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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter18 闇の騎士と光の天使

10話:邪蛇穿つ剣

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 灼熱の太陽がからからの大地に突き刺さり、僅かに残った潤いさえも奪っていく。
そんな眩しい光に包まれたここサラセンの端にある庵の中では、
今日もマヴガフが足をテーブルにかけながらティータイムを楽しんでいた。

「う~ん、最近のマイソシアのマナはなかなかにおいしいですね。
 これもおバカさん達のおかげ。もっともっとそうやってゲームを楽しんでくださいよ、ヒヒヒ。」

数ヶ月前までは平和なんて言う馬鹿げた暗黙の了解に縛られた何とも退屈で重苦しいマナが包んでいた。
ところが今はどうだろうか。それぞれの渇望が駆け巡り、実に清々しい。
そこに流れるマナは、この茶のように芳しく楽しませてくれるのである。

「マヴガフ様、シャニーたちがサラセンに向けて進撃中との連絡が。」

静かな時間を楽しみ、茶に鼻を近づけて優雅なひと時に身を任せるマヴガフ。
そこへ入ってきた教徒がもたらした報告に、彼はティーカップを置くとふっと笑って見せた。
良い香りのマナを運んできてくれるというのだ。このゲームでキーとなる大駒が。

「シャニー?あ~、構ってチャンに付き合ってられませんよ、放っておきなさい。
 神界の力も引き出せない成り損ねじゃ遊んでも足しにもなりませんよ。」

大駒とは言え、今はまだ盤上に出すつもりはなかった。
あまりにも弱すぎるのである。このままでは、何の役にも立たないというもの。
もっとしっかり熾天使として覚醒してこそ、最高のショーを彩る役者となれるというもの。

「そんなものなどハデス神がご復活為されれば全て無に帰します。今はハデス神をお救いするほうが先決です。」

部下達にもよく言っておかねばならない。蕾の内に摘み取ってはならないと。
説教を彼が与えている時、外では何やら格式高い馬車が彼の庵の前に到着していた。
中から現れた人物は、革靴でしっかりサラセンの砂を踏みしめ歩き出そうとしない。

「了解いたしました。では、我々は戦闘には参加せず作戦を遂行します。」

今は別にすべき最重要事項があると、以前からマヴガフには口酸っぱく言われてきた。
マヴガフの命に素直に従い、頭を下げるネクロ教徒。
中から声が聞こえてくる。口調からするに、間違いなくあの男がいる。
振るえる拳をぎゅっと音がするほどに握り締めると、ついに砂を蹴り歩き出す訪問者。

「私らが構ってあげなくても、どうせサラセンを侵せばヤアンが遊んでくれますよ。」

従順な信者の背中に付け加えるように笑いながら念を押す。
そう、このサラセンを今治めているのはヤアンである。サラセンを侵すという事はヤアンにケンカを売るということだ。
教徒が出て行った途端、彼の眼差しが蛇の如く切れ上がる。

「クククッ、面白いですね。見せてもらうとしますよ。サラセンを侵せば容赦しないと言ったのはテメェだからなァ。」

友情などと言う下らない妄想で今まで手を出してこなかったヤアン。
だが今回敵となるのは、そのユウジョーでカタく結ばれたシャニーである。
偽善者共が今回どんな前座を見せてくれるのか、思い浮かべるだけでせせら笑いが止まらない。

「マヴガフ大司教様。」
「何ですか、今度は。」

出て行ったはずの教徒がまた戻ってきたかと思ったが、どうやら別人のようだ。
どいつもこいつも、目元を動物の頭蓋骨で隠した黒装束に身を包んでいるためか、
ネクロ教徒はどれも同じように見える。だが、それで別に困ることはない。個性など、人形に必要ないのだから。

「帝都よりアルトシャン総統がお越しです。大司教にお会いしたいとのことですが。」
「やれやれ。あのぼんぼん、こんな時にのん気にこのような辺境に来るとは余程暇なんですねぇ。」

これは思わぬ訪問者である。さすがのマヴガフも一旦は耳を疑った。
今彼は白の騎士団に弄ばれ、シャニーたちに足元をすくわれ、建て直しに大変な時期のはずだ。
それがまさかまさか、お忍びでこんな大陸の端まで来るとは。余程の事情が・・・いや、そんなことは知れている。
そんなにも娘が、いや人形の事が大事だというのだろうか。馬鹿げた情に手を広げせせら笑う。
いくらハデスの血を引いていようとも所詮、人間の域は脱せない出来損ないということだろうか。

「いいでしょう、私の部屋まで案内してあげてください。賓客ですから、ネクロスープを用意しておいてください。」

そろそろ彼にも覚悟を決めて、身を固めてもらわねば困る。
いくら脇役とは言え、ショーというものは脇役が主格を引き立ててこそ盛り上がるというもの。
どうやらもう外で待っていたらしく、教徒が部屋を出るなり手招きしている。

「相変わらず気味の悪い装飾品だな。これが全てハデス神の趣味なのか?」

マヴガフの部屋に入って早々、アルトシャンはそれまでの怒りが吹飛んでしまいそうになった。
右も、左も、禍々しい空間。骸骨がいたるところに配置され、動物の頭、何者かの目玉、指、耳・・・。
そんな恐ろしい状況の中で品の良い男がソファに座り、足をテーブルに上げながら茶を楽しんでいるのである。
こんな魔境がマイソシアの中にあるものなのか・・・息を呑むばかりである。

「そうですが何か?生きるものは死ねば皆この形です。人は平等であるというハデス神のお導きです。」

恐々とするアルトシャンとは対照的に、柔和な笑みを浮かべるマヴガフ。
テーブルに飾ってある髑髏の眼孔からは香りの良い香の煙が立ち上っている。
その頭を撫でながら香りを楽しみ笑う姿は、どう考えても平常な人間ではない。

「で?この気色の悪いものを私に飲めというのか?」
「ヒドイ事を言いますね、これは私らネクロ教でも祭事の時にしか口にできない希少品なんですよ。
 悪を煮出し、そのエキスをハデス神に浄化してもらったものなのです。レアアイテムってヤツですよ?」

信教の自由を認めている以上、ネクロ教そのものを否定することは出来ない。
だが、目の前に置かれた皿に入っているスープに、さすがのアルトシャンも嫌悪感を隠しきれない。
赤いスープ、そしてその中に入っている明らかな形の具材。
どうやら異端者や背教徒へ裁きを下した後に作られる、神への捧げもののようだが
これをネクロ教は平気で呑むというから信じられない。目の前でマヴガフにすすられ、血の気が退く。

「だがな、ディドスープなら聞いたことがあるが、これはもはや帝国としても許しておけぬものだぞ。」

いくら宗教行為とは言え、今スープがあるということは誰かが殺められたという事。
これを野放しにしていたら、宗教行為という名目でどんどん彼らはエスカレートする。
行き過ぎに警鐘を鳴らすのだが、マヴガフの口元は上を向いた。

「クククッ、私らネクロ教を裏切ればどうなるかと言う見せしめにはちょうどいいでしょう。そうは思いませんか?」

― お前も裏切れば次はこの椀の中に沈む。
まるでそう言われたかのような錯覚を受けて、うっと椀を見下ろすアルトシャン。
だが、保身の為にここにきたわけではないことを改めて言い聞かせ、マヴガフを睨む。

「アナタとて口に合わぬわけはないでしょ?
 ハデス神からの祝福、それは美酒であるはずですよね?同じ血を引くアナタサマの口にはネ。」

虚勢を塗りたくって何とか威勢を保っているアルトシャンの様子を楽しむかのように、
マヴガフは彼の顔を舐めるように見つめた後、椀へ目配せして嬉しそうに語る。
だが、アルトシャンは結局顔を近づけることさえせずに椀を置いてしまった。

「何度も言わせるな。私の血はハデスの力かも知れぬが、思想までハデスに染まっているわけではない。」

自身にハデスの一族の血が流れている。それは信じたくない絶望だった。
だが、それでも彼はこの血が、アビトレイトとして世界を救った血として前を向いてきた。
どんな力も、その者の意志によって色を変える物だと信じて。

「まぁだそのような事を?そろそろ現実を見つめるべきだと思うのですがねぇ・・・。老後の人生設計ってのは大事ですよ、ヒヒヒッ。」

その決意を、マヴガフはあっさりと否定してせせら笑ってきた。
どんな理屈をつけようとも、現実逃避に変わるまい。流れる血は、人間が忌む悪魔の血。
だがそれはあくまで人間の視点。神の視点で見れば、人間こそが今排除すべき癌だ。

「どういう意味だ?私は常に現実を見つめ、国をあるべきへと導く為に動いているつもりだ。」

もちろんアルトシャンの眉間にシワが寄ったのは言うまでもない。
今まで身を削ぐ思いで国に尽くしてきたつもりなのに、マヴガフは何も見えていないというのだから。
彼の反論に、マヴガフは心の中で哄笑していた。国を、人間を、そんな事を言っている時点で既に何も分かっていない。

「ふふふ、面白いですね。結果も伴わない騎士団の演説をいつまで人間共が信じていますかね?
 もどうっちについたほうが有利なのか、連中きっと察し始めていますヨ?」

どっちに転んだところで、彼の立場はもはや変わるまい。これ以上現実逃避させないためだ。
マヴガフは他の官達とは違い、すべての嘘を払った真実をアルトシャンへとぶつけてやった。
人間の味方気取りをしようとも、結局このままでは彼は悪役だ。ならば素直になればいいのに。

「イヤァ、人間ってホントウゼェですよね?こういう時だけ妙に勘が鋭いんですから!
 希望の息の根を止めるどころか、地方はまるであの小娘を英雄扱い!これじゃ総統のメンツ丸ツブレ!」
「これから手立ては考えていけばいい。だがな、マヴガフ、もう一度警告しておくぞ。」

頭に手をやりながら、さも楽しそうに目を細めて笑うマヴガフ。
どれだけ彼の口元が蛇のように裂かれ上向こうとも、アルトシャンには反論が出来なかった。
彼が言っていることは全て事実なのだ。神経を逆撫でる笑い声を堪えながら、アルトシャンは平素を装う。
それすらマヴガフが楽しんでいるとも知らずに。

「お前たち暗黒教団は政治に口出ししてはならぬ。最近お前達の行動は度が過ぎている。」

定められたルールの中で大人しく行動していれば、何も言うつもりはなかった。
だが、彼らは少しずつ、少しずつそれでも確実に勢力を伸ばして一気に阻む壁を打ち壊してしまった。
今や彼らを止められるものは誰もいない。帝国でさえ手を焼いているのだ。

「ククッ、こんな混迷の時代です、私らに救いを求める者も日に日に膨れ上がっていますよ。
 私ら、特別布教活動もしていないのにね。あぁ、今日もルアスの貧困層がひとり入信しましたかねえ。」

まさか帝国の一番力が及ぶルアスからまでも民が離れていたなんて。
マヴガフからもたらされた新たな真実を前に、堪らず目が震えるアルトシャン。
その目を舐めるように見つめてくるマヴガフの目が言葉にせずとも言っている。
引き金を引いたのは自分達ではなく、お前達の愚かさが生んだ結果である、と。

「熾天使を倒すことは必要な事だ。だが、その為に暗黒神に世を委ねる事はアスクは認めない。
 これ以上国政へ首を突っ込むような事があれば、お前達も反逆者と看做さざるを得なくなるぞ。」

ネクロ教と同盟を組んでいるのは、熾天使ことシャニーを亡き者にするためだ。
全ては世界をあるべき進化の道へと導き、帝国を不朽不滅のものにするため。
だが、ネクロ教の暴走がこれ以上エスカレートすれば、今度は彼らに世界を破壊されてしまいかねない。

「どーぞどーぞ、できるものならどーぞご勝手に。アナタもご存知のはずだ、今の私らの影響力をネ!
 ヘタに手を出すと痛い目にあうのはアナタですヨ、分からないわけないですよねぇ?ケヒヒヒッ。」

世界を統べる帝国の政権トップからの直々の警告。目を怒らせながら警告を発するアルトシャン。
数ヶ月前までなら、その言葉に誰もが慄き彼の前に跪き頭を下げたことだろう。
だが今でもビビっているのは帝国の中の現実逃避者だけ。
マヴガフのまさかの反論に、アルトシャンはむっとしてわなわなと身を振るわせ始めている。

「ハデス神の祝福を受けた私らがその気になれば、腐りきった帝国の足元など一瞬で砕け散りますよ。」
「なんだと?今の言葉は国家簒奪を狙っているという意思表示と捉えていいのか?」

それでも思い切った行動に出ることができない理由、それをマヴガフが次々まくしたててくる。
成果の上がらない中で下がる指導力、それに比例するように膨らむネクロ教の力。
何よりも恐れているのは、身内の弱き足元。矛盾だらけ、嘘だらけ。
腐りきった足元は一箇所崩れればあるべきへと正す前に全てが倒壊する恐れさえ孕んでいた。
その弱みを知り、脅しをかけてくるマヴガフ。立場を逆転させようとする彼に、アルトシャンは声を荒げた。

「おっかないこと言わないでくださいよ総統サマ。
 私らはその腐った足元を再生する手伝いをしているんじゃないですか~、勘違いしないでください。」

だが、その怒りをまるで柳か、のれんかというようにあっさりとかわしてみせる。
あくまで協力関係であることを強調する。世界をあるべきへと導き、帝国の更なる繁栄を願う同志と。
にこにこと自分達を懐刀だと主張する彼。その笑顔を見ているともうどうしても辛抱ならなかった。

「ならば聞く、どうして我が娘にハデスの血の盟約を交わさせた!」

激務の中、わざわざ時間を作ってこんな辺境の地まで来た本当に理由はこれだ。
今までじっと堪えてマヴガフの言葉を聞いてきて、彼は確信したのだ。
アンドラスの意志ではない、彼女はこのマヴガフという男の毒牙にかかってしまったのだと。

「ア~、簡単なことですよ。ハデス神の御意だからです。神はアンドラスをいたく気に入っておられます。
 彼女もまたハデス神の器となることを望んでいた。だからこそ契約に至った。それだけの話です。」

あくまで契約は、互いの意志が合致したが故のものであることをさらっと告げるマヴガフ。
だが、もちろんそんな事を言われて引き下がるわけもない。それどころか、アルトシャンは目を血走らせた。

「嘘をつくな、娘はあの時ハデスとの契約だったとは知らなかったと言っていたぞ!」
「バカですネェ、知らなくとも察するべきでしょ?光を破る力を望むか聞いたその段階でネ。
 どーせ察していたところで彼女は契約していましたよ。あれだけ自分に自信がないんじゃねえ、さぞ総統もご心労が募る事でしょうに。」

両手を広げながら愚かな親子を柔和な笑みを浮かべながらせせら笑うマヴガフ。
普通の人間ならば察するだろう。ネクロ教が、光を破る為に力を与えるというのだから。
それさえ分からない人間は、素直に操り人形として動いていたほうがよっぽど幸せということである。
現に見よ、あれだけ自信のなかったアンドラスは力を手にいれシャニーの前で何と尊大な態度を取っていたことか。
憤怒を顔に迸らせるアルトシャンとは対照的に、マヴガフは彼の横を通り過ぎるとのん気にお茶を入れだしたではないか。
周りには茶のいい香りとマヴガフの鼻歌が広がり、あたかも人事と言った感じだ。

「今すぐにそんな契約は解除せよ!これはアスク帝国総統としての命令だ!」

あまりにも小ばかにした態度に、ついにアルトシャンの怒りが頂点に達した。
机に拳を強く打ち付けてマヴガフに怒鳴りつける。だが、彼は蛇のような細い目をしたまま
困ったように眉をひそめて口の元をゆがめるだけ。

「私に言わないでくださいよ、無理な相談ですって。すべてはハデス神がお決めになられることなんですから。」

自分はただ、神に命じられたとおりに動いているだけ、そう言いたいようだ。
彼はそれだけ言うとまたアルトシャンへ背を向けて、ティーポットを高く掲げると茶を注ぎだす。
重い空気の中、茶のそそがれるいい音と香りだけが時を動かしていく。

「おっと?どうしました?命令に従えないのならばこの場で切り倒しますか?そのご自慢の剣術で。
 おーコワイコワイ、できるものならどーぞご自由に。あの娘の命、私が握っているも同然なんですがね。」

まるで本気で受け取らないマヴガフに、ついにアルトシャンの手が剣へと伸びる。
だが、その時を待っていたかのように茶を注ぐ背中からせせら笑う声が聞こえてきた。
あまりに挑発的な態度だが、最後に投げつけられた楔にピクリと手先が止まる。

「き、貴様、アンドラスを人質に取ろうというのか!」
「なぁ~に人聞きの悪いことを。」

アンドラスを盾に取られたら何もできないことをマヴガフは知っている。
思わず剣から手をどけて後ろに退くアルトシャンだが、ティーカップを持って振り返ったマヴガフは
アルトシャンの言い方が不満なのか、また目を蛇のように細めながら眉をひそめる。

「アナタはホントに欲張りですネェ。まるで子供みたいじゃないですか?
 私はむしろ恩義を感じてもらいたいぐらいなんですがネェ~。」

傍にあったレモンを手に取ると、懐から取り出したバタフライナイフでささっと輪切りに。
茶に添えて持ってきたマヴガフはアルトシャンへ一杯を差し出すと、ソファに座り自分も香りを楽しみだす。
一口して実に楽しげな表情を浮かべると、彼はアルトシャンをその細い目で見上げた。

「アナタ、何か忘れてません?光と闇・・・相反する力が同じ肉体に宿せるはずがないでしょ?」

今、アンドラスの体には、互いが害しあう二つの力が流れている。
普段ならまずありえないことだが、それが今現実にある。それを叶えられているのは、マヴガフのおかげだというのである。
もし彼の力がなければどうなるか、その想像は難くない。

「・・・マヴガフ、これだけは言っておく。これ以上アンドラスに関わるな。」

だが、総統として、父としてアルトシャンが言えることは変わらなかった。
いくらマヴガフが彼女の命を繋いでいるとしても、これ以上彼が関われば娘は幸せを奪われてしまう。
何を考えているか分からない柔和な笑みを睨み降ろし、きっぱりと言いつけるが相手は涼しい顔。

「血の盟約が果たされた今、あとはハデス神の器として彼女が成長するのを見守るだけですよ。」
「そんなことはさせぬ!何度も言わせるな、暗黒神に委ねるような事はしない!」

やはりそういうことだった。マヴガフはアンドラスの膨大なマナに目をつけたに違いなかった。
このままでは、あの可愛いアンドラスがハデスの操り人形となってしまう。
そんなことだけは絶対にさせまいと、アルトシャンは声を荒げて拳を叩き着けた。
テーブルの上のティーカップが揺れ、跳ね飛んだ茶がマヴガフの顔に飛ぶ。
それを舌でチロっと舐め取ると、彼は口元を釣り上げた。

「ご心配めされるな。あの娘には復活の為の器となってもらうだけ、神が呑む美酒を湛える杯としてのネ。
 何も彼女がハデス神となるわけではありませんし、アナタは今までどおり己のアルベキを突き進めばいいんじゃないんです?」

アルトシャンがどうにも勘違いしてかわいそうなので、少しだけ事実を伝えてやる。
簡単なことだ、あんな出来損ないの人形では、ハデスの器なんて役不足と言うだけ。
そして、人間風情がどれだけあるべきを目指そうとも、神の意志の前ではまるで無意味ということ。
人間のママゴトに付き合っている時間など無駄なだけである。

「あぁ、私も一つアドバイスを差し上げましょう。下手な真似をすればハデス神がアナタの娘を裁きますよ。
 よぉ~く肝に銘じておくことですね。念のためアナタの部下達にも言っておきましょうか?妙な行動は慎めとネ。」

彼らに望むことはただひとつ。邪魔をしないで欲しいということだけだ。
出来損ないのやることに望むことは何も無いが、楔を打っておかねばちょこちょこと邪魔で仕方ないのだ。
アルトシャンといい、あの連中といい。こっちはまだ楽だ。決定的な急所を既に握っているわけだから。

「私はお前達がこれ以上表にしゃしゃり出てこなければ何も言うつもりはない、宗教は宗教の中だけで神を讃えておればよいのだ。」

それでも武人とは哀れなものか。本当なら泣いてすがりつきたいくらいだろう。
空っぽにマナを詰め込んだだけの人形にここまで入れ込めるというのも感服するが、
これだけ隙だらけの総統では、国の守りなどさぞお留守になっていることだろうに、彼にはそんな事どうでもいいようだ。
足元は腐り、そして中もスカスカで、アスクに変わってハデスの千年帝国が世界の趨勢を握るのも時間の問題というわけだ。

「いいか、私はアスク帝国総統、思考の中心はあくまで国だ。国益にならない要求を強要するならば断固とした判断を下す。」

だがそれでも彼はまだ総統のつもりのようだ。たいそうな演説を目を細くしながら聞いてやる。
すると何とカッコイイのだろうか。断固とした判断などという政治家お得の曖昧なセリフが飛び出したではないか。
コレは面白い。また舌をちろっと出して口元に笑みを作りながらその覚悟を聴いてみることにした。

「おぉ・・・カッコイイですね。それはたとえば?」
「娘をこの手で斬る事も辞さぬということだ!」

コレは驚いたと、マヴガフの細い目が見開かれ黄金がアルトシャンを見上げる。
自分で自分が口にした言葉に震えるアルトシャン。娘には幸せになってもらいたい一心。
なのに自身で彼女の幸せを奪うようなことを口にしたのだ。
だが、彼女がハデスに飲まれてしまうのを見ることも辛い。己を落ち着けながら、彼は息を吸い込み目を閉じる。

「私は彼女の父だ、彼女を幸せにしてやる義務がある。お前達の操り人形となるくらいなら、手段は選ばぬ!」

強く指をマヴガフへ衝き向けて眼力で警告を発する。二度と彼女に近づくな、と。
今なすべきは、彼女を幸せにしてやること。それは彼女を殺す事ではない。
生きて、生きて幸せになって、アスクを支える光となって欲しい。その為になすべきは今一つ。
ばっと背を向けると、彼は庵の外へと駆け出して馬車へと飛び乗った。

「ヒヒヒッ、武人とはどーしてこうも愚かなんでしょうね。操り人形?クククッ、面白いですね・・・。
 操られる為に生まれた命のクセに、操られなければ何もできない人間が何を躊躇っているのでしょう。」

彼はどうにも勘違いをしているようだ。操る主が変わるだけだというのに。
もともと、人間は人形なのだ。善神共が自分達の進化のために用意した操り人形なのである。
それを忘れた人間達が本気で見せる演技、全てが喜劇であった。

「素直になれよ・・・。もうすぐテメェらを操る極悪人を俺様が仕留めてやるからヨォ・・・!」

人間に構ってやる時間はないが、せっかくあの忌々しい善神の束縛から解放してやろうというのだ。
小さくなる馬車を見つめた黄金は、その口元を邪蛇のように大きく開くと
悪意をたっぷりと篭めたせせら笑いと共に神への服従を迫るのであった。
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