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 ←14話:狭き依り代 →1話:思わぬ救援
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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter16 SoulFull Bridge

15話:SoulFull Bridge

 ←14話:狭き依り代 →1話:思わぬ救援
「ここの森を抜けたらルセン橋梁だっけ。」

大分森の奥まで歩いてきて、周りの地形が土と言うより岩場が目立つようになってきた。
気候もますます冷えてきて、空っ風が吹きぬける度に背筋が反りあがった。
険しい山道、厳しい寒さ、それらももう少しで終わると思うとシャニーの口調も心なしか嬉しそうだ。

「そうだ。帝国が巨額の材と人を投じて作り上げた橋。まさに国家の威信を象徴する巨大陸橋だ。」

アルトシャンが総統の位に就任して最初に行った巨大事業、それがルセン橋梁の建設であった。
帝国の富を彼の直命で行使することにより新たな政権の誕生とその権威を国民に示したのである。

「サラセンに行くにはぐるっと迂回しないといけなかったもんなー。便利になったもんだ。」

サラセン出身のゲイルにとっては、この公共事業だけはアルトシャンに感謝していた。
魔女達が済むカレワラ森と繋がるサラセン森は危険で、
大陸南方まで迂回して北上するという面倒を堪えなければサラセンにはたどり着けなかったが、今は橋一本である。

「こうしたことに税金を使うなら歓迎なのだがな。戦争に費やすなど愚の骨頂だ。」

彼の最初の行動に国民も評価したものだが、今となっては見る影もない。
搾り取った血税を戦争の為に惜しげもなくつぎ込み、それでも足らず戦時国債まで発行するほどだ。
現役時代、国民に借金してまで戦いを推し進めたことのないメルトにとっては憤りを隠せなかった。

「どんな力も使い方でこうも変わるとはね・・・。」

人間たちが力を向ける先がどんどんメントの時と似てきていて、
エルピスはしょんぼりとうなだれた。自分たちが振りまいてきた希望の光は
人々を悲しませる力を生み出すためのものではないのに。
どうして生まれた力を幸せのために人間たちは使えないのだろうか。

「まったくだ。錬金術もしかりだ。」
「どういうこと?」
「この橋を造るのにも錬金術による動力が活躍したものだ。軍事用のそれと同じな。」

メルトが憂慮していたのは、錬金術たちであった。国民が当初あれだけ錬金術を賞賛したのは、
錬金術が国のために人の力だけでは切り開けない未来を創ってくれると期待したからだ。
もちろん、それこそが橋梁建設のアルトシャンの狙いだったに違いないが。

「・・・平和の為に使ってもらえたらきっと素晴しい力。だけど私はそれを破壊してしまった。」

ふいに肩を落としてしょんぼりと俯いてしまったシャニー。
あの時、破滅を導く力として危険視し、そしてマヴガフからも唆されて躊躇いをはねとばした。
だが今一度思い出してみると、もっと他のやり方があったのではないかと心が問うて来る。

「シャニー、違うわよ。ハデスが悪用しようとしていたのを止めた、そうでしょ?人間はまた進化していけるわ。」

だが、そんな彼女の背中に手を置いてすぐに前を向かせる仲間がいる。
見上げてみれば姉貴分がまっすぐ見下ろしてきていて、その目が言う。
破壊したのはハデスの鬼謀であり、錬金術ではないと。現に人間達はまた進化を目指して研究を再開している。

「そうだね・・・信じるよ。あれ・・・。」

姉貴分に励まされて、仲間達も長くは語らずも頷いて前を向くことを勧めた。
その時、ふいにイーグラーから託された言葉が心の中で響いて、
彼女は弱気な自分を吹き飛ばすと前を向いた。だが、その時である、ふいに何かが視界に映る。

「ね、ねえ!あそこに人がいるよ!」

耳を立ててみる、やはり遠くに足音や複数の人間が話す声が聞こえてくる。
立ち止まって改めて音のするほうを見渡した途端だ。仰天して目が飛び出しそうになった彼女は
思わず指を差しながら声を上げた。こんな森の奥に人がいるなど、もうひとつしかない。

「いかん、あれは帝国兵だ。何故こんなところに・・・とにかく逃げるぞ!」

着ている服から一発で彼らが敵であると判断したメルトは音を立てずに小走りしながら
上体を屈めて茂みの中に身を隠す。だが、相手は錬金術で武装した集団。
いくらマナ封じの指輪をしていても、個人を特定する必要がないのは相手も同じ。

「!おい!希光だ!追え!お前は総統に連絡を!」

けたたましい探知機の音に、騎士達の目つきが豹変する。
探査範囲に映る数名の人間。もうこれだけで相手が何者かなど確認する必要もない。
彼らはフォーメーションを組むとだっと駆け出し、包囲網を展開していく。


「アルトシャン様ああああ!」

陽射し淡い冬のルアス城。その廊下を今日もドタバタと走っていくのはセインだ。
口癖を叫びながらすれ違う者達を跳ね除け、そのままの勢いで団長室へと転がり込んだ。
ノックも無しに飛び込んできた鉄砲玉を、アルトシャンは書類から目を離して睨むように見上げる。

「やれやれ、騒がしい奴だ。どうした。」
「ルセン橋梁付近に希光が出没した模様!」

錬金術による遠隔通信は、発見から僅か1分も立たないうちにアルトシャンへ緊急事態を伝えてきた。
彼は情報を聞くや否や、手にしていた資料を机済みにおいて立ち上がり、窓から北西を臨む。
今頃シャニーたちは血相を変えて逃げ惑っているに違いない。

「ふふふ、セインよ、お前の予感は的中だな。検問を設置しておいて正解だったぞ。」

どれだけ逃げ回ろうと、もともと険しい山岳地帯で道が限られるルセンだ。
そこに検問を置き、いつでも包囲網を構築できるように大分前から部隊を仕込んであった。
あとはじっくりと橋の方へと追い詰めていくのみ。

「よし、トールハンマー部隊を率いて出撃するぞ!現地には旗艦より私が直接に指揮を取る!」

壁に立てかけた剣をがっと掴むと腰に刺し、マントを羽織ながら部屋を出て行くアルトシャン。
その後を追うように出てきたセインに早口に作戦を指揮すると、
彼はその足でトールハンマーに乗り込み、スクリーンに映し出される現地の地図を瞬きもせず睨む。

「私はこのときを待っていたぞ。今度こそ逃がしはせぬ。」

脱獄劇から早数ヶ月。これ以上彼女達を野放しにして地方を活気付けるわけには行かない。
彼はこの作戦に今後のアスクの命運がかかっていることを改めて胸に刻むと
二度はないとスクリーンの向こうにいる宿敵の姿を追い、出撃を叫ぶのであった。


「!ダメ!こっちにもいるよ!」

同刻、シャニーたちは執拗な包囲網から何とか逃げ出そうと森の中を駆け回っていた。
だが、周到に用意された計略は易々とは彼女達を逃しはせず、
どこへ行っても騎士達が待ち構えており、錬金銃で武装した彼らは容赦なく砲撃を行ってくる。

「これは待ち伏せされていたわね・・・。ダメよ、四方から包囲するつもりだわ。」

状況を偵察に出たエルピスが五分もしないうちに戻ってきた。
もはや状況を確認するまでもなく、四方八方から騎士が押し寄せており、
このままではいずれ包囲されるのも時間の問題だった。

「お前達、バラけるんじゃないぞ。ひきつけて一気に抜ける!」

ドラゴンスケイルで錬金銃から仲間を守りながら先頭を駈けるメルト。
彼には違和感ばかりが浮かんでどうしても拭えずに、焦りを噛締めながら厳しい表情を拭えない。
マナ封じの指輪をしていてこちらの場所は分からないはずなのに
なぜ、ここまで相手が連携の取れた行動が取れるのだろうか。

「よし、そのまま橋の方へと誘導しろ。我らが到着するまで後30分、しっかり場を守れよ!」

その答えは、彼らには強力な指揮官がいたからであった。
騎士達が装着するカメラから戦場の様子をリアルタイムに錬金艇から確認するアルトシャンより
都度騎士達へ指揮されていたのである。

「なんか見えてきたぞ?なんだあれ!」

あちこちでマナが牙をむいて炸裂音が耳を劈き土飛沫が上がる中、
ゲイルはシャニーを腕の中に抱えつつ頭を手で抑えながら必死に逃げる。
その時だ、ふいに森の切れ目に白い巨大なものが顔をのぞかせ始めて思わず指差す。

「あれは・・・!いかん、橋の方へ追い詰めるつもりだ!引き返すぞ!」

見えてきたものに仰天して急ブレーキをかけるメルト。間違いない、あの橋の向こうに見えているもの
それは帝国の巨大錬金砲、トールハンマーである。あんなものまで用意しているということは
向こうには帝国兵が数え切れないほど集結している事は優に想像できる。
振り返り、逆方向へ逃げ出そうとしたその時だった。

「ダメだぜ旦那!もう後ろからすげえ数の騎士が迫ってる!とても相手できる数じゃないぜ!」

この場にいないはずの声が聞こえてきて、彼らは辺りを見渡した。
すると間を置かずに茂みか飛び出してくる白衣。何とそれはレイではないか。
いきなり現れた悪友に、思わずゲイルは駆け出して彼の手を取った。

「レイ?!どうしてお前がここに!」
「助けに来たに決まってるでしょーよ!・・・すまん、もう少し早ければ・・・。」

助けに来たとは言っても、もう手遅れだった。本当はもっと早く合流して危機を知らせるつもりだったが
森の中で迷ってしまい、騎士達の騒ぎを聞きつけてようやくたどり着いたという有様だ。
申し訳なさそうに俯いて唇を噛む彼に、ゲイルは首を振った。

「ありがとな。このままじゃお前まで危ねえ。早く逃げろ。」

悪友の優しさに感謝しながらも、ゲイルはレイの胸を突いた。
今ならレイを巻き込まずに済む。だが、彼は思いもよらず引っ張られた腕をきょとんと見下ろす。
何とレイが自分の腕を握って、引き寄せているではないか。

「ジョーダン、俺だって、アビトレイトなんだぜ?今回も誘拐してくれよ、野蛮人さんよ。」

仲間が危険に陥っているのに、自分だけ逃げるなどできるはずもない。
今までだって、共に行動していなかっただけで目指してきたものは同じなのだ。
まっすぐに悪友から見つめられて、ゲイルはふっと笑うとレイの腕を引き込んだ。

「へっ、好きにしろ、この物好き。」
「お互い様ってことで!」

なれた手つきでレイが神の奇跡を仲間に施していく。全ての準備が終わり、
拳を突き合わせた二人はひとつ頷くとだっと駆け出して、二人につられる様に残りのメンバーも走り出した。
後方を完全に塞がれて入る今、相手の思惑通りとなってしまっても前進しか道はない。

「あーれー、野蛮人に捕まった!たすけてー!」
「!レイ博士をお救いしろ!おのれ野蛮人共め!」

逃げながらもしっかり楔を打ち込んでいく。救援要請を叫ぶレイの声に騎士達は仰天していた。
あんな状態ではヘタに錬金銃を発射してレイに当たったらとんでもないことになる。
やむを得ず彼らは銃を降ろし、橋の方へとゲイル達を誘導していく。

「野蛮人、野蛮人ってうっせーよ!レイ、それ言うなよ!」
「銃撃がなくなったしいいだろ?」

意外と気にしているらしく、ゲイルは野蛮人呼ばわりされてご立腹の様子だ。
だが、恩着せがましく成果を口にされると何も言えなくて、
舌打を残すと更にスピードを上げて騎士達を振りほどきにかかる。

「くっ・・・我らの行動を読まれていたか・・・!」

だが、相手もやはり帝国軍。そう簡単には逃がしてはくれそうにはない。
銃撃がなくなっただけで、どこに逃げようとも騎士達が待ち構えているのである。
まさに言葉通り八方塞で、メルトから珍しく悔しさの塊が漏れる。

「やむをえん、このまま橋を突っ切る!戦っていると包囲される、できるだけ避けろ!」

もうこうなれば選択肢は一つだ。どれだけ橋上に帝国兵が待ち構えているかは分からないが
強行突破しか道は残されてはいない。幸い、レイのおかげで相手も無茶な攻撃は仕掛けまい。
ドラゴンスケイルを唱えなおすと、メルトは先陣を切って森を抜けていく。

「シャニー!後方に爆弾を仕掛けろ!追っ手を阻むんだ!」
「その必要はないぞ、メルト殿。」

橋の上では逃げ場はない、だがそれは相手も同じことである。
森の中とは違い、後方からしか攻めて来ることが出来ないのであれば道を塞げばいいのだ。
指示通りにとっておきの炸裂弾と煙幕弾を後方へばら撒いていくシャニー。
だがその時だ。空に響く宿敵の声が爆音を遮って橋梁を包み込んだ。

「お前はアルトシャンか!どこだ!どこにいる!」

辺りを見渡しても、そこには誰もいない。その時だ、ふいに耳を劈くほどの音が空を裂き、
裂音と共におしかけた烈風が全てを吹き飛ばさんとあたりに荒れ狂う。
見上げれば、そこには巨大な黒き物体・・・そう、それもトールハンマーだった。

「貴殿らはもうこのトールハンマーの照準内にいる。無駄な抵抗は止める事だ。」

漆黒の機体がサラセン側に着陸すると、収納されていた砲塔が現れて
伸びでもするかのように畳まれていた先端部が不気味に音を立てて伸び、先端をぎらつかせまっすぐシャニーたちを見つめだす。
旗艦からモニター越しにシャニー達を見下ろし、不敵な笑みを浮かべるアルトシャン。

「アルトシャン・・・!そこまでするのか!」
「スオミやミルレスでテロを起した貴殿らだ。これ以上好き放題されては国威に関わるのでな。」

こんな数名を捕らえるために、帝国の最新鋭機まで持ち出すとはもはや常軌を逸していた。
だが、アルトシャンにとっては相手の数など関係のないこと。
最上級の国家簒奪者たちである。相手に一瞬の隙も与えない構えで挑むのは当然のこと。

「くっ、ここで負けるわけには行かないんだ!」

いくら巨大な兵器を衝き向けられたとしても、立ち止まっているわけにはいかなかった。
あの立ちふさがる漆黒の怪物をかいくぐらなければ、未来はハデスに飲まれてしまう。
だっと駆け出して進撃を再開するシャニー達だが、アルトシャンは焦る事はなかった。

「無駄だ。トールハンマー発射!」

モニター越しに見つめていた彼の目が三日月のように細くなり、彼が席を立って手をかざす。
途端、突如砲塔の先端が蒼白く光りだして、あたりのマナが見る見るうちに吸い寄せられていき、
ひとつの稲光の後、鼓膜が破れるのではないかと思うほどの激音が辺りを引き裂いた。

「いかん、伏せろ!!」
「な、なんなのあのマナの塊は!」

まさに神の裁きとでも言うべき凄まじいマナが吐き出されてこちら目掛けて音速に飛んでくる。
メルトの叫び声さえ掻き消してしまうほどの轟音と、昼間の太陽さえ覆い隠すほどの閃光。
明らかに人間の扱える領域を超越したマナに、エルピスも頭を抱えながら瞠目するしかない。

「きゃあああああ?!」
「シャニー!くっ。」

破壊だけの為に生み出された蒼白いマナが橋に触れた途端、体が浮きそうな感覚が襲ったかと思うと
凄まじい爆音と烈風が周りの全てを破壊しつくそうと雄叫びを挙げる。
弾け飛び、砕かれ、引き裂かれ、何も見えずただ破壊されて断末魔を上げる橋梁。
この世の終わりかと思うほどに遮断された空間の中で、
ゲイルは悲鳴を上げる相棒をその巨体で包み込んでうずくまって収まるのをただ待つしか出来なかった。

「どうだね?帝国の力を甘く見てもらっては困る。」

辺りに元通りのルセンの風が吹くが、広がる臭いはまさに死の世界。
頭をあげて後ろを見てみれば、もうもうと立ち上る土煙があがり、
橋の真ん中が大きくえぐれて穴が開いてしまっている。息を飲む彼らの頭上から降り注ぐ高圧的な声。

「人々の汗と血税の結晶を・・・国家繁栄の象徴をよく簡単に破壊できるな!」

剣を地面に突き刺して手立ち上がったメルトは、漆黒の死神を睨みあげて怒りを顕にした。
この橋を作るためにどれだけの税金と、そして人々の汗、そして夢と希望が注がれたか。
今それを、アルトシャンは一声で破壊してしまったのである。民の夢を守るべき騎士団の長が。

「モノは造りなおせばいい。だが、機会はそう何度も作れないからな。貴殿も心得ていることだろう?」

今までアルトシャンは少ないチャンスを確実にものにしてここまで上り詰めて来た。
成功すれば十、失敗すれば零だ。その極端な世界で、ためらう理由など何もない。
至極当然のこととアルトシャンはメルトの怒りを笑い飛ばしてみせた。

「くっ・・・アルトシャン、お前は悪魔に魂を売ったのか!」

以前はこんな男ではなかったはずだ。いつの間にか変わり果てた戦友のありように、
憤りを隠せずにグローブが悲鳴を上げるほど強く拳を握りしめて睨みあげた。
彼の怒りに、しばらくアルトシャンはマイクを手にしたままじっと相手の顔を見つめていたが、
やはり彼の進む道は変わることは無かった。

「・・・あながち間違いでもないかもしれないな。
だが、そうでもしなければ世界は滅ぶ。私は神から啓示を受けたのだ。」

神の啓示、それを聞いて誰もが耳を疑い、表情を失った。
彼がただの野心で動いているわけではなく、何者かの意志が彼の行動の背後に潜んでいるというのだ。
そんなものはただ一人しかいない。

「何が神だ!どうせハデスってんだろ!やっぱりネクロ教と結託してやがったのか!」

まさか敬虔なイア信教の信者である彼が・・・。既に帝国の中枢までネクロ教に浸食されている。
そんなことを信じたくないメルトは思わず視線を逸らすが、ゲイルは容赦しなかった。
ハデスの名前を直接出して怒りを顕にする。これですべてが繋がった気がする。
ところが、アルトシャンはゲイルの怒りを否定し、信じられないことを口にした。

「違うな。人間にとっては悪魔と映るかもしれないが、神は未来を見据えて私に道を指示してくれた!」

熾天使を討ち、世界の進化を管理せよ。アルトシャンの言葉を信じるならこう言っていることになる。
そんなことを言うとは到底思えず、神々をよく知るエルピスは嘘八百を並べる男に目を見開く。
いくら熾天使を退いた身とはいえ、神界を侮辱する発言は神経をヤスリで逆なでられる思いだ。

「なんですって?!そんなバカなことあるもんですか!誰が言ったのか言って見なさいよ!」

自信があった、いくら母達が身勝手であろうとも、人間達を滅ぼすような選択肢をとることはないと。
答えられるものなら答えてみろ、そんな眼差しで睨みつけるのだが、
アルトシャンからその答えが返ってくることはなかった。

「それは叶わぬ。口外は許されないものだ。何より・・・死に行く貴殿らには関係のない話。」

生かしておくつもりはなかった。イスピザードの願いもあり、拿捕して幽閉しようと考えていたことも一時期があったが
ここまで抵抗され、甚大な被害を受けた今、もはや根こそぎ摘み取るしか策はない。
旗艦の中でさっと手をあげるアルトシャン。それに呼応して艦内は一気に騒がしくなる。

「ダメだぜコイツ、完全に頭やられて幻聴幻覚に踊ってやがる。」

エルピスでなくとも、アルトシャンの言っていることなど信じられるはずもなかった。
おおかた、マヴガフの企みにあっさり引っかかったに決まっている。
彼らにとっても、戦うしか先に進む方法はないと察していたが、切り札を見せ付けられて安易には動き出せずにいた。

「選びたまえ、降服して自ら市中処刑を望むか、この場で消し炭になるか。」

希光の処刑、それはおそらくアスク帝国の権威を民に示す良い機会となると同時に、
彼女を英雄扱いしている地方の士気をへし折るのに最適な手段である。
だが、彼にはもう既にシャニーが口にする答えなど分かっていた。

「誰が降服なんてするもんですか!」
「主砲発射準備!目標、希光!」

触れただけで怪我をしそうな鋭い剣幕で睨み上げてきて、最後の情けも跳ね除けた。
案の定の答えが返ってきて、裁きを下すようにアルトシャンは無言にアンドラスへ向けて手をかざした。
彼は艦内へ指示を出し、動力部が唸りを挙げ始め、その音は少しずつ高まってくる。

「次は外さぬぞ。1分のうちに答えを出せ。さもなくばこの場で処刑を執り行なう。」

エネルギーゲージは脈を打つようにせり上がっていき、アルトシャンの前には照準器が出番を待つ。
徐に組んでいた腕を解くと、照準器に手をかけてトリガーに指をかける。
人間一人相手にこのような巨大兵器を向けるのは異常な光景だ。

「エネルギー充填50パーセント!動力推移正常、1番ロック解除!」

見る見るうちにマナを蓄えていき、あたりのマナが機械の中に吸い込まれていくのが分かる。
それでも、シャニーは歯を食いしばったまま、艦橋にいるであろうアルトシャンを睨み続けていた。
こんなところで負けるわけには行かないが、退路は奪われ、目の前には処刑台。

「どうするのシャニー!あんなマナ、いくら私たちでも受け止められないわよ!」

硬直しているかのように動かない彼女にエルピスが叫ぶ。いくらアリアンと力を合わせようとも
あんな人智を超えたマナを押さえ込める自信はなかったし、仮に出来たとしても1回が限度。
受け止めたところで状況が変わるわけでもない。

「エネルギー充填80パーセント!動力連結!2番ロック解除!」

その間にもアルトシャンは着実に処刑の準備を進めていき、動力ゲージがもうすぐで一杯になりそうだ。
今日が新生アスクの新たな歴史の1ページになる違いない。その最高の瞬間を前に口角が上向く。
圧倒的な力を前に、シャニーはぐっと手を握り締めた。

「ここで降服なんてするわけには行かない・・・私には守りたいたくさんの人がいる!」

もう戦うしかない。そして今、あの力に対抗できるものはひとつしかない。
彼女は半身になって足元をやや広めにとってしっかりと踏みしめると
きっと敵の砲門を睨むように見据えて右腕を掲げ、集められたマナが輝きだす。

「ん・・・!?アンドラス、まだか!」
「充填率90パーセント!91,92・・・!」

どうやら最後まで抵抗する気のようで、ふっと嘲笑したのも束の間の事だった。
瞬いた光をアルトシャンが見落とすことはく、一瞬にして口元が歪む。間違うわけもない。
状況を確認すべくアンドラスに叫ぶが、それまでのスピーディさが嘘のように、最後の10%を待つ時間が長く感じる。

「シャニー、まさかそれは!」
「負けるわけには行かない。今まで助けてくれたたくさんの命のために、諦めるわけには!」

集まった光は彼女の手の中で長弓と生まれ変わって、ぐっと握り締めた彼女はアルトシャンを見据える。
そしてぎゅっと胸元に光るトパーズを握り締めると、強く祈った。世界中の者達へ。
彼女の祈りを真っ先に聞いたゲイルは直感する。失ったはずの力を、彼女が目覚めさせたのだと。

「発射準備完了!総統、ターゲットスタンバイ!」

アンドラスからの報告に、アルトシャンはすぐさま照準器に利き目を合わせる。
その先には、目が眩むほどに煌々と輝く銀の矢を番える熾天使の姿。
先手必勝と、安全ロックを指で弾き飛ばし、トリガーをがっと指で押さえつける。

「させんぞ!発射秒読み開始!10・・9・・・。」

発射に向けて、充填されたマナが圧縮されて動力のフル回転する音が艦内を支配する。
モニターは秒読みに呼応するかのようにどんどんと熾天使の光に支配されてもはや景色は分からないが
照準は完璧にシャニーを捉え、スクリーンの中にくっきりとマナに輝く姿を浮かび上がらせる。

「みんな、私に力を貸して!」
「このマナ・・・。分かったわ、あなたの想いに賭けるわ!皆も祈って!」

いつもの妹のマナとは違う事に気づいたエルピスははっとしていた。
自分が求め、そしてついに達する事ができなかった希望のマナの真髄の域。
それに達したマナが今目の前にある。これこそが後継者として選んだマナだ。
ようやくに力を取り戻したシャニーの熾天使としての眼差しを信じ、彼女も仲間に叫んだ。
もちろんゲイル達も既に祈っているが、彼は心の中で何度も相棒を励まし続けた。お前なら、俺達ならできると。

「さらばだ希光、冥福を祈る。」

秒読みは既に最期の瞬間を向かえるが、アストレアが放たれる気配はない。
勝ちを確信したアルトシャンは、シャニーの姿をしっかりと目に焼き付けると英雄の最後に敬意を払う。
精々、葬式の準備と歴史の教科書に名前を載せるぐらいの配慮はするつもりだ。

「ハイパートール砲、発射!」
「いっけえええ!」

運命のトリガーがついに音を立てて引かれ、砲塔から我慢の限界まで圧縮された蒼白き破壊のマナが噴出した。
うなりを上げて飛んでくるマナの螺旋を見開かれた瞳で捉えたシャニーもまた、
ついに絞りきった弓から渾身の一矢を放ち、銀の一閃が光速に切り裂いていった。

「うおおおお!負けるもんかぁぁっ!」

青のマナと銀のマナ。互いに次元を切り裂くほどの勢いで飛び掛り、ぶつかり合った途端
凄まじい衝撃波があたりに迸ってゲイルでさえも足元をすくわれて吹き飛ばされた。
その中でも、マナの波動を吹き上がらせるシャニーは次々に矢を生み出すと
まるでマシンガンのように立て続けに放つ。まるでひとりの腕を大勢の手が支えるように
後から来た光達が最初にぶつかり合った光に溶け込み、大河となった銀が青をあっという間に包み込んだ。

「なんだと・・・?!おわああああ!!」

青を包み込んだ銀は一気に逆流してアルトシャンたちへと迫る。
まさかの光景に絶叫するしかなく、次の瞬間にはトールハンマーを貫いた銀の矢は
地平線まで閃光で包んで色も音も全てを白に染め上げていった。
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