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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter20 進撃のアブソリッター

3話:ゲイルの全て

 ←2話:最高司法官ルネア →4話:ゴキ賊
 今日もいい天気だ。ルアスに向けた旅路の森の中でひと休憩を図るゲイル達一行。
静かに本を読むものもいれば、ダガーでジャグリングをして遊んでいるものもいる。

「おりゃ!あちょー!」

そしてここには、奇声をあげながら手足をじたばたさせている者もいる。
相変わらずな相棒の様子を見つけて近寄っていったゲイルは、
自分に見せつけようとますます繰り出すパンチのスピードを上げるシャニーに呆れ顔。

「まーだそんなことやってるのかよ、やめとけって。」

前にも注意したはずなのに、またシャニーが拳闘の練習をしていたのだ。
見た目だけなら素早い身のこなしに柔らかい体術だが、それはあくまで盗賊の護身術になればいいぐらいの出来。

「いーや!私絶対センスあるって!」

ところがシャニーの目指しているものはその口ぶりから明らかに違う。
相当練習したらしく、ゲイルの言葉に得意げな顔をして見せてきたかと思うと低く身を構えて、
よくテレビで達人がやっているような奇声をあげだした。「見ててよ、ふぉおおお!」

「へいへい・・・。メルトに叱られる前に大人しくしとけ。」
「あー、信じてないな?」

ゲイルがまるで自分の蝶が舞うような身のこなしを見てくれないものだから頬を膨らせる。
そのとおりと言わんばかりに手を頭の後ろで組んで面倒くさそうにする彼をギャフンといわせたくて、
彼女は成果を口にした。「この前この華麗なとび蹴りで不良たちから子供を守ったんだから!」
それを聞いた途端、ゲイルの顔が蒼褪めた。

「おま、マジでそんな鈍拳振るったのかよ?!怪我は無かったか?」

阿修羅になる前は修道士として拳の道に身を置いていたゲイルにとっては、
シャニーの拳がどれだけ通用するかなど、身で受けなくたって分かっていた。
こんな状態を実戦で使うなんて素人だからこその愚行だ。恐ろしくて彼女の両頬に両手を添えてまじまじ見つめる。

「ぜーんぜんそれどころか私の蹴りの威力にびびったのか、頭を下げてくれたわ。」

人の気もまるで知らないで、シャニーのほうは自信満々。満面の笑みで返してきた。
確かに怪我はないが、彼女の言うことはとても信用できる内容ではなく、怪訝な目が彼女を見下ろす。

「・・・お前夢でも見てたんじゃねーの?」

自分の腕より細い彼女の足から繰り出される威力など高が知れている。
1のダメージを与えたら10になって返ってくるような蹴りだ。
それが相手が降参して頭まで下げるなんて、いくらなんでも信じろというほうがどうかしている。

「ホントだって!頭下げた上に私の飛びまわし蹴りの技術を盗みたいってアンコールまであったんだから!」
「はぁ?!ふ、ふははは!」

彼の疑心を吹っ飛ばしてやろうかといわんばかりに、両手を広げて猛アピールしてきた。
不良共に通用したというだけでも信じがたいのに、彼女が得意顔で口にしてきた内容に、
彼女のいつも通りのオーバーリアクションの為せる業かとゲイルは腹を抱えて笑い出した。
ヤアンと一戦を交えてから、ゲイルは格闘の稽古を再開していた。
キュレックを握っていた時より、拳で戦った方がやはりやりやすいのだ。
だがブランクは長く、蹴り一つだって相当なまっていてどうしようか考えていたところ。
それがシャニーの付け焼刃で通用するなんて、自慢話をする相手を間違えたというものだ。

「お前なぁ、いくら俺相手だからって話を膨らませすぎだろ。」

彼女の大げさは毎度のことだ。特にゲイルに対しては彼女の妄想まで入っている時まである。
笑いながらゲイルは可愛いやつと頭をポンポンと撫でてやるのだが、シャニーのほうは真剣だ。

「ホントのホントのマジホントなんだって!」

両手をいっぱいに広げてゲイルを見つめて必死にアピールするのだが、
もうゲイルは分かった分かったと頷くだけでその顔はまるで取り合ってはいない。
ついにシャニーは身を低く構えてゲイルを見据えだした。「何なら私の飛び回し蹴り見せてあげましょうか?!」

「いや、いいわ・・・。で、そいつらお前のその飛び回し蹴り、ちゃんと見てたのか?」

不良共はシャニーが煩かったので、適当言ってその気にさせてうまく乗せていただけに違いない。
彼女がお世辞に弱いことはフィアンセである自分が一番知っている。
彼女の頭に角が生えたときは、大抵おだててやれば丸く収まる。

「もう私の華麗な体術に釘付けでさ、ホントガン見というかわき目も振らずって感じだったよ!
何度も何度もアンコール受けるもんだから、私のほうが最後は疲れて止めたくらいだもん!」

ところが、今回はシャニーの話が最後まで筋が通っている気がしてゲイルの笑いが止まった。
彼女が妄想を口にしているときは話が断片的なのですぐ分かる。予想外に彼女も稽古を積んだのだろうか?

「へえ?そこまで言うなら見せてくれよ。お前のその得意の体術とやらを。」

彼女が身軽で柔軟な体術を得意としていることは知っているが、それはあくまで盗賊としての特長だ。
殆ど期待していない目で挑発するようにシャニーを見たら、それが伝わったらしい。

「いいよ!ふふ、度肝を抜かれて後で謝っても許してあげないんだからね。」

得意顔で澄まして指を立てながら、本当だったらケーキをおごれと暗に言ってくる彼女に、
御託はいいからさっさとやれとジト目で返してやる。

「うりゃ!どうだ!フン!あちょー!」

目の前で細い腕と足が宙を切り裂く。確かにその動きにはキレはあるもののゲイルの表情は相変わらず。
「ねえ!どう?!」そんな彼とは正反対に、自慢の技を披露した彼女は
称賛が返ってくるとしか思っていないらしく、最後にポーズまで決める余裕まであるくらいだ。

「うーん・・・ただ素早いだけで当っても全然堪えねえような蹴りにしか見えねえなぁ。」

予想外のダメ出しに、むっとしたシャニーはもう一度回し蹴りをし始めた。
どうやら言うだけでは分からないようだ。「わぁ!入ってこないでよ!」一度動き出したら止められない。
繰り出した回しの蹴りの中にゲイルが飛び込んできたのである。直撃する蹴り。

「ね、ねえ大丈夫だった?」

目を真ん丸にしたシャニーはすぐにゲイルの心配をし始めるが、彼は顔色一つ変える様子もない。

「怪我とか・・・うわ?!」
「やっぱなぁ、痛くもなんともねーよ。お前軽いから衝撃にならん。」

彼女の蹴りを受け止めた腕でそのまま彼女の足を跳ね除けてやる。
バランスを崩しかけてもうまくバック転で身を翻すあたりはさすが盗賊だが、やっぱり彼女は盗賊だ。
肉弾戦なんかまるで期待してはいけない。彼女は肩に乗せられるくらい軽いのだから。
「あっれえ、おかしいなぁ。」当の本人は納得いかない様子で眉間にしわを寄せているが、
ゲイルにとってはここまでやっても分からない彼女に呆れだしていた。

「あ、そうだ。ふふふ・・・私の奥義はまだまだこんなもんじゃないよ!」

その呆れに拍車をかけるように、シャニーは不敵な笑みを浮かべて構えを取り出す。
さっき蹴りが当たった時の不安と後悔に満ちた眼差しは一体なんだったと言うのか。

「ああ、そうなの?」
「ぜんっぜん信用してないな!むしろこっちの技だもん!不良たちからアンコールを受けたのは!」

見るだけ無駄、そんな気持ちが言葉に漏れたのか、シャニーが肩を怒らせる。
言い出したら聞かない彼女なので仕方なく様子をうかがうが、面倒くさい気持ちがどうしても隠せない。
「ふふ、私に奥義を使わせるなんてゲイルもなかなかやるな!」
まるで拳法の達人にでもなったかのように低く構えてゲイルを見上げる眼差しはすでに勝ったかのようだ。

「へーへー、御託はいいからさっさと見せてみろよ。その奥義とやらをさ。」
「よおし、後で教えてくれって言ったって教えないんだからな!」

どんな技を見せてくれるのか、と言った好奇心よりも一体余所でどんな恥を撒き散らしてきたのか、そんな不安の方が大きい。
彼女がこんな感じの時は特に。まんざらでもない様子の彼女が、その不安を一層に膨らませる。
その不安を引っ掻き回すような長い長い前置きを経て、ようやくにシャニーは足を踏み出した。

「見よ!我が奥義、かかとおとしぃー!」

ばっと宙に伸びる細い足が陽に輝いて、彼女の白い肌が青空に映える。
次の瞬間、飛び散る土と共に瞬きをする間もなく振り下ろされた。
やっぱり盗賊らしくその攻撃は風の如し。予想外だったらしくこれにはゲイルもぽかんと口が開いた。

「へー、すげえな。」

ようやくにゲイルから感嘆の声を奪い取ることが出来て、シャニーはご機嫌の様子。
「でしょ!でしょ?!」何度もゲイルに褒めてもらおうと歓喜の声をあげながら見上げて来た。
だが、確かに感嘆を漏らしはしたが、彼の関心は別にあったらしい。

「おう、お前すげえ体柔らかいんだな。何だかタコみたいだぜ、タコ人間、ははは。」
「タ、タコ・・・?!」

今の彼女の足の上がり方は体操選手かと思うくらいだった。
元々相棒が盗賊として柔軟な体術は得意だとは知っていたが、ここまで柔らかいとルケシオンでよく獲れたタコを思い出す。
もちろん、例えられたほうは口元が引きつった。あんなグロテスクな生き物に例えられるなんて。

「せめてイカって言って欲しいわ!」
「まぁ・・・どっちでもいいんだけどよ。」

猛反論してくるシャニーだが、ゲイルには両者の違いなどまるでさっぱり分からなかった。
まんざらでもない表情のシャニーだが、彼は付き合うことなく自分も足を上げてみる。
「お前くらい体柔らかい奴なんて早々いないぜ?」やっぱり、体術を武器にしていても彼女ほどは上がらない。

「ほら、地面にぴったんこ出来るよ。」

目の前で両足を前後に広げた彼女は、吸盤でもついているかのようにそのまま両足を地面につけてしまった。
やっぱりタコ人間である。あっけにとられていると、今度は立ち上がって片足を上げだす。
「それとかー、膝が鼻にゴッツンコとか。」確かに、上げた足の膝が鼻とぶつかっている。
それを笑顔で余裕綽々と片足ごとに繰り出してくるものだから、拳闘は置いておいて素直に褒めてやった。

「うへえ、すげえなお前。・・・ん?うわっ。」

彼女の性分から、褒められるとますます気合を入れだして足を上げ始める。
まるでテレビで見る体操選手のようで眺めていたとき、視界に入ってはいけないものが入り彼は目を白黒させた。

「?どうしたの?ははーん、ついに私のすごさに参ったようね?」

仰天して見せたゲイルは堪らずに一度視線を逸らす。その反応にシャニーは上機嫌だ。
ぐぅの音も出せないようにしてやろうと、更に足を鞭のようにしなやかに振り上げ始める。

「その技、ぜひ見せて欲しいな。ほら、こっち正面向いてやってみてくれよ。頼む!」

一瞬、ゲイルの頭の中が一色に染まり、彼はシャニーに向かって土下座をし始めたではないか。
これにはシャニーも驚いたらしいが、ゲイルがここまで態度で参ったと言ってきたことはなく白い歯がこぼれる。

「ふふっ、よおく見て見なさいよ!うりゃ!そりゃ!あちょー!」

勝ち誇った笑みを浮かべて、土下座して見上げてくるゲイルにかかと落としを繰り出し始めるシャニー。
まるで不良共に見せてやったあの時のデジャヴかと思うくらい似た構図だ。

「うはぁ・・・こりゃすげえわ。」

その姿にゲイルは釘付けになって感嘆を漏らす。しばらくじっと彼女の様子を見終えると、彼は静かに立ち上がった。
「シャニー、不良共がガン見してた理由が分かったぜ。」
まるで探偵みたいことを言い出すものだから、中途半端に足を上げたままきょとんとするシャニー。

「もう一度足を上げてみろよ、そら鼻と膝をあわせてみろって。」

事情をよく飲み込めず、言われたままに静かに足を上げてみる。
まっすぐに爪先が空に向かって伸び、彼女はこれで良いかと目で聞いてくる。

「まだわかんねえのかよ?お前、今日のパンツの色、水色と白の縞だったんだな?」
「はぁ?!」

突然ゲイルが口にした言葉に、シャニーの顔が真っ赤になって明らかに狼狽し始めた。
確かに彼の言うとおりのはずだからだ。思わず確かめようと下を見下ろした時だった。

「・・・・きゃあああああ!ゲイルのスケベ!」

眼下に広がっていたのは、大きく開脚された状態で顕になっているパンツだった。
いつも隠してくれているはずのミニワンピは自らの足が蹴り上げている。
途端に顔がトマトか、噴火寸前の火山かと言うほどに真っ赤になって悲鳴が噴出した。

「あのな、お前は不良共に出血大サービスしてたんだぞ!」

だが、ゲイルは今もその恰好のままでいるシャニーの許に歩み寄ると頭に拳骨を置いてやった。
彼女は自身が愛用している服がワンピース風のミニドレスだということを忘れていたらしい。
おまけにスリットも入っているから、さぞ足を上げやすかっただろう。

「丸見え丸出し、俺以外にそんなことして恥ずかしくねえのかよ!」

今も硬直して足を上げたままの彼女の丸見えな股間を指差して拳骨を頭にぐりぐりとめり込ませてやった。
「う・・・ごめん。気をつけるよ。」ノースリーブでホルターネックになっていることもあり、なかなかに露出が多い服だが、
暑いルケシオンでは涼しかったし、ゲイルにだってかわいく見せられたからずっと愛用してきた。
だが、相変わらず盗賊時代の癖が抜けていないらしく、ついついズボンの時と同じことをしてしまう。
顔を真っ赤にしながら俯いて、どうしようもない自分に後悔してみせる。

「でも!それは置いといて!ゲイルのことも許せない!」

彼女がそうして大人しくしている時間など僅かなものであった。
ばっと上がった顔は今も紅潮しているが、その目には先ほどにはなかった怒りが燃えてまっすぐゲイルを睨んできたのだ。
「な、なんで・・・。」一度はぎょっとして見せた彼だったが、すぐにピンと来る。“バレ”たらしい。

「俺はお前を注意しようと現状を確認しようとしただけで!」
「いーや!だったら1回見たらすぐにやめさせるはずジャン!じぃーとゲイルも食い入るように眺めちゃってさ!」
「す、すまん・・・。」

ぶーぶーと頬を膨らせながら怒りをぶつけてくるシャニーに白旗を揚げるのは早かった。
何せこんな恰好だ。ノースリーブのホルターネックというだけでもなかなかソソられるというのに、
ミニワンピ風の短いスカートにスリットまで入っていればそりゃ視線が行かないほうがおかしいのだ。

「でも、ほら、お前体型キレイだしさ、自分の彼女のなんだから気になっても仕方ないだろ!」

盗賊をやっていただけあって細くて男にとってドキンとする流線をしているからミニワンピは良く似合う。
まさに歩く公害だ。見て欲しいくせに、見るとこうして怒るのだから。

「俺は男なんだし!好きな女のシークレットはさ!」
「なーにがシークレットよ、もう。」

今更ながらにミニワンピのスリットで分かれた前部分を下に引っ張って隠すような仕草を取り出す。
だったら着るなよとは言えない。彼女のお気に入りだと知っているし、
何より毎日の楽しみと言うか生きる希望の一つがなくなってしまうのだから。

「ゴホン!とにかく、お前にゃ武術はムリだ!俺が言うんだから間違いない!」

見“え”てしまったことは今後の事もあるから丁寧に謝って許してもらったが、
いつまでもぶうぶうと言う彼女に咳払いして話題を無理やり元に戻した。
これで彼女も分かっただろう。不良共の目的が、華麗なかかと落しではなくパンツだったことが。

「何よ、まるで武術を極めた達人みたいな言い方してさ。ゲイルにとって武術ってなんなのさ。」

改めてダメ出しを受けてしまい、シャニーの口がまたぶうっと尖る。
確かに彼はいつでも筋トレをしているし、武術に関しては彼に勝てるはずはないと思っている。
だが、こう上からの目線で言われるとつい反抗したくなるというもの。

「そりゃもちろん!俺の全てだ!」

よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの即答だった。
彼は腰に手を当てながら自信満々にそう答え、これまでの辛かった修行を思い出す。
まぶたの裏に流れてくる記憶は走馬灯の様。良く師匠にも怒鳴られたものだ・・・そう感傷に耽っていた時だった。

「いて、いてててて?!」
「ああ、そう!すべてかい!」

突然ちぎれそうなくらい耳が痛くなって、目を白黒させながら体を縮こまらせるゲイル。
いくら屈強な男と言えど、いくつか鍛えられない部分というものがある。
「もう知らないよ!ツーン!」それを知り尽くした相棒の急所攻撃以上に彼にダメージを負わせたのは彼女の怒り顔だ。

「お、おい!何でいきなりそんな怒り出すんだよ!」

何故耳を引っ張られたのか、なぜ怒っているのか、まるで呑み込めないが
彼女が頬を膨らせたまま目を閉じてみたくもないと言わんばかりにそっぽを向いてしまった。
慌てて彼女の肩に手をかけて声をかけてみるが、腕組みしてむすっとしたまま。

「最低だわ、ゲイル・・・。シャニーが居ながら武術が全てなんて。」

困惑するゲイルに助け舟を出した・・・というより面白がって寄ってきたエルピスがいやらしい口調で責めてきた。
はっとして相棒に視線を戻すと、彼女は片目だけ開けてこちらを睨みあげており、
視線が合うや否や、ツンと頬を膨らせたまままたそっぽを向いてしまった。

「ア、いや、それは言葉のあやで・・・。」

ようやく気付かされたゲイルはどうにか許して貰おうと言い訳を考えた。
彼女が寂しがり屋なことは分かっているし、彼女は自分だけを特別な存在として全てを預けてくれている。
確かに今の言葉は彼女に対して素直に謝らなければならない。それを口にしようとした時だった。

「シャニー、ゲイルにとってあなたはエッチな心を満たすだけのおもちゃだって。」

背後から悪魔のささやきが聞こえてきて、背中が凍りつき戦慄が走った。
さっきのパンツの件もあるから、シャニーが真に受けてしまったら一巻の終わりだ。
「エルピス、てめえ!」すぐさま否定するべく元凶に向かって怒鳴るが、彼女は涼しい顔。
このまま油を注がれたら、収まるものが収まらなくなってしまう。

「はぁ、これで用が無くなれば空しく棄てられちゃうのね、ううう・・・。」
「お、おいシャニー・・・。」

ゲッと口元が引きつって顔が青ざめる。シャニーが怒っているうちはまだ何とかなる。
本当に彼女が失望した時は声のトーンが一気に落ちることは誰よりもよく知っている。
今、まさにそれが目の前に。おまけに腕で目元を抑えて俯かれてはゲイルに勝ち目はなかった。

「あぁ、悪かったよ!言い方を間違えた!」

エルピスは放っておき、とりあえず今は彼女に謝るしかない。
そう悟ったゲイルはシャニーの両肩に手を置きながら膝を折り、大事な相棒の顔を覗き込むように見上げる。
恥かしいけれど、目いっぱい彼女に聞こえるように。

「武術は俺の守護者としての全て!お前は俺の生きる意味の全て!生きる意味が無かったら武術だって無意味だろ?」

我ながらなかなかにまとまりのある良いことを言えた。
だが心の底から思っていること。彼女を神界に連れ戻そうとしたシャスから奪い取ったくらいなのだ。
他の誰より、何よりも彼女だけは守る。自分にとって、彼女こそ生きる意味、そう誓ったのだから。
それでも後ろから聞こえてくる笑い声に反応できないくらい、ゲイルは不安だった。

「ホントにそう思ってる?」

すすり泣く声が止まり、ちらっと腕の隙間から彼女の目がこちらを覗いてきた。
「当たり前だ!お前がいなきゃ死んだ方がマシだ!」相変わらず後ろからエルピスのくすくすと癪に障るせせら笑いが聞こえてくる。
だが、叫びは本心だった。今までいくつの夜を、抑えきれない不安で明かしてきただろう。
代々短命な希望のマナを司る守護者。現守護者である彼女が目の前からいなくなる悪夢にうなされたこともある。
シャスの気が変わり、彼女を取り返しに来ないとも限らない。だからいつでも大事に、大事にしてきたつもりだ。

「えへへ、じゃあこれからもパンツを見る権利を授けよう!」

叫び終わってしばらく動かなかったシャニーだが、顔をあげた彼女に涙はなかった。
相棒の精一杯の言葉ににっと白い歯を見せながら嬉しそうにしている。
「あのなぁ・・・。」どうやら今回もウソ泣きにしてやられたようで、一気に呆れ顔になるゲイル。

「知ってるんだぞ、着替えてる時チラチラ振り向いてるの!」

サーッと血の気が引くのが分かった。いつかバレて怒られるのは分かっていた。
だが、やっぱりゲイルも男だ。好きな女性はどうしても見たくて仕方ない。
細身の彼女の後姿は、うなじから腰のライン、そして足先まで。どこを見ても興奮せずにはいられなかった。
それをシャニーは前々から気付いていたらしく、「ヘンタイ」と一言口にしてゲイルの胸を拳でどつく。
これは申し開きもできなくて苦笑いしながら手を合わせるしかない。

「へえ、シャニー、あなたも見られて興奮するなんて・・・はは、いいカップルね。」

おもちゃに出来れば誰でもいいらしく、今度はエルピスのイタズラ好きな笑いがシャニーへと向く。
途端、また彼女は口元がへの字になって表情が固まり、トマトのようになる。

「違うに決まってるでしょ!欲求不満なゲイルへのサービスだよ!」

とっさに言い訳を口にするシャニーだが、エルピスに通用するはずもなく
ニコニコしながら妹分を見つめて、「ほら、今もゲイルは欲求不満みたいよ?」といいながら
シャニーのホルターネックに手を駆け出したではないか。慌てた彼女は抵抗しながらゲイルに目であっちを向けと睨む。

「・・・俺はこの二人からこうしておもちゃにされなければ不満なんて溜まらないんだがな・・・。」

一体誰のせいで我慢することが多いと思っているのか。
喧しい姉妹の様子にため息をつきながら、飛び火しないようにゲイルはそっとその場を後にした。
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