現在の閲覧者数:

スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←6話:聖務日課 →8話:モンスターカメラ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  • 【6話:聖務日課】へ
  • 【8話:モンスターカメラ】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter19 泪なき友誼

7話:過ぎたるは及ばざるが如し

 ←6話:聖務日課 →8話:モンスターカメラ
 その夜、二人は町へ出かけていった。いい雰囲気のまま出て行ったから、きっと素晴しいデートになるだろうと誰もが予想していたが
帰って来た二人は蒼褪めた表情をしていて、仲間のおかえりにもまともに返せないまま
ふらふらとベッドに倒れこんで唸り声を上げだしたではないか。

「ううう、おなか痛いよう。あああ、死んじゃう、私もう終わりなのね・・・。」

さっきから同じような事をお経のように繰り返すシャニー。その表現はどんどんエスカレートしていく。
「何を馬鹿げた事を言ってる。」と軽くあしらってぽんと腹薬を投げつけてやったメルトは、
今にも死にそうによたつく彼女の腰を叩いてやった。途端、目を白黒させて思わず口元を押さえるシャニー。

「まったく、お前は何でも大げさすぎる。」

蒼褪めた顔で恨めしそうにメルトを睨むのだが彼は全く相手にしてくれない。
この苦しさをメルトにそっくり渡してやりたいものだが、今は下手に声を出す余力さえなく、またベッドに倒れこんだ。

「うおおおお、いてえええよおおお!」

ようやくシャニーが黙ったかと思ったら、今度はその横から喚き声が上がる。
おまけにシャニーとは違って叫ぶものだから募るいらいらは桁違いだ。

「お前も喧しい!男だろう、そのくらいで騒ぐな!」

もちろん、声を上げたのはシャニーの相棒ゲイルである。
何もこんなところまで一緒になって喚かなくてもいいだろうに、二人してベッドで悶絶している。
さらにゲイルは巨体で蠢くものだから目障りも甚だしい。

「ううー、ゲイルがこんなになるくらいなんだから私がこうなって当然よね・・・。」

のた打ち回るゲイルの頭を一撃したメルトは、ようやく鎮まった情けない男に鼻息荒くため息をつく。
今も腹を抑えながら横でうずくまる相棒を見て、シャニーもまた後悔していた。

「お前もお前だ。ゲイルを止めなければならないはずなのに一緒になって。」

自分がシャニーより下だと思われてることに反論しようとするゲイル。
いつもはブレーキのないトロッコのように突っ込んでいくシャニーの目付け役なのだ。
だが、食べ物の話になると話が別なのは、ゲイル以外の全てが知っていること。

「あはは・・・いやあ・・・やっぱ目の前にしちゃうとどうしても。」

申し訳なさそうに頭の後ろに手をやりながら白い歯を見せ苦笑いするシャニー。
自分のほうが年下ではあるが、ゲイルの世話をしている自信はあった。
だが、そんな彼女もケーキを前にするとどうにもブレーキが外れるようで、若い二人にはメルトも口元を渋くせざるをえない。

「メルト、俺よりこいつのほうが絶対たくさん食ってたんだぜ。」

どうにも自分ばかりが悪いように言われていて気に食わないので真実を明かす。
何せ、自分のほうが先にもう止めておこうといったのに、唆したのはシャニーなのだ。
当然ながら、言われて黙っている相手ではなく、「あー!」と大げさに叫んで指差してきた。

「そうやって抜け駆けしようって言うわけね?!」
「だって、お前料理のほかにケーキどれだけ食ってたんだよ。」

さされた指で鼻を押さえられてもゲイルは引かず、ジト目で彼女を睨むとあっさりと言い返した。
料理こそ自分のほうがやや多く食べていたとは言え、その後彼女はケーキを浴びるほど食っていたのだ。
その量は大喰らいのゲイルでさえもぎょっとするほどの量で、
こんな細い体のどこに山のようなケーキが消えていくのか驚いたのはしっかり覚えている。

「む・・・。」

勢いに任せたシャニーの口撃も、ゲイルに突きつけられた事実を前にあっという間に萎む。
一気に逆転した立場。「むしろ料理よりケーキを食いに行ったんじゃねーのかってぐらいだったぜ。」と
逆に彼女の鼻に指を押し付けてぐりぐりと潰してやる。「だ、だって!」逃げるように顔を引き弁解に走る彼女。

「料理は自分で作れるけど、ケーキは作れないんだもん!」

料理は帝国最高料理人に絶賛されるほどの腕を持っているシャニーだが、
お菓子作りとなるとまるでだめらしい。そう言えばイーグラーにも最初お菓子を作らされて
コテンパンにダメ出しをされていたのを思い出す。もちろん、ゲイルには料理とお菓子で何が違うのかさっぱり分からないが。

「それがあんなお値段で食べ放題なんだよ!食べなきゃ損じゃない!」

男共が黙ったところで、一気に畳みかけようとするシャニー。
お菓子もケーキも、この辛い旅の中ではなかなか手に入らない貴重品だ。
それが目の前に山と詰まれていたら、入るだけ詰め込みたくなる気持ちも分からなくはない。・・・が、程度というものがある。

「へ、甘いものは別腹~が聞いて呆れるぜ。」

そう言って限界突破した成れの果てが今ベッドの上に転がっているのだ。
両手を広げて呆れてみせたゲイルだが、シャニーもベッドの上で足をじたばたさせながら彼を指差して頬を膨らせた。

「ゲイルだって何皿お替り繰り返してたのよ!店の人びっくりしてたじゃない!」

「なにを?!」と、腹が痛いのも忘れて互いに鼻を押し付けあう二人。
仲が良いのか悪いのか、ケンカ友達だった昔からどうにも彼らはこうして遊ぶのが大好きのようである。
だが、彼らと仲間として行動を共にする者にとっては恥ずかしい公害以外の何者でもない。
特にメルトのような堅物な男にとっては、この煩い連中は目に入るだけで頭痛がする。

「まったく恥ずかしい連中だ。一体どこへ行ってきたのだ。」

一体どこまで行って恥を撒き散らしてきたのかとストレートに聞いてやればよかっただろうか。
能天気な二人は聞かれたままに受け取ったらしく、「おいしかったよね!」とケンカをしているとは思えない言葉をシャニーが口にして
頷いたゲイルが早速ポケットから折りたたまれた紙を取り出して広げて見せた。

「ここだよ、ココ。今度メルトも行こうぜ、チェーン店らしいからよ。」

広げられた紙は、メルトも名前だけは知っている全国チェーンの食べ放題の店のチラシだった。
紙から今にもはみ出し、飛び出しそうなほどに載せられたくどい食べ物の写真は見ているだけで胃が重くなる。

「俺はどうせ喰い負けるからやめておく。」

壮年期の男性にとっては、食べ放題というのは魅力ではなかった。
むしろ量より質であり、おいしいものを少量食べられたほうが幸せというもの。
「お前らと行くと恥をかくだろうしな」と、詰め込めれば幸せな連中を冷ややかに見下ろす。

「そこまで言わなくたっていいじゃない!別に私たちふつーだよ!ふつー!」

ゲイルはともかく、自分までもが酷い言われ方をするものだから痛いお腹をさすりながらシャニーが膨れる。
「普通?どこが?」せせら笑うメルトを納得させようと、彼女は経緯を語りだした。


「はぁー、なんか今日は疲れちゃったなぁ。」

数時間前、ゲイルと共にサラセンの町で久々のデートをしていたシャニー。
いつもの重圧から開放されての散歩はどっと疲れが出て、彼女は通りのベンチにどっかり尻を放り出していた。

「そうか、じゃあ炊事とかするのもしんどいだろ。」

今日は自由行動にしておいて正解だった。彼女を休ませてやれる。
ゲイルもベンチに座って彼女を腕の中に包むと細い肩口をポンポンと触れながら労わってやり、
「よし、なんか喰いに行くか?」とシャニーに白い歯を見せながら笑いかけてやった。

「さんせーい!」

手をあげてにこにこと笑って返すシャニー。旅路では見れない顔にゲイルにほっとする。

「じゃあ何を食べに行こうか?」

きょろきょろとベンチから周りを見渡すシャニー。さすがサラセン一の繁華街と言うこともあり
あちこちに灯で照らし出された店の看板が客を待っていた。

「この前こんなビラもらったんだけど、ここ行ってみねーか?」

だが、ゲイルが選んだ店はシャニーを呼ぶ目の前に並んだ店ではなかった。
ポケットから小さく折りたたまれた紙を取り出すとシャニーの前に広げて見せた。

「お一人様1500グロットで食べ放題・・・?うえっぷ、私じゃ絶対喰い負けちゃうよ。」

目の前にはこれでもかとコッテリ、ガッツリといった感じの食べ物が小さな紙の中でぎゅうぎゅう詰めにひしめいている。
野菜や果物が好きで小食のシャニーにとっては、食べ放題というのは苦手で
見ただけでもうお腹いっぱいになったような錯覚に陥っていた。

「任せろ!俺がお前の分の仇もとってやるから!」
「は、はは、勝手に殺さないでよね・・・。」

食べ放題とは上手い具合に作られているものだ。ゲイルのような客はまさに敵のようなものだが、
シャニーのような儲かる客も一緒に連れてきてくれる。
どんと胸を叩くとゲイルは自信満々に笑うが、彼の根拠のない自信に苦笑いのシャニー。

「ま、でもゲイルがいれば大丈夫かな。」

ゲイルが喰い負けるなんてことはありえないから、自分が負けても二人で見れば勝ちは確実。
こういうソロバン勘定が頭に浮かぶのはやっぱり気質が盗賊だからか。
もちろんゲイルにとってはそんなことはどうでもよく、相棒が乗り気ならなんでもいい。

「それにお前も喜びそうな店だぜ、ここ見ろよ。」

飽きっぽくすぐ電池切れを起す彼女の興味があるうちに一気に畳み掛ける作戦だ。
ゲイルはチラシの下のほうを指差すと彼女の興味を奪う。

「様々なジャンルの料理に加えてケーキをはじめとしたドルチェ市場も・・・。」

謳われている宣伝文句を口にしたシャニーの目が見る見る輝きだす。
案の定の反応にゲイルの顔がにんまりとし始め、彼女が「ケーキ!」と目を爛々とさせて叫ぶのに時間は要らなかった。

「ああ・・・いろんなケーキに囲まれて・・・。」

両手を頬に当てながら、既にシャニーの目はとろんと上を向いて妄想の世界浸っていた。
自分を囲むケーキたち。そのすべてが自分のもの、何から、どこからかじっても自由!まさに至福が目の前にある。
「はあああ!幸せえええ!」通り過ぎる人々の視線も気にせず、喜びを弾けさせた。

「よおし、その話、乗った!行こう行こう!」

ゲイルからぱっとチラシを取り上げると、自ら先頭に立って人ごみを切り裂いていく。
頼もしい相棒に手をぐいぐいと引っ張られながら、ゲイルは彼女の後ろをついていきぐうぐう鳴る腹をさすっていた。

「1500Gでケーキ食べ放題なんて、私のためにあるようなものよ!」

そんなのん気なゲイルとは対照的に、シャニーはまるで戦場にでも赴くのかと言うほどに気合を入れ、真剣な眼差しだった。

チラシが入ったからだろうか。店の周りは遠くから見ても明らかに並んでいる。
それでもまるで物怖じしないシャニーはゲイルが妙なブレーキをかけると更に体重をかけて引きずっていった。

「うひょ、さすがに込んでるなぁ。俺達ばれねえだろうな・・・。」

ゲイルが心配していたのは、今でも自分達が帝国から指名手配をされているからだ。
こんなに人がいれば、誰かは懸賞チラシを見ていてもおかしくはない。

「大丈夫だよ、こんだけ変装してるんだから。」

だが、今までそれでも町でこうして誰にも気付かれずに来ることができたのは間違いなくシャニーのおかげだった。
こういう時だけは、彼女が元盗賊だったことに感謝しなくてはならない。
「ゲイルはサラリーマン、私は赤髪ロング!ばれっこないって!」彼女の変装術は自他共に認める巧みの技だ。

「お前・・・ケーキを前にしてやたら興奮してるみたいだが・・・気をつけてくれよ。」

だが、ケーキが相手になるといつもの盗賊らしい勘の鋭さが吹き飛ぶことは誰よりも知っている。
いつもは大雑把なゲイルも、この時ばかりは彼が盗賊かと思うほどに慎重だ。

「ゲイル、恰好だけじゃなくて性格までなんか変わった?」

シャニーのほうは自分の変装術に絶対に自信がある為か、彼の心配を軽くあしらった。
肘で彼の腕を突っついてやるとじっと見上げ、「うーん、何かその恰好見てると笑えて来るよ・・・ふふっふ・・・。」
何とあろうことか人の恰好を見て笑い出したではないか。自分がこういう風に変装させたくせに。

「いい加減俺をオモチャにするのやめてくれよな・・・。何だよ、このかっこ悪い髪形はよ。」

鏡で改めて自分の髪型を見てウンザリとため息を漏らす。
いつもソフトモヒカンを愛用するゲイルにとっては、今の髪型は恥ずかしくてたまらなかった。
彼女が変装の為と言うので逆らえないが、どう考えても彼女は着せ替え人形感覚に決まっている。

「七三わけ!サラリーマンっぽいでしょ!」

ダサい髪型にダテめがね。こんなガタイのいいサラリーマンがいるものか。
自身の変装術を自画自賛するシャニーはまじまじとゲイルを頭の先から爪先まで見ていたが
そのうちぷっと漏らしたではないか。「うーん、でもなんかおっさんぽくて・・・あはは・・・。」

「後で覚えていやがれ・・・。」

やっぱりこいつは人をおもちゃにしている。そう確信したゲイルだったが、ここでは何もできない。
それを良いことに笑うシャニーを腕の中にがっしりロックすると頭に拳骨を置いてぐりぐりしてやった。


「うーん、まぁ味も食べ放題なら及第点ってとこかなぁ。よおし、じゃんじゃん喰ってやるぞ!」

シャニーの料理が一番は決まっているが、外食には外食らしいおいしさがある。
ちょっと少なめに持ってきて味を確かめたゲイルは、何度も頷きながら味を確かめて
ぐっと拳を握り締めて気合を入れて人ごみへと消えていった。

「ゲイル・・・皿に盛りすぎ・・・。」

次に帰って来たゲイルを見て、シャニーの顔が驚きで歪む。「みっともないよ!」と注意するのも仕方ない。
どうやってこんなに器用に盛ったのかと感心するほどに、今にも彼の皿からは料理が飛び出しそうだ。
「全部食べればいいんだろ!はは、このくらい余裕余裕!」だが。一度箍の外れた怪獣は止まらない。
彼は山盛りをぺろりと物の数分で平らげるとまた人ごみへと消えていく。
あまりの食欲に、見ているほうがそれだけで腹が膨れそうでシャニーは戦場へと消えていく勇士の後姿に苦笑いするばかりだった。

「はああ、もうお腹いっぱい。」

二十分ほど経過したくらいだっただろうか。もうすでにシャニーはギブアップ寸前だった。
「食べ放題って言っても・・・そう食べれるもんじゃないわよね・・・。」分かっていたとはいえ、店の戦術に屈した気がした。
「確かにな・・・。だが!このくらいで白旗揚げては確実に喰い負けだ!」

シャニーがこのぐらいで音を上げることはゲイルにとっては想定内だった。
ここから腕というより腹の見せ所といわんばかりに、彼はなぜか腕まくりをしながら準備体操代わりに腕を回し始めた。
彼の気合に押されたか、シャニーもお腹をさすると第2ラウンドへと挑む。

「そうだね!よおし、私の真の力を見せ付けてやる!」

この二人は一体何と戦っているというのだろうか。よく分からない根拠が怪しい自信を漲らせたシャニーは
戦場を一つ睨むとがっと皿を掴んで飛び出していこうとするものだから、驚いたのはゲイルだ。

「お、おい?お前は無理しなくたっていいんだぜ?」

シャニーが小食なことは知っている。自分にノリを合わせようとしているだけなら悪い。
すぐに引き止めて彼女の腕を掴んだのだが、意外にも振り払われて逆に叱られてしまう。

「何言ってるの!真の戦いはこれからよ!甘いものは別腹なんだから!」

でた、シャニーの必殺技である。いつもは小食のくせして、ケーキだけは底なしに食うことを忘れていた。
どうせ彼女はケーキのために今までセーブしていたに決まっていた。
戦場より熱いのではないかと思うほどの闘志を瞳に滾らせ、ケーキの置き場を睨む彼女に唖然。

「それとも、もうゲイルは降参かしら?」
「んなわけあるか!」

人の心配をよそに、何と挑発までしてきたではないか。
どうにもこの二人は未だにケンカ友達というか、兄妹と言うか、そんな感覚のせいかすぐに勝負をしたがる。
「よおし、どっちが多く喰えるか勝負しようじゃねーか!」今回もいつも通り、下らない事で勝負始まった。
「臨むところよ!ふふふ・・・熾天使シャニー様にケーキで勝とうなんて身の程知らずね!」

いつもはまるで自覚もないくせに、何ともどうでもいいことで熾天使の肩書きを持ち出して得意げに鼻を高くして見せる。
エルピスが聞いていたらさぞ嘆くであろう。二人はまるで徒競走でもするかのように皿を持ってテーブルの端に手をかけると
互いに眼で合図して一気にそれぞれの戦場へと飛び出していった。

「はああ・・・こんなにケーキに囲まれて・・・私幸せよおおお!」

今度はゲイルがシャニーを見て他人の振りを決め込んでいた。自分の山盛りの皿がかわいく見える。
テーブルから溢れんばかりのケーキ皿がひしめいて彼女を取り囲んでいた。
こういう光景が夢だったシャニーは瞳に星を浮かべて手を合わせながらうっとりとしている。
周りが見えなくなるとこうなるのかと、ゲイルは人の振りを見て自分を正そうと思った。

「ふう・・・おえっぷ、さすがに喰いすぎたな・・・。」

先にフォークが止まったのは何とゲイルだった。序盤にコメやパスタにがっつきすぎたかもしれない。
「食い放題の店に来ると絶対食べ過ぎちまうぜ。」と、もうフォークを置いてしまった。これ以上は体に悪い。
だが、ゲイルでも食べ過ぎたと思っているぐらいなのにシャニーはまだ止まらない。

「何言ってるの!まだまだ食べ放題なんだからもう少しがんばりなさいよ!負けてるわよ!」

やっぱり彼女は一度心に火がつくと止まらないらしい。
無心にケーキをがっつくシャニーは、口の周りをクリームだらけにしながらゲイルの置いたフォークを手に取ると
ぐいっと彼へと差し出してきたではないか。「そうだね」と返してくるのを期待していたゲイルは面食らった。

「くそっ・・・何だか負けるってのは気に入らねえが・・・。だけど・・・もうさすがに・・・。」

一度はフォークを受け取ったものの、やっぱりもう腹は限界だった。
そう、思い起こせばこのときが最後の分かれ目だったかもしれない。ここで踏みとどまっていれば。
だが、次にシャニーから口にされた言葉に、ゲイルは踏み入ってはならない領域へと進んでしまうことになる。

「男のくせに情けないぞ!私に負けて悔しくないの?」

店の戦略に負けるのはまだ許せるが、シャニーに負けるというのはどうにも納得できない。
「えへへ、これで私の勝ちは決まったわね、これで勝率五割?」そんな彼の気持ちを知っている彼女の挑発は巧みだ。
手合わせの勝率がシャニーに勝っていることは、口ゲンカで勝てないゲイルの最後の切り札だった。
それが五分に戻ることは許されない。

「ケーキで皿数稼ぎやがったな・・・。くっそ、お前にだけは負けるわけにはいかねえ!」

スイッチが入ってしまった。その後、ゲイルに触発されたシャニーもまた怒涛の勢いでケーキを詰め込み、
まさに限界を超えた戦いはその後一時間にも及んだ。もちろん、戦いを終えた二人を待っていたのは後悔だけ。


「・・・で、今に至る、と。そういうわけか?」

口を挟まず最後まで聞いていたメルトだったが、語り終えてベッドに倒れこんだシャニーに
呆れた様子で聞いてみるが「返事もできないのか?全く度し難い。」と眉間にシワを寄せても反応はもう無い。

「一緒に行かなくて正解だったわ。私まで醜態晒すところじゃない。」

ゲイルと飲食店に入ると恥をかくというのは分かっていたが、まさか自分の後継者までこの有様とは。
情けなくて涙が出るが、ケーキをシャニーだけ食べに行ったのに心の底から行かなくてよかったと思ったのは初めてだった。
もちろん、ゲイルの傍に落ちていた店のチラシはちゃっかり懐にしまったが。

「しばらくそこで寝転がって反省していろ。」

もう呆れてものも言えないといった感じで、メルトは同情する事もなく二人から視線を逸らす。
悲しげにこちらを見つめてくるシャニーだが、「何事も過ぎたるは及ばざるが如し」と
連中に今最も相応しい言葉を投げつけてベッドに転がした。

「だってえ・・・やっぱ食べ放題なら少しでも詰め込まないと損した気分で。」

顔を蒼くしながらも、本心を口にして苦笑いするシャニー。
同意を求めるようにしてエルピスへと視線を向けるが、彼女もまた両手を広げると不機嫌そうに目線を斬った。

「まったく情けない子。」

姉貴分にまで見棄てられて目を潤ませて訴えてくるシャニーだが、わざとらしく大きくため息をつくと、
「本当に彼女を後継者にして良かったのか自分を疑ってしまうわ・・・。」とメルトに吐き捨てて、
彼も「まったくだ」と呆れて再び無様な姿を晒すシャニー達を見下ろす。

「フン、この貧乏性共が。ただより高いものはない、少しは思い知れ。」

そういい残すと、彼はエルピスを伴って部屋を出て行った。
彼らの会話の内容からするに、どこか夕飯を食べに行くらしい。
「おバカさん達がいないから少し豪勢にしましょ。」と、わざとらしい声が聞こえてきた。

「はぁ、貧乏って悲しいよな・・・。」
「ね・・。あいたたた・・・。」

取り残された二人はベッドの上で互いを慰めあいながらその後数時間、
痛みと戦いそのまま眠りに落ちたのであった。もちろん、翌日からは二人とも元通りですっかり忘れたようだが。
関連記事
スポンサーサイト



総もくじ 3kaku_s_L.png 当サイトの小説における登場人物たちのご紹介
総もくじ  3kaku_s_L.png 当サイトの小説における登場人物たちのご紹介
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【6話:聖務日課】へ
  • 【8話:モンスターカメラ】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【6話:聖務日課】へ
  • 【8話:モンスターカメラ】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。