FC2ブログ
現在の閲覧者数:

スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←4話:抗いの父 →6話:荒くれイルカ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  • 【4話:抗いの父】へ
  • 【6話:荒くれイルカ】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter18 闇の騎士と光の天使

5話:覚悟の翼

 ←4話:抗いの父 →6話:荒くれイルカ
「ここに来て・・・もう何日過ぎたんだろう。」

窓があり陽の様子が見えても、幽閉の毎日では感覚が鈍ってくる。
憂いの眼差しで外をじっと見つめるシャニーは、不安でしかなかった。
今頃本土ではどうなっているのだろう。ゲイル達はどうしているのだろう。

「確かにのどかだし、騎士団の連中も何でか待遇よく扱ってくれるし・・・確かに環境はいいよ。
 でも・・・何でだろう、すごい心が騒いでいても立ってもいられないこの苦しさ・・・この震えは・・・。」

じっとしていればしているほど、心の中では不安が吹き荒れる。
まるでどこかの国の姫を守る騎士団かのように、白の騎士団は接してくる。
広い部屋、空調も聞いて食事も質は高い。何も不自由はないが、それが一番の不自由だった。

「ゲイル・・・今あなたはどこで何をしているの?早く・・・早くあなたのところに帰りたい。」

どれだけ素晴しい生活環境があろうとも、傍にあるはずの温もりが無いだけで
それだけで落ち着かず、地獄の独房に叩き落されたような感覚で心が震える。
どんな絶望的な環境であろうとも、早く彼の腕の中に帰りたくてそればかり考えていた。

「あなたと離れ離れになることがこんなにも辛くて苦しくて・・・恐ろしい事だったなんて。
 私・・・いつの間にかあなたが傍にいることが当たり前になって・・・身近な一番の幸せを見失ってたのかな・・・。」

今まで、ゲイルが自分の傍からいなくなってしまうことなど考えたことはあれどすぐ忘れることにしていた。
いつでも傍にいてくれるし、離れたって呼べば、駈けていけばすぐにあの温かい腕が包んでくれる。
寂しさなんて今までまるで感じなかった分、今湧き上がる悲しみは猛毒の如く心を蝕んでいく。

「わがままばっか言って困らせて・・・ゲイル・・・ごめん。・・・助けて、ゲイル。」

身近になりすぎて、感謝の気持ちを忘れていた。
人間というのは、どうして失敗してからでしか気づけずに後悔ばかりを繰り返すのだろう。
自分の愚かしさに腹が立って仕方ないが、彼女は足元に涙の池を作りながらただ相棒の名を呼び続ける。

「ほらほら、すぐ泣かないの。私がついてるんだから、もうちょっとがんばりなさい。」
「うん・・・ありがとう。今はエルピスが本当のお姉さんに思えるよ。」

ゲイルとお揃いのペンダント。いつも彼女の胸で一緒に笑い踊ってきてが、
今は彼女の時雨の如き涙でびっしょりとぬれて下を向いてしまっていた。
だが、その中からエルピスは何度も妹分に呼びかけて心を支えることに一生懸命。
まだ独りぼっちではない。いつも厳しい姉貴分がそっと腫れ上がった心を撫でて癒してくれる。
その温もりにシャニーは素直にすがり、涙を自ら拭う。
― キミは変わった。昔はそう簡単に涙を見せる人間じゃなかった。
扉のほうをじっと見つめてみる。固く閉ざされた扉はどれだけ力を篭めてもびくともしなかった。
悔しさに歯を食いしばっていると、あの扉の先へと消えたライバルの後姿がふいに浮かんでくる。
彼に言われた落胆の言葉を思い出すと、気付けばいつの間にか俯き脱出を諦めて泣いている自分がいる。

「確かに・・・私弱くなったのかもしれないな。16の時なら・・・助けてなんて・・・私言わなかったもんな。」
「違うと思うわ、あの頃は言えなかっただけよ。思っていても、溜め込んでいた、それだけよ。」

自身を見つめて、己の変化にため息をつくシャニー。
16のころはどんな逆境にも一人で立ち向かう勇気があった。
涙なんて絶対に見せることなんてしなかったし、誰かに助けを求めたりもしなかった。
それを思うと今の自分は何と脆弱なのだろうか。2年間で様々なものを失ったことを改めて思い知り
また涙が瞳を潤ませ始めるが、エルピスは彼女の悲観をきっぱり否定した。
あの頃こそ、大事なものを失っていただけなのだと。

「でも、そう思うと、今の私は何もできないよ。あのころは一人で修羅のところに突っ込んだり、フェンネルに一騎打ちを挑んだり
 今はもう・・・ゲイル達がいなきゃ戦うことだってできないし、今も自分で逃げ出そうとしないで助けを求めてる・・・。」

確かにあのころは亡国の姫として、故郷を復興するまではと己を押し殺していた。
だが、今似たような環境なのに、今の自分にあの頃と同じことはもうできない。
今この状況を見れば分かるではないか。世界の危機を前に、床にへたれこんで泣いているだけしかできないのに。

「別にそれでも・・・いいんじゃないか?」

静かな部屋。気付けばもう日もおちて大分経つ。
自分の言葉に返してくれる音は周りには何もなく、静寂がますます心を振るわせる。
だがその時だ。突然に聞こえてきた声。

「え?!ヴ、ヴァン?!・・・あれ、気のせいか、くそっ。」

聞き間違えるはずなんてない声だが、振り向いてみても声の主はいない。
あまりに寂しくなって幻聴でも聞こえ出したのだろうか。
不甲斐ない自分自身に腹が立って、彼女はベッドに拳を打ちつけた。
― 以前のような強さはないな、だがその代わり・・・キミは幸せを知って強くなった。

「あの頃はなくて・・・今私にある強さ・・・。何なんだろう・・・、今の私にある強さって。」

空耳のせいでヴァンが口にしていた不可解な言葉が頭の中に蘇ってしまう。
一体何を意図してあんな事を言ったのだろうか。それは彼にしか分からないが、
今一番に分からないのは、彼が口にしていた強さを失った代わりに手に入れたというものだった。
熾天使の力はシャスに封じられ、残された光の矢も記憶の中に埋もれてしまったというのに。

「ああ・・・今日は何だか一段と星空がきれいだなぁ。みんなと一緒に眺められたらどんなに幸せだろう。」

どんなに考えてみてもやっぱり答えは分からない。
こんなときはいつもゲイルやメルトに相談するのだが、今は独りぼっち。
ベッドに寝転がって天窓から見える満天の星空を見つめれば、つい数日前まであった幸せが恋しくなる。

「みんなもこの星空・・・見てるのかなぁ。一人で見上げる夜空がこんなに不安だなんて。」

いつもゲイルと星座を指差して笑いながら寄り添っている夜。
旅に疲れた体を癒しつつ、愛する人と身を暖めあいながら笑える時間。夜は大好きなはずだった。
だが、今はどうしようもなく恐ろしい。このまま真っ暗な中に吸い込まれてしまいそうで。

「16のときは一人でも全然怖くなかったのになぁ。でもなんだろ・・・今のこの心の叫び・・・渇望・・・みんな・・・うぅ・・・。」

寂しいだけではない、怖いのだ。以前夜をあれだけ一人で駆け抜けていた盗賊が
今一人でいるだけで心が振るえ、そして陽が沈んでしまった今恐ろしくて泣いているのだ。
愛する者たちの笑顔を思い出した途端、溢れる涙が止まらなくなる。

「ほらもう、すぐ泣く。しっかりしなさいって!もう、弱虫なところまで・・・継承しなくなって良いのよ。」

妹分を励ますエルピスだが、彼女の声まで震えだしてしまう。
独りぼっちになって泣いてしまう姿、それがかつての自分と重なって見えたのだ。
彼女に自分と同じ道を歩んで欲しくない。必死に傍にいることを伝え、独りではないと言い続けた。

「フン、熾天使たるものがそんなめそめそとした弱虫だと知ったら、皆どう思うだろうな。」
「ヴァン?!やっぱりあなたいたのね!」

すすり泣く声が部屋の中いっぱいに満たされて溢れかえる。
その時だった、そんな彼女の姿を慰めるどころか鼻で笑う声が頭上から降ってくる。
はっとして見上げれば、そこには不敵に笑うヴァンの姿。

「・・・ふっ、いつからだろうね、私がこんなに弱虫になったのは。」

ライバルに泣いている姿を見られてしまった。こんなに恥ずかしい事はない。
彼女は開き直ったかのように涙でずぶ濡れになった顔をヴァンに向けて強がって見せた。
皆を守るものとしていつでも強くいなければならない、それは彼女が一番分かっているから。

「元からだと思うがな。お前は元からそんな強い人間じゃない、独りでは何もできない雑魚だからな。」

だが、かつて同じ道を歩み背中を任せあった間柄だ。そんな虚勢など張ったところですべてお見通し。
両手を広げて呆れて見せたヴァンから浴びせられた屈辱の言葉。
普段なら黙っていられる性格ではないが、今回は唇を噛むだけ。

「くっ・・・。・・・言い返す言葉が見つからないよ。確かに今の私は・・・あんた達相手に何も出来ずにいる。」

昔なら、こんな状況でも脱出する事だけを考えていただろう。
ところが今は、愛する者たちの顔ばかりを思い浮かべて空を見上げるだけだ。
熾天使の力を継承した者がこんな雑魚だと知ったら、皆失望するだろう、そう思うと拳が振るえた。

「思い込みは怖いものだな。シャニー、顔をあげろ、これを受け取れ。」
「これは・・・何?あて先も・・・差出人も・・・何も書いてないけど・・・。」

やはり彼女は弱くなってしまっている。だがそれは、新たな力に彼女が気付いていないだけだ。
ヴァンから見れば、むしろ彼女は強くなっている。ただ、未だ目を覚ましていないだけ。
それを目覚めさせる為に、ヴァンは懐から一つの封筒を取り出すと、
俯くシャニーに顔をあげさせ、手を取ってその上にそっと乗せてやった。
誰からのものなのか、何が入っているのか、何も書いていない無地の封筒。きょとんとする彼女に開けてみろと目配せする。

「?!こっ、これは!!この字・・・この絵・・・!分かる!分かるよ!忘れてない!私!」

封筒に入っていたのは数枚の紙だった。だが、ただの紙ではない。
そこには身覚えのある拙い似顔絵が書いてあったのである。
それはルケシオンで育てていた孤児たちがいつも書いてくれた自分の似顔絵。
稲妻が走り、雲が吹飛んだかのように彼らの顔が浮かび上がって楽しかった思い出が頭の中に溢れかえる。

「浮かんでくるよ、みんなの笑顔が・・・。ああ・・・皆無事でいるんだね・・・よかった、本当によかった・・・。」

たくさんの似顔絵が書いてある紙、どの絵も見るだけで誰が書いたのか分かる。
全員、そこには全員の無事がたくさんの自分の笑顔で示されていた。
もう一枚の紙には、大人たちの自分への励ましの言葉がびっしり。

「みんな、私絶対に帰るよ。こんなところで死んでたまるか!またみんなと笑い合える幸せな生活を取り戻すんだ!」

独りぼっちの恐怖に震えた涙でぬれていた顔は、いつしか幸せそうな嬉し涙でずぶ濡れだった。
彼女は遠い故郷の者達の声を身近に聞いて、泣きながら彼らの想いを静かに抱きしめた。
そして次に空を見上げた顔には、先ほどまでにはない覚悟を宿した強くまなざしがある。

「そう、私は独りじゃないよ。繋がりを忘れるところだった・・・ふぅ。何でこんなものをヴァンが持ってるの?」
「オレがルケシオンに行って伝えたのさ、キミは生きていると。」

空を見上げた彼女は、故郷の仲間達に感謝し、手を結んで祈った。
どんなに遠くに離れていても、こうして自分のことを愛し待ってくれている人がいる。
この人たちのために負けるわけには行かない。激戦が続く中、この見えない絆を忘れるところだった。
自分に一番に力をくれるこの絆たちを。だが、それを思い出させてくれたのがまさかライバルだと知り、彼女は目を見開いた。

「な、なんですって?!あなたが・・・?で・・・皆は何て言ってたの?」
「オレが言わずとも、その封筒の中を見れば分かるのではないか?最初は模様か何かかと思ったぞ。」

あれだけ弱者に興味はないと言っていた死神がどうしてこんな行動に出たのか、それは分からない。
だが、彼の言葉によってルケシオンの者達が動いた。彼は自分を助けてくれたのである。
手紙には励ましの言葉がびっしりと書き記されて、目を凝らさなければ何が書いてあるのか分からない程。

「あの頃の私に無くて、今の私にあるもの・・・分かるよ、ヴァン。皆の愛からもらった幸せ、そして幸せを渇望する心!」

心の底から感じた。帰りたい、愛する者たちがいる場所へ、帰りたい、と。
2年前の自分にはなかった。あのころは、ただ悪を討ち滅ぼしたいという想いばかりだった。
だが今は違う。もちろんそれもあるが、愛する者たちを守りたいその気持ちが自身を動かしていた事に気付く。

「いっぱいの愛がある。あの愛のところに帰りたい、守りたい!そして私も・・・幸せになるんだ!
 手放したくないよ、私の幸せ!私には帰る場所があるんだ、絶対に負けるもんか!」

帰る場所、守りたい笑顔、愛したい人たち。今の彼女には、それが鮮明に頭の中に描けていた。
悪を憎み、それから皆を守るために戦っていた2年前には帰る場所は無かった。
失うものは何も無い中で戦っていたあの頃。だが今は違う、失いたくないもの全てを守るために、彼女は戦っていた。
悪を討とうとするのも、愛する者たちを守るため。決して熾天使としての使命感からではない。

「あの頃のキミは自分の幸せは考えていなかった。だが、今キミは自分の幸せを知り、あの頃より更に一段上のあるべきを掴もうとしている。
 オレにもっと見せてみろ、新たに手に入れた力を。記憶を失ってもなお止まないその光の循環をもっと見せてみろ!」

ライバルの顔に、自分の知る強い表情が戻ってきた。
こうでなくては、わざわざルケシオンまで赴いた甲斐がないというもの。
やはり、彼女は変わってはいない。自分が見込んだとおりの、強い女。
ヴァンの顔に蔑みではない笑みが浮かぶ。

「見せてやるさ、私の中一杯にある幸せ、身近な愛情も離れ離れの祈りも、みんなみんな私の幸せだ。
 これだけいっぱいの愛に支えられていること、それこそが最高の幸せなんだ。私は独りじゃない、やってみせてやる!」

両手から溢れ、足元も、あの空も全てを包む愛。愛に溢れる事こそが最高の幸せと知った彼女は
同時にそれこそが最高の力なのだと知って、ぐっと拳を握り締めた。
見えないかもしれない。だけどそれでも支え、支えあうこの絆こそが希望という力を高める最強の光。
それを思い出した眼差しに、もう涙は無かった。

「私は弱くなんかなってない、出来ることは変わったかもしれないけど・・・その力の源は今も同じだ!」
「ようやく泣き面がなくなったな。その顔こそ、オレが気に入った顔さ。さぁ、見せてみなよ。キミの真の強さを。」

力を失った、弱くなった、何も出来なくなった、そう思い込んでいたのは自分だけ。
愛したい、守りたいと願う者達は、今も絶えず、そして変わらず祈り自分に力を与えてくれているのだ。
この身に宿す力は、自分のものではない。全ては彼らの祈りが与えてくれる力。
彼女が思い出したことを確かめ、ふっと笑みを浮かべたヴァンは背中を向けて歩き出す。
あっという間に彼の姿が闇に溶けてしまうと、その背に手を伸ばそうとしたシャニーの意識が薄らいでいった。



「ヴァン?!あ、あれ・・・私・・・夢見てた・・・わけじゃないよね。」

次にはっとして意識が戻った時には、ヴァンの姿はどこにもなかった。
ずっと泣き続けて、ロクに食事も睡眠も取らなかったことで限界が来たのだろうか。
だが、手元には何かの感触。見下ろせばそこには封筒があった。

「やっぱりあのヴァンって騎士は面白い人ね。アリアンとは月とすっぽんでも、人間の中では中々気に入った男だわ。」
「うん、ヴァンはいい奴だよ。だけど、いつまでもあいつに監視されてるわけには行かないよ。でも・・・どうやって帰ればいいんだろう。」

きょとんと封筒を見つめるシャニーとは対照的に、嬉しそうにヴァンのことを語るエルピス。
ヴァンは何と封筒の中に催眠ガスを封じていたのである。
またしても己を堪えて強がるシャニーの疲れを取ってやるために。不器用だが、仲間想いな男だ。
真実は知らずとも、シャニーもヴァンに感謝していた。やはり彼は、何も変わっていない。
自分も変えてはいけないところは変えたくない。その為にどうすれば良いか・・・悩み空を見上げる。

「分かったよ、みんな。」

満点に輝く星達を見つめていたシャニーは、一つの決心に頷いた。
必ず愛する者たちのもとへ。その想いが彼女の瞳に力を与えていた。


「シャニー殿、カミユ様がお見えになる。こちらに来て話を聞いてくれ。」

翌日、毎日の日課の如く白の騎士団の衛士が部屋にやってきた。
カミユの説得に応じるように、こうして迎えに来るのである。
もちろん、彼女はその都度跳ね除けてきたし、今日も表情に変わりはなく衛士たちもため息交じり。

「・・・。」
「その様子だと・・・気持ちは変わっていないようだな。」

後から入ってきたカミユも、切り出すまでもなくシャニーの気持ちを察していた。
彼女は姿を見つけるなり、敵を見据える眼差しを向けてきたのである。
口元を真一文字に固めるその表情は、一切を語るまいと無言に覚悟を見せ付けてくる。

「シャニー、いい加減に教えてくれないか?教えてくれたら、私は君を解放する準備があるんだ。」
「本当か?!本当に私をゲイルのところに返してくれるというのか?」

もう毎日、あの手この手、様々な話題や観点から説得を試みてきた。
だが、自分のほうを向いてくれることさえ珍しい事でいつも彼女は窓の外を見つめていた。
帰りたいのである、ゲイルの許へ。それはカミユも分かっている。
だが戦場に戻すわけには行かない彼にとって、ゲイルの許へ返すことは抵抗があった。
それでも、これ以上いたずらに待つわけにも行かず、ついに切り札を切ったのである。

「あぁ、だが君はルケシオンに帰るんだ。ルケシオンで・・・自分の幸せを作っていけばいい。
 戦いは我々に任せて、君は一人の女性として生きていくんだ。これからの君が包まれるべきは戦いではなく幸福であるべきだ。」
「私の幸せ・・・か。」

案の定、それまで石像のように動かなかった彼女は驚いたようにこちらを振り向いてきた。
カミユは一つ頷くと彼女の許へと歩いていき、諭すように優しく話しかける。
しばらく下を向いて考えていたシャニーは、ぎゅっと潜入服を握るとカミユを見上げた。

「・・・分かった、私が望むのは世界の平和。熾天使たるもの人間に囚われるとは情けない限りだが・・・。
 為す術もなく平和が砕かれていくのを見ているしかできないなら処刑されたほうがマシだ。」

ついに頷かれたシャニーの首。しばらくカミユは目の前の光景が信じられなかった。
あれだけ頑なに拒み続けてきた彼女が、ようやくに分かってくれたのである。
周りにも安堵の声が漏れて、思わず口元にぱっと笑みが湧くカミユ。

「!!ようやく分かってくれたのか!ああ・・・ありがとう、本当にありがとう。」
「ち、ちょっと?!シャニー、あなた一体何を考えているわけ?!」

両手をとって感謝を口にするシャニーは唇を噛みながら睨むようにじっと見つめていた。
人からどれだけ幸せと夢を奪おうとした人間がありがとうなんて口にするのだろうか。
唇から血が出るのではないかと思うほど、怒りを噛み砕く。
だが、彼女の気持ちが見えない連中は喜び、エルピスも妹分の突然の妥協に目を白黒。

「よし、ではここでは指輪の力を解放するには狭い、広い部屋に移動しよう。」

彼女の気持ちが変わらないうちに、その想いがシャニーの手を取らせる。
それに素直に従い、カミユに引かれて部屋を出て行くシャニー。
彼についてきた騎士達の横も通過した・・・まさにその瞬間だった。

「?!どわっ!」
「何?!シ、シャニー、いったい何を・・・。」

悲鳴を上げて倒れこむ衛士、次の瞬間には銃口がカミユのこめかみへと向けられていた。
ごくりと息を呑んで銃を握る手から相手の視線を辿っていき、カミユは息が詰まる。
鬼神の如き眼光で睨んでいたのは、なんとシャニーだったのである。

「確かに・・・この部屋は狭すぎる。この熾天使の翼を広げるにはな!」
関連記事
スポンサーサイト



総もくじ 3kaku_s_L.png 当サイトの小説における登場人物たちのご紹介
総もくじ  3kaku_s_L.png 当サイトの小説における登場人物たちのご紹介
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【4話:抗いの父】へ
  • 【6話:荒くれイルカ】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【4話:抗いの父】へ
  • 【6話:荒くれイルカ】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。