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 ←1話:紅涙の決闘状 →3話:粛清者
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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter22 存在価値

2話:闇を喰らう蛇

 ←1話:紅涙の決闘状 →3話:粛清者
 翌日、アンドラスは何事もなかったかのように軍務についていた。
とは言っても、父の計らいか最近は資料を運ぶだけの軽い任務が多い。

「ルネア様、ご依頼の資料をお持ちしました。」

それでも今日はどっと疲れた。ルアス城から正反対の場所にある司法院への配達だったからだ。
目的の人物の部屋にノックする。いつもすぐに返事はないのだが、今日はいつまで経ってもない。

「ついに目覚めたのか・・・。だが、まだ足らぬ。」

中から確かに声はする。ずっと廊下で立ちんぼしているわけにも行かず、
もう一度だけノックをすると返事が返ってくるのも待たず中に入る。
「ルネア様?」やはりルネアは中にいた。この人は変わった人だ。
常に意識が別の場所にあるかのように、話しかけてもまるで反応がない。
おまけに表情は深く被ったローブの中。

「ん・・・。あぁ、そこに置いておいてくれ。」

今日も声をかけるだけでは気付かれず、傍によってようやく見下ろしてきた。
言われたとおりに机に資料を置こうとしたときだ。ふと、彼以外の気配に気付く。

「あれ、マヴガフさま・・・?」

思わず足元がすくむ。こんなに日差しがいっぱいの部屋で、ここまで近づいてようやく気配を感じるとは。
彼のほうはと言うと、いつも通りの柔和な笑みを浮かべると、帽子をとって頭を下げてきた。

「これはこれはアンドラス姫。お勤めご苦労様です。」
「どうしてあなたがここに?」

いつも通りの対応、いつも通りの笑顔。だがこれが偽りだと分かった今なかなか笑顔で返せない。
いつでも神出鬼没だ。何故彼がこの司法院で、ルネアと会っているのか理由が分からない。
嫌な予感がして、彼女は一つ頭を下げるとマヴガフに問う。
「んー。」糸目のまま眉だけ歪めて、顎に手をやる。

「まぁルネア様とちょっとお話がありましてね。席を外していただけませんか?」

いつも通りの柔和な笑みで内容について明言を避けた。怪しい。
だが、ルネアもローブの中からじっと見つめてきていることが分かり、やむなく一礼して部屋を出る。

「で、錬金術のほうはどうなのだ?」

それでもそのまま引き下がるアンドラスではなかった。
彼女はドアをしっかりと閉めるふりをして僅かに隙間を残すと中の様子をうかがう。
邪魔者がいなくなった部屋では密談が再開された。

「あぁ、順調だぜ、順調。もう最後の微調整ってトコだな。」

先ほどの紳士的な振る舞いはまるで仮面だったかのように、ルネアに対する態度は堂々としていた。
細く鋭い眼、釣り上がる口元。間違いない、やはり彼の本当の素顔がそこにある。

「ふむ・・・。あれが完成すれば、準備は整う。その後はどうするつもりだ。」

何やら話の流れが掴めないが、アンドラスが眉を潜めるのは別のところに理由があった。
どうも彼らが話している内容が錬金術に関するものらしいからだ。
錬金術研究所総督の立場だが、ルネアが絡むような話は聞いたことが無い。

「聞くだけ野暮だろ。一気に叩き潰してやんぜ。」

おまけにマヴガフが何とも恐ろしいことを口にするものだから気が気ではない。
叩き潰すその対象は・・・もしや帝国だろうか。いや、シャニーか?
ともかく、彼に力が渡ったらとんでもないことになることだけは分かる。

「ダイモニオン・エムブレムのほうはどうなのだ?そちらは大丈夫か。」

ルネアがあんなに喋るなんて。あの二人、どうしてあんなに親密なのだろう。
自分が知らないということは、恐らく誰も彼らの接点については知らないに違いない。
こんな恐ろしい会話がアスクの中で進められていたなんて。

「そっちもあと1箇所だ。なあに、焦る必要はねえよ。あっちから仕掛けてくるのを待つだけだ。」

会話の中に出てくる、あれだのそれだのが何をさすのか気になって仕方がない。
こちらの存在に気づいているのか、要所要所をその言葉で略されてどうにもぼんやりする。
だが、語るマヴガフの口元を見れば、良くない方向に話が進んでいることだけが分かり心を焦らす。

「それより、そっちも万全なんだろうな?今度は想定外だとか通用しねえぞ?真理の探究者さんよ。」

詰め寄るように一歩踏み出して前かがみになると、細い目をさらに細くしてルネアのローブを覗き込む。
「問題ない。」アンドラスならすくみあがってしまいそうな威嚇を前にしても、
ルネアは微動だにせず、その口調はトーンを変えないまま切り返す。

「ただし、ダイモニオン・エムブレムが完全な状態である事が条件だ。」

お前次第、逆にそう問われてマヴガフは懐から魔道書を取り出して見下ろす。
その黒にアンドラスの視線は釘付けとなった。何なのだろう、あの漆黒の魔道書は。
部屋の外から見ているだけでもどこかおぞましく背中がゾクゾクする。

「自己生成した部分が気がかりだが、あれは解析できたのか?」

明らかに、帝国の人間の誰も知らないものについて会話が為されている。
五賢刃と国を守る司法院最高官だ。少なくとも、そんな会話が許されるはずがない。
部屋を覗くアンドラスの目線が厳しくなっていく。

「いや、あれは未知が多い。興味深いが解明までに至っていない。実に面白い代物よ。」

珍しく、ルネアの口調が跳ねた。いつもあれだけ無機質な人が。
ところが、それを聞くなりマヴガフは牙をむき出しにすると、両手を広げながら細い眼で彼を睨みつけた。

「おいおいおい、面白いじゃ済まねえぞ。ったく、真理の探究者っつーならそれくらいさっさと調べやがれ。」

じりじりとした眼差しでルネアに詰め寄り、威嚇するように細い眼で眉間にシワを寄せながら睨みあげる。
こちらがこれだけ情報を提供し、せっせと計画を進めているというのに、
肝心なところで遅れられては、せっかくの完璧な計画全てが無駄になってしまう。

「全力を挙げて取り組んでいる。今はやれることから進めればよかろう。」

これだから研究者と言うものは嫌いだ。
スケジュールを無視してじっくり腰を据えて欲望のままに探求しようとする。
だが、ルネアがこう言うのでは解析についてはまだ待たなければならず、じりじりしたままマヴガフは目線をきった。

「ちぃ、ま、精々頼むぜ、ルネアさんよ。」

こちらに向かって早足に歩いてくる。慌ててアンドラスはドアから離れると廊下の影に隠れた。
刹那ドアが開けられて、帽子を被りなおしたマヴガフの顔にはいつも通りの仮面があった。

「おやおや、かくれんぼとは姫も随分お暇なようですネェ?」

どきっとして背中にダガーを衝きたてられたかのような感覚に陥った。
物音なんて立ててもいないはずなのに、マヴガフが存在に気づいたのだ。
暗闇に彼の黄金が走り、絡み付くような声に引っ張り出された。

「少しは町の様子でも見に行かれてはいかがです?こんな時期なんですし。」

廊下の影に回り、アンドラスの姿を見つけるとため息をつきながら細い眼で見下ろす。
もうこうなっては仕方がない。彼女は凛とした態度でマヴガフと対峙した。

「町の守備についてはご心配いただかなくとも、もう打ち合わせてあります。」

最も警戒しなければならないのは、外からの脅威ではなくこうした内の闇。
じっとマヴガフを見上げると、彼はいつも通りの柔和な笑みを浮かべて頭を下げてきた。

「あ、そうですか。余計なお節介でしたね、それならシャニーたちもイチコロですね~いやあ、楽しみですネェ~。」

言いたいことを言ってそのまま立ち去ろうとするマヴガフ。「お待ちなさい。」
だが、その背中をアンドラスが引きとめた。振り向きはしない。
が、止まる背中に彼女は正面から突きつけることにした。帝国が知らない、“計画”について。

「マヴガフさん、あなたはルネア様と一体何の話をされていたのですか?」

ぎろっと闇に黄金が開かれる。やはりこの小娘、話を聞いていたらしい。
だが、彼女が知ったところでどうすることも出来ない話。
すぐに黄金は糸目に隠されて、振り向いた彼は笑って見せた。

「いくら姫でもお話できませんよ。我が教団の機密事項ですからね。」

つくづく、このネクロ教というのは便利なものだ。
鬱陶しい事は全て機密事項で片付ければ、それ以上帝国は手を出せないのだ。
時計に目をやり、時間が無いことをアピールするが相手は許してくれない。

「錬金術とは一体何のことですか。錬金術研究所総督として、ルネア様と話をするような事柄は聞いていません。」

機密事項という印籠を見せ付けてもそれでも食いついてきた。
セインというあの鬱陶しい男がいなくなったと思ったら、今度は人形に付きまとわれてうんざり。

「おや・・・盗み聞きとはよい趣味ではありませんねえ。」

おまけに最も肝について嗅ぎ付けるとは。彼はポケットに手を突っ込むと、
ぎろりとその黄金を開いて、何かをしっかりと掴んでポケットから手を引き抜く。

「聞いてしまったからには・・・少々お仕置きが必要ですかネ。」
「!?」

闇の中でもその存在をアピールするかのようにぎらついたのはナイフだった。
びっくりして後ろに退くアンドラスの様子を楽しむように舌なめずりするマヴガフ。
だが、彼は突然それでジャグリングをはじめたではないか。
「な~んてね?」完全にバカにされている。アンドラスの口元がきゅっと噛締められるが、マヴガフは笑うだけ。

「ま、ひとつだけアドバイスをあげましょう。」

ナイフをすぐにポケットにしまうと、彼は明るい声で饒舌に語りだす。
だが、身を屈めて覗き込んでいたその眼は、明らかに嘲笑に塗れていた。

「あーんまり首を突っ込まないほうが身のためですヨ。」

これが最終にして穏便なる警告だった。どの道、人形如きが理解できる話ではない。
むしろ、理解したところでどうすることもできないだろう。
人形は所詮人形、操られることしか出来ないのだから。

「私を国も守りを預かる身。些細な情報でも耳に入れておきたいのです。」

それでも食い下がるアンドラスに口をへの字に曲げる。「ん~、参りましたねえ。」
人形の割に随分と一丁前な口を利くようになったものだ。
正直どうでも良いのだが、今あれこれと詮索されては面倒だし、何より時間の無駄だ。

「そういうのを悪あがきって言うんですよ。意味、知ってます?わるあがきですよぉ?悪あがき!」
「知っています!どういうことですか!」

完全に軽く見られていることに腹は立つが、それを抑えてアンドラスはマヴガフににじり寄る。
今大事なことは、彼が何を知っているのかを掴む事だ。
これ以上、今のアスクに不安因子を増やすわけにはいかない。

「国を守ることがどうして悪あがきなんですか!一体何が起きようとしているのですか?!」

本当は一体何を企んでいるかと聞きたいところだったが何とかオブラートに包んだ。
だが、マヴガフのほうは帽子に手をやりながら眉を歪めて口元をへの字に曲げている。

「無駄な抵抗って言ったほうが分かりやすいですかね。あなた方じゃ守るなんてムリってことですよ。」

頭を何かで打ちつけられたような衝撃が走った。これが五賢刃の言う言葉か?
今マヴガフは、帝国は滅んで然るべきだと間接的にでも口にしたのである。
柳眉が釣りあがり、その口調はますます強くなっていった。

「どういう意味ですか!五賢刃として国を守る仲間ではなかったのですか!」

ここまで強く叫んだことは今まであっただろうか。
だが、どうしてもその発言が許せなかった。皆必死に国を守ろうとしているこの時に、
例え冗談でも言って良い事と悪いことがあるではないか。
「仲間ですって??ヒヒヒッ、面白いですね・・・。」だが、それが冗談ではないと言うことをこの男の口元が物語っている。
こちらが真剣に話をしていると言うのに、彼はそれを嘲笑ったのである。

「あんまり調子に乗らないことです。今のうちに手を引いたほうが良いですよ、痛い目を見ないうちにね。」

どうせこの人形でさえ、そろそろ気付いているはずだ。
それをまたよくも平然と仲間などと口に出来るものである。
これだから善という連中は信用できない。嘘の塊のような連中の言葉など。

「私が今逃げたら民を守る者がいなくなります。それより、さっきは何の話をしていたのですか!」

これはますますこの場から逃がすわけには行かなくなった。
父に報告している余裕はない。この場で自分で蹴りをつけなければ。
「しつこい女性は嫌われますよ。」ところが、相手は完全に舐め切って、柔和な笑みを浮かべたまま眉をひそめ両手を広げてきた。

「教団の秘密事項です。教団独自の技術をアナタ達に開示する義務はないでしょ?」

それを言われてしまうと、アンドラスもこれ以上突っ込むことが出来なかった。
確かに共同開発の契約は結んでいるが、開示の義務はないのである。
さすがにこの男、抜け目がない。ようやく黙り込むとマヴガフは帽子を被りなおし視線を隠す。

「そんなことより、私の忠告、素直に聞いておいた方が良いですよ、アナタには死相が出ている。」

静かに歩き出した彼の革靴が廊下を叩き始める。
そして、彼はアンドラスの真横に立つと実に恐ろしいことをさらっと浴びせてきた。

「このまま首を突っ込み続ければ、アナタは死にますよ。」

ドキッとアンドラスの肩が跳ねた事がわかった。
人形でも命への執着があるらしい。ふっと笑うと、マヴガフはその場を後にして黄金が睨みを利かせる。

「バカめ、テメェみてえな木偶の坊に指図される筋合いなんざねえよ。
 たっぷり遊んでやるからそれまで生きてろよ、人形ちゃん。ケヒヒ・・・ヒャハハハ!」

だが確かに生きていてもらわねば困る。まだしばらくのうちは。
彼は司法院を出るとその建屋を振り返って見上げ、そのまま哄笑で天を引き裂くと
記憶の書を使ってその場から忽然と姿を消した。

「・・・あの人は未来が見えているのかしら。だけど、もう決めた事。私は逃げないわ。」

― このままだと死にますよ。
マヴガフの警告が今も頭の中を駆け巡る。死ぬ・・・そのことに恐怖を抱いたわけではない。
恐ろしい男。何としても彼を止めるべく、彼女もまた胸をぎゅっと握ると歩き出した。
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