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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter18 闇の騎士と光の天使

14話:戦い以外に出来ること 後編

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「ゲイル、これ持って!街行くよ!」

買出し第二段が終わり、しばらくシャニーが料理をするのを稽古をして待っていた。
すごくいい匂いがするのだが、なぜか近づくなといわれていた。
エルピスが監視につくぐらいだ。それが今、ようやく許可が下りてゲイルは首輪がとれた犬のよう。

「おいおい、今度は何なんだ?すげえいい匂いするけど・・・。」
「ふふふ、行ってからのお楽しみ。」

だが、せっかくできた料理を拝むことは叶わなかった。
ぽんと持たされた料理たちは既にタッパーに入れられ袋に包まれていた。
ひくひくと鼻を利かせるゲイルを引っ張っていくシャニー。まるで飼主と犬である。

「それあそこに置いて。んでテーブルはこっちに。」

街につくととりあえず袋を置いて、シャニーの指示に従って市場にものを配置し始める。
最初は全く何をするのか分からなかったが、一つの空間が形作られてくると
ゲイルは指を弾いてシャニーに自身の鋭い勘をぶつけてみた。

「そうか!お前露店開くのか!」
「そ、売上を故郷に送ろうと思って。」

と、言うわけでとでも言わんばかりに、ゲイルは作られた簡易の露店から追い出されてしまった。
困惑していると、目配せと身振り手振りで何かを指示してくる。ようやく分かった。自分達に客寄せをしろというのである。
仕方なく張りのある声で客を呼ぶゲイル。その間に、彼女はコンロに鍋をかけ、火をつけた。

「ほええ・・・なんかすげえひとだかりになってやがる。」

それから十分後だ。ゲイル達は呆然と露店を見つめていた。
ありが砂糖に群がるように、もう背の低いシャニーの姿が見えないほど客に溢れている。
客寄せのゲイル達は人の流れに押し出されてしまっていて、ブラックシチューらしきいい香りだけが飢えたゲイルの元まで漂ってくる。

「客引きの仕事がなくなったな。いいことだ。」

何せあのイーグラーでさえ認めた料理人が作った料理である。
こうなることはある程度は予想もできていたが、イーグラーの太鼓判が世辞ではなかったことを証明するようで
メルトは大繁盛を腕を組みながら眺めて目元を緩めていた。
彼女にとっても嬉しいだろう。深夜に起きだして仕込みを始めていたのだから。

「あいつの料理はどこでも通用すると言うことだな・・・すげえな。」

全く持って、シャニーという奴はすごいと思う瞬間である。
いつもは熾天使とは思えないのだが、彼女の周りにいる者達を見よ。あの朝日の如き笑顔たちを。
人々をあんな幸せそうな笑顔に出来るのは、さすが希望の熾天使というところなのか。
おまけにその笑顔の振りまき方には今回も例に漏れず圧迫や強要といったものはない。実に彼女らしいやり方。
熾天使としての権能を継承した彼女だが、それとは別の彼女の本当に力を垣間見た気がした。

「すごいおいしかったよ。帝国のレストランの出張サービスかい?」

仕事前と思しき身なりの整った男性が舌鼓を打ちながら声をかけてきた。
料理人冥利に尽きる一言を貰って、シャニーは心からの笑顔で感謝を伝える。

「いえ、でも喜んでいただけて嬉しいです。」

シャニーが料理を今までずっと続けてこられたのは、料理が人々を笑顔に出来るから。
自分だけの味で、自分だけのやり方で。価値感や思想は人によって違う。
だが、おいしいものが食べたいという思いは誰もが同じだ。
料理を囲んで生まれた笑顔は、自然と心の距離を縮めてくれる。

「これなら修行を積めばルアスの貴族街でも通用するよ。がんばりなさい。」

いかにも食べることが好きで舌が肥えていそうな恰幅の良い男性が声をかけてきた。
どうやらルアスのレストランにも足しげく通っているらしく、味わい方もどこか品がある。
一口、また一口を吟味しながらの感想はどこか説得力がある。

「ルアスのレストランかぁ、すごいなぁ。」

ルアスの貴族街での競争率が激しい事はシャニーも良く知っている。
そこでも通用すると言われて、シャニーもまんざらではなさそうにうっとりと視線が遠い。

「私のルアスの知り合いに店を経営している人がいる。その人に頼んでみようか?」
「ええ!ホントですか!」

彼女のフレンドリーな性格が多くの客をひきつけて会話が進む。
その中の一人が彼女の反応に親身になって答えてくれて、シャニーは歓喜の声を上げてしまった。
あんな場所で自分の料理を出すことができるなど、料理人冥利に尽きる。
思わず手を結んで喜びを一杯に瞳に湛えて輝かせるが、彼女は首を横に振った。

「ありがとう・・・とても憧れるけど、私には故郷の再建が待っていますので。」

今すべき事を忘れたわけではない。今出来る精一杯、誰のためかと言えばそれは故郷の者達のためだ。
もし自分が普通の街娘なら、もらった話にチャレンジしただろう。
だが、彼女にとっての夢は料理人になることではない。描き続けた夢が、彼女に断る勇気を与えた。

「ほお、若いのにえらいな。どこなんだい、故郷は。」

苦しそうに誘いを断った彼女の決意が篭った瞳に逆に興味が湧いたようで、
誘ってくれた客は目をまん丸にして彼女を見下ろす。
まだ見た感じ、十代の少女っぽさが抜けきらないぐらいの年の子なのに、その瞳の強さは自然と惹かれる。

「ルケシオンって言うんです。」
「ほお!エルピスが眠るという太陽の町か!」

この数年で、ルケシオンへの反応は少しずつだが確実に変わってきた。
以前、ルケシオンといえば海賊が支配する腐敗と悪銭に塗れた悪の都市だった。
ところが今、この男性は言ってくれたのだ。ルケシオンの事を、太陽の町、と。

「天使が祝福した町、行ってみたかったがまさか帝国の怒りを買うとはな。
 アルトシャン総統も怖いもの知らずな方だ。天使をお殺めになられるとは。」

さも残念そうに語る男性に、シャニーはぽかんとして話を聞いていた。
別に帝国の怒りを買う筋合いはないし、何より巷ではアルトシャンが天使を殺したことになっている。
天使って誰・・・頭の中できょろきょろと浮かぶ顔に消去法をぶつけていくが、誰も残らない。

「・・・ねえ、ゲイル、なんで私死んだ事になってるの?」
「さぁ・・・。」

いや、一人いた。最後まで頭に残ったのは自分の顔だ。
エルピスから権能を継承したし、一応天使だ。だが、死んではいない。
眉間に絞った彼女は食材を採る振りをしてゲイルに耳打ちしてみるが、彼も苦笑いするばかり。

「そちらのほうが都合がいいだろう。」

巷ではもうシャニーは死んだ事になっている。死んだ人間がまさか目の前に居るとは誰も思うまい。
小難しい顔をするシャニーに、すぐさまメルトがフォローをかける。懸賞をかいくぐるには死んだほうが楽だ。
尤もなことなのだが、シャニーにはどうにも飲み込めないようで口元をへの字に曲げている。

「でもさ、なーんか納得行かないよ。私が天使っぽく見えないって言われてるようなもんじゃん。」

だが、メルトの合理的な話などシャニーにとってはどうでもいいらしい。
今彼女にとって一番問題なのは、熾天使であるはずの自分に誰も畏怖の念を抱いていないことだ。
別に抱いて欲しいとは思わないが、何だか悔しい。

「いや実際見えねーし。」
「・・・ゲイルにはもうこのシチューあげない。」
「わぁ!お許しを!熾天使様!」

一番認めて欲しい相手がまさかのセリフを口にして、彼女の目が赤く光る。
どきっと髪の毛が逆立った時にはもう遅かった。
彼女はさっと鍋を隠してしまうものだから、堪らずすがりつくゲイル。
気分よさそうに鼻を高くするシャニーに呆れるメルトたち。こんなんだから誰も風格を感じない。

「何言ってるの、修行なさい修行を!私の後継者として泥を塗らないで欲しいわ。」

もちろん、先輩だけは彼女の得意顔を許しはしない。
すぐに彼女の頭の上に拳骨を置いて威嚇し始め、苦笑いしながら宥めるシャニー。

「おやおや、仲の良い姉妹だね。カンバン娘が二人もいればそら大盛況だろうな、ははは。」

シチューを旨そうに砲張りながら、初老の男性が優しそうな顔をほころばせる。
姉妹、そう言われて改めて互いをじっと見つめる二人。本当にそっくりである。
あまりに似すぎていて、二人とも何がおかしいのか分からないがクスクス笑い出した。

「姉妹だって・・・。」
「ま、いいんじゃない、そっちのほうが私にとっても都合が良いし。」

二人でパントマイムをして客たちを笑わせだす。その息はピッタリで、まるで本当に血の繋がった姉妹のようだ。
周りも誰もエルピスのことを精霊だとは思ってもいない様子。人間と思われていたほうがいろいろやりやすいというもの。
シャニーは熾天使と認められたいらしいが、エルピスは逆だった。
ウンザリだった、あんな肩書きのせいで、みんな畏まって本音を話さない。

「かわいい妹だからビシバシできるわねー、ねえ?」
「うっ・・・・。」

だが、今は人間としてのびのび生きている。腹を割って話が出来る。
心の底から笑い合える。エルピスにとっては今の生活のほうが断然幸せだった。
歪んだ妹分の顔を見下ろし、白い歯を見せながら意地悪な笑みをにっと浮かべて自由を満喫する。

「おや、料金はどうすればいいんだい?」

しっかり味わって食べていた客達も、次第に皿が空になり始めた。
その時になって彼らははじめて気付く。この露店には値札がないのである。

「気持ちを入れていってください。いただいたお金は復興の為に故郷へ送るんです。」

おねがいします、とシャニーがぺこりと頭を下げた。
自分の料理が、どれだけ故郷を救うことが出来るのか、彼女は自身を試したのだった。

「なるほど、その為にわざわざ各地を旅しているのか!」

客達の反応は上々。中には拍手するものまでいて、どうやら料理は彼らに受け入れてもらえたらしい。
イーグラーに認めてもらったとは言っても、事情が事情だっただけに不安なところもあった。
だが、彼らの反応にシャニーの顔に笑顔が浮かぶ。

「その心意気やよし。がんばってくれよ!」

次から次へと、用意した箱に注がれていく皆の気持ち。
笑顔になって露店を後にする彼らの顔を、シャニーは微笑みながらずっと見つめていた。


「うひゃあ、まさか昼前に完売しちゃうとは思わなかったよ!」
「売上も想定していた額の倍以上だ。よかったな。」

本当は昼時が勝負だと思っていたのだが、口コミであっという間に市場に話が広がり
あれだけ作った大なべのシチューは、正午を待たずにもうどれだけ鍋肌をこすっても出てこなかった。
寂しそうに鍋を覗きこむゲイルの横でシャニーははしゃぎ、メルトも勘定を終えて驚きの表情を浮かべている。

「うん!みんな喜んでくれるかな!」

皆資金がなくて困っているはずだ。やりたいことはたくさんあるのに、お金がなくて何もできないもどかしさは一番に知っている。
彼女の嬉しそうな顔に、メルトも口元を柔らかくして頷いてやった。

「これからもこういうのやれるといいな。俺達が手伝えることは限られてるけど。」

今までずっと、戦い抜いてアルトシャンから平和を取り戻すことだけしか頭になかった。
だが相棒の考えた、彼女だけ、いや自分達だけにしか出来ないやりかたに、ゲイルも手ごたえを感じて嬉しそうだ。

「ううん!そう言ってもらえるなら私またがんばるよ!戦い以外で故郷の為に私がしてあげられることだもの!」

本当はこうしたやり方のほうがシャニーにとっては目指す姿だった。
争い、相手を押さえつけるやり方なんかよりずっとらしい。
だが、自分ひとりではできないもの。周りが助けてくれるから、初めてできることなのだ。
相棒はどんと来いと胸を叩いてくれ、天使の様な心からの笑みがシャニーの顔を輝かせた。

「あ、そういやお前、小遣い返してくれよ。」

さっとゲイルから差し出された手。これからもがんばろうと励ましてくれる手かと思った。
すぐさま握手しにかかるシャニーだが、彼から放たれた言葉に眉が潜む。

「あ・・・。」

まったくもってロマンがない奴と頬を膨らせて売上を入れていた箱に手を伸ばすシャニー。
だが、手にとって持ち上げてみて初めて緊急事態に気付いたらしく、真っ蒼になった顔の中で目が泳ぐ。

「あ・・ってお前・・もしかして・・・。」
「ご、ごめん!やっちゃった・・・もう銀行から郵送しちゃった・・・。」

嫌な予感がするが、ゲイルは怒らずにシャニーの頭を撫で始めた。
だがその顔は明らかに引きつっており、シャニーも頭を撫でられて尋問されているような気持ちに陥る。
目を震わせながら彼を見上げ、彼女は思い切り目を瞑りながら手を合わせて謝りだした。
今度はゲイルが蒼褪める。シャニーの“やっちゃった”は毎回ダメージがデカイ。

「バ、バカ!お前!全財産送っちゃってどうするんだ!!」

自分の小遣いだけならまだいい。彼女は自分の財布に戻すべきお金まで送ってしまったというのである。
つまり、今自分達は旅先で一文無しになってしまったのである。

「ああ・・・明日からしばらく木の実だけだねえ・・・。」
「あああ。あのシチュー食っておけばよかった。」

後悔してしまってもう、もう銀行からお金を引き出すことはできない。
「どうしよう」と見上げてくるシャニーに、ゲイルは天を仰いだ。
しっかりしているのだが、時々こうして爆弾を仕掛けてくるから怖い。
今日からの惨めな食事を想像し、ゲイルはさっきまで目の前にあったあの神のシチューを思い浮かべ嘆息した。

「やれやれ・・・締まらん連中だ。」
「何か上手くいったと思ったらどこか抜けてるんだものね。やれやれ、私たちの貯金でなんとかしますか。」

熾天使の権能を継承した相手とは言え、彼女はやっぱり人間なんだとエルピスは笑った。
その横で、メルトは額に手をやりながら凸凹な反応をするゲイル達に呆れるばかりだった。
彼らは、周りの助けがなければ生きていけない。だが、彼らのその力こそが世界を変える光でもある。
どうにもうまくできているものである。人間が神のように一人で全てを知り、司るなどできはしないのだから。


「あぁ・・・腹減ったぜ・・・。」
「もう!ゲイルは口を開けばそればっかり!」

あの日以来、ゲイルのぼやきの頻度は言うまでもなく上がっていた。
まるで時計が1時間ごとに時報を伝えるかのように彼は「腹減った」というのである。
最初は自分のせいだからとガマンしていたシャニーも、ついに肩を怒らせて振り向いた。

「だってよ、朝飯がパン1個ってひもじいじゃねーか。」

シャニーはパン1個でも半日動き回れるエコな人間だから良いかもしれないが、
ガタイのいいゲイルにとってのパン1個は、シャニーにとっての1個と体に対する比率と言うものがまるで違うのだ。

「しょーがないじゃん。私たち・・・あんまりお金持ってないんだし。」

しょうがないという言葉は非難されたときどれだけ便利な言葉だろうか。
だが、今回ばかりはゲイルも何も言い返せなかった。財布に入っているのは小銭が数枚。
シャニーの家計簿はあの日からもうずっと真っ赤な文字で埋め尽くされている。

「だから闘技場でひと稼ぎしてやるって言ったんだろ。」
「ダメっ!それだけは絶対にダメ!お願いだからそれだけは・・・!」

荒くれが手っ取り早く金を稼ぐ手段といえば闘技場だ。ゲイルやメルトならかなり稼げるはずだ。
だが、今までシャニーは頑なにその手段を否定してきた。闘技場がどれだけ危ない場所か知っているからだ。
大事な人たちに辛い想いをさせたくない。その想いが彼女の瞳から零れ落ちた。

「お、おいおい、泣くなよ・・・。」

コレにはさすがにゲイルも口にした言葉を引っ込めたかったが時すでに遅し。

「だー!カンベンしろって!」

妹分を泣かせたとなればエルピスが黙っておらず、彼女はゲイルを睨み付けて鞭に手をやるものだから、
彼は思わず両手を挙げて無抵抗を示しながら嘆願を叫ぶ。

「ゲイル君、あんまシャニーちゃんに心配かけさせるなよ?」
「分かってるけど・・・やっぱ先立つものがないと不安だし、こいつの悩む姿見てると辛いんだよ。」

シャニーの反応は愛する者がいる人間なら当然のものだった。
それを注意するレイだが、彼の言葉の本音はゲイルの助太刀にあった。
わざと叱り口調でゲイルを呼び、彼はそれに応えて自分も彼女を心配していることを伝えた。
こういうときは、レイと親友でよかったと思う。

「ゲイルは食べるものが欲しいんだもんね。」

だが、いつもいつもお経のように「腹減った」しか言ってこなかった報いといわんばかりに、
シャニーは分かっているくせにゲイルに言葉をまっすぐに返してやらなかった。
これには返す言葉もないとレイが苦笑いしている。

「また人聞きの悪いことをお前は!この!」

今度は親友もフォローしてくれなくて、飛び出したゲイルはシャニーをがっしりと捕まえる。
途端にじたばたし始めるシャニーだが、彼の腕に捕まったら非力ではびくともしない。

「わぁ!だって!この前だって私を食べようとしたじゃない!」
「シ、シ、シャニーちゃんを・・・食べる・・・!」

じたばたともがきながらゲイルに文句をぶつけるシャニー。
それに反応したのはゲイルではなくレイだった。裏返った声を突拍子もなく上げたかと思うと駆け出す。

「おい、お前こっち来い!!」

目の色を変えた彼はきょとんとするゲイルの腕を掴むと皆から距離を置く。
知らない間にとんでもないことが起きていた。コレは由々しき事態である。

「な、なんだよお前、いきなり目の色変えて。」

腕力などまるで自信のないはずのレイとは思えないほどぐいぐい引っ張られ、
道から外れた茂みに連れ込まれてまじまじと見上げられるものだから、
ゲイルは要領を得ないまま困惑した顔を悪友へと落としている。

「お前も男だねえ!野暮な顔して、憎いね!この!」

皆の視線が太い木の幹に隠れると、それまでの焦燥とした表情が消え、
何とも嬉しそうなどうにも胡散臭い笑みを浮かべながら胸を小突いてくる。
悪友の行動の意味がまるで分かっていないゲイルは眉をひそめるばかり。

「あん?一体何を・・・いて!」
「二人で何コソコソやってるわけ?!」

踏んだり蹴ったりである。シャニーが男同士の密談を許してくれるはずもなく、
お尻を引っぱたかれて振り向けば、腰に手をやり頬を膨らせて睨み挙げてくる顔があった。

「俺は何もやってねーよ!レイが目の色変えただけだろ!」

やっぱりこいつといるとろくなことにならない。
早いうちにレイの言葉を塞いでシャニーに弁解しないとまた要らぬ被害を受けることになる。
すぐさまレイを振りほどいてシャニーのほうを向くと必死に諭しにかかる。

「シャニーちゃん、で、ゲイルに食われたのか?」

別にゲイルの口から聞きださなくてもいい。
レイはついにシャニーに話題を振る。だが、ゲイルは相変わらず質問の趣旨が分かっていないようだし、
シャニーも頬を赤らめるかと思ったら、確かに赤くなったがそれは怒りで朱が挿しただけだ。

「危うくかじられるところだったよ。もう油断も隙もないんだから!」

少しは落ち着いてくれたかと思ったのに、レイの言葉は火に油を注ぐものだった。
さっきは尻をビンタで済んだが、今度は蹴りが飛んで来て脛を直撃し、ゲイルが崩れる。
ここで崩れておかないと次はお玉か麺棒が飛び出すに違いない。

「じ、冗談に決まってるだろうが!食えるはずないだろ!」
「なんですって?!ゲイル!あなたって人は!」

まったくもって、レイと絡むとろくなことにならない。
彼に怒りを向けてみるのだが、どうにも彼はきょとんとした様子。彼にこれ以上構っている余裕はなく、
下からじろりと睨まれて、暴力を振るうシャニーへ非難するどころか降参と手をあげる始末。
何とか許してもらおうと弁解するのだが、あろうことか向こうから姉貴分の声まで聞こえてきた。
駆け寄ってきたエルピスと共に更に鋭く睨んでくるシャニー。

「誤解だってば!ほら、シャニー!お前の大げさで俺が被害を被るんだぞ!」

エルピスまできてしまっては、このまま場の状況に任せるわけにも行かない。
早いところ真実をみなに伝えなければ、また自分が被害者となることは明白だ。
だが、シャニーも退くわけはなく、ツーンとそっぽを向く。

「・・・あれ、オレ様、なんだかすげー勘違いしてるのか?」

立場の違いが明確な男女間のやりとりの横で、ぽかんとするレイ。
どうやら彼らは自分が想像していた事とはまるで次元の違う話をしていたようだ。
話がどう考えてもかみ合っておらず、顔をしかめるレイ。

「だってさ!聞いてよ!ゲイルったら私の耳を餃子の皮とか言うんだよ!」
「・・・は?」

聞けば聞くほどに、想定していたストーリから遥か明後日へと脱線していく。
シャニーが顔を真っ赤にしながら口にした事実は、どうやってリアクションすれば良いのだろう。
困惑していると、片方だけの事実を鵜呑みにするなといわんばかりの声が飛んでくる。

「だって、ほらこいつの耳デカイからこうやって丸めてやると・・・。」
「いたた!もう!餃子じゃないの!ガルルル!」

尖った高い耳を手で丸めようとするゲイルを撥ね退けるシャニー。
牙を向いてゲイルを睨み上げてやると、彼は苦笑いしながら両手を彼女へ向けて宥めにかかる。
ケンカしているかの遊んでいるかよく分からない連中を前にあっけにとられるレイ。

「はぁ、この野蛮人はホントサイテーね・・・。」

完全にシャニーの味方であるエルピスはゲイルにため息をつくが、
当の本人はまるで反省などしていないらしく、もう既に目が輝き始めている。

「あー、やべえ、シャニーのポニーが今度はパスタの束に見えてきた・・・。」

腹から情けない音がなり、手を添えるゲイル。
目の前にある相棒の長いポニーテイルが視界に入った途端舌なめずりし始めたではないか。
これにはさすがにシャニーもうっとして退く。だが、エサを前にしたクマというのは俊敏なもの。

「もうやめなさいってば!あぁ、そのうちホントに私ゲイルに食べられそう・・・。」

逃げようとした時にはもう遅かった。後ろからがっしりと掴まれてしまった。
にこにこと明らかに何かを企んだ眼差しで見下ろしてくる相棒に溜息をついた。
だが、ゲイルのほうは大好きな髪の香りを嗅げて幸せそうだ。

「・・・食べたくなるほどに可愛い彼女なんだってよ、ゲイル君は。」
「ホント!?ゲイル!」

想定していたシュチエーションとはまるで違う、何とも下らない痴話だったとは。
そんなものは犬でも喰わぬと吐き捨ててやったつもりだが、シャニーは真に受けて喜ぶ有様。
目を点にするレイだが、たまにはイイコトを言うとゲイルからもウインクされて
彼は一体この連中とどうやって付き合っていけば良いのかふと迷ってしまった。

「はぁ、平和な世界の住民だぜ、まったく・・・。」

バカップルとは、こういう連中の事を言うに違いない。
レイは冷ややかな目でいちゃつく二人に横目を送りながら、大きく溜息をつくのであった。
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