現在の閲覧者数:

スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←11話:カミユの逆襲 →13話:大魔法師ルネア
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  • 【11話:カミユの逆襲】へ
  • 【13話:大魔法師ルネア】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter17 悲壮なる叫び

12話:調和の善

 ←11話:カミユの逆襲 →13話:大魔法師ルネア
「な、なんてこった・・・、シャニーちゃんが連れ去られるなんて・・・。」

錬金艇が消えた南の空を見つめて呆然と立ち尽くすゲイル。
その眼差しは彼とは思えないほどに生気が奪われて、風に吹かれるだけで崩れる砂の像のようだ。
レイの絶望に満ちた言葉が、彼の魂が抜けた心に響き、途端瞳に業火が戻ってくる。

「カミユのやろう!!くそったれめ!レイ!行くぞ!」
「行くったってどこへ行くんだよ、あいつらがどこに行ったかも分からないってのに!」

彼はキュレックをしまうと駆け出して、進路にいたレイの腕を力任せに掴むと
彼を引きずるように錬金艇が消えた方角へと駆け出した。
だが、レイもすぐにゲイルの腕を引き戻して彼を振り向かせる。
がむしゃらに駆け出したところで追いつけるはずも無い。まずは作戦を立てるべき、そう進言しようと思ったのだが
もうすでにゲイルの心の中では行き先は決まっているようであった。

「あいつらの本拠地に決まってるだろ!確かに根拠はねえ、だけど行くしかねえだろ!」

錬金艇は南の空に消えた。そして彼らの本拠地はイカルスにある。
空に逃げられてしまっては足取りはつかめないが、一縷の望みをかけるしかなかった。
手がかりを探しているような悠長な時間はない。彼の目はそう訴えてきた。

「そうだな・・・僅かでも可能性の高いものに賭けるしかねえな。少しでも早くシャニーちゃんを助けないと。」

ここに留まれば何れアルトシャンも追ってくるし、何よりマヴガフがこの瞬間も何を企んでいるか分からない。
立ち止まっている時間が無い事はレイだって分かっていた。もはや頷く他ない。
確実性も無く、リスクの高い選択だが、今の自分達に残されたたった一つの道にレイも賭ける事にした。

「メルトも異論はないよな!」
「無論だ、ここで考えていても答えは出ん。ひとまず森を抜けなければな、具体的な進路はそれからだ。」

今自分達がいるのはカレワラ森。魔力が作り上げた牢獄だ。
カミユを追いかけてきたおかげで、ますます現在位置が分からなくなっている今、
無駄な戦闘を避けながらこの森から脱出する事が最優先である。コンパスを見下ろしながら南の方角を確かめ、見上げる。

「とりあえずはエルピスがシャニーを守ってくれるはずだ。彼女に託すしかあるまい。」

とっさの判断でエルピスがシャニーのペンダントに憑依してくれた事に感謝するしかなかった。
今頃彼女達はどうしているのだろう。やりきれない思いがメルトの拳を握らせる。
ゲイルだけではなかった。大事な人を守ってやれなかった悔しさに身を震わせていたのは。

「エルピス・・・マジで頼んだぜ・・・。お前だけが今あいつを守ってやれる力だ・・・。」

こんな事、口にするようなことには絶対にしないと誓ってきたのに。
首にかかる相棒と揃いのペンダントを握り、中を開いて二人で笑う姿を見下ろして悔しさを噛み砕く。
一分でも、一秒でも、ちょっとの僅かでも早く彼女を救い出す。
その決意をペンダントの中で笑うシャニーへ誓い、踏み出したその時だった。

「レ、レイ・・・。」

消えてしまいそうな小さな声が聞こえてくる。その声は聞きなれた最愛の人の声。
はっとして、頭が否定しにかかる希望へと振り向いたゲイルはすぐさま絶望させられることになる。
そこにいたのはシャニーではなく、アンドラスだったのだ。

「なんだてめえ!まだやろうって言うのか!邪魔するならたたっ斬るぞ!」
「待ってくれゲイル。」

その絶望をぶつけるかのように、烈火のごとく目を怒らせてキュレックを取り出すゲイル。
うっとして腰を退くアンドラスが腰の剣に手をかけかけるが、それを止めたのはレイだった。
彼は彼女を庇うかのように二人の間に割って入ると悪友を宥めた。

「アンドラス、君は早くルアスに戻るんだ、ここにいては危険だ。」

彼女の剣にかかる手をそっと取って降ろさせる。怖かったのだろうか、手が震えている。
彼の温もりが伝わると、彼女は思わず両手を彼に巻きつけようとするが
レイは彼女の肩に置いて震える瞳を見つめながらアルトシャンの許へ戻るように優しく諭す。

「あなたも行ってしまうの?私には分からない、どうしてそこまで彼女の事を。」

自分よりもシャニーが大切だというのだろうか。信じられないといった想いが困惑の瞳に、
そして無意識のうちに別れを拒絶して振られる首が物語る。
彼女が求めているものを悟り、ふっと笑いかけたレイは静かに抱きしめてやった。

「簡単なことだよ、アンドラス。あの子は私の掛替えのない友達だからさ。
 闇から幸せを守り、そして幸せを創って皆に振りまこうとしている、私の大事な同志だからだよ。」

2年前もそうだった。どれだけ共に命を危険に晒しながら旅をしたことか。
悪友の彼女だからと言う事だけではない。自分より年下なのに粉骨砕身して世界を守り、笑顔を創ろうと
己の全てを捧げて駆け抜ける彼女。その生き様はイアの教えの体現そのもの。
レイにとって、救ってやりたいと心から思える初めての人間だった。

「友達・・・?!相手は国賊、反逆者なのよ?分かっているの?!」

だが、アンドラスにとってはまさか恋人の口から出るとは信じられない言葉に瞠目するばかり。
アルトシャンからの信頼も厚いレイが、まさか国賊を擁護するなんて。
考え直して欲しい、そんな気持ちが現れる瞳を向けるが、レイは首を横に振った。

「関係ないよ、あの子の命を狙う者は誰であろうと容赦できない。アンドラス、君であっても。」

彼女だって本当は分かっている。レイにはその確信があった。
今までずっと彼女の心聞かされてきた。シャニーと戦っても意味がないことを、そして焦っている事も。
彼女の気持ちも分かっていたから今まではうやむやにしてきたが、この際だ。はっきり伝えておく事にした。

「レ、レイ?!そんな、私はレイに剣を向けるなんてできないわ!」
「シャニーちゃんに剣を向けるなら、それは私に剣を向けることも同じだよ。」

分かっていたつもりだったのに、気付けばまたシャニーを狙い、そしてあろうことか愛する人を傷つけてしまった。
そして今彼女は知った。傷つけていたのは、今に始まったことではないことを。
自分が存在価値に悩み傷ついていたのと同じように、知らないうちに愛する人々の心を傷つけていたことを。

「いいかい、自分の主義主張・価値を守りたいからと言って、
 他の主義主張や価値を殺すようなことは絶対にあってはならないんだ。」

再び彼女の肩をしっかり持って、目線の高さを合わせるとしっかりと見つめて訴えかける。
悲しげな瞳に見つめられて、アンドラスは一筋の涙を零す。自分の価値は、愛する人の笑顔を守ることではなかったのか。
一体何のために自分は存在価値を追い求めていたのか、虚しくなっていた。

「アンドラス、許して欲しい、私は君を愛しているからこそ敢えてこんな事を言っているんだ。」

彼女のアイデンティティに飢えておびえる気持ちはよく理解しているつもりだ。
だからこそ、彼女には彼女の持つ価値を大切にして欲しかった。
今彼女がしようとしていることが、決して彼女の願う未来を導くものではないことを確信していたから。
自分自身はもちろん、彼女自身も分かっているに違いないのだから。

「正義は彼女にあるというの・・・。私は・・・私の正義を信じて戦っているのに・・・。」

アンドラスから口にされた言葉は思惑と正反対にものだった。それでもレイにはすぐに分かった。
彼女が帝国の騎士、剣帝の右腕という仮面を今も被り続けている事を。
嘘をつくのは苦手な子だ。思ってもいないことを言えば、口調ですぐに分かる。
そしてそれは、彼女という人柄を知らずも、達人からすれば振るう剣筋からも見て取れるものであった。

「騎士が嘘をつくのは良くないな、幻騎士。お前の剣は、ただ憎悪で闇のマナを膨らませただけの破壊剣だったぞ。」

長年、剣や槍を扱ってきた。その筋を見れば、扱う者の意志はすぐ見て取れる。
メルトからの指摘にアンドラスは何も言い返せずに己の腰に刺さる剣を見下ろしていた。
本人が一番に分かってる事だ。瞳を震わせる彼女へ、レイも続けた。

「君の本来の剣は、弱き者を守る為の剣だったはずだ。今の戦いを子供たちに胸を張って語れるかい?」
「・・・。」

何も、何も言い返せなかった。何も。
子供達相手は愚か、自分自身相手にだって嘘をついて握ってきた剣なのに。
ぽんと肩に手を置かれ、一つ頷いて笑って見せる優しいレイとは対照的な怒声が飛んでくる。

「シャニーは最後まで守る剣を貫いた、だからてめえを傷つけなかったんだ。
 お前とも、いつか分かりあいたいと口癖のように言ってたんだぞ。それなのにてめえは・・・!」
「ゲイル、これ以上ここで時間を潰すわけにはいかん。追っ手が来る前に急ぐぞ!」

シャニーの想いを最後まで踏みにじった相手に、ゲイルは口調を抑えることができないようだった。
だが、もうこの場でこれ以上多数で責めても意味ない。もう十分、彼女は思い知った顔をしている。
何よりも、今すべきことはこの場を一刻も早く離れ、シャニーを見つけることだ。

「おう!レイ、行くぜ!」
「おうけい、おうけい!先走っててくれ!」

メルトの指示に怒りをぐっと飲み込んだゲイルは、レイに手招きしてメルトの背を追い始めた。
悪友の顔に一つ指を立てて了解を伝えると、レイは改めてアンドラスと正面で向き合うと、
滑らかな金髪を優しく撫でながら、瞳をじっと見つめて微笑みかけた。

「アンドラス、必ず君の許に戻る。そんな顔するな、大丈夫だ。だけど、それまでじっくり考えてくれ。」

愛する人が自分の許を去ってしまう。おまけに、今まで敵だと己に言い聞かせてきた者を守る為に。
悲しくなって、アンドラスは瞳をくしゃくしゃにすると涙を振り飛ばしながらしがみつくようにレイの胸に顔を埋めた。
しばらく彼女を受け入れて背中をさすってやるレイだが、もう時間が無い。

「君のその剣が乗せるのは、己の憎悪か、
 大好きな人たちの、もちろん私も含めた君が愛する者の祈りか、どっちが君の望みなのかを。」
「私は・・・自分の存在価値を守る為とはいえ・・・その価値の源を悲しませていた事が恥ずかしい。」

そっと彼女の肩を持って静かに彼女を引き離し、目線で彼女に訴えた。
彼の見つめる先には、腰に刺さる剣があり、彼が静かな口調で問うてきた覚悟の在り処を思い出すと
思わずまた涙が溢れてきた。今度の涙は悲しみだけではない、悔しさを含んだ辛い涙だった。

「最愛を失いかけてやっと気付くなんて・・・私は愚かだった・・・。」
「それでいいのさ、アンドラス。気付いたのなら、これから正していけばいい。誰だって間違って強くなるもんさ。」

人間は完璧ではない。愚かなところも一杯に持っている。
その一つが、どれだけ頭では理解していても、実際に痛い目を見なければ受け入れられないことだ。
今回、アンドラスはその一つを知った。人生最大の過ちを犯しかけたのだ。
だが、レイはそれをこれ以上責めることはなく、優しく包み込んで諭す。まだ、自分達には未来がある。
この過ちを、未来を創る為に生かせば良いのだ。失敗しなければ、出来ないこともたくさんあるのだから。

「おおっと、お後がよろしいようで!じゃあな、アンドラス、またな!」

彼の優しさ、温もりにずっと身を寄せていたくて、ぎゅっと抱きついて溢れる涙を預けていた。
だが、時は無情にも彼女の願いを引き裂いた。背後から騎士達の声が聞こえ始めたのだ。
レイは大きく手を振るとアンドラスの許を放れて闇の中へと消え、彼女は手を伸ばすしかできなかった。

「アンドラス!!アンドラス無事か!」

今の自分に、レイを引き止めることも、追いかける資格もない。
呆然と彼が消えた闇を魂が抜けたように見つめる彼女の許へ集まってくる騎士達。
アルトシャンも到着して、彼は娘の姿を見つけるや否や駆け出して背後から抱きしめた。

「おお、怪我も無くよくがんばったな。シャニーたちはどうした。」

彼は頭の先からつま先までアンドラスの姿を不安そうな眼差しで見つめ、
どこにも特段大きな怪我がないことを自身の目で確かめるとほっと胸を撫で下ろして神に感謝し始めた。
だが、周りの森は激しく抉れて争った爪痕がくっきり残り、戦闘があったことを物語ってくる。

「シャニーもセイン様も・・・白の騎士団に連れ去られてしまいました・・・。彼らは飛行艇で南の空へと消えました。」

彼女は生気を抜かれたかのような弱い眼差しでアルトシャンを見上げると、
この場で起きた事実を淡々と説明して空を見上げ始めた。
白の騎士団の襲撃、そしてセインが連れ去られた事を聞かされると、アルトシャンは耳を疑って目を見開く。

「・・・とりあえずお前が無事なだけでも父は嬉しいぞ。お前にもしもの事があったら私は前を向いていられん。」

アンドラスの様子がどこかおかしい事には気づいていたが、
激しい戦闘とセインが連れ去られたショックだと察したアルトシャンは頭を撫でてやると
後ろに下がっているように背中を押して、騎士達に向かって張りの良い声で指示を与え次へと移る。

「全軍に告ぐ!大至急白の騎士団の消息を探れ!」

彼らの許に、セインと、そしてシャニーがいる。今彼らの居場所を見つければ、邪魔者を同時に始末できるのだ。
あわただしくなる部隊。隊列を整えて森の中を歩き、南進する騎士達。
その中、アンドラスはただただ立ち尽くして、森の中に光る何かを見つけて隊列を横切り歩いていく。

「・・・確かに私はシャニーに勝ったかも知れない。けど・・・本当に勝たねばならないところで私は・・・私は負けた。」

そこに落ちていたのは、自分との戦いで決して抜かれる事のなかったシャニーの短剣だった。
どれだけ剣を浴びせても、ふっとばし木に叩きつけようとも、彼女は決して短剣を手にとろうとしなかった。
あの時はバカにされていると思った。だが今思えば、覚悟を貫いていたのは自分ではない、彼女だった。

「いや・・・勝つとか負けるとか言うところじゃない。私は最初から負けていたんだ。私自身の憎悪に。」

民を守る為に武器を握る。民を守る為の剣となる。
その覚悟を曲げて憎悪に身を任せて破壊だけを望んだ剣を振るった自分が情けなかった。
シャニーは最初からずっと見せ付けてきていたのだ。彼女の覚悟を、そして彼女の力を。
愚かな自分には、それに気付けなかっただけで。

「もう・・・あなたへの恨みは消えた・・・。私は、私の守りたいものの為にこの剣を使う・・・。」

彼女の覚悟を、そして彼女の持つ力を知った今、アンドラスは自分のしたことをただ恥じるしかなかった。
そして同時に湧き上がるのは、自分もまた彼女のように覚悟を貫ける人間になりたいという意志だった。
そっと主を失った短剣を拾い上げると、彼女はじっと見つめて懐にしまう。
弱い自分を強く突き刺して目を覚まさせてくれた、もう一人の自分の無事を祈りながら。
関連記事
スポンサーサイト



総もくじ 3kaku_s_L.png 当サイトの小説における登場人物たちのご紹介
総もくじ  3kaku_s_L.png 当サイトの小説における登場人物たちのご紹介
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【11話:カミユの逆襲】へ
  • 【13話:大魔法師ルネア】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【11話:カミユの逆襲】へ
  • 【13話:大魔法師ルネア】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。