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 ←14話:悪夢の具現 →2話:起死回生
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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter21 さまよう魂

1話:決断の夜

 ←14話:悪夢の具現 →2話:起死回生
 帝都を見下ろせる丘に夜風が吹き抜ける。いつもなら気分を高めてくれる広陵なるキャンパスに映える夜景。
だが、今日は見降ろす眼差しは厳しくとても張りつめていた。

「さて、別れてきたものの・・・どうやってルアスに入ろうかな。」

ルアスへとひとり帰って来たレイはその帰路、潜入方法をあれこれ考えていたのだが
この丘にたどり着いてもやはり思い浮かばずにいてため息をついた。

「一応私はゲイルたち野蛮人に連れ去られたことにはなっているが・・・。」

ゲイルたちと別れて戻ってきたのは、もちろん次の作戦に向けた諜報の為。
帝国側の人間であったものの、さすがにこの前のルセンでの一戦で勘付かれている可能性は高い。
下手に捕まればゲイルたちに余計な仕事を増やすことになる。

「しょーがない。今回もあの作戦で行くしかねーよなぁ。」

どれだけ頭をひねってみても、やはり無理がありすぎてゴーサインを出せずにいた。
結局消去法を使ってしまうと、最初に感情が許さないという理由で消した選択肢しか可能性が残らない。
彼は大きくため息をつくと、魔法陣を足元に広げてその場から姿を消す。


 一方、ルアスでは警戒態勢が敷かれていた。町の中を騎士が巡回する物々しい雰囲気の中、
民たちの不安を肌で感じるアンドラスは、深夜になっても寝つけずに机に向かっていた。

「シャニーが近づいている・・・セイン様もいなくなってしまわれた・・・。」

無心で魔道書の勉強を続けているはずの彼女だが、頭は国の危機のことでいっぱいだった。
頼りにしていた人はいなくなり、様々な脅威が帝国を押しつぶそうと迫ってくる。
湧き上がる不安を少しでも和らげるには、努力しかなかった。

「もう騎士団には私しかいないわ。民を守らねば・・・。」

彼らを守ることが出来る力を少しでも高めること、それが今できる精一杯だ。
ペンが紙に走る音と時計が時を刻む音が静寂の夜を深くしていく。その時だ、彼女は何かを察知して顔を上げる。

「?!何かゲートアウトしてくる?!」

静寂の部屋の隅が突然ぼんやりと滲み始めたかと思うと、光が渦巻きだしたではないか。
間違いない、コレは転移魔法だ。椅子を跳ね飛ばして剣を掴み、ふっと燭台の火を吹き消した。

「あれ、真っ暗じゃねーか。」

無事アンドラスの部屋にクレリックゲートを成功させたレイは予想外驚きの声を上げたが、
次の瞬間、彼は喉元に鋭い何かを感じて堪らず両手を上げた。

「ひぇえ?!」
「何奴!この幻騎士の部屋に忍び込んだのが貴様の運の尽き!」

剣を侵入者の首に押し付けて羽交い絞めにしながら怒鳴る。
この身のこなしだとアサシンや盗賊の類ではないが、アンドラスは剣をさらに喉元に押し付けていく。

「ア、アンドラス、落ち着いてくれって。私だよ、レイ博士だ。」

喋っただけで喉に刺さってしまいそうなほどに押し付けられた剣に蒼褪めながらも、
レイは潰れてしまいそうな喉に無理やり唾を流し込んで震える声を絞り出す。
途端だ、びくっと剣が振るえ喉への感触が強くなるから顎が引ける。

「?!レ、レイなの?!ま、まぁなんてこと!」

剣を構えていたほうもうまさかの声が聞こえてきて目を白黒させた。
レイが取り出した懐中電灯が二人の顔を闇に浮かび上がらせると、アンドラスは慌てて剣をしまう。
「ひええ・・・助かったぁ・・・。」生きた心地がせずにふらふらと足元が流れて傍のベッドへ垂れ込む。

「君以外が部屋にいたらどうしようかと思ったが、まさか君に剣を向けられるとは。」

早合点なところは相変わらずと言ったところなのか、申し訳なさそうに頭に手をやるアンドラス。
彼女は剣を部屋の隅に置きなおすと、ろうそくを灯して改めてレイの顔を確かめると頭を下げた。

「ご、ごめんなさい。まさかこんな方法であなたが還ってきてくれるとは思ってもいなかったので。」

いきなり剣を向けてしまった自分も悪いが、こんな方法で忍び込んでくるレイもレイだ。
だが今は再会できた嬉しさが胸にわっと湧き上がり、彼女はレイが腰掛けるベッドに飛び込むように腰を下ろす。

「もしかしてもうお休み中だったのか?いやぁ、それならレディの寝込みに侵入する悪い男だぜ。」

アンドラスの様子が前と変わらないもので少し安心したか、いつも通りの節がさっそく彼女を笑わせる。
再会に嬉しそうにしながら、彼女は敢えて頬を膨らせて見せてやる事にした。
本当に、彼との二人っきりの時間なんて何ヶ月ぶりだろうか。

「ホントよ。遊ぶだけ遊んで行方をくらまして、また欲しくなったら帰ってくるなんて。」
「おいおい・・・。」

他人が聞いたらどんな男かと思われるような表現である。さすがのレイも口元が引きつった。
ツンと頬を膨らせた彼女がそっぽを向いてしまったからである。「まぁ、すまない、抗弁のしようもないよ。」
どこかで見た光景・・・レイはすぐに思い出す。悪友とシャニーのやり取りだ。
こういうときゲイルがどうしているか思い出してみる・・・あの屈強な男が土下座する姿がすぐに浮かび上がってきた。
今回ばかりは彼をまねてみることにする。

「なーんてね?うふふ、驚いた?」

するとどうだろう、まるで特効薬かのようにアンドラスの顔から怒りが飛んでいくではないか。
「私を独りぼっちにしたお仕置きよ。」彼女は小さく舌を出しながら笑って見せてきて、
レイの手を取ると恐る恐る見上げてくる彼の目をじっと見つめる。

「私はあなたが帰ってきてくれてとても嬉しい。だってあなたは約束を守ってくれた。」

最愛の人がどこも大きな怪我をした様子もなく元気に帰ってきてくれた。
国の危機が迫る今、不安ばかりが湧き上がる中でふいに差し込んだ光にさえ思える。
もう離さない、そんな想いかアンドラスの手が強く握ってくる。

「必ず君の許に戻る、だから待っていてくれって。ええ、ずっと待っていたわ。おかえりなさい、レイ。」

彼女からの優しい言葉を聞くと、ようやくにルアスに戻ってきた実感が湧く。「うん、ただいま。」
静かに頭を上げると、レイはアンドラスの額に口付けしてやりしっかり抱きしめた。

「どこも変わりはないようだし、酷く疲れているってわけでもなさそうだな。」

だが、医者と言う職業柄仕方ないのだろうか。彼が静かに抱いてくれる時間は短かった。
抱きしめながら何かガサガサしているかと思えば、彼は既に診察を始めていたのである。

「レイ、もっと自分の心配をしてください!レイも怪我はないようだけど・・・。」

ずっと帝都にいた自分よりも、あちこちを旅してきたであろうレイのほうがよっぽど心配だった。
ざっと見下ろしてみるが、彼の衣はいつも通りの白さが健全を教えてくれる。
ほっと胸を撫で下ろす彼女に、レイは視線をそらして唇を噛んだ。

「そりゃ・・・私は別に野蛮人に連れ去られたわけじゃねーしな。」

アンドラスにはもう伝えてあったし、彼女もそれは承知の上のようで、レイの無事を確かめ終えると
それまでずっと我慢してきたかものが、まるで手を離した風船のように飛び出してきた。

「あの、その状況を教えてください。ヤアンさんは?セイン様は?!」

見えない不安ばかりが目の前を覆っていて、この数日間まるで落ち着かなかった。
知らないところで、世界のどこかで、自分の大事な人達が恐ろしい目に遭っている。
そう考えるだけで居ても立ってもいられなかった。

「落ち着くんだ。とりあえずひとつずつ説明するから。」

懇願の眼差しはあふれ出すほどの焦燥を含み、その瞳で飛びつかれ見上げられて宥めるしかできない。
しばらく彼女の背をさすってやってようやくに彼女が落ち着くと、レイは短期間の激動を思い出しながら言葉に紡ぎだしていく。

「まずはセインだ。セインはシャニーちゃんの討伐に来たが何もせずに帰って行ったよ。」

どうやらレイ達も、その後のことは何も知らないらしい。
しょんぼりと目を落としたアンドラスは、今にも泣き出しそうに唇を噛締めながらため息を漏らす。

「・・・ええ。そのことでお父さまが酷くお怒りになって、セイン様は正体を明かしたんですもの。」

セインが取った行動が本当だったことを知り、しょんぼりと肩を落とす。
彼のしていたことは騎士として許せるものではないが、非難できない自分がいる。
むしろ彼の方が一貫している様な気がして、それでも民を守る自分の役目を己に言い聞かせるかのように弱った目が自身をうなずかせる。

「正体って何のことだ?」

もちろん、レイにとってはまるで何のことだか理解できず、突然うつむいた相棒を心配そうに見下ろす。
すると彼女はそっと見上げて来ると、自身でもいまだに疑っているかのような弱い口調で真実を伝えてきた。

「セイン様が・・・白の騎士団の総督カミユだったのです。」
「な、なんだって?!」

聞いてすぐは、ずっと謎の存在であった人物の意外な正体に驚いて見せたレイだったが、
これまでの出来事を一枚一枚写真をめくるように思い出してみると、その顔には驚きが消えていく。

「そういうことだったのか。だから白の騎士団はずっとシャニーちゃんを守ろうとしていたのか。」

いままで幾度と無くシャニーの前に現れてきた白の騎士団。
だが彼らは決して彼女に傷をつけるような行動は見せてこなかった。
その理由がようやくに見える。トパーズを奪おうとしていた理由も、これなら辻褄が合う。

「どういうことですか?確かにセイン様はなんとかシャニーと戦わないように行動し、最後までそれを貫かれた形でしたが。」

今度は逆にアンドラスが質問する側に回る。互いに欠けている情報が集まってくる。
それはまるで、二つの鍵がぴったりと重なり合うかのような感覚だった。

「セインはシャニーちゃんの実兄なんだよ。」
「な、なんですって・・・。」

それ以上の言葉が出てこなかった。兄妹でまさか両陣営で相対していたなんて。
敵ではあるが、シャニーの心境を思うとアンドラスは胸が締め付けられそうだった。

「ということはイスピザードさんはシャニーの父親・・・そうか、それで・・・。」

ぽっかりと暗闇に明いていたパズルのピースが今またひとつはめ込まれ、真実を形作っていく。
まだイスピザードに世話をしてもらわなければならなかったころ、彼は自分の手を取り言ったのだ。
― あなたと一緒にいると落ち着く。それはきっと、失った娘と一緒にいる、そんな気持ちになれたのだろう。
シャニーと一緒にされて憤りなんて覚えない。それで安らぎを得られるなら、もっとあの苦労多き聖者を癒してあげたい、
そう思う瞳が孤児院にいるであろうもう一人の父を見つめる。

「次はヤアンだな。彼は取り付いていたハデスのマナをシャニーちゃんが追い出した。」

心なしか瞳が潤んでいるアンドラスを気にしながらも、レイはもう一つの事実を彼女へ伝える。
もちろん、事実自体は彼女も知っているだろう。サラセンのギルドがシャニーの下に降伏したということを。
だが、それよりもっと大事で彼女が心配していたことを伝えてあげた。

「ヤアンさんは無事なのですか!シャニーはヤアンさんを?!」

案の定、アンドラスはそれまでの悲しげな眼差しを一変させ、飛びついてくるかのように見上げてくる。
いままで幾度と無く、自分をマヴガフから救ってくれた異界の覇者。
その彼が今どうしているのかを考えると胸が裂けそうなほど。まして相手は国賊だ。

「あの子が命を奪うような真似をすると思うかい?まして、望んで悪となったわけではない人を。」

だが、顔を真っ赤にする彼女の両肩にそっと手を置いてそれ以上に興奮を抑えると、
目じりに浮かんだ悲しみを静かにぬぐって前髪を梳いてやる。
分ってはいた、だがまだどこか不安だった。しかし、レイの言葉が確信を与えてくれる。
やはりシャニーは、帝都を攻めにやってくるわけではないはず、と。
「ああ・・・よかった。」その言葉にはヤアンの無事はもちろん、帝都の民達の安心も含んでいて
全てを吐き出しきってそのまま座り込んでしまうかと思うほどだった。

「彼は今、サフィと共にサラセンを発展させるべくギルドを復興しているはずだ。」

彼女の背をさすりながら、レイは優しい声でヤアンの壮健を教えてやった。
この嬉しそうな、安堵に包まれた顔を見よ。願わくば、共に喜びを分かち合いたい。
だが、それは敵わない。最悪の闇が今、マイソシアの空に放たれたのだから。

「だけど、ヤアンからハデスのマナを追い出したことで、ハデスは新たな憑依先を探してる・・・というか目指している。」

ヤアンがハデスを取り込んでくれていたおかげで、アンドラスは今まで無事でいることができ
そして悪神の復活も阻止されていた。今その最後の封印とも言えるものから解き放たれたのだ。
この機を奴が逃すわけが無い。

「それが・・・私と言うわけなのですよね。ええ、お父様から話は聞いています。」

レイが焦燥に満ちた警告の眼差しを送ってこずとも、アンドラスは知っていた。
ヤアンがハデスのマナを閉じ込めていたこと、そして今そのマナを縛る鎖が千切られたことを。
これにレイは目を見開いて彼女の肩を揺さぶった。あまりにも暢気な答え。

「じゃあ一刻も早くマヴガフの監視下から離れるんだ。このままではいつあいつが襲ってくるか!」

彼女がそこまで鈍感なわけが無い。何が起ころうとしているか察しはついているはずだ。
なのにどうして。その思いがレイの眼差しにありありと浮かんでいてアンドラスに問いかけてくる。
彼女は震える指先をそっとレイに胸に添えると、町に広がる夜景を見つめてきっぱりと言い切る。

「国にはもう・・・民を守れる騎士が数えるほどしかいません。私まで逃げれば民は不安に陥るでしょう。」

己の存在価値は、民を守る剣となること。こんな危機だからこそ勇気を振り絞って剣を握らなければ誰が彼らを守る?
強い責任感が恐怖に怯える心へ鞭を打って、彼女を戦場に立たせていた。
いや違う、それだけではない。レイは分っていた。
「しかし!」彼女は怖いのだ、己の存在価値が無くなってしまうことが。

「大丈夫、私もただ手をこまねいているわけではありません。私は私のやり方で民を守り、ハデスの野望を砕きます。」

そのレイの必死の説得にも、アンドラスが首を縦に振ることは無かった。
それどころか、彼女は強い瞳に何か確固とした意思を持って彼に宣言したのである。
決してハデスに屈しない、その強い想いがさっと手を伸ばさせてレイの手をしっかりと握る。

「ですからレイ、あなたにも手伝って欲しいのです。あなたの帰還は私がうまく言って周りを説得しますから。」

確かな意思を感じさせる温もりが柔らかく、それでいて強く包んでくる。
どうしたら最愛の思いを跳ね除けることができようか。レイは彼女の体に腕を回し包んでやった。

「それこそが私の望む道。私はあなたを助ける為に、あなたの許へ戻ってきたのだから。」

頭が、体が、そして目がじんとと熱くなってきて、アンドラスは最愛の人の言葉に顔を埋める。
滑らかな金髪に手を滑らせながら、レイは背をさすってやり更に強く抱きしめた。
彼女が乙女としての自身を出せるのは自分相手しかいないことを知っているから。

「ありがとう・・・ありがとうレイ。私の最愛の人。」

この人は、人間を信じること、思うこと、そして愛することを教えてくれた世界で一番大事な人の一人。
それをはっきりと自分の口で伝える勇気が今は滾々溢れて来る。

「君は一人じゃない。みんなで手を取ればきっとうまくいく。がんばろうよ。」

どんなときでも君を守る。よくゲイルがシャニーに対して言っている言葉だ。
聞いていたときは恥ずかしかったが、まさか自分が言う側になるとは。
恥ずかしくなんて無い、目の前に咲く笑顔を見られるなら。
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