運命が引き離した二人は絆を手繰り寄せ、今ひしと抱き合って涙を流しあう。
その光景を見届けたアルトシャンは娘とセインを伴い、錬金艇のハッチを上げた。

「ではさらばだ。また近いうちに便りを出そう!」

ルケシオンの穏やかな風を巻き上げたエンジンがうなりをあげ、
力強く再開を誓ったアルトシャンや手を振るアンドラスの姿がみるみる小さくなっていく。
そして一定の高さまで浮かび上がった錬金艇はあっという間に地平線の彼方へと消え、
あたりには今迄がまるで夢だったかのような、いつも通りの潮騒がのんびり時を刻み始める。

「行っちゃった・・・。ホント、終わったんだね。」
「ああ。」

だけど、夢ではないという事は、自分を優しく包んでくれる者たちが教えてくれる。
空を、そして仲間たちの顔をぐるりとゲイルの腕の中から見渡したシャニーはほっと胸をなで下ろした。
取り戻したのだ、平和を。終わったのだ、絶望と悪夢を生み出す悪神との戦いは。
緊張を解き、そっとゲイルの胸に身を寄せて静かに目を瞑る。
「だけどまだ終わっちゃいねえぞ。」だが、それをゲイルまだ許してくれなかった。

「みんなのところへ行こう、勝利を伝えるんだ!」

シャニーを抱えたまま、ゲイルは力強く歩き始めた。今もっとも、勝利を伝えたい者達の元へ。

聖域を後にし、ルケシオンの森を抜けて街を一望できる丘まで戻ってきた。
皆の顔を見つけたら、まずどんな言葉を彼らにかけてあげたらいいだろうか。
そんな事を考えていた彼女だが、民はそんな時間さえ惜しかったのだろうか。
視界に広がった光景にシャニーは思わず言葉を失って目を真ん丸に見開く。
そこにはたくさんの大好きな顔たちがあって、自分たちの帰還を歓迎してくれていたのだ。
長年住み慣れた街だ。どこで待てばルケシオンの娘の顔を誰よりも早く見ることが出来るか皆知っていた。

「見ろよ、皆の歓喜に満ちた顔。みんなお前の帰りを、平和の再来を心待ちにしてたんだぜ。」

民たちの顔はもれなく喜びにあふれ、口々に叫ばれる言葉は希望に満ちている。
それを全身に浴びたゲイルは、嬉しそうにシャニーの目元に手をやると感涙を拭ってやる。
この光景には、さすがのメルトの口元にも笑みが浮かぶ。
場所は変わっても、やはり人間が求めるものは何か変わらない。
希望、そして未来への幸福の渇望。これからこの町がどう発展していくか楽しみだった。

「うん・・・。彼らの為にも、これからもがんばっていかないとね!」

それを成すことが出来るであろう、若い二つの光が民たちの希望と夢を湛え素晴らしい笑顔で輝いている。
メルトは彼らの成長を心の中で湛え、そして更なる進化を祈る。
それに応えるかのように、マナを使い果たして立つこともままならないシャニーが、
ゲイルの腕の中で彼へ、そして民たちへ大きく手を振っている。

「ああ、おかえり。シャニー。」

一番愛した笑顔が今、自分の腕の中でさんさんと輝いている。
ようやくに取り戻した平和、そしてふたりの大切な時間。
それを確かめるように、ゲイルは彼女へ改めて帰還を祝う言葉を捧げた。
聞くや否や、ぱっと広がる笑顔。なるほど、彼女が熾天使だとうなずける笑顔はまさに希望。

「ただいま!みんな!私たちは勝ったんだよ!世界のみんなの祈りのおかげで、ハデスを倒したんだ!」

この喜びを一番に伝えたいのは勿論ゲイルだ。
強く手を突きあげてゲイルに歓喜を叫ぶと、彼女は民たちの方を振り向き、ありったけの幸せと感謝を叫ぶ。
途端、彼らからは怒号とも取れるような賞賛が湧き上がり、シャニーの笑顔はますます輝いていく。
その時だ、ふいに彼女の頬に添えられた手が視線をゲイルへと引き戻させる。

「シャニー?」
「え?ど、どうしたのさ。そんな顔して。」

突然強い力が視線を無理やりゲイルへと向けさせるものだからびっくりしたらしい。
おまけに、目の前にある最愛の顔はいつもの一緒にバカをやってきた顔ではなくどこか真剣で、
いつも一緒にいるはずなのに見つめられずとどこか恥ずかしい。
だが、ゲイルはそんな彼女の問いに答えることもなく。

「俺の一番の宝物、世界で一番の宝石。ずっと傍で輝いていてくれよ。」

抱き上げたシャニーを更に近くに寄せると、包み込むようにして抱きしめる。
途端、シャニーの目が見開き、観衆はどっと沸いて二人を祝福し始める。
ゲイルがシャニーの唇を奪い、最愛へ最高のプレゼントを捧げたのだ。
思わず泣き出したシャニーだがそのまま静かに目を閉じ、ゲイルの太い首に腕を巻きつけ彼を求める。
幸せを噛みしめ、これからずっと続くように祈りながら。
希望に包まれるルケシオンは旗手の帰還に熱狂し、
その声たちが新たな時代の幕開けを知らせ、捻じれ止まっていた運命が再び時を刻み始めていくのであった。

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6話:英雄達の祈り

The final chapter Outside of Lie

「いいよ。シャニー。悪さをする奴はばーんとぶっ飛ばしちまいな!」

早速祈りを捧げ始めたのは、大陸の正反対に位置するスオミの魔術師達。
蘇った大賢者リュミエの下に集まった魔術師達は光に祈り、思い浮かべるのは夢見た未来。
彼らの夢を愛弟子に託すリュミエの顔は確信に満ちていた。彼女は、自分達が支えれば必ずやってくれると。

「シャニーさん、今度は私があなたを守る番です。どうかこの祈り、届いて!」

幽閉されていた時に現れた光。彼女のもたらした光がどれだけ胸に希望を湧きあがらせたか。
あの思いは決して忘れない。あの喜びを、強い気持ちを今度は彼女にあげたい。
姉の横で強く手を結ぶミリアはひたすら友の顔を思い描いた。


「人間は好きにはなれんが、受けた恩は返す。それが我らの掟じゃ。祈れ皆の衆!」

決して人間と和解したわけではない。
今祈る相手は人間ではなく、自分達と共に世界を守ろうとした同士。
ロードカプリコの叫びに、多くのカプリコが静かに目を閉じる。
早くこの空を包み込む暗黒の雲が晴れていくようにと。

「僕も大きくなったら、あんなふうになるんだ。僕でもみんなを守る英雄になれるなら祈るよ!」

困っているものを、恐怖や絶望で泣き叫ぶものを守れる力。
守られたものはその力に憧れ、新たな夢として歩み始めていた。
シャニーにかつて救われたあの子供のカプリコもまた、強く、強く目を瞑って祈る。
困っているものを守る、それが英雄。あの細い背中に追いつく一歩を彼は勇気を振り絞り歩みだしたのだった。


 ミルレスから大陸の正反対に位置するかんかん照りのサラセンからは
ルケシオンに広がる暗黒が鮮明に映り、邪悪なマナと良く知る希望のマナが風に乗ってどんどんやってくる。
その中で修道士たちは鍛錬の手を止めて、ルケシオンのほうを見上げていた。

「シャニー、ゲイル。お願いよ、あなた達が私たちの希望。」

今、かつて共に世界を守るために旅をした仲間が、何か強大な力と戦っている。
迸る邪悪な気と、大好きな妹分のマナがぶつかり合う衝撃をサフィはこのサラセンからも感じていた。
本当ならば、そばに駆け寄って手を貸してやりたい。二人の距離はそれを許してはくれない。
だが、サフィはシャニーが何を一番求めているかを知っていた。
支えるということは、何も力だけではない。

「その希望を俺達が支える。分かってるぜ、シャニー。」

静かに手を結ぶサフィの横には、山かと思うほどの巨大な男が拳ではなく祈りに手を結ぶ。
ヤアンの背後には、どれもあまり似合わないが屈強な者達が祈り、目を瞑っている。

「生きている魂全てで創り上げる、それこそ未来だ。
 俺もその一人として、このサラセンから戦うぜ。戦ってるのはお前だけじゃない、負けるな!」

かつては闇の世界で命を貪る修羅として生きていた者達。
だが、創るのは神ではなく、皆で世界を創ることを熾天使は教えた。
諦めず前を向き、転んでもまた空を見上げ。今度は教えられたことを実践する番と、
ヤアンは空に向かって強く叫び、親友の勝利をただひたすらいのる。

「ここがようやくスタートライン、そうだろ?シャニー。」


「料理も創造、そして弛まぬ情熱こそが新たな道を生み出す。」

今日も変わらず王城の厨房で小気味よい包丁の音が聞こえていたかと思うと、それがふと止まる。
ふわっと香ったのはフランベの炎ではなく、同じ志を抱いた料理人の想い。
ふとイーグラーは厨房裏口から外へ出て、闇に染まる東の空に気づくと
静かにその手は胸元で結ばれる。

「誰が為に、それを忘れずに帰ってこいよ・・・!」

今、愛弟子が今一番為すべきを果たすために戦っている。
彼女はきっと帰ってくる、そう確信して彼はシャニーを心から励ました。
すべてが終わったら、またともに厨房で逢えることを願って。
イーグラーが王城から空を見上げている時、城下町ではノカンの残党を制圧したラルプ達が帰国の途についていた。
彼らもまた光と闇の壮絶な戦いを東の空に見て熱き血潮が噴きあがる。

「負けんじゃねえぞシャニー!ルケシオンの底力からを見せてやれ!」

拳で宙を裂きながら怒鳴るラルプ。彼に続くように他の海賊たちも怒号を上げる。
出来るなら、姫の傍に行って共に戦いたいと願う荒くればかりだ。
だが、そんな気性の荒いものたちも今は自分を抑えて強く念じる。
彼女が握りしめる弓に番えられる矢、少しでもそれを強くするために。

「娘よ、我が後を継ぐ者として誇り高く戦え。ゲイル、娘を頼んだぞ・・・。」

自慢の娘だ。だが、さすがにデムピアスの顔にも不安が隠しきれない。
それでも彼は強く東を見つめて娘に全てを託した。
きっと彼女なら、この世界中の祈りをその翼に湛えてくれるに違いないと。


 降り注ぐ閃光、今にも落ちてきそうな暗黒の空。
その真下でアルトシャンたちはフェンネルの執拗な攻撃を抑え込んでいた。
既に周りは彼の爪が破壊しつくして平地という平地は何処にもない。

「はぁ!」
「くぬっ、小賢しいハエめ!」

それでも、アルトシャンの重く鋭い一撃がフェンネルを捉え、直撃を受けたフェンネルが怯む。
岩盤かと思うほどの固い甲殻に覆われた体には大きなひびが入り、その破壊力を物語る。
カウンターを浴びせようとすればアンドラスからアイスランスが飛んできて阻む。
イラつく化身から放たれた一撃をバックステップで避けて距離を開けた時だった。
ふいにそれまでに無いほどの閃光が辺りを包む。

「?!シャニー!見て、みんな!」

彼女の呼びかけに誰もが空を見上げる。
そこには闇を飲み込むほどに光り輝く熾天使のシルエットがあった。

「!退け!化け物!」
「どは!!」

そのシルエットは間違いなく、弓を構え矢を射ろうとしている。
今こそ彼女を支えるべき時と、アルトシャンはしつこく絡み付くフェンネルを渾身で跳ね除けた。
巨体がまるで紙風船のように吹き飛び、岩肌に突っ込んでもうもうと土煙を上げる。

「皆、熾天使へ向かって祈れ!我々の想いを彼女に託すのだ!」

一つ叫ぶや否や、誰よりも早くシャニーへ祈り、己の夢を彼女に託すアルトシャン。
かつてあれほどに命を狙った者への詫びも篭め、ひたすらに心の中で世界の繁栄を祈る。
彼女は目覚めさせてくれた。民の為に、その想いが周りの者達のも伝わっていく。

「シャニー、もうすぐ、もうすぐです。もう少しだけ、辛いけれど堪えて、前を向いて飛ぶのだ・・・!」

父親らしいことは何一つしてあげられなかった。
これからはその償いもしていくつもりだが、これはその第一歩。
毎日娘のために祈りをささげてきたイスピザードだが、彼はより一層強く、強く祈り念じ、
そしてシャスにも懇願した。娘を守ってほしい、と。

「頼むぞ、ゲイル。妹を、シャニーを守ってやってくれ・・・!」

今でもゲイルのことを心から認めたわけではない。
だが今はもう彼女を守ってやれるのは傍にいるゲイルしかいない。
妹の笑顔を思い浮かべたセインは今だけはと怒りを抑えてあの屈強な男に大事な妹を託す。

「ふっ、そこで倒れるならそれまでの人間だったという事だ。」

最後まで手を結ぶこともなく、閃光迸る空を見上げていたヴァン。
2年前、同じ者が宿していた光とは似ても似つかない、さらに強くなった光。
これこそ、自分が好敵手として認めた力。

「見せてくれよ、キミの力をさ。」

まだまだ、こんなものではないはずだ。
それを見てみたい想いがついにヴァンに手を結ばせた。
世界中から集まる祈りの声は次第に大きくなり、シャニーの心へ飛び込んでいく。


 しっかりと手を握りしめてくるシャニーから流れ込んでくるマナがどんどん強くなってくる。
流れは小川から大河へ、そして今大海原のごとく大きく広がりゲイルを包み込むようだ。

「すげえ・・・!何だこの太陽を宿してるような感覚!」

シャニーは希望を湛える器だと改めて思知らされるゲイル。
世界中が彼女へ祈り、集まった希望が今光となって彼女から託されて続けているのだ。
自分ではないとんでもなく大きく強い力。だがその力は実に穏やかで温かい。

「これがみんなの想いなんだ!ハデスの絶望になんか負けない!無限大の光!」

更に強くゲイルの手を握りしめて叫ぶ。皆の想いを、平和への叫びを。
静かに頷いたゲイルはまっすぐに空を見上げて、シャニーが放った光の檻にもがく暗黒龍へ
掌を今一度強く開き照準を絞る。途端、その中には清らかだが強烈な流れが渦巻いて二人を包む。

「受けてみろ!俺達人間が自分たちで創りあげた光だ!」

ゲイルの方向と共に、彼の手先から迸った白き聖光がばっと宙に広がり闇を照らす。
絶望のマナを引き裂く光が空へと伸びて、世界中の者達の祈りを更に強くし、光を前にしたマヴガフだけが絶叫していた。

「マ、マジかよ?!お、おい!ちょっと待て!何で反応しねえ!ダイモニオン・エムブレム?!」

出力低下は止まらずに、どれだけマナを注ぎ込み魔道書と連結しようとしても
まるで見放したかのようにダイモニオン・エムブレムは反応することは無かった。
ついにぷっつりと切れた魔道書と自身のマナの融合。
そこを狙っていたかのように飛び込んできた光の渦が彼を飲み込み、暗黒の雲を引き裂き天を貫く。

「ぐあああああ?!」

力を失ったマヴガフを飲み込んだ光の螺旋が彼を引き裂いていく。
全身のマナが燃やし尽くされるかのように体が熱い。
負けると言うのか、裏切り者たちに、嘘つきどもに負けると言うのか。

「く、くそがああああ!」

どれだけダイモニオン・エムブレムと再連結しようとしても何も反応は無い。
思い出されるルネアの言葉。恐らくは彼には想定通りだったに決まっている。
その謀に利用されたと言うのか。怒りが光に飲み込まれつつあるマヴガフの顔を焼き尽くす。

「殺すッ、てめえら全員ぶっ殺してやるからな!待ってろや!アーヒャハハハ!」

もう、笑うしかなかった。彼はそのまま光の彼方へと飲み込まれ、最後の抵抗が空を劈いて世界中に響き渡る。
それも聞こえなくなると、空を走った銀の矢は暑い暗雲を吹き飛ばし、空には蒼が戻る。

「終わった・・・のか?」

凄まじい力を扱った腕は、光を放出しきっても固まって動けなかった。
放ったその恰好のまま、ゲイルは空に広がりだしたぽっかりと呑気な白い雲を見上げ
帰って来たルケシオン特有の太陽を指の隙間から見て茫然としている。

「もうあのマナは感じない・・・終わったんだ・・・あああ・・・。」

飲み込まれ、砕かれてしまいそうなほどの強大な暗黒のマナの気配はかけらもなかった。
それが分ると一気に緊張の糸がとけ、するりとゲイルの手先からシャニーの手が抜け落ち、
糸が切れた人形のようにその場に倒れこみそうになる。

「シャニー!しっかりしろ!」
「ごめん、えへへ、マナ・・・使い切っちゃったみたい。」

もうまるで体に力が入らず、シャニーはゲイルを見上げて苦笑いして見せた。
本当は勝利を心から喜び、飛んで跳ねて彼に抱き着きたいところだ。
だがそれはゲイルも同じ。倒れこんだシャニーの腰とひざに手をやると軽々抱き上げる。

「良かった、本当に。生きていてくれてありがとう。」

一度はもう終わりかと思った時もあった。だが、見つめあう瞳は互いを強く感じて微笑む。
生きて、生きてまた夢の続きを追うことが出来る。
見つめて微笑んでくれることがこんなに幸せなことだなんて。
自然とゲイルから漏れる感謝にシャニーも精一杯腕を伸ばして彼の首に回し身を寄せる。

「ゲイルもありがとう。すごかったよ、最後の一発!」

自分が放つアストレアよりもさらに眩しい光を放った最愛の男が、今以上に頼もしく思えたことはない。
彼と出会い、そして共に今まで歩んでくることが出来たことが嬉しくて、嬉しくて。
たとえ神の仕組んだ事であっても、今こうしてゲイルと出逢い抱きしめ会うことが出来ることを感謝するばかり。

「よしっ、じゃあみんなのところへ帰ろうぜ!」

しばらく抱きしめあい、生きて暗いトンネルを二人で抜けた事を確かめ合っていた。
だが、この喜びは、この未来は、決して二人だけで掴み取ったものではない。
早く皆にこの喜びを分かち合おうと、ゲイルはシャニーを腕の中に抱き上げたまま
仲間達の元へと戻り、そして聖地を後にした。

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5話:黒の魔道書

The final chapter Outside of Lie

「そのままそこにいな!ぶっ潰してやる!ダイモニオン・エムブエム、ペンタクルフェイス2オープン!」

今まで開放してきた黒き魔道書のインデックスをひとつ展開することにした。
マヴガフから紫紺が天へと吹き上がり、悪神界ダイモニオンへと注がれる。
それそのものが巨大な魔法陣となって構成されたダイモニオン。その方陣の頂に設置された柱にまたひとつ紫焔が灯り、
理の命を受けて光ったペンタクルはマヴガフへ紫電を落としてマナが連結され、膨らみ、溢れあたりへ迸った。

「ぐっ・・・う、うああああ?!」
「そのまま俺様のマナに潰れろ!」

突然膨らんだマナがシャニーのマナを押し返し、逆にシャニーの体へと逆流した。
体が引き裂かれるような感覚に堪らず悲鳴を上げる。

「ヒャー!良~い歌声ダァ!鈴転がしてるみてえだぜえ!!」

今更逃げようとしたってそうは行かない。しっかりとシャニーを暗黒のマナで縛りつけ
漲り、膨らみ続ける暗黒をその身に押し込んでマナの流れを引き裂き続けてやる。
劈く悲鳴に狂喜を叫び、最高の悦楽に酔いしれる。

「まだだ・・・・まだまだだ!奥底から湧きあがるこのマナが枯れ果てるまではっ!」

蛇のように絡み衝き、巻き衝き、締め上げてくるマナがシャニーを包み込み、
体のあちこちから邪悪なマナを体へ流し込んでくる。
絡みつく闇のマナはまるで絶望の泥沼に沈んだものの手にさえ見えて恐怖を湧きあがらせるが、
彼女は強くマナを噴き上げてそれらを跳ね飛ばすと、再びマヴガフのマナを押さえ込みにかかる。

「チィッ、しぶといヤロウだぜ。ならもっともっと鳴かせてやんよ・・・。」

意外とがんばる人形に苛立ちながらも、反面楽しくて仕方なかった。
この悲鳴を、新世界の到来を知らせる断末魔をもっと世界に聞かせることが出来るのだ。
世界中が震えていることは、どくどくと新たに流れ込んでくるマナが教えてくれる。
彼は天界の方陣へ叫ぶ、もっともっと、絶望を世界中からかき集めろと。

「ダイモニオン・エムブレム、ペンタクルフェイズ3オープン!」

更なる地獄へと誘い、絶望でシャニーを押し潰しにかかる。
その悲鳴は地上の遥か彼方にまで響き、マヴガフをますます恍惚させる。
一瞬でも気を抜けば押し潰されそうなマナが華奢な身を襲い、頭の先から全てが吹飛んでしまいそうだ。
その反応を楽しみながら、少しずつ、少しずつマナ圧をあげていくマヴガフの口元は今
大蛇の如く裂けて悦楽を叫び、熾天使の悲鳴と混ざり合い絶望のプレリュードを奏でていた。

「くそっ・・・シャニー、今行くぞ・・・!」

ブレスの直撃を受けたゲイルが何とか拳を突いて立ち上がる。
最愛の悲鳴が響き渡る中、何もしてやれないままのわけには行くまい。
彼女だけに辛い思いはさせない・・・。
その想いだけで歩き出すが体中を今も駆け巡る破滅のマナがそれを阻む。

「くっ・・・体が動かない・・・。シャニーちゃん・・・・すまん・・・。」

あの屈強なゲイルがまた目の前で膝を衝き、倒れる。
心は悪友の許へ、そして今もひとり暗黒竜と格闘する熾天使の許へ駆け寄りイアのマナで癒してやりたい。
だがレイにはもう謝る事しかできなかった。途端、弱気を叱る声。

「何言ってるのよッ、祈りなさい!私たちに出来ることは、彼女を支えることよ。」

かつて同じ立場にあったものとして、エルピスは今すべきことを自ら率先して手を結ぶ。
妹分はひとりで戦っているわけではない。彼女より先に諦めてどうする。
ドラゴンスケイルを打ち破られ、頭からの流血が激しいメルトもまた、エルピスと共に手を結んでいた。

「我々全てがハデスを止める力だ。あいつひとりに戦わせはしない・・・!」

もはや娘も同然の存在を、今こそ支えられず何をすると言うのか。
メルトの言葉、そして強く祈る姿はレイ達にも自然と手を結ばせて、
ゲイルは祈りながらまた立ち上がり、少しでもシャニーに近づこうと歩いていく。

「一体どこまで・・・コイツのマナは膨らむんだ・・・。」

だが、彼らの祈りを嘲笑うかのように、ダイモニオン・エムブレムを介したマヴガフのマナは膨らむばかり。
何とか今までは自身のマナで相手のマナを押し返していたが、だんだん、少しずつ、
明らかに自分の悲鳴を絞り出す為に出力を上げてくる彼の前に押し潰されそうになっている。
「これ以上はムリ?ヒャハハハ!」次第に跳ね返すことが出来なくなり、光が闇に飲まれ始めてももう逃げ場はない。
彼女の手を、足を、そして翼を、しっかりとマナから生まれた邪蛇たちが絡みつき締め上げているのだ。
その無様な姿を、そして美しい歌声を聴きながらマヴガフは快哉を叫び続けた。

「ああそう!なら飛び切りを見せてやんぜ!」

もうどうやら達者な口も動かせないほどギリギリらしい。
そろそろメインショーも佳境と言ったところ。一番を魅せ場だ。
これが、新たな世界を向かえる祝砲となる。世界変革の時がついに来たのだ。

「ダイモニオン・エムブレム、ペンタクルフェイズ5オープン!死ねやぁ!」

前に彼はついにダイモニオン・エムブレムのすべてを引き出そうと全権の展開を叫んだ。
わっとひときわ大きく広がった紫紺の魔法陣が暗黒の雲に包まれ光を失った空に輝き、
地上から最後の希望へ祈っていた者達の顔を全て染め上げていった。

「負けるか!はああああ!」

あっという間に押し潰されて、辺りには血飛沫と断末魔が飛び散るはずだった。
ところが、代わりに背から聞こえてきたのは相変わらず往生際の悪い熾天使の悪あがきだけ。
一体どこから、悪神界の理に耐える力が・・・。
だが、それ以上にマヴガフを仰天させたのはダイモニオン・エムブレムそのものだった。

「んん?!な、なぜだ!なぜ展開しない!フェーズ5!」

熾天使のマナが特別膨らんだわけではない。
ダイモニオン・エムブレムの全権能が展開しきっていないのだ。
間違いなく、すべての封印は開放したはずなのに、黒の魔道書は5番目のインデックスをマヴガフと連結していなかった。

「ふむ、やはりお前では扱いきれなかったか。」
「?!」

今まで一方的に悦を浮かべていた目が驚愕に見開かれていた時だ。
突然に語りかけてきた声は明らかに直接頭に響いてきていた。
おまけに聞きなれた声がもたらした謀を思わせる言葉に激昂する。
「ルネア!やっぱりたぁどういうことだ!!」大賢者は異常事態を前にしても平然としており、それどころか予見していたというのだ。
それを知らせなかった彼への怒りと湧きあがる焦り。言葉にありあり載せて答えを奪い取る勢いで叫ぶ。

「新たに展開されたフェイズ6、結局お前は開放できなかった、そうだろう?」

だが、彼の焦りを嘲笑うかのようにルネアは事実を口にして突き放す。
開放できなかったということは、ダイモニオン・エムブレムに認められていないということだ。
だが、その言葉にますます激昂するマヴガフ。創り手が被創造物に認められるも何もないではないか。

「そんなもん関係ねえだろ!つかテメェが開放の仕組みは調べてたんだろうが!」

ルネアは未知の探求に没頭し、その解明された魔道書でハデスが世界を再生する。
最初からその計画で、彼らは共に行動をしてきたはずだった。
それが今になって責任逃れとも言えるようなことを言うあの男に怒りが収まらない。
いや、腹が立つだけならいい。宿敵を前にしたこの一番大事なときに枷が外れないのでは何の意味もない。
それどころか、悪神界の理をあの光に砕かれてしまう危険だってあるのだ。

「開放するのは使用者のお前だ。お前にはそれは過ぎたオモチャと分かった、もう十分楽しんだだろう?」

だが、ルネアにはそのような危機感はまるでなかった。破壊されるということは、不完全であるという事。
不完全を守る意味はない。より完全なものへと作り直せばいいだけではないか。

「これは俺様が設計したものだ!オモチャに決まってんじゃねーか!」

だが、この男はどこまでも真理というものが分かっていないらしい。
無理もないかもしれない、この男は自分を理と言っている時点で勘違いから脱していない。
無様な咆哮を一つ鼻で笑い飛ばすと、ルネアは観測を続けることにした。

「ならばもっとうまく扱って見せろ。熾天使に押されているようだが?」

正直、ルネアにとってこの戦いの結末がどちらに転ぼうとも期待はしていなかった。
どちらも未完成であまりにも使い物にならない。
何れに世界が傾こうとも、修理しなければならない状況に何ら変わらないのだ。
それでも彼が観測するのは、どの程度“修理”を想定しなければならないのか確認するため。

「んおっ?!何で出力があがらねえ!」

ダイモニオン・エムブレムのすべての方陣を展開しているはずなのに、
シャニーを押し潰すどころか彼女のマナが体に逆流し始めている。
魔道書は機能している、なのにマナの出力は下がり続け、まるでマナが逃げ出しているかのようだ。
ありない状況にマヴガフの蛇眼は焦りで見開かれていた。
「・・・お前か。」哀れな人形の姿を天界から見下ろしていたルネアの背後に突然現れる影。
彼女は静かにルネアの許に歩いてくると、共に下界を見下ろしほくそ笑む。

「もう十分だ、ダイモニオン・エムブレムのペンタクルオープンに異常はない。」

横で微笑む氷の笑みに、黒の魔道書そのものの機能は今なお設計どおりであることを告げる。
問題は白の魔道書だが、横で笑う女性にとっては恐らく関係のないことだろう。
案の定、観測結果を聞いた赤髪の女性はハープを取り出すと指で弦をなぞりだした。

「ダイモニオン・エムブレム、リミッター始動・・・。」

突然に動き出すダイモニオン。方陣を頂に燃え盛る、展開を意味する紫紺の灯火が消えていく。
マヴガフが開放し、連結した方陣が次々とハープから奏でられる呪文のような調べに呼応するかのように
それまでの輝きを内に隠して、散り散りになっていく。

「?!これならいける!はああああ!」
「ぐううっ?!出力が下がってやがる!ルネア・・・!テメェ、何しやがった!」

それまで自身に絡み衝き、締め上げていた紫紺の邪蛇達の拘束が一気に緩み、
押し潰そうと自身を包み込んでいたマヴガフのマナが突然肩透かしを食らったかと思うほど弱まる。
この機を逃すかと、シャニーはこの瞬間に賭けてありったけのマナでマヴガフを押さえ込みにかかった。
彼女のマナが逆流し、体が痺れて動けず墜落しかける暗黒の龍。
その怒りの矛先を彼女へ向ける余裕は、もはや今のマヴガフにはなかった。

「私はただお前を観測しているだけだ。出力が下がったのなら、お前が使いこなせていないだけだ。」

設計をしたのが自分だと言うのなら、今起きている現象も理解出来ているはずだ。
彼は完全に忘れている、設計をしたのは確かに彼だが、彼だけではないと言うことを。
いや?そもそも、設計をしたのは彼ではない。彼が設計者本人と“勘違い”しているだけで。

「もう少しだ・・・もう少しで!お願い、みんな力を、力を貸して!」

先ほどのまでの恐ろしいほどのマナの波動が嘘かのようだ。
暗黒竜を自らのマナで包み込んだシャニーは、痺れる体に鞭うって空に飛び出す。
宙に距離を開けた彼女の諸手に生み出された銀の矢から光吹き上がり闇を狙う。

「いっけえええ!アストレア!!」

もうこれが最後の一撃になるようにと祈り、己に残されたすべてを矢に篭め解き放った。
凄まじい閃光が暗黒に包まれる空を引き裂き、身動き取れずに居る闇の龍に襲いかかる。
マヴガフもそれには気付いたが、ようやくシャニーのマナを引きちぎって拘束を逃れるので精一杯。
迫る光を前にとっさに守護方陣を形成して受け止めにかかった。
「ぐわっ、防御が!!」アストレアの前に無力に砕け散る魔法陣。
ありえない、ダイモニオン・エムブレムの力があればこの程度かゆみさえおきない程度のはず。
現に先ほどまで、完全なる力量差がこの世界を覆っていたのに、一体何故なのだ。
理解できないまま、マヴガフはアストレアの光に締め上げられていく。

「シャニー!」

全ての力を使いきったシャニーの背中から翼が消える。
まるで糸が切れたかのように宙で制動を失った彼女は頭から地上へ一直線。
とっさにレイが魔法障壁を生み出してシャニーを包み、ゆっくり降下してきた彼女をゲイルがしっかりと両手で受け止めた。

「今なら・・・今ならあいつを・・・あいつを倒せる・・・。ぐう・・・。」

マナを使い切り、蒼褪めた顔に脂汗をびっしょりとかくシャニー。
これ以上マナを使えば命に関わるが、彼女はあきらめていなかった。
もう一度弓を召喚して握り締めようとする。だが、もはや限界を超えた体はもはやそれすら満足にできなかった。
悔し涙を流す。己のすべてを出し切っても、マヴガフを仕留め着れない。
だが、ここまでやってくれれば十分とそっと彼女を抱きしめて手を握るゲイル。

「シャニー、俺がお前に代わってマナを撃つ。マナの融合を頼む!」

彼女の想いを、命をかけて咲かせた花を無駄にさせるわけには行かない。
彼女が出来ないなら、代わりに自分がやって見せよう。それこそが相棒の、守護者の務めだ。
しっかり彼女の手を握り、自身のマナを彼女に与えながら右腕をそっと空へと伸ばす。
開かれた手のひらに渾身を篭め、その中に生み出された気弾が宙にもがく龍を狙う。

「ゲイル、お願い。みんなも、みんなもお願い!!」

残り僅かなマナを彼から受け取ったマナと融合させ次々ゲイルへと送る。
同時に彼女は胸元で手を握り締めて必死に心の中で世界中に祈った。
今こそ、皆の想いが必要な時だと。世界を絆という方陣で結んできた彼女の光の号令は
東の空で爆ぜる光と闇を見守るすべての生きる魂の心に直接響いたという。

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荒ぶる脳筋

Author:荒ぶる脳筋
NEXON提供のMMORPG「アスガルド」のイアサーバーに生息するナゾ多き暇人。
アスガルドはメインストリームっていうのがないからあれこれトンデモ設定を入れたがる厨二です。
厨二でもいいだろ!つーか厨二じゃなきゃかけねえよ!
ホントはキャラ紹介に挿絵を入れたいけど絵心は文章以上に皆無なので断念。
さらさらっと読んでいけるものが目標です。
好きな作家は池井戸潤。

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