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 ←15話:SoulFull Bridge →2話:大蛇の誘い
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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter17 悲壮なる叫び

1話:思わぬ救援

 ←15話:SoulFull Bridge →2話:大蛇の誘い
 シャニーが放ったアストレアは帝国の最強兵器を退けて地平線までを銀に染め上げた。
それまでの戦渦がまるで嘘かのように静寂に包まれるルセン橋梁には、冬の空っ風が吹きぬけて光を砂のように流し払い、
景色が戻ってくるとその破壊力がどれほどのものだったのかを少しずつ顕にしていく。

「総統、第一砲塔大破!全砲門使用できません!」

確かにアストレアに貫かれたはず。なのに生きている。
震えの止まらない足元、トリガーからするりと抜け落ちた手がだらんとして動かず、今でも生きている心地がしない。
それでも各機能から上がってくる報告が、生きている事を、そして熾天使の恐ろしい力が現実のものであった事を
未だ着いてこられていない頭にどんどん流し込んでくる。

「こちら第二砲塔、損傷多数!照準器類をやられました!」

どうやら航行には支障はないようではあるが、あちこちの砲撃部から操作不能の緊急連絡が入る。
モニターに映し出された全ての砲塔が赤いランプで表示され、旗艦は攻撃の手段を失ってしまっていた。
呆然と立ち尽くすアルトシャン。アスクの最高技術が今完膚なきまでの惨敗を喫したのだ。

「・・・何と言う力だ・・・まさかまたあの力をこの目で見ることになろうとは。」

アルトシャンは2年ぶりに見せ付けられた神界の力に言葉を失っていた。
あの時は帝国にとっても救いの光だったアストレア。ハデスを射抜き封印した弓矢が今、
人間に向かって放たれたのである。粛清の光として。

「あれが・・・あれがアストレア・・・。凄まじい光だった・・・何の穢れもない聖光・・・。」

あんな光を自分は知らない、だがもう一人の自分は今見せ付けるように放ってきた。
自身も宿しているはずの光、ぎゅっと己の胸を握り締めながら何度もあの光を思い出すアンドラス。
悔しさに唇を噛んでいたときだ、ふいに彼女の視界に映る人影。

「よっしゃ、シャニーでかしたぜ!風穴開いてるうちに突っ切るぞ!」

まさかの一発にゲイルは歓喜を上げてシャニーを腕の中に抱き込むと駆け出した。
アストレアの進路にあったものは全て吹飛んで、サラセン側まで一気に見通せる。
今しかチャンスはないと駆け出す一行。まだ相手は体勢を整えられていない。

「うん、まぁまぁの威力だったわ。ま、私の現役の時に比べたらさっぱりだけど。」

照準が甘かったから合格点はあげられないが、一応起死回生の一矢と言うことで褒めておく。
間違いなく、皆の希望を集め、光と昇華させる力という点ではシャニーのほうが上手だ。
だからこそ後継者に選んだ。ようやくスパルタの成果が現れてご機嫌である。

「とりあえず橋梁を抜けて森へと逃げ込むぞ!重機を伴っては奴らも追っては来れんはずだ。」

橋さえ抜けてしまえばこちらのもの。森の中に潜めば騎士達をまくことは容易い。
機械たちは想定外の反撃に遭い、右往左往してまだ迎撃できる態勢ではない。
もう少しでサラセン側の出口が見えかける、その時だ。背後から飛んでくる暗黒のマナ。

「そうは行くか!決して逃がしはしない!待て!」

旗艦から飛び降りてきたアンドラスが双剣を振り回して、刀身から衝撃波を飛ばして道を阻む。
彼女の後を追うようにして騎士達がわらわらとトールハンマーから出てきて白兵戦を挑む。
先陣を切る彼女は風のように見る見るうちに追いついて来て、剣先からまた一発破壊のマナを飛ばしてきた。

「けっ、しつこいねーちゃんだぜ!シャニー、もう一発見舞ってやれよ!」

光のマナはもう相棒から受け続けて対処の仕方は心得ている。
キュレックで軽く相手からの一撃を跳ね飛ばすとシャニーを見下ろして、
アストレアの再来を敵に意識させて距離を詰めさせない。だが、それを聞いた途端シャニーは何度も首を横に振った。

「ダメだよ!アストレアは人にむけていい弓矢じゃない!」
「言いたいことは分かるが、今はそんな事を言っているときじゃないだろ!」

さっきは絶体絶命の中、無機質な相手だったからこそ躊躇うことはなかったが、
エルピスから継承した光は、人間を守り未来を創るための光。人間に放ってしまった先輩の悲しみを知っているから
何があろうと人に向けることはしまいと固く誓う彼女の意志は、ゲイルがどれだけ叫ぼうとも変わらない。

「シャニー、アンドラスに向けて撃たずともいい!橋を落として足止めするのだ!」

後方からの追撃さえ何とかできれば、あとは森の中に逃げ込むだけ。
アンドラスの剣から次々と繰り出される破壊のマナを弾きながら焦るゲイルに代わり、
メルトがシャニーを諭すようにしてアストレアの準備を促す。この力さえ戻ったのならいくらも策はある。

「よおし、そういう事なら!お願い・・・もう一度力を貸して・・・。」

やっとの事で頷いたシャニーが手先に再び弓を召喚して、銀のマナが小さく握られる。
彼女を守るようにして、後方からの執拗な遠距離攻撃を弾き飛ばしながらその瞬間を待つ一行だが、
いつまで経っても、あたりのマナが共鳴してシャニーの周りに集まってくる気配はない。

「あれ・・・?あ、あれ?!」
「何してんだシャニー、早く!くそっ、アンドラスの野郎、妙な力を使ってやがる。」

銀のマナが矢の形になりかけてはぱっとあたりに弾け飛ぶように消えてしまう。
その間にアンドラスとの距離は縮まる一方で、攻撃間隔が次第に短くなってゲイルだけでは抑えきれない。
おまけにさっきから相手のマナをキュレックで受け止めたときの感触に違和感がある。
シャニーのマナとは違う何か禍々しいマナがキュレックから腕に浸食し、痺れてくるのだ。

「お前が純粋な光と言うなら、私は闇の知る光!お前の光をこの力で砕いてみせる!」

邪魔な巨体を何とか跳ね飛ばしてやろうと、刀身にマナを宿しながら腰をひねる。
ごうっと燃え上がったマナは明らかにシャニーのマナとは違う、それでいてどこかで身覚えのある色。
放たれたマナの斬撃をまたキュレックで弾くゲイルは顔をしかめ、跳ね飛ばされたマナを見てエルピスの目が見開く。

「ん?!あ、あのマナは?!」
(あ、あれはハデスの・・・?!娘よ、いつの間にその力を手に入れたのだ・・・。)

見間違えるはずもない。数千年の縁、宿敵のマナを。
だが問題はそこではない。シャニーのホムンクルスであるはずの彼女が何故・・・。
その疑問を抱くものが他にもいた。アルトシャンだ。
彼はモニターに映った娘の刀身に燃えるマナに瞠目して色を失っていた。

「シャニー!何をしているのだ!このままでは橋を落としても意味がなくなるぞ!」

既にアンドラスを先頭に橋を埋め尽くすほどの騎士達が追撃を始めており、
そして応急処置を終えたトールハンマーの動力が唸りをあげて今にも飛び立ちそうである。
さすがに痺れを切らしたメルトが振り向いてシャニーの名を呼ぶが、彼女は蒼い顔をしていた。

「だ、ダメだ・・・。だめだ、思い出せない、思い出せないよ!アストレア・・・!」

ついさっきのことなのに。自分の腕が、手先が構え、そしてこの目で見定めたはず。
己が放った銀の矢が、トールハンマーのマナを貫いたあの瞬間。
なのに、全く思い出せないのだ。どうやってマナを手先に練り上げ、皆の想いを放ったのか。
悲しくて、悲しくて、彼女の顔は見る見るうちに涙で濡れそぼる。

「な、なんだと?!くっ、こうなりゃ仕方ねえ!このまま突っ切るぞ!」
「まさかまぐれだったの?くぅ、半分でもいいから私に力が残っていれば!」

仰天が続く一行はとにかく前を目指して駈けるしかなかった。
このときほど、エルピスは自身の無力さを悔やんだこともなかった。
完全に妹に力を継承した今となっては、アストレアはもう放てない。扱い方は忘れるはずもないのに。

「なるほど・・・。先ほどの一撃はまさに切り札だったわけか。確かにトールハンマーを失ったことは痛手だが・・・。」

騎士達を引き連れてシャニー達を追いながら攻撃を続ける娘の背中を艦橋から腕を組みながら見下ろし、
彼女達に背中を向けて走り始めた者達にひとつ口角を上げるとマイクを手に取った。

「その力さえなければお前たちのなど袋の鼠!逃げても無駄だ、サラセン側にも部隊を配置してある!」

マイクに向かって叫べば、さすが右腕といったところか、既に準備は万全だった。
やっと見えてきた出口を塞ぐように姿を現す白い巨体。

「ゲ、ゲイル!見て!サラセン側!」

先頭を走っていたメルトの足が急ブレーキをかけ、シャニーも前方から聞える機の律動に思わず耳を立て、
見上げた先にそそり立つ最強の壁に目を見開くと指を差して仰天を叫ぶ。
倒したはずのトールハンマーが、既に砲門をこちらへ向けていたのである。

「げっ?!いつの間にあっちまで封鎖されていやがったんだ?!」

後ろを振り向けば、もちろんアンドラスが凄まじい剣幕で迫ってきており、
その後ろから並のように騎士達がなだれ込んで怒声だけで押し倒されそうだ。
アンドラスから守るようにシャニーを自身の後ろに隠すゲイルだが、確実に狭まる包囲に表情は蒼い。

「総統、トールハンマー配置完了。錬金エネルギー充填も終わってます、いつでも発射命令を!」
「ふふふ、セインめ、ようやくに準備を終えたか。・・・そろそろフィナーレと行こうではないか。」

切り札を失った相手には少々きつすぎる演出かもしれないが、手加減をするつもりは全くない。
細心の注意を払ったものだけが戦場で生き残る。そうでなくとも、前回彼女たちを捕り逃しているのだ。
本当は拿捕して市中で公開処刑にかけたいが、彼はセインへ発射準備を命じた。

「もはやそれ以上サラセン側へ近づけば、
 お前達はあのトールハンマーの射程範囲内に飛び込むことになる!無駄な抵抗はやめて大人しく投降せよ!」

アルトシャンの勝利を確信した力強い声がルセンに響き渡る。
天から絶体絶命が降り注いで、腕の中のシャニーを強く抱きなおすゲイル。
今度あんな超絶なるマナを突きつけられても、逃げることも受け止める術もない。

「撃てるのか?あのトールハンマーを撃てばお前たちにも被害が及ぶぞ!」

メルトは冷静だった。一つ鼻で笑って見せると、アルトシャンがいる旗艦を指差して叫ぶ。
トールハンマーの威力ゆえに、もしサラセン側から放てば反対側を塞ぐアルトシャンたちまで
錬金砲の直撃を受けることは目に見えている。

「メルト殿、最近の科学力は発展が凄まじいものがあってな。あれは局所攻撃が出来る特殊なトールハンマーだ。」

だが、途端に辺りに響き渡ったのはアルトシャンの高笑いだった。

「貴殿らには選択肢は1つしかないが・・・我々には2つあるのだよ。
 貴殿らを直接消し炭にするか、橋梁を落として逃げ場を奪うか!ははははっ!」

アルトシャンがそんな抜け目のある作戦を組むはずなどない、それはメルトが一番に分かっていた。
今回も彼は用意周到に、完璧なる作戦に更に何個もの保険をかけ、綿密に作戦を組んで挑んできていた。
術中に完璧に嵌り、身動きが取れなくなった者達へ勝利の哄笑を空に向けて叫ぶ。

「くっ・・・。万事休すなのか・・・!」

さすがのメルトも、この丸で何も切れるカードのない状況では打つ手がなく、
アルトシャンの高笑いに怒りが湧き上がろうとも、それ以上にのしかかる絶望に歯を食いしばるだけ。
何も行動を起こせなうちに、後方からはアンドラスたちがにじり寄ってくる。

「さぁ、もう逃げ場はないぞ、シャニー!ここが貴様の墓場だ!剣を構えろ!
 私の剣に打たれて倒れるがいい!トールハンマーに焼かれるより、奈落に落ちるより!それが一番に貴様に相応しい最期!」

何としても、自分の手で倒したい彼女は交戦を叫び、少しずつ距離を縮めてくる。
その間にも休むことなく双剣を振りぬいては、剣先から衝撃波を飛ばし、逃げ場のない相手を追い詰める。
一行は執拗な遠距離攻撃をただひたすら受け止めて凌ぐしか出来なかった。

「くそっ、ここで踏みとどまるしかないのか・・・!ごめん、みんな。私がアストレアさえ使えれば。」

弓矢、爆弾、シャニーも持てる力でアンドラスたちの猛攻を防ぎにかかるが数が多すぎる。
彼女達はトールハンマーの射程を知っているのか、一定の距離を保ったままそれ以上は近づいてこない。
雨のように降り注ぐ遠距離攻撃を前に、絶望に打ちひしがれながらシャニーは無意識に己の無力を詫びた。

「そんなこと言ってもどうしようもねえだろ!それにしても・・・アンドラスのやろう、妙なマナ扱いやがって。」

泣き言を口にするシャニーを叱るゲイル。なんでも自分のせいだと思うのは相棒の悪癖だ。
今はこの人生最悪の瞬間を凌ぎきることだけを考えろ。目でそう諭して目に力を取り戻させる。
相棒の表情は良くなったものの、相手からの攻撃は過激を極めていた。

「ふふふ、この粛清の光で貴様らに裁きを与えてやろう!お前が熾天使だというなら受け止められるはず!
 神界の光の後継者は一人だけで十分なのだ!さぁ、行くぞ!」

もう、これ以上は防ぎきれない。いずれ消耗してきた守りを貫かれてしまうのは目に見えている。
やむを得ず、ゲイル達はサラセン側を諦めてアンドラスたちを切り崩す作戦に出た。
ようやく突っ込んできた彼らに不敵な笑みを浮かべたアンドラスもまた、剣を構えなおすとシャニー目掛けて駆け出す。

「私が認めたエルピスはシャニーひとりだけだ!自惚れるな、人間!」

宿敵の息の根を止めたくて仕方ない剣の前に、宙に踊るバタフライナイフが行く手を阻んだ。
マナを宿しているだけで後継者を名乗る不届き者に、エルピスが怒りの一撃を振り上げたのだ。
彼女は思い知らせるようにアンドラスに鋒を向けながら叫ぶが、アンドラスも引かない。

「ザコは黙っていろ!いくら容姿を似せても私の目は誤魔化せはしない!」
「雑魚ですって・・・?!フッ、無知は恐ろしいものね。いいわ、見せてあげようじゃないの。」

剣で空を切り裂き、闇の斬撃をエルピスに向けて飛ばして威嚇する。
柳の葉が風に揺れるようにあっさりとかわしたエルピスの目が怒りに見開かれ、握るナイフに力が篭る。
いやしくも熾天使の位に君臨していた身。こんな勘違いした人間達にコケにされて黙っていられるはずもない。
鋒を向け合った二人はだっと駆け出し、エルピスのナイフが早速にアンドラスの頬に赤い筋を作る。
牙をむくアンドラスと見下した目で笑い、挑発の手招きを見せるエルピス。再び二人が砕きあおうと走り出した、その時だった。

「全機、トールハンマー発射、目標、敵トールハンマー部隊!」

突然にサラセン側に強い閃光が轟いたかと思うと、
次の瞬間じっとシャニーたちに狙いを定めていたトールハンマーが突如炸裂して火の手が上がった。
それだけで終わらず、次々に天へと爆炎が吹き上がり、耳が千切れそうな轟音に包まれる。

「・・・何?!あれは・・・白の騎士団か!くっ、この大事なときに!」

想定外の事態にモニターに映し出されたサラセン側の光景に目を凝らしたアルトシャンは思わず拳を叩きつけた。
自軍を攻撃しているトールハンマーに描かれているのは、白の騎士団の紋章だ。

「全機突撃せよ!シャニー達を逃すな!」

橋の出口を塞ぐ一台を残して、白の騎士団へ応戦を命じる。
レーダーでしっかりと周りの状況を確認していたはずなのに一体どこから・・・憤りと焦りにモニターを睨む眼差しは険しい。

「白の騎士団だと?!どうしてこんなところに・・・。だが、これは好機だ、一気に橋梁を抜けるぞ!」

もちろん、白兵戦を繰り広げていたゲイル達も後方の炸裂音に気付いていた。
トールハンマー同士で始まった砲撃戦にメルトが叫ぶ。今、サラセン側の守備はがら空きだ。
理由を詮索している余裕などなく、彼は叫びながら剣を掲げると先陣を切って走り出す。

「そうはさせるか!お前達がサラセンの砂を踏む事は叶わぬ!大人しく剣を構えろ!」

ついに出口を守っていたセインの載る副旗艦も被弾し、砲塔部から火の手が上がる。
これで何も阻むものはなくなり、一行は風に乗って一気に脱出を図るが
それを阻むように、出口側からも騎士達が突撃してきて、
背後から迫るアンドラスがスピードの鈍った背中にすぐに追いついて来てシャニー目掛けて斬撃を飛ばす。

「くそ・・・倒して進むしか・・・ないのか!」

前も、後ろも、人間で埋め尽くされた橋。命を守る為には、彼らを倒すしかない。
だが、本来人間を守る為に授かった熾天使の力で人間を傷つけなければならないと思うと手を出せない。
何よりも、アンドラスと戦う理由が、彼女には未だに己の中で見つけられないのだ。

「ふふふ、そうだ、ようやく観念したな?行くぞ!我が剣貴様に見切れるか!」
「そうは行くかよくそったれめ!シャニーには指一本触れさせねえぞ!」

シャニーの考えなどお構い無しでついに突っ込んでくるアンドラス。
すぐさまゲイルがシャニーの前に立ってアンドラスを待ち受ける。
見る見る縮まる距離。腰をひねり、双剣を構えながら立ちはだかる壁を吹き飛ばそうとアンドラスが双剣にマナを宿したその時。

「な、なに?!」

突然頭上に現れた錬金艇から凄まじい風が吹き降ろされる。
仰天して見上げる先にある巨大な船から飛び降りてくる二人の騎士。
彼らはゲイルとアンドラスの間に割って入るように着地し、彼らの顔にアンドラスの顔が固まっている。

「ゲイル、ここは我らに任せ、お前はシャニーを連れて早く森へ逃げ込め。」

カミユを追うように、続々と錬金艇から白の騎士団の衛士たちが飛び降りてくる。
彼らはゲイル達を守るように辺りを固め、武器を構え突撃してくる帝国兵を押さえ込む。
呆然とするゲイル達に、カミユも先陣を切りながら脱出を叫ぶ。

「おのれ、邪魔立てするなら貴様も容赦せぬぞ!白の騎士団総督、カミユ!」

ふいを突かれた帝国軍はまるでオセロでも見ているかのように、
あっという間に白の騎士団に形勢を逆転されてシャニーたちとの距離が開いていく。
怒りを顕にして、切りかかってきた衛士を双剣で沈め、剣撃をカミユへと浴びせるアンドラス。
だが、彼はとっさに魔法障壁を錬成すると、あっさりと彼女のマナを弾いて見せた。

「ゲイル!ここは奴の言うとおり任せて俺達は先を急ぐぞ!
 ・・・これ以上時は待ってくれない、これが好機か罠か・・・考えている一刻すら惜しい!」

カミユたちの行動の思惑など分かるはずもないが、今出来ることはただひとつ。
アンドラスたちをカミユに任せ、叫ぶメルトはゲイル達を鷹の如く鋭い眼差しで見つめると
手で合図して全力で駆け出し、帝国兵と白の騎士団がもみ合う中をすり抜けていく。

「くっ、カミユ!礼は言わねえぜ!シャニー、行くぞ!!」

今も必死に帝国兵たちを退けるカミユにひとつ感謝を口にして走り出すゲイル。
シャニーもまた駆け出しかけたカミユを見つめる。仮面の下の表情は分からないが、
物言いたげな彼女の眼差しに、口元で優しく微笑むと行けとジェスチャーして見送った。

「くそっ、待て!シャニー!また私との決着をつけずに逃げるつもりなのか!退け!カミユ!」

みるみる小さくなっていくシャニーの背中。この機を逃すかと前に出ようとするアンドラスだが
その前に立ちはだかる仮面の騎士がどうしても道を開けてくれない。
魔法を放てばマジックシールドで弾かれ、剣を振り降ろせば巧みな剣技で受け流される。

「逃がしはせん!受けよ!雷閃剣!」

まさかの事態に、アルトシャン自らも旗艦から降りてエルモアを駆る。
近づくものすべてを弾き飛ばしながら猛進する彼はあっという間にアンドラスを、そしてカミユをかわし
エルモアに乗ったまま刀身に雷撃を集めると渾身に前方に見える華奢な背に向けて振り下ろす。

「シャニー、来るぞ!奴の紫電は地を這う!気をつけろ!」
「は、早い・・・?!くそっ、何度も同じ手にかかるもんか!」

まさに剣帝の名に相応しい剛の一撃が空を裂き、耳を劈く烈音を上げながら飛びかかる。
地面に突き刺さった雷撃は橋を引き裂いて蛇のごとく獲物を追い、
すれ違った白の騎士団の衛士たちはそれだけで強烈な電撃傷を受けてその場に倒れこんでいく。
メルトの警告にシャニーも振り向いて目を見開く。まるで地割れのごとく紫電が衛士たちをなぎ倒しながら
自分目がけて牙をむいているのである。だが、一度見ている技、しっかり対策は練っていた彼女の動きに迷いはない。

「それはこちらとて同じこと・・・二度も仕留め損ねはせん!!」

剣帝と言われるゆえん、それは同じ失敗は二度はしない適応力。
絶えず自身の剣技を鍛え進化させ続けてきたアルトシャンの口元に不敵な笑みが浮かび、
彼は勝利を確信すると指を一つ弾いて見せた。するとどうだろう、
鎌首をもたげるようにせりあがった雷撃が、まるで網のようにシャニーの目の前に広がったではないか。

「なっ、し、しまった!?」
「シャニー!!くそっ、間に合え!」

まるで大蛇が大顎を開いて獲物を噛み砕こうとするかのように広がる紫電。
いくらシャニーの機敏さがあろうとも、橋上全てを包む紫電の前では逃げ場はない。
獲物目がけて一気に飛びかかる紫電。とっさにゲイルが飛び出すが、彼の目の前を紫電が無情にも通り過ぎて行った。
間に合わない、絶体絶命に蒼褪める相棒の顔が視界に映る。時よ、止まってくれ!
そう彼が祈ったその時だ。目の前をすり抜ける白い風が紫電の前に立ちはだかった。

「無様な姿だな、シャニー。いや・・・熾天使様とでもいった方が正しいか?」

最悪を覚悟して頭を手で押さえながらうずくまっていたシャニー。だが一向に紫電は降り注がない。
恐る恐る目を開けてみると、目の前に見えたのは轟々と燃え上る蒼焔。
間違えるはずがない、この自身とは真逆を望むはずなのに不思議と安堵できる守りのマナを。

「あ、あなたが・・・!?ヴァン!!な、なんであなたがここに?!」

思わず飛び上がって改めて後姿を見つめる。赤い髪、赤い目、間違いない、彼はヴァンだ。
ただひとつ違うのは、まとっている軍服が純白と言うことだけ。
シャニーの無力さを嘲笑する不敵な後ろ目は、何も答えることは無く紫電をはじき飛ばすと颯爽と駈けて行った。

「待て!」
「あ、兄上?!そ、そんな、待って!私は兄上に剣を向けられない!」

ヴァンが向かった先はアンドラスの目の前だった。
彼女の行く手を塞ぐようにして立ちはだかり、その眼を鋭く睨みつけながら槍を握りしめる。
彼の行動にそれまでの覇気が嘘のように狼狽し始めるアンドラス。

「ふっ、今更遅い。熾天使にあだ名す者はオレの敵。死ね、アンドラス!!」

戦意がないことを見せつけるように剣を下す彼女だが、かつて死神とあだ名されたヴァンに容赦はない。
ごうっと音が吹き出すほどに槍の穂に蒼焔を燃え上がらせると電光石火に駆け出し、
あっという間に距離を詰めるとアンドラスの腹を槍でついて一発で相手の膝を崩してしまった。

「待て、カミユ!娘をどこへ連れて行くつもりだ!」

倒れたアンドラスを救助しようと騎士駆け寄り、それを押しのけるようにしてエルモアで駈けつけるアルトシャン。
その目の前でヴァンからアンドラスを受け立ったカミユが錬金艇に飛び乗り、その場を去ろうとしている。
空へ逃げようとする敵に何度も紫電を浴びせかかるが、尽く魔法障壁に阻まれた。

「この娘は私が預かる!下手な抵抗は止めることだな、ハハハ!」

まさに急所を一突き、瞬く間の逆転劇に騎士たちは混乱して右往左往。
アルトシャンもまた、もはや地平線に消えかけているシャニーたちの背中を横目に映して悔しさを噛みしめながらも
ばっと視線を斬ると、空高く飛び上がった錬金艇を指さして騎士たちを指揮し始める。

「おのれ!全軍!カミユを追え!アンドラスを取り戻すのだ!」
「待て、アルトシャン、貴様の相手はこのオレだ。」

彼なら娘を放ってシャニーを追うかと思っていたが、意外な判断にふっとヴァンの口元が笑う。
だが、いずれにしても彼をまだ先に進ませるわけにはいかない。
地平線の向こうに消えた好敵手の姿を後ろ目で確かめると、エルモアの前に立ちはだかり渾身の一突き。
その衝撃波だけでエルモアは吹き飛ばされ、アルトシャンはバランスを崩しながらも剣を突刺し踏みとどまると
目の前に立ちふさがる白い死神を睨みつける。

「この裏切り者め!そこを退け!剣帝に槍を向けたことを後悔させてくれる!」

親が親なら子も子だということなのか。世界のあるべきを遠ざけるだけでなく
何と娘までをも奪おうとするとは。怒りに身を任せた凄まじい剣幕は、
剣帝と呼ばれる彼の冷静さを完全に吹き飛ばして、ただ目の前の敵を砕くだけの剣と化している。

「それはこちらのセリフだな・・・。絶対の騎士ヴァン、この蒼焔を貴様に敗れるか!」

娘を奪われて豹変した彼に、一応人間の血が流れていることを悟った。
だが、ヴァンが改めて己の直感を確信へと変えていた。この男では、民は救われない。
静かに握りなおした槍に蒼焔を滾らせ、せまる破壊剣を待ち受けるのであった。
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