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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter16 SoulFull Bridge

12話:カス賊

 ←11話:お年玉くれ! →13話:隠匿の賢者
 皆が起きるより大分早く目が覚めたシャニー。空を見ればまだ群青で、陽も出ていない。
普段ならそのまま寝袋に顔を埋めるのだが、今日はゲイルを起さないようにそっと抜け出した。

「はぁ、あの時は死ぬかと思ったよ。まさかホントに撃ちこんでくるとはなぁ。こりゃ先が思いやられるや、トホホ。」

厳かな朝だが、シャニーには昨日のようなテンションの高さはない。
マナで弓を生み出すとイメージしては構えてを繰り返し、黙々と朝稽古をしていた。
今でも思い出されるエルピスのスパルタ。本場のアストレアの味を思い知らされるとは思っても見なかった。

(でも、彼女の言うとおりだ。このままじゃホントゴミ賊だ。今のままじゃ皆を守るどころか、自衛だってできないよ。)

あんな思いはもう二度としたくない。いや、あんな状態のままでいてはいけないのだ。
自分はエルピスの意志を受け継ぐ契りを結び、熾天使の権能を継承した身。
姉貴分があんなに怒るのも無理はないと思っていた。志を託した者が、こんな不甲斐ないのでは。
今年は去年とは違う、その決意が新年初稽古に気合を入れさせる

「お、よう、がんばってるな。さっすが叩かれてもたたかれてもへこたれないパスタ・・・冗談だぜ。」

起さないように計らったつもりだったが、やっぱり抱き枕がいなくなって体が冷えたのだろうか。
のそのそと起きて来たゲイルは、稽古をしているシャニーを見るなり茶化してきた。
もちろん、自称桃のような心の乙女は放たれた憎まれ口にぎろりと睨んでくる。

「もう!ゲイルまでエルピスの味方するの?ほんとに殺されるかと思ったんだから!」

されても仕方ないとは分かっていても、ゲイルは慰めてもらいたい立場の人間だ。
彼にまでエルピスの味方をされたら、いよいよ彼女を止める人間がいなくなって本気で命が危ない。
だが、ゲイルのほうは目を震わせながら迫真の演技をして見せる彼女を笑い飛ばすだけ。

「大げさなやつだなぁ。ま、そう言ってやるなよ、あいつはあいつなりに真剣にお前のこと考えてくれてるんだからよ。」

― あなたには言っておくわ。これは遊びじゃないの。
エルピスのあの時の言葉は、今もゲイルの心の中に警告を与えてきた。
今は何とか戦っているが、アルトシャンの前に出て行ったとき、今のままでは通用しないと。
相棒の気持ちを汲み取りつつ、エルピスの想いを噛み砕いて伝えてやる。

「でもさ、鞭振り回したり矢を打ち込んできたり!絶対あれエルピス自身楽しんでるよ!」

誰もが、エルピスは変わったと口にする。熾天使の位を降りてから人生を楽しんでいるに違いなかった。
スパルタをしているときの彼女はとても楽しそうで、恐々とするシャニーとは正反対だ。
自分なら矢を打ち込んでも大丈夫と分かっているから、
やりたい放題しているに決まっているとシャニーは本人が寝ているのを良いことに言いたい放題。

「否定はできんな・・・。でも、お前も分かってるから、そうやって構えの練習してたんだろ?」

端から見てもエルピスが楽しそうなことは分かるが、効果も目に見えるから文句も言えない。
最近のシャニーの動きはエルピスが加入する前より遥かにハイペースで回復しつつある。
やはり彼女の性格上、お尻を叩かれたほうが伸びるようで、姉貴分はそれを知っているようだ。

「まーね、エルピスに狙われた時、あいつの構えをしっかり観察してたんだ!」
「スパルタするほうもするほうならされるほうも中々肝が据わってるな・・・。」

弓を向けられて目を恐々としていたはずなのに、あの場面でエルピスの構えを見ていたとは。
実際にはエルピスの弓から逃れられないことを知っている彼女は諦めて
せめてもと見ていたようだが。その甲斐あってか、イメージトレーニングが捗る。

「だって、エルピスって細かい説明してくれないんだもん。
 “私を見て覚えなさい?ゴミ賊じゃなきゃ出来るわよね?”こればっかだよ!」

倒されてただで起き上がる彼女ではなかった。次はぐぅの音も上げられないようにしてやると
負けん気をフル回転させて今日まで暇を見つけては特訓してきた。
今度と言う今度は、ゴミ賊だなんていわせない。その一心が早朝稽古に滲む。

「まぁお前は口で言われるよりそっちのほうが覚えが早いし、いいんじゃねーの。」

人事だと思って随分適当なことを言うものだから、構えをチェックしていたシャニーの手が止まり
振り返ってぎろっとまた苦手な三角の目がゲイルに襲い掛かった。
苦笑いしか出来ず、両手を彼女へと向けながら宥めるが怒りは収まらない。

「それは脳筋ゲイルでしょ!」
「自覚ねーって怖いなぁ、俺より早合点のクセに。」

エルピスの味方は許さないと言わんばかりの怒り方だが、彼女が再び構えに戻ると
両手を広げて呆れだすゲイル。誰に聞いたって、彼女は体で覚えるタイプだと答えるだろう。
何せ5分とてじっとしていられない人間だ。大人しく理論を聞くなんてできるはずがない。

「うるさいうるさい!あーもう、ゲイルもメルトもエルピスの前ではまるで縮こまっちゃってさ!」

まるで集中できずに髪の毛をくしゃくしゃと手で掻き毟ると、弓でゲイルを殴りつける。
男どもはでかい図体をしているくせに、いざと言う時はまるで弱腰で全然役に立たない。
今回も姉貴分の機嫌を出来るだけ損ねないように言葉を選んでいるのが丸分かり。
自分相手にはいつも酷い言葉をかけてくる分、無性に腹が立つ。

「いやだって、逆らったらマジで何されるか分かんねーし。
 お前は倒れるだけで済むけど俺らがあれ喰らったらマジで粛清モンだぜ?」

シャニーとエルピスは同じ神界の光のマナを宿す者同士。
同属性では倒せないことを知っているからエルピスもぶっ放したに違いないが、本来は悪を射る矢だ。
あんなものを喰らえば悪でなくとも一発で消し炭である。

「怖いお姉さまだぜほんとよお。」
「あら、身の程を弁えられるようになったのね、いいことだわ。」

姉貴分相手にまるで弱腰で、やっぱり自分を守ってくれそうにはないゲイル。
それどころか弱音まで吐き出すものだからドンと胸を突いてやるのだが、
地獄耳は朝からよく聞こえるようで、ご機嫌な声が向こうから聞こえてくる。

「げ・・・。」
「さぁ、この前の続きをやるわよ!最初は復習から入ったほうがいいかしら?」

彼女の顔を見ただけでゲイルの表情が一変し、彼の様子を見てうっすら笑うエルピス。
更に震えた彼は自ら彼女の為に進路を開けて、相棒を差し出すかのようだ。
彼の態度には不満だが、仕掛けられた話にシャニーは拳を突き上げる。

「もっちろん!しっかり復讐するぞ!今日という今日はギャフンといわせてやるんだから!」

あれから自分なりに一生懸命欠点を見つめて特訓してきた。
今日はこの前のように得意面はさせまいと、挑まれた戦いに自ら一歩前に踏み出した。
彼女のやる気満々の態度に、エルピスはまた一つ軽く笑って見せた。

「ふふ、いい気構えじゃないの。じゃあ向こうに行ってじっくりやりましょう、あなたの成長を見せてもらうわ。」
「おう!見せてやろうじゃないか!」

スタミナがないのか、配分が出来ないのか、いつもシャニーの威勢が良いのは最初だけだ。
最後までこの威勢が続く事を期待して、エルピスは向こうへと歩いていく。
とりあえず今回のターゲットはシャニーのようでほっと胸を撫で下ろすゲイル。

「ゲイルもちゃんと見ててよね!」
「え?!俺も行くの?・・・何だか二人の会話がかみ合ってなかったように聞えたけど・・・まぁいいか。」

だが、そんな安堵を許してはくれなかったのは相棒だった。
呼びつけられて思わず自身を指差すが、シャニーは早く来いと手首を利かせて思い切り手招きしてきた。
嬉しそうなエルピスと、鬼気迫る眼差しのシャニー。嫌な予感がしながらも、ゲイルはしたかなく後ろをついていった。

弓を扱える広い草原に出たエルピスは朝の日差しにうんと背伸びをしているが、
シャニーのほうはもう既に弓を構えて、それだけでは済まずエルピスに照準を合わせだしている。

「・・・何でそんな戦闘体勢を私にむけてとってるの?」

朝なのでフォームチェックなどの軽い稽古にとどめておこうと思っていたエルピスだが
シャニーの構えは明らかに違い、まるで実戦稽古でもしようという勢いだ。

「え?だってエルピスが復讐から入るって言ったからじゃん!」
「まぁ!私に実技を見せてくれるって言うわけね!大した自信じゃない、余程稽古してきたのね、えらいわ!」

妹分のあまりのやる気に手を結んで喜ぶエルピス。
いつも特訓を始めようとすると怖気づいた眼差しだった彼女が、今日は自ら進んで稽古を提案してきたのだ。
あまりに嬉しくてエルピスが頭を撫で始めるものだから、シャニーは顔を赤らめた。

「何だかすごい子ども扱いされてる気がする。」

後ろにはゲイルだっているのに、どう反応して良いのか困る。
一方のゲイルのほうはエルピスがシャニーを褒める姿を珍しそうに眺めている。
まるで他人同士のはずなのだが、やっぱりこういう光景を見ていると姉妹に見えてくるから不思議だ。

「邪推しないの、私はあなたを本当の妹だと思ってるんだから。
 そんなかわいい妹に弓を向けるなんて出来ないわ、いつも通り的に向かっての復習から入りましょう。」

ようやくにここまで来て、エルピスの言っていた復習の意味がわかって拍子抜けするシャニー。
やられるだけやられて、ギャフンと言わせられなくなってしまって何だか悔しい。
何よりも姉貴分が口にしたセリフがあまりにも優しすぎて、
思わず振り向いてゲイルを見つめてみれば、彼も眉間にシワを寄せている。

「・・・前思い切り撃って来たじゃん、おまけに必殺技をさ。言ってる事とやってくることがぶつぶつ・・・わぁ?!」
「かわいいからこそしっかり育てるって言ったわよね?ほら!さっさと構えなさい!今から本気モードよ!」

どうやら弓を向けることと鞭打ちは別らしい。ぶつぶつ文句を並べていると、
電光石火に腰から取り出した鞭を足元目掛けて打ってくるものだから、シャニーの目はいつも通りの弱気なものへ。
こういうものを二枚舌と言うのであろうか。彼女の優しい言葉を信じたのが間違いだったと、
改めて弓を握りなおしたシャニーは気を引き締める。色白の肌が真っ赤になるのはゴメンだ。

「これからエルピスの本気モードは粛清モードと呼ぼう。」
「ぶつぶつうるさい子ね!粛清して欲しいならほんとに粛清してあげましょうか?!」

ささやかな抵抗を憎まれ口にこめてみるのだが、それが更にエルピスの機嫌を逆撫でる。
分かっていてもどうしてもやってしまい、釣り上がる姉貴分の目にびっくりして身を退くと
彼女は両手を差し出して何度も首を横に振りながら服従を示す。

「え、遠慮します。」
「ふっ、賢い選択ね。」

結局いつも通りの上下関係に戻ってしまい、苦笑いするゲイルだが
シャニーにとっては気が気ではなく、さも人事のように傍観するゲイルを横目で鋭く睨んでやった。
まだまだそんな余裕のある彼女に、エルピスにはにこにこしながらまた頭を撫で始める。

「ま、自分の力だから分かってるはずよね。この前の何てほんの1割にも満たない力加減だったことぐらい。
 あのくらいで死ぬとか粛清だとかギャーピー騒いでたのは甘えよねえ?」

あれが1割なんてと驚くゲイルだが、それ以上に目をむいたのはシャニーである。
エルピスが目指している場所がどれだけ高い場所にあるかを思い知らされて目が遠い。
ちょっとぐらい稽古した程度で自慢できるわけもなく、実戦稽古をあのまま挑まなくて正解だ。
もし血の気に任せて突っ込んでいたら今頃消し炭である。

「さ、さーて稽古、稽古っと。」

悪魔の微笑を浴びせながらの優しい愛撫は明らかな反則である。
激しいプレッシャーに何も言えなくなってしまったシャニーは不満を飲み込むと
逃げるように距離を開けて無駄に入念な準備体操をし始めた。

(この一撃に私の命がかかってるんだ・・・しっかりやれ、しっかり・・・。)

弓を構えてみるものの、横目に入る鞭に手先が震えて照準が狂う。
あまりに集中できずに一度弓を下ろして深呼吸していると、視界の端に相棒の顔が入ってきた。
振り向けば彼は無言ながらに目で強く励してくれ、ひとつ頷いた彼女はすっと弦を引いていった。
しばらく弦が引かれ、そして弾ける音が響くが今日はエルピスの怒鳴り声はない。
無言で妹分の様子を見ていた彼女は、ふいに後ろから肩に手を置いた。

「へえ、中々構えに無駄がなくなってきたじゃないの。」

びくっと跳ねた肩だったが、かけられた言葉に振り向くと目をまん丸にした。
いつもの激しい説教ではなく、優しい言葉だったのだ。

「え?ホント?やったぁ、エルピスに褒められたぞ!」

両手を広げ、膝が跳ね上がるぐらいに飛び跳ねて喜ぶシャニーの顔は満面の笑み。
姉貴分にこのスパルタ特訓の中で褒められたことなんて今まであっただろうか。
酷い言葉ばかりかけられ続けてきたため、ちょっとした優しい言葉でも喜びが溢れて来る。

「うふふ。ま、マシになったってところよ。まだまだ直さないといけないところはいっぱいあるわ。」

ギャラリーもまさかの賞賛に手を叩いて喜んでおり、シャニーはガッツポーズを見せているが
やはりエルピスは厳しく、笑いながらもすぐにそんな穏やかな雰囲気を引き戻す。
人間としての弓使いならこのままでもいいが、自身の後継者なのだから。

「うんうん。でも、前より弓が自分の体の一部みたいな感覚になるって言うのが分かって来た気がするよ。」

エルピスに言われずとも、稽古をすればするほど自分の悪いところが見えてきて
時間がいくらあっても足りないと感じるものだった。それでも、思うように自然に扱えることも増えて
最近では弓を扱うのが楽しくて仕方ない時もあるぐらいで、それはシャニーの表情からもうかがえる。

「それはいいことだわ。そのまま正しい構えを体に覚えこませていけば、自然と照準速度も射撃精度も上がっていくわ。
 何よりも構えが大事、そして最初が肝心なの。妙な構えが染み付くと矯正は難しいからね。」

ある意味、シャニーがまるで弓を扱えない状態であることも感謝すべきだったかもしれない。
前のおどおどしい表情がまるでないシャニーの構えは大分様になってきていて
自然な体の動きが美しい矢の軌跡を描き出している。内心、さすが我が後継者と褒めているが、調子に乗るから口にはしない。

「的の真ん中に行かない事はあっても、完全に外れるって事は殆どなくなったよ!」

弓を掲げながら白い歯を見せて笑ってくる妹分の口にする言葉からもうかがえる。
この程度で調子に乗ってもらっては困るのだ。世界を守る聖弓を扱うものに許されるのはたった一発。
悪から世界を守ろうとするその時に空振りなんて、そんな事は絶対に許されないのだから。

「だめね、それじゃまだ三流からは抜け出せていないわ。
 エルピスを名乗る者の腕は百発百中ど真ん中よ。それこそ指先で的の真ん中を触れるぐらい容易い事、外すなんて論外ね。」

妹分の得意顔を突っぱねるかのように目を閉じながら指を左右に振る。
いきなり否定の言葉から入られて笑顔が消えたシャニーは、その後飛んできた要求レベルに
思わず口元をげっと歪めて遠くの的をじっと見つめた。論外、今の自分はまだ語るに及ばない。

「ええ・・・。ホント体の一部みたいな感じだね、それ・・・。」
「考えても見なさい?的は動かないのよ?動く相手に当てようとしたら、そんな顔できないはずよ。」

何度も的と弓を交互に見つめて、顔を歪ませたまま怖気づいてしまうシャニー。
彼女の表情には不可能だと思う気持ちが現れていて、エルピスはすぐさま諭し始める。
無理なんて言葉は、全てをだめにする悪魔の呪文。昔口癖にしていたのは彼女なのだ。
何より、この程度で満足できるタマではないことを姉貴分としてもちろん知っている。

「ホントは動いている相手に百発百中のど真ん中を要求したいところだけど、記憶を失っているって言うから妥協してるのよ。」

次のステップに到達したシャニーに、自分がどこを目指して稽古をしているのか最初にはっきりと伝えておくことにした。
もちろん、後継者として自分に追いつき、追い越してもらいたい、その一心だ。
だが、シャニーはエルピスから口にされた目標を聞くや、俯いて唇を噛みだした。

「・・・いや、それを私は目指すよ。記憶があったって・・・それができなかったから私はアルトシャンに負けたんだ。」

悔しがるシャニーにふっと笑いかけるエルピス。やはり自慢の妹分だ。
自分が最後まで言わずとも、何をしなければならないのか自身でしっかり答えを持って生きている。
彼女の想いを受け止めてやり、慰め、そして励ます手が頭を何度も優しくさする。

「なら弱音を吐かないことね。さっきも言ったけど、最初が肝心なの。だからこれだけ厳しくしてる事をわかって欲しい。」

今までエルピスのスパルタが怖くて、嫌で仕方なかったが、
ここまでしっかり自分のことを見てくれていたと思うと、自分が愚かしくて仕方ない。

「無理なんて言葉は全てをだめにする悪魔の呪文、そうでしょ?」

内心、ずっと姉貴分に詫びを漏らしていると、それを悟ったかのようにぽんと背中を叩かれた。
謝るぐらいなら行動で示せとでも言いたげに放たれた自分の十八番。
思い出したかのようにシャニーは頷いた。

「分かった、私がんばるよ。ホントありがとう、エルピスみたいなお手本がいてすごい助かるよ。
 エルピスに負けないくらいの、いやエルピスだって追い越したい!」

今すぐは無理かもしれない、だが許された時間は長くはない。
じっと自身の手に握った弓を見つめていたシャニーは、強く姉貴分を見上げて志を力強く叫んだ。
やっとのことで自ら口にしてくれて、エルピスは妹分の背中に手を回して励ます。

「出藍の誉れってね。いいわよ、あなたがそれを望むなら、私はあなたの守護精霊としてしっかり命を果たすまで。」

ちょっぴり熾天使としての自覚が出てきたのだろうか。
彼女のやる気を喜びつつ、エルピスは再び厳しい先生として共に弓を構え始めた。

「じゃあもう一度構えから入りなおしよ。私以上を望むなら、今のままでは全然ダメよ。」
「分かってるよ!どんと来いってんだ!」

もうエルピスとの稽古で絶対に弱音は吐くまいと己に誓ったシャニーは、
先輩の全てを我が物にしようとその目はまさに盗賊らしい鋭く切れ上がっていた。
ようやくいい顔になってきた彼女にエルピスも上機嫌だが、稽古はすぐにいつも通りの厳しさを取り戻す。

「その心意気に命じてゴミ賊は卒業させてあげるわ。今のあなたは・・・そうね、カス賊って所かしら。」

それでも今回はシャニーもへこたれることなくしっかりとついてくる。
とりあえず今のうちは有言実行を示す妹分を上出来だと褒めてやるのだが、
相変わらず彼女の褒め方は辛く、口にされた称号にさすがのシャニーも口元を歪めた。

「か、カス・・・。あんまり変わってないような気がするけど・・・。」

一体何が違うのかと逆に聞きたくなるような些細な差。
だが、それに答えることもなく、既にエルピスは構えの見本をとり始めている。
慌てて弓を構えなおして、何度も構えを比べはじめる彼女の前で一矢放つ。

「分かったならそういう事よ。私のスパルタについて来れたなら、きっと一人前になれるわ、がんばりなさい。」

放たれた銀の矢は当然のようにど真ん中を貫いて的は真っ二つに。
ぽかんと口を開けて向こうを見つめるシャニーに、エルピスは見せ付けたのだった。
この立場の者に要求される腕を。そして将来、この立場で矢を射るのは自分ではなく、あなたなのだと。
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