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 ←3話:剣帝の意志 →5話:真の愛
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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter21 さまよう魂

4話:闇から生まれた光

 ←3話:剣帝の意志 →5話:真の愛
 翌朝、レイはに帝立病院の研究室で大きく伸びをしようとして止めた。
今頃悪友やシャニーたちがどんな心境でいるかと思うと、自分だけこんな温かい部屋で何をしているのだろうかと自己嫌悪に陥る。

「レイ、どうですか?周りの人は妙なことを言ってきたりしない?」

部屋を出ると、まるで自分を待っていたかのようにアンドラスが廊下をかけて来た。
隣に並んだ彼女は挨拶代わりににっこりほほ笑むと、心配そうに固いレイの表情を見上げて来た。

「ありがとうアンドラス。どうやって丸く収めたかはわからないけど、さすがだよ。」

ルセンでの一戦では、国賊と共にいる姿を他の騎士も見ていたはずだ。
何か尋問や妙な噂がまとわりつくかと思ったが、今のところ気味が悪いほど静かだった。
もちろん、それがアンドラスの尽力であることは言うまでもなく、礼代わりに口づけしてやる。
「そう、ならよかった。」久しぶりの嬉しい愛情表現に、アンドラスも朝から笑顔がはじける。

「何かあったら遠慮なく言ってね!私が直々に乗り込むから。」

ぐっと拳を突きだしながら、任せろと言わんばかりにウインクしてくる。
これがあのなよなよしていた姫君だったなんてとても思えない。
自信に満ちた朗らかな笑みはまるで別人で、レイは笑いながら彼女の成長を褒めた。

「ひゃー、アンドラスもずいぶんたくましくなったな。ホントもう今の君は人間以上に人間だよ。」

人間は保身をどうしても一番に考えてしまう。だが彼女は違う。
他の人間の誰よりも人を愛し、助けてあげたいと思う気持ちは打算でも大義でもない。
穢れの無い心が醸し出す優しさは、とても他にはまねできない光だった。

「そう言ってもらえると嬉しい。・・・ええ、嬉しいわ。ずっと目指してきたんですもの。」

最愛の人からとても嬉しいことを言われたのに、胸が弾けることは無かった。
本当に心から嬉しいのだ。だが、今となっては辛い。この身に流れる血がなんであるか知った今となっては。
だが彼女は気づかれぬよう首を横に振った。それでも自分は、人々を愛している。

「あ、レイ、この間の錬金術研究所の件で手を貸して欲しいって言った話だけど。」

愛しているからこそ、この作戦を胸に秘め、そして今相棒の許へ持ってくる決意をした。
必ず、全てを守って見せる。他の人間では決して成し遂げることが出来ない、自分だけしかできないやりかたで。

「ついに決行するのか。作戦を練らないとな。」

途端真剣な顔になったレイは彼女の肩に手を回すと、誰も使っていない部屋に入る。
こんな事をしても、一番知られたくないあの男には筒抜けなのかもしれないが。

「作戦はもう作ってあるの。だからちょっと協力して欲しい。」

ところが、彼が顎に手を添えて作戦を考え出そうとした時だった。
下から手が伸びてきて考えるのを止めさせる。
見下ろした顔に向けてかけられた言葉に、レイはふっと笑って見せた。

「もちろん協力するさ。で、作戦の内容ってどんなものなんだい?」

何と彼女が一人で作戦を考えるまでになるなんて。
最初言葉さえ話すことが出来なかった彼女。ホムンクルスなんて言わなければもう誰も分からない。
待っていましたと言わんばかりの自信に満ちたアンドラスの顔は、もう完全な人間だ。

「爆弾よ。」
「え?爆弾??」

指を立てながら澄ました顔で得意げに言い放った言葉に、レイは一瞬言葉を失った。
自分はアンドラスと話をしていたはずだが・・・いや、確かに目の前にいるのはアンドラスだ。

「爆弾で錬金術研究所をふっとばして粉々にするの。資料もデータも一緒に消し去る。」

どこかで聞いたようなせりふというか、実際に執った作戦そのままではないか。
どうもあの事件から、アンドラスは爆発や火炎系の魔法が大好きになってしまったらしく
今も炎系の魔道書を携えているからまんざらでもない。

「随分過激な作戦を執るんだな。」

口では苦笑いで済ませているものの、内心では焦っていた。
やはり、同じ血が通っているからなのだろうか。
レイにはもう目の前の女性が、あの爆弾娘と一緒に映って仕方がないのだ。

「このくらいしないとダメだと思うの。跡形もなく消し去らなければ・・・。」

最初は自身の火炎魔法で吹っ飛ばそうとも考えたが、いくら魔法を使えると言ってもそこまではできそうにもない。
やるのなら、塵すら残してはいけないのだ。もし残せば、そこから根を張りまた蘇る。

「だけど、あの研究所はかなり強固なつくりだぞ?どこからそんな爆弾を怪しまれずに仕入れるんだ?」

シャニーたちの襲撃の後、そうした敵襲からデータを守るためにさらに建屋の強化が行われた。
もうさすがの爆弾娘でも、そうそう簡単には爆破できないだろう。
何せ錬金術の最新鋭技術があの建屋には施されているのだから。

「錬金術研究で開発された錬金エネルギーを凝縮した高性能爆弾・・・あれを使うわ。」

レイの心配に不敵に指を振るアンドラス。彼女は錬金術研究所の所長だ。
この国の錬金術の事で知らないことはない。だからこそ、その脅威を誰よりも知り、恐れていた。
その彼女が放った切り札に、レイは目を見開き息を飲んだ。

「なんてことだ・・・あれは資源開発をはじめとした平和用途なのに。・・・まさか錬金術が錬金術を滅ぼす形となるとはな。」

いずれ、何らかの形で別の使われ方をするであろうことは予想できていた。
しかし、よりにもよってどうしてこんな非建設的な使い方しかできないのだろうか、人間は。
本当に進化しているのか・・・アルトシャンが疑うのも頷ける。

「錬金術が人間を・・・いえ人間が人間を滅ぼすような用途に使われることに比べれば大した問題じゃないわ。」

アンドラスの不安は、レイもずっと抱いてきてことだ。力を持った人間が、その力を正しく扱いきれるか・・・。
ひとりの権力者が支配する世界では、それは不可能である。
紳士協定など、逃げ場を失った者にとっては戯言でしかないのだから。

「私はあそこの所長だもの。研究の為って言えば別に発注しても怪しまれることはないわ。」

国家プロジェクトとあって、金は湯水のように使っても何の指摘を受けたこともない。
むしろ予算を抑えたり、時間外勤務の禁止に陰口を叩く文官が多かったくらいだ。
だが今回はその悪しき風潮を存分に利用させてもらう。少しだけ、自分がわるい人間になった気がした。

「ちょっと待てよ。確かにあの爆弾を使えば建屋は吹っ飛ぶかもしれないけど、研究者達はどうするんだ。」

とんとんと作戦を決行へと移していこうとするアンドラスをレイは止めた。
毎日多くの出入りがあるあの研究所をふっ飛ばせば、それは同時に多くの命を吹っ飛ばすことになる。
まさか彼らのノウハウもまた、塵と消すつもりなのか。恐ろしい不安がレイの表情を歪めていた。
「大丈夫。」だが、すぐにアンドラスは親指を立ててきた。その顔に浮かぶ自信がどうにも違和感がある。

「作戦を決行する日の前後は建屋の改修工事が入るから絶対中に入るなって言ってあるの。」

ちゃーんと考えてあるわよ、そんな感じで白い歯を見せてきた。
色々文句を研究者達に吐き捨てられた。辛かったが、それでも彼らを守るためと噛締めた。
ぐっと堪えて立ち、黒い嘲笑を見つめたあの時があってよかったと今思える。

「そうか、それなら決行前にちょっと確認すれば良いか。」

意外と根回しのいいアンドラスにさも珍しそうに顎に手を添えながら頷く。
いつもどこか抜けている彼女にしては、やたらと準備がいい。
だが、ぐるりと作戦内容をもう一度確認して「ああ、よかった・・・。」とレイは胸を撫で下ろした。

「?何が?」

ふいの安堵に首をかしげるアンドラスに、レイは言ってからしまったと思ったが、
こんな至近距離で見つめられたら答えないわけにも行かない。

「いや・・・アルトシャン様と同じ方法をとるのかと思ったから。」
「私にはあんな方法はとれないわ。目的の為に人の命を奪うなんて。」

父が自分の練成の事実をもみ消す為に、研究者達を血の海に沈めたことは知っている。
いや、目の前で見ていたのだ。いくらあの頃はまだ生まれたばかりでも、記憶はしっかり刻まれている。
だから今でも、握る剣が恐ろしくなることだってある。
最近はどうにも魔法に頼ろうとしている自分がいるのも、あの時の記憶が脳裏に焼きついているからだ。

「でも、彼らが生きている限り錬金術の技術は消えることはない・・・どうすればいいのかしら。」

アルトシャンがあんな方法をとったのは、その“どうすれば”を完全に解決出来るからだ。
逆に、それ以外の策では完全はない。それでも何かを探して俯くアンドラスに肩にそっと手を置く。

「それでいいんだよ。君はいつでも民を守る剣、そうだろ?」

そう聞かれて、思い切り強くうなずくことは出来なかった。では以前、レイを傷つけたのは誰の剣だった?
あの出来事で改心したとは言え、やはり分かるかどうかの小さな頷きしか見せられなかった。

「その剣が民に向くようなことはあってはけない。平気で切り倒せるなら、私は君を愛してなどいないさ。」

レイの言葉に、ドキッとして剣で胸を貫かれたような気がした。
本当に自分の剣は民を守る剣なのか・・・だがそれは考える事をやめた。
彼は愛してくれている、それが答えではないか。逃げたわけではない、前を向いただけ。
そう言い聞かせ、見上げた先の未来を想う。

「でも、錬金術の記憶は何としても消し去らなければ、いつか復活します。」

小手先のやり方では、いたずらに悲しみを生むだけ。悲しみの輪廻を断ち切るために行動を起こすのだ。
自分のような悲しみを抱くものが二度と生まれないように、人間達が正しい進化の道を歩み、
自らで自身を滅ぼすような未来を自分達で食い止められるようにするために。
だが、今のやり方ではそれは成し遂げられない。リセットできたら・・・どんなに楽だろうか。

「創造の錬金術は人間にとって越権の悪である風潮に変えていくしかないよ。少しずつでも。」

真剣に悩み俯く彼女の背にそっと撫でるように手を置いて優しく諭す。
すぐには変えられない。だが、変えていくことは出来る。イアの力も借りれば、きっと。
今まで散々、国勢と名誉の為に政治家たちに吹き込まれた嘘という毒を溶かし出して、少しずつ。

「そうね・・・人は変わっていける。少しずつでも、どんなに遠く霞んで見えても。そう錬金術は悪・・・。」

すべてにそう言い聞かせていかなくてはいけない。もちろん、自分自身にも。
だが、その顔が深く沈んだ事をレイは見逃してはいなかった。

「アンドラス、何度も言うけど勘違いするなよ?力に意志はない、悪用しか出来ないなら手を出すべきではないってことだ。」

彼女はいまだに、自分をこの世界にとっての遺物、錬金術と言う悪だと思い込んでいる節がある。
大分自信を強く持ってくれるようにはなかったが、それでも時折見せる影。
それをしっかりと抱きしめて、違うと顔をつき合わせて言ってあげなければ分からないのだ。

「君の笑顔がどれだけ民の救いになっているかを考えれば、君は創造の錬金術から生まれた希望だよ。」

このルアスに、彼女のことを悪だと言えるような人間はひとりもいないはずだ。
それだけ彼女は民を愛し、彼らのために奔走してきた。
確かに少し抜けているところもあり、無知ゆえの失敗も多いが、誰もそれを責めたりはしない。
それは皆に彼女の真心が伝わっているからに違いなかった。

「ありがとう、あなたは何でも私の心を見てくれてとても嬉しい。」

不安な心をいつでも包んでくれる。体の調子を診てくれる医者は他にもいるかもしれないが
心までをもしっかりと看てくれる医者なんて他には探したっていない。
そっとレイの胸に顔を埋めると、彼は優しく今日も包んでくれた。

「当たり前だろう?私は君の愛を受け入れ、私も君に愛を捧げたんだ。守るべき一番は君なんだからさ。」

シャニーのことが羨ましいと思ったことのひとつは、彼女には、彼女のことを世界の何よりも優先してくれる人がいることだった。
だが今はそれが自分にもある。何と温かく、心強い事だろうか。
不思議な力が湧いてくる気がする。ずっとこうしていたい・・・だが、それは叶わない。
「・・・よしっ、じゃあ作戦を話すわね。」それを言い聞かせるように、アンドラスは話題を切り替えた。

「ありったけの爆弾を研究所内に仕掛けるの。」

発注しようとしている爆弾の数に舌を巻くレイをよそに、とんとん話を進めて行く。

「だからそれを仕掛けるのを手伝って欲しいのよ。あなたのほうがどこに重要なデータが保管されているか知っているし。」

もちろん、それは単なる口実に過ぎない。重要なデータがある場所なんて、とっくに調査済みだ。
彼には出来るだけ脱出口に近い場所で仕事をしてもらう。万が一間違いが起らない為に。

「私は研究所の3階から上をやるから、あなたは2階から下をお願い。」

地図を見せながら、直接担当してもらう場所を指でなぞっていく。
もう十分にリハーサルもしてきた。一度だけのチャンスを確実にものにしなければならない。
許された切符は、片道分だけしかないのだから。

「りょーかいよ。特に重要なのは地下エリアだ。あそこを破壊できれば殆どのデータは吹っ飛ぶ。」

来客によく目に付く地上階層には、実はデータは殆どない。
ドンと胸を叩きながら、レイは大切な仕事を引き受け、頼んだと手を合わせるアンドラス。

「じゃあ私が脱出したら合図するから、レイも逃げてね。レイが安全な場所まで避難できたのが分かったら起爆するから。」

起爆スイッチを懐から取り出して見せ付けながら、最後の手順まで細かく説明する。
ふんふんと頷きながら確認し終えたレイはぐっと親指を立てた。

「よし、じゃあそれで行こう。他の研究員達が当日入り込まないように警備もしておくぜ。」

出来る限り、彼女を支えてあげたい。レイは多くの仕事を自ら引き受けた。
その好意にアンドラスはただ感謝するしか出来なかった。どうしてこんなに優しい人が世界にはいるのだろう。

「ありがとう、じゃあ今日は遅いから明日また遊びに来るわね。」

このままでは、この優しさにずっと浸かっていたくて離れられなくなってしまいそうだった。
だがそんな誘惑を彼女は自ら断ち切った。この優しさに、今度は自分が恩返しをする番なのだから。

「あんま病院をふらふらしないほうが・・・。」
「見回りよ!騎士の勤めならいいでしょ!」

だが、彼女のように病院を優先して見回りするような騎士などほかに誰もいない。
サボっていると思われても仕方ないのだが、彼女はムキになってそれを否定してきた。
「アンドラス。」少しでも騎士らしく見せようと背筋を張って出て行こうとする彼女を後ろから引きとめた。

「ハデスを封じて、必ず生きて、これから先のルアスを守っていこうぜ。」

彼女と、平和な世界でもっともっとたくさんの時間を共有したかった。
その為に、今は少し辛いけれど前を向き歩む決心をしたのだから。
うれしい言葉に、アンドラスはにこっと微笑む。

「ええ。がんばりましょう。じゃあね。」

別れの言葉がどうしてこんなに恐ろしいのだろうか。部屋の扉を綴じ、真っ暗な廊下の中で
アンドラスはふと振り向き、そんな自分を戒めるようにすぐ前を向くと込み上げる感情を押し殺して闇に消えていった。
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