FC2ブログ
現在の閲覧者数:

スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←4話:さまよえる騎士 →6話:存在価値
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  • 【4話:さまよえる騎士】へ
  • 【6話:存在価値】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter22 存在価値

5話:Conviction wings

 ←4話:さまよえる騎士 →6話:存在価値
 突っ込んでくるアンドラスの剣が月光に光る。退路を立たれたシャニーは逃げ場を失い、
振り下ろされた剣をサイドステップで避けると、ゲイルウイクを唱えて一気に距離を開けた。

「くそっ・・・どうすればいいんだ。10分しかないんじゃ・・・?!」

倒すわけには行かない相手をどうやって説得して外に連れ出せば言いと言うのか。
策など練らせないと言わんばかりの斬撃に加えて、大きく足元が揺れ跳ねる。

「10分?そんな時間も必要ない。お前は私の前に倒れる!」

既に爆発が始まって焦るシャニーへ鋒をまっすぐ向ける。
逃がすことはしない。この10分が世界の未来を決する一番の関所。
それでも短剣を抜こうとしない彼女に、アンドラスはまた踏み出す。

先ほどまで順調だった潜入が、シャニーを連れ去られて一気に歯車が狂った。
どうして1階層上がるだけでこれだけ掛かるのか。とにかく広すぎるのだ。

「どわ?!ば、爆発?!」

ようやく6階層目まで階段を駆け登った途端だ。凄まじい音と共に大きく揺れる建屋。
屈強なゲイルも目を白黒させると壁に身を打ち付けて何事かと見上げる。

「いかん、これはアンドラスの罠だ。我らもろとも爆殺するつもりだ!」
「なんだと?!」

窓を見下ろせば、下層でどうやら爆発が起こったらしい。
もうもうと黒い煙が上がり、火災報知機がけたたましく鳴りはじめた。
とんでもない作戦にメルトも血相を変え、その間にも次の炸裂が塔を揺らす。

「シャニーが危ない!今行くぞ!」

だが、ゲイルは怯むことなくだっと駆け出すと上の階を目指す。
早く彼女を救い出して脱出しなければ。最近、時々彼女が口にしていた言葉が脳裏をよぎる。
― 今ゲイルと離れ離れになったら、もう二度と会えない気がする
そんな事はないと湧き上がる不安を噛み砕き、上を目指す。
頼む、今だけでいい、もっと速さを、足が壊れてもいいから自分にもっと駈ける速さを。

「な、なんだこりゃ?!くそっ、魔法陣か!」

次の階層への階段が目前まで迫った時だった。ふいに階段に浮かび上がる障壁。
魔法障壁で覆われた階段は、キュレックで叩きつけてもびくともしない。
それでも諦めないゲイルが渾身を振り上げたその時だった。
廊下の遥か先から爆風が吹き抜けてきた。もう、この階層にまで爆発が及んだのだ。



「な、何よこれ!何で爆発なんて起きるのよ!」

脱出経路を探すべく下層にいたエルピスが一番に爆発に巻き込まれていた。
ゲイル達の許へ戻ろうなんてとても出来る状態ではない。あちこちで火の手が上がっている。

「?!」

耳がぴくっと動き、とっさに飛び出して頭を抱えながら倒れこむ。
隣の部屋で起きた爆発を何とか下層への階段に転がり込んで避けるが、
すでに下の階も火の海でとても長居出来る状態ではない。
「ちっ、くそ!」もうこれ以上この場にいたら、ゲイル達を待たずに黒コゲだ。
やむなく彼女は炎の中をゲイルウイクで突っ切ると、そのまま窓ガラスを蹴破って外へと飛び出した。

「くっ・・・。」

中庭に倒れこんだエルピスの顔が歪む。うまく受身は取ったはずだが、腕から鋭い痛み。
とっさに腕を押さえた手を歪む顔で見つめて舌打した。どうやら飛び降りる時窓ガラスで腕を切ったようだ。

「ゲイル?!」

かなりの出血だが、火の手が上がる研究所から出てくる人影に彼女は治療も忘れて駆け寄った。
それは案の定、ゲイルとメルトだ。研究所を見上げながら叫ぶゲイルをメルトが引っ張っていた。

「シャニー!おい!離せメルト!」
「今我々が入れば我々が戻れなくなる!見ろ!下層はもう入れる状況ではない!」

諦めきれないゲイルはメルトを振り払ってでも中に飛び込んでいこうとするが、
業火に負けないようありったけで叫びながら研究所を指差して彼を引きとめる。
すでに研究所は紅蓮と爆音に包まれて、もうもうと煙が立ち上っていた。

「そ、そんな・・・シャニー!」

まだ火の手が回っていないのは、彼女がいるであろう8階層目だけ。
思わず手を伸ばして最愛の名を叫ぶ。こんなに近いのに、どうして届かないのだ、この手は、この声は。

「ちくしょう!!俺はどうしていつも肝心な時に・・・!」

不甲斐なさが地面へと叩きつけられた。いつもそうだ、いつでも傍で守るといいながら、
いつもいつも、彼女が一番苦しくて救いを求めている時に何もしてやれない。
守ると言って抱きしめた時のあの幸せそうな笑み、それを今回も裏切ってしまった。
― もう二度と会えない気がする
頭に聞こえた声に涙をいっぱいに浮かべた目で最上階を見上げる。

「信じろ、あいつを信じるんだ。」

その時だ、静かに彼の肩に置かれる手。見上げればそこにはメルトがおり
彼もまたじっとシャニーの無事を祈って最上階を見つめていた。「今出来ることは・・・それだけだ。」
見ればエルピスも静かに祈りを捧げている。そうだ、彼女は今まで、こんな苦境でも逃げることなく戦い抜いてきた。
相棒だからこそ、彼女の強さは一番に知っているし、信じるべき。
力の限り手を結んだ。悔しさをかみ殺し、最愛の名を呼び続ける。
―そんなこと言うな!生きて、生きて必ず!生きて戻ってきてくれ!


 フレアバーストとカータルシックルを組み合わせた複合剣技が宙を裂く。
空を焦がしながら襲い掛かる炎の渦を華麗にサイドステップで避ける。

「いつまで避けていられるかな!喰らえ!炎月輪!」

だが、避けてばかりではアンドラスの言うとおりただの時間稼ぎにしかならない。
シャニーはトパーズにマナを注ぎ、自身の周りにマナを噴き上がらせると
相手からの攻撃を避ける事もなく突っ込んだ。「くっ!止めてアンドラス!」
直撃する火炎を自身のマナ圧で吹き飛ばして一気に距離をつめるとアンドラスの腕を掴む。

「こんなことをして何の意味があるの!」

まさかの行動に面食らったアンドラスだが、すぐに両手の塞がった相手の腹に蹴りを浴びせる。
さすがに機敏な相手に当たることはないが、腕の拘束が解ける。これで十分だ。

「混沌の鍵・・・それはハデスだけじゃない。私たち希望の・・・創造のマナも鍵なのよ!」

ハデスの魂、そして封印を開放するための活性のマナ。
その両者が揃って始めて封印は開放され、暗黒神が目覚める。
ハデスを制御できないなら、もうひとつの鍵を亡きものにするしかない。

「私たち希望のマナを扱うものがいなければ、ハデスの封印は開放されない!」

これがあくまで、世界のためであることを叫び、覚悟を求めるアンドラス。
シャニーは常々口にしていた、世界を愛し、人々を守りたい、と。それは自分と同じ願い。
ならば、彼女とてこの必要性がわかるはず。アンドラスの叫びに揺らぎはない。

「でも、そんな事をしたら一体誰が下界を守るの!あなただって民を愛していたのではないの?!」

だが、シャニーの口調はとても理解したようなものではない。
下界を守る?下界を守るために、今こうして行動を起こしているというのに。

「マヴガフが一体何をしようとしているか分からない。“今”を変えなければ未来はない!」

未来の民を守るためには、今世界が進もうとしている運命の扉を破壊し、変革を起さねばならない。
それこそがハデスの封印と、錬金術の抹殺だ。それを必死に説明しても、シャニーは分かってくれなかった。

「私たちの力は、人々の想いから来るもの!これを使えば、ハデスは倒すことが出来るはずだよ!」

2年前もそうだ。一人では決して勝てるはずも無かった巨悪。
翼を粉々に砕かれて、意識も闇に溶けかけ立ち上がることも出来なくなった自分へ捧げられた温かい光たち。
一つ一つは小さくでも、希望を湛える器に集まった光が巨悪を飲み込んだのだ。

「そのためのアストレアだ!私はこの世界の守護者として、ここで死ぬわけには行かない!」

何のために生まれてきたのか、そして己が何をこの世界でしたいのか。
はっきりとさせた今、シャニーの瞳ははっきりとアンドラスを見据え、その口はきっぱり言い切った。

「私はこの世界の守護者だ!この世界を脅かすものは、このアストレアが相手になる!」

手先に光を召還して見せた。皆の想いが授けてくれたこの力で愛する者たちを守る。
覚悟が強く湧き上がる蒼き瞳が、光に照らし出されてはっきりとアンドラスを見つめるが、そこに敵意は無い。

「そしてあなたも死んではいけない!今まで湛えてきた皆の声と夢で、未来を創り守っていく力を持つあなたが!」

アストレアが制圧の光となってはいけないことは誰よりも理解していた。
彼女は召喚して見せた弓をアンドラスに向けることなく、変わらず調和の光で相手と正面から向き合った。
無意味な存在なんてないことを知っているからだ。
すべての魂にそれぞれの色がある、その色を今、世界が求めている。それを訴えかけ続ける。

「今を凌いだとしても、私たちのマナが世界にある限り、人々は誤った道へと進み続けるわ!進化という暗黒へ!」

それでもアンドラスは手を取るどころか剣で切りつけてきた。
再び下層で起きる爆風。窓からもうもうと煙が立ち上り、もう外の様子をうかがうことはできない。
うっすらと、ダクトから煙が入り込み始めている。

「だから、だからこの場で私たちは消えなければいけない!
 そうすれば、世界を脅かす光も闇もなくなる!人々を愛するなら、覚悟を決めろ!」

まっすぐに向けられた剣先が、再び弓だけ握るもう一人の自分を捉え睨み据える。
だが、彼女以上にシャニーの目が怒りに切れ上がっていた。まるで放たれた矢の如く。
信じられない言葉を聞いたからだ。かつての自分も陥った闇。

「覚悟・・・ですって?死んで逃げることが・・・覚悟?!」

一番いけないこと、それは死ぬことだ。死ねば、今まで背負ってきた全てを裏切ることになる。
アンドラスは一体何を覚悟だと言うのか。柳眉を釣り上げたシャニーの声のトーンが変わる。
それはいつものいたずら好きな穏やかな声からは想像もつかない、熾天使、いやこの世界の守護者の声。

「あなたはあなたを愛してくれた人々の想いが聞えないの?!その耳は一体何を聞いてきたって言うの?!」

まっすぐにアンドラスを指差して、鬼気迫る眼差しで叫ぶ。
彼女の覇気にアンドラスも一度は足を止めて、己の耳に手をやる。

「聞えてきた。多くの嘆きと悲しみが。だがそれを生み出すハデスの復活を食い止められるのだ、私の意志で。」

己の力を、どのように使えば民の為になれるのかいつでも考えてきた。
その導き出した結論が今こうしてこの場に立たせている。自分にしか出来ないことで民を守ることが出来るのだ。

「ならば、躊躇う事など何も無い。」
「それは違う!」

死への恐怖を払うかのようにふっと笑ったアンドラスへ、また強い怒りが叫ばれる。
真っ向から相手の考えを否定する事なんてめったにしない。
それは融合と調和を目指す中で最もしてはならないこと。だが、今回ばかりは別だ。

「溢れ出す絶望、入りきらない嘆き・・・それらに耳を、目を覆いたくなることもあった。」

シャニーもまたそっとバンダナを外す。すると今まで隠されてきた耳が髪の間から飛び出してきた。
神が授けた、民の叫びを聞く耳。だがそれはあまりに絶望と悲痛ばかりであった。
こんな耳は要らないと何度引っ張り、手で覆ってきたことだろう。

「だけど、私という器に湛えられた悲しみと一緒に夢もいっぱいに詰まってる。
 絶望から立ち上がって夢を抱いて、その夢に向かって人々は歩いていこうとしている!」

絶望を知っている分だけ、希望は強くなる。父の言葉が蘇る。
多くの絶望を湛えたからこそ、目指すものがはっきりした。希望を振りまく意味が確固とできた。
人々を支え、いつでも笑って励まし、そうして人々は少しずつでも前を向いて歩いてきた。
その彼らが見上げる先にある夢を、シャニーはしっかりと己の身に湛えてきた。だから今がある。

「私たちはこの希望のマナで、絶望から皆を立ち上がらせることができる!
 絶望から立ち上がることが、ハデスたちから力を奪う事、みんなを守ることなんだ!」

封印しておくことが最も今を平和にする方法かもしれない。
だが、それはハデスを変えるだけであり、人間は何も変わらない。
大切なことは人間が変わること、それこそが進化であり負の連鎖を断ち切るたった一つの道。

「希望のマナがなくなれば、みんな絶望から立ち上がれない!
 私たちという鍵が無くても、その絶望を取り込んでハデスは結界を破壊してくることは目に見えてる!」

今まで辛い旅を続けてきて、そして父から真実を聞きその心は確かとなった。
生きなければならない、人々を守る者としてこの光を絶やさぬように。
見せ付けるようにして手先に光を灯す。

「その時、誰がみんなを守るの!」
「・・・。」

シャニーの力強い叫びにアンドラスの突進が止まり、返ってくる言葉もなくなった。
民を残して死ぬことが覚悟なのか、そう問われてアンドラス目線が逃げるように逸れる。

「私はようやく分かったんだ!私が生まれてきた意味は、私が生きている意味は!この世界を、人々を守るためなんだって。」

使命感から押し付けられたものではない。自分と多くの人々の想いが生んだ光。
絶望を知るからこそ本気で夢を描き、対立からも逃げずに向き合って培ってきた夢。
独りじゃない、多くが描き支えてくれる。誤れば手を引いてくれる。
使命は己を縛るものではなく、自身の覚悟を確固とさせてくれた。

「確かに創られた命かもしれない。だけど、命の色を創ったのは自分だし、多くの人々の声だよ!」

絶望を知るからこそ悲痛を抱きしめ、救われる喜びを知るからこそ前を向き道を示す。
どんな時でも前を向き、笑顔で絶望から立ち上がらせて光へと導く。
そんなことは独りではできない。だけど独りじゃない。
多くに愛してもらい、支えられ、たくさんの声を聞いて融合し、その光で皆を守る。

「私の生きる意味は、私だけじゃない、私たちで創ったものなんだ!」

自分が生きる意味、皆が生きる意味。
一つでも欠ければ生まれない光を生み出すために皆で生き、守るために自分は生きている。希望の光を宿して。
己の胸が渇望し、皆も励まし見守り、天がそれを授け託すならもう何も躊躇うことはない。
今なら言える。生きる意味は与えられるものではないし、ひとりだけのものでもない。

「私だって今を変えなければならないことは分かってる。だけど、未来の為に私は生きるよ。」

未来を見つめる蒼の瞳は強く生への渇望を口にする。
自分が自分のためではなく、皆のために生きていると確かに出来たらその想いは強くなった。
執着ではない、民の笑顔を守りたい、その純粋な想いが前を向かせていた。

「そうは行かない!どちらかでも残れば意味がないのだ!諦めて死ね!」

だが、アンドラスにはその声は届かなかった。剣を振り上げて刀身へ業火を宿すと渾身で振り下ろす。
サイドステップで避けながら少しずつアンドラスと距離を詰めていく。

「違う!どちらも残らなければいけないんだ!あなたはアスクを変えていかなければいけない人だ!」

アンドラスだって、多くの人々の声を聞いてあるべきを自分なりに創っているはずだ。
もし彼女が死ねば、彼女に救いを求めてきた者達すべての声を闇に葬ることになる。
それは、支えてくれた人へのこれ以上ないくらいの裏切りなのに。

「・・・お前には分からないだろうな!自分が災厄の引き金となった命の気持ちなど!」

シャニーの言う事はアンドラスとて分からないわけではなかった。自分だって願わくばもっと民の笑顔を見たい。
だが、自分が生きているからこそ、彼らの絶望が生まれ蠢く今、それを口には出来なかった。
自分がいなくなれば、全てが済む話なのだ。

「災厄の・・・引き金?!」
「私の錬金術が成功してしまったから、創造の錬金術は恐ろしいものを作り出そうとしている!」

あの時、自分が生まれてさえいなければ・・・そう思う一人の夜がどれだけたくさんあっただろうか。
そんなこと、目の前の光には一度だってないだろう。怒りに燃え上がる刀身を再び投げつける。

「恐ろしいものって・・・一体なんなの?!」

その怒りを避けることなく、自身をマナに包んで真正面からぶつかった。
そのまま突っ切って再びアンドラスの懐に飛び込んだシャニーは相手の両腕を掴む。

「分からない。だが、マヴガフは悪用しようとしている。だからこの私が清算するのだ!」

何かは見えない、だが確実に膨れ上がり、来るべきその時を待ち構える闇。
それが動き出す前にすべてを清算しなければ。
混沌の引き金を引いたのが自分なら、それを再び闇に葬るのもまた自分の仕事。

「希望が絶望を生み出す前に!消え去らなければならない!お前も私も!消えることが一番の恩返しになるのだ!」

シャニーの目が仰天に見開かれる。アンドラスが剣を片方地面に落としたかと思うと
自分の手をがっしりと握り締めてきたのだ。自由を奪った相手目掛けて剣を振り上げるアンドラス。
その眼は殺意と覚悟で見開かれて、まっすぐシャニーの胸を見つめていた。

「死ね!我が奥義の前に砕け散れ!」
「ぎはっ・・・!」

自由を奪われた至近距離、そこから渾身の一撃を浴びせる。
マナを張り巡らせたシャニーは直撃を許さなかったものの、その衝撃は華奢な体を宙に浮かせた。
「ぐあっ!」そのまま壁まで吹っ飛ばされて叩きつけられた。
頭を打って力が入らず、腰を壁に押し付け立とうとするがずり落ちていく。

「一撃で逝けなかった。運が悪い奴。」

さすがに大口を叩くだけはある。彼女の周りを包むマナは渾身を振るっても砕けなかった。
あれが、皆に支えてもらっているということなのか。

「だが今楽にしてやる・・・爆風で木っ端微塵よりはいい最期だ。」

それでも勝利はこちらに微笑んだ。一歩ずつ、殺意の剣が革靴で地面を踏みしめ近づいていく。
「・・・あなたは・・・どうしてそこまで自分を・・。」何とか目を開けるが、激痛でなかなか視界が大きく開けてこない。
おまけに頭から伝う温かいものが流れ落ちてさらに視界を悪くしていく。
その限られた視界で見上げるのはアンドラスの眼だった。
どうしてこんな悲しい顔をするのだろう。こんな顔を見たら、彼女を愛する者たちがどんなに嘆くだろうか。

「死ね!これで終わりだ!」

やや距離を開けたところから剣を頭上へと掲げるアンドラス。
叫んだ途端、刀身には業火が走り、周りに転がる瓦礫を吹き飛ばす。その眼がまっすぐに照準を絞ってくる。
何とかしなければ・・・ようやくシャニーが立ち上がったときだった。視界が高くなり、何か妙な光景が映る。

「!アンドラス!上!危ない!!」

杞憂でも、朦朧とする意識が見せた幻覚でもなかった。
爆発があちこちに及んだ建屋の天井がついに耐え切れずに崩れだしていたのだ。

「その手には・・・!!」

叫びに構わずとどめの一撃を見舞おうとした次の瞬間だ。
アンドラスの高い耳にも聞えてきた。何かが崩れ落ちる音が。
そして頭に小さな破片が落ちて、見上げた時にはもう遅かった。

「くっ・・・間に合え・・・!!」

悲鳴を上げることも出来ずに頭上を見上げるしか出来ないアンドラス。
シャニーはとっさに手に握る感触に気付き、さっとそれをアンドラスへと向けると左手に矢を番える。
間一髪、飲み込もうとした瓦礫を光の矢が砕き吹き飛ばすが、破片がそのままアンドラスを押し潰して土煙が上がった。

「くそっ・・・もう爆破があちこち・・・。」

アンドラスは生きていた。瓦礫に飲み込まれて顔だけがかろうじて見える。
炸裂する爆弾が棟を揺らして今にも崩れそうだ。その中を歩こうとしたシャニーは激痛に顔を歪ませる。
腕を見ればソールレイダーが真っ赤に染まっていた。無我夢中で矢を放った時には気づかなったらしい。
「・・・時間がない・・・。」それでも腕を抑えながら自身も朦朧とする意識の中でアンドラスの許へと向かう。
遠くからでもハッキリと分かる。アンドラスの目が自分を睨みつけていることが。

「・・・ちっ、形勢逆転か。だが・・・ふふ、もう手遅れだ。今から逃げたところで、もう時間は無いぞ・・・。」

もう笑うしかない。敗北にふっと顔をそむけたアンドラスは吐き捨てるように勝利を口にする。
相手から何も答えが返ってこず、見上げた彼女はうっとした。
真っ赤になった腕から滴る血に顔をしかめることもせず、シャニーの蒼い目がじっと見つめてきていたのだ。

「・・・あなたも、私も、生きなきゃいけない。世界を愛したものとして、宿した希望のマナは人々の未来の為にある。」

また一つ爆風が研究所を引き裂いて大きく揺れる。火の粉が降り注ぐ中、驚くほど落ち着いた声でアンドラスに語りかけた。
決して自分ひとりで決めていい命ではない。皆と湛え培った光は、皆の宝なのだから。

「その弓で早く殺せ!それとも人が殺せないのか!腰抜けめ!」
「・・・っ!」

瓦礫からの圧迫で押し潰されそうになりながらも、アンドラスはシャニーの握る弓を指差して牙をむいた。
腰抜け、そう言った途端だ。シャニーは表情を変える事なくすっと弓を構えだした。
弓が自分へ向けて構えられ、彼女の手先に光が召喚されると矢の形へと姿を変える。
無言に光る蒼の瞳がまっすぐに弓越しに捉えて来て、眼から迸る覇気にアンドラスは目線を逸らす。

(レイ、ごめんね、ここまでみたい。)

そっと目を瞑った。まぶたを貫いてくる神々しいマナがどんどん膨らんでいくのが分かる。
次の瞬間、弓が弾ける音が聞えると光に包み込まれる。
苦しい、自身の体が内から燃やし尽くされる。まるで、ハデスと血の盟約を交わしたときのように。
関連記事
スポンサーサイト



総もくじ 3kaku_s_L.png 当サイトの小説における登場人物たちのご紹介
総もくじ  3kaku_s_L.png 当サイトの小説における登場人物たちのご紹介
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【4話:さまよえる騎士】へ
  • 【6話:存在価値】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【4話:さまよえる騎士】へ
  • 【6話:存在価値】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。