FC2ブログ
現在の閲覧者数:

スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←12話:僅かな綻び →14話:戦い以外に出来ること 後編
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  • 【12話:僅かな綻び】へ
  • 【14話:戦い以外に出来ること 後編】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter18 闇の騎士と光の天使

13話:戦い以外に出来ること 前編

 ←12話:僅かな綻び →14話:戦い以外に出来ること 後編
 昼下がり、食事も終えて旅路を再会したシャニーたち。
しばらくはいつも通り順調に旅を進めていたのだが、なにやらシャニーが上の空。
口元に手を当てながら空を見上げてぼうっとしている。

「うーん・・・。うっ・・・。」
「どうした!おい、大丈夫か!」

それは突然の出来事だった。後ろで何かが地面に落ちるような音がしたと思うと
シャニーのうめき声が聞こえ出したものだから焦って振り向くゲイル。
そこには座り込んでしまっているシャニーの姿があり、慌てて抱きかかえる。

「うん、大丈夫、大丈夫・・・あはは・・・。」
「・・・背負ってやるから木陰まで行くぞ。」

心配させまいととっさに笑って見せるが、明らかにいつもの笑顔とは違う。
引きつった口元は真っ蒼で、作っていることが丸分かりだというのにどうして隠そうとするのか。
どうやらゲイルにばれていると分かると、シャニーは申し訳なさそうに見上げてくるが
彼はそれ以上彼女に何も喋らせずに、さっとそのまま彼女を背負うと歩き出した。
大きくて強いまるで山のような背中の上で、シャニーなす術なく身を任せる。

「ふー。はー、楽になった。」
「ったく、お前が大丈夫って言う時は必ず大丈夫じゃないからな。」

さっきの死にそうな表情はウソだったのかというほどに、今は血色がいい。
木陰にもたれ、水をちょっと飲んだだけで彼女は普段を取り戻し元気100%だ。
だが、回復を喜ぶ彼女を見下ろすゲイルは、腰に手を当てて呆れていた。

「えー、じゃあホントに大丈夫な時はどうすれば良いの?」
「え・・・、そ、それはだな・・・。」

いつでも苦しかったら言えと叱ったはずなのだが、意外なカウンターが飛んできた。
皮肉ったわけではない、純粋な疑問を湛える瞳が答えを求めて見上げてくる。
たまらず彼は視線を逸らすととっさに知恵を絞るがなかなか出てこない。

「本当に大丈夫ならちょろちょろ動き回ってるからすぐ分かるわよ。ホント目が爛々として子供みたいなんだから。」

その窮地を救ったのは意外にもエルピスだった。
別に彼を助けてやろうと思っていったわけではなく、ただ妹の単純さを呆れただけだが。
もちろん、十八にもなって子ども扱いされて、シャニーは座ったまま頬を膨らせて肩を怒らせた。

「ひっどーい、エルピスは私のことを子ども扱いするわけね!」

昔からそうだ、十六のときはまだ子供と言われても仕方ない年齢だったがもう今は立派な成人である。
確かに背も低いし、ちょっと子供っぽい顔をしているのかもしれないがレディーに対する言葉としてはあまりにも酷い言葉。
すぐさま抗議するのだが、ゲイルもエルピスも顔を見合わせているではないか。
あからさまに、違うのか?とでも言いたげでシャニーの頬がどんどん膨らんでいく。

「あら、姉が妹を心配するのは当然でしょ?かわいいイモウトですもんねえ。」
「ぐぐぐ・・・。」

ゲイルならいくらでも反論できるしコテンパンにも出来るのだが、エルピスはそうも行かない。
白い歯を見せて何ともいたずら好きな笑みを浮かべながら頭を撫でてきたではないか。
何故かその手には鞭が握られていて、今は病人を装っておいたほうがよさそうである。

「そんなことより、何があったんだよ。」
「故郷のことを少しでも早く思い出そうと思ってさ。後もう少しで思い出せそうってところで突然吐き気が来ちゃって。」

何だかシャニーがかわいそうになってきて、助け舟を出してやる事にする。
すぐさま彼女は親指を立てて目で言ってきた。よくやった、と。
話題をばさっと変えてエルピスのペースから脱出すると、経緯を説明し始める。
その内容から、彼女が焦っている事を感じ取ったゲイルは彼女の横に座ると、腕を伸ばして包み込む。
頭を撫でながらしっかりと抱きしめてやると、彼女はくっついてきた。

「だから言っているだろう、無理に思い出そうとするなと。」
「でも、やっぱり思い出したいよ。私の大事な帰る場所・・・私を待ってくれている人が一杯いるって聞くと余計にさ。」

前から彼女は何とか思い出そうと自分に無理を圧し掛けて絞り出そうとしてきた。
もちろん結果は今回と同じでその都度メルトは注意してきたのだが、彼女はどうにも不安でならないらしい。
ヴァンから貰った手紙を取り出して中を見つめる彼女の眼差しは、
自分の帰還を願ってくれる故郷の仲間の無事を喜びながらも、彼らを思い出せない悲しみに歪んでいた。

「気持ちは分かるが、焦ればそれだけ隙を生む。」

彼女の悲しみは、毎日のように聞かされているからメルトも知っている。
だがそれでも彼がこうして彼女を叱るのは、今は彼女のすべき事へ全てを注ぐべきだからだ。
不安、恐れ、悲しみ、それらは隙を生む。隙を見せれば、彼女が望む未来は閉ざされてしまうのだ。

「今の私に、故郷の為にしてあげられることはないかな・・・。」

思い出そうとすればするほど、そしてそれが出来なければ出来ないほど。
故郷への思いは募るばかりで、彼女は俯きながらぽつりと漏らした。
仲間達から手紙と言う形で素晴しいプレゼントを貰ったのだ。何か恩返ししたかった。

「そりゃあお前、少しでも早くこの戦いを終わらせてアルトシャンを止めれば帰れるじゃねーか。」

元気のない声が心配になったのか、彼女の頭を撫でだすゲイル。
彼女が今一番にできる故郷への恩返しは、アルトシャンを一刻も早く止める事だ。
だが、彼女はゲイルを見上げて頷きながらもまだ何か考えている様子。

「うん、そうなんだけどさ、戦い以外で故郷の為に何か出来ないかなって。心配してくれている皆に、私の無事を伝えてあげたいし。」

どうやらヴァンが気を利かせて故郷の者達に無事を伝えてくれたようだが
やはり自分の手で彼らを安心させてあげたいとずっと思ってきた。
アルトシャンを止める前に、彼らに何かささやかでもプレゼントがしたかったのだが、なかなか良い案が浮かんでこない。

「翼があれば飛んで帰れるのにね。人間ってどうももどかしいわ。」

探偵にでもなったつもりだろうか。口をへの字に曲げながら、顎に手を添えて恰好を決めながら真剣に悩むシャニー。
その様子を、頭の後ろで手を組みながらため息をついて見下ろすエルピス。
神界一の韋駄天と呼ばれた天使の時代なら、こんな大陸ぐらい端から端まで飛んだって数時間だった。
だが人間は精々走るぐらいしか出来ない。僅かな距離だというのに遥か遠く、どうにもじりじりする。

「今のルケシオンが必要としているものか・・・。」

シャニーが故郷の事を誰よりも愛していることは、ずっと傍にいて肌で感じてきた。
それは帝国に追われ、自分の身を守ることで精一杯なはずの毎日であっても変わらなかった。
フィアンセとして、そしてルケシオンに帰る一人として、ゲイルも腕を組み眉に力を篭めだす。

「俺はお前の無事を手紙にしたためるのが一番だと思うけどな。」
「手紙は止めたほうがいい。どこで検閲されて居場所を特定されるか分からん。」

やっぱり、今みなが知りたいのはシャニーの無事。
彼女の文字で、言葉で彼らに感謝を伝えれば、それが一番の喜びとなるはず。
そう思ったゲイルの提案はメルトの一言で却下された。尤もな理由にゲイルも何も言えない。
以前一度だけ手紙を送ったこともあるが、あれもスオミを奪還した直後にリュミエに託したもの。
郵送を使うとなると要らぬ危険が生まれてしまうことは優に想像できる。

「そうなんだよな。そうなると・・・うーん、ルケシオンが必要としているもの・・・。」

言葉で伝えられないのなら、もうルケシオンの為に人知れず支えるという手しかない。
だが、旅先で何も手元に無い中で、遠き帰る場所の為に出来ること。
なかなか思い浮かばずに、今度はゲイルも唸ったまま顔は俯いたまま。

「シャニー、お前はルケシオンにたくさん子供達を残してきたな。」
「うん・・・。みんなのこと心配だけど、特に子供達の事が心配で・・・。」

いつも夜になると故郷がある方角を見上げて、じっと祈りを捧げているシャニー。
彼女が祈っているのは、故郷に残してきた多くの仲間の無事だ。
その中でも、子供が大好きな彼女はいつも子供達の名前を一人ひとり呼んでいた。
メルトはその優しき熾天使の顔を思い出していたのである。

「彼らの為に、お前は何をしてやりたい?」
「学校を建ててあげたい。自分で考える事の大事さを知って欲しいんだ。」

あれだけ悩んで出てこなかったのに、メルトからの問いにぽんと答えが飛び出てきた。
漠然と考えてもなかなか出てこないが、こうして誰の為かを考えれば自然と想いは浮かんでくるもの。
もっとも、いつもバーに来ては子供達の将来のことを語りに来ていたシャニーの相手をしていたメルトにとっては
彼女がどんな答えを返してくるかは大方予想がついており、答えも決まっていた。

「なら、金だ。」
「おいおい、随分と生々しい答えだな。」

希望の熾天使である。何か神秘的なイメージとは明らかに真逆の答え。
振りまくものが希望ではなくお金だとは、何とも世知辛いものである。
コレにはさすがにシャニーも苦笑いするしかなく、ゲイルがすぐさま突っ込みを入れた。

「人間の世界で何が一番嫌いかってお金よね。あんなものの為にあくせくすると思うとうんざりだわ。」

エルピスも希望の熾天使というイメージを汚されて不満の様子。
あんな小さなコインに自分が縛られていると思うだけで何だか気に入らない。

「そうそう!計算するのだりーしな!」
「・・・アリアンと大違いだわ・・・。」

急にテンションが下がり、話から撤退していくエルピス。
どうやら意見に乗っかってきたのがゲイルだったのが気に入らないらしい。
あんな脳筋と同類だと思われては堪ったものではない。何より、アリアンならお金の管理だって完璧にこなしてくれるのだ。
計算がだるいだなんて、まるで別次元の話で共感されて逆にうんざりのご様子。

「今のルケシオンは資金に苦労している。正体を明かさず寄付としてなら早々足はつくまい。」
「そっか・・・。よぉし。」

メルトが言うとどうしてこうも納得できてしまうのだろうか。
確かにお金を送るなんてちょっとロマンにかける気もするが、大事なことは故郷の助けになることだ。
今出来ることが限られているなら、その中で最善を尽くす。シャニーは一つ決心して拳をぐっと握った。

「どうしたんだ、何するんだ?」

何か閃いたように目が輝くシャニーに、ゲイルも興味津々。
彼女は一つ頷くと、嬉しそうにゲイルを見上げて爽やかに笑う。

「ね!明日には村に着くよね!」
「おう、調達とかで一日泊まる予定だぜ。」

一応、毎日計画を立てて旅をしている。地図を広げるとびっしり予定が書き込まれていて
明日の午後には村に到着して、今後の確認と物資調達を行う予定だった。
地図に穴が空くほどしっかりと見つめたシャニーは頷くと拳を突き上げた。

「分かった!じゃあ今日は早く寝る!」

これから何かおっぱじめるつもりかと思っていたゲイルの肩がずるっといく。
いつもパズルをやったり小道具を作ったりして、何かと夜更かしが日課の彼女なのに、やたらといさぎが良い。

「・・・おいおい、何かすげえ意気込んで寝やがったぞ・・・。」
「何か閃いたのだろう。いいことだ。」

いつもの相棒らしからぬ行動。何より、寝るとはそんなに意気込む事か。
ぶんふんと肩を張り、鼻息荒く歩いていった彼女は気合を入れて荷物の中の寝風呂を睨むと気合を入れて歩き出した。
毎度毎度、ことあるごとに大げさな彼女だが、寝ることにまでこうだと呆れてしまう。
だが、メルトは腕を組んだままも先頭をずんずん歩いていく彼女を細い目で見つめる。

「ああ、あいつ、いつもルケシオンの事考えてやがる。
 2年前・・・エズダー・シアと戦って旅をしてたときを思い出しちまうぜ。毎日あいつは故郷に祈ってた。」

婚約者としての本音はもちろん、もっと自分を大事にして欲しい。
だが、彼女はいつでも自分のことよりも故郷に残してきた者達の幸せばかり祈っている。
2年前は彼女によく言ったものだ。もっと自分の幸せを考えろ、と。
だが、今となってはバカだったなとも思う。まるまる故郷の幸せが彼女にとっての幸せだからだ。

「そうね、デルクに捕えられた時も、どんなに辛くても毎日祈っていたわ。愛の深さをあの時も感じたわ。」

まだ、彼女の心の中に捕らわれていたころ、エルピスは何とか彼女の体を乗っ取ろうとしていた。
だが、傍で見せ続けた彼女の想いがエルピスを動かした。今でも妹分のことは誰よりも信じている。
自分も愛した者達を、大きな愛で包もうと日々戦う彼女を支えてやりたいと。

「だが、あのときより彼女はおとなになった。我々もついているし心配はあるまい。」

かなり命綱のない無茶をして、ようやく掴み取った平和。
その平和がまた崩されて、彼女は何とか取り戻そうともがいているが、きっとあの時のような無茶はしまい。
もう今は、彼女は一人ではないし、生きなければならない大切さを知っている。
知る事、知って行動を変える事が出来ること、それが成長ということだ。

「何か故郷の為にできるっていう達成感があるだけで大分違うもんな。」

相棒のゲイルは知っている。普段朗らかに見せていても、その心の中は不安で一杯である事を。
きっと、遠い故郷の為の旅とは言っても、傍で支えられないことが心苦しいに違いない。
だからこそ、彼女はきっと何かを思いつき、行動しようとしている。

「焦りが記憶を無理に掘り起こそうとしている。彼女の不安を取り除けるのは我々と、そして彼女自身だけだ。」

今は深く詮索しないでおこうと周りを見つめるメルト。
どれだけ周りが支えようとも、本人がその支えを助けに自身を律する事ができなければ意味がない。
彼女自身がその不安を自分で拭う手段を見つけられるのなら、それが一番だ。

「ああ、あいつは強いやつだけど、からっきし弱いトコももろ見せにしてやがるからな。」

彼女は人間を信じ切っている。人の心を聞くために、彼女はいつも自分を相手に隠さない。
そのまっすぐな姿勢が多くの人を動かしてきた。だが、ゲイルにはその諸刃の刃が心配だった。

「強さと弱さ、両極端さは敵に付け入る隙を与えやすい。お前が一番彼女の心を聞けるのだ、大切にしろよ。」

ゲイルの肩にぽんと手を置いて、強く瞳を見つめるメルト。
彼は自分達には立ちいれない彼女の心の奥底まで歩み寄れるたった一人の男だ。
彼女を守ってやれ、その強い想いをゲイルに託す。

「あいつは幸せにするんだ、絶対に。」

力強く頷いてみせたゲイルは、ますます小さくなるシャニーの背中に一つ声をかけると、
手招きする彼女に誓いを捧げるように拳を固く握り締めて短く覚悟を口にした。

「そうよ!しっかりしないと分かってんでしょうね!」

いきなりバン、と背中を勢いよく叩かれてふらつくゲイル。
振り向けばそこにはエルピスの手があり、彼女はよろけた自分が振り向くと
両手を腰に当てながら強く迫ってくるものだから、彼はたじたじ。

「は、はい。ああ、こえーよこの精霊。」

どうにもエルピス相手だとからっきし弱いゲイル。
落ち着けといわんばかりに手を彼女の前に持ってきて説得するとようやく刺す様な目をどかしてくれた。
ほっと胸を撫で下ろすゲイルにふっと笑うメルト。ガタイの割に本当に優しい男だ。


「よしっ・・・と!」

翌日、一番に早寝したシャニーが一番に早く起きていた。
彼女は熟睡するゲイルを叩き起こすと、しっかりとバンダナを頭に巻いて準備万端。

「ゲイル!起きて!」

相棒が一向に来ないので見に行くと、彼は隙を見つけてまた寝転がっていた。
もうっと困った顔をした彼女は、寝袋ごと彼を揺らして起しにかかった。
たまらず丸まるゲイルだが、シャニーが許してくれるはずもない。

「んあ・・・おいおい、まだ4時半だぞ・・・。」

一度起きてまた寝ると、眠気が更に頭の中にずしんと来る。
やむなく目を開けるゲイルだが、時計を手にとってまたまぶたが閉じかけた。
いつもならまだ2時間は寝られる二度寝の時間なのだ。

「そーだよ!行くよ!」

ところが今日は彼女もそれを許してはくれず、寝袋の端を掴むとそれを持ち上げながら転がしだした。
重力を使って彼は次第に寝袋から絞り出されていく。
ついに放り出されてしまったところにぽんと着替えが放り込まれて、彼女は町の方へと手を向けて急かしてきた。

「行くよって・・・どこ行くんだよ。」

大きなあくびをしながら、受け取ったシャツを頭に被る。
無理やり起されたせいで、まだ頭が正常に起動しておらずぼんやりする。
その目の前で、シャニーは屈伸したり飛び跳ねたりとやたらと気合が入っている。

「村の朝市!買出しだよ、買出し!」

元気よく腕を突き上げる相棒に、最初は何を言っているの分からなかった。
だが、ようやくに寝ぼけた頭が動き出すと、見開かれるゲイルの目。

「はぁ?!どうしたんだよ、いきなり!」
「いいから!お金限られてるんだから安いもの仕入れないと!」

女のずるいところは、詳しく教えずに“いいから”で押し通すところだ。
早速彼女はまだ座り込んでいるゲイルの腕を取って体重をかけて無理やり立たせると
ぐいぐいと町の方へと引っ張っていく。どうやらこれは夢ではないらしい。

「メルト!エルピス、留守番お願いね!」

要領を得ずにただ引っ張られていくゲイルだが、シャニーの目はもう元気一杯のエンジン全開。
彼女は見送ってくれるメルトたちに大きく手を振ると出撃を宣言する。
目指すは朝市、多くのライバルを掻き分け、狙うは最安値。

「はいはーい、ばっちり準備しておいてあげるからがんばりなさい。」

にこにことしながら手を振って見送ってくれるエルピス。
シャニーにとっては強い励ましになるが、ゲイルにとっては不安が募る。
彼女がニコニコしていると言うことは、必ず何かある。

「おいメルト、あいつ何を企んでるんだ。」

ようやくシャニーの手を振りほどいて走って戻ってきたゲイルはメルトに駆け寄った。
だが、彼はふっといつも通り鼻で笑って見せると背中を向けて皿を拭き始める。

「行けば分かる。がんばれ荷物もち。」
「・・・またかよ・・・。」

エルピスが一緒に行きたいと言い出さないところからして怪しいとは思っていた。
朝市でたっぷり買出しをすることは予想がついていたが、改めて言われるとがっくり来る。
うな垂れる背中に置かれた手。振り向けば微笑みかける相棒がいた。


「へえ、村って聞いてたけどそれなりに大きいな。人が一杯だ。」

二人でふもとの町まで歩いていくうちに少しずつ目が覚めてきて、美しい朝日に見とれるゲイル。
街に入ると、既にそこはバッチリと起きていて、同じく買出しへ向かうたくさんの人が動いている。
街が生きているというのは、このことを言うのかもしれない。

「うわぁ・・・あれもこれも新鮮でいいものばっかりだなぁー。」

この街はサラセン港で上がった水産物が有名で、磯の香りが漂う。
どの露店を見ても新鮮な魚介類が顔を覗かせており、泡を吹くカニを見つめて笑うシャニー。
元々海の女だけあって、こういうものにはかなりうるさい自信がある。

「いけないいけない!
 ねえ!ゲイル、ちょっとお金貸して!この前半分こしたばっかりだし残ってるでしょ?」

だが、シャニーはすぐに自分の両頬を手のひらで何回かぺちぺちと叩くと首を振った。
今日はただ買出しに来たわけではないのである。彼女はぐっと覚悟を握り締めると
ばっとゲイルのほうを振り向くや否や手を差し出して信じられないことを口にした。

「お、俺の小遣いを取り上げようっていうのか・・・。」

何と薄情な嫁だろうか。ただでさえ少ない旦那の小遣いにまで手をつけるなんて。
目を潤ませて抗議するゲイルだが、シャニーの前ではまるで無力だった。

「いいじゃん!売上から借りたぶんは返すから!」

いいじゃんという言葉はこれほど便利でずるい言葉に聞こえたことが今まであっただろうか。
もう彼女を止められないと悟ったゲイルはぽっきり首を折って渋々財布を取り出す。

「売上って・・・お前何する気なんだ。」
「ふふ、まぁまぁ。」

ふと彼女の言葉が気になって聞いてみるが、彼女は教えてくれなかった。
財布をばっと取り上げた彼女は、バンダナを締めなおすと激戦の朝市へと身を投じていった。


「よぉし、作るぞ!ゲイル、今のうちに消耗品とか買出しに行っておいてよ。」

大量の食材を買ってきて、どっさりとたくさんの買い物袋を下ろす。
さすがのゲイルでも今回は腕が千切れそうで、一仕事終えてふうっと額を拭うのだが
どうやら彼女はまだしばらくは休憩を許してはくれそうにない。

「へいへい。」

反論の隙さえ与えられずにメモ書きを渡されて仕方なく町へ戻っていくゲイル。
だが、シャニーも忙しく食材に包丁を入れて、朝から何ともあわただしい。

「さすがに手際がいいな。」

野宿の片づけを終えたメルトが帰ってきて、良い香りのする簡易コンロのほうへ近づいていく。
まだ市場から帰ってきてそんなに経っていないのだが、既にシャニーの周りは仕掛品でいっぱいだった。
料理になると彼女は本当に人が変わるというか、目つきが違う。

「へへへ、私の得意ってこのぐらいしかないからね。」

だが、メルトに褒められるといつもの人懐っこい笑みが戻ってくる。
包丁を掲げるとそれを指差して、朗らかに目褒められた喜びを伝えてくる。
朝から元気が出る笑顔だが、メルトは敢えて両手を広げた。

「まったくだ。」
「ちょ・・・そこは、そんな事はないって言うところでしょ!」

呆れられてしまい、シャニーはズルッと肩透かしを食らったような表情をすると
眉を吊り上げて指を刺しながらメルトに抗議をし始めた。
だが、相手が相手である。彼女が敵うはずもなく。

「お前は世辞と本音の区別ができんからな。」
「ぐ・・・。」

反撃のカウンターパンチは一撃の下に葬られてしまった。
口元が引きつって言葉を失った彼女に、意地悪な笑みを浮かべてやるメルト。
むっと何とか言い返そうとする彼女の口が動くや否や、それを彼は遮った。

「戦闘もその包丁さばきぐらい鮮やかにこなしてくれるとありがたいんだがな。」
「・・・痛いトコ衝くよね、ホント・・・。」

エルピスからも毎度言われる必殺の一撃を喰らって、かくんとうな垂れるシャニー。
もうこれを言われるとどうしようもなくて、彼女は悲しげな表情を浮かべるがメルトは鼻で笑うだけ。
背を向けた彼に地団駄を踏むと、絶対出来ても上げないと心に誓って八つ当たりするようにたまねぎの皮を剥く。

「ハハハ・・・冗談だ。」
「冗談に聞えないよ!」

背中を向けたまま笑った彼は、シャニーの反応を楽しんでいた。
顔を真っ赤にする彼女を見つめ、メルトはふっと笑う。今だけでも、この幸せそうな自然な笑みをもっとみていたくて。
関連記事
スポンサーサイト



総もくじ 3kaku_s_L.png 当サイトの小説における登場人物たちのご紹介
総もくじ  3kaku_s_L.png 当サイトの小説における登場人物たちのご紹介
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【12話:僅かな綻び】へ
  • 【14話:戦い以外に出来ること 後編】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【12話:僅かな綻び】へ
  • 【14話:戦い以外に出来ること 後編】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。