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 ←3話:ゲイルの全て →5話:ケンカ友達
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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter20 進撃のアブソリッター

4話:ゴキ賊

 ←3話:ゲイルの全て →5話:ケンカ友達
 しばらく彼女達の傍から離れていたゲイルは、もうそろそろイタズラの熱も覚めただろうとシャニーの許へ戻る。
やっぱり彼女の傍にいないと心配なのだ。首に縄をつけておかないと翼がなくても飛んでいってしまう。

「よし、じゃあシャニー、はじめるわよ!」

今回は無事に別れた場所と同じ場所にいて、ポニーテイルが揺れる姿がすぐに視界に入ってきた。
ほっとしたのも束の間、違和感を覚える。何かがおかしい。

「お、おい!あいつらあんで弓を構えあってんだよ!」

その理由は、シャニーとエルピスが弓を握り対峙していたからだ。
おまけに二人ともマナを両手宿して白き光が腕から迸っているのが見える。

「何でメルト止めねーんだ!おい、エルピス!」
「待て!」

すぐに二人がケンカしているものと駆け出したが横から手が伸びてきてそれ以上先へ行くのを止められた。
「いいから俺の隣で見ていろ、ここまでは飛んでこん。」何が始まるのかは教えてくれなかったが、
メルトが事情を知って彼女らを放っているというならゲイルも大人しく様子を伺うしかなかった。
だが、弓を握る相棒の後姿はいつものバカを一緒にする明朗活発な乙女のものではないことがすぐに分かった。

「見せてもらうわよ、それ!」

先に動き出したのはエルピスだ。だっと風の如くその場から消えると、気付けばシャニーの背後に回っていた。
もちろんすぐに相手の気配を察したシャニーも振り向いて身を低くして弓を構える。
「そこだ!」エルピスから放たれた白い光。それを照準に捉えたシャニーの手先に光の矢が握られる。

「まずまずの反応ね!少しずつマナ圧をあげていくわよ!」

引き絞ったかと思うと間髪いれず放たれた光の矢が、向かってきた光と真っ向からぶつかってはじけ飛ぶ。
駆けながら一つうなずいたエルピスは、次から次へと矢を放ち始める。

「す、すげえ・・・エルピスの放った矢を矢で撃ち落してやがる。」

互いが疾風の如きスピードで動き回り、それを目で追うことだけでもゲイルには精一杯だった。
二人ともまるで照準を合わせていないかのように、弓を引き絞ったかと思うともう光が飛び出すのだ。
まるで流星群でも見ているかのように飛び交う光が宙で次々弾けて花火でも見ているかのようだった。

「はは、さすが私が教えただけはあるわ。だけど、押され始めているわよ!」

長い間、付きっ切りでスパルタをして叩き込んだだけはある。
自分の弓矢についてくることが出来る。自分が認めた相手が目に見えて成長する姿は純粋に嬉しかった。
だが、やはりまだまだ未熟。彼女の実力を測るように、少しずつ追い詰めていく。

「くっ?!まだまだ!」

突っ込んできた猛烈なスピードの光を放った光で撃ち落す。
だが、自身のマナが吹飛んでも、エルピスの矢は形が崩れながらも自身の頬を掠めていった。
まだまだ、先輩に届いていない事を思い知らされるが、シャニーの眼差しも強いまま。

「もう私の目の中には照準がくっきり浮かび上がってるんだ!」

パワーで負ける分は自身のスピードと正確無比な照準でカバーして被弾を許さない。
かろうじてエルピスの動きは追えていたゲイルだが、ついに相棒の姿が景色に溶け込んでしまい、
光が弾ける場所を見て、ようやくにその位置が分かるくらいだ。いつの間にか、かつての強さを取り戻しつつある。

「うん、構えは言う事なし。構える時の移動能力の低下も見られない。苦労した甲斐があったわ。」

ふいに立ち止まったエルピスは満足げに笑った。最初は一体どうやって教育していこうか迷ったくらいだった。
元から戦闘は苦手な彼女が記憶まで失っていたのだから。だが、やはり見込んだ相手だけある。
きっと今の妹分は、記憶を失う前よりも腕を上げているはずだ。

「これならもう少しマナ圧をあげても怪我の心配はないわね、行くわよ!」

だが、問題は扱えるマナの大きさだ。いくら立ち回りや精度を高めてもハデスを射抜くには威力が必要だ。
熾天使としての権能の引き出し方はいまだに記憶の中に埋もれたまま。
その状態でも着実にリハビリしてきた甲斐があって彼女のマナは少しずつ力を取り戻しつつある。

(は、早い!)

やはりさっきまでは手加減されていた事が分かるほど、段違いの速さ。
移動スピードだけではない、迫り来る光の矢のスピードは段違いで空を裂く音と迫る波動だけでその威力を推し量れる。

(でも、今なら見える!捉えたぞ!)

これが本当に自分の目、自分の腕、自分の足かと思うほどに自然に体が動く。
音速を捉え、全力で駆けて距離を保ちながら正確無比に絞り切られた弓からまた一つ流星が迸る。

「じゃあ私もとっておきを見せてやる!いっけえ!」

やはり、今の自分はかつての自分とは違う。自信を確信へと変えたシャニーの手にまた光が握られ、
彼女は一瞬の隙をついてエルピスに先制して一閃を放つ。
電光石火の一撃が光の螺旋を描きながら唸りをあげて飛んでいく。

「なっ?!」

エルピスも受けてたち、瞬時に矢を放って撃ち落そうとした。マナ圧はこちらに分がある・・・はずだった。
確かに撃ち落したはずなのに、ものともせず突っ込んでくる光は間違いなくシャニーの一撃。

「何今の・・・。」

とっさにもう一本放って撃ち落したが、今のは危なかった。
あと一瞬反応が遅かったら被弾していたところだ。確かに撃ち落したはず・・・エルピスの顔が珍しく驚きに表情を失う。

「よおし、この連続射撃を受け止められる?!」

自分もシャニーも翼を失っている以上空と言うアドバンテージが失われていることは同じ。
それなのに彼女から矢が飛んできたということは連射速度で負けたという事だ。
そんなことは認められないし万が一にもありえない。試しにシャニーへ連続で矢を見舞ってみることにした。

「止めて見せる!ふん!うりゃ!」
まるで傍に太陽があるかのような、いや流星群の中に身を突っ込んだかのような眩しさ。
その中でもシャニーは臆することなく駈け、次から次、まさに矢継ぎ早にどんどん光の矢を放っていく。

「すげえ・・・百発百中じゃねえか。あいつら照準絞ってねーみたいなスピードだな・・・。」

間違いなく連射速度は錬金銃の比較にならず、おまけに矢が吸い込まれるかのように
次々迫りくる矢を打ち落としていく様に感嘆を漏らすゲイル。
横で腕組みしながら一緒に戦況を見ていたメルトの口元に一つの笑みが浮かぶ。
「な?!」また一本、音速の光弾が頬を掠めていった。間違いない、このマナはシャニーのものだ。

「私が連射速度で負ける?!そんなバカな、弓を構えた回数はシャニーと同じはずなのに。」

信じられない事実を前にエルピスの目が見開いていた。
だが、数え間違いはないはずだ。彼女は弓を引き絞りながら相手の構えをしっかり捉えていた。
同じ、確かに構えた回数は同じだった。だが頬を掠めた矢は一本や二本ではなかったのだ。

「へっへーん!どうだ!参ったか!私の勝ちだぞお!!」

向こうでは飛んで跳ねて喜ぶ妹分の姿がある。勝ち・・・その言葉がますますエルピスをうっとさせた。
視線が合うとシャニーは両手を腰に当てながら勝ち誇った笑みを向けてくる。

「あなた、何かイカサマでもしたんじゃないでしょうね?」

どう考えても頭の中で説明がつかない。弓を構えた回数が同じなら、放たれる矢の数も同じはず。
こう言う時だけは知恵が回る妹分の鼻を指で押しつぶしながら顔を近づけ尋問にかかる。

「そ、そんなわけないじゃん!なーにさ、負けたからってそういう事言うわけ?」

もちろんシャニーが黙っているはずもなく、逆にジト目で見上げてくるものだからエルピスもそれ以上は控えた。
彼女の性格上、本当にイカサマをしていればこの段階で目を見れば分かる。

「倒されてそのまま起き上がるシャニー様ではないわ!見て!私の握り!」
「ん・・・、まぁ、あなたそれ・・・。」

手先にまた光を生み出して矢の形に形成して見せた彼女はぐいっとエルピスに突き出してきた。
不正を暴くようにまじまじと見つめるエルピスだがすぐに違和に気づき、さすがに感嘆したようでぽかんと口が開く。

「一度に矢を二本放ってたというの?そんなこと私は教えた覚えはないけど。」

時々、シャニーも凄いことをする。まさか二本打ちなどどんな器用なのだろうか。
最初は構えもくしゃくしゃで的に当てるだけでも精一杯だったはずなのに。

「ふふふ・・・どうだ!エルピスにはナイショで極秘に開発してた奥義なんだ!」

いつも怒鳴られ、鞭で打たれ、さんざんやられっぱなしだった。
いつか必ずぎゃふんと言わせてやると、寝る間も惜しんで取り組んだ現熾天使としての必殺技だ。
それを使って先輩に勝利できたその喜びに、彼女の笑顔もひときわ大きく咲いている。

「まぁ、すごいじゃない!これなら私もあなたを後継者として鼻高く紹介できるわ!」
「ええ!やったぁ!エルピスに褒められた!うわーい。」

まさか陰でこんな努力をしているとは思わなかった。そんな思いが頭に置かれた手に現れている。
姉貴分に頭を撫でられて、シャニーはまた跳ねて喜ぶ。こんな風に褒めてくれたのは初めてだ。

「なーんて言うと思って?」

ところが、次の瞬間に降り注いだまさかの言葉。
笑顔がそのままで固まって視線だけが上目遣いをし始める。
「一本のマナ圧がその分下がってるんじゃ全然意味ないわよ。」何ともバッサリとしたダメ出しだった。

「納得いかない顔ね。もしかして本当に私に勝ったつもりになってる?」

もちろん、シャニーの顔が不服そうに歪んだのは言うまでもない。
意味がないと言ったって、エルピスを追い詰めたことは事実ではないか。
ところが、その気持ちさえ見透かされているかのようにエルピスはせせら笑ってきた。「ホント幸せな子ね。」

「だ、だってさ!さっき自分で言ったじゃん!負けたって!」

両手を広げて小馬鹿にした態度をとるエルピスに一歩踏み込んで目を怒らせる。
間違いなくさっきの一戦で打ち合いに勝利したし、それはエルピスだって認めた“はず”だった。
「気に入らないわ、その言葉。」だが、それがただの思い込みだったことを姉貴分の真顔が映している。

「うーん、まぁあなたは身を持って味わわないと分からない子よね。
弓を構えなさい。その自慢の二本打ちで私に本当に勝てるか試してみるといいわ。」
「言ったね!」

何とも挑発的な言葉。シャニーが反応しないはずは無く地団太を踏み出した。
さっき間違いなくエルピスは負けて焦っていたのだ。何度やっても同じと鼻で笑って見せる。

「よおし、今度こそぐうの音も出せないようにしてやる!受けてみよ!我が奥義!」

いい終わりもしないうちに駆け出したシャニー。
風の中に消えた彼女はマナ噴き上がる両手で矢を番えてエルピス目掛けて打ちまくった。

「ふふ、その程度で奥義ね。ならば私も奥義を見せてあげようかしら。」

飛んでくる無数の矢を避け、エルピスは気を高めて全身からマナを噴き上げると
背中にマナで創り上げた翼を湛えて宙へと飛び上がった。「ゲイルは知っているかもしれないけど・・・。」
そう言った彼女は大きく弓を構えて手先にマナをどんどん集めていく。

「!あ、あれは!」

真っ先にエルピスの構えに反応したのはゲイルだった。間違いない、2年前彼女と死闘を繰り広げた時見せてきた
とんでもない裁きの矢を放とうとしているのだ。「おい、シャニー!やめとけ!」
勝ち目があるはずがなく、すぐに相棒に叫ぶが彼女は諦めず矢を打ち続けている。
その全てが、エルピスの周りに渦巻くマナに掻き消されて、ついに目を見開き後ずさり。

「受けろ!これが粛清のアストレアよ!」

まるで巨大な槍かと思うほどまで膨らんだ光のマナを渾身に引き絞って解き放ってきた。
全てを飲み込んでしまいそうなマナがゆっくりと頭上から降り注ぎ、あまりの眩しさに世界の終わりかと錯覚する。

「マナ圧強くしただけじゃんん!そんな遅いの・・・?!」

最初は余裕面を浮かべていた。矢とはとても言いがたい遅い遅い、重い動き。
これなら避ければ済む・・・そう思っていた次の瞬間だった。

「なっ、何?!うわあああ!」

矢が二つに分かれたかと思うと、次々と分裂していき、あっという間に数千の光と化したではないか。
それらがまるで雨の如く降り注ぎ、シャニーの周りに突き刺さって逃げ場を奪う。

「光の檻・・・ふふ、拡散型のアストレアよ。あなたが何本同時に放とうとも、このアストレアの前には全くの無力。」

土煙が収まると、そこには光の矢で出来た檻が出来上がり、シャニーはその中に閉じ込められて身動きが取れなくなっていた。

「まったく、ちょっと本気を出せばこれだもの。
それ勝てた気になれるなんて・・・ゲイルもあなたも、全くお似合いのカップルよ。」

檻の先に手をつきながら、顔面蒼白で目が見開いたままのシャニーに呆れ顔を見せてやる。
目の前の光景が信じられなくて、シャニーはそのまま膝から崩れて座り込んだ。

「・・・完全に、私の負けだ。まだまだ鍛えたりないのか、くそお!」

悔しくて、情けなくて、何度も何度も地面に拳を打ちつける。
悲しくて泣いた事はよくあったが、こんなにも悔しくて涙が出たのは久しぶりだった。

「ま、でも安心なさい、このエルピスを相手にそこまで戦えるならカス賊じゃない、一流よ、一流。」

涙を振り飛ばしながら悔しがる妹分の許まで寄って行って頭を撫でてやる。
真っ赤な目で見上げてきたシャニーに一つふっと笑みを見せると、立ち上がって手を伸ばす。

「もちろん、人間としては、だけどね。あなたが目指す一流はそこではないのでしょう?」

立ちなさいとエルピスの顔が見下ろしてくる。まだ悔しがるには早すぎる。
シャニーが目指さなければならない場所は更に高みにあるのだ。ここで座り込む時間などないはず。

「うん!私は熾天使として一流になりたい、ならなきゃダメなんだ!」

姉貴分の励ましに瞳に強さを取り戻したシャニーは、自分の為すべきをはっきりと口にした。
この弓で人々を守れるようにならなければならない。そして射るべき悪には今の状態では通用しない。
自分の無力で愛する人たちが傷つけられるのを黙ってみているしかできないなんて、絶対に嫌だった。

「分かったら腐らないでこれからもしっかり私のスパルタについてきなさい。
すぐに上達なんてできないわ、地道な積み重ねよ。今までしっかりやってきたのと同じようにね。」

差し出した手をぐっと伸ばしてやると、シャニーは力強くとってきて立ち上がった。
こうでなければ教え甲斐がないというもの。彼女はどれだけ厳しくしても、不満は口にするともしっかりついてくる。
彼女の強い意志が、エルピスのスパルタにも拍車をかけていた。乗り越えられると信じているから。

「あなたは飲み込みが早いから教えてる側もヤリガイがあるわ。」

立ち上がった妹分の頭をもう一度撫でて、さっと手を差し出す。今度は、後継者への祈りも篭めて。
「これからもがんばりましょうね。」この子ならきっと、自分の志を継いでくれる。
何か強い安心感の中で、伸ばしてきた妹分の手を両手でしっかりと包み込む。

「うわぁ、エルピスに褒めてもらえた・・・。」

シャニーのほうは信じられないような目でエルピスを見ている。
弓の事で彼女に褒められたことなんて、初めてだったからだ。すぐに飛んで跳ねて喜びを顕にし始める。

「よおし、これからもがんばるぞ!そうすればエルピスだって追い抜いてやるもんね!」

期待している、見下すような挑発的な眼差しが帰ってくるがシャニーはぐっと拳を握り締めて誓って見せた。
絶対に先輩を追い抜くと。青は藍より蒼し、そうなってくれることをエルピスは祈った。

「シャニー、お前知らないうちにめちゃくちゃ強くなってるじゃないか!」

稽古が終わった事を察したゲイルが飛び出してきて、相棒に賞賛を送る。
「何だか今日のお前は熾天使っぽく見えたぞ!」両肩を抱きながら顔をまじまじ見下ろして怪我がないか確かめ終わると
以前とは見違えるような動きを褒めてやった。相棒に褒められると喜びも一入で、一気にいつもの顔に戻る。

「ふふふ、すごいでしょ!もっともっと強くなってやるんだもんね!」

大分以前を取り戻してきた事が自分でも分かる。だが、そこにたどり着くことが目的ではない。
人々を守る光となること、それが目指す場所。ぐっと弓を握る手を突き上げながら自身に言い聞かせるように誓う。
「だがシャニー、忘れるなよ。」彼女が白い歯を見せてにっと笑っていた時だ。ふいに後ろから警鐘が鳴らされた。

「その力が目指すもの、導く先にあるべきものがなんであるかをな。」

腕を組みながら歩いてくるのはメルトだ。ゲイルがこうして心を包んで傷を癒してやるのなら、
少々煙たがられてもしつこいくらいに道を外れないように何度も足元を確かめさせることが役割と決めていた。

「もちろんさ、それはいつでも忘れたことはないよ。それを忘れないから、守るって誓ったから、エルピスだって教えてくれるんだ。」

だが、メルトの指摘を煩いと思ったことなど一度もなかった。
彼に指摘されるたびに、自分の中で己の力の意味や、誰がためのものかを見つめなおす事ができた。
そのおかげで、今まで腐らずやってくることができた。

「正直、この力は怖いよ、道を外れたらどうなるか見えてるから。」

力が溢れるようになってくればくるほど、エルピスの気持ちが分かるようになってきた。
世界をどうにでもできてしまう力を独り宿し、独りで判断し、独りで放ち・・・。
もし自分の同じ境遇だったら、重責に押し潰されていたかもしれない。独りで守るなんて、できっこない。

「でも、私独りで扱うわけじゃないから、私は駈けるよ、前を向いてひたすらに。」

今の自分にはたくさんの仲間がいる。間違っていたらすぐ手を引いてくれる多くの声がある。
だから自信を持って駈け、手に光を番えて放つことが出来る。
「いつもありがとう。」仲間の存在に改めて感謝を口にして、メルトは静かに頷いた。

「次こそはエルピスに勝ってやるんだから!」

やたらと意気込むシャニーは汗を拭くエルピスの後姿に向かって拳を突き上げている。
それだけでは飽き足らず、ワン・ツーパンチまで繰り出し始める始末。

「気合入ってるな。」
「だって、やられっぱなしなんて悔しいじゃん!」

感謝はしているものの、やっぱり鞭でいたぶられるのは辛抱なら無い。
稽古はおまけで、泣き叫ぶ妹分の姿を見て楽しんでいるような悪魔的な笑みが今も思い出されるのだ。
今はエルピスに敵わないから何も言い返せないが、そんな地獄の日々ももうすぐ終わりを迎える。

「すぐに追い抜いて今度は私がお尻をピシピシしてやるんだから!」

何とも不純な動機を聞かされ、ゲイルは苦笑いするしかなかった。
そんな相棒の態度などお構いなく、「ゲイルの仇もとってあげるからね!」と、さらに気合を入れだしている。
ところがやっぱり、そんな威勢が良いのは長くは続かなかった。
はっきり見えた。エルピスの耳がぴくっと動いたのが。

「あら、シャニーちゃんそんな事考えながら稽古してたのね?」
「ハッ?!」
「待ちなさい!打てなくなる前にしっかりひっぱたいて置いてあげるわ!!」

こちらを振り向いたエルピスの手に握られていたのは汗拭きタオルではなかった。
音速に風を切る音を立てながら振り回す無知が何度も地面を叩き、全身の皮膚に寒気が走る。
考えるより先に足が動き出し、シャニーは逃げ出していた。

「・・・ホントあいつら仲がいいよなぁ。エルピスの顔見ろよ、すげえ楽しそうだぜ。」

まるで本当の姉妹かのようにじゃれあう二人にゲイルは両手を広げて見せた。
振り向くシャニーに牙を立てて脅しながら鞭を振るうエルピスの顔は何と楽しげか。
もちろん、追い掛け回されているほうは気が気ではないようだが。

「まったく、どこまでも締まらん連中だ。」

付き合っていられない。そう語るメルトの背中が遠ざかっていく。
飛び火しないようにとゲイルもその後を追う。
(う、裏切り者ー!)見守ってくれるのではなかったのかとシャニーは心の中で叫ぶのだった。
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