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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter18 闇の騎士と光の天使

15話:殺意の修羅道 前編

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 夜、こんなに繁栄しているアスクの帝都ルアスには夜でも明かりがあちこち灯り寂しさを感じさせない。
だが、そんなものはただの虚光であることをアンドラスは知っていた。

「どうしました?姫騎士サマ、最近すっかり毒気が抜けたような顔をしちゃって。」

今もこの光に紛れ、何か良くない事が街の中を蠢いている。
そんな気がして、ぼうっとテラスから街を見下ろしていたときだ。ふと背後から声がする。

「あ、マヴガフ様・・・。いえ、単純に心がすっきりしただけです。」

振り向けば、そこには深々と頭を下げる男。本当に彼は気配を感じさせない。
闇の中で、彼の黄金だけが光って見える。それそのものが闇ではないかと思わせるダークスーツに身を包んだマヴガフは、
頭を上げるとゆっくりと近づいてきた。相変わらずの柔和な笑みを浮かべて。

「希光を捕え損ねたというのにノンキなものですねェ。そんな顔をしていたらアルトシャン様に叱られてしまいますよ?」

ルセンでの一戦を迎えるまで湛えていた緊張感はどこへ言ってしまったのか。
今のアンドラスはまさに姫サマそのもので、騎士としての凛とした表情がなかった。
彼女はマヴガフの視線から逃げるように背を向け、街を再び見下ろす。

「私は帝国を・・・いえ民をどうにかしてしまおうと考えているとは思えないのです。」

彼女の発した言葉に、マヴガフの細い目が開きその黄金が背を刺す。
アルトシャンといい、このホムンクルスといい、どうにも甘い。
二人ともハデスの血を身に流しているはずなのに、何をもたついているというのか。

「むしろ私は危惧しています。本当の脅威は、帝国の中にあるのではないかと。」

マヴガフの口元が釣り上がる。この女、ホムンクルスの割りによく分かっている。
いや、ホムンクルスだから、何も知らないから、か。人間共が保身し、矛盾を隠すために敢えて触れず、敢えて闇に葬る事実。
その事実を彼女はまっすぐ見つめている。これだからまだ、アルトシャンより使いやすい。

「ほお?面白いですね。具体的には?」

目元を緩ませ、さも興味があるように上半身を前倒してくる。
正直、彼に本心を口にしようかは迷った。どこか、信用できないからだ。

「たとえば・・・錬金術です。」

だが特段に隠すことでもない。少しの間のあと、彼女は背を向けたまま語る。
おおっとマヴガフの目元が狡猾に笑い、口元に滑稽さが滲み出る。
この女は、自分の立場が本当に分かっているのだろうか。

「人々を豊かにする技術だと信じていました。ですが・・・今錬金術は人を傷つけてばかりです。
 人間は変わっていけます。ですが、人間が変わる前に錬金術は人間を滅ぼしてしまう・・・そんな気がするのです。」

かく言う自分も、錬金術から生まれた命だ。そして、人間を傷つけた、何の躊躇いもなく。
だが、まだ自分は命だったから気付く事ができた。意志があるからである。
だが他の錬金兵器に意志はない。意志なく向けられる力の恐ろしさは、身を持って知っている。

「力は意志を持ちません。けど、人間の意志がまだ変われないのなら、力は再び地に帰らなければならないと。」

最初は腕を組んでアンドラスの言葉を聞いてフンフン頷いていたマヴガフだったが、
彼はふと顎に指を添えると、「あれあれ?」とわざとらしい突拍子もない声を上げだした。
彼は気付いたに違いない。彼女の自己矛盾を。

「それはご自身の存在を否定するようなものですけど、それでいいんです?」

そう言われることは分かっていた。自分はホムンクルス、人間ではない。
だが、彼女には確信があった。どんな錬金兵器より、自分は人間に近い存在だと。

「力は意志を持ちません。それなのに、今人間は力に悪意を篭めています。
 ですが私はこの力を民に捧げると誓った。全ては民の為に、それこそが私の存在価値、そしてシャニーとは違う私の価値なのです。」

もっと言うなれば・・・野心と損得だけで生きるロボットのような人間に比べたら、
心がドロドロのコールタールのように澱み、他を侵食する悪しき心に比べたら、
自分のほうが遥かに人間らしいとも思っていた。そのドロドロに脳が、心が侵食された毎日を知っているから。

「お言葉ですけど~、今のアナタでは外からの脅威に対抗できないと思いますよ?
 そんなことはないって顔ですね。ま~だお分かりにならないとはネェ。」

そんな彼女を嘲笑うかのような大げさで分かりやすい拍手が贈られた。
マヴガフはアンドラスの想いをあっさりと斬って捨てた。何か言おうとして振り向いたアンドラスだったが、言葉を飲み込んだ。
彼はぴしゃりと言ってのけたのだ。「現にアナタはシャニーを倒せなかった。」と。

「どんなお名目かは知りませんけど、いずれ彼女は帝国を侵しに来ますよ?
 その時はアナタが脅威から民を守らなければならないって言うのに勝てないんじゃ、価値と呼ぶにはあまりにも弱い。」

胃の辺りがひねり上げられるような苦しみが湧き上がってくる。
マヴガフの言う事は尤もなことだし、何も事実を曲解してはいない。
確かに、シャニーを捕獲するという作戦で失敗をしたのは自分。本来、あんな失敗をすれば左遷は免れないはずだった。
国を、民を脅かす脅威を押さえ込めないような無能な騎士は、本国の守りに置いてはおけないのが普通だ。
それは言葉の表面的な意味でも、国軍としての威信としても。

「その時は・・・戦うまでです。私と彼女で目指すものが対立するのであるならば。」
「それは倒されてもいいということですか?アナタも随分とマゾなお方だ。いや・・・ただの現実逃避ですかね?」

だが今は、あの時シャニーと戦わなくて良かったと思っている。
そんな彼女の本心までは読み取れていないのか、マヴガフは俯くアンドラスに冷笑を落としていた。
武人とは愚かなもの。失敗が許されない中、死ぬと分かっていてもメンツを保とうとする姿は愚以外の何者でもない。

「逃げているつもりはありません。彼女の意志を確かめたいだけです。無意味な戦いを起して民に要らぬ混乱を与えたくないのです。」

今更何を言っているのか、マヴガフの目元が侮蔑に細くなる。
誰の“おとうさま”が各地方へ軍隊を送りつけて一方的な建前を押し付け制圧したというのか。
もうとっくに混乱は収拾のつかないところまで広がっている。
お上は現場を見ない、人を見ない、それが語る民の心境ほど下らないものもない。

「イヤァ、結局アナタも自分本位の独善を振りかざすだけですか?結局善神の人形ってーのはどれもこれも出来損ないですねぇ。」

人形のつもりはない、怒りの滲む眼差しが見上げてくるが知ったことではない。
事実を口にしているだけだ。国の連中はしがらみに囚われて言いたいことも言えない腰抜けばかりだから、代弁しているだけの事。

「勝ってこそ初めて未来を創ることが出来るというものです。
 勝たねばなりません、何があろうともネ。帝国の何万と言う人間が路頭に迷っても良いと言うんですか?」

マヴガフの口にする話に精神論はない。いつでも現実論だ。
「アナタたったひとり意志のせいで、たった一人の盗賊のせいで・・・」マヴガフが付け加えた。
確かに自分の判断でしかないけれど、父は言っても聞き入れてはくれない。とはいえ、彼の作戦を実行に移すには未だ不安ばかり残る。
帽子の下からぎらついた黄金の蛇眼がじっとりとアンドラスの様子を眺め、吐き捨てた。「どっちも変わりませんね、私からすれば。」

「それは・・・。」

何も言い返す言葉が出てこなかった。根拠がない。
世論もこのルアス内に限ってはアルトシャンの味方だ。国賊を擁護するような発言をすれば今度こそ左遷である。
その左遷を食い止めたのは、自分を慕ってくれる民。その民を守れないのでは、それは裏切りだ。
だが、まだ戦うときではない。苦渋で塗り固めた表情がアンドラスを覆い、唇を噛む姿をマヴガフは覗き込んで楽しげ。

「ならば迷うことは何もないじゃないですか。一体何をビビってるんです?
 前も私言いましたよね?機会は待ってくれません。次逃せば・・・国を滅ぼしますよ。」

国が滅ぶ、その言葉を聞いた途端びくっとアンドラスの体が跳ねたのが分かった。
彼女は不安と恐怖に塗れた充血しきった目でマヴガフを見上げ、小さく震えるように首を横に振る。

「さぁ、私が手伝って差し上げましょう。」
「・・・わかり・・・ました・・・。」

まるでホワイトナイトにでもなったつもりか、さっと差し出される手。
もうどうして良いか分からなくなってしまったアンドラスにとって、その手はまさに神の手にさえ見えたのだろう。
「アナタは世界を守る騎士とならなければいけないんですよ」手を取ってきたことを確かめ、アンドラスにかけた言葉、
それはあまりにも大げさで、それでいてアンドラスの心を鷲掴むにはうってつけの追撃ちだった。

「私は知ってるんですよ。錬金術が人間の未来の為に出来る最善をネ。さぁ、来なさい姫騎士サマ・・・。」

彼はばっと背を向けて歩き出し、帽子を押さえながら顔だけで後ろを振り向いた。
そこにはもはや、マインドコントロールでもされたかのような虚ろな瞳が二つ、こちらを見つめている。
「正義をアナタの手で貫く為にネ」背中を押すには十分だった。正義、その言葉だけで。

「あれはアンドラスじゃねーか。その横にいるのは・・・?!こいつはやべえ!」

闇へと消えていく二人。それを見つけたのは、たまたまルアスに報告に来ていたヤアンだった。
アンドラスの傍にいるのがマヴガフだとすぐに気付いた彼は眼の色を変えて走り出すが、
その彼を嘲笑うかのようにマヴガフは転移術で消え、ヤアンは空を見上げて舌打するしかなかった。

 一体ここはどこだろう。見覚えはあるのだが、真っ暗な部屋は感覚を奪う。
石造りのかなり格式高い重厚なつくりの白壁に囲まれた部屋。
その中で魔法陣だけが月明かりを遮って紫紺に輝いて浮かび上がっている。

「さぁ、どうぞどうぞ。その魔法陣の真ん中に入ってくださいな。」

その中へ入れというのである。分かっていてもどうしても足元がすくむ。
強張って腕で自身を隠すように身を退くアンドラスへ、マヴガフは目で確かめた。
分かっているのでしょう?と。

「ぐう・・・苦しい・・・あああああ!」

中に足を踏み入れた途端、マナが燃え上がり体の中に這い上がってくる。
途端、自身のマナの流れを引き裂かれて彼女は天に叫んだ。
体が溶け、燃やし尽くされていきそうな激痛に神経が叫ぶ。外へ出ろ、と。

「よぉ~やくだよ・・・よくやくここまで来たぜ。もぅ少しだけ俺様の役に立ってもらうぜ、ヒヒヒッ。
 ハデスの御名の下、彼の者を捧ぐ。即ち、復活の生贄にして大いなる魔道書の源なり・・。」

もがき苦しむアンドラスを見て助けるどころか口元を釣り上げるマヴガフ。
今までの積年の想いを晴らせる時が刻一刻と近づいているのだ。これを笑わずどうしろと言うのか。
おもむろに漆黒の魔道書を腰から取り出すと、開いてなにやら唱え始める。

「いかん!アンドラス!」

その時だった。執念で町の中を探し回っていたヤアンが闇にぼうっと燃え上がった紫紺に気づき
入り込んだのは司法院の大法廷だ。飛び込んできた光景はにわかに信じられないが
大事な人が悲鳴を上げる様を見て飛び出す。「伏せろ!」アンドラスの遠ざかった意識に飛び込む声。

「ヤアンさん?!」
「うおおおお・・・!」

吹っ飛ばされて地面に転がり、頭を打ったアンドラスははっと意識を取り戻して、
振り向いた先で起こっている光景に目が飛び出しそうになった。
マヴガフの手にした魔道書から飛び出した真っ黒な龍がヤアンの体の中へ身を捻りこませていくではないか。

「アンドラス!行け!」
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