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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter20 進撃のアブソリッター

11話:剣を失った帝 前編

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 もうすっかり姿は見えなくなり、エルモアの蹄の音さえも聞えない。
最大級のピンチを回避したことへの安堵、そしてようやく見つかった家族。

「兄さん・・・行ってしまった。私の・・・血の繋がった・・・兄さん・・・。」

さまざまな出来事が一気に押し寄せて、シャニーはぺたんとその場に座り込んでしまった。
確かに居た。自分と血を分けた家族が。だが団欒は許されない。望んでも届かないものへ思わず手を伸ばす。

「シャニー!バカヤロウ!何て危険なことをするんだよ!」

身動きを取れずにいたゲイル達が一斉にシャニーの許へ駆け寄ってくる。
空を掴もうと伸びる彼女の手を取って真っ先に声をかけたゲイルは彼女を包み込む。

「一時はどうなる事かと思ったわ。でもまさか、本当にシャニーのお兄さんだったなんてね。」

今でも信じられなくてふうっと息を吐き出すエルピス。敵の目の前で武器を棄てるなんて、味方でさえも目を疑った。
だがシャニーは信じていた。ヤアンが嘘をつくはずなんて絶対にないと。

「セインもそうだが、配下の騎士達も良く武器を収めて撤退してくれたものだ。さすが聖騎士と呼ばれることだけはある。」

まだまだ若い騎士だが、統率力はなかなかのもののようでメルトもさすがに賞賛を送る。
総統の命を受けて出撃してきた部隊が、聖騎士の一言で反論無く帰還するとは。
少々違和感を覚えなくもないが、この幸運を感謝するばかりだった。

「だが彼らは主命に背いたことになる。本国に帰れば恐らくは・・・。」

それでもすぐにその表情は固くなって、彼らの消えた西の空を見つめる。
命に背いた者達の末路がどんなものか知っている彼にとって、もう二度と彼らの姿を見ることはないと悟っていた。

「彼、命をかけるって言ってたわ。覚悟しているのね、本当にあなたの事を愛してくれているみたい。」

メルトの言葉に不安いっぱいの表情を浮かべて、座り込んだまま空を上げるシャニー。
彼女を励ますようにしてセインの覚悟を讃えるエルピスもまた、妹分の肩に手を置きながら共に空を見上げ祈る。
彼が無事シャニーの許へ再び訪れる日が来ることを。

「俺、やっと繋がったよ。あいつがどうして執拗に俺の事を認めないだとか言ってお前じゃなくて俺を狙ってたのか。」

兄として、妹を大事にしているからこそ守護者に対して厳しかったに違いない。
彼に恥じる事のないように、今までどおり、いや以上に相棒を守ると改めて誓うゲイル。
彼はそっとシャニーの腰の後ろに手を回すと抱きかかえて静かに立たせる。

「セイン兄さん、きっと、きっとまた戻ってきて。私だって、いろいろお話したいことあるよ、いっぱい、いっぱい・・・。」

相手はアルトシャンだ。兄が無事である事をただただ祈り続けるシャニー。
今は天使として話をしただけ。妹として、もっとお互い笑いあって話をしたい。
失われていた過去を見つけるために、大事な人との時間を取り戻す為に。

「しかし、これではっきりした。アスクも一枚岩ではない・・・今も昔も変わらず、な。」

やはり、そう簡単に悪しき風潮というものは変えられないというのだろうか。
「攻め込むチャンスは・・・ある。」敵としてみれば突破口であるが、かつて国の中心にいたメルトにとっては心苦しいものだった。
錯綜する思惑、国が危機的状況にあっても揃わない足並み。ひとりで理想郷を描いてはならない理由がここにある。

「私たちも急ごう!少しでも早くこの戦いを終わらせて、マヴガフを追うんだ!」

会うことは叶わないと思っていた家族。それがずっと、自分のことを見守ってくれていた。
嬉しい、改めて世界で独りぼっちなんかではないということを実感できた瞬間。
だが、この一時だけではない。これからずっとにするべく、彼女は再び歩き出したのであった。

 一方、ルアスではアブソリッターが帰還していた。だが、勝利を示す傍は掲げていない。
「セインが帰還しただと?」確かに半日で作戦を終わらせろと命じはしたが明らかに早すぎる。

「やたら早いな、もう討伐を終えて還ってきたというのか?」

窓から見下ろしていたアルトシャンは怪訝な表情を浮かべていたが、
その疑念はすぐさま現実とものとなる。緊張に張り詰めた騎士団の足音が部屋に近づいてくる。

「総統、やはりこれ以上の希光との戦いは無意味です。
 マヴガフを止める為にも、彼女とは和解し速やかに盟を組むべきです。」

団長室へと入ってきたセインは、前置きも無くアルトシャンの前に跪いて改めて諌めようとまっすぐ見上げた。
だが、案の定と言うべきか彼がシャニーを討伐していない事を知るや、アルトシャンの額に血管が浮かびあがった。

「早い帰還だと思えば、任務も果たさず部下を引き連れて敵前逃亡してきたというのか!」

これでは民への示しがまるでつかないではないか。国賊を前にして逃亡する帝国最強の騎士団など。
怒りを抑えきれないアルトシャンは思わず剣を引き抜きセインへまっすぐ鋒を向けた。

「最大のチャンスを棄て去り、お前はやはり国を滅ぼすつもりなのだな!」
「お待ちください!今最大の敵はシャニーではないはずです。民の為にも、今はどうか!」
「黙れ!」

だが、セインはむしろ民の為だという。裏を返せば、お前こそ民をないがしろにしていると言われたようなもの。
ついに辛抱ならなくなったアルトシャンはセインが言い終わらないうちに怒声で遮って
刀身に紫電を走らせ始めたではないか。セインの顔に落胆が浮かび始める。

「誰か、この国家簒奪を目論む裏切り者を捕えよ!この場で処刑してくれる!」
「アルトシャン様、お待ちください!」

周りで様子を伺っていたアブソリッターをぎらりと睨みつけると、セインを視線で指す。
互いに顔を見合わせた騎士達だが、総統の命令は絶対だ。やむなくセインの両手を掴む。

「マヴガフを倒したその後には、必ずやアスクはあるべきに向かって進んでいけるでしょう!私を信じてください!」

信じる、その言葉をセインが口にした途端、アルトシャンの目が一層に鋭くなって彼を突き刺した。
この期に及んで、まだその言葉を口に出来るのか。だが、今回の敵前逃亡でもう十分材料は揃った。

「お前は頭の回転が速く、騎士としてのうでも素晴しかった。
 そして旧友イスピザードの息子・・・可愛がってきたつもりだったが・・・。」

今でも信じることは出来ない。だが、これまで積み重ねてきた事実が全てを物語る。
そして今、疑念を確信へと変える物を懇願してくるこの男は持っているのだ。
静かに歩き出したアルトシャンは、そのままセインの後ろへと周る。

「やはり私の疑念は間違っていなかったようだな。」

このまま首をはねられてしまうというのか。背後に立ったアルトシャンからひしひし怒りが溢れて突き刺してくる。
後ろ目に見上げてきた彼に、アルトシャンは徐に手を伸ばした。

「改めて失望したよ、セイン・・・いや、白騎士カミユ!」

自由を奪われているセインの服を掴み、突然ポケットやらあちこち漁りだす。

「?!な、何を仰るのですか、アルトシャン様!」

抵抗しようとしたセインだったが、時既に遅し。もはや聞く耳持たずといったアルトシャンは無言のまま服を漁り続ける。
白を切ろうというのか。あまりにも堂々とした欺き方は慣れを感じて忌々しさが湧き上がってくる。

「潔く正体を明かせ。おかしいとは常々思っていた、機密がどこからともなく白の騎士団へと漏れては作戦が妨害されてきた。
 さすが我が右腕だ、計略は慎重かつ大胆だった。私も長く欺かれ続けてきたよ。」

獅子心中の虫・・・まさか最も愛する国の中に最も憎むべき敵の一人がいようとは。
最後の最後まで信じたくなかったが、もはや事実に追い詰められてしまっていた。
今でも間違いであって欲しいと思う気持ちはある。だがついにセインの服の中に見つけてしまった。確かな感触を。

「だが!お前が持っているものが!私に確信させてくれる、お前がカミユなのだと!!」

ポケットから引き抜かれた手先にあるものに、セインは目を見開くしか出来なかった。
日の光を浴びて黄金にか輝くトパーズ。希望を振りまく熾天使の光を前に、どうして今絶望しなければいけないのか。

「なっ、そ、それは・・・。それは彼女を騙す為のフェイク品です!」

ここまで追い詰められては、セインでもいい反論は浮かんでこなかった。
苦し紛れの言葉はますますアルトシャンの表情を固くさせ、どうにもできない敗北感が部屋中覆いかぶさってくる。

「フェイク品を使ってアンドラスに使い方など聞くか?本物だからこそ、聞いたのであろう?」

動きようの無い事実を突きつけられてセインの顔が歪む。
(しまった・・・。)今更後悔しても遅い。アンドラスに口止めをしておくことを忘れてしまっていたのだ。
彼の表情から全てを悟ったアルトシャンはトパーズをしまうと、剣を握りなおす。

「白騎士カミユ、今までこの総統アルトシャンを苦戦させたその辣腕、賞賛に値する。
 敬意を持って、私自ら貴様の処刑を執り行なうとしよう。この場でな!」

振り上げられた大剣。その刀身には雷のマナが走ってその音だけで背筋が凍りつく。
もはやどう言い逃れする事もできないと悟ったセインだが、それでも説得を諦めなかった。

「くっ、そうだ私がカミユ!もう一度だけ警告する!剣を収めよ!シャニーと戦っている時ではあるまい!」

全ては、愛する世界、愛する妹のため。その為に、最期を悟ってこの場に戻ってきたのだから。

「このままマヴガフを放っておけばどうなるかくらい、分かっているだろう、アルトシャン!!」

止めるべきは、既に世界を覆おうとしているあの暗黒の使徒。
その為には全員が同じ方向を向かねば熾天使が打ち勝つことは出来ない。
こんなことくらい、アルトシャンほどの人間なら当に理解しているはずなのに。何故だ、何故なのだ?

「今更・・・どの道を進もうと行きつく先は同じだ。ハデスが滅ぼすか、人間が自滅するか。」

一度始まってしまった滅びの系譜を止めることはもうできない。
もしこのまま、世界が同じ時を刻み続けるのなら、マヴガフ一人消したところで何の意味もない。
それを知っているからこそ、アルトシャンは根本を変えようと今まで強引ともいえるやり方を押し通してきた。

「その道を免れる唯一の道!それはもはや天使の血を亡き者にするしかないのだよ。」

進化を促す希望の光。それを司る熾天使の血さえこの世界から消えればすべて収まる。
人間の進化は止まり、ハデス復活の鍵もなくなり、破滅の系譜がそこで終わりを迎えるのだ。

「私は世界をあるべきへと導く。人間の進化は制御されなければならないのだ。」

真顔で言い放ったあるべき。だがセインには到底信じられなかった。
彼は神にでもなったつもりなのだろうか。

「そうは行かない!進化を制御するなど、人間がしていい事ではない!人が人を支配するなど!」

帝国が行ってきた支配とは、まるで別の次元の話を推し進めようとしている。
同じ人間がどうして他の人間の命や思想を制御することが出来るだろうか。
全ては、希望の光を受け取ったそれぞれが自分だけの色で輝いてこそ世界には色が創られるというのに。

「お前はどこまでも熾天使を崇めるのか。だが、お前の言うことは正しい。」

囚われ、極刑を前にしても揺るがない信念をアルトシャンはじっと見据え、否定はしなかった。
「人間が人間を支配していては、負の連鎖は断ち切れぬ。」憎しみ、不満、それをすべて知り、解決することは人間には到底できないことだ。
それは人間どころか神界でも難しいことは、熾天使の行動からも分かる事。彼女が独断で決定したことがあるか?
分かっているならどうして。そうセインが聞きかえそうとした時だった。

「だからこそ私はあるべきへと導く!
 私は守るべきものの為に負けるわけにはいかぬのだ!その邪魔をするのであれば、我が剣で切り伏せるのみ!」

力強く天へと掲げられる大剣。その刀身にほとばしる紫電が死を宣告する。
逃げようともがくセインだが、もはやこの狭い場所ではどうにもならない。

「さらばだ、光の盲信者よ!」

振り下ろされる裁きの一撃。首を叩き落とそうと唸りを上げる大剣を前に、セインは目がきっと何かを覚悟した。

「人間は進化する、そして力を手に入れる。だがその力を制御するべく人は進化する!」

砕け散る窓ガラス。外から突っ込んできた何かが鋭く部屋の中を突き、衝撃波がアルトシャンを襲った。
間一髪避けた彼だが、衝撃波は大剣に直撃して軌道を変え、セインは事なきを得た。
「貴様は黒騎士か。」ピアシングスパイン。かなりの実力者が放った一撃に振り向いたアルトシャンの視界に映った漆黒の騎士。

「総督が危機に陥って助けに来たと言うのか?」

手にした指輪から蒼焔を噴き上げ、そのマナで槍全体を燃え上がらせるヴァン。
彼はアルトシャンをじっと睨み据えると、じりっと一歩踏み出す。

「お前は人間を知らない、人間を愛さないお前が知るはずもない。ゆえに・・・人間の強さを知らない。」

槍の穂を燃えがらせる蒼焔がいっそうに勢いを増す。それは破壊の為ではなく、国を、世界を守る為に。
一人の独裁者が描く狂気の理想郷を燃やし尽くすために、彼は誓いの号令のもとへ参上したのであった。

「玉座に相応しい人間とは、人間にその進化を促す事が出来る人間だ。逃げることなく、向き合ってな。」

進化が己を滅ぼすというのなら、滅ぼさないように気付かせ、導く事こそが賢者の示す道。
じりっとまた一歩アルトシャンへとにじり寄るヴァン。お前は頂に相応しくない、そう目が言う。

「残念ながら新しき世界に玉座などと言うちんけな代物は必要ないのだ!死ね!」

だが、もはや神に世界を返し、神によって世界を管理することを目指すアルトシャンにとって、
人が人を支配する象徴である玉座はむしろ破壊の対象であった。
刀身へ紫電を迸らせ、新たに現れた盲信者を叩き潰すべく、怒号と共に剣を振り下ろす。

「行くぞ、脱出だ!」

指輪から迸る蒼焔を槍へと走らせ、穂を地面へと突き刺す。
蒼焔によって創られたドラゴンスケイルが剣帝の一撃を完璧に押さえ込み、ヴァンはその時を待っていたかのように叫んだ。

「何?!」

彼の声にいっせいに動き出す騎士達。セインを捕らえていた者達も、
彼の手を取ってアルトシャンがドラゴンスケイルに阻まれ動けない隙に窓から飛び出していくではないか。
窓から消えた彼らをようやく追えば、唸りをあげて浮上してくる錬金艇。

「アルトシャン!必ず私はお前を止める!それまでそのトパーズ、マヴガフに奪われるなよ!」

錬金艇のハッチから、先ほどまでルアスの紋章を掲げていた者達がこちらをじっと見据えており、
その真ん中からセインは力強く叫ぶと、錬金艇はあっという間に南の空へと消えていった。

「なんだと・・・アブソリッターまでもが・・・白の騎士団だったというのか。」

一体いつから、彼らに国の中枢を蝕まれていたというのだろうか。
一人部屋に残されたアルトシャンは、何か肝を抉りぬかれたような感覚に陥り、剣を持ったまま崩れ落ちた。
「だが、私は諦めてはならぬ。」だがその顔はすぐにあげられ、破壊され窓の外に見える街を見つめ瞳は強さを取り戻す。

「マヴガフを止め、そして進化を制御し神に世界を返す・・・。
 為すべき事は一つ。己が信じるあるべきの為・・・どちらのあるべきが闇を押さえ込めるのか・・・見極めようではないか。」

静かに立ち上がったアルトシャンの目に、ひとつの覚悟が宿る。
もう、退く事は許されない。いかなる犠牲も厭わぬと、彼の蒼褪めた眼は狂気さえ覚える覇気を湛えていた。


 さすがにアブソリッターの話はうやむやには出来ず、国防関係者には激震が走った。
その日の夜、全ての機関への指示を終えようやく次の本題の仕事につこうと
団長室へと戻ってきたアルトシャンの耳に何やら駈けてくる音が聞えてくる。

「お父様!お父様!」
「どうした、お前がそのように取り乱すとは珍しい。」

ノックへの返事も待ちきれないと言った感じで部屋に飛び込んできた娘。
彼女は父の顔を見つけるなり、一度はほっとしたような顔をして見せたが、さも不思議そうにする父に
彼が自分を気遣って平素を装っている事をすぐに察して本題を振る。

「カミユが!カミユの正体がセイン様だったというのは本当なのですか!」

いまだに信じられなかったが、口元硬く視線をそらすアルトシャンの反応からすると間違いなさそうである。
彼からしてみても、隠すことは無意味だと分かっているがその口ぶりは重い。

「・・・ああ。我ながら不覚だった。既にアブソリッターまで乗っ取られていたとは。」

セインに騎士団を任せすぎたのだろうか。いや、セインの、そしてカミユの主張は一貫していた。
その時点で何かしらに気付けなかった事自体がすでに過ちだった。
もっと彼の意見に耳を傾け、真正面から議論していればあるいは・・・。
しかし、今更そんな事を考えても仕方のないことだ。今、国の守りは完全に失われた状態なのだから。

「アンドラス、今帝国の危機だ。カミユもそうだが、シャニーが帝都に近づきつつある。」

難攻不落の黄金の城の足元が脆くも腐り、傾いている。
その状態で最大の敵たちを迎え撃たねばならないのである。カミユ、シャニー、そしてマヴガフ・・・。
彼らと真正面から戦いには、あまりにも不利。
こんな大国が個人に振り回されるとは・・・情けない限りでアルトシャンは俯いた。
「シャニーがルアスに?!」父から伝えられた緊急事態。アンドラスは目を見開いた。
彼女が来ると言うのである。このルアスに。今まで地方で帝国の勢力を一層し続けてきた光が今、帝都へと伸びようとしている。

「もしや帝都を侵すつもりなのでしょうか・・・。」
「わざわざ地方を制圧し、帝都に向かってくる理由など一つしかないだろう。」

メルトが傍にいた。いきなり帝都に攻めてくることをしなかったのは帝国と真正面から戦うことを最初から想定していたに違いない。
そして今現実のものとなった。帝国が最も弱っている今を狙い撃ちしたかのように。

「そんな、このままではルアスの民が戦禍に巻き込まれてしまう・・・。」

もしシャニーが市中で神界の力を行使するような事があれば、間違いなく民に被害が出る。
「それは何があっても避けねばならぬ。」自分の言葉を否定せず、唇を噛締めて拳をぐっと握り締める父の姿から、
アンドラスなりに絶体絶命を悟り何とかできないかと必死に考えるが、民を全て避難させている時間はなかった。

「アンドラス、もはや国を守れるのは我ら親子とイスピザードだけだ。」

それでも何とかしなければ国が滅んでしまいかねない。
その危機感がひしひしと父の見上げる眼差しから伝わってくる。
帝国の威厳で身を包んだ剣帝であるときの父はいつでも完全無敵だった。
それがこんな焦燥とした顔をみせるのは初めてのことだった。

「はい、心得ています。民を守るために、私も出撃します。」

だからこそ、アンドラスは気丈に振る舞い、力強い瞳で父を見つめ敬礼して見せた。
今までずっと守ってもらってきた。自分だって父や民を守りたい。それが今だと言い聞かせて震える心を戒める。

「うむ、私も奴を迎え撃つための作戦を練る。お前もその間準備しておくのだ。」

一つ頷くと、彼女は最敬礼して団長室を後にした。
父の顔はこれまでにないくらい疲れ果てていた。何とか支えてあげたい。
その想いが彼女をずんずんと先へと歩ませ、城の屋上に出た彼女は東の空を見つめる。

「・・・シャニー、ついに来るというのね。あなたは一体何をしにルアスに来るというの?」

この空の繋がる先に、同じ血が流れ、民を愛する熾天使がいる。
だが、同じ血が流れている相手だからこそ分かる。彼女が戦う為にくるわけではないことを。

「彼女が帝都の中でアストレアを放つとは思えない・・・何が目的なのか知りたい。」

自分が一騎打ちを叩き着けた時だって、彼女は結局一回も弓を握るどころか短剣を振るってこなかった。
彼女はあくまで調和を望んでいる。だが、そんな憶測で帝都に踏み込ませるわけには行かない。
父に合わせる前に、自分が量る必要がある。彼女は踵を返すと偵察を父に相談しに戻る事にした。


 一人部屋に残ったアルトシャンは机に両肘を突いて策を練り続けていた。
もはやここまで来たら覚悟を決めるしかない。だがそれには足枷があった。どうすればいい・・・。

「貴公子サマ、ようやくにセインが尻尾を出したようですね。」

突然の声。それは今考えていた作戦の中で最も警戒していた者のもの。
ばっと顔を見上げれば机の前に魔法陣が浮かび上がり、そして次第に見慣れた、そして憎き黒の男の姿が顕になっていく。

「その言い方だと、お前は既に奴の正体を知っていたかのようだな。」

知っていたに決まっている。この男は、全てを知りながら何も語ろうとはしない。
案の定、彼はいつも通りの柔和な笑みを糸目に乗せ、
帽子に手をやりながらさも愉快そうに神経を逆撫でる高い声で返してきた。

「そりゃあもう、だーいぶ前から。ま、精々猿芝居を楽しませてもらいましたよ。」

これだけで、帝国と盟を組むものとして重要な情報を隠匿した重罪であるのだが
今のマヴガフを法でどう縛ろうともはや無意味だ。

「ご心配には及びませんヨ、奴の抵抗なんて、大勢に影響を与えるものじゃありませんから。」

言うまでもなかったと弁明するつもりなのだろうか。
何が大勢に影響を与えない、だ。帝国は今守りの要を失い、絶体絶命の危機に瀕しているというのに。

「しかし、希光が今帝都に向かってきているはずだ。この危機を何としても食い止めなければ。」

探るようにして今の状況を分かっているであろうマヴガフに突きつけてやる。
案の定、彼は小ばかにしたように言葉にせせら笑いを交えてきた。

「なぁーにを焦ってるんです?分かっていてセインなどに任せたのでしょう?」

本気でシャニーを殺そうとしている人間なら、最も信用の置けない部下に任せるなどしないはずだ。
となれば、アブソリッターの出撃はあくまで演出でしかない・・・としか映らない。

「アナタ、戦いたくてウズウズしてるんじゃないんです?武人には城の中って窮屈なんでしょうね。」

帽子の下から黄金がちろちろとほくそ笑む。
だが、さすがにこれにはアルトシャンも黙ってはいない。お前達と一緒にするなと言わんばかりに睨む。

「・・・何が言いたい。私が民を戦禍に巻き込もうとしていると言いたいのか!」

自分より長身のマヴガフから降り注ぐ嘲笑を跳ね除けるように怒鳴りつける。
だが、まるで彼の細い体を体現するかの如く、風に触れた柳の如く飄々と靡くだけ。

「ん~、さァ、どうでしょうネェ・・・。」
「くっ!」

自分の胸に手を当てて聞いてみろ。黄金の蛇眼に吐き捨てられてアルトシャンは悔しさを噛締める。
「信じたくなかったのだがな・・・。」まさかの言葉にマヴガフもこれは驚いたと細い目を見開いて見せた。
あれだけ好き放題をされて、信じたくなかったとは。
いやいや、人間とはよく分からない、どうにも使いづらい人形共である。

「だが、今や私の手中にトパーズはある。帝都に攻めてきたところで結果は見えている。だが、市街戦だけは何としても避けねば・・・。」

勝敗は結果を待たずとも明らか。だが帝国に許された勝利は、完全勝利以外にない。
それを叶えるとなると、明らかな戦力不足だった。
ルセンで見せ付けられたあの神界の光を行使されたら、止める術がないのだ。

「か~んたんな話ですヨ。ルアスに来る前にあのクソガキちゃんをぺしゃんこにすればいいんです。」

何とも簡単に言ってくれる笑顔が恨めしい。それが出来たらとっくにしている。
アブソリッターを失った今、帝国は守りを固めるだけで手いっぱいだというのに。

「あるじゃないですか、あるじゃないですか~、一瞬で終わらせられる方法が!」

その困窮した目を待っていたかのようにマヴガフは切り出す。温存してきた切り札を。
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