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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter21 さまよう魂

10話:己が手にする弓を信じて

 ←9話:ノスフェラートの誘い →11話:嘘と真と
 マナの刃が深くまで突き刺さり、瞳が色を失いかけている彼女。
その絶望と激痛に歪んだ顔を覗きこみながらケラケラと笑うマヴガフの声さえ遠い。
それを支えている短剣をぱっと風に溶かしてやると、糸が切れたかのようにその場に倒れこんだ。

「ま、もう立てないわな。意外と弱いんだな、拍子抜けだぜ。」

勝利を確信して両手を広げるマヴガフ。宿敵の血とは言え、警戒するだけやはり無駄だったか。
ところがその時だ。足元に何やら感触がある。見下ろせばうつ伏せのままシャニーが足を掴んでいた。

「やっぱり・・・。」
「あ?」

まだ立ち上がる力が残っているらしい。彼女の手を蹴飛ばしてヨルムンガントに掴まり距離を取る。
壁にもたれながらようやく立ち上がったシャニーはよろけながら近づいてきた。

「あなたはマヴガフではないわ。正体を現しなさい!」

どうにもおかしいと思っていた。
ハデスのマナならもっと己が叫ぶはずだ。多くの想いが支えてくれるはずだ。
だが、それらがまるでなかった。そして今、相手のマナの直撃を受けて確信したのだった。

「ごちゃごちゃうっせーぞ!今度こそ立てないようにしてやらあ!」

もちろんマヴガフにとって見れば、ただの時間稼ぎか絶望にイカれたかのどちらかとしか映っていない。
結局どちらにしろ、彼にとってはまだ甚振り足らない宿命の相手。すぐに殺したりするつもりはない。

「おらおらどうした!避けてばかりじゃ勝てねえぞ!」

執拗な衝き、神獣の牙が襲い掛かってくるがシャニーは自己治癒魔法を唱えながらひたすら避け続けた。
自分の感覚が正しいならば、決して剣を交えたくない相手だから。

「見せてみろや!権能をよォ!」
「ぎっ・・・。」

だが、回復した以上に重い一撃は彼女の体力を奪い取る。
蹴りを予測してかろうじて腕で受け止めた彼女の手先からダガーが抜け落ちてぱっと風に消えた。

「もうやめて、お父さん!」

目の前まで手刀が迫っていた。だが彼女は避けずに叫んだ。
一瞬時が止まったかのような間が辺りを包む。

「やはり気付きましたか。」

彼女の感覚が間違っていないことを示すように降ろされる手刀。
同時に聞こえてきたのは、一番今聞きたかった優しい声。

「さすがです、シャス様の加護を受けたこの幻術を見抜くとは。」

宿敵の顔が歪んで夜風に溶けていく。同時に周りの景色も歪みはじめてこれが幻術だったことに気付く。
周りの景色が元通りになった時、目の前に立っていたのは父だった。

「マナを見れば分かるよ!どうして?どうしてこんなことを!」

口元の血を拭い、腹を抑え麻痺したかのように動かない足を引きずって丸腰のまま父へと近づいていく。
どうして父と娘が潜入服に身を包み、刃を向け合わなければならないのか。
十数年ぶりの再会だというのに、どうして。それしか口から出てこない。

「あなたはこの世界で真実を見つめる目をしっかりと養ってきたようですね。」

だが、彼女の心からの叫びは聞えていないかのようにイスピザードは合格を口にする。
これで終わったのか・・・いや違う。彼は再びマナを手先に集めだしたではないか。

「何故戦う必要があるの?!親子でしょ?血の繋がった親子なんでしょ!」

その刀身は黄金に燃え上がり、シャスの加護を受けていることが分かる。
どうして彼は、どうして神は、こんな意味のない戦いをさせるのか。
怒りと悲しさと悔しさが胸いっぱいに膨れ上がって、彼女は目をくしゃくしゃにして叫ぶ。

「なのに何で!答えてよ!」

神界の定めた試練だとか、熾天使だからとか、そんなことどんな関係があるのか。
自分は人間だ。親を愛し、片翼を愛し、子を愛し、民を愛し・・・愛したいのに、何故神界はそれを阻む?

「さっき答えたはずです。私は五賢刃。アルトシャン総統の右腕だからです。」

嘘だ、すぐにシャニーはそう思った。そんな理由なら、きっと父の行動は違う。
そんな規律に縛られて身動きが取れない人が、自分を幾度となく助けるなんてできるはずがない。
だがもし、父をその肩書きが縛るのならば娘としてできることはひとつ。

「・・・そう。じゃあ倒せば良いのね!五賢刃イスピザードを!」

覚悟は出来た。どうしても彼が真実を教えないと言うのならもうやるしかない。
両手にマナを集め、創り上げた聖光のダガーの鋒を父・・・いや、五賢刃へと向ける。

「できるものならみせて見なさい。その程度・・・?!」

短剣を構えるシャニーを見つめて自身も短剣を構える。
だが、彼は思わずはっとして短剣で風を切った。途端己の短剣を作る黄金のマナが切り裂かれ頬に痺れが走る。

「なんと、そのような鋭い動きが出来るなら何故さっき見せなかったのです。」

先ほどまでとは明らかに違う動き。神界一の韋駄天の異名を持つ疾風がすり抜けていった。
神の加護を受けたマナを切り裂いた風は、背後で切れ長の眼差しでしっかりと見据えてくる。

「憎しみでは、誰の夢も膨らまない。この力は私だけの力じゃない、皆のものだからだ!」

皆を守りたい思いは幻術と戦っていた時と同じだ。
だが、先ほどと今で決定的に違うのは短剣を向ける意味。
どこか迷いながら憎しみだけで握っていた。今は違う、救いたい。
その想いを、世界中の人々が支えてくれる。奥底から湧き上がる力、これこそ熾天使の力。
教えてくれる、今握る短剣が間違ったものではないことを。

「みんなの夢が、祈りが希望の力!私はその器に過ぎない。だけど今はみんな教えてくれる!今目の前にいる人を救えと!」

トパーズ無しでは翼は使えない。アストレアだって十分な威力は引き出せない。
だが、神界の力に頼らずともこの想いと皆の支えがあれば恐れることは何もない。
倒れるまでまっすぐ対峙して、戦い続ける。希望の意志が瞳に宿る。

「その力、私の前に示して見せなさい。シャス神の加護を受けた我が短剣を砕けるか?」

神界の意志を代弁者がまっすぐに鋒を向けてきた。
世界の守護者としての器を見せよと。だが、シャニーは短剣を降ろしてしまう。

「もう、これ以上悲しむのは止めてください。どうして・・・どうしてお父さんと呼ばせてくれなかったの?」

ふいに湧き上がってくる涙。ぽろぽろと頬を伝い、顎からこぼれていく雫を父はじっと見つめる。
出来ることならば、この手で拭い、この腕で抱きしめてやりたい。
だが、叶わぬ道。神と契りを交わした、十五年前のあの日から。

「・・・答えを知りたくば示して見せなさい。できなければ、この剣がお前を裁く!」

まるで彼女の嘆きを引き裂くかのように握り締めた短剣で一閃してみせる。
迸った光の波動が娘を襲うが、彼女は避けるだけで抑え込もうとはしない。

「何故私が神界に裁かれなければならないの?!」

これは親と子の、イスピザードと自分の間の問題のはずだ。
それがどうして神界が出てくるのか。どこまで神は自分から幸せを奪おうとするのか。
怒りの矛先は既に雲の上から今ものうのうと見下ろしているに違いない連中へと向いていた。

「忘れてはいまい。お前は神界に戻らねばならないところを命に背き、下界に生きておる。」

本人にとっては大した問題ではないのかもしれない。
だが、神界にとっては神の命に背いた反逆者に代わりはないのだ。
反逆してまで下界に残り、何も学習していないとなればそれは罪。

「そんなことっ、神界が私のことを裁くなら好きにすればいい!」

反逆しているつもりなどないし、もしこれを反逆だというなら徹底的に抗う覚悟だった。
神界から見下ろしているだけで一体何が出来るというのか。

「私が熾天使としてしなければならないことは、常に彼らにいて傍で生まれる闇から守ること!」

守護者というのは脅威を潰すだけが使命ではない。
守るべき人々の傍で彼らの想いを聞き、夢を形にし恐怖に光を照らすことであるはずだ。
常に何ができるのか考え続けてきた彼女にとって、それは確信であり信念。

「それをできるかどうか、試してみなさい。この裁きの一閃を受け止められますか!」

娘の覚悟が本物であり、例え神であろうとも歪めることが出来ないことはその瞳の清さから伝わってくる。
だが、想いが例え立派でも、それを実現するには彼女の想いは甘すぎる。
強さと弱さ、両極端な状態ではハデスには勝てない。弱点を逃すはずがないのだから。

「お父さん、もうやめて!私たちが戦う意味なんて何もないじゃない!分かってるんでしょ?!」

今も彼女は命を奪う裁きの光を前に己を抑えて必死に訴えかけてきている。
どこまでも心の強い乙女だ。だが、それこそが弱点でもある。
敵に毅然と刃を向けられないのでは、勝てない。

「確かに勝ち負けに意味はない。だが、希望の熾天使ならばそれに価値を見出さなければならない。その運命を選んだのは、お前だ。」
「お父さん・・・。」

すべての事象そのものに価値などない。価値を見出すのは、事象に触れた者。
投げかけられた若き魂はじっと覚悟の眼差しを見つめる。
目の前に、ずっと会いたかった愛が、知りたかった真実があるのに、どうして掴めない。
静かに目を瞑ってみる。飛び込むしかない、皆がそう教えてくれた。
そっと開いた蒼の瞳は愛を求めて短剣を宙に溶かすと、散った光を再び手中に握り締める。

「戦いたくはないよ。だけど、私はお父さんを助けたい!お父さんのマナ、泣いてる。分かるんだよ!」

助けたい、だからこそこの戦いを終わらせなければ。
弓を握り締め、手先に光を集め全てに祈る。この矢が父を救う導きの光となることを。
それに呼応するように、イスピザードも時を察して短剣に噴き上がるマナが大きくなった。

「お父さん・・・今、助けるよ。」

膨らむマナ。トパーズがなくとも皆の祈りを湛える器に変わりはない。
自身の祈りに重ねられたたくさんの想いを手先に篭めて番える眼差しがただ一点を狙う。

「私は逃げないよ!いっけえええ!」

愛する者へ矢を向ける。そんな恐ろしいことを自分がするなんて考えたこともなかった。
だが今は信じた。これが大事な人を救う最善の方法だと。
渦巻く光の螺旋が長い闇夜を引き裂き、跳ね除けようとイスピザードが放った一閃を飲み込みながら迫る。
「ぐむ!」ついに迫った矢を短剣で受け止める。
受けた瞬間に分かった。神界が想っているような弱い光では決してないと。

「なるほど、何と温かい・・・。」

彼の直感は間違っていなかった。すぐさま軋み、ひび割れていく短剣。
この腕の中で屈託のない笑みを浮かべていたあのころがまだ昨日の事のように思い出される。

「強くなったな、シャニー。以前のお前なら・・・矢を放てなかっただろう。」

人々を動かす願っても得難い強さと、その反面にある甘さという弱み。
だが、今の彼女は多くに支えられている。
共に歩む者がいる。迷い躊躇う時に支え導くものがいる。誤った時に正してくれる者がいる。
彼らを信じ、己を信じた結果が今、神界の試練を木っ端微塵に打ち砕く。

「シャス様・・・。どうやら私の役目は終わりのようです。彼女は・・・立派にやっていけます。」

しかと見届けた。守りを失い熾天使の光に包まれる審判の衣。
長い間途切れてきた下界の守りが今目覚めたことを確かに見届け、神に伝えるとそっと目を閉じる。
ようやくに終わる。辛く悲しかった日々とようやくに決別できる。
あんなに小さかった世界で一番愛おしい存在に引導されて。

「願わくば・・・あの子の未来が光溢れ、幸多きことを。」

闇夜の中に神々しく輝いた光がすべてを飲み込み、音さえをも掻き消していく。
まるで悪しき過去の記憶さえをも洗い流すかのように。


 全てが収まると、あたりにはいつも通りの静家が取り戻されて、フクロウと虫達のオーケストラが意識を失っていた者を優しく出迎えてくれた。
「・・・ここは。」うっすらと開けてくる視界。目の前に誰かがいる・・・金髪の女性。片翼が迎えに来たのだろうか。

「お父さん!」

愛しき妻に見えたその面影がこちらの意識に気付いて飛びついてきた。
どきっとした。お父さん・・・そんな呼び方をされ、温もりに包まれるとは・・・夢か?

「良かった・・・大丈夫?」

はっと完全に意識が戻る。視線を合わせるとそこには涙をいっぱいに湛える娘の顔。
自身も傷つき、口元に痛々しい流血の後を残しながらも愛を求め抱きついてきた。

「シャニー、お前は本当に強くなったのですね。さすが、さすがだ・・・。」

ただひたすらに、娘の成長を褒めることしかできなかった。
拾い集めてきた多くの者が抱く小さな小さな夢の欠片。それが今シャニーという光を創り上げた。
自分が何かしてあげたわけではない。彼女とその仲間達が全て掴み取ったもの。

「どうして、どうして呼んでくれないの?私のこと娘だって、どうして。」

だが、シャニーにはそれが辛くて、辛くて、涙が枯れることはなかった。
父は認めてくれた。神界の呪縛から救い出したはずなのにどうしてまだ呼んでくれないのか。
これだけ愛を求めているのに。堪えることなく泣き、訴えかける。

「私はお前に何一つしてやることが出来ませんでした。お前に恨まれても仕方ないことをしてきた身。呼ぶ資格は有りません。」

一度俯きかけたイスピザードだが、彼は娘の眼差しとまっすぐ向き合った。
本当は抱きしめてやりたい。だが自分が今まで彼女にしてきた仕打ちは人間のなせるものではない。
悪魔が天使に触れることなど許されぬこと。例えそれが使命であったとしても。

「恨むなんてどうしてそんなことを!」

涙と共に首が飛んで行くのではないかと思うほどに振る。会いたいとずっと想ってきた。愛して欲しいといつも祈ってきた。
「私はお父さんを恨んだりしてないよ!」はっきりと伝え、そしてさらに強く父に抱きついた。
求め続けてきた温もりをもう二度と離さないと無言のうちに伝えるように、彼女の腕が締め上げてくる。

「ただ、ただどうしてそんな事をしたのかを教えて欲しい。約束だったはずです・・・教えてください。」

イスピザードももう堪えきれず、娘の背に手をやる。温かく、柔らかい感触。これが愛する娘の感触か。
だがその感触は長く続かなかった。シャニーが一度身を退いたのだ。
彼女は真実を求め、頭を下げてきた。まだ終わったわけではない。背負わねばならないのだ、すべてを。

「お前もついに知るときが来たのですね。真実を全て受け入れる覚悟がありますか?」

未だに全て伝えてよいものか彼自身は迷っていた。
だが、自分をしっかりと見つめてくる眼差しはそんな彼を圧倒してきた。

「知りたいの、全てを!知って、全てを背負って前を向いて歩いていきたいの!」

常に前を向いて駈けてきたつもりだ。だが、心のどこかで俯き、振り向く自分がいた。
何も見えない過去を必死に探そうとして。このまま知らぬままは嫌だった。
何があったのか知り、自分なりに受け止めて迷い探し続ける日々と決別したかった。
本当に迷い、探すべきは未来であって過去ではないはずだから。

「分かりました。」

何と心の強い娘に成長してくれたのだろう。
父は彼女を包む全てに感謝せずにはいられなかった。静かに祈り、そして娘を正面に見据える。

「お前は未来を自分で勝ち取った。教えよう、私の知る全てを。」

とっくに覚悟は決めてきた。父の言葉に静かに、だがしっかりと頷く。
最後の確認も終え、イスピザードも頷き、ついに彼はずっと閉ざしてきた記憶の扉を開く。

「いいか、よく聞きなさい。お前は私の娘だ。そして、私の妻、お前を産んだのは、シャス様だ。」

今、父は何と言った?神自らが産み落とした子。切り出された言葉に早速言葉を失う。
頭が雷撃でも喰らったかのように真っ白になってくらくらする。
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