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 ←12話:侵食する闇 →14話:残された闇、見上げる光
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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter19 泪なき友誼

13話:殺意の鬼~オーガ~

 ←12話:侵食する闇 →14話:残された闇、見上げる光
「どうしちゃったのさ、ヤアンさん!!」

先ほどまでとはまるで別人がそこにはいた。鬼、まさにそれは鬼だった。
山のような巨体、赤くぎらつく目が何を見ているのかは分からない。

「滅!!」

だが、話が通じていないことだけは分かる。彼は己の体に漲るパワーを握り締めてひとつ口元で笑うと、
手のひらを広げ、刹那中に生まれた波動を握り締めて投げつけてきたではないか!

「ヤア・・・きゃあ!」
「危ない!!」

見えていなかったのだろうか。彼が渾身に振りぬいた腕から飛び出した紫紺。
それはまっすぐにシャニーの喉元を叩き落そうと狙って来たというのに。
見かねてゲイルがまた飛び出して彼女を地面に伏させた。

「どうしちまったんだあの野郎!これが武閃の連中が言ってた状態なのか?!」

彼女をすぐに立たせ、次の回避行動をとるべく身構える。振り向く余裕さえないが、
今の凄まじい破壊音からするに、あんな気弾に当たったら一撃でさえ身が持たないことは分かる。

「おかしいよ、ヤアンさんの目・・・ヤアンさんじゃない!」

今にも泣き出しそうな震えた声でゲイルに訴えかけるシャニー。きっと助けてあげたいに決まっている。
だが、後ろからやたらと吹いてくる風が危機感を更に煽ってくる。
真正面から挑めば、潰される。そう、背後にあったはずの壁と同じように。

「うおおおお!」

弱々しい連中の姿をずしりと両足で地を踏みつけながら見下ろし、ふっと笑うヤアン。
彼は両手を胸の高さで握り締めると、雄叫びを上げて自らの気を高めていく。
また部屋は乱れ、調度品が無残に砕け、壁が崩れて風が吹き荒れる。

「ぐっ・・・っ、何と言うパワーだ。」

ドラゴンスケイルで仲間を守っていたメルトの足元が床にめり込み、それだけでたらずえぐりだす。
絶対の守り、セオの力を持ってしても防ぎきれず少しずつ押しやってくる圧倒的な力。
「受けていたら身が持たんぞ!」自分でこれだ。残りは守りに不安があるものばかり。
声を張り上げるが、その声も聞こえているかどうか。風が吹き荒れ、何も聞えない。

「溢れる・・・ッ。う、おっ・・・おおおおおお!」

そんな吹き飛ばされないようにするので精一杯の連中をよそに、ヤアンは更なる雄叫びを上げる。
今まで押さえつけてきた究極のマナが今、自身の中で駆け巡り力が溢れかえってくるのだ。
それを開放してやるとなんと興奮するだろう。紫紺のオーラが天へと吹き上がり、周りの全てを砕き押しやる。

「おいおい!こりゃちょっとヤバイんじゃねーのか?!」

メルトと共に守りの魔法を唱えて仲間の支援をしていたレイの顔が蒼褪めていた。
舌打するゲイル。「ちょっとどころじゃねえ!かなりだ!」こんなことは言いたくない。
だがレイもごくりと息を呑むと震えた口調で言う。「こういうのなんて言うか知ってるか・・・絶体絶命・・・。」

「だけどこのまま彼を市中に出すわけには行かないわ。」

怯える非戦闘員に発破をかけ、逃げ出そうとする心を戒めたのはエルピスだった。
彼女はレイの前に立ってやり、烈風に弄ばれる髪を縛ると両手のバタフライナイフを握りなおす。
「この場で止めないと。」誰もが分かっていること。だが、あの見たこともない強大な力をどうやって食い止めればいい?

「ヤアンさん・・・どうしちゃったのさ!」

ハデスのマナを噴き上げ天を暗黒に染めながら、ついに歩き出したヤアン。
それだけで腹に響く地響きが起こり、彼の足元はひしゃげ吹飛んでいく。
そんな恐ろしい姿をしているのは、間違いなく親友。信じられなくて見上げるシャニーだが相手に返す言葉はない。
「私の声、聞えないの?!」ありったけの声で叫んで見せたが、彼はゆっくり歩いてくるだけ。
祈るような眼差しで見つめていると、ついに立ち止まってくれた。
思い届いたかに思えた次の瞬間、「おおおおお!」再び雄叫びを上げて赤く目をぎらつかせる姿に崩れ落ちた。

「ヤアン・・・さん・・・。」
「シャニー!ヤアンと距離をとれ!こいつはお前を狙ってる!」

だが、そんなことをしている余裕はない。すぐに表情を失った彼女を抱きかかえて後ろへ退かせるゲイル。
ヤアンは間違いなくシャニーだけに狙いを定めている。
いくら彼の眼差しが殺意の赤に染まろうとも誰を狙っているかぐらいすぐ分かる。

「どうしても止めてくれないの・・・・?」

最後の祈りも虚しく、ヤアンは立ち止まったその場所からシャニーを見下ろして勝ち誇った笑みを浮かべると
隆々と盛り上がる筋肉を躍動させ、掲げた腕を一気に振り下ろした。

「きゃっ?!」

それだけで起こる烈風はもはや風ではなく衝撃波。堪らず避けたシャニーの目じりから涙が飛んだ。
すでにぼこぼこの地面に足を取られ、よろけて転んでしまった彼女へ一歩一歩地響きを上げながら近づくヤアン。

「これでも喰らいなさい!」

その時だ。一陣の風がヤアンの横を駆け抜けた。エルピスだ。
彼女は鈍重な彼の首目掛けて得意の暗殺剣、ブリッツスタブを見舞うが目を見開いたのは彼女のほうだった。

「何なんだ?今のは?」

確かに、間違いなく、ダガーはヤアンの首筋を捉えているはずなのに。
まるでおもちゃをぶつけたかのように首にめり込んだだけで、相手はゆっくりと見上げてきてニヤりと一つ笑う。
「?!」次の瞬間徐に手のひらをエルピスへ向けた彼は気弾を放ち、間一髪避ける。

「くっ・・・急所を外された・・・。私の暗殺剣が通用しないなんて。」

跳ね飛んで着地した彼女の視界の先で、気弾が凄まじい音を立てて遥か向こうの山を抉っていく。
初めての経験だった。あんなふうに自分の短剣を体で受け止め弾き飛ばすなど。

「気をつけろ!あんな気弾、ドラゴンスケイルでは受けきれん。」

駆け出したメルトが今度は刀でヤアンを切りつけるが、まるで棒で打っているだけのようだ。
数回受けたヤアンは無表情で一つ首を鳴らすと、今度はメルトへ気弾を放ち、
軽いステップで避けたメルトは仲間達に言い放つ。「避けることを考えろ!」

「避けろっつったって・・・どあああ!」

簡単に言ってくれるが、あんな凄まじいもの非戦闘員の自分には・・・そう思っていた次の瞬間だ。
「ま、まじで撃ってきやがった・・・。」蒼褪めるレイ。何とか避けたが、さっきまで自分が居た場所は
気弾が通った直線状に抉れてぐしゃぐしゃになっている。

「とっておきをみせてやろう。」

気弾一発で悲鳴を上げる者達に、己に力を見せ付けるかのように天へと笑ったヤアンは、
片手を天へと伸ばすと手のひらを広げてみせる。止めて見せよと言わんばかりに隙を作るが
彼らは地響きに足を取られてまともに動く事もままならない。

「こ、この気は・・・やべぇ。」

ヤアンの手先に集まっていく気弾は見る見る膨れ上がり、今にも部屋を吹き飛ばしそうだ。
元々修道士だったゲイルには分かる。あんな気弾が当たれば、自分でも立っていられるか。

「おい!シャニー!出来るだけ距離をとれ!窓から飛び出せるようにしとけよ!」

自分はまだいい。問題は狙われているシャニーだ。強く叫んで警告する。
逃げるように距離をとる彼女を睨み据え、ヤアンの口元が楽しげに釣りあがった。

「放たれる前に止めればいいだけよ!」
「おい、エルピス!止せ!止めるんだ!」

守りの構えを取るゲイルの横を、吹き荒れる衝撃波を引き裂いていく一陣の風。
親友が飛び出していったのを見てゲイルがすぐさま叫ぶが彼女は止まらない。
性懲りもなく突っ込んできた相手に、ヤアンは構えを崩さず不敵に笑うだけ。

「くそっ、この!でやあ!」

その笑みが示しているものを見せ付けるかのように、エルピスからの怒涛の攻めを受けるヤアン。
確かに傷はついている。だが、それはあまりに小さな傷。岩をダガーで殴りつけているような感覚だ。

「そ、そんな・・・。」

そして次の瞬間、ついにエルピスの攻撃の手が止む。
傷つけた目の前で、それが再生され消えていくのを見てしまったのだ。
余裕の表情で指を振りながら舌打し、ヤアンは身から迸らせる気を更に噴き上げてエルピスを跳ね飛ばす。

「その程度の力で俺に傷つけられると思ったか、笑止!」

衝撃波が部屋の壁と言う壁すべてを吹き飛ばし、隣の部屋の更に向こうまで見える。
筋肉が脈打ち、歯を食いしばって不気味な声を上げながらますます気を高め手先の紫紺を膨らませていく。
そろそろいいだろう。にっと笑った彼の視線はシャニーへと向かう。

「くっ・・・ヤアンさん!こっちよ!」

彼を止められない。このままではこの気弾に皆がえじきとなってしまう。
ゲイルウイクを駆使して突然駆け出すシャニー。部屋の中に巻き起こる乱気流で上手くスピードに乗れず
ヤアンは必死に駆ける彼女の姿をゆっくりと見つめ、手先に力を篭める。

「逃げる赤子を掴むに等しい、受けよ!消え去れええええい!」

全体重を右足に乗せ、振りかぶり投げ下ろした。踏みつけられた地面はひしゃげ
投げ放った途端彼の周りの床が耐え切れず吹飛んだ。気弾が音速にまっすぐシャニーへ向けて楕円になって飛んでいき、
全てを抉り、巻き込み、粉々にしながら彼女を飲み込もうと唸りをあげる。

「!!!」

滑り込むようにして身を屈めて、間一髪やり過ごすシャニー。恐ろしい、頭上を通った気弾に吸い込まれそうだった。
顔を庇った腕に激痛が走る。すれ違いざまに衝撃波で腕を切り裂いていったのだ。

「き、きゃあああ?!」

だが、そんな痛みを感じていられる時間はなかった。直後、気弾は屋敷を貫通していき、
遥か向こうですさまじい音がしたかと思うと、あたりが真っ白に飲み込まれて吹き返してきた爆風が襲い掛かってきたのだ。
何も見えない、あまりに様々が破壊される音が重なり何も聞えない。何が起きているのか分からない中で
ただひたすら、収まることを頭を庇ってうずくまりながら祈るしかできなかった。


ようやく静かになった。だが、まだ風は吹き続けている。恐る恐る目を開けたシャニーは目を見開いた。
「な、なんてパワー・・・。」ここは屋敷の最上階だったはずだ。だが今、ここに屋内を意識させるものは何もなかった。
全てが衝撃波でへし折られ、もぎとられ、周りは吹きさらし、一面に空が広がっていた。
気弾が向かった先を見れば、町の後方にあったはずの大きな砂の丘がまるまるひとつ、消え去っていた。

「はは・・・・はははははは!」

全てを破壊し終えた鬼神は、円形闘技場と化した空間の真ん中で腹から哄笑している。

「エ、エルピス?!」

ようやく仲間達のことが脳裏をよぎり、辺りを見渡したシャニーが悲鳴を上げる。
向こうでエルピスが倒れていたのだ。駆け寄ってゆさぶってもまるで反応がない。

「剛波動の気だけで吹き飛ばされるとは、所詮その程度か。」

こんなレベルで自分に勝負を挑むなど、身の程知らずもいいところである。
めちゃくちゃになった周りを見渡して己の両手を見下ろし、握り締めてマナを吹き上がらせる。
これこそ、己が求め続けてきた究極の力。破壊の悦楽にニッと不気味に彼が笑った、その時だ。

「ん?」
「このときを待っていた!」

彼の口元からふいに笑みが消え、後ろ目で睨みつける。その先には地面を巨体で踏みつけながら駆けてくる男の姿。
「エルピスでダメなら俺の一発を受けやがれ!」ゲイルだ。エルピスの仇といわんばかりに飛び上がり、
彼は自慢の一撃をヤアン目掛けて見舞った。鋼の肉体と強烈な一撃がぶつかりあい、鈍い衝撃音が耳を劈く・・・かに思えた。

「な、何?!」

帰ってくるはずの反動がなく、ヤアンの体を突き抜けたキュレックが地面を叩き割る。
「何だコレ!まるで感触がねえ!」何度も何度も、相手の巨体に向かってキュレックを叩き込んでみるが、
まるで霞でも裂いているかのようにさっぱり腕に衝撃が帰ってこない。

「ゲイル!それは残像だ!ヤアンは向こうだ!」

すぐさま背後からメルトの怒声が背中を叩いてきた。振り向いたゲイルの目が色を失う。
そこには剛波動を両手に握り締めて構えるヤアンの姿があったのだ。

「今度は逃がさんぞ。」

紫紺のマナ噴き上げ、血に染まったかのように睨む眼光は鬼、その一言以外に言葉が見つからない。
ゲイルを睨みつけたヤアンはふっと不敵に笑い、途端ゲイルの目が見開く。
何と相手は自分に背を向けたのだ。だが、ヤアンが新たに眼光で串刺した先にいたのは相棒だった。「我が拳の前に散れぃ!」

「くっ、そうはさせん!」

放たれた気弾。地面を抉りながら迫ってくる衝撃波を前に、シャニーは避けられずに居た。
もし今自分が退いたら、この気弾が向かうのはサラセンの町だ。受け止めるしかない、両手に己のマナを集めるが
あんな華奢な身で受け止められるはずがない。すぐに察したメルトが彼女の前に出てドラゴンスケイルを張る。

「笑止!!」
「な、なんだと?!」

絶対の守り、セオの加護を受けたメルトのドラゴンスケイルはいかなる攻撃も跳ね除けるはずだった。
だが、ヤアンがニッと不敵に笑った途端だ、その絶対の盾にヒビが入る。
「ぐあ!!」ドラゴンスケイルが弾けとび、メルトも吹き飛ばされた。
軌道を変えた気弾が町の外れへと飛んで行き、着弾した途端、新たな太陽でもできたかと思うほどの閃光が全てを飲み込んだ。

「シャニーには指一本触れさせねえぞ!」

メルトの心配をしている余裕はない。ついにヤアンがウォーミングアップを終えたかのように
腹に響く音を立てながらシャニーのほうへ歩き出している。すぐさまその進路を遮るように飛び出したゲイル。
「ぶっ飛ばしてやる!」キュレックを握り締めてヤアンへと突っ込んだ。

「面白い・・・おおおおお!」

自分に力で真正面から向かってくる身の程知らずに口元に勝ち誇った笑みを浮かべるヤアン。
赤く煮えたぎる目を更に光らせ、丸太のような腕に唸りを利かせ、拳に渾身を篭めて押し潰しにかかる。「うらあああ!」
ゲイルも怖気づくことなく、襲い掛かる拳に向かってありったけをキュレックに乗せてぶつける。

「ま、まじかよ?!」

周りに衝撃波が迸り、地面を押し潰し瓦礫を吹き飛ばした。実力伯仲と言ったところか。
だが、次の手を繰り出そうとゲイルが力を篭めた瞬間、彼は刀身に入ったヒビに思わず目を見開く。

「終わりにしてやる・・・フンッ!」

勝負ありか。ヤアンが更に拳に体重を乗せてやると、キュレックはガラスのようにはじけ飛んでしまった。
攻めと守りを同時に失ったゲイルへ、トドメを繰り出す。「くそったれ!でやあ!」
彼も諦めては居ない。ぐっと手先に気を篭めて、渾身のストレートを繰り出した。

「まずまずだ。」

互いの拳が正面からぶつかりあい、またあたりへ衝撃波が迸り、屈強なゲイルの身が宙に飛んだ。

「だがそこまでよ!消えろ!!」

空中に放り出されて身の自由が効かないゲイルを殺意のみが光る目で射抜き、
伸ばした手先から剛波動を放つ。「ゲイル!!」目の前で相棒が吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる姿を見せられ堪らず叫ぶシャニー。

「は・・・・ははははは!」

力なく地面に叩きつけられて滑る。砂煙がもうもうとあがり、収まってもゲイルが立ち上がることはなかった。
それを見届けたヤアンはまた両拳を握り締めながら天を仰ぐ。「ゲイル!ゲイル?!いやあああ!」
堪らず涙を振り飛ばしながらゲイルの許へ駆ける。相棒を揺さ振るが、彼の反応はなく悲鳴を上げた。

「溢れる!漲るぞ!!」

もはやヤアンの眼に黒目はなく、何を見ているのかまるで分からなかった。
ただ殺意に赤く煮えたぎるだけ。それでも、今しっかりと自分へ標的を絞った事が分かり、弓を握る手が震える。

「どうして?何でこんな事を!ヤアンさん!何で?!」

こんな事をする人ではなかった。自分の大親友の一人のはずだったのに。
震える腹に力を篭めて、涙を振り飛ばしながら訴えかけるが、彼はずしずしと地面を踏み砕き近づいてくるだけ。

「我、徒徒只管に拳で全てを砕くこそ道。」

筋骨隆々、3メートルを優に越す巨人が背筋を伸ばし、筋肉を躍動させながら歩いてくる。
マナに髪は天へと吹き上がり、赤くぎらつく目は相手の死のみを望む。まさに、鬼。

「どこへ行くんだ?」

自分の身長の2倍はあろうかという相手にダガーで挑む事など自殺行為。
やむを得ず彼女は駆け出して弓を放とうとするが、すでに足元は激戦に耐えかねてひしゃげてしまっていた。

「受けよ!真・火炎龍拳!」

ついに放たれた暗殺拳。機敏な身のこなしで一撃は避けた。だが、次の一撃を避けて足元に力を篭めた途端だ。
抉れた床に足を取られて転んでしまう。この好機を逃がすはずがない。トドメを刺すべく振り下ろされる拳。
「シャニーちゃん!逃げろ!」とっさにレイが張った障壁など、ガラスの如く飛び散った。
迫る拳。もう逃げられない、シャニーは思わず頭を腕で覆い、目を瞑ってしまった。


 もう死んでしまったのだろうか。いつまで経っても激痛が襲ってくることはない。
恐る恐る指の間から周りの状況を確かめる。すぐさま殺意の拳が視界に入り、恐怖に見開いた目から涙が溢れる。
だが、彼は無表情のまま固まっており、拳が押し潰す寸前で留まり震えていた。

「逃げろ!シャニー!」

赤き鬼の目と視線が合ってしまった。思わず逸らそうとしたその時、ふいにそんな声がした。
仲間達の声・・・ではない。間違いない、自分の親友の声が真正面から聞こえて、シャニーは顔から手を退かした。

「・・・?!ヤアン・・・さん・・・?」
「逃げろ・・・逃げ・・・ろシャニー!」

ギリギリと相手の拳が悲鳴を上げながら震えている。喰い散らかしたい右腕を左腕が掴み、
名を呼ぶシャニーへ今出来る精一杯をありったけ叫ぶ。途端、シャニーの目に色が戻った。

「どうしちゃったのヤアンさん!やっぱ何かあるんだよね!」

このバカは逃げろと言っているのに。逃げるどころか心配して寄ってきたではないか。
だが彼は彼女の優しさを肩で弾いて吹っ飛ばした。既に鬼と化した目で「なぜ?」と見つめてくるシャニーを睨み降ろす。
彼女だけは傷つけるわけには行かない。何があろうとも、友との約束は果たす。それが新たに歩んできた道。

「逃げ・・・ろ。」

もはやこれしか口にはできなかった。今も殺意の衝動が自分を追い出そうとしている。
いつまでも耐え切れるか分からない。「できないよ!」それでもシャニーは立ち上がり寄って来てしまった。

「ヤアンさんを置いていくなんて!」

やっぱり思ったとおりだった。今、仲間を傷つけ、町を破壊しようとしているこの鬼はヤアンではない。
自分を守ろうとしているヤアンの声はすぐに分かる。何か事情があるに違いない、そう確信したシャニーは
事情を聞きだそうとヤアンにぎりぎりまで近づく。
「・・・。」どこまでもバカ正直な友に、詫びの言葉を口にする余裕さえない自分が不甲斐なかった。

「もう俺は・・・俺を制御できん!アストレアで俺ごと撃て!」

時間がなかった。このままでは何れ己の意志は殺意に喰われ、
守るためと誓った拳は今まで培ってきたもの全てを飲み込んでしまう。そんなことに“利用”などされたくない。
もはやこんなことになっては道を諦める他ないが、せめてあいつに一矢報いたかった。

「そんなこと!」

案の定の言葉がシャニーから返ってきた。彼女にとって一番辛い想いをさせてしまうことは分かっていた。

「いいからやれ!」

それでも、ヤアンは心を鬼にして彼女の優しさを引き裂いて怒鳴りつけた。
その言葉に、本当に余裕がないことを察した彼女は涙をとうとう流しながら唇を噛んでいる。

「頼む・・・。俺にこんな事をこれ以上させないでくれ。」

その言葉にはっとっしたシャニーは涙を振り飛ばしながら目を見開き、己が手にした弓を見つめる。
この弓矢だけが、自分だけが、もがき苦しむ親友を救うことが出来る。
だが、本当のヤアンは傷つけられるべき人間ではない。どうしたら彼を救うことが出来る?

「シャニー・・・やれ・・・よ。」

その時だ、ふいに足元から声が聞こえてきた。
「ゲイル!大丈夫・・・?ねえ!」一番聞きたかった声が折れかけた心を支えてくれ、彼女はすぐさま屈んでゲイルの顔を覗き込む。
だが、彼は彼女の尻を叩き、目で立てとジェスチャーして心配を許さなかった。

「早くしろ!」

相棒に怒鳴られた事なんてどれぐらい久しい事か。瞳が震えて表情が消える。
本当はこんなことはしたく無いが、びくっと目が震える彼女にゲイルは容赦しなかった。

「お前の光は人を傷つけられないはずだ!あいつが悪ではないのならな!」

受け入れたくない現実に震え怯えていた心がはっと目を覚ます。
一体自分がどういう力をエルピスから継承したのか。破壊と快楽の為ではない。
生まれうごめく黒い影から皆を守り包む暖かい光のはず。思い出す、己ができることを。

「・・・ヤアンさん、今助けるよ。」

ゆっくり巨体を揺らし、地面を破壊しながら歩いてくるヤアンをじっと見つめて、
シャニーは語りかける。帰ってくる言葉はなくとも、彼は頷いてくれたはずだ。「私は・・・あなたを信じます!」
ばっと両手を広げて弓を構えなおすと、左手に光の矢を召還して番える。
親友へ向けて矢じりを向けることへの躊躇いが指先を振るわせるが、彼女は己に言い聞かせた。
今迄自分が鍛え抜いてきた弓は、今まさに使う時に使うためであったのだと。

「いっけえええ!アストレアー!」

矢を召還し、弦を引いた彼女にヤアンも光のごとく反応して凄まじい力で地面を踏み抜き、
砂煙をあげながら突っ込んでくる。まるで弾丸の如き速さは、体の巨大さが嘘のようだ。

「心の臓を握り潰してくれる!」

だが、それ以上にシャニーの眼光は鋭く見つめ、まるで照準を合わせていないかのように
電光石火に光の矢を放って見せた。そこには瞬きする間もなく、受け止めるべく地面を踏み抜くヤアン。
とっさに拳で砕こうとしたが、光は彼の拳を包み込む。

「な、何?!き、貴様・・・!死にテェのか?!」
「俺は一度死に損なった身でな。あの光相手ならいい死に場所ってな。」

やむを得ず避けようとした彼の体を、内側からの潰えぬ意志ががっしり掴んで離さなかった。
必死にもがくハデス。だが、ヤアンは渾身をこの一瞬に篭めた。「俺に取りついたのが貴様の運の尽きだ!ハデスッ。」
友よ、彼女への祈りはひとつ。サラセンを頼む。眩い光が視界を包んでいった。

「うおおおおお!」

喉が裂けるのではないかと思うほどの怒声が当たりに響き渡る。
体がバラバラになりそうな感覚。だがヤアンにはむしろ心地よかった。何と暖かい光だろう。

(へ・・・強くなったな、シャニー。)

この光りこそが自分が求め、ずっと手を伸ばし続けてきたもの。
やっとこの光の許へたどり着いた。心地よい。自分の中に蔓延る闇が剥がれ落ちていく。
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