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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter18 闇の騎士と光の天使

7話:錬金戦艦グングニル

 ←6話:荒くれイルカ →8話:帰る場所
「総督!こちら基地本部。シャニーが発進口を破壊し、基地外へ脱出しました!」

嫌な予感ほどどうしてこうも的中してしまうのだろうか。
基地から伝えられたシャニーの脱走に思わず舌打をしたのはカミユだ。
だが、ここまで想定の範囲内。彼女はやるといったらやる人間だ。

「シャニーめ、少しは乙女らしくなってくれたかと思ったが相変わらず荒っぽいことをする!
 止むを得ん、彼女を止めるぞ!全艦、最大戦速にてポイントN920まで進撃せよ!」

モニターに映し出された大破したハッチに艦内は騒然となり、カミユ自身も息を呑んだ。
彼女は本気である。だが、ここで彼女を止められなければ、彼女の命に関わるのだ。
彼もまた覚悟を決めてマイクを取り、ずらりと並ぶ戦艦グングニルたちは轟音を上げて海上を進んでいく。

「シャニー、今君をアルトシャンに渡すわけには行かないんだ。少々痛い目を見てもらうぞ・・・。」

本当は戦いたくなかった。傷つけるなんてとても考えたくもないこと。
だが、彼女のこれ以上の暴走を許すわけには行かなかった。
今の彼女では、アルトシャンには絶対に勝つことができないことを、彼は知っていた。

「ポイントN920まであと3キロ!」

最新鋭の戦艦の馬力は凄まじく、もう目的地まで数分というところまで来ていた。
恐ろしい戦闘能力。まさか実戦でこの戦艦を使うことになるとは思ってもいなかったが、
まさかまさか、砲門を向けなればならない相手がシャニーだ何て。

「はっ、総督!ヴァンの艦がいません!」

カミユが近寄りがたい表情を浮かべていた時であった。
ふいに後ろから上がる突拍子もない声。レーダーにかじりついていた衛士の目が見開かれていた。
さっきまで最後尾を走ってきていたヴァンが乗る副旗艦が、忽然と姿を消したのである。

「なんだと?!・・・あいつめ。放っておけ、あいつは私たちより彼女のことを知っている。思うところがあるのだろう。」

全く持って集団行動ができない人間である。だが、カミユは直感していた。
彼はかつてシャニーと苦楽を共にしてきた男。シャニーの考えを白の騎士団の中で誰よりも把握している。
奇策をヴァンに託し、カミユたちはシャニーを迎え撃つ為エンジンを唸らせる。

「よしっ、全艦反転180度!全砲門開け!」
「し、しかし!彼女はトパーズを!」
「構わぬ!」

海上で轟音を上げながら、巨大な戦艦が次々と艦首を反転させていく様子はまるでマスゲームか何かのようだ。
遥か向こうには自分達の基地があるイカルス島が見える。船首を反転させると、次々に潜航していく戦艦たち。
だが、カミユが指示した次の内容に、誰もが耳を疑った。

「錬金エネルギーの充填率は10%にせよ!航行不能にできればいい!レーダー班、相手は幻術を使ってくる、しっかり追えよ!」

あれだけシャニーの事を大事にして、守ろうとしてきたカミユがまさか彼女に砲門を向けるなんて。
おまけに全艦全砲門である。主砲の破壊力は凄まじく、いくら手加減しようとも直撃すれば相手の大怪我は免れない。
だが、彼の鬼気迫る怒声にその覚悟を悟った衛士たちは静かに敬礼して主砲の発射準備を急ぐのであった。


「へーんだ、ちょろいちょろい!それにしても、大分アストレアの威力が戻ってきてるな・・・。」
「そうね、さっきのアストレアもまぁまぁだったわ。」

レーダーで確認しても、もう後ろからついてくる気配はない。
錬金艇を幻術ですっかりと包んで海の中に隠してしまうと、シャニーは指を鳴らして得意顔。
だが、弾いた指先を見て思い出す一撃。記憶がすっかり飛んだあの時から見れば大分力が戻っていることは姉貴分も認めてくれる。

「大分記憶も力も戻ってきてる。これならアルトシャンにだって挑める!」

海上で、そしてルセンで。二度も彼の前に勝利を掴む事ができなかった。
この前はドロー。あのときより今はもっと力が戻ってきている。次こそは、その想いが拳を握らせる。
だが、その力強い拳が、ふいに解けてうな垂れてしまう。

「だけど・・・この力がこんな恐ろしいものを作り上げる原動力になっているなんて・・・。エルピスの悲しみ・・・また一つ分かった気がするよ。」
「分かってくれたのなら、それだけで終わらせないで欲しいわね。」

メント文明の時代にも、人間は同じように創造の力を使って自分達で制御の出来ないものを作り上げた。
抑えられない破壊衝動と支配欲が振り回されて、引き起こされた戦争は全てを破壊していった。
その光景を見て、止めようとしたエルピス。その意志を継いだのだ、二の舞は踏ませない。
先輩の涙に塗れた言葉に、シャニーは力強く頷いてトパーズを見つめた。

「うん、分かってるよエルピス。私は同じ過ちを繰り返したりはしない。私の全てをかけて守るよ。」

後継者の強い意志を聞き、エルピスは涙を拭いた。
そう、こういう強くまっすぐな彼女だからこそ、自分は後を託して精霊として支える側にまわったのだ。
二人でじっと、皆の想いが詰まったトパーズを見つめて今後を誓っていたその時だった。

「ん・・・?!なっ、トパーズが?!」
「なっ?!く、砕けた!」

最初は美しく輝いていたトパーズだったが、急に色がくすみ始めたではないか。
違和を覚えたシャニーが指先から外そうと触れた途端である。
まるで砂団子のように砕けてぼろぼろと崩れ始めたではないか。

「こ、これは・・・私のトパーズじゃない!!カミユ!!!」
「・・・一杯食わされたわね・・・やってくれるじゃないの・・・。」

マナを注ぎ込んだ程度でこんな風に砕けるはずがない。間違いなくフェイクを掴まされていた。
油に火がついたかのように柳眉を釣り上げて後方を振り向いて怒りを吐き出すシャニー。
敵ながらエルピスも相手の慎重さに苦虫を噛み潰したような表情だ。

「脱出おめでとう?あの包囲網をかいくぐるとは、光の熾天使に敬服するよ。」
「そ、その声はヴァン?!」

その時だった。艦内に突然流れ込んできた声に跳ね上がる肩。
聞き間違えるはずがない。この声は間違いなくあいつの声だ。
信じられないことばかりが続く。トパーズは偽者、おまけに幻術で包む錬金艇の位置が知られている。

「どこだ!どこにいるんだ!」
「レーダーをよく見ることだね。」

言われずともすぐにヘッドフォンを頭にやると、レーダーを覗き込む。
相手の位置を確認しながら、耳に神経を集中させて相手のエンジン音を聞く。
間違いない、ヴァンは自分達を待ち受けるかのように正面にいた。

「なっ、そ、そんなバカな・・・幻術でこの船は包んであるはずなのに。」

モニターに映し出されたのは、先ほどドックで見たあの巨大な錬金戦艦だ。
それが艦首をこちらへまっすぐに向けて、今にも押し潰してやるぞといわんばかりの威圧感。
見開かれた瞳が震えるシャニーだが、ヴァンはその驚きをせせら笑って見せた。

「キミのマナをオレは知っている、そんなフェイクから作られるいつもと違うマナなど逆に目立つわけさ。
 本物はカミユがしっかりと持っているから安心するんだね。」

やはり、カミユから奪い取ったものは偽者だったと知らされて拳を叩き付ける。
自分がこうして脱走する事、トパーズを奪い返そうとする事、全てが読まれていたのである。
悔しさに砕けたトパーズをに拳を叩きつけて粉々に打ち砕く彼女の様子をヴァンは笑って宥めにかかる。

「それにしても良かったじゃない。ふふふ。」
「何がだ!くそ・・・。」

モニターにヴァンの姿が映り、彼はいつも通りの不敵な笑みを浮かべていた。
完全に相手の術中にはまり、何も言い返すことが出来ない。
もう後戻りはできない。トパーズから遠のく道を引き返すことができず心が押し潰されそうだ。

「キミはトパーズなしであれだけの力を出せるまでに回復したということだ。それならオレも潰し甲斐があるというものだ。」

少しずつだが、シャニーが力を取り戻しつつある事をヴァンは喜んでいるようだ。
だがその理由は相変わらず彼らしいものであり、シャニーの神経を逆撫でる。
彼女は思わず牙をむき出しにして、モニターにかじりつくように叫んだ。

「ヴァン!そこを退け!私の邪魔をするなら容赦しない!」

立ちはだかる錬金戦艦。それが意味するところは一つでしかない。
だが、今ここで引き返すわけには行かない。きっとヴァンなら分かってくれる。
彼だって世界の危機は分かっているはず。そう信じたのが間違いだったのだろうか、彼の笑みが消える。

「シャニー、悪い事は言わん。戻れ。トパーズもない今の状態で戻ったところで何が出来る。」
「断る!私には多くの待ってくれている人がいる!」

トパーズがある状態でさえ、アルトシャンの猛攻を食い止めることで精一杯だったルセンでの戦い。
力を取り戻しつつあるとは言っても、熾天使の権能を開放できなければ勝ち目がないことは火を見るより明らか。
理路整然と彼女に最善を告げるが、彼女の頭には血が上るばかり。

「この間にも人々は苦しんでる!早くアルトシャンを止めなければ取り返しがつかないことになる!」

ヴァンの言いたいことは分かるが、もう時間がなかった。
錬金術は既に計り知れない人間を殺す事が出来る力を持ってしまっている。
その力に悪しき意志を吹き込まれてからでは遅いのである。彼女の意志をまっすぐ見据える目が受け止めた。

「だがらと言ってお前達だけで何が出来る。ルセン橋梁での一戦で思い知っただろう、奴らの力を。」
「あんたの言葉とは思えないよ!あんたは独りであろうと信じた正義のためなら突き進む人だった!」

二人のまっすぐな瞳が互いを睨むように見つめて意志を迸らせあう。
シャニーには、どうしてヴァンがここまで消極的なのか信じられなかった。
彼は自分と同じくらい、国を、世界を愛し、そのためならどんな危険に身を投じる事も厭わない男だったはずなのに。
それが今、勝てるはずがないから引き返せだなんて。そんな時間がないことは誰より分かっているはずだろう。
牙をむき出しにしながら怒りの眼差しをヴァンに向け、臆病者とののしった。

「今もそのつもりだ。だが、何の思慮も無しに来るべきチャンスを自ら潰すような愚かな真似は慎めといっているだけだ。」

激情に任せて怒声を吐き、身振り手振りがどんどん大きくなるシャニー。
それとは対照的に、ヴァンは静を保ち、腕を組んで背もたれにもたれたまま微動だにしない。
じっと、前髪越しにただモニターに映るシャニーを睨むように見つめて静かに、だが強く警鐘を鳴らす。

「オレは他の連中よりキミを知っているつもりだ。闇を許せない気持ちは分かる、だが思慮するべきだ。」
「今の私は熾天使として戦っているだけじゃない!私は帰りたいんだ!愛してくれる、愛したいたくさんの人たちのところへ!」

ヴァンからの警告にも、シャニーの意志が揺らぐことはなく想いを叫ぶ。
2年前と変わらない強い心は、自分が好敵手と認めた女傑のもの。何も変わってはいない。
だが、確実な変化をヴァンは察して、鬼気迫る表情で見つめてくるシャニーの瞳をじっと見上げていた。
しばらく睨み合いが続き、ようやくにヴァンは座りなおすとその眼差しは若鷹の如く一層厳しくなる。

「もう一度言うぞ、戻れ。カミユともう少し話をしてみろ。」
「私のことを知っているなら、言っても無駄な事くらい分かってるでしょ!」

ヴァンの表情が変わったことはシャニーも気付き、何か言う事も変わるかと思ったが、
彼からの変わらぬ説得に、彼女は彼の言葉を跳ね除けるように目の前を手で払った。
もうあんな基地で自分だけ世界の危機から隔離されて見ているだけしかできないなど、絶対に嫌だった。

「やっぱりヴァンは変わってしまったよ!
 昔はそんな事を言う人ではなかった!苦しんでいる人を目の前にして、待てだなんて!」

確かに昔からちょっと変わった奴ではあったが、困った人を見ると誰よりも先に動く人間だった。
カミユはともかく、ヴァンだけには分かってもらえると信じていた。正反対な奴だけど、目指すものは同じだから。
それが今どうだ、世界の危機を前にどうして邪魔ばかりをする?
その失望感が怒りと燃え上がり怒声は涙を含んで咽ぶ。

「そういう風に言えるなら、キミもオレの事をよく知っているはずだ。オレがどんな人間か、な。」

どれだけ感情を篭めて、心から叫んで友に祈っても彼の心は機械かのようだ。
まるで、目の前にある、彼が乗り込んだ機械の塊の一部になってしまったかのように冷たい言葉。
悔しくて言葉がでてこない。彼はこんな人間じゃなかったはずなのに、どうして。そればかりが頭を駆け巡る。

「もう一度だけ言う、これが最後だ。戻れ。これ以上の警告の無視はオレ達への攻撃と看做す。」
「退く気はない!見損なったよ、ヴァン!あなたには聞えないの?人々の悲しみが!」

そんな彼女の気持ちをまるで汲み取ろうとしないのか、ヴァンは機械のように繰り返した。戻れ、と。
ついにシャニーは怒りを堪えきれず拳を叩きつけた。一気に溢れ出す涙。
涙に塗れ真っ赤になった顔で叫ぶ彼女の声が錬金戦艦の中に響き渡り、
衛士達も居た堪れない表情を浮かべて唇を噛んでいた。

「・・・。いいだろう、そこまで言うなら実力行使をさせてもらうまでだ。」

女の涙はどうにも苦手だ。だが、こうなることは分かっていた事。
ヴァンはシャニーの祈りから目線を逸らして瞳を前髪の下に隠してしまうと、
一方的に宣戦布告を叩きつけて通信を切ってしまった。

「右舷90度微速変針!敵錬金艇の進路を塞げ!」

やはり説得できる相手ではなかった。ふっと一つ笑ったヴァンはきっとモニターを見据えると
席を立ち上がって戦闘指示を始める。正面を向いていた艦は少しずつシャニーたちへ横を見せ始め
巨大な壁となって彼女達の前に立ちはだかった。

「ど、どうするつもりなの、シャニー!相手の艦の砲門にマナの反応があるわよ!」

海賊船での戦闘を知っているシャニーだって相手の艦のとった行動の意味は分かっていた。
それはすなわち、全ての砲撃を浴びせられるように横っ腹を見せて来たに決まっている。
裏付けるように、相手の巨大戦艦に配置された無数の砲塔にはマナが渦を巻いている。

「ヴァン・・・本当に戦うつもりなのか!アストレアも使えないのに・・・くっ・・・でもやるしかない!」

慌てて声をかけてくるエルピスの声にシャニーの表情も険しくなる。
相手はこちらの艦の数倍ある大きさの戦艦だ。真正面から挑んで勝てるわけがない。
だが彼女は歯を強く噛締めると操縦桿を握りなおした。帰りたい、その想いだけで。

「全砲門開け!錬成衝撃砲発射用意!錬金エネルギー充填率100%で推移しろ!」

艦が完全にシャニーたちへ横を向くと、今度は砲撃部へ指示を飛ばすヴァン。
まるで生き物かのように、砲塔が順番に不気味な機械音を立てながらシャニーたちのほうを向く。
100%、そう本気だ。これだけ無数の砲撃をよけることは不可能であり、彼女に残された選択肢は後退のみ。

「第一から第五番副砲、発射準備完了!」
「敵の武器は魚雷だけだ、副砲はレーダー班と蜜に連携を取り、水雷駆除に全力を注げ!」

さすがに訓練された人間達だけあり、その準備にはまるで無駄がない。
次々に錬金術による圧搾マナを湛えた砲塔から準備完了が伝えられてくる。
今か、今かと、あの小さな獲物が射程範囲に入ってくるのを砲塔をギラりとさせて待ち受ける。

「第一主砲、発射準備完了!第二、第三主砲準備よし!動力推移正常!」

そしてついに、数ある砲塔の中でもひときわ大きな主砲から準備完了が告げられる。
帝国の錬金戦艦を一撃の下に葬る事を想定して作られた最強の砲撃だ。
これがかすりでもすれば、あの船は沈む。ヴァンの眼差しが前髪越しに突っ込んでくるシャニーを見据える。

(シャニーめ・・・どうしても行くというのか。本気でその艦で突っ込んでくるつもりなのか・・・。)

モニターを見る限り、シャニーは速度を緩めることなくまっすぐこちらへ突っ込んできている。
ここまで牽制を浴びせれば、いくら彼女でも及び腰になるかと思ったが、やはり自分の知る女のようだ。
席に着くと、彼はやや俯いて視線を前髪に隠し、時を待つ。

「ダメだ、まだ射程範囲外か!くそっ、敵の主砲はこっちの魚雷の倍もあるじゃないか!」

カミユの話が本当なら、もうすでに主砲の射程範囲内に入ってしまっていた。
あんなものを喰らえば一巻の終わりだ。じりじりとした眼差しでモニターとレーダーを忙しく行き来する。
だが、警告音が強くなるばかりでシャニーの表情はどんどん厳しくなって冷や汗が止まらない。

「魚雷があったってこのままじゃ蜂の巣よ!凄まじいマナがあの艦に集中しているわ!」

仮に魚雷があったとしたってあの分厚い装甲である。こちらが一発浴びせる間に、砲撃の雨を受けて蜂の巣だ。
それでも全速前進を続けるシャニーに、ペンダントが飛び跳ねて警告し続ける。
普通に考えて、相手の砲撃の射程範囲内に突っ込んでいくなど自殺行為だ。

「艦長!敵錬金艇、接近してきます!距離60!」

グングニル側も、相手のまさかの行動に騒然となっていた。
まさか体当たりでもしようとしているのかのように、まっすぐ、まっすぐこちらへ向かってくるのだ。
さすがに距離が縮まってきて、レーダー班から艦長であるヴァンへ報告が上がる。

「主砲の有効射程内です!敵の魚雷の射程に入る前にケリをつけてしまいましょう!」
「待て!まだだ!」

主砲はもちろんの事、もうすぐで副砲の射程範囲内にも到達する。
あんな小さな艦を落とす事など、この最新鋭艦グングニルにとっては赤子の手をひねるようなもの。
だがもちろん、それは艦長から攻撃指示が出ることが絶対条件だ。
待機、どんどん船影を大きくするシャニーをヴァンはじっと見つめる。

「距離48・・・44!最高戦速でなお接近中!」

どんどん縮まる距離。ついに副砲の射程範囲内にも入り、レーダー班からの報告だけが艦内に響く。
だが、獲物を前に唸りをあげる砲門は溜め込んだマナを奥に輝かせたまま微動だにしない。
睨み合いが続く中、それでもシャニーは速度を落とすことはなかった。

「撃ってこないのか・・・、ヴァン・・・!よし、距離36、有効射程距離だ!」

ようやくに照準機のランプが赤色から青色へ変わった。だが、状況はなにも変わっていない。
撃てるはずがないではないか、相手はヴァンなのである。
発射ボタンに手をかけたまま、ひらすら操縦桿を前に押して、押して、少しずつヴァンへと近づいていく。

「距離32!28!艦長!いくら副砲があろうともこれ以上は危険です!」

すでに相手の魚雷の射程範囲内に入っていることはヴァンも気付いているはずだ。
そうでもなくとも、艦内には警告音が鳴り響いて危険を知らせてくれているというのに。
どれだけレーダー班が叫んでも、腕を組んで前髪越しにモニターを見つめるヴァンに動きはない。

「敵錬金艇からの発射反応は?」
「ありません、今なお最高戦速!」

ようやく動きがあり、ついに攻撃指示かと思ったが、彼が確認したのは相手の行動だけだった。
彼は見ていた、彼女がどういう行動をとってくるのかを。
聞えているはずだ、この凄まじい破壊衝動に飢えた凶器のマナがあげる唸り声を。
この力を前に、彼女がどういう行動をとるのか、彼はじっと観察していたのである。

「シャニー!何で撃たないの?!やられるわよ!」

もちろん、彼の思惑など知る由もないエルピスは妹分がここまできて躊躇う姿に叫ぶ。
隙を見せている今、やらなければやられる。それをどれだけ叫びかけても、彼女の手先は震えるだけ。

「撃つわけには・・・行かないよ・・・。」

相手の艦に乗る者達には、帰りを待っているものがたくさんいるのだ。
それを思ったら、とても攻撃なんてできなかった。自分だって、愛する人のところに帰りたいがために戦っているのだ。
いくら相手が敵であろうとも、己の正義で彼らの幸せを破壊するわけには。
まして、自分が振りまいてきた希望のマナによって創造された力によってだなんて。

「距離30・・・24・・・。20・・・16・・・艦長!!攻撃指示を!!」

あれだけ小さかった錬金艇が目の前にまで迫り、どよめくグングニル艦内。
これ以上接近を許せば、正面衝突を免れ、もし撃破しても相手の爆風に巻き込まれてしまう。
警告音がけたたましく鳴り響き、レーダー班から喉が裂けるほどの大声で報告が上がり、
ついにヴァンは乗り出すようにして席をたつと、モニター越しではなく艦橋から肉眼でシャニーを睨み据えた。

「う、うわああああああ?!」
「・・・。」

相手のエンジン音がギンギン耳に入ってくる。今、目の前を錬金艇が通過しているのだ。
もう、衝突するすれすれの位置。誰もが目の前で起きていることを直視できずに頭を隠してうずくまった。
だがそれでも、ヴァンだけがじっと通り過ぎていくシャニー達を睨むように見据えていた。
分かる。シャニーもまた、こちらをじっと見つめているに違いないその視線が。

「おのれ、シャニーが逃げたぞ!追え!左舷90度微速変針!」
「止めろ!」

これだけ圧倒的有利な立場でありながら敵の逃亡を逃がしてしまうとは。
たまらず副官が追撃準備を指示するが、それをとめたのはヴァンだった。
今までずっと沈黙を保ってきた艦長の指示に誰もが手を止める。

「あいつは本気だ、何をしようと無駄だ。行かせてやれ。」

シャニーを捕える意味を考えれば、もうこれ以上彼女の意志をつなぎとめることは無意味だと悟った。
親友の誼などという馴れ合いの理由ではない。彼はしっかりと彼女を“見た”のだ。
その覚悟を、そして彼女が手に入れた新たな力を。

「こちらグングニル副旗艦、シャニーのマナの反応を見つけるも錬金艇と遭遇できず。今から本体へ合流する。」

無線機を手に取ると、カミユへ連絡を入れて答えを待つこともなく電源を切った。
もちろん、乗組員たちは彼の答えに驚いたが、彼の目配せに舵を取る。
動き出す戦艦。すでに姿の見えなくなったシャニーたちが消えた方角を見つめ、ふっと笑う。

「ふっ、シャニー、見せてもらったぞ。お前が手に入れた新たな強さを。」

2年前の彼女ならば、きっと違った結果になっていたことだろう。
やはリ彼女は自分が思っていたとおりの女だった。
彼女の新たな活躍を信じ、ヴァンもまた己の正義を貫いたのであった。
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