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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter20 進撃のアブソリッター

8話:マヴガフの正体

 ←7話:宿命の対決 →9話:悲しみの聖騎士
 大ゲンカから半日後、二人はもうケロッとした表情で日暮れを前に野宿の準備に入っていた。
ゲイルはいつも通り薪を拾いに行こうと包丁を握るシャニーに手をあげて合図し、
彼女も白い歯を見せながら手をあげて見送ってくれた。いつも通りの夕暮れのはずだった。

「やっぱり・・・言っておかないといけないわよね。」

ところが、エルピスは暮れゆく空の先、侵食しつつある群青を見つめぽつりと漏らしていた。
シャニーもとりあえず形にはなった。ルアスも近く、もう決戦は目の前まで迫っている。
― 全てが終わったら、ゆっくりその皮ひん剥いて俺様の部屋に飾ってやるぜ。ケヒヒ・・・ヒャーッハッハッハッハ!
カレワラ森で遭遇したあのマヴガフと言う男の去り際の言葉は今も頭に焼き付いている。
屈辱的な敗戦だった。手も足も出ないまま切り刻まれて地面を舐めさせられた。

「あれは・・・見せかけだけじゃない。これ以上は放っておけないわ。」

彼は確かに言った。あの状態でさえも、まだまだ完全な状態からは程遠いと。
あれから大分時間が経ってしまっている。サラセンの封印も解かれてしまった今、もう残された結界は少ない。
彼女が意を決してシャニーの方へと振り向いた時、ふいに横から声がした。

「なんだよエルピス。何だか神妙な面持ちをしやがって。」

はっとして振り向き、彼女は自分自身を詰った。耳が利くはずの自分がこんな至近距離まで脳筋が近づくまで気づけないなんて。
おまけにダガーに手が伸びてしまっている。だが、真剣に考えねばならないことも確か。
それも知らずに、目の前の脳筋は相変わらずの平和な顔をしているのだから。

「ゲイル・・・ちょうどいいところに来たわ。みんなを集めて欲しい。」

今が話をするタイミングなのだと、エルピスは意を決しゲイルに話を振った。
彼女の態度にゲイルも悟ったのだろうか。目で彼女に合図して皆の許へと戻る。

「どうしたのエルピス。」

何だか姉貴分がいつもとまるで違う表情をしていることにシャニーも勘付いたらしい。
その横にいるゲイルもまた、何か重い雰囲気を持っていて不安になったシャニーは咄嗟に冗談を口にしてみる。
「もしかしてケーキでも買ってきてくれたの!?」だが、エルピスにはただの能天気としか耳に入らなかった。

「・・・バカ、そんなことじゃあなた死ぬわよ!」

またいつも通りバカにしたような笑顔が返ってくるものだと思っていた。
真剣な顔で怒鳴られて、思わずうっとして顔から笑顔が消える。
スパルタの時にいつも投げつける怒鳴り声とはまるで違う、本当に怒っているのだと分かる声。

「な、何、どうしたのエルピス。そんな顔して・・・敵襲??」

すぐさまシャニーは包丁を置き、ダガーを握りながら耳を立てる。
だが、特別危険な足音は聞こえてこないし、ゲイルだって薪用の袋を背負ったままだ。
事情を呑み込めない不安げな眼差しが姉貴分を見つめる。

「いえ、そうじゃないわ。いえ・・・今この瞬間も襲われているのも同じなのかもしれない。」

一度は妹分からの問いに首を横に振ったエルピスだったが、群青が広がる空を見上げる眼差しは鋭い。
こちらからはまるで見えないが、あの邪眼は今も見ているに違いない。
そう思うと憤ろしく、そしてまた恐ろしかった。この瞬間も、あの男は力を蓄えている。

「何か掴んだのか?もしや、カレワラ森でお前を襲った相手のことか?」

向こうで周りの警備をしていたメルトが声をかけてきた。
だが、それは目の前にいる連中よりも明らかに鋭く的確で、エルピスのほうが目をまん丸にした。

「どうして分かったの?」
「ずっと聞こうと思っていた。お前をあそこまでにする人間・・・帝国の者ではあるまい。」

あの時は白の騎士団にシャニーがさらわれて、その後サラセンへ潜入を開始するなど
大変な時だったので話を聞けなかったが、本当は最も大事なことだとメルトはずっと機会をうかがっていた。
彼の的確な分析に俯きながら、顔を蒼くしながら真実を口にする。

「ええ・・・私を襲ったのはマヴガフよ。カレワラ森で起きたこと、全部彼の仕業よ、きっと。」

今思い出しても恐ろしい出来事だった。まるで、悪夢が現実になったかのようで
為す事全てが彼の前では何の意味も持たなかった。ずっと記憶の中にはあった
だが姿を現さなかったために埋もれていた悪魔の姿が、全員の脳裏にしっかりと浮かび上がる。

「マヴガフ・・・あいつ確かミルレスでもエルピス様のこと何だか特別扱いしてたな。」

最初はやたら物腰の低い話し方をしていたが、シャニーやエルピスを見た途端態度が豹変した。
まるで二重人格かと思うほどで、柔和な笑みが剥がれ落ちた後に残ったものは、
全ての死と破壊を渇望する恐るべき悪魔の蛇眼。あの黄金を思い出すだけでもゾッとする。
ルアスにいた頃から知っていた存在だが、まさかあんな人間だったとは。
もっと早く気付いていればと、レイが悔しそうに漏らす。

「メルト、マヴガフって司祭は確かあなたが処刑したって言ってたわよね。」
「ああ、胸を一突きにしたはずだ。あの時の感触は今も忘れない。」

ネクロ教という恐ろしい邪教をこの世から抹殺する為の大きな飛躍の日だった。
大司教であるマヴガフは処刑され、その日にネクロ教布教禁止令が発令された。
・・・だが、メルトにはずっと違和感が残り続けていた。処刑した男は、もう腰も曲がった老人だったのだから。

「今まで目の前に現れてきたマヴガフって司祭は・・・あれはマヴガフじゃないわ。」

そう言われても、メルトには驚く事ができなかった。むしろ、マヴガフではないと考えたほうが辻褄が会うのだ。
年齢、そして扱う武器・・・あんな機敏な動きやナイフ捌きが出来る人間ではなかった。
真実を前にして、メルトは口元を硬く噛締めて、もっと恐ろしい真実に身構える。

「何だって?おいエルピス、どういうことだよ。」

ところが、残りの者達には動揺が広がっていた。マヴガフがマヴガフではない。
「じゃああいつは誰なんだよ?」流れ的に出て当然の問いがゲイルから投げかけられて、
エルピスはじっと彼の目を見つめた。信じられない話だろうが信じて欲しい、そう言っている気がする眼差し。

「あれはフェンネルよ。あの体はただの依り代。あの体を支配しているのはフェンネル・・・神の化身よ。」

一瞬、その場の空気が凍りついたように止まった。すぐに理解できる話ではないだろう。
ところが、その沈黙が高い声によって引き裂かれる。一番、この話を信じたくない人物によって。

「そ、そんなバカな!フェンネルは私がアストレアで倒したじゃない!そんなの・・・そんなの、ありえないよ!」

自らが放ったアストレアがフェンネルを射抜き、闇に包まれたルケシオンに太陽の光が戻った。
あの瞬間は記憶を失った今でも鮮明に覚えている。自分のこの手で倒したのだ、夢なんかではないはずだ。

「彼は言ったわ。私たちの知っているフェンネルは出来損ないって。」

だが、エルピスは静かに首を振り、今現実を覆っている悪夢を少しずつ彼らに伝えだす。

「出来損ない??なんだよ、じゃあお前が遭ったフェンネルが本物だってのか!?」

真っ蒼になるシャニー。倒したと思った者は偽者で、倒したつもりになって平和を謳歌していたということか。
彼女の様子に気付いたゲイルが腕の中に包みながら、
真実を掴めそうで掴めないエルピスの言葉をストレートなものに置き換えて問い直す。

「私だって最初は信じられなかった。だけど、彼の力は間違いなく下界の理を超越しているわ。」

エルピスも冷静を保とうとはしているものの、明らかにその口調は震えていてゲイルの問いに返せていなかった。

「いえ・・・下界どころじゃない。あれは神界であったとしても・・・考えたくないわ。」

彼女が顔を蒼くするところなど、今まで見たことがあっただろうか。
だが、これだけでゲイル達には事の深刻さが胃がきりっと痛むほどに伝わってきていた。

「だけど、それだけじゃないの。それだけならまだここまで私だって焦らないわ。」

エルピスが口にした終わりなき深遠の闇。悪夢は一体どこまでこの世界を覆い尽くしてしまっているというのだろうか。
気付かなかった、それでは済まされない大罪が突然に圧し掛かって堪らず飛び出すシャニー。

「エルピス、一体どういうことなの?!何でフェンネルがいるの?!」

頭がパニックに陥っていた。フェンネルは前の戦争の時、自身のアストレアで射抜き倒したはずだ。
ハデスの化身を葬り、そして皆と共にハデス自身も封印した。信じられない、信じたくない。

「シャニー、落ち着きなさい。落ち着いて話を聞くの。」

両肩を掴んできて懇願するかのように叫ぶ彼女の肩を逆にしっかりと持って瞳を見て落ち着かせようとする。
だが、シャニーの動揺は思っている以上に酷いらしく泣き出してしまっている。

「だって、フェンネルは私が!私が!?」
「だから落ち着きなさいって言ってるの!」

高い音と共に怒鳴り声が辺りに響き渡った。頬を押さえながらエルピスを見上げるシャニー。
エルピスがこんな風にして怒鳴ることは珍しいこと。誰もが、この状況で平常心を保てるはずなどなかった。

「今マヴガフを名乗っている男は、フェンネル。だけど、私たちの知っているフェンネルでは・・・ない。」

すうっと大きく息を吸い込んで、改めて事実だけを口にする。
確かにシャニーはフェンネルを倒した、それは間違いない。だが、今世界を見つめる黄金の蛇眼の持ち主は、
フェンネルという名前でありながらも、2年前世界を蹂躙した神の化身とは別人なのだ。

「フェンネルじゃない??なんだよ、倒したのは幻術だったってのか。あの野郎!」

盗賊の力を統べる、シャスと対を為す神、それがハデスだ。
その化身であれば幻術を扱う事など造作もないことなのかもしれない。
「幻術・・・そんなレベルのものならどれだけよかったことか・・・。」だが、エルピスは静かに首を横に振った。
フェンネルが作り出したのは幻術などと言うまやかしではない。悪夢と言う名の現実だ。

「ゲイル、これは危機よ。アルトシャンなんか、比べ物にならないくらいのね。」

周りの表情から見れば分かっているだろう。だがそれでも、彼女は念を押すように皆を見つめる。
特に、現熾天使のシャニーとその守護者ゲイルに伝えたくて。
絶望と映るかもしれないが、アルトシャンを倒したところで悪夢を葬らなければ絶望は繰り返されるのだから。

「ゲイル、ミルレスで彼が扱っていた投げ短剣の事、覚えてる?」

事実を事実として伝えると、未だ信じられないような顔をしているシャニーを一度見下ろし
すぐに視線をゲイルへと移してふいにミルレスでの一戦を思い出させ始める。
もう数ヶ月も前の話。それでも誰もが鮮明に覚えていた。まるで歯が立たなかった恐ろしい力を。

「忘れるかよ。まるで生きてるみたいに動き回って厄介だった。」

何もないところから突然召喚される短剣は、主の命で空を飛び回った。
紫紺のマナ噴き上がる短剣の先は邪蛇の顔が浮かび上がって牙を剥き、意志を持っているかのようであった。

「まるで奴自身が空を飛んでるみたいだったぜ。」

無数に生み出した短剣に飛び乗り、空を滑る様に動き回るマヴガフは
とても運動には不向きな恰好をしていながら、翼を持っているかのように全ての目を嘲笑った。
人智を超えたマナ、意志持ち襲い掛かる短剣・・・あれが今、どんな力と膨れ上がっているというのか。

「あれは・・・ヨルムンガント。」
「ヨルムンガントだって?!あれは本物なのか!」

誰も知らないものだと思っていたが、思わぬ人物が反応した。
レイだ。彼は目の色を変えてエルピスの顔を注目する。その眼差しにはいつもの軽さはない。

「あの時はハデスの加護、フェイクだと思った。だけど、あれは本物なのよ。」

知っているものがいれば話は早い。希望的観測を口にして、あの時の己の甘さを悔いるように唇をかむエルピス。
彼女の表情にレイもまた愕然とした表情を浮かべて肩を落とし、信じられないと言った眼差しが焦点を霞ませる。

「何だよそのヨルムンガントって。そんなにヤバいものなのか?」

レイの表情は嫌が応にも何も知らない者の心に不安をわっと広げるものだった。
心の中に黒が染み出して広がっていく中、堪えきれず問うゲイル。
徐に聖書を開き、レイはゲイルに向かってあるページを見せてやる。

「悪神ハデスを守る神獣で、ハデスの命以外は受け付けず、全てを噛み砕く神界の破壊者・・・聖書にはそうある。」

見せられたページにはいっぱいいっぱいに挿絵が描かれており、何とも重く禍々しい。
無数の大蛇がうねり、唸り、大顎を開けて世界を噛み砕く姿は彼らにマヴガフの声を届けてくる気がする。
ミルレスで見せたものなど、ほんの序の口に過ぎない・・・と。

「その通りよ。そして、マヴガフはヨルムンガントを使いこなしていた。」
「それって・・・彼はフェンネルじゃなくてハデスってこと?!」

また、あの時の悪夢が蘇るというのか。ハデスは前の戦争で封印したはずだったのに、それはまやかしだったというのか。
あれだけ多くの犠牲を払ったというのに、無駄だったというのか。

「・・・信じたくないけど、そう考えるしかないわ。彼も言ってたもの。フェンネルであり、ハデスそのものだと。」

シャニーを落ち着かせてやりたいが、事実は事実。
淡々と答えていけば、彼女の表情が見る見るうちに色を失っていき、拳が、歯が、ギリギリと音を立てているのは分かる。

「くっ・・・何としても封じないと。またマイソシアを好きにされてたまるか!」

気付けなかった己の愚かさに腹が立つ。例えそれが、下界からでは到底見通せない
遥か遠き闇によって最初から仕組まれていたものだったとしても。
絶望の中でも立ち上がって熾天使の意志を滾らせる妹分に、エルピスも少しだけ安心した。

「ええ、今ならまだ・・・止められる。ダイモニオン・エムブレムが完成する前に!」

安心すると共に、彼女は妹分へ道を示した。たったひとつ、希望の光を未来へと届ける為の道を。
だが、シャニーにはその言葉に不安を煽られていた。
初めて聞く名前、そして完成しようとしている破滅への系譜。

「ダイモニオン・エムブレムって何?完成ってどういうこと?!完成したらどうなっちゃうの?!」

知らないところで暗躍し続けてきた暗黒が今、長い眠りから飛翔して世界を飲み込もうとしている。
今まで最大の敵はアルトシャンだと思ってきた。それが、突然ハデスの暗躍が明らかになり
彼の手によってとんでもないものが作り上げられようとしている。一気に飛び込んでくる不安がシャニーから平常を奪っていた。

「落ち着きなさい、シャニー。あなたが取り乱しては勝てるものも勝てなくなるのよ!」

もう一度妹分の肩をがっしり掴んで瞳を見つめるエルピスはしっかりと伝えた。
自分からシャニーへと継承された神界最強の光、それを放つ弓矢以外では悪神を倒すことは出来ない事を。

「ダイモニオン・エムブレムは神界の源の一つ。悪神界の理と力を司る魔道書よ。」

シャニーが落ち着いたところで、静かな口調で語り始めるエルピス。
だが、その口から出てきた、飛び上がろうとしている漆黒の翼の正体に誰もが息を呑んだ。神界の・・・力。

「あれも・・・私が下界を封印した時に一緒に封印されたはずだったのよ。」

光と共に闇が、再び動き出した世界の中で生まれ、うごめき今日を迎えた。
目覚めたのは希望だけではなく、復活は絶望との終わらぬ戦いを意味していた。

「一緒に封印って、封印はマイソシアにあるって言うのかよ。」
「ええ、各地にね。」

どうして神界のそんな大事なものがこの下界であるマイソシアにあるというのだろうか。
眉をひそめながらゲイルが聞くが、こればかりはエルピスも理由までは知らないという。

「・・・神々が私を下界に配したのも、ダイモニオン・エムブレムを封印するため・・・今ではそう思うこともあるわ。」

ぎょっとする一同。エルピスが絶望して下界を封印してしまうことを神は想定しており、
むしろそれが目的で彼女を下界に送り込んだというのか。彼女の推測に誰もが息を呑む。

「おい、それって神共は魔道書封印の為に人間を道連れにしたってことか!?」

怒りの篭った声でエルピスに当たるように聞くゲイルだが、エルピスは視線を外すだけで答えはない。
自分が創造しておきながら、神界にとって厄介なものを葬るための処分場として都合が良いと踏めばあっさり棄てるとは。
まるで命をもののように扱っているとか思えない行動。本当ならハデスと同じくらい許せない。

「ゲイル、今はそれを詮索している時ではないわ。」

エルピスだって信じたくはなかったが、否定するだけの材料もない。
それでも彼女は話の軌道を元に戻す。今、どうすることもできない話だ。

「私も早く気付けばよかった。
 マヴガフが現れた場所はどこも、ダイモニオン・エムブレムの封印の地のそばだったのよ。」

頭に手をやり、自らを責めるように目元を歪める彼女の重い口調を聞くだけで
周りの気持ちには不安が広がっていく。神出鬼没に思えたマヴガフの行動は、一貫していたというのである。

「ちょ、ちょっと待って!じゃあマヴガフは魔道書の封印を?!」

だが、あまりにも時間が流れすぎてしまっていた。最初にミルレスで遭遇してからはや数ヶ月。
震える声でシャニーは問う。もし魔道書が完成してしまっていたとしたら、
悪神と神界の力、その二つが揃ってしまっている事になる。
「まだ完全には解かれていない。」エルピスからの答えに、思わず腰が抜けてその場にぺたんと座り込む。

「けれど、このまま彼を野放しにしていたら・・・時間の問題よ。」

まだ安心する時ではない。そうまっすぐに警告してくる翠緑の瞳がシャニーを見下ろした。
神界の力を司る魔道書・・・一体どんな力だと言うのだろうか。
熾天使の力でさえも、世界をどうにか出来てしまえそうだというのに。

「封印を解かれたらどうなっちゃうの?!」
「・・・想像できないわ。」

この数千年間、ハデスとダイモニオン・エムブレムの両方が動いていた時間はなかった。
神界の理ともいえる究極の魔道書の作成に携わったひとりであるハデスだが、
その悪用を恐れた神たちが奪い取り、下界に封印したからだ。
その下界自体をエルピスが封印した事で、ハデスも手が出せなくなっていたというわけである。

「どのくらいまで解かれたは分からないけど、私では・・・傷一つつけられなかった。」

シャニーの目が今にも飛び出しそうなほどに見開かれて、震える瞳は色を失っている。
エルピスの強さは一番に知っているつもりだった。その彼女がまるで歯が立たないなんて。

「アリアンは大丈夫なのか?」

深い絶望と恐怖が一行を包み込もうとした時、メルトの言葉がその重い雰囲気を払う。
封印はまだ完全には解かれていない。ならば、すべきことは決まっている。

「彼は大丈夫。だけど、気をつけるようには言ってるわ。
 今私・・・彼と一番遠い場所にいるから、きっとマヴガフは狙っているわ。」

ヤアンがあんな風になってしまったことさえもマヴガフの企みに間違いないと今なら断言できる。
二人の精霊で守っている封印を少しでも簡単に攻略するために。

「アリアンが心配だ。一度スオミに戻ったほうがいいんじゃねえか。」
「場所を考えろ。ここはスオミから見たら大陸の正反対だ。・・・スオミのものに託すしかあるまい。」

スオミの封印へマヴガフは必ず現れる。完全な状態の魔道書を使われる前に
彼を待ち伏せて封印を守ると共に全員で一気に叩き潰す。
それしかないと提案するゲイルだが、すぐにメルトから却下された。
憤りを隠せないゲイルへエルピスも諭すように行くべき道を示す。「今はアルトシャンを止める事が先よ。」

「彼がハデスとなれば・・・世界をあげて立ち向かわなければ止められない。」

敵は少ないに越したことはなく、ハデスを倒すにはアストレアが絶対に必要になる。
その光の源が人間達であることを忘れるわけにはいかない。
「私、アルトシャンのところへ行くよ。」それをシャニーも分かっているらしく、決意の瞳が西の空を見上げた。

「何としても彼を止めて、倒すんじゃなくて手を取り合わないと!」

世界の敵、それを倒すためには全ての祈りが必要だった。
残り僅かな時間の中で、皆も意志を同じにしている事を示すかのように視線がルアスを目指す。

「シャニー、それだけじゃないわ。あなたのアストレアが絶対に必要になる。
 もうあまり時間もないけど、これまで以上に特訓するわよ。ルセンでの一撃、あれ以上でなければ・・・勝てない。」

妹分ばかりに重責を押し付けてしまうのは辛い事だが、力を継承した者の責務。
だがそれは本人が一番に自覚している事。むしろお願いしたいと言わんばかりに強く頷いてきた。

「もちろん!ありがとうエルピス。みんなもお願い、これからも力を貸して!」

いくらアストレアがあろうとも、自分ひとりでは絶対にこの先を歩んで行くことはできない。
シャニーは弓を召喚すると仲間達の瞳を一人ひとり見つめて輪の中に腕を差し出した。
「言われなくとも!」元気のよい声で手をあげたレイがさっと彼女の手に手を添える。

「俺はお前に剣を捧げた身だ。お前が頼りとするなら、俺は剣を抜くまで。」

レイに続いてエルピスも手を重ね、メルトも剣を引き抜き顔の前で十字に構えて誓って見せると
大きく頼もしいごつごつした手を重ねてきた。重い、皆の手が重ねられてまるでこの重責そのものかのようだ。

「お前を守ること、それが俺の生きる意味だ。」

皆の手を重ねられた熾天使の細い腕。その下にさっと手を入れて支えたのはゲイルだった。

「だからお前はみんなの想いを矢に載せることだけ考えろ。信じろ、最後まで一緒だ。」

そのまま肩を包まれて、シャニーは静かに頷くと身を寄せる。
支えてくれる人がいる。この幸せを守るために、シャニーは力強く頷き一路ルアスを目指すのであった。
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