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 ←3話:乱心の守護神 →5話:男ってヤツは
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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter19 泪なき友誼

4話:帰省と再会

 ←3話:乱心の守護神 →5話:男ってヤツは
 地下通路を出ると真っ先に彼らを歓迎してくれたのは、遠慮のない太陽の微笑だった。
ルケシオンに似て射すような陽射しが眩しく、周りの景色にもやをかける。
だが目の前にある巨大な建物とからからに渇いた足元が、ここはルケシオンではないことを教えてくれる。

「えっと・・・ここがサラセンの町の中なのかな?」

このメンバーの中でサラセンに来たのが初めてなのはシャニーだけで、
きょろきょろと辺りを見渡す。右を見ても左を見ても乾いた大地が広がっている。

「違いねえ。というか、ここは神殿のすぐ傍だぞ。」

例え2年以上離れていた地とは言え、記憶は今でも鮮明だ。
目の前にそびえ立つ巨大な神殿は、幼いころからずっと己を鍛えてきた場所。
主を変えても変わらぬい出立ちは時の流れを忘れさせるが、それが逆にゲイルを苛立たせた。

「今はこの神殿を武閃の連中が使ってるんだな・・・。くそっ。」

何か、家の中に土足で踏み込まれたような気分だった。
もう自分はサラセンの住人ではなく、ルケシオンに骨をうずめるつもりのはずだったのに。
そっと横から包むや笑い感触。見ればシャニーが腕を掴んで見上げていた。
さすが相棒だ。照れくさそうに詫びると、彼女はにっと笑って彼を伴い駈けだした。

「待て、シャニー。」

その途端だった。ふいに後ろからメルトに呼び止められて振り向く。
まるで無警戒な彼女に呆れながら「いきなり連中の下へ赴くのは危険だ。まずはサフィたちを探そう。」と声をかけ、
メルトは町の方へと歩き出した。彼女にとってはヤアンは親友だろうが、周りもそうとは限らないのだから。

「あの、すいません。武閃の前のギルド元締めのことを知りませんか?」

砂漠の町の市場は眩しい。商人たちは簡易の掘っ立て小屋の中でのんびりとしている。
とても帝国やマフィアが支配している町とは思えないのどかさに少々違和感さえ覚えながらも、
シャニーは目があった露天商の女性に声をかけた。

「ああ、サフィちゃんね。」

彼女はすぐに誰の事を聞いているのか分かったらしく、
「さっき買い物に来たばかりだよ。」と立ち上がると南西を指さした。
恐らく、サフィが返った方角を差しているのだろう。
彼女が買い物をしている、それだけでも一行にとっては十分安堵に値する情報だ。

「おお、サフィちゃん生きてたんだ。いやあよかったよかった!」

ゲイルの顔にも柔らかさが少しだけ戻り、指を鳴らしながら大げさに喜んで見せるレイ。
その姿を見た女性はぽんとひとつ手を打つと、口元に手を当てながら彼を指さした。

「なんだい、あんたレイじゃないか。そんなこと言ってるとまたヘッドロック喰らうわよ。」

彼女はサラセンの生まれでずっとここで露天商をしている。
レイとも彼が修行僧としてこの地で生活していた時からの知り合いである。

「いやあ実はあれもらうと苦しいけどおっぱいが頬に押し付けられて・・・うひゃひゃ・・・。」

目がハートの形になって鼻の舌が伸びる姿は他人の振りをしたいぐらいだ。
こんなことだからサフィにさんざんひどい目に遭わせられたはずなのだが、まるで懲りていないらしい。
何も変わらない彼に呆れて目で天を仰ぎ、両手を広げる女性。

「おばちゃんも無事だったのか!」
「ゲイルじゃないかい。そんな格好してなにしてんだい?」

だが、変わっていないのはサラセンも同じだった。再会の歓喜を上げたのはゲイルだ。
彼女だけではない。周りの露天商たちも幼いころからの顔なじみ。
何も変わらない故郷の台所の様子に、目じりに熱いものが浮かぶ。
だが、女性の方はゲイルの黒装束に、またいたずらを企んでいるのかと怪訝な眼差しを注いでいる。

「武閃の連中には何もされなかったか?」
「武閃の人たちは別に悪い人たちじゃないわよ?」

ゲイルは真剣に聞いているのだが、女性は人聞きの悪いことを言う彼の頭に拳骨を置いた。
なぜ自分が怒られるのかよく分からずにぽかんとするゲイルに、
「それどころかすごい頭が低くて、こっちが申し訳なくなるくらいさ。」と、逆に武閃に謝れとまで言われる始末だ。

「おばちゃーん、ごめんなさい、買い忘れがあったわ!」

その時である。聞き覚えのある爽やかな声が砂嵐に煙る曲がり角から聞こえてきた。
間違いない。びくんと胸が打ったゲイルは誰よりもすぐに振り向いた。

「サ、サフィ!?サフィなのか!」
「え・・・ゲイル?!」

目の前に現れた銀の短髪の女性は間違いなく幼馴染だ。
別れた時よりますます大人っぽくなっているが間違いない。
興奮を抑えられないまま帽子を取り払い、相手の名を叫ぶと相手も目を真ん丸に見開いた。

「なんでそんな恰好を・・・。」
「いや、これにはいろいろ事情があるんだがな。」

真っ先に目が行ったのはやはり黒装束らしい。敵対ギルドの格好をしていたからか不安げな様子だ。
その理由をこの場ではすぐには口にできずに話題を切り、「とにかく、お前たちに会いに来たんだ!」と告げた。
嘘を言っているわけではない。だが、まだどこに他聞があるか分からない。

「ああ!もしかしてあなたシャニーなの?!」

ゲイルがいるということは・・・その予想は的中し、サフィはゲイルの傍にいる女性に目をやった途端歓喜の声を上げた。
2年前親しくなった妹分だ。だが、16歳から18歳というのは大分雰囲気が変わるものらしい。
「大分変わったわね!」大人っぽくなった彼女に声をかけると、変わらない屈託のない笑顔が返ってきた。

「そうだよ!あぁ、良かった、ギルド同士の抗争があったって聞いてたから心配してたんだ!」

シャニーも予想していた最悪のケースとはまるで違う光景に嬉しそうで、
大好きな笑顔に向かって飛びついた。甘えん坊な性格はまるで変わってはいないらしい。
「抗争??」シャニーが甘えてくるのは喜んで受け入れたが、彼女が口にした言葉にはサフィは疑問符で返し、
「ああ・・・確かにあったけど大げさよ。」と、誰もが抱いていた心配を一言で杞憂へと変えてくれた。
そして彼女はぎゅっとシャニーを抱きしめると、相手の鼻を指で押してじっと見つめてやった。

「それより、私だって心配したんだから!あなたが帝国に狙われてるって、手紙何度出しても返事してくれなかったし!」
「消息を追われるのを恐れてな。郵便の受け取りを拒否していたのだ。」

申し訳なさそうに眉をひそめるシャニーに代わり、メルトが事情を説明した。
かつての敵の姿があることに最初は驚いた様子のサフィだったが、
ゲイルやシャニーたちの様子から、彼もまたシャニーを守ってきた仲間だということをすぐに察した。

「サフィさん、私、アルトシャンの言うような国家簒奪なんて・・・。」

やはり、自分のことは世界中に情報が広がっている。だが、親友だけでもいい、真実を知って欲しかった。
何もしていない、そう叫んでも誰も信じてくれない中で、絞り出すように無実を口にするシャニーだが、
その途端、ふいにサフィに口元を手で塞がれ、頭の上に優しい手が載った。

「親友同士でしょ、言わなくても分かってる。」

彼女と接してきたものなら、誰でも同じ答えを返すだろう。
どれだけ彼女が悲しい想いをしてきたか、それを汲み取ってサフィは抱きしめ、頭を、背中をさする。
思わず声を上げて泣き出しそうになるシャニーだが、「さ、こんなところで立ち話もあれだし、みんなのところへ行きましょう。」
サフィはそう言って、涙はみなへの再会の時へ待つように促した。


「ボス、サラセンに希光が進入したようですぜ。」

もちろん、大規模で統率の取れた組織である。どれだけ変装していようとも、
よそ者の存在はすぐさま察知され、ボスであるヤアンの耳に入れられていた。

「なんだと?!」

希光、その名を部下から聞いた途端、ヤアンは思わず立ち上がって部屋から町を見下ろした。
街の最北にある巨大な屋敷の最上階にあるヤアンの部屋からは町が一望できる。
「あいつ・・・くっ、こんなときに・・・。」いつもは素晴しい長めに目を細めるが、今日は焦りに満ちていた。

「どうする?とっ捕まえてボスのところに引っ張りましょうか?」

組織のものなら誰でもシャニーのことは知っている。ハデスから世界を守った熾天使であり、
デルクレビスに光をもたらした、光の世界との架け橋となった女性だからだ。
ここにいる者は皆、闇に飲まれた世界にもたらされた光と、その傍で弓を構えるシルエットが脳裏に焼きついていた。

「やめろ、あいつには指一本手を出すな。あいつは俺の盟友だ。」

言われなくとも分かっている。そう言いたげな部下の表情にふうっと息を吐き出して席にどっかりと座った。
それでも部下は退かない。ヤアンもその理由は分かっているつもりだった。

「だけど、アルトシャンやマヴガフは一刻も早くあいつを消したいみてーだぞ?」

帝国からは毎日のようにアルトシャンの命としてシャニーの捜索と処刑依頼が送られてくる。
これを知ってシャニーを放っておくという事は帝国の命に背くという事である。
恐らく、部下はボスの態度を確かめているに違いなかった。

「もう一度だけ言う、他の連中にも言っとけ。手を出すな。帝国の連中なんぞ放っておけ。」

アルトシャンにはもちろんこの世界に出てきたとき、いろいろ世話をしてもらった恩がある。
だが、シャニーとの友情は決して裏切ることはできないものだった。
「俺にとっては・・・いや、俺達にとってあいつは最上の客だ。そうだろ?」そう聞くと、部下は笑みを浮かべて頷いた。

「もし奴が仕掛けてきても、相手をするのは俺だ。お前たちは絶対に手を出すんじゃねーぞ。」

かつてその道を歩んだとは言え、殺戮と侵略に明け暮れる帝国の連中に比べれば
今の自分達は遥かにこの世界の住人達の心に近い。ヤアンはそう確信していた。
闇に塗れた心を救ってくれたあの光。今度は自分達が守る番。
ボスの態度を確認できた部下は、ひとつ頭を下げると口元に笑みを浮かべて部屋を出て行き、
それを確かめるとヤアンは重く時を机に立ててうな垂れた。

「へっ・・・久々に会えたと思ったらこのザマかよ。」


「みんな!師匠!無事だったのか!」

サフィに案内されたのは、かんばんをとられて移住したかつての仲間が住んでいる場所だった。
誰もが懐かしい顔ばかりで、ゲイルは歓喜の声を上げずにはいられなかった。

「ゲイルではないか!どうしてお前がここにおる?」

大分神殿よりは狭い道場だが、それでも修道士たちの熱の入りようは変わらない。
その喧騒の奥から、サフィに引っ張られて出てきた老人がゲイルの顔を見るなり目を丸くした。

「サラセンがマフィアに占領されてるって聞いて飛んできたんだ。」

思わず駆け寄って相変わらず元気な様子を確かめるゲイル。
この老人が孤児だった自分を拾って育ててくれた心からの師匠、フォンである。
彼もまた、息子同然の存在が立派になって帰ってきて髭に手をやりながら嬉しそうだ。

「そうか、それはすまないな。わしらが不甲斐ないせいで。」

だが、息子の帰還をいつもの場所で迎えてやれないことに彼は悔しそうに振り向いた。
見上げた先にある、住み慣れた神殿。今あそこには武閃が統治ギルドとして住んでいる。
それでも、その目に憎しみはなく、それがゲイルには違和感でしかなかった。

「だがの、マフィアが占領しているというのは正しい表現ではないぞ。」
「どういうことだよ?」

そして彼から告げられる事実。サフィも言っていたが、どうやら大げさに事を捉えていたようである。
だが、事情を飲み込めないゲイルは「外見てもファミリーの紋を服にあしらった連中がいっぱいじゃねーか」と、
外を指差して問う。どう見たって、渡来者の乗っ取りである。

「彼らは私たちと統治権をかけた正式な試合を行って・・・勝ったのよ。略奪とかではなくて、ね。」

やはり、ここに来る前に武閃から逃げてきたという男の言っていたことは本当だったようだ。
真実を聞いた途端、見開かれるゲイルの目。まさかサフィたちが敗れるなんて、そんな事信じられなかった。
「だから今はまた勝負を挑む為に皆で修行していたのよ。」彼女の視線が道場の中へと移る。
誰もが一生懸命稽古に励んでいるが、どの目も本来の道を失ってはいない。
敵対ギルドへの復讐・・・そんな雰囲気でないのは明らかだった。
だが、ゲイルにはそれが違和感でしかなく、やりきれない想いが顔に表れていた。

「彼らは敗れた我らを追放しなかったし、むしろ共存を呼びかけてきた。」

息子の様子を察したか、フォンが静かに経緯を語りだした。
目を見開くゲイル。侵略であれば、邪魔となる全統治者は処刑か、良くて追放されるのが普通だ。

「武閃がサラセン第一ギルドではあるが、統治自体は地元民に委ねている状態だ。」

それは外の様子を見ても分かる。地元民は昔と変わらない生活を続けている。
変わったのは町を代表するギルドの名前だけ。ヤアンたちは自分達の文化にサラセンを染めるのではなく、
自分達をサラセンの文化に染めて、歴史を踏襲したのである。

「それで師匠たちも躍起なって統治権を取り返そうって感じじゃないわけか。じゃあ連中何がしたかったんだよ。」

とりあえずは、サラセンが異邦人たちに蹂躙されているわけではない事を知り、
ゲイルも束の間の安堵を手に入れたかに思えたのだが、新たな疑問に表情が曇る。
彼らの意図が全く見えなかった。だがそれは、サラセンの住人が一番に分かっていた。

「恐らくは・・・自分達の居場所が欲しかったに違いない。」

フォンの一言にゲイルははっとした。彼らはデルクレビスから出てきた者達。
かつて光の世界を求めて弾き出された者達。「今もヤアンはサラセンを我が故郷と言って発展の為に資財を投じている。」
フォンが語った事実からも、この世界を彼らが愛していることは伝わってきた。
柔らかな笑みを浮かべるシャニー。ヤアンは自分との約束を守ってくれていたのだ。

「とはいえ。その資金はマフィア業で手に入れたものを資金浄化したものだろう。かつてのルケシオンのようにな。」

過剰に肩入れしようとするシャニーを止めたのはやはりメルトだった。
頭の痛い話である。自分に経験のある話だからこそ、シャニーも反論できない。

「確かにやり方は善の道ではないのかもしれない。でも全てを否定はできないわ。」

そう口にしたのは意外にもサフィだった。本当は看板を奪った憎き敵のはずだった。
だが、ヤアン達が今まで見せてきた行動は実に誠意溢れるもの。
「彼らは善だけでは解決できない事を自らの善で解決しようとしてくれてきた。」と、善が必ずしも一つではない事を告げる。

「マイソシアの光でどうにもならないところをデルクレビスの闇で守る。
 だからお前たちもその光で俺達を照らしてくれ・・・あの言葉を私は忘れない。」

勝負に敗北し、愕然と崩れ落ちたサフィの手を取ったヤアンが口にした言葉である。
自分達に欠けているものを分かっていて、それが欲しくて光の世界にやってきた者達。
奪うつもりはなかった。同志として認めて欲しい、その言葉をサフィは信じた。

「奴らは力のある連中しか狙わん。悪銭を稼ぐ連中を叩きのめして民へ還元しておる。」

シャニーのような調和の善、帝国のような制圧の善・・・善はたくさんの色を持っているが
ヤアン達もまた、己の色を精一杯、故郷と決めたサラセンの為に捧げているらしい。
そして信じたサラセンの民を裏切らない数々の活躍が、民の彼への信頼として英雄という賞賛になって返ってきた。

「マフィアというより自警団に近いかもしれないわね。彼らがサラセンの民に拳を振るったなんて話、一度も聞かないし。
 むしろゴットファーザーって呼んで慕っているわ。私も彼とはよく話をしたし、信用しているつもり。」

サフィも最初は激しく警戒していたし、裏があるとスパイ行動までした。
もちろん、相手はマフィアで盗賊でもない彼女はすぐに捕まってヤアンの前にしょっぴかれたが、
ヤアンは大きな体を揺らして笑うと、自室に招いて語りだしたのだ、サラセンの未来を。
そして彼女にも意見を求め、その眼差しに誠意を感じたサフィは想いを改める事にしたのだった。

「じゃから皆と話して、彼らを受け入れたのだ。あの時のヤアンの男泣きをわしは信じとる。」

試合に勝ち、サラセンの未来を考え、それでもヤアンは民に猶予を与えた。
半年の行動で示す自分達の想いを民が認めるか否か。
受け入れを告げるフォンの前で、巨漢が崩れ落ちて流した泪。忘れられないものだった。

「今ではヤアンの活躍を知ってマイソシアに移住してくるデルクの人も現れるようになって、サラセンも人が増えて活性しているわ。」

ヤアンのことを、みなとてもよく言ってくれる。自分のことではないのにシャニーはうれしかった。
彼は約束を守ってくれた。修羅の道を捨て、デルクレビスの為に必ず立身してみせる、と。
今、彼は間違いなくデルクレビスにとっての新たな光となったのだ。

「奴は帝国のアルトシャンと繋がっていると聞いていたのだが、何か話が違うな。」

だが、相変わらずメルトは慎重に物事を捉えていた。
どうにも地元民が口にするヤアンは、今まで描いてきた人物像とかけ離れている。
新天地を求めたデルクの者達が、帝国の力を背景にサラセンを占領した・・・と考えていたのだが、
それを口にすると、サフィがすぐに首を横に振り、フォンが口を開く。

「確かに五賢陣の一人ではある。じゃが、ヤアンは他の五賢陣と違い、その拳を抑圧に使わなかった。
 だからわしらも強行に出ることはなかったのじゃ。」

実際、今も彼は己の拳を鍛え続けているだろう。だがそれは、制圧の為の拳ではなく、守るための拳だ。
かつて、自分より遥かに小さくて力もない少女が見せた、守るための力。傷ついてもそれでも貫かれた意志を己の拳は砕けなかった。
ヤアンはそれを目の当たりにし、己の拳を見つめて虚しくなった。
そして誓ったのである。この力を守るために使うと。その約束した相手と言うのがシャニーである。

「むしろ彼がサラセンにいてくれたから、帝国軍の侵略を受けずに済んだって話よ。・・・地元ギルドとしては悔しいけど。」

アルトシャンがテレビで全世界に服従を求めたあの日、すぐにヤアンは動いた。
もちろんサラセンにも軍が向けられる予定だったのだが、彼の粘り強い直訴にアルトシャンが折れたのだ。
あの一件で、ヤアンは更に地元民の信用を勝ち得た形となった。

「ヤアンって元デルクの修羅だった奴だよな。それがそんな変わるなんてすげえな。」

デルクレビスの修羅といえば、だれそれ構わず袖が触れたわけでもないのに殺しまくる連中。
そうしなければ、自分が殺されるからだ。それが今、この世界で英雄と呼ばれるなんて。
信じられない思いがゲイルの口から素直に出て、サフィはシャニーのほうを向く。

「それはね、あなたのおかげだって言ってたわよ、シャニー。あなたが拳の扱い方を変えさせてくれたって。」
「え・・・ヤアンさん、私のこと覚えててくれたんだ。」

ぱっと咲く笑顔。もちろん、シャニーがヤアンのことを忘れるわけはない。
一度会いたいとずっと思っていた。彼は覚えてくれていただけではなく、約束を守ってくれ
そして何と自分に感謝しているというのである。照れくさかったし、それ以上に嬉しくて嬉しくて、
久々に心から嬉しいと思えた瞬間は浮かんだ柔らかい笑顔に現れている。

「だけどその武閃の連中が最近逃げ出してるって話じゃねーか。」

そんな嬉しい時間は束の間の事で、すぐに現実に引き戻された。
とりあえず武閃のことはよく分かったが、それは既に過去のもの。今は状況が違うからこそ訪れたのだ。
「そうなのよ。」ゲイルの問いにサフィにため息混じりに神殿を見上げる。

「最近武閃の様子がおかしくてね。前まではよくヤアンともサラセンのことで打ち合わせてたりしたんだけど。」

そこまで口にして、サフィは不安げに視線を落とした。
誰もが、既にヤアンたちを異邦人とは感じなくなってきていた矢先のことで、
民は彼のことを心配していた。それはサフィたちも例に漏れない。

「ねえ、ヤアンさんと話をしてみようよ!」

それはいきなりの提案だった。明るく高い声が沈んだその場へ新たな息吹をもたらす。
「きっと何かあるよ」彼女の言う通りで周りも頷くが、ひとりだけその意見に反対する者がいた。

「シャニー、いくらなんでも危険だ。」

メルトである。彼もヤアンと話をする必要性は勿論感じていたが、
それを今実行に移すにはあまりにもリスクが大きかった。皆が意見に賛同して勢いに任せてはいけない。
一人は異を唱え一呼吸置く間が必要で、彼は当然のリスクを口にした。「相手が拳をしまってくれるとは限らんぞ。」

「私はヤアンさんを信じてる。ゴットファーザーって言われて敬愛されるような人が約束破るわけないもん。」

相変わらず、彼女は基本的に性善説を唱える人間である。
だからこそ、彼女は慕われ、信用されるのかもしれない。裏表なく人に笑顔で接することが出来る恵まれた性格は武器だが、
同時にそれは隙でもある。帝国は彼女の弱さを知っているのだ。
渋い顔を崩せないメルト。「私も同行するわ。」その緊張の沈黙を破ったのはサフィだった。

「私たちも同行するわ。帝国が裏で糸引いてたら、私たちも戦う。」
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