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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter21 さまよう魂

6話:生まれてきた意味

 ←5話:真の愛 →7話:深淵の入口
 深夜、帝立病院の研究室にはいつものように明かりがついていた。
その明かりを見つけると、アンドラスはふっと微笑んで、忍び足に部屋を目指す。

「レイ、こんな遅くまでお仕事なのね。」
「アンドラスか。」

突然の声にびっくりして肩を跳ね上げるレイの後姿にしてやったり。
またいたずらを仕掛けてきた彼女の額を指ではじいてやるが、暖かく訪問を迎えた。

「申し訳ないな、今回も君に迷惑をかけてしまった。」

ルアスに帰ってきてから、シャニー達との接点の事で追及されたことは不気味なほど何もなかった。
どれだけアンドラスが立ち回ったかを考えると、彼女のシャニーへの感情を知っている以上詫びずにはいられない。

「いいえ、私はレイを信じています。決して国家簒奪などの為にシャニーに同行していたわけではないと。」

生まれた時からずっと彼のことを見てきた。決して嘘をつけない人間だと分かっているし
柔らかい物腰と裏腹に強い意志を持って動いている敬愛できる人だった。
ずっと助けてきてくれた彼が困っているというなら、どうして助けないわけがあるだろう。

「しかし、シャニーちゃんは今帝都に向かってきている。どうするつもりなんだ?」

信じてくれることは嬉しくて彼女を抱きしめたくなるが、目を背けられない事実もある。
彼女はアスク帝国の騎士だ。どんな背景があろうとも、国賊認定された相手とあらば戦わねばならない。

「もちろん、お父様の命あらば私は戦います。」

案の定の答えが返ってくる。だが、それはかつての己の憎悪から来る殺意ではなく
国を守る騎士としての意志に変わっており、そこに積極性はなくなってレイは内心ほっとしていた。

「アルトシャン様はどう考えられているのだろうか。」

もうどれくらいアルトシャンと会話をしていないだろうか。
尤も、とても恐ろしくて彼の前に姿を見せたりできるわけもないので、探りを入れてみる。

「・・・分かった。君の目を見ただけでわかったよ。」

だが、アンドラスの顔に浮かんだ悲痛を見るのが辛くてこれ以上はやめた。

「私は戦います。だけど、シャニーが帝都を侵し、民を脅かすような真似をしたらの話です。」

父の意志があれば出撃しなければならない。だが彼女の口調は以前とは明らかに変わっている。
以前は殺意の対象であり、相手の気持ちなど受け入れる道理はないと鋼の鎧を着込み、兜を被り全てを遮っていたが、
今はそうではない。その兜を脱ぎ、まっすぐ相手を顔を付き合わせようとしているように見えた。

「それは、シャニーちゃんがルアスに来たからと言ってすぐに攻撃するわけではない・・・そう捉えて良いのかい?」

もしこれがアルトシャンの耳に入れば大変なことになってしまうかもしれない。
だが二人きりだから、心から信頼しあう相手だからこそ敢えて聞いた。
すると、以前は殺意に塗れ恐ろしかった目が優しく頷いてくれたではないか。

「私は、彼女は戦うべき相手ではないと確信しました。少なくとも、今は。」

彼女の考えは一貫していた。彼女の短剣は、そして光の弓矢は、ハデスを倒すためだけに握られ、
他の一切へむけられることはなかった。それは、命を狙った自分相手へも例外ではなかった。
ひたすらに調和を目指し、武器を前にしても叫び続けたあの想いを嘘だととても言い切れない。

「今アスクは、いえマイソシアには、彼女と手を取ってでも戦わねばならない強大な敵がいます。」

神界の光が何れ世界を破滅に導くかもしれない。だが、その未来が訪れる前に、今が滅ぼされようとしている。
アンドラスはきっぱりと言い切った。戦う相手は、はっきりとしていることを。「マヴガフ大司教の事だね?」
レイの明言に強く頷くアンドラス。分かっていながら、分かる事を憎悪が今まで避けさせてきた。

「そうだ、彼を止めなければハデス神に世界を飲まれてしまう。」

もう一体どこまでマヴガフが恐ろしい計画を進めているのか誰にも分からない。
あれだけ姿を見せて挑発しながら、全てを闇のベールに包んで世界を這い回り、締め上げ、飲み込もうとしている。
止めなければならない、必ず。ぐっと握り締められる拳を、アンドラスはじっと見つめて息を呑む。

「レイは、この世界からハデスの血は消し去らなければならないと思っていますか?」

ふいの問いに拳を解いてきょとんと見下ろす。当然、正直に質問に返せば答えはそうなるだろう。
だが、問いの裏にある本当に問いかけをすぐに見抜いたレイはアンドラスの両肩に手を置いた。

「アンドラス、考え違いを起してはならない。悪しきは血ではないよ、その意志だ。」

彼女は自身に流れる血と同じ血が世界を破滅させようとしている事が恐ろしくて堪らないらしい。
抱き寄せて温もりに包んでやると、愛されている事を改めてしっかりと教えてやる。

「でも私も・・・お父様もハデスの血を宿してしまっている。もし知れたら、民はきっと許しはしないでしょう。」

レイは優しいからこう言ってくれる。だが、民はどうだろうか?
建前はそうかもしれない、だが事実は事実だ。異物は、危険は、取除こうとするのが人間の本能。
小さく震える瞳を見下ろしていたレイは「私はそうは思わないよ。」と、そっと手を伸ばして彼女の前髪を払い、改めて見つめる。

「君はもちろん、アルトシャン様もやり方は難あれど世界の為に動いてきた人だ。」

人は全て、外見や血で判断されるのではなく、その意思、その行動で判断されるべきだ。
スリガラス越しにどうしても見てしまうが、心を開き勇気を出して見つめれば真実は見えてくる。

「君は人々に愛されているし、アルトシャン様も地方の怒りを静めるには時間はかかれど、世界に求められる人に変わる事はないと思うよ。」

根拠のない励ましは時に人を傷つけるが、レイにははっきりと言い切ることが出来た。
国の為に無償の愛を捧げる姿は、民なら誰でも知っている。その彼女をどうしたら非難できるだろうか。
アルトシャンとて、しっかりと過ちは過ちと認め償えば、きっとやり直せる。そう、今立ち上がることが出来たなら。

「お父様はマヴガフ様に縛り付けられているのです。なんとかお救いして差し上げたいのです。」

父が不憫でならなかった。誤った道に気付き正そうとしても身動きが取れないのだ。
それが自分のことでそうなっていると思うといても立ってもいられない。そんな焦りと悔しさを湛える瞳を見るのが辛い。
「ならなおさらシャニーちゃんたちと協力するべきだ。」それでもしっかりと向き合った。
逃げていても辛いだけだ。今立ち上がれば、きっと未来では笑い合える。

「彼女はアルトシャン様を倒しにルアスに来るわけじゃない、対話を求めて来るんだから!」

強くレイに見つめられて、アンドラスの瞳が潤み、すぐに俯いて視線をそらしてしまった。

「できるなら・・・お父様もそうしていたでしょう。でも、ダメなのです。私の命をマヴガフ様に握られて・・・お父様は・・・。」

何をすることがマイソシアを守ることになるか、アルトシャンが一番分かっているはずだ。
邪蛇に締め上げられて身動きが取れ無い中、それでも彼は暗黒の前に立ちはだかり民を守ろうとしている。
だが、それをすれば間違いなく引き起こされることはひとつ。光と闇、何れの血が消えることになる。

「なんてことだ・・・。このままでは不要な争いが引き起こされてしまう・・・ハデスの意志によって!」

全てが計略、全てが狂喜の操るままに混沌へと飲み込まれようとしている。
分かっているのに、どうして流れを変えられない?焦りと、悔しさと、そして怒りと。
このままあの男の言うとおり、“人形”として操られてしまうのか。

「でも、お父様は剣帝と呼ばれる誉れ高き武人です。もうすでに決死の覚悟でマヴガフ様に挑む決心のご様子です。」

― そうは行かんぞ。まるでアルトシャンの声が聞こえてきそうだった。
アスクを愛した男は予てから口にしてきた。国の為であらば死を厭わないと。
有言実行の男は、恐らくその大剣を持って暗黒神に挑むだろう、たった独りでも。

「私も剣帝の娘としてお父様をお助けするつもりです。」

マヴガフに屈することはあってはならないが、だからと言って今失うことは出来ないひとつの光を守りたい。
その眼差しに恐れはなく、ただ渇望だけが前を向けさせている。それがレイには頼もしくもあり、同時に心配だった。

「私も手伝える事があればなんでも手を貸すから、無理だけはしないでくれよ。」

改めて抱き寄せて、独りではないことを伝える。例え国を守る騎士であろうともそれ以前に一人の乙女。
自身も幸せを掴むべき、一人の人間だ。人形なんかではないのだから。

「レイ、マイソシアにとっての強大な敵はハデスのほかにもう一つあります。創造の錬金術です。」

ハデスは勿論恐ろしい存在だが、自分たちの中にも世界を破滅させることが出来る闇がある。
それを改めてアンドラスはレイに告げ、むしろ外の敵より内の敵に睨みを利かせていることを告げる。
ハデスはシャニーたちもいるが、錬金術は自分たちしかないのだから。

「レイには錬金術を抑え込むことに力を貸してほしいのです。」

彼が聖職者であり、戦うことはできないことを知っている。
それでも勇気を振り絞ってくれる大事な理解者に無理をさせたくなかった。

「私は創造の錬金術の研究を潰します。人を幸せにするのが希望・・・創造のマナなら、今の創造は道理を外れています。」

神話にも登場する光の熾天使。彼女が振りまく希望のマナが人々に活力を与え、
生まれた笑みが進化の源となっていく。だが、創造された力は間違いなく人を絶望へと陥れるものだ。
熾天使ではないにしても、希望のマナを扱うものとして放ってはおけない。

「戦争に使われ、国を滅ぼし、そしてハデスを復活させてしまうような・・・
 そして未だ人が制御できるところまで進化できていないなら、やむをえません。」

折角の進化を闇に葬るなんて、神でもない自分がしていい事ではないことは分かっている。
だが放っておけば先は見えている。知りながら動かず見て見ぬふりを決め込むなら
動いて世界を変え、その結果罰を受けた方がいい。そうアンドラスが覚悟を言い放った時だった。

「その通りだ。今のままでは創造のマナが破滅のマナと化してしまう。」

ふいにどこからともなく聞こえる声。ここは密室のはずなのに・・・。
慌ててあたりを見渡す二人をあざ笑うかのように、現れた魔法陣から現れる仮面の男。

「?!あ、あなたはセイ・・・」
「カミユだよ、アンドラス。」

名を呼びかけたアンドラスに、自身の口元に指をクロスさせると
今はその名で呼んではならないことを伝える。帝国を守る聖騎士セインは、既に死んだのだ。

「どうして?!どうしてセイン様は白の騎士団なんかを!」

だが彼女がとまってくれることはなかった。聞きたいことはたくさんあった。
その中でも一番に聞きたいことをすぐさまぶつけるべく駆け寄る。「こうなることが予想できていたからだ。」
考える時間もなかったのか、即答のカミユの口元は厳しかった。

「アンドラス、私も帝都を戦禍に巻き込むようなことはしたくない。創造の錬金術を止めて欲しい。」

白の騎士団が帝都で軍事活動を行えば、それだけで民は不安に陥るだろう。
もしかしたらアルトシャンの親衛隊と衝突するかもしれなかった。

「ハデスの復活は何があっても食い止めなければならない。君の言葉ならアルトシャンも無視できないはずだ。」

自分達は、自分達にしか出来ない事をする。だからこそ、背を向けられない帝都の無事を託す。
自分では救うことが出来なかった主だが、きっとこの希望の光ならば救ってくれると信じて。
言われなくとも。見上げて頷いてきた彼女の眼差しがそう語る。

「私は私の意志で創造の錬金術を止めます。私の存在価値は、愛する者たちを守る剣となれること!」

もうすでに覚悟は決めていた。つい先日、作戦に使用する爆弾の発注も終えたところだ。「私は、生まれてきた意味を果たします。」
今まで多くのものを傷つけ悲しませてしまった己の剣。だが今なら言える、今度こそ握る剣は守るためなのだと。

「ですからセイン様、お願いです!セイン様も力を貸しください!」

だが、自分ひとりでは到底ハデスを倒すことなどできないことを知っている。
ひとりでも多くの仲間と共に、いや世界中が目を向けなければ。その想いが全力でセインにぶつかってくる。

「もちろんだよ。我々は万が一帝都戦となった時、民を避難させられるように各地で準備しておく。」

実に頼もしい言葉が帰ってきた。ハデスと戦っている時、民の傍にいてあげられないことは不安だった。
それを心配せずに、ただ目の前の強大な敵に集中できる。志を継いでくれる人の存在は大きな勇気をくれる。

「そして、この戦いがすべて終わったら、我らが保有している錬金術は全て破棄することを約束しよう。」

カミユは最も大事なことについて自ら率先して了解してくれたのである。
人間が変わっていくその第一歩を自ら歩もうと。
ぱっと咲く笑顔は、帝国に舞い降りた天使か。この笑顔があれば、民は動く事が出来る。
セインはまだ軍人としては幼い彼女の成長にかけた。

「ありがとうございます。セイン様。」
「これも君の力のひとつだよ。敵対している者同士を融合する調和の光。君はもう、制圧の善で押し潰すだけの光じゃない。」

調和の光、そう言われてアンドラスは内心とても嬉しかった。
シャニーの見せた光と比べて、あの頃自分が光だと言っていたものがどれだけ攻撃的だったか。
たしかに制圧の善という力強い光も必要だが、自分が求めるものとは明らかに違うものだった。
自身に嘘を付きまとい続けた光が今はない。晴れ晴れした気持ちだった。

「私はもう国には戻れない。君はこれから国を支えていって欲しい、私の分まで。」

国家簒奪罪を受けた身として、これから一生大陸中を逃亡する生活が待っている。
国への愛が潰えたわけではないセインの口元は悲しげで、そして不安げだった。
民は今頃どうしているだろうか。しかし、自ら決めた道。精一杯、出来る限りを捧ぐ決心は既に出来ており、
彼は自らの口元を嫌い、笑みを作ると一歩退く。

「セイン様、私は・・・。」
「では、再開は勝利の後で。」

アンドラスがなにか言いかけたが、セインは聞く事もなく魔法陣の中に包まれる。
彼だって話したいことは山ほどある。だが、今はすべき事を果たすべき。
平和を手に入れればいくらでも話すことが出来るのだから。
「消えた・・・。」だが、その言葉にアンドラスは肩を落とす。

「アンドラス、良かったじゃないか。みんな、みんな協力してくれる。みんなでがんばろう。」

嬉しそうに彼女の肩に手を置いて前を向かせようとするレイ。
彼の言葉に勇気を貰い、アンドラスはまた顔をあげた。既に覚悟は決めたはずではないか。
自分の意志は、この人たちの笑顔のために。

「私もがんばります。でも今は、今は傍にいさせて欲しい。お願い、レイ。」

いざその時になったら、もうこの温もりを求めることは出来ないだろう。
せめてこの決戦を前にした静かな夜の間だけでもいい、幸福の中に浸かっていたくて腕にしがみつく。

「なぜ拒むことがあろうか。さ、座って座って。今くらい、ワインでも飲みながら話をしようよ。」
「ありがとう、私は幸せです。」

腰に挿している剣を勝手に取り上げると衣装賭けに引っ掛けて、
彼女の背を押して椅子に座らせたレイは冷蔵庫を漁りだす。その後姿を、アンドラスは優しい笑顔で見つめていた。

(今度は、私がみんなの幸せを守る番。やりきってみせるわ。)

レイとグラスを鳴らすと、彼女はこの一杯が決戦を前にした祝杯と一気に飲み干すのであった。
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