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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter18 闇の騎士と光の天使

9話:奪われた希望

 ←8話:帰る場所 →10話:邪蛇穿つ剣
「くそっ、森を抜けたはいいが、これからどうしろってんだ。」

一度飲み込んだら二度と吐き出さないといわれたカレワラ森。
迷いに迷い、何とか抜け出したが、誰の顔にも疲労が滲んでいた。
塗れた布団のように圧し掛かる疲れを跳ね飛ばし、輝く陽を睨み憤りを顕にしているのはゲイルだ。

「落ち着け、まずは海を渡る方法を考えることからだ。」

白の騎士団の本拠地は、ここからさらに南進し、海さえ越えた絶海イカルスにある。
焦り、冷静さを失えば、島はますます海上の蜃気楼へと消えてしまう。
メルトに諭されて拳をおろすゲイルだが、その表情は変わらない。

「あれからもう1週間近く経っちまってるんだ、カレワラ森のくそったれめ!」

あの森さえなければ、今頃もっともっと彼女の傍にいてやれるのに。
気を失い、カミユに抱き上げれらた時の長い髪を地に下ろすシャニーの姿が今も忘れられない。
あんな奴にシャニーを抱く事を許したと思うと自分に腹が立ち、木に拳を打ちつける。

「エルピス様がついてるんだから信じるしかねーよ、ゲイル。」

一発では収まらないゲイルは、今度は左拳を握り締める。
怒髪天を衝くオーガの後ろから肩に手をやり、じっと彼の怒りと焦りに満ちた眼差しを見つめる。
自分が焦ってはどうにもならない。悔しさを噛み砕き、抵抗する拳を渾身に降ろすゲイル。
次のステップへ移る時。ようやく作戦会議を始めようとした、その時だった。

「ん・・・ん?!この感じは!」
「どうしたんだ、ゲイル君。何か妙なものでも見つけたのか?」

地図を広げるメルトたちのもとへ歩き出したゲイルだったが、その足が突然止まる。
びびびっと、今頭が何かを感じ取ったのだ。何もない、だけど何かある。
頭が、体が、その何かに反応している。辺りをきょろきょろと見渡し、足が勝手に歩き出す。
彼の突然の奇態に、メルト達は顔を見合わせるが本人は本気。

「このマナ・・・間違いない!シャニーだ!あいつのマナがこの辺りに!」

まるでエサを見つけた熊のように、一点の周りをうろうろとするゲイル。
だが、レイが呆れ声を投げつけると、彼は目の色を変えて足元を指差した。
この感覚を間違えるはずがない。あの大好きな髪の香りまでする気までしてくる。

「!ゲイル、目の前だ!よく見ろ!」
「こ、コレは・・・間違いない!やっぱりシャニーだ、帰ってくる!シャニーが!」

最初は怪訝な眼差しでゲイルの行動を見ていたメルトだったが、その眼が見開く。
ゲイルの足元が突然に光りだしたのが見えたのだ。
彼まで思わず駆け出してゲイルの足元を指差し見つめる。
口をぽかんと開けて光を見下ろしていたゲイルの目が見る見る見開いていく。
そして叫ぶ。愛する者が今、自分の名前を確かに呼んだのだ。
そして光は天へと登り、少しずつ輪郭が顕になる。見慣れた、そして何よりも嬉しいあの姿に。

「!!ゲイル!ゲイルー!うわああああん!」

光が解けて、中からあの美しい金髪が現れる。
きゅっと閉じていた目が開いて、その蒼で周りを見渡し目の前から感じる温もり。
見上げた彼女の目はすぐに潤んで、彼女は大好きな厚い胸に飛び込んだ。

「シャニー!・・・よく無事で、よく無事で帰ってきてくれた。」

ポニーテイルも解け、髪を振り乱しながら飛び込んできた彼女。
久しぶりに感じる温かく柔らかい感覚に、ゲイルはただ抱きしめてやるしかできなかった。
言葉にならない喜び。ひしと抱きしめ、ガラスの人形を扱うように頭をさする。
大好きな髪の香りが広がり、大きく吸い込んで更に更に抱きしめた。

「ふう、一時はどうなるかと思ったわ。まったく、ホント行き当たりばったりの荒っぽい子なんだから。」

シャニーの無事の帰還を見届けると、ペンダントから飛び出す光。
元の姿に戻ったエルピスは、ふうっと目を閉じて大きく息を吐き出す。
今までで一番、生きた心地のしなかった数時間であった。

「エルピス、ご苦労だった。あいつはしばらく話せないだろう、何があったか教えてくれ。」

さっと差し出された手。しっかりとエルピスの目を見つめ、感謝を捧げるメルト。
ふっとその手を握り返し、仲間の許へ帰ってきた実感が湧く。
向こうでは泣きじゃくる妹をゲイルがひたすら頭を、背をさすり、互いに寂しかった心を慰めあっている。

「白の騎士団の本拠地に連れて行かれたわ。カミユはイカルスだって言ってた。」
「やっぱりそういうことだったのか!あのヤロウ、今度あったら絶対に叩きのめしてやる!」

涙で喉が詰まり、咽ぶシャニーに代わり、エルピスはことの全てを話し出した。
白の騎士団のこと、カミユが言っていたこと、全て。
聞けば聞くほどにカミユがどれほどシャニーを悲しませたかがひしひし伝わってきて、
ゲイルはわなわなする手でシャニーの頭を掴んでしまわないようにするので精一杯だった。
悔しくて、悔しくて、ぎりぎりと拳が音を立てる。

「私たちが考えているよりもずっと錬金術は危険な水準にまで達しているのかもしれない。」

シャニーをここまで泣かせた敵、確かにその一面もある。
だが、エルピスにとって一番に印象に残ったものは、やはりあの凄まじい軍備であった。
メント文明での戦争の再来を想起させる、あの無機質な巨人たち。

「エルピス様、そりゃどういうことなんですか?まさかホムンクルスが量産されていたとか?」

ルアスにいた時、アンドラスを通じてよく白の騎士団について聞いていたレイ。
もちろんその時から、白の騎士団が帝国をも凌ぐ錬金兵器を持っているという情報は知っていた。
命が兵器とプログラムされる。心穏やかではなかったものが現実となったのかと、彼の顔は蒼い。

「いえ、創造の錬金術には手を出していなかったみたいだけど・・・恐ろしい軍事兵器がいっぱいだったわ。」

広大なピットの遥か奥、見通せない先までずらりと並んだ錬金艇。
その一つ一つが、街一個破壊することなど朝飯前の戦闘力を持っている。
もしあれがマイソシアの空を、海を埋め尽くしたら・・・そう思うと息が詰まる。終末の空を経験しているから。

「巨大戦艦にはたくさんの錬金砲が搭載されて、広いピットの奥までずらりと並んでいたわ。」

ゲイルもメルトも顔を見合わせて、今にも目が飛び出しそうなほど見開いている。
以前あの基地に捉えられたときはまるで気付かなかったが、そんな恐ろしい兵器を隠し持っていたとは。
そんなゲリラ軍団から戻ってきたのだ。この華奢で泣き虫なシャニーが。

「そんな戦艦にこの子真っ向から突っ込んだのよ?勇気があるというか無謀と言うか、こっちの寿命が縮む思いだったわ。」

今でも思い出すとゾッとする。かすっただけでもばらばらになりそうな破壊力の錬金砲。
砲塔の先の全てがこちらに向いているというのに、真っ向から強行突破を図ったシャニー。
相手がヴァンだったから良かったが、もしそうでなければ・・・そう考えるだけで震えが来る。

「マジかよシャニー!まったく無茶しやがって!ホント・・・ホントばかやろうが・・・。」

シャニーらしいといえばらしいやり方だが、今回ばかりはゲイルも驚きを隠せない。
一歩間違っていたら、もう二度とこの温もりを、この髪の香りを抱きしめられなかったかもしれない。
そう思うと抱きしめる腕は更に強くなり、頭をさすっていた手は強く彼女を包む。

「だって・・・ゲイルのところに帰りたかったんだもん。
 ゲイルだけじゃない、大好きなみんなのところに早く帰って、アルトシャンから守りたかったんだ・・・ああ・・・。」

やってからいつも不味かったやり方に後悔する。
だが今回だけは、あのまま何も動かずに後悔するほうが絶対に嫌だった。
愛する者たちの顔をずっと思い浮かべ自身を奮い立たせ続けたその緊張から開放されて崩れるシャニー。

「ホントあの時はもう終わりかと思ったわよ。白の騎士団の技術力は冗談抜きに凄まじいわ。」

自力で立っていることも出来なくなった彼女の腰と膝裏に手をやり抱き上げるゲイル。
彼の胸に顔を押し付けて泣きじゃくる妹分を見て、エルピスは安堵のため息をつくばかり。
あの時の強気な表情と今の泣き虫ではまるで別人のようである。

「射程も帝国軍のものより更に高性能だとか。・・・メントにタイムスリップしたような感じだったわ。」
「やつらは帝国と戦争でも起すつもりなのか・・・!」

ゾッとしたように過去を語る瞳が色を失う。それが全てを物語っている。
どれだけ恐ろしい力を白の騎士団が持っているのか。また、それほどまでに彼らが警戒する帝国の力。
それはメルトが一番に恐れていた構図だった。力で抑え込むための技術。
その力をねじ伏せる為の更なる力。抑止力としての力だけが一人歩きしている。
そして今、抑止力では我慢できなくなった者達が現実にしようとしている。最悪の末路を。

「カミユ自身はその危険を知ってはいるみたい。もし使って帝国と戦争になれば世界は終わりだって。」

彼の口ぶりは、どうにも帝国を作り上げた無機質軍団で押さえ込もうという意気込みではなかった。
あくまで抑止力としての軍備と言う事なのだろうか。いや、それにしてはスケールが大きすぎる。
いずれにしても、あの軍備は他でもない彼の指示による構築であることに変わりはない。

「随分人事みたいな言い方しやがるじゃねーのよ、だったら何のためにそんなモン作ってんだって話だぜ。」

珍しく怒りを吐き出すようにカミユをののしるのはレイだ。
彼はルアスの中で誰よりも、錬金術が破壊兵器として流用される事を懸念していた。
彼の働きかけで、抑止力としての力はあくまでその本分の範囲で収まっていたのに。
外から余計な連中が腫れを突くものだから、いつ虎が飛び出すか分からない。
その状況を作り上げた人物の言葉とは到底思えない無責任さに歯軋りする。

「彼は確かに言ったわ。アルトシャンを倒そうとしていた、とね。」
「シャニー、もう大丈夫だからな。くそったれめ、アルトシャンもカミユも!」

だが、結局破壊兵器の行きつく先は一つでしかない。
戦争を起すつもりはないといいつつ、アルトシャンを倒そうとしていたなど随分と虫のいいことを言うものだ。
誰もがエルピスのもたらした話に、憤りを隠せずに俯いていた。だが、ゲイルだけはその怒りを必死に抑えながら
今も腕にしがみついて離れようとしないシャニーを抱き上げてキスしてやった。
更に溢れ出す涙。こんなにも相棒を悲しませる連中へ改めて怒りが湧き上がり、敵地の空を睨む。

「よくわかんねえよなぁ。なんでアルトシャンを倒そうとするなら俺達と協力しないんだ?」
「そこなのよね、言ってる事とやってることがまるで反対なのよ、連中は。」

同じように南の空を見上げていたレイは、腕を組むと口元をへの字に曲げた。
どうにも理解できない。敵は同じはずなのに、何故対立しようとするのだろう。
打倒帝国というのは建前で、真の目的があるのかとどうしても邪推せざるを得ず、
今回ばかりは珍しくエルピスもレイの意見に頷いて、一緒に腕を組んでいる。

「俺にとってはカミユも敵だ!シャニーをこんな風に泣かせる奴は、何を意図していようと敵だ!」

だが、ゲイルだけはその姿勢をはっきりとさせていた。
見よ、このシャツを。シャニーの悲しみを受け止めた胸はもうびしょ濡れだ。
ここまで彼女を傷つけられて、フィアンセとして黙っていられるはずがない。

「落ち着けゲイル、お前がそんな風に取り乱してどうするのだ。」

怒りを抑えきれないゲイルの雄叫びをメルトが宥める。
彼の気持ちは痛い程に分かるが、今は感情に任せていい時ではない。
彼の怒りが、動揺が、すぐさまシャニーに影響するのだから。

「何だよメルト!それじゃまるでカミユを擁護してるようにしか聞えないぞ!」
「だから落ち着けと言っている。敵には変わるまい、だが少し考えてみるのだ。」

今回はゲイルもそう簡単には沸騰した頭が冷めそうにはない。ぽんと方に置かれたメルトの手を跳ね除けると目を血走らせた。
こんな大男に怒鳴られたら普通は尻込みしてしまうだろう。だが、さすが元騎士団長。
血の気に逸る若者の諌め方を心得ている。まっすぐゲイルと向かい合い、今必要な事を伝える。
敵だからこそ、冷静になって相手の意図をその行動から読んでいかねば、同じ過ちを繰り返すことになる。

「奴らは幾度となく我らの前に姿を現したが、武器を振るってきたことはない。それはアルトシャンとの大きな差だ。」

大きくまとめて、“敵”とまとめてみてしまうと、真実は埋もれてしまう。
メルトはアルトシャンとカミユの徹底的な差を見抜いていた。
少なくとも彼らにシャニーへの殺意はない。メルトはそう確信していた。

「そうね・・・今回確かにイカルスに連れて行かれたけど・・・。何と言うか、捕虜という感じではなかったわ。」

言われて見ればと、エルピスは口元に手を当てて当時のことを語りだす。
頷きながらイカルスでの日々を思い出していくが、浮かび上がるどのシーンもが平和な時間だった。
囚われの身であるはずなのに、シャニーには枷さえ施されていなかったぐらいだ。

「何だって?シャニー、喋れるか?もし喋れたら教えてくれ、カミユに何をされたんだ?」

メルトの推測ならともかく、シャニーと共にいたエルピスの独り言となれば話は別。
目をまん丸に見開いたゲイルは、今も自分の胸に顔を埋め、体に腕を巻きつけてしがみついているシャニーの頭を撫でながら
優しく声をかけて落ち着かせつつ、当時の事を本人から聞きだし始めた。

「確かに部屋に幽閉されていたけど、拷問とか何もなかったよ。それどころか、すごく良くしてくれた、カミユも騎士達も。」
「何だか姫を扱うようだったわ。だって、この子相手に様付けよ?」

海賊時代にはもちろん捕虜もいたから、捕まったらどんな扱いを受けるかは心得ていた。
ところが、イカルスでの生活はまるで捕虜のものとはかけ離れたものであった。
広い部屋、豪勢な食事、そして何よりも白の騎士団の者達の対応だ。
それこそ、ルケシオンでの生活よりも遥かに豪勢な毎日だった。
だからこそ、そんな日々を送る事に罪悪感が湧いていたのだから。信じられないが、エルピスも両手を広げて呆れるほど。
彼女に様付けして頭を下げる連中が、逆に怪しく感じられて警戒心が煽られていた。

「どういうことなんだ?あいつはずっとシャニーを狙って、そして今回さらって・・・。」

まるで話が分からなくなって怪訝な眼差しで南の空を見上げるゲイル。
カミユは敵のはずだ。だが、彼女への待遇は一体なんだというのだろうか。
思わずシャニーを見下ろしても、彼女も不安げな眼差しを向けるだけで無言に首を横に振る。

「彼の言うことを鵜吞みのするわけではないけど・・・。彼はこう言ったわ、私はあなたを救いたいと。」

誰もがエルピスが口にしたカミユの言葉に顔を見合わせた。
シャニーをさらった理由が、彼女を救うためだなんて、誰が信じると言うのか。
その裏に何か毒を仕込んでいるに決まっている。拳を突き上げるゲイル。

「はぁ?!ふざけたこと言うんじゃねえ!」
「私に当らないで欲しいわね?」

怒りを顕にして目を見開きながら怒鳴り散らすゲイル。
彼の反応など大方予想のついたエルピスは、ため息をつきながら彼を睨む。
うっとして拳を下したゲイルは、ばつが悪そうに外を向いて舌打ちしている。

「カミユは、私がトパーズを持っているからアルトシャンが命を狙うんだって、執拗にトパーズを要求してきたわ。」

彼の言い分も分からないでもない。アルトシャンは自分が天使だから狙ってきている。
その力を最大限に引き出す神界の聖玉を失えば、アルトシャンの目的も果たされるかもしれない。
だが、周りの反応は案の定、と言った感じでレイが早速に両手を広げだしている。

「そんなの、トパーズを奪うための口実に決まってるでしょーよ。で、もっちろん跳ね飛ばしたんだろ?そんな要求。」

10人に話をしたら10人が同じ答えを返すだろう。カミユたちの目的は最初からトパーズだ。
彼らが公言する話は、全てが真実を隠すための嘘。いつでも政治家というのは真実を語らない。
そんなことはシャニーも分かっているだろうし、そうでなくとも、
シャニーがトパーズを手放すはずがないと皆思っていたが、彼女は俯いていた。

「それが・・・確かに要求を跳ね飛ばしたのだけど・・・。」
「ごめんなさい!」

妹の様子を見て、すぐにエルピスが皆に事情を説明し始めた。
だが、これは自分の失敗だ。俯いて姉に頼ることは許されない。今、トパーズの主は自分なのだ。
シャニーは涙を浮かべながら、唇を噛んで震える腹に力を込めるとまず詫びを叫んだ。

「私が!私がフェイクだと気づかずに・・・カミユから奪い取ったつもりになって帰ってきちゃったの・・・。」

まさか逃亡を企て、トパーズを奪う事さえ相手の作戦の内だったなんて。
今思い出しても、あの時少しでもトパーズを確かめてさえいればと後悔ばかりが湧き上がってくる。
悔しくて、情けなくて、後から後から溢れる涙がぽろぽろと頬を伝う。

「な、なんだって?!じゃあ、今トパーズはカミユの下に?」

衝撃を隠しきれないレイは思わず後ろに退いて、目を真ん丸にしながらシャニーに問う。
彼女はもうこれ以上喋ることが出来ないくらいに咽び泣いていて、頷くので精いっぱいだ。

「あのやろう!どこまでも汚ねえ真似しやがって!早速取り戻しに行くぞ!」

ゲイルはシャニーを叱ることはしなかった。彼女がどれだけ極限の状態に置かれ、
その中でも勇気を振り絞って逃げてきたかを考えれば、それだけでも十分だった。
許せないのはカミユだ。これほどにシャニーを痛めつけ、挙句彼女の守りさえ奪って。
今、シャニーは身を守る術を失って危険な状態。これもすべて、あの仮面の男のせい、そう思うと居ても立っても居られない。

「待て、今イカルスに赴いたとしても奴に遭遇できるとは思えん。」

頭に完全に血が上ったゲイルは、船を探すべく海がある方角へと舵をきり駆け出した。
だが、すぐさま後ろから止めに入るメルトの手が彼の肩を掴む。
彼の言うことはもっともだが、ゲイルには受け入れるわけにはいかず手を払いのけた。

「じゃあどうしろってんだ!あいつがまた現れるまで待てって言うのかよ!そんなことは・・・!」
「その通りだ。奴は必ず現れる。シャニー以外では使えないのだからな。」

勢い良くメルトの手を払いのけ、言い終わりもしないうちにまた駆け出そうとするゲイル。
だが、今度は肩に痕がつくのではないかと思うほどにがっしりと掴まれ、走った痛みに振りかえってハッとする。
そこには、普段を更に砥石にかけたかのような鋭い眼差しが見つめていたのだ。
手を拱くわけではない。必ずカミユがまた現れることをメルトは確信していたのだ。
下手に居場所のわからない相手を追うより、迎え撃つ方が安全で確実だというのである。

「私もそう思うわ。使い方を教えろって言ってたけど、使い方も何もないのよ。彼はまた現れるわ。」

トパーズの使い方を知っている者は心得ている。
使うために必要なものが何かを。それを教えたところで、どうにもならないものだ。
それが分からない愚かな人間に困惑気味のエルピスだが、今回ばかりはそちらのほうが都合がいい。

「それに・・・彼らはいつでも来ようと思えば来れるはず。シャニーが戻ってこられたのも、彼らの技術を使ってのことだし。」

技術も兵力も、圧倒的に相手のほうが上。こちらから仕掛けるより、今回だけは待ちが得策かもしれない。
あれだけ焦っていたのだ。このまま諦めるとは到底考えづらい。
こちらから騒ぎを起し、アルトシャンの目にまたとまってしまっては今の状況では危険だった。

「くっ・・・それしかねえのか。」
「ごめんねゲイル、私がもっとしっかりしていれば。」

相手の思うようにされて、何もやり返せないとは悔しい限り。
口元厳しくなるゲイルを見上げ、シャニーはただ謝るしかできなかった。
本当は所持者の自分が守りきらねばならないはずなのだ。不甲斐なさにまた声が漏れ出す。

「何言ってんだよ、お前が無事に帰ってきてくれたこと、それが何よりも大事なことだよ。」

だが、ゲイルはぽろぽろと零れ落ちる涙を手で拭ってやるとふっと笑いかけた。
トパーズはまた取り返せばいい。だが、もしシャニーに何かあったら・・・そう思うと夜も寝られなかった。
こうして腕の中に戻ってきてくれた光を、もう二度と手放さないと言わんばかりに抱きしめる。

「そうよ、あなたの勇気にはホント驚かされるわ。
 これからもあの時みたいにがんばっていけば、きっといい結果がついてくるわ。」

温かく、そして強い、最愛の人の胸。それがおかえりと言って抱きしめてくれた。
もう嬉しくて、嬉しくて、顔を埋めて幸せを噛締めていると、背後からも包む声が。
いつも厳しい姉貴分の優しい言葉に、彼女はただ嬉し涙を流すばかりだ。

「カミユか・・・奴の真の意図が掴めんな。」

幸せの洪水の中にいるシャニーはゲイル達に任せ、こういう場面は苦手なメルトが席を外す。
彼は南の空を見上げながら、顎に手を添えて敵の思惑を探っていた。
トパーズを狙い、一体何をしようとしているというのだろうか。

「ええ、こういうとゲイルは怒るけど、彼はシャニーを傷つけようとする意図は見えなかったわ。」

彼と共に空を見上げるエルピスも、腑に落ちない表情を浮かべていた。
確かに敵ではある。だが、カミユは明らかにアルトシャンとは違う。
このまま、対立を続けて本当にいいものか、それさえ図りかねた。

「・・・とはいえ、やり方に正当性はない。一度話をする必要があるだろう。もちろん、トパーズを取り返してから、な。」

それでも敵には変わらない。彼はトパーズを奪い、シャニーを傷つけた事に変わりはないのだ。
そのことをきっちりと贖罪させた後、次の行動を考えるべき。真の敵を倒す為に。
メルトの目がエルピスを見つめ、彼女もまた頷くのであった。
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