FC2ブログ
現在の閲覧者数:

スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←14話:残された闇、見上げる光 →2話:最高司法官ルネア
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  • 【14話:残された闇、見上げる光】へ
  • 【2話:最高司法官ルネア】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter20 進撃のアブソリッター

1話:ダブル・ジョパティー

 ←14話:残された闇、見上げる光 →2話:最高司法官ルネア
 昇る朝日、照らし出される廊下は紅に染まる。その廊下をジリジリと歩く革靴がツカツカ角を曲がっていく。
扉の前でようやく止まると、彼は金髪を手櫛で整えなおして息を深く吸い込んだ。

「アルトシャン様、失礼します。」

やはりこの時間でもアルトシャンは既に登城して自室で仕事をしているようだ。
「入れ。」その言葉が帰ってくる間隔さえもう覚えたくらい、この部屋には通いつめてきた。

「どうしたセイン。そのような神妙な面持ちで何かあったか。」

羽ペンを置いたアルトシャンは、部屋に入ってきた顔を見るなり声をかけた。
いつも生真面目なセインだが、今日は一段とどこか重い何かを運んできて朝の清々しさを追い出してしまったのだ。

「いえ、ひとつ提案がありうかがいました。」
「提案?」

相手が相手であるだけに、色々勘ぐりたくなるがアルトシャンは眉間にシワを寄せるのを止めた。
「ほう、どんなものだ、教えてみてくれ。」いつも通り、彼の提案をまず聞いてみる。
すると彼は周りの視線を気にすると、アルトシャンをじっと見つめて声を潜めた。

「マヴガフを指名手配すべきです。これ以上奴に好き放題を許せば、いずれ帝国の脅威となります。」

やはり、いつでもセインの指摘は的確だった。マヴガフの存在は今帝国にとって、いや、世界にとって最も驚異的なもののひとつだ。
もう既に、彼の存在は民も薄々気づいており不安は高まっている。
平気で街中を歩き殺意の眼差しを帽子の下に隠して楽しんでいるからである。

「お前の言いたいことは分かるがな・・・。」

あんなふうに町をのさばる姿を毎日見かけながら、騎士である自分が何も手を出す事ができない。
その不甲斐なさと理不尽さに目を奮わせるセインだが、ふうっと大きなため息をついたのはアルトシャンだ。

「奴は特別罪科に処される様な行動は何もしておらん。」

出来るならもうとっくに彼を縛っている。そうでなくとも、彼は娘を狙い、気が気ではないというのに。
「ですからです!」途端だ、それまで声を潜めていたセインの我慢がはちきれる。

「奴は法の抜け穴を巧みにすり抜け、暗躍し続けてきました。
今こそ、総統の直命で国家簒奪罪を宣言し、奴を捕らえなければ手遅れになります。」

他聞などまるで憚らない怒声が早朝の城に響き渡る。だがこの時間だ、恐らく誰の耳にも入るまい。
実際、部屋の周りには誰も居なかった。・・・マヴガフ本人を除いては。
帽子を手に取り、彼は扉越しに片目を閉じたままセインの感情論をその黄金を光らせて笑っていたのだ。

「セイン・・・めったなことを言うな。そんな法の濫用は慎まねばなるまい。」

思わず口笛を吹きそうになった。さすが剣帝、ちゃんと世界の事が分かっていると見える。
それに比べてあの小僧ときたら。アルトシャンが困惑した表情を浮かべてもなお止まることを知らない。

「ではシャニーの時はどうして執行したのですか!その違いが私にはわかりません!」

相手が総統であるという事さえも忘れたのか、その口調は語尾を強めるばかり。
痛いところを突かれたのは確かだ。しばらく視線を逸らしていたが、アルトシャンは一つ息を吸い込む。

「セイン、あの時はまだ、世界中が帝国の傘下にあったからこそできたのだよ。」

今か今かと、自分たちの足元をすくう機会を文官たちがうかがっている。
その中で、これ以上強引なことはできない。ルセン橋梁での一戦で大分民の不安は膨れてしまっているのだ。

「何故ですか、今でも地方の四都市は帝国配下ではありませんか。」

食い下がるセイン。どうにも納得いかない。あの黒い影を何としても檻にぶち込まなければ。
その気持ちを知ってか、アルトシャンは力なく首を横に振った。
当時は文官たちを抑え込むに十分な支持があった。国内だけでなく世界中に。
確かに今もスオミやサラセン、ミルレスにルケシオンは帝国配下。とは言え、実権が及んでいるかと言えば否と返すほかない。

「だが、希光に取り戻されてもはや敵同然だ。反対多数では司法院のルネアも承諾しまい。」

今地方が帝国に攻めてこないのは、ただ単に力関係だけでしかない。
全てを統べる総統と言えど、法と罪科は司法院が最終的な判断を下す聖域だ。
そこを侵して無理を通すとなれば、よほどの力がいる。今はそんなことに回している余力はないのである。

「ルネア様を説得すればよいのですね。」

これで諦めてくれるかと思った。だが、セインもとことん頑固な男のようだ。
彼は敬礼をして「お任せください!」と頭を下げると、踵を返して部屋を出て行ってしまった。

「待て!セイン!」

予想外の行動に慌てて引き留めるアルトシャンだが、彼は戻ってこなかった。
やろうとしていることは目に見えている。そして、その結末も。

「・・・ルネアはお前の考えているほど情の通じる人間ではないぞ・・・。」

「くくっ、ごもっとも。」廊下の影で一部始終を楽しんだマヴガフは
アルトシャンのため息を聞き終えると帽子をかぶり口元に笑みを含ませ姿を消した。


 怒りに身を任せて町の中を歩く。肩で風を切って歩く騎士に誰もが道を開けていく。
目指すは司法院。今に見ていろとあの癪に障る黄金の眼を思い浮かべ牙で噛み砕く。
その道中だ。ふと、向こうに見慣れた姿が横切り進路を変える。

「父上、こんなところにおられたのですか。」
「おや、セインではないか。」

イスピザードだ。声をかけられ、彼は立ち止って息子が駈けてくるのを待つ。

「また軍務中に城を抜け出しおって。」

セインもアンドラスの癖が移ってしまったのだろうか。最近よく街中で見かけると聞いていたが
まさか自分がその現場に遭遇することになるとは。呆れ顔で叱ってやる。

「それはこちらのセリフです。また教会を抜け出して何をなさっておられるのですか。」

呆れたいのはこっちの方だと、セインもため息を返してやった。
放浪癖で有名なのはむしろイスピザードのほうだ。いつも城にあたふたと司祭がやってきて、
最高司祭を見つけたら連絡をくれと捜索依頼を出しに来るぐらいなのだから。

「お、それもそうだな。ほっほっほ。」

ところが本人にはまるで罪悪感というものがないらしい。
人の好い笑みを浮かべられてしまい、腰に手を当てて呆れて見せるぐらいしかできなくなった。
「やれやれ、司祭が心配していましたよ。」今日もやってきたあの司祭にほとほと同情してしまう。
自分もいつも、アンドラスが居なくなって探し回っているから苦労は知っている。
自然と肩を持った言葉となるが「まぁ良いではないか。」と、あっさり切り返されてしまった。

「それより、そんな事を言いにわざわざ来たわけではあるまい。」

さも困ったような表情を浮かべるセインににこにこしていたイスピザードだったが
その眼差しが賢者としての厳しさを映して息子を見上げた。彼が町にいるときは何かあるときだ。自分と同じように。

「ええ。何とかネクロ教を取り締まることはできないでしょうか。」

父に対してなら、どんな事を躊躇いなく相談する事が出来る。
彼は人ごみから抜け出すべく歩き出しながら声を潜めた。「やはりお前もマヴガフを警戒しておったか。」
信頼できる父からのまっすぐな質問にセインは静かに頷く。

「私も今、錬金術研究所の様子を見に行ってきたところでな。」

ネクロ教を、というよりもマヴガフを、それは問題の核心を知っている者だからこその言葉。
そして居ても立っても居られないイスピザードは、暗躍するネクロ教の最も見えない部分に探りを入れていた。
いまだに見えない、ネクロ教が帝国とわざわざ手を結んで研究しているものが一体何なのかは。
「そうでしたか・・・。」どうやら父の表情からするに、今日も収穫無しと言ったところか。

「最近各地でマヴガフ大司教の姿を目撃したという話を聞き、不安で。」

以前はアルトシャンの言いつけを守り、決して表には現れてこなかった黒い影。
それが今、まるで光の世界に染み出してきたかのように、点々とその染みを各地に残しだしている。

「奴は混乱の度合いが増すに連れて行動が大胆になってきておる。何とも憤ろしい奴だ。」

普段は柔和な笑みを浮かべているが、あの帽子の下に隠しているものは悪意そのもの。
少しずつ、少しずつ混乱させ、自らの行動の隠れ蓑にすることさえも彼の作戦の内に決まっている。
思い出せば思い出すほど、何とも腹が煮えくり返る相手にイスピザードも目が珍しく鋭い。

「ですから、直接司法院のルネア様に上申しようと城を出てきたところです。」

やはり、現状に不安を抱き、何とかしたいと思っているのは自分だけではない。
そう確信したセインは父を安心させるべく力強く語ったが、途端に父の目がぎょっとして見上げてきた。

「なんだと?!ルネア様に??」

ルネアはルアス一の大魔道師にして、世界の真理と均衡を司る第三者監査機関の長でもある。
そのあくまで中立な目を買われ、もう何十年も前から司法院の最高司法官も勤めているという言わば番人である。
「一体どんな取締りを要請するつもりだ。」イスピザードがこんな風に慌てるのも仕方がない。
ルネアは一癖二癖どころの曲者では済まない人物であり、時に狂気とさえ思えることを平気で言うのだ。
もちろん、それは表現が過激なだけであくまで正論で攻めてくるのでとても話しづらい。

「自身から手を出していないだけで、奴は多くの人間を殺害して来ました。」

セインとてルネアの噂を知らないわけではない。だが、そんな事に怖気づいている余裕はない。
今この瞬間も、あの忌々しい蛇のような男はどこかで這いずり回ってマイソシアを汚している。
そう思うと彼の表情は一層に厳しくなっていく。

「それだけじゃない、ミルレスの占領、浄化資金の市中への流入、救護義務違反・・・。
そして錬金術研究と亡者再生・・・挙げたらキリがありません。」

改めて罪状をセインが列挙しなくとも、イスピザードとてマヴガフの犯してきた罪は十分知っている。
何より、大事な娘たちにとっての最大の脅威。排除してしまいたい気持ちはセインと同じ、いやそれ以上だ。

「だが、法による立件は証拠が必要な事をお前も知っているはずだ。」

それでもイスピザードはセインの意見に乗らずに、あくまで冷静に物事を捉えていた。
勢いだけでは結果は見えている。鋭く息子を見上げ、「何か掴んでいるのか?」と問うてみる。問題はここだ。
マヴガフのうまいところは、証拠を何も残さない、あるいは自分から決して手を出さずに
正当防衛で済ませる状況に持ち込むことだ。「いえ・・・何も・・・。」案の定の答えに肩を落とした。

「それに、錬金術や輪廻転生術は法とは別次元の話、ルネア様が取り合うとは到底思えんぞ。」

セインが持ち出しているのはあくまで倫理部分が多く、倫理を司っているのは法ではなくイア信教だ。
いくら宗教が異端を発したとしても、それが司法界へと持ち込まれることはありえない。
政と教、そして法は完全に独立の立場を保っているからだ。

「ですから、ネクロ教の布教禁止令を再発布していただこうと持ったのですか。」

その中でも、メルトが強引とも言えるやり方で成立させたネクロ教禁止令は異例中の異例で、
司法界ではいわゆる黒歴史とさえ言われる代物。
あれはメルトが世界中で騎士の中の騎士と誰もから高く賞賛を贈られるような絶対的な力を持っていたからゆえ。
つまり、政と法のバランスを捻じ曲げて創った法だったのである。
当然、アルトシャンがその令を廃止しようとした時には、司法院の彼への協力は手厚いものだったという。

「セイン・・・お前はそこまで考えていたのか・・・。」

それを戻そうというのである。ルネアだけではなく、司法院全体を敵にまわすようなものだ。
あまりにも負けん気の強い意見に、イスピザードも顎に手を添えて何か案はないかと耽りだした時だった。

「おやおや、国政の中心を預かる人物は狂信の右翼思想の持ち主のようですネェ。」

ぞっと背中が凍りつく声。まるで蛇が背中を這ったかのような感覚。
二人してばっと振り向いてみれば、やはりそこには今一番見たくない顔があった。

「貴様・・・!」

黒の帽子に黒のスーツの男が、ポケットに手を突っ込んだまま糸目でこちらを見ていた。
「おのれ、話を聞いていてのこのこ現れるとは!」怒りに任せた怒声を浴びせかける。
糸目のまま柔和な笑みを浮かべるマヴガフは、内心せせら笑っていた。コイツ、本気で気付いていないらしい。
ずっと、後ろをついて歩いていたというのに。これだから色々やりやすくていい。
黄金の蛇眼がひとつ開いて鋭く帽子の下から愚か者を見据えると、大げさに笑って見せた。

「やだなぁ!そんな怖い顔しないでくださいよ。私がどんな罪を犯したというのです?」

最後のほうは、明らかに口元が勝ち誇ったようにつりあがっていたのがセインには分かった。
― どんな答えを聞かせてくれるのかな?ねぇ?ねぇ?!セインちゃぁ~ん?!
何か楽しんでいるようにさえ見えてセインは怒りをかみ殺しきれなかった。

「法を盾に取り、様々非人道を犯す貴様に必ず裁きを下してやる!」

予想通りというべきか、拍子抜けと言うべきか、セインからまともな答えはなかった。
あるわけがない。そもそも罪などどこにもないのだから。
いや・・・“あった”と言うべきなのだろうが、少なくとも今は存在しない。
「おぉ・・・恐ろしい。」大げさに身を引いて口元を歪めて震え上がって見せてやるが、
黄金に光る蛇眼は帽子の下に隠れながらニヤニヤと場を楽しむ。「で?例えば?どんなことをするつもりなんです?」
言える物なら言ってみよ、そんな挑発さえ聞えてくるような眼差しについに堪忍袋の緒が切れた。

「貴様に国家簒奪罪を適用する!極刑を待っている事だな!」

まるで悪びれる素振りも見せない悪党に、セインは指をまっすぐに突き刺して怒鳴った。
その目は怒りに血走り明らかに普段の冷静さを失っている。
それは通りのほうであまりの声に気付いた市民が何事かとこちらに視線を送り出している事からもうかがえる。

「いや、落ち着いてくださいよ。」

イスピザードがそれに気づき、たまりかねて息子を止めに入ろうとした時だ。
彼よりも先に荒ぶる若者を止めたのはマヴガフだった。「どうやって国家簒奪罪を適用するんです?」
彼は糸目でいかにも人のよさそうな笑みを浮かべながらセインに両手を向ける。
だが、もちろんそれだけで終わるはずもなくむしろ彼は油を投げ入れた。

「なぁーにも悪いことしてないこの私に。どうやって?」
「貴様・・・。」

明らかに彼はこちらの神経を逆なでして遊んでいる。
口元に浮かぶ余裕に満ちた笑み、そして帽子の下から見えずとも突き刺さってくる黄金。

「ネクロ教を広げ、宗教行事として人を殺める行為だ!」

今の状況では勝ち目がいないことは分かっていてもこのまま引き下がることなどできなかった。

「セイン、落ち着くのだ。お前一人で進めていい話ではない。」

見かねたイスピザードが息子の前に手を出してそれ以上を止めさせようとした。
賢い選択だ。本当に賢い人間は、勝ち目のない戦いは決してしないもの。
「しかし!」だが、セインは父の忠告を振り払い、反論し始めていた。

「そうですよ、若獅子さん。親の言うことは素直に聞いておくもんです。」

父に言われるならともかく、こんな悪党から忠告されるとは虫唾が走る。
せせら笑いに歯ぎしりするほどの怒りを向けたが、それ以上をセインはぐっと堪えた。
意外そうに帽子の下からのぞくマヴガフは、ようやく顔をあげて目元を見せると帽子を押さえながら笑って見せた。

「イヤァ、それにしても恐ろしい空想論者だ。理想を超えた幻想とでも言いましょうか。
・・・いや・・・これが理性を失った狂気と言うヤツなんでしょうかネェ、クククッ。」

セイギの味方は時として忘れてしまうものだ。自分が定めたルールというものを。
いや、忘れてはいない、ルールの上にふんぞり返ってしまうのだ。まるで自身が神かのように。
箍が外れたカミサマは、それまでの辛抱を爆発させるように引き裂き、叫び、奪い、足掻く。
尤も、見ている方としては楽しい限りだが、それを彼らはこう呼んできたのだ“善”と。

「失礼ですが・・・アタマ、大丈夫ですか?」

トントンと自身の頭に指を差しながらセインへにっこり微笑んでやった。
善を語る連中の頭の中はからっぽだ。洗脳されたお人形なのだから。
だが、ここまで喜劇を演じるように設計するとは善神共もなかなかのギャグセンスを持っているらしい。

「何だと!言わせておけばよくもしゃあしゃあと!」

ここまで挑発されて黙っていられるはずもなく、セインの手は既に騎士剣を握っていた。
金属のこすれる音が高く響き、その切先がマヴガフの鼻面に食いつこうと振り下ろされる。

「貴様に言われたくはない!」

耳につく空を裂く音を前にしてもマヴガフは微動だにせず、帽子の下からナイフの如き眼でセインを不敵に笑っていた。
怒りはその笑みを切り裂けず、その前で止まることになる。騎士剣を短剣が受け止めたのである。
「落ち着けと言っているのに!ここは市中ぞ!」受け止めた相手にセインは目を疑った。イスピザードだった。
彼は短剣を払って騎士剣を俯かせると激しい口調で息子を叱る。

「アナタ、私をネクロ教の関係でなーんとかしょっ引こうとしているみたいですねえ。」

促され見渡せば、住民たちが不安げに様子を見守っていた。うっとして騎士剣をしまう。
その負け犬の姿を両手を広げて呆れて見せてやりながらも、
マヴガフは精一杯の情けをかけてやることにした。「ですが、そりゃあ無理な話ですよ?」

「そのような強がりは通用しない!」

ところが、愚か者というのはどこまでも愚かなもので、情けさえも見境なく跳ね除けた。
それどころか、英雄気分は見当違いな勇気を見せ付けて指を衝き向けてきた。

「お前がネクロ教の指導者であることは周知の事実だ!」

(ネクロ教??はぁ???)喉元まで出かけた言葉を愉快に揺れる腹の中に飲み込み、マヴガフはせせら笑った。

「まーだ言うんですか?やれやれ、困った人だなぁ、もう。」

両手を広げて呆れながら、帽子を上げて目元を見せながら笑って見せた。
セインには彼がどうしてここまで余裕綽々としていられるのかまるで見当が付かない。
ぎりっと牙を噛締めるが、ついに飽きたのかマヴガフの視線は彼を外した。

「イスピザード大司教、息子さんにちゃんと世の中のルールってのを教育してあげなかったんですか?」

せっかく、こっちが“テメェらのルール”に乗っかってフェアにやってやっているというのに。
自分達が破る、いやそれどころかルールを知らないとは拍子抜けもいいところだ。

「まーったく、都合のいいことだけ吹き込むとは、やっぱりイアのシモベって言うのはムシがいいですこと。」
「父上を愚弄するな!それ以上言えばこの場で!」

それでも威勢だけは一丁前で、威嚇の牙が再び上を向いてマヴガフへとその先をぎらつかせ始めた。
もちろんマヴガフが動じるはずもなく、「セイン、いい加減にしないか!」とイスピザードの怒鳴り声が響くだけ。
イスピザードに悔しそうに伏目しながら、目を見開く息子に事実を伝えた。「奴が言っていることは本当なのだ。」

「ど、どういうことですか?!」
「奴はネクロ教の布教を罪状にすることはできんのだ。例え布教禁止令が再発布されたとしてもな。」

面倒くさい触書の説明をイスピザードに任せて、マヴガフはただニコニコとセインを見ていた。
(どんな気持ち?ねえどんな気持ちィ??)驚愕と絶望に歪んだ顔を見て心底愉快で吹くのを堪えるのがつらい。
彼は認められない感じでマヴガフの視線を突き刺すように睨み返してくる。

「あらら、その様子だと本気で知らなかったようですねェ。
これで聖騎士が務まっているとは、いやはや、法治主義が聞いて呆れますネ。」

マヴガフが知っている天界の聖騎士は少なくとももっとしっかりして厄介な存在だった。
だから最初は警戒していたものの、ここまで容易い相手だとまさにガキの相手をするに等しかった。

「ダブルジョパティーってご存知ですかぁ?」
「ダブルジョパティだと?!」

“この体”を選んだ理由も、“テメェらのルール”に合わせてやる為だったというのに。
いまだに要領を得ないような表情でただ威勢をぶつけてくる相手に、仕方なく最後まで教えてやることにする。
詰まらん生き物だ。真実へ自分でたどり着けさえしないとは。

「同じ人間が同一の罪状で二度裁かれることは無い・・・。
奴は一度極刑を受けている。だから、もはやネクロ教の関連で奴を裁くことはできんのだ。」

かいつまんだ説明をイスピザードがしてくれた。にんまり口元笑うマヴガフが恨めしいが
それ以上にセインの心をに広がったのはある種の絶望だった。
「そゆこと。」正解を口にしたイスピザードに拍手を送ってやる。

「今やこの私を裁けるものは、誰一人としてこの大陸にはいないってコトですよ。
尤も・・・法に従って行動している私が裁かれるなんてことがそもそもありえないことですが。ケヒヒヒッ。」

別にルールなど無視してやれば、もっともっと痛めつけ、嘆かせることだってできる。
わざわざ煩い連中の為に今のやり方をしているのだから、むしろ感謝してほしいぐらいだ。
我ながら、己のやり方が実に紳士的過ぎてマヴガフは顔元を隠し自身に笑ってしまった。

「貴様・・・。どの口がそんなことをほざく!」
「やれやれ、都合のいい時だけ法を持ち出さないでいただけませんかぁ?」

それでも何も見えていない盲目な善がひとり声を荒げている。
これだから善を騙り光を崇める連中はたちが悪い。扱いきれないくせに。「・・・逆に告発しますよ?」
眩しさの先にある真理を見ようともせずただ暗闇に怯えなくていいだけ、眩しければそれ以外どうでもいいのである。
それがルール破りの極悪に染まっていようと、セイギという麗句を添えれば立派な光らしい。
そんな連中が口にするセイギなど、ただのママゴト。

「材料はたーくさん持ってますし、私も何度も狙われた被害者なんですからネ。」

それが証拠に、それまで威勢の良かったセイギ様は一言で口元に閂だ。
眩しい以外に何も持たぬ善など、これほどに下らないとまだ連中はきっと理解していないだろう。
真実を捉えぬ者が語る言葉など、屑未満。その屑が意見など片腹痛いというものだ。

「さて、と。そろそろ時間ですかネ。」

演技でないリアルな迫真の喜劇を十分楽しんだところで時計に目を落とす。
別に油を売っていたわけではない。次の作戦の時間を待っていただけ。時が来れば、話の途中だろうが関係なし。

「待て!お前たちネクロ教は一体何をしようとしているんだ!」

後ろから怒声が飛んでくるが、マヴガフが振り向くことは無い。
ポケットに手を入れて、さも聞こえていないかのように石畳を叩いていく。ついに後ろから駈けて来た。

「ん~。」

目の前に立ちふさがれて、マヴガフは糸目を空に向けて暫く腰に手に手を当て考えたふりをしていた。
ようやくに動いたかと思うと、彼は何かひらめいたようにポンと手を打って視線を元に戻す。

「さァ、どうでしょうネェ・・・。」
「貴様・・・ふざけているのか!」

ところが帰ってきた答えはまるで他人事のよう。完全に見下している。

「大事な儀式を各地で執り行っている・・・ってことで許して貰えません?」

あまりにもセインはしつこく食い下がってくる。時間の無駄だ。
観念したかのようにため息をついたマヴガフは糸目を歪めながら大サービスしてやった。
ここまで言えば、少しでも分かっている人間ならピンと来るはずだ。

「儀式だと・・・?ハデスを復活させようとしているのか!何をした!」
「いやぁ、これは我が教団の機・密・事・項ですからネ。・・・これ以上はこの場ではお話できないんですよ。」

正直、答えを言ったようなものだったのだが、やはり上辺っ面な答えしかできないようだ。
いや、所詮この程度だと分かっていたからここまで口にしたのではあるが。
もしかしたらイスピザードは勘付いたかもしれないが、彼が気付いたところでもう“手遅れ”だ。

「私は聖騎士だぞ!私からの質問に答えることは義務だ!」

もうあまりにもしつこいので、ヨルムンガントを取り出すと宙に投げ、
空に食らいついたそれに飛び乗っては次を放り、ピョンピョンと駈けあがって屋根の上へと逃げてしまった。

「権力の宗教介入はいただけませんねえ。政教分離って飾りですか?
中立の立場で話はしてくださいよ。そうしないと・・・化けの皮が剥がれますヨ?」

聖騎士を名乗るなら、それ相応の実力をつけてから出直して来いと言おうと思ったがやめた。
正直、眼中にない相手に出直してきてもらっても困るからだ。
こっちからなら遊んでやるが、時間のないときに出直してきたと真顔で言われても邪魔なだけだ。

「おのれ・・・必ず貴様を地獄に叩き落してやる!」

なにやら負け犬の遠吠えが聞える。ヤバいくらいに面白い、この男。
本当はもっと煽って楽しみたいところだが、生憎忙しい。マヴガフは屋根の上から手を振ると姿を消す。

「そうなることを精々夢見ていてくださいよ。ではでは~。」

拳を傍に立っていた街灯に打ち付けるセイン。ここまで腹が立つのはいつ振りだろうか。
「悪人を裁くはずの法が悪人を守るだなんて!」ダブルジョパティーなど、どうして存在するのかまるで分からない法の壁への憤りを隠せない。
まるであの男を守るためにあるようなものではないか。

「マヴガフめ・・・相当に法を理解しておる。なかなかに手強いぞ。」

世の中には法に弄ばれる人間と、法を利用する人間に分かれるがマヴガフは後者だ、しかも“巧”に加え“超”がつくほどの。
どうしてあそこまで詳しいのか詮索したくなるほどである。

「しかし、ルネア様に進言することがまた一つ増えました。」

だが、物事をよく捉えればこれは好材料ともいえる。ダブルジョパティーの廃止をすればいいだけのことだ。
その存在を知らずにルネアの許へ赴いていれば無駄足になっていたところである。

「セイン、もっと条件を揃えてから話をしなさい。今行っても結果は目に見えているぞ。」

だが、それでも父は時期尚早と息子を何とか引きとめようとしていた。
もちろん、セインがそれに従うはずはなく、「それをしていたら手遅れになります!」と聞く耳を持たないまま
彼は父に背中を向けると、町の南方にそびえる司法院の白壁を睨み据える。

「では父上、私は行きます。」

これ以上話をしても引き止められるだけだ。決心を変えるつもりのないセインは言い終わりもしないうちに駆け出して、
後ろ目で引きとめようと手を伸ばしてきた父に叫んだ。「父上はマヴガフをお願いします!」

「これ待ちなさい!やれやれ、言い出したら止まらないところはそっくりだな・・・。」

もう今更声をかけて止まるはずがないと分かっていても、今感情に任せて突っ込んだところで
情などという“非合理”なものがどんな扱いを受けるかなど火を見るより明らかで彼は困った兄妹にためいきをついた。
関連記事
スポンサーサイト



総もくじ 3kaku_s_L.png 当サイトの小説における登場人物たちのご紹介
総もくじ  3kaku_s_L.png 当サイトの小説における登場人物たちのご紹介
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【14話:残された闇、見上げる光】へ
  • 【2話:最高司法官ルネア】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【14話:残された闇、見上げる光】へ
  • 【2話:最高司法官ルネア】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。