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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter21 さまよう魂

12話:親子の絆

 ←11話:嘘と真と →1話:紅涙の決闘状
やはり、まだ十八年ちょっとしか生きていない彼女には重過ぎるのかもしれない。
明らかに神界への不信感を焼き付けてしまった瞳を前に、イスピザードは何もしてあげられなかった。
「だけど、」俯きかけた父の取ったままの手をシャニーは強く握り返した。

「下界を守ることは私の意志!私の意志は私の想いと人々の祈りだけが源だ!」

まっすぐにイスピザードへ向けて宣誓された純白の意志。
だがそれは彼を貫いて神界で今も見ているのであろう神々への憤怒の咆哮でもあった。
いかなる運命の押し付けにも屈しない。神に背を向けても、人々に決して背は向けまいと改めて誓う。
― しかと、聞き留めた。

「お前はもう立派な守護者だ。」

強く決意を握り締めて、遥か高き空を見つめ叫ぶ娘の手に己の手を重ねる。

「希望の熾天使シャニー、お前にこそこの宝石は相応しい。」

彼女の手のひらにそっと乗せたトパーズ。今すべてを託した。
それを両手で大事そうに包み、彼女は月夜に輝く光をじっと見つめている。

「トパーズ・・・。分かるよ、どうして神界最強の光でありながら、自分ひとりではその力を引き出せないのか。」

確かに、知ってしまった真実は心を酷く傷つけるものだった。
だが背負うと誓った。今まで知らずにいた多くの想いを背負う。
この背負った想いが果たすことができなかった夢を、祈りを、光と湛える器として。

「希望は、多くの人の想い・・・色が折り重なって初めて力になるんだ。」

徐に首に掛かる木彫りのペンダントを手に取る。
相棒が作ってくれたその空っぽなペンダントの真ん中にそっとトパーズをはめこむ。
ようやく帰ってきた。皆の夢がいっぱいに詰まる輝きが。

「ああ・・・この温かさは・・・聞えるよ、みんな。みんなの祈りと夢が聞える!」

帰ってきた輝きを両手でそっと包み祈れば、高い耳にどんどん入ってくる笑顔や悲痛。
それを聞き涙を流す娘の姿を、イスピザードはただ頷いて見つめていた。

「ようやく、ひとつの光となりつつあるな。トパーズがお前と共鳴している。」

娘の手の中で輝くトパーズ。その輝きの何と穏やかで温かい事か。
闇を全て飲み込もうとするとげとげしさを払った優しい光は、まさに乙女の心を表すかのようだ。

「私は人々を守りたい。その祈りをこのトパーズは聞いてくれるの。」

欠かすことなく祈り続けてきた。世界の平和を、故郷の人々の無事を。
毎日繰り返してきた事を見せてあげるかのように祈り始める。

「トパーズに向かって祈るとね、みんなの声を運んできてくれるんだ。
 それを聞いていると、気が高まって体の奥からマナが溢れて来るんだよ。」

嬉しそうに語る彼女の口調は、先ほどまでの熾天使としての気を張ったものから一変していた。
その様子を嬉しそうに覗き込むイスピザードの顔を見て微笑む。
どこにでもいる、普通の親子の姿。遠くに離れていても断ち切れることの無い絆が二人の笑顔を結ぶ。

「そしてお前は希望を振りまく。そう、それこそ光の循環だ。」

彼女は既に力の扱い方を知っている。自分が教えてやれない間に、彼女は自ら歩み続け、
その周りをたくさんの友が支えてくれたのだろう。放つ光が教えてくれる。
守る力も、守ってくれる力も、どちらもが娘にはあることを。

「ハデスを倒すことが出来るのは、皆の思いの結晶、アストレアだけだ。
 お前は皆の叫びを湛える器。光を聖なる矢と変えて悪を射り闇を裂きなさい。」

もう彼女に教えてやれることは何も無いかもしれない。
何を目指し、何をしていかなければならないか。それは最も辛い道を歩んで生きた本人が一番分かっているだろう。
それでも彼女は静かに頷くと、澄んだ瞳で父の教えを受け取った。

「はい、それこそ私の望む道です。」

神界に命じられた使命ではない。自らが望み歩み続ける我が道。
渇望し続ける魂が発した声には、彼女の色がしっかりと映る。
すべてを愛し、調和する白。

「大丈夫、私は見せてもらいました。あなたの力を。
 そして、その力に振り回されずしっかり握り締めるあなたの強い心を。」

父の言葉に、何度も頷くシャニー。その目じりにはうっすらと涙が浮かんでいる。
迷う事もある。だが、こうして支えてくれ、励ましてくれる人がいれば確信できる。
― 私の想いは、決して間違っていない。

「みんなが支えてくれる。間違っていたら正して手を引いてくれる。
 みんなが信じてくれるから、私は前を向いて走るよ。愛してもらった以上に、愛したいから。」

自分が出来ないこと、苦手としていることはいっぱいにある。
だからこそ、自分が出来ることを精一杯やろうと思う。
それが、ひたすらに前を向いて走り続けること。辛い時に笑って皆を立ち上がらせること。
熾天使として何がこの世界に出来るのか常に考えてきたが、答えはいつもそこにたどり着く。
特別な力がそこに必要かと問えば、ノーだった。

「祈っています。あなたの行く道に光差し、幸多きことを。」

彼女はきっと気づいていないのだろう。それこそが、他が願っても得難い特別な力だということを。
神界から与えられたわけではない、自らで育み、大きく広げた翼。
その翼が希望の光に映え、未来へ繋がる空を羽ばたくことを父は祈る。

「ありがとう。お父さん。」

祈る父の手にそっと手を重ねると微笑んで、彼女は微笑み返した父に問う。
別れの時が来た。だが永遠ではない、一時のもの。「もう1回聞かせて。」
それでも、どうしても聞いておきたかった。はっきり、父の言葉で。

「お父さんは、私のことを棄てたんじゃないよね・・・?」

言葉を聞かずともその反応で分かった。棄てた、その言葉を聞いた途端、
イスピザードの目が驚きと悲しみで見開かれたからだ。
今にも大きく首を横に振りそうなほどで、それを抑えた彼は静かに娘の両肩に手をやる。

「・・・一日足りとも、お前の事を忘れた日などなかった。」

涙に塗れた眼差しで娘を見つめながら、イアの聖光で包んでやる。
試練とは言え、ずっと想い続けてきた娘を傷つけたのは自分だ。

「どんな悲しみに苛まれているか、どれだけの涙を流しているか・・・そう思うだけで気がおかしくなりそうだったよ。」

父の優しい光、言葉に包まれてそっと目を瞑る。
この温もりがずっと欲しかった。どこかにあると信じ続け、今ようやく目の前にまで辿り付いた。
目を開ければ、確かに広がる家族と言う絆。

「そんなときは、こうしてお前の形見と話をしたりしてな・・・。」
「お父さん・・・。」

彼が懐から取り出したのは、小さな絵柄つきのコップ。
もう大分古いものだとわかるが、しっかり手入れがされていることが分かる。
きっと自分が幼い頃使っていたものなのだと察したシャニーの胸に急に込み上げる感情。

「あの頃腕の中にいたお前がこんなに立派に成長するとは・・・ありがとう・・・。」

涙を流しながら感謝を口にするイスピザードを前に、シャニーもぽろぽろ止まらない。
それでも先に涙を止めたのはイスピザードだった。立ち止まっていてはいけない。
その為に、彼女を呼びつけ、そして認めたのだから。

「ありがとう、お父さん。すべてを教えてくれて。」

父から伝わるイアの聖光が消えた。時が来たということなのだろう。
すべてを語り、まるで枯れてしまった草木のように背を丸めうな垂れる父。
堪えているに違いない。自分が発てなくならないように。

「行きなさい、世界はお前を必要としています。」

このままここには置いておけないような弱々しい姿だが、震えながらも、しっかりと道を示す声。
彼を安心させられるように今は飛び発つとき。しっかりと頷いたシャニーだが、まだ立たなかった。

「行くよ。だけどその前にお願い聞いてよ。1つでいいから。」

座ったまま父との距離を詰める。娘のたった一つの願い、何でも聞いてやるつもりで顔を上げれば、
彼女もまっすぐに父の瞳を見つめ、はっきりとした口調で想いを口にする。

「抱きしめて。抱きしめて私のこと、娘と呼んで欲しい。」

もう何も縛るものはないはずだ。まだ彼に娘だと呼んでもらえていない。抱きしめてもらえていない。
求めずに去るなんて嫌だった。愛して欲しい、その想いをまっすぐに伝えると父はまた目を見開いて驚くが、
シャニーは頷き伝えた。もう自身をこれ以上責めないで欲しいと。

「・・・おいで、シャニー。」

意を決して呼びかけた。胸にわっと湧き上がる感覚。
夢の中と同じあの柔らかい声が呼んでいる。だが今度は違う。
間違いなく、自分の名前を呼んで。
躊躇いなどあるはずもない。まるで小さな子供のように広げられた腕の中に飛び込む。

「世界で一番愛しい娘よ。必ず生きて帰ってきなさい、無事を祈っていますよ。」

飛び込んできた柔らかい感触をしっかりと抱き寄せ、包み込んだ。
懐かしい感覚に身を任せて、シャニーは溢れる涙を堪えることなく頬を押し付け続けた。
互いに確かめ合い続ける。

「お父さん・・・お父さん・・・。ああ・・・ずっとこうしたかった・・・。幸せだよ。」

娘の指どおりの良い金髪を、柔らかい背中を、あちこちを撫でて温もりで包んであげる。
彼も溢れるものが止められなかった。ずっと傍にあったのに触れられなかった娘。
苦しそうな顔をしていても抱きしめてあげられなかった娘が幸せだと言ってくれたのだ。
今まで散々悲しい目に遭わせたこの父の腕の中ではっきりと、言ってくれたのだ。

「お前に父と呼ばれる日が来るとは・・・思ってもいなかったよ。
 お前が私の娘であってくれることを誇りに思う。何も父らしいことをしてやれず、すまない・・・。」

どれほどそうして二人とも求めてもずっと手に入らなかった温もりに寄り添っていただろう。
本当はいつまでもこうしていたい。だがこの間にも、平和は蝕まれている。
先に行動を起こしたのはシャニーだった。

「戦いが終わったら、もっとゆっくりお話しよう!」

するりと父の腕の中から抜け出したシャニーはあっという間に距離をとる。
このままでいたら動けなくなる。駆け出したシャニーは振り向くと、「そうだ、また二人でアンサンブルしようよ!約束だからね!」
震える声を精一杯絞り、相手の答えをも聞かないまま約束を決め込んで背を向けて、
ゲイルウィクを唱えあっという間に森の奥へと消えていった。

「シャニー・・・。ああ、愛しき我が娘・・・。シャス様、お願いします。どうか彼女にご加護を・・・。」

一人残されたイスピザードは、月を見上げて十字を握り締めた。
世界の全てを愛せとイアは説く。
だが今は、今だけは・・・娘にこの愛のすべてを捧げることを許したまえ。


 ひたすらに待っていた。相棒を信じて、じっと腕を組みどっかりと座って待ち続けた。
他の仲間もそれぞれ深夜の森にたたずみ、太陽の帰りを待つ。

「!シャニーが帰ってきたぞ!」

その気配に真っ先に気づいたのはゲイルだった。
駆け出した彼の後を、エルピスも耳を利かせて追いかける。
すぐに闇の向こうから揺れる金髪が姿を現し、彼女はゲイルに飛びついた。

「シャニー、どうだった!怪我無いか!」

飛びついてきたシャニーをしっかりと受け止めたゲイルは、彼女の頭から爪先までぐるりと見渡す。
あちこち潜入服が破れていて激戦を物語るが、不思議とどこにも負傷はない。
それどこか、目の前に映える苦痛など一切ない、真澄の笑顔が最高の結果を教えてくれた。

「じゃーん!トパーズもらってきたよ!」

首から下がるペンダントにしっかりとはめ込まれたトパーズを指差して白い歯を見せる。
どうだと言わんばかりに笑う彼女の頭にさっと手をやり褒めるゲイル。

「そうか、よかった!で、イスピザードは?」

大体は聞かなくとも分かる。きっと分かり合えたに違いない笑顔。
そこにはいつも家族の事を探し続けた憂いの眼差しは完全に消え去っていた。

「お父さんとは全てが終わったらゆっくりお話することにしたよ。心配してくれてありがとう。」

自分の家族の事で、ゲイルやみんなに大分心配を掛けてきた。
今日だってもう1,2時間で夜明けだというのに、皆起きて待ってくれていたのだ。
ゲイルを見つめ、そして仲間達を見渡して頭を下げる。
「・・・そっか。」無事終わった事に、ゲイルも胸を撫で下ろし、これからイスピザードのことを悪く言う事は止めようと決めた。

「お前、何か吹っ切れたみたいだな。すげえいい顔してる。」

彼女がこんな顔をするのだ。もう何も外野が言う事はないはずだ。
元々太陽のような笑顔だった。だが今は、まさに目の前に天使がいるような感覚。

「ゲイル!」
「ん?」

とりあえず今日はもう遅いので休みを取ろうと皆安堵の表情で寝袋に入っていく。
ゲイルも寝る前に水を飲もうとしていると、ふいに後ろから相棒の弾む声が呼んだ。

「私、生まれて来て良かったよ。辛い事もあったけど、全て必要な事だったんだ。今までのぜんぶ、ぜんぶ。」

満面の笑みで彼女は己の存在の意味を嬉しそうに語りだした。
その笑顔の何と清々しいことか。まさに純白と表現するに相応しい真澄が月夜に輝いている。

「なんだ??一体何を言い出すんだよいきなり。」

もちろん、言われた側としてはその意味深長な言葉の真意など理解できるはずも無い。
だが、聞いてくれるだけ、ただそれだけで良いのだ。
問いに答えることも無くまたにっと白い歯を見せてきた。

「これからもがんばっていこう!熾天使の相棒として頼むよ!」
「お、おう。」

こんな真夜中なのに、激戦の後だからなのか何とハイテンションなことか。
だっと駈けて行ってしまうと、既に寝袋に入っているメルトに声をかけて叱られている。

「あいつ・・・何があったか分からねえけど、うまくいったみたいだな。」

叱られても小さく舌を出すと、何かを伝えて今度はエルピスの元へ。
はっきり聞えた。お姉ちゃんと甘え声を出しながら一緒の寝袋に滑り込んでいった。
もちろん、すぐに弾き出されてゲイルの許へ戻ってくる。

「負けるわけには行かないよ。私の大事なもの、絶対に守ってみせる。」

ゲイルと同じ寝袋の中で空を見上げたシャニーはトパーズを握り締めながら
己に言い聞かせるようにして愛する者たちの顔を思い描くのであった。
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