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 ←5話:Conviction wings →7話:託された無血の剣
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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter22 存在価値

6話:存在価値

 ←5話:Conviction wings →7話:託された無血の剣
 全てが収まった・・・光が生み出した烈風は収まり、爆風や崩壊音が再び耳に飛び込んでくる。
おかしい、死んだはずなのに何故聞える?その時だ、体を襲う激痛。
間違いなく自分は生きている。はっとしてアンドラスは目を開けた。

「あ、あなた・・・!」

誰かの背中に乗せられて引きずられていた。視界がようやくにハッキリしてくると彼女は堪らず声を上げる。
自分と同じ華奢な体格のシャニーが、自分と同じように傷つき血が滴る腕で自分支えながら
必死に窓に向かって歩いていたのである。

「喋っている時間はないよ。もうこれしかない・・・っ。」

振り向いてみる、さっきまで自分が押し潰されていた場所にあった瓦礫は木っ端微塵に吹飛んでいた。
シャニーは自分ではなく瓦礫へ矢を撃ち込んだというのか。みるみる目が見開かれる。

「やめろ!離せ!!?」
「ごめん、今は動かないで。」

剣は失ったが、道連れにするだけなら十分だ。シャニーの背中で暴れまわり彼女を転ばせる。
だが体術ではやはり盗賊に敵わない。あっという間に背後を取られると、何かを首に刺された。
途端だ、体に力が入らなくなって崩れ落ちる。「くっ・・・麻酔薬か・・・。」
静かになったアンドラスを再び背負い、窓辺まで辿り付いたシャニーは胸元へ手をやる。

「お父さん、託された力、使わせてもらうよ。」

しっかりと握り締めたトパーズを見つめ、父へ、すべてに祈りを捧げる。
ひとつの命を、いや、多くの人々の願いを乗せた大きな命を救いたい。
その時だ、今までに無い大爆発が起きて足元が崩れだす。もう、直下まで崩壊が進んでいく。

「封印開放!!我が前に光の加護を示せ!!」

下界で熾天使の権能を行使してはいけない。ずっとシャスからそう言われてきた。
だが、自分がこの世界の守護者だと悟った今、そんな言いつけを守るつもりはなかった。
例え反逆者の烙印を押されようと、彼女は己の意志を信じてトパーズとマナを共鳴させた。
目を見開くアンドラス。自分とは比べ物にならない大いなるマナが目の間に膨らんで
もう一人の自分の背中からマナ揺らめく翼が飛び出してきたではないか。

「捕まって!」

広がる翼は光のマナに守られて、襲い来る瓦礫や吹き出す炎をはじきシャニーを、アンドラスを包む。
窓を矢で打ち砕くと、アンドラスを背負いなおして勇気一番、外へ飛び出す。
「き、きゃああああ?!」目の前に広がる空、見下ろしたアンドラスは堪らず悲鳴を上げる。
地面があんなに遠い、こんな高さから墜ちたら間違いなく・・・死ぬ。
彼女は無意識のうちにシャニーの体にしがみついていた。
だが、地面に叩きつけられることは無かった。シャニーの背中が湛える三対の翼が大きく羽ばたいて
少しずつ研究所から離れていく。振り向いて二人で研究所を見つめれば黒煙がもうもうと立ち上がり、
ついに自分達がいた8階からも炎は噴き上って壁が崩壊していく。

「くっ、は、離せ!なぜ邪魔をするんだ!」

はっとするアンドラス。生きてしまった、最大のチャンスを失い、生きながらえてしまった。
だがまだチャンスはある。彼女はシャニーの背中の上で再び暴れだす。

「いいからじっとしてて!落としちゃうよ!」

シビレ薬で力が抜けていることもあり、突然暴れて背中からずり落ちはじめている。
仰天して相手の手を両手でしっかりと握って吊るが、自分の力ではすぐ限界が来る。
慌てて地上を目指して降下し始めた途端だ。「?!」

「私がいたのでは、創造の錬金術をこの世から消し去ったことにならない!」

下からすっと首へと伸びてくる短剣は間違いなく自分が腰に挿していたもの。
握っているだけで精一杯だろうが、その眼は今も諦めていない。
最初こそ目を見開き驚いたシャニーだったが、すぐに口元の恐怖を飲み込むと凛とした眼差しで見下ろす。

「逆に聞くよ。どうしてそんなにあなたは命を粗末にするの!」

自分の生きる意味が分かっていたならば、絶対にとれない選択肢。
それをアンドラスは叫び続けてきた、それこそが価値と。
その理由はシャニーにも分かっている。だからこそ彼女は問うたのだ。
「民のためだ!」案の定の答えが帰って来た。やはり、彼女はもう一人の自分。

「創造の錬金術はいずれ人間を滅ぼす力となってしまう!」

創造の錬金術研究の成功を端的に示すもの、そしてそれをますます加速させる光を宿すもの。
だからこそ、消えなくてはならない。消えるだけで、悪神の復活までをも阻止できる。
それが民を守ることになるのなら、喜んで身を投げ出す覚悟だった。

「あなたは勘違いしている!人々が幸せになるなら、自分はどうなってもいいと!」

皆の幸せだけを見つめ、自分を顧みないやりかた。
それこそが自身の使命だと言い聞かせて来た日々、だがそれでは決して何も守れなかった。
守れなかった苦しさを知っているからこそ、シャニーの言葉には力が篭って目が強く訴える。

「何が勘違いか!私は造られた命、人々の為に尽くすことが出来れば本望だ!」
「嘘だ!」

災厄の引き金を引いてしまった身。だからこそ、その清算と共に恩返しをしたい。
この想いをシャニーは嘘だと言うのか。痺れ薬が入ってもアンドラスの言葉から勢いは消えない。
怒りに剣を握る手に力を籠めようと口元が歪む。だが、手先は震えるだけで相手の喉へ近づけない。

「あなただって幸せになりたいはずだ!自分に嘘をついちゃダメだ!」

同じ道を歩んだからこそ分かる辛さ。辛さを知るからこそ、描けるもの。
あの時の辛さが今、一つの命を救おうと光となって包み込もうとしていた。

「黙れ黙れ!人間のお前に何が分る!つくりものの私の気持ちなど分かって堪るか!」

幸せの中で生きて来た、何の苦しみも知らずに最初から人間として生きて来た命のくせに。
アンドラスは涙を振り飛ばしながら悲鳴にも似た怒りをシャニーへ向ける。
まるで包み込んできた光を吹き飛ばそうとするかのようだ。
「分かるよ!」だが、その力強い怒りから逃げることなく、シャニーはまっすぐにアンドラスを見つめて受け止めた。

「分かるよ・・・私だって・・・通った道だもの・・・。」

シャニーの声が涙にぬれ始めたことに、アンドラスは怒りが退いて表情を失った。
なぜ、この人は泣き出したのだろう。まるで分らない。

「何だと?お前も・・・通った道?人間のお前が・・・か?」

何よりも言われたことが分らなかった。相手は人間、自分は人形。
創った側と創られた側、光と闇、表と影。なのに、同じだと言うのだ。
また出まかせを言っているのかと口元に怒りを湛えた時だ。

「人々の幸せを守る為なら、私は露と消えていい・・・本気でそんな馬鹿げたことを考えていた時期があった。」

今のアンドラスがやろうとしていることは狂気かもしれない。だが、つい2年前の自分ならきっと同じことをしていた。
みんなの笑顔が欲しくて、辛くても口に出さず、涙を見せることもなく。耐えて、耐えて。
悲劇のヒロインに同情などできない。今のシャニーにとって、2年前の自分はただの愚者。

「でも、大事な人が教えてくれた。
 そう言って私が自分を犠牲にしたら、俺達にとっては仲間を犠牲にしたことになると。」

出逢ったばかりのころはケンカばかりだった。素直になれずに、姫としての責任感だけで肩肘張り、
自分だけで“みんなのため”と突っ走ってもがき、傷つき、その度あの太い腕に抱き上げられた。
そしてついに怒鳴った彼がじっと瞳を見つめて教えてくれた想い。それは今でも心の真ん中にいつもある。

「・・・。」
「俺達だって仲間を守りたい思いは同じなのに、お前はどうして無茶ばかりするんだってね。」

そうだ、そうかもしれない。あの時からだ、ゲイルに相棒として心を許したのは。
信じあえるとはこういうことなのかと、大勢の中の孤独に生きていたあの時強く思った。
信じてくれる人を決して裏切ってはいけない。己の生き方を変えた人生の岐路。
思い出す彼女の顔には、ふっと柔らかな笑みが浮かぶ。剣を衝き向けられているというのに。
この時アンドラスは感じていた。自分になくて彼女にあるものがなんであるか。

「独り善がりだというのか・・・。」

結局、人々を守りたいというこの思いは己の存在価値のため。
空っぽな自分の居場所が欲しくて、認められたい、愛されたい。
覚悟が内を向き、愛してくれる者達の心を見つめ、彼らの立場に立って考える事を忘れてしまっていた。
何のために守るのか、それは愛してくれる人たちの笑顔のため。

「だが、お前と私ではまるで立場が違う。私は生まれてきてはいけなかった命だ。」

だが、シャニーを見上げているとますます自分の存在価値が分からなくなってきてしまう。
相手は翼をたたえ、この世界を守ることを使命として天界に生まれた命。
かたや自分は、祝福されること無く薄暗い地下で造られた命。存在価値に天と地ほどの差がある。

「そんなことないよ!力も、命も、宿した意志に存在価値があるんだ!」

生きているだけで、生きて世界に働きかけることが出来る。
それだけでその人の存在価値となる。力に意志は無く、命が意志を宿し、力を行使する事、それが価値。
本当に価値が無い、それは己の意志がなく、何もしないことだ。

「あなたは人々を愛し、ハデスから守ろうと命をかけてまで戦おうとした!他に真似できない価値ある人間だよ!」

アンドラスは違う。民を守りたいとはっきりと言った。
そしてそれを行動に移した。やり方はとても賞賛できるものではないが、意志の強さは痛いほど強く伝わってきた。
こんなに人々を愛そうとする心が無価値なんて、そんな事はないと声を大にして伝える。

「・・・慰めなど要らない。むしろ、そうやって腫れ物を扱うようにされるほうが辛いのだ。」

力なく首を横に振るアンドラス。自分は人間ではない、その事実は拭い去りようの無い事実。
みんなは自分のことを人間だと言ってくれる。だが、生まれてくるはずのなかった命、それに変わりはない。

「もしかして、あなたは自分が愛されていないと勘違いしていない?!消えなくてはいけない命だと決め付けて!」

またシャニーの口調が強くなる。何故こんなにも人々を愛そうとしているのに、人々に愛される事を否定するのだろう。
内に向いた覚悟は認めてもらいたい、そればかり。守るだけで、守られることを否定していた。
みんなの愛を粗末にしてはいけない。だが、シャニーの言葉にアンドラスもきっと睨みあげてきた。

「愛されている!だが違う!私は愛されてはいけない者なのだ!」

愛されたい、だけどそれは叶わない。自分は人間ではない。
それどころか、愛してくれる者達を混沌へと招いてしまう、災いの引き金。
それを知りながら、皆に愛してもらおうとすることなんて出来なかった。

「そんな人間は誰一人していないよ!あなたも愛されなくてはなら人だ!」

ホムンクルスだからと言って、一体何が違うのか。同じように命を持ち、意志を宿し、愛されたいと願い。
何も変わらない。己の意志でしっかりと歩む一人の人間。それを何度も伝えた。

「私は・・・人間ではない。この体も、心も、全て作り物の偽者だ。人間ではない。」

人間なら、きっとシャニーの言うとおりなのかもしれない。
だが、自分は人形だ。もしかしたらこの意志も、造られたものかもしれない。
恐ろしい、作り物の自分のどこまでが自分なのか、分からない。
「人間だよ。」だが、シャニーはアンドラスの恐怖を笑顔で払った。

「怒って笑って、泣いて喜んで、同じじゃない。」

シャニーの言いたい人間というのは、何も人間だけのことを指したわけではなかった。
意志を持ち、喜怒哀楽で多くとコミュニケーションを図って愛し、愛されるそのすべて。

「お前に私の気持ちが分かってたまるか!元から人間として生まれたお前に!」

だが、その天使の微笑みは、地獄の片隅で生きてきたものにとっては無責任にしか思えなかった。
人の気持ちも知らないで、一体どんな綺麗事ばかりを吐くのか。
だが、笑顔がふっと消えたシャニーの首が静かに振られる。その目元に悲しみを湛えて。

「・・・私だって、ある人の意志で創られた命だよ。」

見開かれる瞳。辛さを堪えていたのか、シャニーの頬に伝う涙が零れ落ちてきた。

「辛いのは分かるよ、知らなければそんな苦しみも悲しみも・・・知らずに済んだ。」

自分が何か操られているのではないか、その恐怖は分かる。
だが、それでもシャニーが前を向いて歩けるのは、支えてくれる仲間がいるからだ。
何より、操られようとなんだろうと、己の意志で歩み、切り開いてきた道。

「だけど、辛い過去を持つからと言って持たないものを罵っていいわけじゃない。」

自分をそして仲間を信じて、辛い思いは仲間と共に背負って前をひたすらに向いてきた。
その辛さが今、自身を苦しめる毒ではなく、人を救うための意志、光の一部となっている。

「すべてを怒りに燃やしても・・・何も生み出さない。生み出すとすれば憎悪だけ。あなただって分かっているはず。」

今までずっと隠し、辛い人生を歩ませたシャスへの怒りは、顔に出さないだけで胸の中に渦巻いていた。
だが、それをずっと零し続けて何が生まれる?彼女がこの道に自分を放り出したからこそ、
愛するものを守るために己の意志をつくることができ、多くの仲間を見つけることが、愛されることが出来ている。
今まで起きたこと全てが、自分を形作る必要なもの。集めてきた己の色の欠片が今、多くを生み出そうと考え、生きている。
すべてを背負い、前を向いて歩む。己の意志を皆と分かちあい、世界を変えていく。
すべてから目を背けて、己の色を闇に隠して、それでは何も変わらないことを知ったから。

「・・・私の憎悪がハデスを呼寄せた。だから私は私の撒いた種に決着をつける!お前はそれを阻んだのだ!」

だが、アンドラスも必死に変えようと戦った己の意志を叫んだ。
逃げようとしたわけではない、自分が犯してしまった過ちを清算しようとしただけだ。

「決着をつけるだけで全てが終わりではないことぐらい分かっているはず!人々の声を聞き続けたあなたなら!」

お前は邪魔をした、そう言われてもシャニーの言葉に揺らぎはなかった。
彼女はずっと仲間から教えられてきた、誤った道へと仲間が踏み出そうとしたら、全力で止めなければならないと。
それが愛する者、愛されてきた者としてすべき一番の恩返しだと。

「辛い想いをしたからこそ、描けるものがあるはずだよ。それはあなたにしかできない価値そのものではないの?」

きっとこんな意志の強い女性だ、シャニーは確信していた。
辛い想いをしたら、二度と同じ辛さに苛まれる者が出ないように、そう願うはず。
過ちを清算するだけでは、元に戻るだけ。その先なのだ、変えていく為に生きなければならない世界は。

「私にしか出来ない・・・存在価値。」

ぽつりと漏らすアンドラスの目元から怒りが削げ落ちる。
その存在価値を信じて、こうして命をかけた。二度と、造られた命が生まれないように。

「私の価値は、人々を守ること。まだ・・・守り足りないと言うのか?」
「足らない。あなたは愛するだけで、皆に愛することをさせていない。守るって、一方的なものじゃないと思う。」

今ならはっきりとゲイルが言った言葉が分かる。覚悟が内を向き、自分が守ることばかりに一生懸命になって
周りの愛したい気持ちをないがしろにした。それでは世界は変わらない。
互いの心が融合し、新たな光を生み出す、それこそが変わるということ。

「あなたを愛している人がたくさんいることを私は知ってる。それだけでもあなたは存在価値に溢れてる。」

アルトシャン、イスピザード、セイン、イーグラー・・・。地上を見下ろし、シャニーはアンドラスにはっきり伝えた。
これだけ愛される人間なのだ。世界を変える力を持っている、得難い力ではないか。
それを現状復帰だけで終わらせるなんて、それは愛してくれた人々への裏切り。

「私たちは人々の絶望と悲しみを湛える器。そしてそれを希望の光に変えて彼らに振りまく力をシャスから与えられてる。
 みんなにその光を振りまいて、みんなは夢を描き私たちに絶望と向き合う勇気をくれる。この循環が本当の進化を生むんだ!」

神界に作られた命かもしれない。だが、その力の使い方は委ねられているのだ。
シャニーという人間が宿す意志に。造られた命かもしれない、だが魂の色は己が創り上げたもの。
父の言葉が蘇る。絶望から生まれた希望で同じ苦しみに苛まれる魂を包み込む。

「ハデスを封じたその後に、もっとあなたの力が必要とされるんだ!」

何度も、何度も続ける。愛されてる、価値がある、必要とされる。
この言葉を一番に欲している。同じ道を通ってきたものとして、放ってはおけなかった。
自分は最愛が、仲間が、愛する多くが教えてくれた。なら、自分も教え、救いたい。

「残念だが、私が生きている限りハデスの封印は完全を為さない。逆に私がここで果てれば全てが!」
「収まらない。」

それでもアンドラスの心に焦りをもたらしているのは、自分が蘇らせてしまったハデスのこと。
だが、シャニーはまっすぐに否定した。こんなところで潰えていい命なんかない、と。

「ハデスは何度でも蘇ってくる。人間が完璧ではない限り、必ず。
 でもその時、人間の中に過ちを正せる者がいれば復活は阻止できる!あなたにはその一人になって欲しいんだ!」

人間は不完全な生き物だ。喜びや幸せだけでなく、怒りや憎しみも光の循環には必要なもの。
だけど、それは同時に悪神の糧にもなる。生きる限り、闇は生まれる。
その闇のすべてを消すことは出来ない。だからこそ、闇を向き合い、調和を目指す力が必要なのだ。
過ちを知っているからこそ、できることがある。しなければならないことがある。
これから先の未来で同じ悲劇が起ころうとした時、それを食い止めなければならない。
それは生きて、生きてこの世界に干渉しなければ決してなしえない。死ぬことは、その使命から逃げることになる。

「あなたの体にハデスの血が流れていようとも、それはあなたの!人々を愛する剣姫アンドラスの血!」

血が流れているからと言って、決してその意志まで、魂の色までハデスに染まっているわけではない。
あなたはあなた。己の意志が価値を創り上げることを目を見つめ心を衝き合わせハッキリ伝える。
価値、それは夢。創造した夢を人々は認め、支えられて夢は光となって皆を導くのだ。

「みんなのために生きて欲しい。同じ人間として、愛する者を守りたい同志として、みんなのためにあなたを助けたんだ。」

未だに衝き向けられた剣。だがシャニーはまっすぐにアンドラスの目だけを見つめて語りかける。
彼女のことを、これから先の未来を創るために皆が必要としている。それを彼女に分かってもらうまで。
「みんなのために・・・?」明らかに今までと違う眼差しが下から見上げてきて、声が震えている。
皆のために消えなければならないと覚悟を決めていたのに、皆は生きることを望んでいるといわれたのだ。

「皆、私を・・・必要と・・・してくれているのか・・・?」

当たり前と思えることも、彼女にとっては不安で仕方なかったに違いない。
ふっと柔らかい笑みを投げかけると、シャニーの喜びを湛えた瞳が地上を見下ろす。
「そうじゃなかったら、こんなに人々が集まったりしないよ。」見下ろす眼差しの何と柔らかい事か。とても敵を前にしたものではない。
彼女の視線を追うようにしてアンドラスが下を見下ろした途端だ、彼女の目が見開き固まる。

「アンドラス様ー!大丈夫ですかー!」

こんな近くで爆発が起き、今にも崩壊しそうな建屋が目の前で火を噴き上げているというのに、
騎士達だけではなく、多くの民が自分達を見上げているではないか。
彼らはアンドラスと視線が合うとわっと歓声をあげて手を振ってくる。

「おお、イア様のご加護があったぞ!姫はご無事だ!」

誰もが慶びの声を上げ、抱き合うものまでいる。その一人ひとりが分かる。
ずっと今まで愛してきたルアスの民。自分の無事に涙してくれている。
そう思うだけでアンドラスの目じりにも自然と熱いものが込み上げる。

「ありがたきこと・・・。おお、エルピスが・・・天の使いが我らの希望を守ってくださった・・・。」

一方で膝を衝き祈りだすものもいる。業火吹き上がり、地獄魔境かと思うほどの闇と朱の世界。
その空に広がった真澄の翼が、今も大きく羽ばたいて白き聖光であたりを照らし希望を振りまいていた。

「みんな・・・。」
「これでも、愛されていないと思う?」

彼らの心からの笑顔を見せられてアンドラスの口元にもふっと笑顔が戻る。
そこにすかさず問えば、もう何も反論してこなかった。

「あなたの命の価値はあなただけのものではないことを忘れないで欲しい。」

自分の命、自分の人生、だから何をしてもいい、それは大きな間違いだ。
人間である以上、多くの人と繋がっている。己の独善は、その繋がる人々を傷つける。
守りたければ向き合え、熾天使の言葉にそっと剣を降ろす。

「分かった、私が間違っていた。思い知らされた。」

ようやくに分かってもらえて、シャニーの顔にも安堵が浮かぶ。
もう、彼女とは対立する理由はない。ひとつ目を閉じると、次開かれた瞳はいつも通りの朗らかさを取り戻す。

「苦しかったら、助けてって言えばみんな助けてくれるよ。
 それが同士、仲間なんだから。私は同じ民を愛する仲間として、あなたを救いたかったんだ。」

ゆっくりと下降していき、地面につくとぱっと翼を風に溶かした。
すぐに駆け出す。その行き先は決まっていた。今一番に無事を伝えたい最愛が手を広げてくれているのだから。

「ゲイルッ!」
「シャニー!」

互いの名を呼び合いながら駆け出して、二人は強く抱きしめあった。
大男は華奢な体が壊れてしまわないように、だけどこれ以上ないほどの強く抱きしめ、
抱き上げて包み込んだ。「すまねえ、いつもいつも。でもよく無事で・・・。」
世界で一番の宝物を、もうどこへもやらないと言わんばかりに。

「ううん、ゲイルこそ、無事でいてくれてありがとう。」

確かめ合うように互いを愛でる二人に喝采が送られる。
あの愛を引き剥がそうとしていたのか・・・見せ付けられたアンドラスはようやく気付いた過ちの重さにうなだれた。

「アンドラス!」

だが、それをやめさせたのは彼女にとっての最愛だった。
駈けて来た彼は座り込むアンドラスに早速治癒魔法を施しながら抱きしめたのだ。
シャニーがされているのと同じように。

「まったく君って人は・・・。もう、どうして君は分かってくれない。」
「いえ・・・今回のことで私は・・・思い知りました。」

レイには彼女がどうしてこんな事をしようとしたか分かっていた。だからこそ、あれだけ事前に警告したのに。
抱きしめながら泣くレイに、アンドラスも強く身を寄せて詫びた。

「私は、愛する人々のために・・・生きます。」
「そうさ、生きるんだ。みんなにとって君は必要なんだ、もちろん、私が一番必要としている。」

今までこらえていたものがぱちんと弾けた気がした。
レイの優しい言葉に涙腺が崩壊し、彼女は大声を挙げて泣きレイの胸にしがみつく。
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