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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter19 泪なき友誼

5話:男ってヤツは

 ←4話:帰省と再会 →6話:聖務日課
 ひとまず日程を決めてサラセンの者たちと共にヤアンの下へ向かうことになった。
それまでは束の間の休息だ。野宿ではできないことをいろいろこなし、次へと備える。

「うーん、これで・・・どうかな?」

ハサミを上げたシャニーはふうっと大きく息を吐きながら汗をかいたわけでもないのに額を拭う。
彼女の目の前にはゲイルが座っており、渡された鏡で頭を見つめていた。

「どう?ゲイル。もう少し短くしたほうがいいかな?」

鏡に向かって気取ったポーズをとったりしてふざけるゲイルに問うてみる。
すると今までは何のために見ていたのか。難しい顔をして鏡をまじまじと覗きこみだした。

「いや、てきとーでいいぜ。うん、これで十分だ。」

シャニーはゲイルの髪形を知っているから、今日もソフトモヒカンに仕上げてくれた。
彼女はもうちょっとゲイルをかっこよくしたいのだが、
そこまで髪型にこだわっていないゲイルから出てくる言葉はやっぱりいつも通りだ。

「えー、適当で良いって、なかなか難しい事言うね、うーん・・・。」

本人にとってはとても便利な言葉だが、聞かされる側を困惑させるだけだ。
彼女はハサミを持ったまま顎に手をそえ、眉をひそめながら口をへの字に曲げて唸りだしてしまった。
これだけしっかりした体をしているのだ。身だしなみを整えたらきっとすごいかっこいいのに。

「凝らなくて良いって。俺はさっぱり出来ればそれでいいんだからよ。」

自分のことなのに面倒くさがるゲイルに思わず拳骨を見舞う。
突然殴られて悲しげな眼差しを送ってみるが、シャニーの目は三角のまま。
いつも通りのやり取りを眺めながらレイは笑っていた。この二人、2年前と何も変わっていない。

「ゲイル君はラクでいいねえ。シャニーちゃんに髪切って貰えるのか。」

シャニーも本当に器用な人間である。料理に裁縫と家事一般得意だし、毒薬作りに散髪までできるとは。
だが、散髪は最初はさっぱりで、ゲイルも何度スキンにさせられたか。
彼で練習し、孤児院の子供達の髪を整えていたので今でもスキルとして残っている。

「おう。まぁ、あれだ、金がないからな。な?」

見上げられて苦笑いするシャニー。やっぱり全財産をルケシオンに送ってしまったのが痛すぎる。
「少しでも浮かそうって努力だぜ。」ゲイル達の爪に火をともす姿にレイはぽんと手を打った。

「その浮いたお金で新しいキュレック買うのか。なるほどなるほど。」

うんうんと頷くレイだったが、次の瞬間はっとして注がれた視線を見つめる。
そこにはゲイルの怒りに満ちた眼差しがあった。だが、その目線もすぐ引っ張られるように上を向く。
「・・・なんだって?どーいうこと?ゲイル!」引っ張られたその先で、怒りをぶちまけられた。

「い、いや!話の種だよ!本当に買うわけじゃねえ!」

目を三角にしたシャニーがゲイルの髪を鷲掴みにして自分のほうに顔を向けさせている。
明らかな上下関係。ゲイルはすぐさま口を空回りさせながら必死に弁解し、
(レイてめえ・・・)ちらりとレイのほうへ視線を浴びせる。
レイもこのままではマズイと直感し、すかさずフォローに入る。

「そ、そーよシャニーちゃん。本気にしちゃあいけねえ。」
「ふーん・・・・それならまぁいいけどさ。」

どうやら今日はシャニーもご機嫌がいいらしく、それ以上の追求はなかった。
ご機嫌斜めなら手荷物検査が入るところだ。(あぶねあぶね・・・。)今もしされたら完璧アウトだったのだが、
ゲイルだけではなくレイも大きく息を吐き出した。昨日ゲイルから新品のキュレックを自慢されたばかりである。
隠し事はしないというゲイル達だが、やっぱり二人ともヘソクリはしているらしい。
シャニーだってこんなことを言っているが、ちゃっかり貯めていることをレイは知っている。

「お前は大変そうだよな。昔は後ろで縛ってるだけのガサツな医者って感じだったけどさ。」

シャニーの気が変わらないうちに、ゲイルはチャンスを逃さずすかさず話題を変える。
知り合った頃から医者だったレイ。その頃は田舎の医者らしく身なりはお世辞にも良いとは言えなかった。
ところが今はどうだ。さすが帝都で暮していたというだけの品を漂わせている。
「おいおい、ガサツは余計だろ。」
すぐさまレイは人が聞いたら誤解するようなことを言う悪友に眉を吊り上げる。

「まぁ、帝都はいろいろ身だしなみに煩い人も多いからな。
 まして一応オレ様も博士と呼ばれる立場だ。髪ぐらいはきっちりセットしないとな。」

片田舎の町医者なら、別に身なりなど適当でいいかもしれないが、
今は国に功績を認められた貴族の位を賜った身。国家行事に出席する事もある中でいくつか恥もかいてきた。
ようやく最近になって、他の貴族とも対話が出来るようになったが、最初は苦労したものだ。

「こんなスケベが博士とか言われるなんて、世も末だと思ったのは私だけじゃないはず・・・。」

ところが、この場にいるものは少なくともレイの事を貴族だと見てくれている者は誰一人としていない。
ちょっとはこれで見直してくれるかと期待したレイだったが、
じっと事の行く末を面白そうに眺めていたエルピスが痛恨の一撃を浴びせてきた。

「エ、エルピス様ぁ・・・。」
「激しく同意・・・。」

やっぱり事実を知ろうとも、性格が性格だけにこれっぽっちも身分が上だなんて思えないし、思いたくもない。
懇願にエルピスを見つめるレイだが、悪友がエルピスに賛同し、最後にシャニーを見つめたレイだったが、
そこからも帰ってきたのは苦笑いだけで、ぽっきりと首を折った。
それを見て笑い出すゲイルとエルピス。この二人、いつもはケンカばかりなのにこういう時だけは結託するから性質が悪い。

「うん、すごいイメージ変わったよ、レイさん。なんだかめちゃくちゃ頭よさそうなエリートに見える。」

あまりにかわいそうになってシャニーがフォローしてやった途端だ。
それまでの陰鬱な雰囲気がぱっと吹飛んだレイはシャニーの手を取って満面の笑顔。

「うひゃひゃ、シャニーちゃんにそう言われたらオレ様も自覚が持てるぜ!」

持たれた手を握手しながら何度も上下に揺さ振られる。
あまりに早いスイッチの切り替え方にシャニーも「良かったね」と言うのが精一杯で苦笑いを隠せない。

「ま、見た目だけで中身がさっぱりなのは相変わらずだけどな。」

だが、どうしても認めようとしない悪友が両手を広げながら呆れてみせてきた。
シャニーやエルピスに言われるのは我慢できるが、やっぱりコイツ相手には素直には引き下がれない。

「俺ももう24だしな。」

ふっと鼻で批判を笑い飛ばすと、逆にカウンターを見舞ってやる事にした。
横目で見下すようにゲイルを見てやると、「二十歳超えても体が資本の脳筋と一緒にされちゃ困るぜ。」
と、名指しせずとも分かる皮肉をぶつけてやった。クスクスとエルピスの笑い声が聞こえだす。

「なんだとてめえ!俺は別にイメージ変えなくたっていいんだよ!」

ルケシオンでだって自分の仕事はシャニーたちができないような肉体労働だった。
別にレイのような学識がなくたって劣等感を覚えたことはないし、故郷の支えになっている自信はあった。
それをシャニーも認めてくれているらしく、今回は自分の味方らしい。
ところが、その口から出た言葉に顔が引きつる。「そうそう!ゲイルがインテリっぽくなったら気持ち悪いだけだよ!」

「シャニー・・・それ褒め言葉になってないぞ。」

彼女なりの精一杯のフォローに違いないと己に言い聞かせても、あまりに酷い言葉。
両手をぐっと胸元で握り締めながらレイに反論するシャニーの方にぽんと手を置いて止めさせた。
彼女も言ってから気づいたのか、代わりの言葉を探して視線が泳ぐ。

「え、いやあゲイルは今のままが一番って言いたかったんだよ!かっこいいよ!」
「ああ・・・俺何だかすげえ傷ついた気がする・・・。」

慰められれば慰められるほど傷を抉られるような思い。フィアンセに言われたと思うとなお更だ。
さっきまでレイが垂れ流していた負のオーラを、今度はゲイルが噴出し始め、
シャニーはどうすれば良いのか分からずに彼の背をさすって慰める。

「そうだ。」

うな垂れる悪友を慰めてやるのかと思えば、レイは何か思いついたらしい。
ぽんと手を打つとなにやらにこにこと「シャニーちゃんもたまにはイメチェンしてみたらどうだい?」と提案したではないか。
彼女も突然の話にゲイルのことを忘れレイのほうへ視線が釘付け。

「イメチェン?私が?」

そう言えば最近、もうずっとおしゃれなんかできていない。
それはこの旅が始まる前からだ。復興と発展に勤しむ中、自分の時間なんてなかった彼女が
「わぁ、なんだか面白そう!」とレイの話に乗るのに時間はかからなかった。

「髪型変えてみたり服装をいつもと変えてみたりさ、シャニーちゃん小顔で可愛いから何でも似合うぞ。」

さすがレイ、人を話に乗せるのは何とも手馴れている。
ただでさえお世辞に弱いシャニーである。乗せて褒めてを繰り返せばイチコロでだ。
もうゲイルのことなんかすっかり忘れて自分の世界に入ってしまっている。

「えへへ、そうかな。あー、何だか試したくなってきた。」

ゲイルはシャニーのいい返事に悪友がニヤッとしたその一瞬を逃してはいなかった。
「うひゃひゃ、このレイ博士にお任せあれ。」すぐさまレイはシャニーを町へと案内しようと歩き出したが
その背後から肩をがっしりと掴む手。振り向くとそこではゲイルが睨んでいた。

「・・・てめえ、上手くあいつを口車に乗せてまた企んでねえか?」

いつもは武具と飯のことしか頭にない脳筋のくせして、こういう時だけはやたらと勘がいい。
愛想笑いを浮かべて誤魔化そうとするが、「あいつに手を出したら承知しねえぞ?」とまんざらでもない様子のゲイル。

「まぁまぁ、お前もシャニーちゃんのかわいさに磨きがかかったら嬉しいだろ?」

これは誤魔化せそうにない。何より、相手がゲイルならごまかす必要などない。
肘でゲイルの腕を小突きながら、ウインクして彼を自分側へと引き込もうとし始めた出はないか。
ゲイルもゲイルだ。何も言い返せずレイについていく事に。
ろくなことにならないと分かっていても、男とはバカなものである。


「どう?シャニーちゃん、髪型どうする?ロングとかツインとかショートとか・・・。」
「うーん・・・たまにはロングも良いかなぁ。ショートはさ、耳が見えちゃうからダメだよ。」

ゲイルよりも熱心に自分のおしゃれに付き合ってくれるレイにシャニーもご機嫌だ。
彼女はレイが手にするファッション雑誌を真似て、鏡を見ながらいろいろ髪型を試し始めた。
それにしても、毎度毎度、この高い耳は邪魔になる。
指名手配が晴れたら、きっと今度はショートヘアにしてやると妙に意気込む。

「じゃあこれでよ、後ろでリボンを結んで、お、これはなかなか・・・。」

そのままレイに彼女を任せていたのではどうにも癪に障る。レイが用意したリボンを奪い取ると、
ゲイルはポニーテイルを解いた長いシャニーの髪の先に結ってみた。
「ホント?かわいく見える?」ゲイルが満足そうに言うからシャニーも興味津々。
何より彼が自分のおしゃれに参加してくれたのなんて、実は初めてかもしれなくて嬉しくて堪らない。

「おう、結構いい感じに見えるぜ。」

ゲイルの自画自賛にシャニーは鏡で自身の後姿を見ていたが満足できず、
手鏡で背後の鏡を映してみてみる。長髪の自分なんて初めてかも知れず、何だか不思議な気分だ。

「ポニーも可愛いけどこれもかわいい。」
「ホントー!わぁ、じゃあしばらくこの髪型にして見る!」

だけど、大切な人が可愛いと言ってくれたら、他の判断基準なんて要らない。
彼女はゲイルの前でくるりと一回転して長い髪を風に流して見せた。
やっぱり、こうして普通の乙女として活き活きしてくれているほうが、ゲイルには嬉しかった。

「じゃあ服はどうしてみようか。いっつも潜入服とか天界の鎧じゃせっかくの可愛さも台無しだ。」

髪形が整ったら今度は服。レイは早速彼女をエスコートして服屋へと連れて行く。
どうやらサラセンでの修行時代に大分商店街をうろついていたらしく迷いがない。
スムーズな移動と調子のいい語り口調にシャニーもご機嫌だ。

「悪かったわね、ティアレイドブラウスがごつくてださくて。」

だが、一人不機嫌なのはエルピスだ。自分が妹分に譲った鎧をレイが貶したからだ。
「そうネガるなよ。」とゲイルがフォローしてやるが、むすっとしたままレイを睨んでいる。

「これとかどう?お、こっちもかわいいな。どう?シャニーちゃん。」

そんな視線などお構いなしのレイは早速服屋であれこれ物色を始める。
彼が手に取るものはどれもこれも大胆なフォルムのものが多く、
シャニーも手にとって鏡の前で自身の前に服を重ねてみてみるが明らかに顔が紅潮している。

「ホントだ、かわいいなぁ。でもさ、こんなミニスカートは恥ずかしいよ。」
「そう言えばお前って大抵ズボンだな。ルケシオンにいた頃はスカートだったけど、あれはホント仕事着って感じだったし。」

彼女が着ていたのは、家事などがしやすいように作られたもの。
孤児院で子供達の相手をするときに使っていたもので、今彼女が手にしているようなものとはまるで違う。
だからか、相棒なのに彼女が手にしている服を着たらどうなるか、まるで想像が出来なかった。

「そうそう!たまにはこういう“スカート!”って感じのものもかわいくていいと思うんだ。」

「ゲイルもそう思う?」と聞かれて、彼は何度も頷いた。確かに興味がある。
小顔で華奢な彼女が、こういうファッションに身を包んだらどうなるか。
本人は恥ずかしそうだが、それでもレイに押されて試着室へと入っていった。

「ね、似合うと思う?これ。」

試着室から出てきたシャニーを見るレイの目が明らかにいつもと違う。
ゲイルも相棒の珍しい恰好に思わず口笛が出る。まるで別人だった。

「おお・・・なんかどっかのアイドルみたいだ。」
「ホント?!」

ゲイルはお世辞は言えない男だ。その彼がこんなストレートな褒め言葉をくれたのだ。
シャニーは恥ずかしさが吹飛んで、飛んで跳ねて喜ぶ。その度にミニスカートが揺れて
どきんどきんと胸が弾き飛びそうになるのを堪えるのでゲイルは精一杯だった。

「でも・・・ちょっと高いなぁ。」

こんなに相棒に喜んでもらえるなら、これを着てデートしたい。
そう思う乙女心の前に立ちはだかったのは値札だった。

「気にするな、たまにはお前もおしゃれしないとな。また貯めればいいじゃないか。」
「ありがと!じゃあ早速買っちゃうよ!」

だが、彼女の背を押したのはゲイルだった。復興の為と、彼女がルケシオンにいる頃からずっと我慢していたのは知っていた。
まともにデートにも連れ出せなかった罪滅ぼしにはならないが、彼女にご褒美をあげたかったのだ。
やはり彼女は今回もガマンしようとしていたらしい。ゴーサインが出た途端、跳ね飛んでいった。

「おお・・・かわいい・・・。」

見せの外でシャニーが出てくるのを待っていたゲイル達。
「お待たせ!」と元気よく飛び出してきたシャニーを見るなり、ゲイルの口から飛び出した言葉にシャニーは紅潮した。

「ちょ、そんな真顔で言わないでよ、恥ずかしいじゃない。」

相手の様子から、お世辞で言ったわけではない事は分かる。
だからこそ余計に恥ずかしい。大好きな人に言ってもらえたことは嬉しくて堪らないのだが、
相手の驚きに覇気が抜けたような顔がまじまじと見つめてくるので、思わず視線を逸らしてしまった。

「いや、マジで可愛いよ、お前。ここまで可愛く見えたのは初めてだ・・・。」

その恥じらいの表情もゲイルにとっては堪らない物で、彼は人形を愛でるかのように
まじまじと彼女を頭の先から爪先まで見下ろして感嘆を漏らしている。

「ちょっと、それって今までかわいく見えなかったってわけ?」

ところが、ゲイルの言葉にシャニーが突然目を釣り上げた。
むすっと口元をへの字に曲げながら腰に手を当てて睨まれてしまい、
「ば、ばかやろ!」とすぐさま否定すると、彼も視線を逸らしながらボソッと小さく呟いた。

「磨きがかかったって意味に決まってるだろ!・・・言わせんな、恥ずかしい。」

いつもポニーテイルに潜入服、よくて白のミニワンピだが今日は違う。
ロングの先を赤いリボンで結び、服装も若さがはじけるミニスカート。どこを見ても瑞々しい。
だがそれを口にするの恥ずかしくて、恥ずかしくて。でも、それを彼女は待っていたらしい。
「へへ、分かってたけど言って欲しかったの!あなただから!」と満足そうに歩き出す。

「うひょー、シャニーちゃんマジで天使みたいだな!」

後を追いかける男たちは、跳ねる様に歩くシャニーの姿にウキウキしていた。
店に誘ったレイも、彼女がおしゃれに身を包んでスキップする姿に上機嫌だ。

「な。もっとあいつにお洒落させてやりたいなぁ。その為にも、早くこの旅を終わらせないと。」

レイ以上に、シャニーの元気な姿に目を細めているのは間違いなくゲイルだ。
いつも緊張の中で生きなければならない今は間違いなく日常ではない。
早く彼女を日常に戻して、その中でたくさん、楽しい思い出を残していきたい。改めてそう誓う。

「あなたね、一応言っておくと彼女は私の後継者、本物の天使なのよ?」

そんな上機嫌の男共に、後ろから来たエルピスが小言で突く。
周りは皆認めていないらしいが、シャニーはいまや熾天使のはずなのだ。
今更天使みたいだといわれるのは、何だか自分が認められていない気さえしてきて癪に障ったらしい。

「うひょ、エルピス様もその服似合ってますよ、美しいです。」

相手は目を三角にしているというのに、レイの口から出る言葉は相変わらずだ。
手もみしながらエルピスも新調したらしい新しいスタイリッシュな服を褒める。

「あら、ホント?やっぱり美しいって罪よね?」

ところが、エルピスも相手の口車に乗って上機嫌になってしまったではないか。
自分も服を買ったのに気付かないものだから、褒められに来たのではないかと思うぐらいの豹変振りである。
まんざらでもない彼女は鏡を見つめてうっとりし始めている。

(エルピスの気質そのものが単純なのかもしれねえ・・・。)

シャニーといい、エルピスといい、本当におだてに弱い連中である。
不機嫌なときはとりあえずおだてとけとはレイによく言われるが、ここまで分かりやすいとは。
これが希望の熾天使の気質そのものなのかとさえ思えて呆れるゲイル。

「・・・おい、お前は何やってんだ?」

その時だ。ふとレイのほうを振り向くと、いつの間にか写真機を持っているではないか。
嫌な予感がして問うてみると、「ばっかだなー、ゲイル君は!」とレイのいつも通りの卑しい笑みが帰っていた。

「この絶景を記録しておかないでどうする!ミニスカといえば絶対領域!絶対領域といえばゲイル君、パンチラだよ、パンチラ!」
「・・・やっぱてめえ企んでやがったのか。」

ようやくにレイがシャニーへあんな短いスカートを勧めた理由が分かって侮蔑の眼差しを送る。
華奢でも盗賊らしく引き締まった彼女だ。ミニスカから覗く足も美しく、レイにとっては絶好の相手だろう。

「なぁに人聞きの悪いこと言ってるのゲイル君は!お前だって喜んでたじゃないか。」

レイは悪気を見せるどころか、むしろゲイルの肩をぽんぽん叩いて“こちら側”にさっさと来るように唆す。
ゲイルは乗り気ではない。こんなのがばれてシャニーの機嫌を損ねたら大変だ。
だが、そんな二人の不穏な動きは振り向いたシャニーの視界に入ってしまい、彼女は首をかしげている。

「やめてくれよ、あいつがもうスカート穿かないとか言い出したら困るだろ。」

別にスケベ心を出して、あの服を勧めたつもりはない。単純に可愛かったし、彼女も気に入ったからだ。
お前とは違うと、ゲイルは姿勢をハッキリさせてレイに写真機をしまうようにジェスチャーするが、
ここが婚約者と友達の差なのか。レイの情熱はますますエスカレート。

「偽善発言は良くないぜ?お前だって見たかったくせに。」

にやにやといやらしく白い歯を見せながら、肘で悪友を小突いて唆し続けるレイ。
だが、次の瞬間、彼の表情が一変してゲイルの胸倉を掴んだではないか。
「いや・・・俺は毎日見てるから別にいいんだよ。」と、隅に置けない発言をゲイルがしたからである。

「なにー!!どういうことだ!卑怯だぞお前だけ!」

今にも血の涙を流しだしそうなほどに目を真っ赤にして怒鳴ってくるレイには苦笑いしか返すものがない。
卑怯と言われても、これが友達どまりと婚約者の違いとでも言えばいいのか。
とりあえず、「考えてみろ、俺とあいつはいつも同じ部屋なんだぞ。」と言って彼を引き離すが、
それだけでもレイはゲイルの優越感に恨めしそうにしている。

「着替えの時背を向けて立ってもチラッとは・・・見えるだろ?」

最初は着替えのときは出て行けといわれていたが、今は面倒くさくなったのか後ろを向いてろと言われるだけだ。
素直なゲイルはもちろん言われたとおりにしているのだが、時には部屋の構造上事故が起きたりする事もある。
例えば・・・振り向いた先に姿見があったりするときである。

「いいなぁ、分かるぜ、そのチラッと一瞬の隙を突くスリル!」

やはりレイはわかる奴だ。ゲイルもこのときばかりはいやらしい笑みを二人で浮かべていた。
シャニーは盗賊、勘の鋭い相手の一瞬の隙。ゲイルにとっては覗くよりもそのスリルが堪らなかった。
その時の様子を再現してみろとレイに唆され背中を向ける。

「ゲイルくーん、今日のシャニーちゃんのパンツは何色だった?」

早速レイから質問が飛んで来て、ちらっと後ろを除き見るまねをして見せた。
そしてゲイルは自信満々に、今日も勝ち取った一瞬の隙の戦果を堂々と口にする。「はっは、今日は水色だったぜ!」
ところが、おおっといつも通りのレイの大げさなリアクションが帰ってこず、彼を見ると表情が固まっていた。

「どうした?レイ・・・?!」

どうにもレイの様子がおかしく、彼の顔の前で手を振ってやるがまるで反応がない。
その時だ。ゲイルも背後からの気配にはっとして振り向いて、途端頭が爆発しそうなほどの衝撃が襲う。

「げっ!!」
「ゲイル?今日からゴハン半分ね!期限は私の気分次第!!」

何と目の前にいたのは最も今の話を聞かれてはならない相手だったのだ。
もちろん、彼女はカンカンで即効蒼褪めるゲイルへ死の宣告を突きつけた。

「レイさんの前ではもう絶対スカート穿かないからね!もう!オトコってサイテー!」

ゲイルの表情が真っ白になって崩れ落ちたのを確認すると、今度はレイにも死刑を告げる。
男二人が情けなくその場に座り込んで、シャニーは腰に手を当てながら彼らを覗き込んで怒鳴りまくる。
「あああ・・・生きる希望を一つ失ったぞ・・・。」絶望に打ちひしがれた声を漏らし、レイが地面に伏す。

「お、俺も・・・。」

なんで彼女の気配を気にしてから口にしなかったのだろう。
そんな風に後悔しても遅いことは分かっていても、胃がキリキリと締め上げられる。
「シャニー!誤解だ!視界に入っちゃうだけで故意じゃない!」言い訳はますます首を絞めるだけだった。

「問答無用!ゲイルに免じて半分なんだからね!ありがたく思え!」

あんな会話をしておいて見えちゃうとは随分下手な言い訳である。
座り込むゲイルに鬼の形相を浴びせて黙らせると、しなりを利かせて彼の頭をひっぱたいた。
もう彼に抵抗する力は残っておらず、華奢な力を前に首がもげそうだ。

「くそう!レイと絡むとろくな事がねえ!責任取りやがれこのやろう!」

シャニーの料理が半分しか食べられない・・・それはゲイルにとって生き地獄以外の何者でもない。
こうやってシャニーを激怒させてしまうときは、大抵、というかほぼ100パーセントレイが絡んでいる。
毎回こうして後悔するのだが、シャニーにとっては二人とも同罪で「もーう、男ってサイテー!」と連呼している。

「あの子、後ろから丸見えって気付いてないわよね。ね、メルト?」

エルピスとメルトはそんな連中の様子を遠くから高みの見物だ。
当事者にとっては絶望的な光景だが、見ている分には面白いからいい。
ミニスカートで上体を屈めているシャニーの“丸見え”を、後ろからエルピスが指差して笑っていた。

「俺は見ていない、見ていないぞ、断じて。」

だが、メルトは気が気ではなかった。これはまさに歩く公害である。
シャニーの怒りがこちらに飛び火しないよう、必死に視線を逸らすのであった。
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