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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter21 さまよう魂

2話:起死回生

 ←1話:決断の夜 →3話:剣帝の意志
 今日の王立図書館はがらんとしている。普段なら学生や研究者が行き来しているはずなのに。
さすがに警戒態勢がしかれ、騎士が街中をうろついていれば調べ物など後回しと言うことか。

「何か、何かないだろうか・・・。」

そんな中、物好きな男がひとり棚を物色していた。
「このままではアルトシャン様もアンドラス様も哀れだ。」又ひとつため息と共に魔法書を閉じたイスピザードは
脚立を降りるとそれを横の棚の前に移動させてまたよじ登る。

「セインもまさかあそこまで覚悟を決めていたとは・・・。」

本を探す間に、静寂はさまざまなことを語りかけてくる。
狙いの本が見つからないこともあってか、記憶を引っ張り出された彼の独り言は、そうとは思えないほど大きい。

「もはやアルトシャン様をお支えできるのは私しかいない・・・何としてもお守りせねば。」

セインの意思は立派だ。だが、彼の執った方法は確実に民を危機にさらした。
アンドラスもマヴガフに睨まれている以上、自由に動けるのはイスピザードだけ。
色あせた金髪の背中に重責がずっしりとまるでこの図書館の本全てを背負ったかのようにのしかかる。

「やはり早々書物は無いか。ハデスの血を浄化する方法など・・・。」

当時トンデモ理論とはやし立てられた錬金術なんかよりもさらに非現実的な話。
いくらマイソシア最大の貯蔵数を誇るこの図書館といえど、そんなものについて研究した物好きなどいないらしい。

「アルトシャン様もアンドラス様も、あの血さえ何とかできればマヴガフを一掃できるものを!」

マヴガフ相手に強く出られないのは、彼らに流れる血のせいだ。
大人しくしている以外には、火あぶりか娘の処刑か、生き地獄しか残されていない選択肢。
だが、もし、もしハデスのマナを封じることができれば全て解決するのだ。
アルトシャンもアンドラスも、血の烙印から開放され、ハデスの復活も阻止できる・・・だがそんな都合の良い話は見つかってくれない。

「ん・・・?ふっはっは、イスピザード大司教ではないか。」

そのときだ。ふいに威勢の良い笑い声が聞こえてきて脚立が揺れる。
あわてて体勢を整えるイスピザードに、足もとからまた元気な声が聞こえてくる。「何か聖典の研究か?」

「これはこれはイーグラー殿。以前は大変申し訳ないことをしました。」

相手の顔を見つけるや否や、脚立を降りてきたイスピザードは深々と頭を下げて見せた。
錬金術研究所爆破事件以降顔も合わせていなかった為に彼の口調からはいつもの朗らかさが消えていた。
「気にしないでくれ。」だが、イーグラーはすぐに手をとるとイスピザードの顔を上げさせた。

「怒りなどもうフランベのごとくわっと飛んでいってしまったよ。」

笑い飛ばすかのように豪快に笑って見せた彼の広い心に、ますます頭が下がる。

「それに、貴殿らがなぜあのタイミングで来たのか、私もセイン殿の話を聞いてようやく分ったよ。」

自分も同じ立場だったら、きっと同じ行動をとっていたに違いない。
何せまだ幼いときに手放した娘の命が狙われているというのなら、動かない親などいない。
彼が事実を知り、またこちらの心まで見ていると知ると、イスピザードは重責に潰れるように肩を落とし背を丸める。

「私はできる限りあの子と戦いたくないのです。ですが・・・もう時を置かずして・・・。」

娘が今、アブソリッターさえ退けてこの帝都の土を踏もうとしている。
その意図がどんなものであろうとも、アルトシャンがとる行動は決まっている。
そうなれば、その懐刀である自分の行動も決まってしまうのだ。

「・・・確かにあの子の想いは本物だ。メルトが命をかけて守ろうとする意味、俺は正しいと思った。」

はっと見上げたイスピザードに、もう何も隠すことはしなかった。
やはり娘に未来へと進む道を開けてくれたのはこの焔魂の料理人。
感謝に自然と頭は下がり、イーグラーも無言でうなずく。
イスピザードには親としての、メルトには武人としての、そしてイーグラーには料理人としての
それぞれの魂が彼女の光を見つめ、行動は違えど同じ答えを導き出していた。

「このままではアルトシャン様もアンドラス様も、そしてあの子も・・・いや世界中が不幸になってしまいます。」

だが、ひとつの狂った歯車が全てを破壊しようとしている。
全ての未来が、たった一つの闇に光を遮られて枯れ果てようとしている。
目の前まで迫っているカタストロフィを阻止しようとする娘。それを救ってやりたくて父はもがいていた。

「どうしてそこまでアルトシャン総統は戦おうとするのだ。俺には良く分らん。」

おそらくイーグラー以外の誰に聞いても、同じことを言うだろう。
知らないものから見れば、アルトシャンは独裁者であり、悪とさえ映るかもしれない。
だが彼一人を倒して解決する様な、そんな問題ではない。もしそうなら、とっくにセインが狙っている。

「今のままでは・・・ハデス神が復活する恐れがあるからです。そのひとつの鍵が・・・天使のマナ、それをあの子は宿している。」

彼女がそんなマナさえ宿さなければ・・・そう思った夜もあった。だが、それを望んだのはいったい誰だったか?
宿したのが彼女でなければ・・・だがそんな身勝手を最大の被害者かもしれない彼女に言える資格は無い。
悔しさと後悔と、そして不安と。イスピザードの手が握り締められ震えている。

「分らんな。ならばなおさら協力して復活を阻止するべきではないのか?」

彼の手先を見つめいたたまれなさに駆られながらも、首をかしげる。
ハデスを封じる光の聖弓アストレアの話はイア信教の信者なら誰でも知っていることだ。
まして敬虔な信者だったアルトシャンなら寝ていたって口にするはずだ。

「アルトシャン様は人質を取られている。アンドラス様の命をネクロ教団に握られているのだ・・・。」

苛立ちを顕にした口調のイーグラーにイスピザードは悔しそうに暗黒教団の名を口にする。
彼は責任を感じていた。目付けを託されたにもかかわらず、マヴガフから姫を守れなかった。
その沈んだ肩にそっと置かれた手。見上げればイーグラーが頷いていた。

「・・・あの冷酷冷血の剣帝が世界に愛を優先したというのか。完璧無欠の中唯一欠けていたものを見つけたというのか?」

アルトシャンの辣腕ぶりは誰もが認めるところであったが、誰もが恐れていた。
彼には感情と言うものが無かったからだ。あるとすれば、怒りただそれだけかもしれない。
その彼が執った行動は彼の確かな変化を如術に表すもので、イーグラーも信じられないといった表情だ。

「イーグラー殿・・・。」
「まだ遅くは無いだろう。剣帝はネクロ教に比べれば遥かに我らに近い心を持っているということだ。」

ネクロ教の連中を説得することなどできるわけが無い。彼らは世界を壊滅させる為に集結した悪神の使途なのだ。
だがアルトシャンは違う、そんな希望を見た気がしてイーグラーは見上げてきた苦悩滲む顔を励ます。

「しかし、何とかアンドラス様の身に流れるハデスの血を浄化しなければ・・・アルトシャン様は縛り上げられて身動きをとれずにいる。」
「ハデスの血だと?!」

言ってから、イーグラーの反応を見て思わず失言したことに気づく。
どうしようか迷った。だが、もう背後には深淵しかない。彼は同志としてイーグラーを信じて全てを話すことにした。
すぐに言われての見込める話ではない。案の定、イーグラーは瞠目して息すら飲み込めないでいるが
事態を腑に落とす前に腹から湧き上がってきたのは怒りだった。

「民の知らぬところで世界が終わるかもしれぬ事件が進んでいたという事か!」

政治家はいつもそうだ。もうどうにもならないところまで来て初めて事態を公表する。
要らぬ混乱を避けるためであろうが、もし事実を民が知っていれば地方への出兵など誰も許しはしなかっただろう。
ところが、イスピザードは怒りを前にして首をはっきりと横に振って見せた。
「言えなかったのです。世界を脅かすハデスの血を世論がそのままにしてはおきますまい。」
ただでさえ、ハデスが世界を破壊しようとしている危機で、同じ血に危機感を抱かない者などいないだろう。

「自分だけであれば、アルトシャン様はお覚悟を決められておられた。しかし、アンドラス様のことを守りたかったのです。」

愛を知ったがゆえに強くなれることもあろう。だが今、剣帝は間違いなく急所を握られていた。
愛さえ知らなければあるはずもなかった弱点を。マヴガフはそれを見逃さずに食いついたのである。
急所に食いつき、撒きつき、締め上げ、今の剣帝はもはやただの獲物でしかない。

「助けて欲しいと一言言えれば・・・な。だが立場上・・・いや武人の誇りがそれを許さないのだろうな。」

締め上げられても、人間には口がある、感情がある。それをどうして素直に口にできないのか。
それが分っている二人だからこそ、口元を歪めながらただ過ぎていく時に焦りさえ覚える。「何とかお救いせねば。」
この瞬間にも、マヴガフは確実に誘っているのだ。世界を冥府の底へと。

「今アルトシャン様が倒れてしまわれては、それこそネクロ教団の思う壺です。」

思い出したように脚立を登り本を漁りだすイスピザード。
アルトシャンを救うことが世界を、アンドラスを、そして娘を救うことになる。その目は希望だけを追い求めていた。

「その方法を探す為に、図書館に赴いていたわけか。」

彼の姿をしばらく見上げてきたイーグラーはイスピザードに背を向けると机へと向かい、
机の上に広げていた料理の本を隅へと寄せると、上着を椅子にかけ袖をまくりながら戻ってきた。

「俺も将来の愛弟子の為だ。一肌脱ごう。」

空いている脚立を運びながらイスピザードを見上げる眼鏡の奥の眼差しはやはりいつもどおり強い。
彼はシャニーの言葉を忘れてはいなかった。全てが終わったら、必ず戻ってくるという約束を。

「ご協力・・・感謝いたします。何としても、帝都に彼女が到達するまでに何か策を練らなければなりません。」

彼女自身は戦いに来るわけではない。問題は国内の話だ。
アルトシャンを救い、説得し、そしてマヴガフの野望を封じ込める為の策がどうしても必要だった。
残された時間はおそらく後数日。二人は無心に書庫を漁り始めるのであった。


 一方、錬金術研究所では定例会議とはまるで違う時間の突然の召集に研究者たちは苛立っていた。
すこしでも早く研究を再開したいというのに、最近所長は何かと理由をつけてミーティングを開こうとしてくる。
街の連中ならともかく、自分たちが創った命が自分たちの上に立っていると思うと心は穏やかではない。

「アンドラス様、それはどういう理由でしょうか。」

質問の口調もどこかとげがある。彼女がまた厄介なことを言い出したからだ。
予算を削ったり、時間外勤務を禁じたり。おかげで進捗にも影響が出ている。

「創造の錬金術は国家プロジェクトです。もし国家簒奪を狙う国賊に情報が漏れれば一大事です。」

だが、もう大分人間なれたしたのか、アンドラスの口調は変わることは無い。
おまけに口にする言葉も一丁前に正論なので、研究者たちも反論するにできないでいる。

「ですから、研究所外にあらゆる一切の情報を持ち出すことを禁止します。これは研究所所長としての命令です。」

時間外業務を禁止したから、仕方なく時間が無くて自宅で仕事をしていたというのに。
ますます研究の進捗が遅くなる命令に誰もが不満を抱いていたが、それを口にできるものは誰も無い。
何せ彼女は聖騎士セインがいなくなった後の代理職に就いているのだ。

「分りました。では我々は研究へと戻ります。」

ならせめて邪魔するなと言わんばかりに踵を返していく研究者たち。
「待ってください。」そんな彼らの背中を引っ張るような声が聞こえてきて仕方なく立ち止り振りかえる。

「もうひとつ、あなたたちには伝えなければならないことがあります。」

顔を見合わせる研究者たち。まだ何かあるのかよとあからさまに嫌な顔をするものまでいる。
嫌われることは辛い。だがそれでも、アンドラスは表情を変えることは無かった。

「来週から1週間、警備強化のために研究所の改修工事を予定しています。」
「ええ・・・。」

今度は顔を見合わせるだけではなく、ミーティングルームの中にどよめきが上がった。
たった一人の国賊相手に一体何を考えているのか。自分たちの開発した兵器を使えばあっという間に終わるはずだ。
軍部の無能さ加減にまで苛立ちが広がり、批判不満があちこちから垂れ流される。
何よりもそんな大きな話がいきなり振ってくるなんて。誰もが同じ資料を取り出し始める。
1週間も仕事ができないということか。2週間後までに仕上げなければならないプロジェクトがただでさえ遅れているのに。

「そんな話はスケジュールにはありませんでしたが。」

大掛かりな実験を数週間単位で実施しようとしていたものもいる。
彼らにとっては寝耳に水の話。今までの数週間がパーになるわけで不満を隠しきれない。

「希光がルアスに迫っているからです。前回の白の騎士団の件もありますから。」

これも正論で突き帰した。むしろアンドラスにとっては、どうしてこんな他人事なのか不思議で仕方なかった。
国が危機に陥っているというのに、どうして自分の都合ばかりを口にできるのか。

「という理由ですので、来週1週間は研究所を封鎖します。立ち入らないようにしてください。」

不満をこぼしながらぞろぞろと出て行く研究者達を、ぎゅっと拳を握り締めながら見送る。
世界を、国を、そして人々を愛したものとしての覚悟なら、もうとっくにできている。

「・・・この体も、そして心も・・・私は人間だ。これは私にしかできない。」

世界のためにしなければならない、そう己に言い聞かせて彼女は研究所を後にし、
見上げた巨塔をまるで剣のごとき鋭い眼差しで睨み付けると、街へと消えていった。
今何をしているだろう、愛する子供たちの笑顔を思い浮べながら。


「これだけの本を探して見つからないとは・・・さすがに参るな。」

図書館の職員が見たら激怒するだろう。もう二人の周りには本が山のように積まれて
書棚が空っぽになってしまっている。これを片付けなければならないと思うと気が滅入るのだが、
彼らはお構いなしに次の棚へと移動を始めた。

「もうあらかたの魔法書は探したはずなのですが、やはりないのか・・・。」

ため息をつくイーグラーにつられるようにイスピザードも弱音を口にする。
ハデスの血を浄化する為の魔法、そんなものを研究した魔法書などそう都合よく見つからないことは覚悟していても
やはり実際に見つからないと少しずつ絶望が侵食してくる。

「ううむ、しかし、初代アビトレイトはどうしていたのだろうな。」

目元が弱弱しくゆがむイスピザードにかけてやれる言葉も見当たらず、図書館の天井を見上げたときだった。
ふいに映った壁画にポツリともらすイーグラー。イスピザードもそれを聞き同じようにぼんやりと見上げる。
それはイア信教でも有名な一場面を著名な芸術家が壮大に描いたものでこの図書館のシンボルでもある。
いつも見上げては祈りをささげるそれを見上げてのイーグラーの疑問に、イスピザードも何か頭の中で湧き上がるものを感じていた。

「イーグラー殿、それはどういうことでしょう?」
「いや・・・初代アビトレイトにもハデスの血族がいただろう。」

預言者ロダシャナキ、アルトシャンの先祖にして初代アビトレイトの一人だった男。
彼はハデスの血族でありながら人間に味方し、最後まで戦った英雄だ。見る見る見開かれていく眼。

「!!それだ!」

壁画を見つめていたイスピザードが彼らしくも無く叫ぶ。
光の天使たちが悪神を打ち破る一場面。その隅には暗闇の天使、ロダシャナキもしっかりと描かれている。
なぜこのことにもっと早く気付けなかったのか。「魔法書ばかりに気が行っていたが・・・!」
飛び出した彼は図書館を駆け抜け、魔法書と正反対の場所にある書棚を漁りだす。

「おおお!これだ!ありました!イーグラー殿!」

司祭とはとても思えない健脚を後ろから追いかけてきたイーグラーがようやく追いついた頃、
イスピザードは既に一冊の本を掲げて嬉しそうに顔を綻ばせていた。「心遣い感謝いたします。ちょっと失礼いたします!」
風をまとい、図書館から飛び出していくイスピザードの背をイーグラーは静かに見送る。

「何とか丸く収まって欲しいものだな・・・。」

自分の言葉が愛弟子を救うことになるのなら、これほど嬉しいこともない。
ふっと笑ったイーグラーは一歩踏み出しが、すぐにその足が止まる。
視界に入った本の山がまた雪崩を起こしている。ため息をつくしかなかった。
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