現在の閲覧者数:

スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←10話:制圧の善 →12話:調和の善
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  • 【10話:制圧の善】へ
  • 【12話:調和の善】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter17 悲壮なる叫び

11話:カミユの逆襲

 ←10話:制圧の善 →12話:調和の善
「ああ・・・ゲイル・・・。」
「ふんっ、たわいもない。こんな光が私を影に落としていたと思うと腹が立つ!」

今までずっとこの女の影として生きていた。いつ彼女の存在に己の存在を否定されるかと怯えながら。
だが、何のことはない。予想していた力など、彼女は欠片も見せなかった。
あっけなく倒れた宿敵を睨む眼差しは、憎悪に溢れ煮えたぎっていた。
レイ達が言っていたような力もない、これなら父の言うように消してしまったほうがいい。
真正面に立ち、微動だにしない相手を見下ろすと自然と笑みが浮かんでくる。

「だが・・・その縁もここで終わる。偽りの光はここで終わりを迎えてもらうぞ!」

たいそうな事ばかり口にしていたが、結局自衛する力さえ持っていないくせにどうやってハデスと立ち向かうというのか。
こんな偽りの光に民が惑わされては、それこそ世界は破滅の道を歩んでしまう。
そう、それこそ父の危惧していた未来。全てを決する為、彼女は静かに剣を天へと掲げ、振り下ろそうとしたその時だ。

「待ちやがれ!シャニーをそれ以上傷つけるな!」

闇を引き裂く光弾が視界の端に見えて、とっさに身を退くアンドラス。
そちらを見れば引き剥がしていたはずのゲイル達が凄まじい形相で駆け寄ってくる姿。
もちろん彼らにもシャニーが宙を錐揉みする姿は見えていて、ゲイルの視線は倒れたシャニーだけを映している。

「くっ、国賊め。だがもう遅い!この場で希光の処刑を行う、そこで見ていることだな!」

再び剣を振り上げるアンドラス。まだ距離には余裕がある。
相手は身動きできない弱りきった相手だ。背中を一突きさえすれば全てが決する。
勝利宣言をすると、彼女は刀身にハデスのマナを宿し渾身を篭める。

「そうはさせるか!待ってろ、シャニー!」

足の遅いレイを置き去りにしてシャニーの許へと駈けていくゲイルとエルピス。
アンドラスが剣を振り下ろせないように執拗に気弾を放って牽制を続けるゲイルだが
相手も隠せない苛立ちをファイアボールに篭めて放ってきた。

「死ねシャニー!私の前から消え失せろ!」
「この距離じゃ間に合わないわ。ゲイル退きなさい!」

ゲイルが怯んだ一瞬の隙をアンドラスは逃さなかった。
再び剣を振り上げてハデスのマナを燃え上がらせると、啖呵を切って振り下ろしにかかる。
このままではたどり着く前にやられてしまう。ゲイルに牽制を任せ、ついにエルピスが弓を取る。
シャニーの想いには答えられないが、もはやアンドラスを倒すしか策はなく引き絞られる光の矢が煌々と輝く。
照準も絞りきり、アンドラスの米神目掛けて解き放とうとしたその時だった。

「?!なっ!!」

闇の中に突然浮かび上がった人影が目の前に現れたではないか。
その姿はすぐに実体と化して、大きく両手を広げてシャニーを庇うように立ちはだかる。
彼女が瞠目したのは言うまでもないが、それは邪魔が入ったからだけではなかった。

「アンドラス!止めるんだ!この戦いには何の意味もない!」

自分の目をしっかりと見つめて訴えかけてきたのが、何とレイだったからだ。
駈けても間に合わない事が分かっていた彼は、転移術で小ワープしてアンドラスの許へ向かったのだ。
だが、その光景にゲイル達も、そしてアンドラス自身も凍り付いていた。

「あ、あのバカ?!あんな太刀筋の前に立ったら!おいっ、レイ危ない!」

こんな状態ではエルピスも弓を下ろすほかなく、それでも止まらないアンドラスの剣。
剣筋の前に立ちはだかればどうなるかなど、彼だって分かってるだろうに。
いや、彼は剣を扱わないから分からないのだ。振り下ろした剣を、そう簡単に止められない事を。

「レ、レイ?!どうしてあなたが!お願い退いて!」

それまで憎悪と殺意を燃え滾らせていた瞳が愛する人の姿を見て我に帰る。
祈るように叫んでも、レイは両手を広げたまま動こうとしない。
このままでは彼を切ってしまうことになる。慌てて剣を退く。

「剣が重いっ。この間合いじゃ止まれない!レイ!!」

騎士剣一本を両手で扱っていたならば、何とか止めることができただろう。
このときほど、父が最初に教えてくれた基本の型を拒絶した事を悔やんだ事はなかった。
ただでさえ重い剣に殺意をこれでもかと載せて振りかぶった天を落としたかのような一撃を
華奢な腕一本ですぐに制御できるはずもなく、目の前で自身が振りかぶった剣が愛する人へと吸い込まれていった。

「!!ぐわっ?!」

皮鎧すらつけていないレイ。いくら急ブレーキをかけたとしても剣の衝撃は凄まじい。
鈍い音がしたかと思うと白衣が引き裂かれ、遥か後方へと吹き飛ばされる。
まるで時が止まっているかのような感覚。
絶望の時間が澱み流れ、愛する人の投げ出され苦痛に歪む顔がアンドラスの瞳から見る見る色を奪っていった。

「ぐふっ・・・。」

地面に叩きつけられたレイは長い距離をすべってようやくに止まる。
彼が倒れる光景が目の前に叩きつけられて、アンドラスは硬直してしまっていた。
だが、剣がするりと手から抜け落ちると、まるで縛られていた鎖から開放されたかのように駆け出した。

「そ、そんな・・・どうしてこんなことに・・・。レイ!」

土煙が今も収まらないことが衝撃の激しさを物語る。
剣を放り出して一人の乙女に戻ったアンドラスは一気にレイの許へ駆け寄ると
手を口元に添えて震える声を殺しながら最愛の人を見下ろす。

「レイ!レイ!しっかりして!レイッ、お願いだから!」

まるでピクリとも動かないように見えて、彼女は声にならない悲鳴を上げながらしゃがみ込むと
何度もレイの体を揺さ振りながら涙を振り飛ばして愛する人の名前を叫び続けた。
するとどうだろうか、祈りが通じたのかレイが唸り声を漏らす。

「いててて・・・あれ、私生きてる?あれ、ここカレワラ森だよな。私が地獄なんて・・・。」

今も頭を打った衝撃か、全身がずきずきと軋むようにいたいのだが、確かに生きていた。
一番きょとんとしていたのはレイ本人だ。騎士剣の重い一撃を受けてもう終わりかと思っていたのに
周りに広がった光景は善神の光の世界とは程遠い暗黒。イアに功徳を認められなかったのかと呆然としているのだ。

「レイ!あぁ・・ごめんなさい!本当にごめんなさい!」

だが、彼はすぐにここが地獄ではなく天国であることを知る。
突然何かが圧し掛かってきたかと思うと、悲鳴にも似た耳を劈く声が飛び込んできたのだ。
目を白黒させながら振り向いてみれば、アンドラスがしがみついて泣き叫んでいた。

「アンドラス、もう大丈夫。とりあえず落ち着くんだ。」

とんでもないことをしてしまったといまだ顔を真っ蒼にしながら喉が裂けるのではないかと思うほどに慟哭する彼女を、
レイはしっかりと抱きしめ、包んでやりながら背中をさすって落ち着かせる。
愛する人に温もりに彼女がようやく我を取り戻すと、安堵でレイも軋む体が悲鳴を上げて来た。

「でも、私は確かにアンドラスの剣をもろに受けて・・・。」
「はい、そのはずです。白衣がこんなに破れて・・・あれ?」

二人とも顔を見合わせながら、奇跡に感謝するしかなかった。
アンドラスの剣がレイに直撃したことは間違いなく、酷く破れた白衣を手にして罪悪感に苛まれるアンドラス。
今でもしっかり覚えている。レイのどこに剣が当たったか。その場所に手をやったその時だった。手が何かに当たる。

「これは・・・これは君がくれたペンダントだよ。そうか、これに当たったんだ。ひゃー、運がいいぜ。」

アンドラスが手に取ったものを見つめて、レイはぽんと手を打った。
誕生日にアンドラスがくれた品の良いペンダント。傷つき、衝撃で凹んでしまっているが、
レイは両手を広げながら神が許した奇跡に感謝し、アンドラスも力が抜けて彼に身を任せる。

「よ、よかった・・・。ごめんなさい、本当にごめんなさい。私は・・・自分で愛する者を傷つけてしまった。」

愛する人が無事でよかった。今はもうそれだけしか考えられなかった。
だが、傷ついたペンダント、そしてぼろぼろのレイを見つめるほどに罪悪感が湧き上がって、
彼女はレイに抱きつきながら何度も何度もぽろぽろ涙を流しながら過ちに詫び続けた。

「アンドラス、もうこれで分かったじゃないか。今の剣は君が求めてるものじゃないってこと。」

再び号泣する彼女を見下ろしていたレイは、ふっと口元に笑みを浮かべると彼女の柔らかい金髪に手をやった。
真っ赤になった目で見上げてくる彼女を優しく撫でながら許し、そして改心へと誘う。
今回の事件は、きっと神が下さった転機だ。彼女に真に民を守る剣を握って欲しい、その思いがレイの眼差しを優しくし、
アンドラスも分かっているのか一度は俯くが、すぐに顔をあげてきた。

「で、でも、相手は国賊よ!放っておいたら世界は・・・。」
「退けっ。」

その時だ。ふいに愛する人の笑顔が目の前からなくなったかと思うと、
目の前にはまるで修羅かと思うほどに顔を真っ赤にした凄まじい形相の大男が現れた。
心配されることもなく放り出された怪我人をさすがに哀れに思ったか、背後ではエルピスがレイを治療し始める。

「てめえ、よくもシャニーをこんなに傷つけやがったな!ただじゃ済まさねえぞ!!」

軽々と胸倉を掴みあげたゲイルは、アンドラスに憤怒を浴びせて怒鳴りつける。
何とか振りほどこうとするアンドラスだが、どれだけ殴りつけてもびくともしないゲイルの腕。
剣も落としてしまった彼女に抵抗する術はなく、真正面から怒声を浴びて吹っ飛ばされそうだった。

「丸腰の人間相手に剣を振り回すとは、帝国も落ちぶれたものだな。情けない。」

腕を組みながら、アスクの騎士がして見せた事にため息をつくメルト。
自分が騎士団長の時代、決してこんな事をさせたことはなかった。
なんでも力で解決しようとするアルトシャンの姿勢が、娘にも影響している。
自ずと、帝国中にその思想が広がっているに違いないと思うと悲しかった。

「黙れ!このままでは人々の幸せは奪われてしまう!ぐはっ。」

誰もが目の前に広がった光景に目を疑っていた。
愚弄されるや否や騎士としての覇気を取り戻して反論しにかかるアンドラス。
だが次の瞬間、彼女は宙を錐揉みしていた。ゲイルがその丸太のような腕で彼女を殴り飛ばしたのだ。

「シャニーはずっと人々の事を守ろうと戦ってきたんだ。それを殺そうとするてめえらが何をほざきやがる!」

宙を滑る感覚をはじめて味わったアンドラスはそのまま地面に叩きつけられた。
殴られた衝撃、そして地面に叩きつけられた痛み。わっと襲ってきて身動きが取れないが
ゲイルはお構い無しに地面を揺らしながら寄ってきて再び胸倉を掴んで宙に釣り上げ怒声を浴びせる。
その眼光鋭く稲妻のように髪逆立つ大山の如き姿はオーガと呼ぶ以外に思いつく言葉がない。

「ゲイル、無抵抗の人間を相手に殴り飛ばすとはお前らしくもない、落ち着け。」

相手はシャニーと全く同じ体格の人間だ。シャニーに一度だって手をあげたことのない彼が
怒りに身を任せて暴力を振るう姿は、その巨体もあって恐ろしいものがある。
心優しきオーガが見せる、怒りに身を任せた本当の姿。
今もいつ殴りかかろうかと握り締められる拳が震えていて、見かねたメルトが止めに入った。

「だから顔は外しただろうが。」

反論するゲイル。これでも一応、相手が女性だと言うことは考慮したつもりだ。
だが、仲間から注意されてばつが悪くなったのか、胸倉を掴んだままアンドラスを放り出した。
軽がる途中に投げ出された彼女は尻餅を突いて痛みと悔しさに眉間にシワを寄せるが、ゲイルの怒りは収まることを知らない。

「お前の剣が人々を守る剣だってんなら、お前はもうハデスに侵されてる!現にお前が斬った相手は誰だった!」

自身の剣を否定されて黙っていられるはずもないのだが、反論しようにもできなかった。
ゲイルの後ろには、手当てを受けながら苦痛の表情を浮かべるレイの姿。
彼もまたじっと見つめてきて何かを訴えかけてきている。

「そ、それは・・・。レイ!どうしてあなたは彼女のことを庇ったりしたの?!」

とりあえずアンドラスをレイに任せてシャニーの許へ行き、切り傷だらけになった顔を悲しげに見つめたゲイルは
優しく彼女の頭を撫でてやり、楽な姿勢で寝かせるとまたレイ達のほうへと振り向く。
そこには二人の間を阻んでいた壁がいなくなってレイの許へと駆け寄ったアンドラスいた。
彼女は今でもあの時の行動を信じられず問いかけている。

「君はもちろん、そして彼女もまた大事な大事な存在だからさ。
 私にとっても、もちろん、君を含めたマイソシアに生きる全ての魂のために。」

とりあえずの治療を終わったのか、エルピスにぽんと怪我した場所を叩かれて目を白黒。
それでも飛び上がりたい気持ちを何とか抑えると、彼はアンドラスをじっと見つめ、
落ち着いた声で彼女を諭すように静かに語りかけていく。
敬愛するレイに面と向かって言われると、もうアンドラスには何も言い返せなかった。

「そう、そして彼女を守るには君たちでは役不足と言うわけだ。」

やっとアンドラスが分かってくれたか、場の空気が変わりかけたその時だった。
はっと何かを察したゲイルはとっさに身を転がして牙をむいて襲い掛かった何かを避ける。
直後、自身のいた場所に槍が突き刺さり、どこからともなく聞き覚えのある声が響いて一気に緊張が場を握り締める。

「カミユ?!いったいどこから現れやがったんだ!」
「知る必要はない!君たちと話している時間すら惜しいんでね!」

目の前に現れたのは、白い軍服に身を包み、顔を白のマスクで隠した男。
彼は握っていた槍を振り上げると目にも止まらぬ早業でゲイルへと投げつけ、正確無比にして強烈な一撃が地面に突き刺さる。
何とか避けたゲイルだったが、それを許すこともなく
今度はアイスランスが何本も飛んできて後退を余儀なくされる。
ようやく猛襲が終わり、反撃に出ようと拳に気弾を握るが、カミユにとってはゲイルと距離さえ取れればそれで十分だった。

「なっ、ブレイジングタワーですって?!くっ、近づけない!」

カミユの思惑をいち早く察知したエルピスが軋む体に鞭打って神速に駆け出すが、
突然地面からマグマの如く噴き上がる火柱が彼女の前に立ちはだかった。
相手のほうが一枚上手だったということか、火の壁によって隔てられた先には、未だ目覚めぬシャニーの姿。

「シャニー・・・こんなに傷ついて・・・。だから言ったのに・・・バカな子だ。」

怒気と焦燥を顕にして駆け寄ってくる者達のことなどお構い無しにシャニーの許へ歩み寄ったカミユ。
しゃがみ込んで髪を掬い、切り傷だらけの顔をそっとハンカチで拭ってやりながら怪我の具合を確かめる。
どうやら大事には至っていないようでほっと胸を撫で下ろす彼は無茶ばかりする彼女を罵った。

「てめぇっ!シャニーに触るんじゃねえ!!くそったれ!吹っ飛べ!」

喉が裂けるほどに力に任せ怒鳴ったゲイルは炎の壁に駆け寄りキュレックで斬りつけてみるが吹き上がる炎を切り裂くことはできない。
武器をしまい、両手で構えて衝撃弾を放ってみるが、圧倒的な魔力を前に掻き消されてしまった。

「それはこちらのセリフ。ずっと君を見てきたが、やはり君では彼女の守護者としては役不足のようだ。」

そっと倒れこんだシャニーの腰と膝の裏に手を回すと優しく抱き上げた。
力なくがっくり首は折れ、ポニーテイル解かれた長い髪が垂れおちる。
抱えなおして彼女の顔を見下ろすと、乱れた前髪を手櫛で解いて撫でてやる。

「覚悟だけでは、どうにもならないことがあるのだよ。ではさらばだっ!」

これも全て、あの男に彼女を守る力がなかったからゆえ。
力で襲い繰る脅威を砕くより、もそもそも彼女を脅威へと巻き込まない事こそが守護者の務め。
それを怠った結果がこれだ。カミユはゲイルの失態を責めると、マントを翻してだっと駆け出した。

「待て!カミユ!シャニーを返しやがれ!」

カミユの遠くなる背中に手を伸ばすゲイル。それを阻む火の壁にもう一度衝撃弾を打ち当てると
祈りが通じたのか、火の壁がどんどん小さくなってようやくに道は開かれる。
収まりきるのを待ってなどいられず、炎を踏みしめて駆け出すゲイル。

「悪いがそうも行かない!彼女にはこれ以上悲しい想いをして欲しくないのでね!」
「ふざけんな!てめえらがっ、てめえらがシャニーを悲しませているんだろ!」

男同士の意志が怒声にとって飛び掛り、激しい火花を散らす。
カミユを狙い気弾の狙いを定めようとも、彼は素早いステップで跳ねるように駈けてまるで当たらない。
おまけに下手をすれば深手を負ったシャニーに当たってしまいかねない。
そのくせ、相手は錬金術で生み出した兵器だろうか。小さなカプセルを放り投げてきては
それがゲイルたちの傍まで転がってくると爆発と煙幕を起して行く手を阻んでくる。

「俺達が必死になってアルトシャンを止めようと、
 人々の幸せを取り戻そうと戦っているのに、それなのに・・・!お前は・・・っ、お前たちは!!」

今までの辛かった日々を思い出す。だがそこにはいつも相棒の笑顔があった。
カミユはその彼女を奪おうとしている。彼女から笑顔を奪おうとしている。
それが何故分からないのか。涙さえ浮かべて引きつった怒声を浴びせるがカミユは止まらない。

「私はそうは思っていないよ。少なくとも、君たちはシャニーの守護者として私には力不足としか映らない。」

守護者、それは守るべきと剣を捧げたものを脅威から守る者の事。
主が誤った道を突き進もうとするならば、それを止める事も使命だ。
それができず、それどころか背中を押すようなことをする連中を彼女の傍においておくわけにはいかなかった。

「我々は彼女と敵対するつもりはない。むしろ彼女を助けたいのだ。」
「助けるですって・・・?!でたらめ言うな!だったらすぐにシャニーを開放しなさい!」

それまではゲイルとカミユの一騎打ちのような口撃の応酬だったが、
この期に及んで正義面をするカミユについに仲間達も辛抱しきれなくなっていた。
今どうして彼女が危険を冒してまで戦っているのか、それも知らずに正義を語るカミユ。
それに怒りをぶつけたのはエルピスだった。もう時間は一刻の猶予も許されては居ない。
神界の力が世界を破壊し、飲み込もうとしている。超越した力を目の当たりにした彼女の言葉に衣が着せられることはない。

「君たちと一緒にいては、彼女は傷つくばかりだ、今回のようにな。私たちが責任を持って彼女を安全な場所に匿う、安心したまえ。」

一体どこへ逃げようというのだろうか。ここはカレワラ、暗黒の森である。
マヴガフの幻術が無くとも、一度入ったら抜け出せないといわれるほどの魔境。
だが彼の駈ける足に迷いは無い。まるで、道が分かっているかのように。

「待ちやがれ!逃がさねーぞ!!シャニーは絶対に渡さん!」

だが、相手は一人。この森ならばこのまま追い詰めていけば必ず捕えられる。
諦めずにカミユの後ろについていくゲイルだったが、カミユも何も策無く逃げているわけが無かった。
彼は手元に取り出したレーダーのようなものを見下ろし、意味深長な笑みを浮かべていた。

「?!ゲイル!危ない!上だ!」
「うっ、うわあ!!」

恐れていた事がおきてしまった。突然の襲来にいち早く気づいたのはメルトだった。
何か強大な気配を察し、見上げた空には木々が大きな力に揺さ振られているではないか。
これがゲイルを呼びつけた次の瞬間、強大な闇を打ち砕いて頭上から現れる巨大な塊。
轟音を上げて降りてきたそれは、あたりに立っていられないほどの烈風を叩きつけてきた。

「カミユ様、お迎えに上がりました、お乗りください!」

カミユの許へたらされるはしご。見上げる先にはカミユと同じ白の装束に身を固めた衛士。
そう、それは白の騎士団の錬金艇だったのである。

「!!いけない!シャニー!」

見る見る空へと登って行く錬金艇。頭上には空も見えて船はどんどん小さくなっていく。
はしごに掴まるカミユ、そして彼の腕の中に抱かれたシャニーが遠くへ、遠くへ。
最悪の事態に、ついにエルピスは自身をマナの塊、精霊としての本当の姿へと戻す。

「エルピス!頼んだぞ!」

今は彼女だけが頼り。本来の姿に驚いたメルトだったが、意図を察して声をかけ、
それに頷くように空を跳ねた光の珠はまっすぐにシャニーの許へと飛んでいって、
彼女の首にかかるペンダントの中へと飛び込んだ。

「アンドラス!早くこの場から逃げろ!皆にこのことを伝えてくれ!」

後ろからレイを追って走ってきていたアンドラス。だが彼女も目の前に広がる光景に言葉を呑んだ。
はしごを上りきり、錬金艇に乗り込んだカミユが首根っこを捕まえていたのはなんとセインだったのである。
彼はアンドラスを見るなり叫び、それを阻むように衛士が錬金艇の中へと押し込んだ。

「セイン様?!どうして白の騎士団がセイン様まで!おのれ!セイン様を返せ!」

同士が掴まったと知って驚愕の目が空を見上げるが、すぐに柳眉を釣り上げた彼女は
双剣にマナを燃え上がらせると鋭く宙を切り出して錬金艇目掛けて衝撃波を無数に浴びせるが
相手は大陸最高峰の技術。全てが乾いた音を立てて弾かれてしまった。

「彼はゲストとして我が基地へ招待したのだよ。アスク帝国の企みを洗いざらい説明してもらう為にね。投獄しろ!」

抵抗したのだろうか、何かを叫ぼうと顔を出してアンドラスを見つめたセイン。
勝ち誇った笑みを浮かべたカミユは部下に命じると体格のいい衛士がセインの口元を押さえ、
そのまま数人がかりで押さえ込んで奥へと消えていった。
ますます不安になる。あんな連中に連れて行かれてしまったら、シャニーがどんな目に遭わされるか。
堪らず駈けてきて気弾を放つゲイル。だがその祈りの一撃も、無情にも乾いた音を立てて跳ね飛ぶ。

「ゲイル、悪いが君にはシャニーは預けておけない!諦める事だ、彼女を愛してるのならな!」

圧倒的な力量の差を見せ付けて、敗北を叩き着けたカミユもまたシャニーと共に錬金艇の中へと消え、
固く、そして強く扉が閉まる。未来への扉が固く音を立てて閉ざされたような衝撃が脳髄を揺さ振ってくる。

「待て!待ってくれ!!シャニー、シャニーいいいい!!」

烈風が吹き荒れ、地面に押し付けられるような感覚。轟音を上げてエンジンを噴射させる錬金艇。
あっという間に空の彼方へと消えていくシャニーたちに手を伸ばし叫ぶゲイルだが、
その祈りも虚しく、彼らは青空の彼方へと飲み込まれていった。
関連記事
スポンサーサイト



総もくじ 3kaku_s_L.png 当サイトの小説における登場人物たちのご紹介
総もくじ  3kaku_s_L.png 当サイトの小説における登場人物たちのご紹介
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【10話:制圧の善】へ
  • 【12話:調和の善】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【10話:制圧の善】へ
  • 【12話:調和の善】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。