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 ←7話:錬金戦艦グングニル →9話:奪われた希望
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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter18 闇の騎士と光の天使

8話:帰る場所

 ←7話:錬金戦艦グングニル →9話:奪われた希望
「ヴァン・・・良かった・・・本当に良かった!ああ、はああ・・・何だか力が入らないや・・・。」

未だに生きた心地がせずに、操縦桿を握った手が震えたまま。
だが、すでに接近を意味する警告灯も消え、レーダーからも反応は消えていた。
ヴァンは結局、撃ってこなかった。今でも信じられない。

「シャニー、良くやったわ!これでよかったのよ!ヴァンは私たちを試したんだわ!」

だが、姉貴分の喜びに満ちた声が、彼女を現実へと引き戻した。
これが現実だと分かると、彼女の手はするりと操縦桿から解けて座席から滑り落ちた。
今までの人生、いろいろ危ない橋を渡ってきたが、今回は指折りの最悪の瞬間だった。


「こちらグングニル副旗艦、シャニーのマナを見つけるも錬金艇と遭遇できず。」
「なんだと・・・?レーダー班!シャニーの反応はあるか?」

まさかのヴァンからの捕獲失敗の連絡を受けて目の色を変えるカミユ。
ヴァンにはシャニーのいく先のアテがあるものだと思っていたが、それが外れたとなれば
もう自分達が待機する海域以外に彼女の行く選択肢はないはずだった。

「いえ、この海域に我ら以外のマナ反応はありません。」
「どういうことだ・・・彼女は一体どこへ消えてしまったというのだ・・・。」

幻術を使っているかもしれない、くまなくレーダーを駆使して調べ上げたが、
乗組員の表情は冴えないもので、カミユはありえない状況に自身でもレーダーを覗き込む。
だがやはり何も映ってはいない。ただ、重い空気が艦内を包んでいた。

「もしかしたら脱出用の記憶の石を使ったのかもしれない。それしか考えられん。」

詳しい状況を聞こうとカミユはヴァンに通信を繋ぐが、彼は分からないの一辺倒だ。
腕を組み、様々な可能性を広げてみるが、どれも考えづらいものばかり。
その時だ、ヴァンから一つの可能性を示唆されるが、カミユは首を横に振った。

「いや、アレはそこらの記憶の石とはワケが違う。使い方は我々しか知らないはずだ、それはありえないはずだろう。」

白の騎士団に所属する錬金艇には、必ず脱出用の記憶の石が設置されている。
だが、それは通常世間で知られている記憶の石とはまるで使用方法が異なるもの。
錬金術など何も知らないシャニーでは、偶然でも使いこなせるはずはなかった。

「全艦に告ぐ!第一部隊はこのまま待機、第三部隊は北西方面へ向けて出撃せよ!
 シャニーを逃してはならない!草の芽分けても探し出すんだ!」

沈黙の艦隊が、今エンジンをフル回転させて蒼の中へと消えて行く。
今の状態でシャニーを大陸に戻してしまったら、それこそアルトシャンやマヴガフの餌食だ。
トパーズも持たない今のシャニーは、まさにただの乙女に過ぎないのだから。

「艦長・・・よろしいのですか?カミユ総督はシャニーをどうしても逃がしたくないようですが。」

帰路に着く艦内で、乗組員の一人がヴァンに心配そうに尋ねた。
艦長を信じてカミユの質問に何も口を挟まなかったが、嘘の報告をしたことに違いはない。
だが、ヴァンは座席から彼を見下ろすと、ふっと笑って一つ頷いた。

「あいつは分かっていない、彼女がどうしてそこまでして脱出しようとしたのか。」

カミユはシャニーが静かな生活を送る事こそが彼女にとっての幸せだと思い込んでいる。
だが、それはもちろん彼女が思う幸せとはまるで違うもの。ヴァンはそれを知っていたし、
今の彼女に意志を貫けるだけの力があることを確かめたからこそ、道を空けたのである。

「今の状態で仮に戻したところで、あいつはカミユの思うようには動かん。
 それどころか・・・自害するかもしれん。戦争を生み出す力をこの世から消し去る為に、な。」

普段は朗らかで穏やかな彼女だが、一旦スイッチが入ると手がつけられない。
己の死が迫ろうとも厭わない部分がある。それが世界のためならば。
それをいつも止め、宥め、諭し彼女を受け止めるゲイルが今は傍にいないのだ。

「オレはあいつの覚悟をしかと受け取った。あいつの光は支配で歪められるものではないさ。」
「しかし、このままでは彼女はルアスに侵略する可能性があります!そうなればアルトシャンに!」

確かに、彼女の過激な一面は基地でありありと見せ付けられた。
あのまま基地に押し込めておいたら何をしていたか分からないが、大陸に戻ってもそれは同じ事だ。
傍にゲイルがいるからと言っても、彼らが向かう先は変わらないだろう。
諸悪の根源、アルトシャンの下へ向かうことは明確だった。
今回の事で彼女は身を守る術を失ったにもかかわらず。状況は悪化するばかりである。

「あいつは負けはしないさ。もっとも・・・そもそも戦を起し幸福を奪うような真似はしないと思うがな。
 カミユは焦っているようだが・・・肝心な事を忘れている。現代のエルピス振りまく光は、使命感に駆られたものではない。」

どこからこんな自信が湧いてくるのだろうか。
他人のことをさも自分のことのように語るヴァンに、乗組員たちは何も答えられなかった。
ただひとつ分かる事は、彼がシャニーのことを心から信頼しているという事だ。
ヴァンには確信があった。彼女は必ず成し遂げる。そのための力を持っている。
今、目の前で彼女はその力を見せつけてくれたのだから。

「考えてみろ、あいつは今まで独断で攻撃を仕掛けたことはない。
 どの町も住民の理解と協力を得て取り返したのだ、彼らの幸福を。奴から無闇に攻撃など仕掛けはしまい。」

彼女がやろうとしていることはただひとつ。失った幸福を取り戻そうとしているだけ。
それは各地の者達はもちろん、彼女自身の幸せも同じだ。
戦いを引き起こせば、一方でまた幸せを失うものが現れる。それを彼女は知っている。
だから、彼女は撃たなかったのだ。幸せを守るために。

「ですが、アルトシャンはそうも行きません。マヴガフがどう入れ知恵をしているかも分かりませんし、このままでは!」

彼女の想いは多くの人を動かしてきた。今回はヴァンの心を動かしたに違いない。
だが、想いだけではどうにもならないこともある。アルトシャンやマヴガフ、野心に塗れた者達にとってみれば
彼女の想いは甘いだけであり、いくらでもつけいれることが出来る隙でしかない。
それでも、部下が口にする不安を、ヴァンは鋭い視線で諭す。

「案ずるな、奴は・・・またすぐ姿を現す。あいつが一番に分かっているはずだ。・・・トパーズなしでは勝てないということを。」
「ですが彼女は知っているのでしょうか・・・“暗黒の預言”を。」

ヴァンがシャニーを逃がしたもう一つの理由は、彼女が必ず戻ってくることが分かっていたからだ。
トパーズがカミユの手元にある。それはしっかりと伝えて伏線は張った。
それでも衛士の不安は拭えない。もうあまり時間が無いのである。

「アンドラスとの戦闘で知らずも勘付いているはずだ。あいつが一番に毛嫌う闇が、もうすでに息を吹き返しかけていることをな。」

闇の復活は、目の前にまで迫っている。それは帝国にハデスのマナ使いがいることだけでも分かる事。
シャニーも感が鈍い女ではない。すぐには気付かずとも、危機感としては持っているに違いない。
そうでなくとも、彼女の前には何度もマヴガフが姿を現してハデスのマナを臭わせているのだから。
だからこそ、トパーズが欲しい。そう強く焦っていることは優に想像できる。

「それを少しでも早く気付かせる為にも、奴の覚悟はイカルスにとどまっておくのは良くない。
 オレ達が今出来ることは、それを少しでも促す事ぐらいだ。無線機をシャニーに繋げ。」

白の騎士団に所属しているとは言っても、皆元はアスクの騎士。
世界を、国を守りたい想いは同じであり、カミユの作戦よりヴァンの考えにつくものもいる。
孤高を保つヴァンだが、その身から溢れる想いは、こうして後についてくる部下達を呼んでいた。

「ヴァン・・・一体どういうつもりなの?何故攻撃してこなかったの?」

モニターに映し出されたシャニーは疲れきった表情を隠そうとしていることがすぐに分かった。
だがそれ以上に、彼女の眼差しには困惑に満ちていた。
あのヴァンが、自分に向けて何も攻撃を仕掛けてこなかったのだから。

「フッ、同じ質問をしたらキミはどう答えるつもりだい?それで答えになるだろう?」

彼女が驚きに目を見開いたのが分かった。まさかあのヴァンからそんな言葉が聞けるとは。
かつては死神と渾名され、シャニーへも穂先を向け続けてきた男だ。
それが今、彼は他の幸せのために武器を収めたというのである。

「納得行かない顔だな、ならキミが納得する答えを作ろうか。
 キミはオレに覚悟を見せてくれた。2年前にはなかったキミの新しい力が生んだ覚悟を。」

ヴァンはじっと突っ込んでくるシャニーを見つめていた。
2年前と同じ彼女であったならば、絶対に違う結果となっていたあの睨み合い。
だが彼女は見せつけたのだ。ただ滅するだけの力ではない、もっともっと高みにある力を。

「私には帰る場所がある、守りたい人がいる、愛して欲しい仲間がたくさんにいる!
 幸せにしてあげたいし、私もその幸せの中で幸せになりたい!私は何も奪うつもりはない!」

今その力の源を、彼女の口から直に聞くことが出来た。やはり、まぐれではないようだ。
これならば、わざわざルケシオンに赴いたことも無駄ではなかったと思えるというもの。
相手を拘束し、制圧するだけの力ではない、結び、繋ぐ力。今の彼女はそれを持っている。

「・・・2年前のキミは単純に悪を、闇を毛嫌う光だった。あの光のままなら、オレ達はもうここにはいなかった。
 幸せどころか命も奪われていた、光の粛清を受けてな。闇から見れば、あの頃のキミは粛清の熾天使だったのかもしれない。」

ただ眩しく闇の居場所を奪うだけの光ではない、穏やかに輝き温もりに包む光。
2年前の熾天使の光を受け継ぐものとしての使命感とは違う光を今彼女はまとっている。
力を持つ者の覚悟をしっかりと見据えた彼に、ためらいはなかった。

「だが今は少し違う、それがオレにも分かった、だから道を空けたのさ。その覚悟、もっともっと見せてくれよ、そして真の闇を撃て。」

アストレアが何を射る弓矢なのか、それをしっかりと心得、どんな苦境でも信念を曲げない強さ。
彼が認めて自分に道を空けてくれたことを知ると、シャニーは柔らかく微笑んだ。
だが、内心では心苦しいところもあった。光の粛清・・・今でもフェアリーゼを救えなかった想いが胸に刺さったまま。
それでも今は前を向くことにした。認めてくれる者がいる、彼らの想いに答えるべく、もっと強くなろうと誓って。

「ヴァン・・・ありがとう、やっぱりあなたは変わっていないわ。昔も今も、アスクのために戦う絶対の騎士。」
「気に入らないね、オレはオレの道を示してきたまでだ。」

あれだけ罵ってしまったが、相手の気持ちを知ると詫びずにはいられなかった。
本当に国のことを思っているからこそ、彼は行動し、そして自分に道を示してくれた。
だが、やはり相変わらずと言うべきか、彼は感謝に対して素直にはならず、外を向いてしまった。
2年前を思いだす。外をむいていながらも、いつでも気にかけ、絶体絶命の時には必ず傍にいてくれた。
彼の強い信念もまた、見習わなければならないと強く感じた。

「ヴァン、あなたという人は・・・。」
「・・・シャニー、ひとつアドバイスをやろう。」

思わず涙を隠しきれないシャニーの声が崩れだす。
女の涙はどうにも苦手なヴァンは、それを止めることなく話題を次へと振った。
今はまだ、涙を流す時ではない。もう少し先にとっておくべきだと。

「躊躇うな、為すべきことを前にしたときは、迷わず行動しろ。今回のように、な。」

はっと頭の中に電撃が走ったかのような衝撃が襲う。
それは、ルアスでイーグラーから言われた事と全く同じ。
世界中が敵のようになってしまっても、世界中で自分の背を押してくれる人がいることを改めて思い出す。
止まらない涙を手で拭いながら、何度も頷いて感謝を伝えるシャニー。

「さて・・・あまり通信していると傍受される、要件を言うぞ。
 操縦桿の下に小さな収納があるはずだ、その中を見てみろ。中に石が入っているはずだ。」

感謝に一つ頷くだけで、涙に付き合ってやる時間はなかった。
この時間も必死になってカミユがシャニーの行方を捜しているに違いないのである。
今見つかってはいろいろ厄介な事になる。まずは彼女を脱出させる事が最優先だ。

「あ、これね。記憶の石?でも、肝心の記憶の書が無いみたいだけど。」

ヴァンの指示通りに、操縦桿の下に屈んで覗き込んでみると、確かに小さな収納がある。
そこに手を伸ばして中を探ってみると何かが当たる感触。取り出してみると、手の中にあったのは記憶の石だ。
だが、記憶の石は書に記憶された場所へとワープするための触媒。
本体がなければ意味を成さないものである。

「それも錬金術の一つだ、記憶の書は要らん。ウィザードゲートをもとに作られた人工の転移触媒なんだ。」
「白の騎士団の技術力って一体・・・こんなもの氾濫したら悪党のやりたい放題だよ。
 で、どうやって使うの?スイッチも何もないみたいだけど。」

知らない間に、技術だけがどんどん進化している。これが平和の為に使われればどれだけいいことか。
だが、誰でもすぐにターゲットの許まで転移できると聞けば、
かつてアサシンだったシャニーにとってはあまりにも危険なものに映った。
それでも今は、平和を導く為に使う。そう己に言い聞かせ、握り締める。

「簡単だ、行きたい場所をイメージしろ。ただし、出来るだけ鮮明にな。あやふやだと転移先の座標が大きくずれる。
 本当は基地へと戻る脱出用だが、帰りたい場所へ戻るという用途は同じはずだ。」

目の前にあるこんな小さな石に、人々の苦心が詰め込まれている。
自分の力も、小さなものかもしれない。だけど、同じように皆の想いに一杯に支えられた力。
もう一度ぎゅっと意志を握り締めると、彼女は静かに立ち上がった。

「私が帰りたい場所・・・それはもちろん決まってる!今行くよ!ゲイル!」

いつでも自分を受け入れて抱きしめてくれる強い腕、広い胸。
そしてどんな時でも励ましてくれるあの顔を思い出して、シャニーはひたすら祈り続けた。
帰りたい、愛する者の許へ。石は願いを叶え、彼女の姿はふっとその場から忽然と消えた。

「艦長、シャニーのマナ反応が消滅しました。恐らく記憶の石で転移したものと思われます。」

突然に錬金艇が蛇行運転を開始し、スピードがどんどん緩んでいく。
レーダーに映るマナは錬金艇が生み出す人口のマナだけで、あの温かいマナはぷっつり姿を消してしまっていた。
思ったとおり、彼女はその強い意志で錬金術を使いこなし、ゲイルの許へと帰って行ったのだ。
後は彼女がうまくやるだけ。ふっと好敵手の強い姿を見送ったヴァンは、
席にどっかりと座りなおすと、帰還へ向けて次の指示を始めるのであった。

「よし、錬金艇を回収しろ。カミユにはことの通りを伝える。
 我々が錬金艇を捕獲した時には既にシャニーは記憶の石で脱出した後だった、とな。」
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