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 ←6話:烈風 →8話:マヴガフの正体
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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter20 進撃のアブソリッター

7話:宿命の対決

 ←6話:烈風 →8話:マヴガフの正体
 翌日、恐れていたことが起きた。休憩時間、さっそく逃げ出そうとコソコソするシャニーの背後から伸びてくる手。

「さーて、シャニー、今日もビシッバシッやるわよ!」

休憩など許さないと言わんばかりに彼女の服を鷲掴みにすると、エルピスはそのまま引っ張っていった。
涙目でメルトに助けを求めるシャニーだが、彼は無情にも手を振ってきた。

「ほらほら!」
「わぁ?!鞭を振り回さないでよ!当たったらどうするのさ!」

いきなり鞭を振り回されて目を白黒させるシャニー。だが、彼女の訴えなどまるで聞こえていないかのようで、
彼女が止めた先から鋭い一撃が飛んできた。「ぎゃー!」
耳に当るすれすれを通り過ぎる鞭。生きた心地がしなくて泣きながら座り込んでしまった。

「何を情けない声を上げてるの!こんなもの避けなさい、盗賊でしょ!」

それでもエルピスの勢いは止まらない。座り込んだシャニーの容赦なく鞭を振りおろし、
理不尽な理由をつけて追いかけまわす。真っ青になりながら飛び上がってスタコラ逃げ出すシャニー。

「や、やるしかない・・・明日を生きて迎えるために・・・私は戦うしかないんだぁ!」

岩の後ろに隠れたシャニーはべそをかきながら弓を握りしめた。
ようやくやる気になったのはいいが、まるで本当の敵を前にしたかのように目が据わる彼女に呆れるエルピス。

「・・・大げさな子ね。ほら、弓を構えなさい。今日も構えを固めるところから始めるわよ。」

ちょっと脅して遊んでいただけなのに、何と言うオーバーリアクションか。
シャニーの大げさは今に始まったことではないので、つき合うこともせず淡々と稽古を始めようとする。
「ちょーっと待ったぁ!」ところがその時だ。ふいに向こうからドスドスと重い駆け足が聞こえてきた。

「シャニーのスパルタに入る前に俺がお前の相手だ!」

シャニーにとっては救世主が現れたような気分だった。
さっと颯爽と現れたゲイルの後ろに隠れるとエルピスの様子を伺う。

「何のつもりなの?悪いけどあなたと遊んでいる暇はないわ、ひとりで筋トレしてなさいよ。」

だが、新たに現れた挑戦者の自信満々な顔を見てもエルピスは反応しなかった。
手で犬を追うように払うと、向こうの開けた場所を指差す。「ほら、あっちの広いほうへ行った行った。」
完全に邪魔者扱いしており、まるで取り合うつもりもないらしい。

「いくら脳筋でもあそこまで離れてればキュレックがすっぽ抜けても大丈夫よ、きっと。」
「くぅー!相変わらず口の悪い奴!」

ニコニコしながら人のことを先制パンチにバカにしてくるものだから、ゲイルもいつも通り顔を真っ赤にし始める。
その様子を苦笑いするシャニー。どうしてこの二人は、相手が怒ると分かっていてわざわざこんな事を言うのだろうか。

「だいたい、俺はキュレックをすっぽ抜かしたりはしねえよ!」

へえ?っと意外そうな顔をするエルピスにますます牙がむき出しになるゲイル。
彼の背中をさすりながら落ち着かせようとするシャニーだが、こうなると売り言葉に買い言葉だ。

「なんだよ?神界最強とやらは不意打ちじゃないと勝てないのか?」

むっと高飛車な笑みを浮かべていたエルピスの口元が明らかに歪んだのが分かった。
雲行きが怪しくなってきたと不安げに様子をうかがうシャニーとは対照的に、
これはしめたとゲイルは追い討ちを仕掛けた。「ずいぶん器のちいせえ最強だなぁ、おい?」

「なんですってぇ?!あなた、もう一度今の言葉言って見なさいよ!」

シャニーが恐れていた通り、エルピスが噴火してしまい怒鳴り声が辺りに響く。
ようやく火がついてニヤニヤするゲイルを睨みつける目は明らかに怒りに燃えていて、
これ以上放っておいたら大変なことになりそうな一触即発の空気に、堪らずシャニーはエルピスの手を引っ張る。

「や、やめなよエルピス。」
「黙ってらっしゃい!」

今度はこっちに烈火を浴びせてきたではないか。もうこうなったら自分では止められない。
下手なことをすれば巻き添えを食らって炭にされてしまう。
びくっと体中の毛が逆立ってゲイルの後ろの隠れてしまった。

「いいわ、今度と言う今度こそ完膚なきまでに叩きのめして差し上げましょう!」

腕まくりをするように腕に手を添えながら肩を怒らせてにじりより、
ぐいっと鼻があたるぐらいまでゲイルに顔を押し付けて売られたケンカを買って出る。

「おう!やってもらおうじゃねーか!行くぞ!」

そうこなくちゃと言わんばかりの勝ち誇った笑みを浮かべながらさらに挑発するゲイル。
彼はエルピスに背を向けると、向こうの広く空いた場所へと駆け出しエルピスも後を追う。
本当は行きたくないが、シャニーも心配でかなり距離を開けて二人の背中を追いかけた。

「あーもう、なんであの二人はすぐケンカしちゃうのさ。」

別に今日なんかケンカするような事は何もなかったはずなのに。
無理やりにケンカする口実を作っているようにしか思えない。犬猿の仲とはこれを言うのかと妙に納得してしまう。

「二人とも私のために争うのはやめて~。」

はっと閃いたシャニーはとっさに叫ぶ。彼女は気づいた。これは自分をかけた争いなのだと。
方やスパルタを実行するため、方やスパルタから守るため。きっと自分の為に二人は争っているに違いない。

「黙ってろ!」
「あ、はい・・・。」

ところが、途端前方の業火が一気にこちらへ降りかかってきた。
さっきまでケンカしていた二人の息のあった怒鳴りを浴びせられて、一気に萎れる。
最愛の人からも、姉貴分からも、自分の為どころか、お前などどうでもいいと言われた気がしてならなかった。
しばらく戦闘音が続くのを、シャニーは岩陰から見ているしかできなかったが、
いつも見慣れた二人を外から見ていると、意外と自分の弱点も見えてきて参考になる。
いつしかケンカを止めようなんて思いは忘れて、彼女はメモを片手に観戦して応援までし始めていた。
あっという間に30分以上の時間が流れ、それまで激しく動き回っていた二人が草原に座り込む。

「やっぱりお前、強いな。」
「あなたこそ、2年前に比べたら大分マシになってると思うわよ。」

二人とも大きく肩を揺らしながら草原に流れるマイナスイオンたっぷりの空気を吸い込んでそのまま倒れこんだ。
空は今日も穏やかな蒼で、のんびり雲が渡っていく。
それを見ながらだと、自然と会話からはとげとげしさはなくなっていった。

「ちぇ、相変わらず上から目線かよ。別に圧勝ってワケじゃなかったじゃねーか。」

改めて、エルピスは強い事を思い知らされたが、ゲイルにとっては楽しい時間だった。
これだけ強い相手と、全力を出し切って稽古が出来る機会なんて滅多にない。
「そう?ごめんなさいね?ハゲが増えちゃって。」ニコニコするエルピスは手を伸ばして新しくできた円を突いてやった。

「へん!お前だってすっかりショートになって残念だったな!」

だが、今回はやられただけではない。宣言どおり、ゲイルはエルピスをショートカットにしてやった。
しっかりお返しできて満足げな笑みを浮かべる。

「女性の髪を狙うなんてあなた最低な男よ、全く。ま、戦闘能力だけは合格ってことにしといてあげるわ。」

むすっとするエルピスだが、せいぜい相手を罵るくらいしかできない。
― 盗賊なんだからそれくらい避けろ
シャニーに言ってきたことを言われるのがオチだ。

「ったく、いまだに熾天使の気分でいやがって。これだら粛清のエルピス様は!」

今の一戦は実力伯仲で勝敗がついたわけではなかった。
それなのにエルピスはまるで勝ったような口ぶりで見下ろしてくるから納得行かない。

「・・・あーら、そんなに粛清されたいなら叶えてあげましょうか?」

言ってからはっとした。粛清のエルピスと彼女を呼んだ途端表情が一変したからだ。
彼女は立ち上がるとツカツカ歩いていき、「シャニー、服借りるわよ。」
岩陰に隠れて様子を伺っていた妹分に声をかけて、反応も待たずに彼女のリュックを漁りだす。

「久しぶりねー、この服に袖を通すのは!」

リュックの奥のほうにしまわれていた服は長い間使っていなかったことを示すようにつぶれている。
肩口を持ってばっと広げ、懐かしくも忌まわしい過去を思い出させてくれる鎧服を見つめる。
「ふっ、今でも私のほうがシャニーより着こなせる自信があるわよ。」そう言って袖を通しているのはティアレイドブラウス。
彼女が粛清のエルピスとして下界を破壊する堕天使として活動していた時の服だ。

「まーあいつが着たって全然熾天使らしく見えねーのは同意だな。・・・お?」

向こうからシャニーの膨れ面が睨んでいるのが分かるが、彼女だってどうせ似合っていないことは分かっているくせに。
あんな朗らかな人間が、こんな黒くていかにも悪人よろしくな恰好をしたって不釣合いなだけだ。
その服を、このスパルタ姉さんは着こなす事が出来る・・・そう思っていたゲイルからふと声が上がった。

「どうしたの?粛清のエルピスに恐れでもなした?ふふ、姿だけで畏怖させられるとはさすがね、私も。」

やっぱり今でも熾天使気分は抜けていないようである。
きょろきょろとあの時の覚悟を羽織った自分を見下ろして、決めポーズをとったりする始末。

「ダメだコイツ・・・前言撤回、いやまだ言ってもいなかったな。ヨカッタヨカッタ。」

良くも悪くも、エルピスとシャニーは本当にそっくりだ。おだてに弱く妙な妄想を展開する当たり、
シャニーの天真爛漫をそのまま性格を歪めた感じである。そこまで考えて、最悪だと改めて思う。
「ちょっと、教えなさいよ。」目の前には頬を膨らせる見慣れた顔がある。
違うのは、瞳の色が蒼ではなく翠緑であるくらいだ。

「あの時はマジで粛清のエルピスだった。けど今は、全然雰囲気が違うなって。」

だが、最悪だと思ってもゲイルにとっては嬉しい事だった。
2年前のエルピスは愛情が歪み、破壊しか望まない堕天使だったからだ。

「破壊ばかりを望んだ光だった。あの時は恐ろしかったぜ、お前の姿、放つ光、据わった目・・・どれ見るのもな。」

こんな血の通った相手だったなんて当時夢にも思わなかったし、
当時の恐ろしい記憶を呼び覚ます服を彼女が着たことで、彼女が生まれ変わったことを改めて思わされた。

「・・・今でもあの時何をすることが正しかったのか分からない。けど、人間にそんな風に言われるとつらい、今でも。」

あの時の過ちを思い出し、エルピスもそれまで余裕を浮かべていた口元が蕾む。
感情豊かで、温かな人間達を愛し守ろうと誓った。なのに、自分が行った粛清は彼らを絶望へと静めた。
どれだけ悔い改め、そして光へ舞い戻ったとしても、その重罪は決して消え去らない。

「正しかったんだよ、お前のやったことは。だから今こうしてマイソシアのこの陽射しの下でケンカできるんじゃねーか。」

静かに俯く彼女の肩に手を置いてやる。粛清を仕掛けたことは許されることではない。
だが、もう彼女は悔い前を向いたのだ。何とかしようともがいた彼女が助けを求め、結果傷つけあうことになった。
それがようやく今想いをひとつにすることが出来たのだ。悲しみも苦しみも、どれも必要な事だった、そう言い聞かせた。

「今のお前は傍にいるとすげえほっとさせてくれる何かを持ってるしな。それを着てたってよ。」

ティアレイドブラウスを指差しながら変化を教えてやれば、エルピスの口元に柔らかな笑みが戻るのが分かる。
それを見て安心したゲイルは、ぽんぽん背中を叩いてやりながら白い歯を見せる。

「もうお前は昔のエルピスじゃないさ。生まれ変わった光の精霊って認めておいてやるぜ!」

ぐっと親指を立ててやれば、相手もにこっとしながら親指を立ててきた。
やっぱり、シャニーと同じで精霊だろうが熾天使だろうが、人間と何も変わらない。

「ふふ、無理やり上から目線で話をしようとしたってダメよ。」
「でも、ホント変わったと俺は思ってるぜ。今のお前、すげえ幸せそうだからな。」

エルピスにとっても、こんな風に人間と対等に話が出来る日が来るとは思っていなかった。
皆自分が熾天使だからと畏怖して、本心を語ってくれなかった。
それが今目の前にいる大男は、自分を本当に受け入れてくれていることが分かる。

「なんていうか、心の軽やかさっていうのか?それが見えるっていうか。」
「あなたって何だかエスパーみたいね。」

脳筋だが、時々ゲイルのことを見直すことがある。意外とよく見ているのだ。
彼だけではない、この世界にできたたくさんの仲間達は自分のことを心から信じてくれている、頼りにしてくれている。
変わったこと、それは頼られる分、自分も頼れるようになった事。それが足の鎖を外し、心は空を舞う。

「私は翼を失った、けど心は空を飛んでいる感じ。」

幸せにしてくれたのは、間違いなく仲間達の存在。恥ずかしくて面と向かっては言えないが、
彼女は空を見上げて心地よさそうに伸びをしながら、この世界を取り戻した英雄達を讃えた。

「だって、私が欲しかった幸せが今目の前にいっぱいあるんだもの。私は特別なものを求めたわけじゃない、今もそう思ってる。」

陽射しいっぱいの世界、緑萌える世界。その中で咲くたくさんの笑顔。
愛する人々とゆったり巡る時を一緒に過ごして生きたい。そう思うことは、特別なのか?贅沢なのか?
特別ではない、だからこそ、それが失われた時、渇望し光を求める声が膨らみ、希望の熾天使へ力を与えてくれるのだ。

「特別じゃない幸せが一番にまた掴むのが難しいんだよな。」

ゲイルもエルピスと共に空を見上げる。2年前、同じようにシャニーと空を見上げた時は
その当たり前が失われていた時だった。まさかたった2年で、同じように幸せが脅かされる時がくるなんて。

「いや、掴むことはまだいい、それを続けていくことは、だな。」
「ええ、でも私はあなた達を信じた、それができると。ま、今のところは良くやってくれてると思うわよ。」

平和を刻む事がこんなに難しい事だなんて。
どうしてなのか、それを考え、今日よりも強くなるしかないことに気付かれてきた。
その気付きを毎日実践する彼に、エルピスは珍しく褒める。

「あとは・・・あののほほんとしてる熾天使様が一人前になってくれさえすればねえ。」

ちらりとエルピスの視線が後ろへと動き、相変わらず朗らかな顔で寄ってくるシャニーへと注がれる。

「なんだかゲイルとエルピス、顔を会わせればケンカしてるかと思うとこうやって笑ったりして面白いね。」

朗らかで天真爛漫な彼女は希望を振りまく熾天使という使命柄性格に恵まれているが、
甘いところも多すぎてどうにもまだ任せきれない。
それが愛し、愛され、支え、支えられる希望のマナの気質と言ってしまえばそれまでかもしれないが、
世界のことを語っていた二人にとって、シャニーのふんわりした言葉は能天気にさえ思えてしまう。

「なーに言ってんだよ、お前とも最初はこんな感じだったじゃねーか。」

人のことを面白いという本人も、2年前はゲイルと顔を合わせればケンカばかりだった。
ケンカするなら近寄らなければ良いのにと、いつもレイに呆れられていたものだ。

「あーそういえばそうだったね。何だか挨拶代わりにケンカして喋る機会を作ってたなぁ。」

懐かしい、ゲイルと出会っても不器用だったあの頃はケンカしないと始まらないくらいだった。
だがそれは互いが嫌いで口論していたわけではない。ちょっかいをかけあって遊んでいたのだ。
ケンカ友達はいつしか気の置けない親友となり、そして今全てをさらけ出せる世界でただ一人の相手となっている。
「!」そこまで考えた時、シャニーが何かに勘付いたらしく目の色を変える。

「エルピス!ゲイルに手を出したら許さないぞ!アリアンがいながら!」
「は?」

真顔になってエルピスに抗議しにかかるシャニー。きょとんとしたエルピスはゲイルに視線を移す。
彼も困ったような顔をして互いに顔を見合わせ、堤が切れたように腹を抱えだした。

「あははは!この子ったらもう、焼きもちなんか妬いちゃって!」

すぐに分かった。ゲイルとケンカしている自分が、シャニーには自身と重なって見えたのだと。
今も本気で頬を膨らせて戦闘ポーズをとる彼女。可愛くてついついイタズラ心が働き、
すぐさま否定しにかかるゲイルを遮ってゲイルに身を寄せてみる。

「ええ、お察しの通り、私はゲイルのことが好きよ?」

あっという間にシャニーの顔から血の気が引いていくのが目に見えて分かる。
今にも泣きそうな顔に変わって行く彼女に追い討ちをかけてやった。「他の誰よりも一番にね。」

「お、おい、エルピス?」

ひとり置いていかれているのはゲイルだ。エルピスの突然の行動に狼狽するばかり。

「あああ!ゲイル!今まで勝負とか言って私のいない隙を見て・・・ううう・・・!」

だが、それを見せられたほうは完全に真に受けて、顔を真っ赤にしながらフィアンセに猛抗議。
こうなってしまうとゲイルがいくら否定したところでまるで意味はなく、
シャニーはゲイルの胸に何度も拳を打ち当てて泣き出し始めてしまった。

「あー、おかしい!バカみたい、あははは!」

その様子をひとり悪魔が腹を抱えてバカ笑いしていた。
素直な妹分は本当に予想通りの行動をとってくれるから遊び甲斐がある。

「私はアリアンを超える男じゃなきゃ興味ないわよ。アリアンを超える男は世界中捜したっていないわ。」

ここまで来て、ようやくにエルピスのおもちゃにされたことに気付く。
だがこれもまたフェイクかもしれない。きっとゲイルを睨んでやると、彼は困惑した表情を浮かべてきた。

「でも今ゲイルのこと好きって言ったじゃん!それに最近やたら二人で一緒にいる時間多い気がするし!」
「そりゃお前の考えすぎだろ。俺はお前と一緒にいる時間が一番長いぞ?」

エルピスのせいで変な方向へ話が行ってしまっている。
何を言ってるんだと言わんばかりにシャニーを腕の中に包んでやりながら頭を手先で軽く叩いてやった。
いつだってこうしているというのに、まだ足りないとでも言うつもりなのだろうか。

「ホント思ったとおりの反応してくれるわ、ふふふ。」

確かめるかのように頬をぶうっと膨らせながらゲイルを睨みあげるシャニー。
呆れ顔で彼女の鼻を指で押して宥めるゲイルは、エルピスの言い草に目でもうやめろと合図を送る。
「私がゲイルのことが好きって言うのは、親友としてよ?」目がまん丸に見開くシャニー。
癖の早合点が出たらしく、彼女は顔を赤くしてゲイルの腕の中に顔を埋めた。

「アリアンと比べたら月とすっぽんよ。」
「ゲイルの悪口を言うなぁ!」

さっきまで相棒の浮気を疑っていたくせに、両手を広げながら笑って見せるエルピスに猛抗議。
ゲイルにとっては嬉しい反面、エルピスたちだってバカがつくほど仲のいいカップルなんだから
それぐらい気付いて欲しくもあった。まったく相棒の早合点には困ったものだ。

「ゲイルだって優しいし、重い荷物持ってもらえるし、疲れたら背負ってもらえるし!」

ところが、フォローに上げたシャニーの言葉にゲイルの顔が歪む。
優しいはまだいいとしても・・・。「シャニー、もういいや、何だか悲しくなってきた。」
まだ言い足りなさそうなシャニーだがそれ以上を止めさせた。
悲しげなゲイルにきょとんとするシャニーの顔がますます彼を泣かせる。

「まーったく、ホントあなた達って面白いわ、あはは。」

完全に尻に敷かれているが、相思相愛という言葉がよく似合う二人。
何だか漫才でも見ているかのような掛け合いは見ているだけで楽しく、声を上げて笑う。
バカにされているのは癪に障るが、その顔を見てゲイルははっとしたように口元に笑みが浮かぶ。

「俺さ、お前と再会できて本当に嬉しいよ。お前の本当の姿、再会して初めて見れた気がする。」

ふいにかけられた言葉に、どきんと胸が貫かれたような感覚に陥って笑みが消える。
だが、その後にかけられた言葉に、先ほどとは違う柔らかな笑みがエルピスの顔を包んだ。

「その笑顔がきっとお前の本当の姿なんだと感じたぜ。性格は悪いけど、友として旅ができて感謝してる。」
「ゲイル・・・ふふ、ありがと。」

2年前は互いに敵として、自身を見せるなんてことができるはずもない状態だった。
たとえ、目指すものが同じ同士であっても、手を取り合えなかった。
それが今、笑い合える。手を取り合える。幸せなことだった。

「ま、実力もそれなり私を楽しませられるレベルだし、親友として認めてあげるわ。」

それでも素直になれないのがエルピスという人間らしい。敢えて高飛車な態度をとるが
ゲイルにも彼女の性格はもう分かっているらしく、拳を突き出してやった。
ふっと笑いながらその拳に拳を当てて返す。親友、何と温かい言葉だろう。

「・・・なーんかお二人とも、やたらと良い雰囲気のようなんですけどー?」
「拗ねてんじゃねーよ!」

その横から、あからさまに不満たっぷりの声が間に割り込んできた。
見下ろしたゲイルの視界には、ジト目で見上げてきているシャニーの顔。
どうやらまだ焼きもちを妬いているらしく、手の焼ける相棒に仕方なくまっすぐな言葉をかけてやる。

「俺にとっての女はお前だけだって!ったくお前って奴はホント寂しがり屋だなぁ。」

言葉だけでは足りないらしく、もう一度腕の中に包んでやる。
そうすると彼女は満面の笑みを浮かべながら抱きついてきた。
この力強い腕は、この大好きなにおいは、全て自分だけのもの、そう言いたげだ。

「はー、何だかエルピスと互角だって分かったら腹が減ったぜぇ。」

シャニーの誤解も解けたし、エルピスも互角だと認めたし、全て一件落着だ。
そうなると緊張の糸がぷっつり切れて、いつものゲイルに戻る。
「ゲイル・・・さっき食べたばっかじゃん・・・。」ついさっき絶対に離れないと意気込んだはずなのだが、
こう食い気ばかりのクマだと、本当に相棒がこれで良いのかと思ってしまう。

「互角ですって?!」

シャニーの呆れ顔だけで済めばよかったが、せっかく収まった火に油を注いでしまったらしい。

「気に入らないわね!ハゲのくせに!」
「そういうお前だって奇抜なショートヘアじゃねーか?あぁん?」

牙をむき出しにしてきたエルピスを、傲慢な目で見下ろして髪を指差してやるゲイル。
嫌な予感がしたシャニーだったが、彼女が逃げようとした時にはすでに姉貴分の手が首を掴んでいた。

「あー、ムカつく脳筋だわ!シャニー!こっちに来なさい!私にとっての真の親友!妹はあなただけよ!」

じたばたと足元をばたつかせて逃げ出そうとするシャニーだが、そのままひっぱられる。
「さぁ!可愛い妹だからしっかりしごくわよ!」とんでもない理屈で平和が崩されようとしている。
彼女を広い場所に放り出すと、エルピスは鞭を取り出して妹分の足元をひっぱたく。

「ほら!休憩は終わり!せめてこの脳筋を叩きのめせるようになるのよ!1週間以内に!」

エルピスの目が明らかにいつもと違うことを察したシャニーは身の危険を感じて距離をとろうするのだが
それを許してくれない姉貴分がまた無茶苦茶な課題を押し付けてくる。
気が気ではない。達成できなければ鞭叩きの刑が待っている。

「シャニー!さっさと技術を奪ってこんな暴力精霊なんかぶっ飛ばしてあの世に送ってやれ!」
「なんですってぇ?!」

堪らずゲイルに懇願の眼差しを送る。だが、フィアンセも完全に頭に血が上っているらしい。
目線があった途端、彼からもとんでもない事を言いつけられてしまった。
油を注ぐだけのその言葉に、ようやく収まりかけた火山が大噴火を起こす。
「は、はは・・・。」目の前で勃発した第二ラウンドに、シャニーはただただ顔が引きつるばかり。
もう彼らは自分のことなどまるでお構いなしで、巻き込まれたら粉々になりそうである。

「力強い彼氏に頼りになる姉貴に・・・私は世界一幸せだよ、ふぅ・・・。」

自分で自分を慰めつつ、彼女はとばっちりから逃げていくのであった。
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