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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter18 闇の騎士と光の天使

1話:白の仮面

 ←15話:復讐の王 →2話:ダークナイト
ぼんやりと広がる視界。周りから聞えてくる鳥や虫の歌声は・・・これは故郷なのだろうか。
涼しい地方ばかりを旅してきたためか、周りがとても暑く感じる。

「う・・・うーん・・・ここは・・・?」

やっと意識がはっきりと戻ってきて、辺りを見渡すシャニー。
見たこともない光景。確かに気候は故郷のルケシオンと似ているが明らかに違うと直感が叫ぶ。

「こ、ここはどこ?!ゲイル?ゲイル?!」

外を見渡せば、そこは未開の草原が遥か先まで続いており、
遠くに見える山に雲や空が吸い込まれていきそうなほどに開かれた世界だった。
やはりまわりに海は見えない。それ以上に、いつも傍にある安らぎがなく、彼女はベッドを跳ねだした。

「ここは・・・どこだ・・・。くっ・・・頭が痛い・・・また記憶が混乱しているのか・・・。」

いつもの調子でベッドから軽やかに飛び降りた彼女の頭にドシンと鈍い痛みが広がる。
思わず顔をしかめてその場にうずくまり、頭を抑えてみればそこには包帯が巻かれていた。
まるで記憶が繋がらず、自分が置かれた環境を飲み込めずに視線が落ち着かない。

「サラセンでも・・・ルアスでもない・・・この気候・・・。ま、まさか?!ここって!」

自分の中に残っている記憶を少しずつ引っ張り出してはパズルのピースをあわせるように今の光景と比べてみる。
だが、どことも合致してこないのだ。まわりに愛する人のマナも感じられない。
だがルアスに捕えられた感じでもない。その時だ、ふいに記憶の隅っこに残っていた光景がはっと浮かび、
ばっと窓にかじりついて外を見つめてみる。間違いない、記憶に浮かんだ光景とぴったり一致する。

「大丈夫?シャニー。」
「その声はエルピスなの?どうして?どこにいるの?」

混乱して声を荒げるシャニーを落ち着かせるように、頼れる声が彼女を呼ぶ。
味方の存在をようやく確かめられて辺りをきょろきょろと見渡すシャニーだが、
その大好きな姿はどこにも見えない。表情が見る見る不安そうに歪んでいく。

「私は精霊ですもの、何かに憑依するのなんて朝飯前よ。あなたのペンダントに今宿ってるわ。」

声だけが直接頭の中にささやきかけてくる。姉貴分が自分を呼ぶようにペンダントが揺れ、
シャニーはすぐさまペンダントを手にとってじっと見つめる。状況のまるで分からない今、
エルピスが傍にいてくれることは救われた気がして、思わず抱きしめる。

「よかった・・・独りぼっちだったらどうしようかと思ったよ。でも、ここはどこなのかしら。」

だが同時に、エルピスがこんな姿でいるということは、やはり何か起きたに違いなかった。
きっとゲイル達とはまるで違う場所に今いる。それを察したシャニーは改めて窓辺に歩いて行き
遥か遠くまで続く蒼い空と白い雲が流れる先を見つめる。

「分からない・・・けど、大分長い間船に乗っていたわね。」

妹分の不安を少しでも解きほぐしてあげたいエルピスだが、
ペンダントに宿った状態では多くの情報を掴むことはできなかった。
ただ、ゲイル達とかなり遠くに・・・それこそ大陸の正反対にでも飛ばされたぐらいに。
二人でどうにか現状を詮索しようと模索している時だった。ふいに固く閉ざされた扉が開かれる。

「お目覚めかな、姫様。お察しの通り、ここはイカルス。我らの基地の中だ。」

開いた先に注目したシャニーはこれ以上ないほどに目を見開き、そして身構えた。
現れたのは、白い軍服に白のマント、そして白の仮面に素顔を隠す白の騎士団の長、カミユだったのである。
彼は大勢の部下を背後に擁してシャニーの部屋を訪れ、一つ頭を下げて見せてきた。

「そんな目で睨まないでくれ。私は君を助けたつもりなのだ。」

だが、顔をあげたカミユの口元が悲しげに歪んだ。シャニーは今にも武器を抜きそうな構え。
もちろん武器は奪ってあるが、その柳眉はまるでダガーの如く鋭く切れ上がっていて、
眼差しは明らかな敵意をむき出しにしており、いつもの朗らかな顔が嘘のようだった。

「助けただと・・・ふざけるな!敵に救われるなんて・・・一思いに!」
「バカを言ってはいけない、落ち着きたまえ。君は死んではならない人間だと君自身も分かっているはずだ。」

怒りと悔しさを堪えることなく叫ぶシャニーをカミユは落ち着いた口調で諌めにかかる。
熱くなりやすい性格は全くそっくりだ。だが、その情熱を今はそのままにしておくわけには行かなかった。
彼女を黙らせると、カミユは部下に下がるように指示し、自らは静かに彼女へ一歩近寄った。

「我々白の騎士団はアスク帝国と敵対し、そして君を守ろうとしている。」
「私を・・・守るだと・・?」

シャニーにとって自分の事を守ってくれるのは仲間だった。その中でも一番はもちろんゲイル。
そのゲイルが今傍には居ない。それは目の前の白の騎士団が引き離したからに決まっている。
言っている事とやっていることが正反対で、あまりにも恩着せがましい言い方に頭に血が上る。

「ならばなぜゲイルのところに戻してくれなかった!こんなところに幽閉する!」

思わず一歩踏み込んでカミユの言い分を払い除けるかのように目の前の空を手で切った。
カミユに対して気丈な態度をとっている彼女だが、今この空間が恐ろしくて堪らなかった。
傍にいないのである。愛する人が、自分を一番に理解してその腕に包んでくれるあの男が。

「私には・・・彼は役不足としか映らないからだよ。君の・・・熾天使の守護者としてね。」

これ以上、彼女の刺すようなまなざしを直視していられなくなったカミユは顔を背けた。
それでも彼は言葉に加減をすることなかった。彼女は激怒するに決まっている。
だが事実なのだ。現に今、彼女が痛々しく頭に巻く包帯は、誰が彼女を守れなかったせいなのか。

「そんなことはない!勝手なことを言うな!それ以上ゲイルを愚弄してみろ!ただでは済まさない!」

とっさに腰に手をやるが、やはりそこに短剣はなかった。
それでも怒りを堪えきれない彼女は、エルピスにペンダントで胸元を叩かれても退くことなく
カミユにまた一歩踏み込んで両拳を握り締めると顔の前で構えて牙をむく。

「それだけ元気ならよかった。アンドラスの一閃に気を失ったときは血の気が退いたぞ。」

だが、これだけの怒りをぶつけたというのに、カミユの口元が緩んだではないか。
ますます突っかかろうしたシャニーだが、カミユの口にした現実に見開く目。
ようやくに途切れた記憶が繋がってきて、アンドラスに吹き飛ばされた時が鮮明に脳裏に浮かんでくる。

「私は・・・負けたのか・・・。あのマナ・・・ハデスのマナと同じだった。なぜ私と同じマナを宿していながら・・・。」

刀身に燃え上がった紫紺のマナが触れた途端、体の内から焼けるような痛みが走った。
いくらこちらに戦意がなかったとはいえ、ハデスのマナに屈した悔しさに降りた拳が再び握り締められる。
だがその眼差しは悔しさよりも困惑に満ちていた。
もう一人の自分がどうしてそのマナを・・・なぜそこまでして、そればかりが浮かぶ。

「いろいろ事情があるのだ、今は話すことはできないが。だが、彼女を止めてやる為にも、君は死んではならない。」

ようやくにシャニーの怒りが沈み始めたところでもう一度カミユは彼女を落ち着けようと声をかける。
何としても、彼女の敵意、誤解を解いて自分達に心を開いてもらわなければならない。
シャニーにとっても、敵のはずの彼の言葉が心から憎めるものではなくて切れ上がっていた眼光が心なしか平常を取り戻す。

「生きて、生きて生きて、皆の未来を創る。それがエルピスとしての使命のはずだ。軽はずみな事を言うものではない。」
「お前に説教されるなんて・・・くっ。ならばどうして私をこんなところに幽閉している。これでは使命を果たせない!」

カミユが口にした皆という言葉にシャニーの握り締められた拳が解かれる。
彼の言っていることは間違ってはいない。いくら悔しさを堪え切れなかったとはいえ、
簡単に命を投げ出すようなことをすればそれは信じてくれる者達への裏切りだ。
だが、それを口にしたのは今もこうして自身の道を阻む白の騎士団。怒りを抑えきることはできなかった。

「幽閉しているわけではないよ。だから君には監獄ではなくスイートルームを用意したつもりだ。」
「スイートルーム・・・?!一体何が望みなんだ!」

ふざけているような口ぶりに辺りを見渡すシャニーだが、彼女は一瞬言葉に詰まった。
ルアスで捕えられた時放り込まれたのは、狭く錆び付いた日も当たらないいわゆる牢獄だった。
それが今どうだろう。白を基調に整えられた清楚で広々とした部屋には一杯の陽が差し込んでいた。

「枷もしないし、火責め、水責め、陵辱・・・それら拷問にかけるつもりも全く無い。
 アルトシャンならば、手段を選ばなかったと思うがな。それだけでも分かってくれ、我々は君を傷つける意志はない。」

言われて見て改めて己の手元を見下ろして手のひらをじっと映すシャニー。
彼の言うとおり、捕虜であるはずがその手首に枷が施されることはなく、自由の身だった。
それでも彼女にはカミユの願うとおり心を許すことなどしなかった。

「そんなでまかせを信用しろと言うほうがどうかしている!お前は今まで散々私たちを攻撃し、トパーズを・・・?!」

そう、彼は散々今まで自分達をつけ狙って来た組織の長なのである。
彼の目的は今回も同じに決まっている。自分ではなく、自分が持っているトパーズだ。
渡すつもりはないと、胸元にあるトパーズを握り締めようとして、彼女の目が仰天に見開かれる。

「申し訳ないな。トパーズは私が預からせていただいた。」
「返せ!それは私の命より大事なもの!お前が身につけていたとしても何の役にも立たない!」

空振りする手元、そして部屋に差し込んできた陽がカミユの手先を黄金に輝かせる。
気を失っている間に、カミユは何とシャニーからトパーズを奪っていたのである。
思わず踏み出してカミユに掴みかかろうとするシャニーだが、周りの衛士に抑えられ阻まれた。
このときほど、自分の非力を恨んだことはなかった。

「それはどうかな?前も見せたと思うが、私は君と同じように光のマナを扱う事が出来る。
 力の引き出し方を教えてくれないか?私が君に代わってアルトシャンを討つ。」

牙をむき出しにして睨みつけながら、渾身に腕を伸ばしてくるシャニー。
数人係で押さえ込まれて地面に伏させられた彼女へかけられたカミユの言葉は逆鱗を触れるだけでは済まず
血の涙が流れ出しそうなほどに真っ赤になった瞳はますます釣りあがっていく。

「シャニー、絶対に教えるんじゃないわよ!分かってんでしょうね!」

うかつだった。まさか自分がついていながらトパーズを奪われていたなんて。
怒りと悔しさ、そして不安で一杯の表情でカミユを睨みつける妹分についつい怒鳴る。
だがそれは今や熾天使としてトパーズを継承した彼女が一番に分かっていることだった。

「そんなことを言って私が教えると思っているなら、相当私もバカにされたものね!」

自身のマナを吹き上げて迸らせると押さえ込んでいた衛士たちを吹き飛ばす。
だが、やはりトパーズを失った状態ではこれが精一杯。丸腰の状態では不利な事に違いはない。
衛士たちは麻酔銃だろうか、錬金術を駆使して武装し彼女を取り囲んだ。

「何故だ、何故君はそこまで傷つこうとする。私はこれ以上君に傷ついて欲しくないから言っているのだ。」
「心配してくれるのはどうもありがとう。だけど、それとこれとは話が別!トパーズを返せ!」

カミユの目元は仮面で隠されてうかがい知る事はできないが、
それでも彼の口元は悲痛に歪んでいて、とても口先だけのことを言っているようにシャニーも感じてはいなかった。
だが、そこまで自分のことを心配してくれるのなら、なおさら彼がすべきことはひとつだ。
トパーズを返し、自分をゲイルの許へ戻す事。ルケシオンで見せていた朗らかな笑顔は幻だったのだろうか。
目の前にあるのは、まるで鬼か悪魔かと思うほどに怒髪天を衝き、切れ上がった瞳。

「戦いは我々に任せて、君は静かに故郷で幸せを掴めばいい。どうしてそれを自ら拒むんだ。」

彼女は女性だ。自らの家庭を育み、子をなしてその成長を見守っていく事。
それこそが幸せなのだとカミユは言い聞かせるようにしてシャニーを説得しようと刺すような視線を見つめるが、
シャニーは大きなお世話だと言わんばかりに唾が飛びそうなほどの怒声を浴びせて跳ね飛ばす。

「みんなが苦しんでいるのに、私だけ見えない場所で笑っていなさいと?この耳に聞えてくる涙や苦悩に聞えない振りをして?!」

熾天使としての権能を継承した身に関わらず、シャスの意志に逆らって下界に残った彼女は多くの権能を封印されている。
その中で残されたのは人々を守る光のマナと、苦しみや悲しみを聞く高い耳。
その耳には毎日声が入ってくるのだ。何とかしてあげたい。
その気持ちで一杯の中、カミユの言葉は無責任としか思えなかった。

「私は!私は!私はっ、そんな見せ掛けだけの平和なんて要らない!
 そんなものがお前の望む平和なら、私の幸せと言うなら、ぶっ壊してやる!私自らの手で!」

カミユが描く理想をぶった切るように大きく手刀で空を引き裂き、
甲高い怒声を部屋の中一杯に押し込んでカミユたちを追い出そうという勢い。
彼の言う幸せは、シャニーにとっては不幸でしかなった。今も聞えてくるのだ、民の嘆きが。
すぐ傍に言って助けてあげたいのに、己の無力で毎日自身の身を守ることで精一杯だった毎日。
それに今輪をかけるように幽閉されて身動き一つ取れない。苛立ちがそのまま怒声と噴出してくる。

「シャニー・・・、君はそこまで覚悟を決めていると言うのか。」
「私が目指す幸せ、それは人々と笑いあって、悲しみは分かち合い、支え支えられる愛のある世界だ!」

彼女の女性とは思えないほどの力強い口調に圧倒されるカミユ。
これが、ルケシオンの太陽と呼ばれた穏やかな笑顔を湛えてきた熾天使の顔とは、とても信じられない。
だが彼女は己の意志を決して曲げることなく、カミユの指先に輝くトパーズを指が反りあがるほどさす。

「お前がそのトパーズを私から奪う事!それは私の幸せを、夢を奪うも同じなんだ!」
「悪いが・・・トパーズを返すわけには行かない。これが君と共にある限り、君は一生狙われ続ける。」

記憶を失ってからまだ完全に力が戻ってこない中、なんとかトパーズの力も借りて戦ってきた。
あの指輪があるのと無いのでは、光のマナの力が小川か、大海原かと言うほどにまるで違うのだ。
世界をハデスから守るためには絶対に必要なもの。だが、カミユが首を縦に振ることは無かった。

「私は傷つく事を恐れてなんかいない!夢を叶えられるなら、幸せを守れるなら、どれだけ傷つこうと構わない!」

独りでいるのは怖い。だけど、戦うことに対しての意志は何も変わっていない。
二年前、エルピスから権能を継承した時と何も。いや、あの頃より強くなっているかもしれない。
荒廃から復活し、未来を掴みに前を向いて歩み笑い合った皆と育んだ自身の幸せ。
それが高めてくれたに違いない。この四面楚歌でも腹から力強く叫ぶ事が出来る。

「私には多くの支えてくれる人がいる!傷ついたら癒し包んでくれる愛を一杯に受け取ってきた!
 その愛に私は応えて行くだけ!海賊の姫として生きている時から、ベッドの上で安らかな最期を迎えられるとは思っていないさ!」

はっきりとした、怒り溢れてもそれでも澄んで凛とした言葉が白の騎士団の者達の心へ突き刺さる。
これが希光と呼ばれる女性の強さなのか。熾天使の権能を身に宿す者の銀翼の意志なのか。
彼女を取り囲んでいた衛士たちの手に握られる銃が自然と下を向いてしまっている。

「なんということだ・・・。君は君が傷ついて悲しむ者の顔を考えた事があるのか?」

だが、カミユには違って聞えていた。世界のためなら死も厭わない。
それは立派な意志かもしれない。だが、彼女も一人の人間。帰る場所があり、帰りを待つ者がいる。
もし彼女が傷つけば、その者達はどんな気持ちになるだろう。
命を粗末にしているような言葉にカミユは悲しみに満ちた言葉を漏らす。

「あるさ、昔は自分を犠牲にして希望を振りまこうとしていた。
 だけど、私は仲間から教えられた。自分を犠牲にすれば、残された者に悲しみと絶望を振りまくと。」

だが、カミユの心配することはすでにシャニーは2年前に知り、己を正していた。
教えてくれたのがゲイルだった。戦場の露と消えようとも、民の為にルケシオンを取り戻そうとしていた彼女にかけた彼の言葉。
今でもシャニーの心の中にいつもあり、己を戒める言葉となっている。
あの時ではないだろうか、彼が一番に感情をむき出しにして怒ったのは。だがそのおかげで、今の自分がある。
民の為に、そして愛する男のために、命を粗末にするつもりは無かった。もちろん、夢への渇望は決して変えることなく。

「だから私は決心したんだ、犠牲じゃない、支えてもらうんだと。今の私の戦いは犠牲でも生贄でもない、光の循環だ!」

シャニーの瞳が何と力強く輝いている事だろうか。
故郷を追われ、毎日命を狙われる毎日に絶望しているような素振りはない。
それどころか、ルケシオンにいた頃より更にその輝きは増している気さえしてくる。

「ゲイルか・・・そんな風に君に吹き込んだのは・・・!先ほども言ったが、彼は気味身の守護者としては役不足だ。私は認め・・・?!」

彼女が考え方を変えられないのは、いつでも彼女の傍で妙な事を吹き込む輩がいるからだ。
メルト、そして何よりもあのゲイルという男がどうしても許せない。彼が守ってやれないばかりに彼女が危険に遭うのに。
だが、それを口にした途端だった。カミユは襲い掛かった光の牙に瞠目し、後方で爆音とどよめきがあがっている。

「それ以上ゲイルを愚弄してみろ!今度は外さない!
 絶対に許さないぞ!私の・・・世界で一番の相棒・・・私が一生を預けた最愛の人の悪口だけは、絶対に!」

鋭い横目が息を呑むカミユを睨みつけ、指先は今も狙いを定めるように彼へと向けられている。
反対の手に握られていたのは、何と弓だった。ダガーを奪われて丸腰だったはずの彼女は、
いつもなら絶対に見せない熾天使の権能を敵へ衝き向けて怒りを顕にしていたのだ。

「分かった、もう何も言わない、だから武器をしまって欲しい。そんな顔をしないでくれ。
 だが、考え直してくれ!君は傷つく必要はないんだ!戦いは我々が必ずや終結させて見せる!」

弓を構えた事に反応さえできないほどの早業から繰り出された一撃は何と言う破壊力だろうか。
壁に突き刺さった矢は閃光を上げると深く抉り、辺りには破片が飛び散り衛兵たちが部屋の外へと逃げ出している。
それでもカミユは退くことなく怒りに噴き上がる彼女に正面を向けて宥めにかかる。

「何度も言わせないで。私は全ての人に笑顔を咲かせたいの。それこそが私にとっての最上の幸福。
 悲しみに見て見ぬ振りをして支えあうことも見つめあうこともせず、全てに耳を塞いで生きるなんて、絶対に嫌だ!」

だが、押さえ込めば押さえ込むほどにシャニーの口調は激しいものへと変わっていく。
カミユは幸せを掴めと何度も言ってくるが、彼女にとっての幸せを阻んでいるのは彼本人だ。
喉が裂けるのではないかと思うくらいの金切り声で怒りを叫ぶシャニーはぐっと弓を突き出す。

「愛のない世界!それは何よりも耐え難い不幸なんだ!それを望むなら、誰であろうと容赦しない!」

再び衛士たちにどよめきが上がる。熾天使の力が真っ向から対立を宣言してきたのだ。
光のマナを湛える弓の照準は既にまっすぐにカミユへと向けられている。
これ以上邪魔をすれば、この弓に矢を番える。彼女の熾天使としての鋭い気質が彼らを寄せ付けない。

「・・・分かった、今日のところはこれ以上は何も言わない。私も何か考え違いをしていたところがあったと・・・気付かされたよ。」

このままシャニーを刺激し続けたら、彼女は何をするか分からない。
マナ封じの呪環を施して置けばよかったかもしれないが、彼女をそんな風に縛りたくなかった。
ただ、一つ分かったことがあった。彼女の求める幸せが、カミユの願うものとは違う事。

「あなたに助けてもらったことは感謝します。
 だけど、私の意志は私だけの意志じゃない、譲るわけには行かない、何をされようとも。」

弓は握ったまま、それでもシャニーは小さくカミユに頭を下げた。
アンドラスの一撃を喰らい、意識を失ったままだったならばきっと今頃この世には居ない。
それをカミユが救ってくれたことは間違いないのだ。だが、だからと言って屈するつもりは毛頭ない。

「ただ、ひとつだけ教えて欲しい。何故あなたは私をそうやって守ろうとしてくれる?あなたは何者なの?」

感謝はすれど、その理由はずっと考えてきてもまるで分からなかった。
大方、トパーズの使い方を聞き出すために生かしているのだと思ってきた。
その気も確かにあるが、どうにもカミユの言葉はそれだけではない気がしてならなかったのだ。

「私は・・・私はただの理想論者さ。だから君のような人は同士として助けようと思う、それだけだ。」

胸を突き刺されたような感覚に陥るカミユ。喉元まで出かけた言葉。
だがそれを彼はぐっと飲み込んだ。あの眼差しを見よ、燃え上がる怒りをこれでもかとぶつける瞳を。
言えるわけもなかった。それだけ、その言葉で結んだ彼は堪らずマントを翻す。

「ヴァン、シャニーの監視を任せたぞ。私はアルトシャンの動向を探りに行く。」
「あっ、待て!トパーズを返せ!カミユ!!」

そのまま立ち去るカミユ。追いかけようと駆け出したシャニーの目の前に立ちはだかった身覚えのある顔。
だが今はそれに構っている余裕なくかける彼女の目の前で無情にも締まる扉。
扉にかじりついて窓から叫ぶが、部屋に残ったヴァン以外にその声が聞こえることはなかった。
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