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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter22 存在価値

7話:託された無血の剣

 ←6話:存在価値 →8話:捨て駒
 それからどれだけ経っただろう、いや実際にはほんの数分の話かもしれない。
はっとするアンドラス。自分だけが幸せになるわけには行かない。
涙を拭うとさっと立ち上がり、今も愛を確かめ合う二人のもとへ向かう。

「お前は私を同士と言ったな・・・。あれだけ憎んできた私を。」

ゲイルの眼差しにきっと阿修羅としての鋭い視線が切れ上がる。
まるで別人のような、赤く光りだしそうな怒りの目。シャニーを後ろに隠して、ナックルを握りしめる。

「あなたの苦しさは私では分からない。でも、聞いて受け止めることは出来る。同じ夢を持った仲間だもの、助けたいよ。」

だが、ゲイルの手にそっと己の手を添えて怖い顔を止めさせると、
シャニーは彼の前に出て、アンドラスにいつも仲間に見せるものと同じ笑顔を送る。
もう、アンドラスは敵ではない。いや、ずっとシャニーにとっては敵ではなかった。
ただ少し、すれ違っていただけで。それが今解消されたのだ、嬉しそうな熾天使の笑顔を、アンドラスは信じた。

「ならば!ならばお父様を!アルトシャンを・・・助けて!このままでは・・・このままでは!」

目の前に広がった光景に誰もが驚きを隠せなかった。
駆け出したアンドラスは、シャニーの下に崩れ落ちるとその足にしがみつくように手を伸ばし泣き出したのだ。
「お父様を!アルトシャンを助けて!このままでは・・・。」涙に咽び、それだけしかいえないかのように同じ言葉を繰り返す。
これには思わず正拳を握り締めたゲイルもぽかんとして、拳を解いて屈みこむ。

「アルトシャンを助けてだと?一体どういうことなんだ?」

今回の事件を起した張本人である。それが今更命乞い・・・というわけではないことはアンドラスの態度で何となく分かる。
一体彼の身に何が起きているといのだろうか。見つめてきた巨漢へ涙を振り飛ばしながら視線を移し訴える。

「お父様は私の命がマヴガフに握られているからやむなく戦っておられるのです!」

そこには、今まで見せ続けてきた存在価値を求める軍人の空っぽな威圧は無かった。
ただ愛する人を救いたいひとりの乙女の悲しみに満ちた顔が隠されることなく涙にぬれている。
これが、彼女の本当の顔。シャニーと顔を見合わせたゲイルは言葉を失った。

「すべてはあの男の謀だったのか!」

脳裏のあの黄金色の蛇眼が浮かび、怒りを口元に顕にしたのはシャニーだ。
一体あの男は、どれだけ人の心を踏みにじれば気がするというのか。

「アンドラス!まだ動いちゃダメだ!君は重症なんだから!シャニーちゃんもホラ!」

後ろからレイがすっ飛んできて、崩れ落ちているアンドラスを介抱して治癒魔法を施す。
手招きされたシャニーもアンドラスの横に静かに座り、一緒に治療を受ける。
ざっくりと切り傷が走るシャニーの腕。その赤く痛々しい姿を横目で見下ろすアンドラス。

「ごめんなさい。私は・・・とんでもない考え違いを起していたようです。」

素直にみんなに謝った。今まで自分を愛してくれている人々が、どれだけ自分に声をかけてくれていたことか。
そのこと如くを裏切ってしまったのだ。レイは治療を続けながら彼女の頭に手を載せる。

「もう何も言わないよ。今はただ・・・君が生きてくれていることを神に感謝するだけだ。」

瓦礫に押し潰されて、あちこち体が軋む。だがそれでもアンドラスはレイに抱きついた。
生還できた喜びが頭の先からつま先まで広がり、欲しかった、もう二度と味わえないと思っていた温もりに包まれる。
その様子を、シャニーは笑顔で見つめていた。レイのおかげで、腕の裂傷もすっかり跡さえない。
痛みの消えたシャニーは自分もゲイルにもっと甘えたくて立ち上がり、彼の胸を目指す。

「で、感動の再開中申し訳ないけど。」

ところが、その目の前に伸ばされた腕が彼女をひっ捕まえた。
見上げれば姉の厳しいか拝み降ろしていた。「アルトシャンはどこにいるの?」
今はまだ、喜びに全てを任せていい時ではない。目でそう言われ、小さく頷きゲイルの横でアンドラスを見下ろす。
それでも、彼はしっかりと肩を包んでくれた。今は、これだけで精一杯。

「お父様はあなた達が訪れるのをルアス城で待っておられます。」

しっかりレイに治癒魔法と医学治療を施してもらったアンドラスは剣を握り立ち上がった。
今まで多くに迷惑をかけた。今度こそ民を守るために、父を救わねばならない。

「でも、戦ってはいけません。この戦いは無意味です!」

今まで散々命を狙って来た側の癖に、ゲイルの喉元まで飛び出しかけた声。
それをシャニーは強く手を握ってやめさせた。過ちに気づいた者を、これ以上責めてはいけないと。
剣を握り、それでも戦ってはいけないと言うなら、その剣が向いている先は言わずとも分かる。

「分かってるよ。私は元々戦いに行く為にここまで来たわけじゃない。」

自らゲイルの腕の中からそっと離れると、仲間達を見渡す。
まるで己の言葉を確かめるように。誰からも異論はなく、頷く視線の先はひとつ。

「アルトシャンのところへ行こう!アンドラスの無事を伝えれば、きっと剣を降ろしてくれるはず。」

彼女の言う事を信じることにした。娘を救い出したことを知れば、きっと無血に終わることが出来る。
今誰も、このルアスで血を流してはいけない。本当に戦うべき相手は、このルアスにはいない。

「そうと決まればぐずぐずしてられねえ!マヴガフの野郎は絶対様子を見てるんだしな!」

そうだろ?まるで空のどこかから睨みを利かせる黄金の蛇眼に怒鳴りつけるかのように、
ゲイルは空を睨みながらシャニーの横に立って決戦の前の覚悟を叫ぶ。

「アンドラス、そんな顔をするな。君は待っていて欲しい。」

どうなってしまうのだろう。父が剣を収めてくれるだろうか、不安でいっぱいだった。
そんな不安に歪んだ顔をそっと撫でた例はふっと笑いかけたが、彼女の顔に浮かんだのは驚き。
「そんな、嫌です!私も行きます!」今度こそ、みんなに本当の意味で恩返しを。そう決意していた矢先に投げかけられた言葉。
すぐに首を振って拒絶し、レイに身を寄せようとしたが、彼はそれを許してくれない。

「君は帝都の人たちが暗黒教団の犠牲にならないように守ってあげて欲しいんだ。」

それぞれが、それぞれにしかできないことを今は果たさねばならない時。
帝都のことをこの中で一番に知り、そして民から最も愛されている心。
それで彼らを暗黒から包んで導くことこそ、今すべき事。

「でも、レイ達だけを危険な目に遭わせるなんて私には出来ません!」

分かっていても、それでも恐ろしくてとても首を縦に振れなかった。
彼女には何となく分かっていたのだ。彼らが何を言おうと、父が剣をおろすことはないと。

「話をして分かってくれるという保証はないんだ。」

だが、その心を知っているかのような言葉をレイからかけられ、まん丸の瞳が見上げてくる。
―なら、どうして?
そう目で問うて来るアンドラスに、レイは目を強くする。「刃を向けあうことになるかもしれない。」

「君は本気でアルトシャン様を自分の剣で傷つけることが出来ると思っているのか?!」

彼女の気持ちは知っている、だからこそ伝えなければならない。
彼女は強い言葉で言わなければ隠してしまう。本当の気持ちを。
案の定、レイのまなざしから静かに逃げていく決意の瞳。
「それは・・・できません。」できるはずがない、傷つけるなんて、剣を向けることだって恐ろしくて。

「戦って欲しくありません。」

だけど、自分が行かなければ父が本当に彼らと手を取ってくれるかどうか。
父も分かっている、マヴガフを止めなければ愛した世界が滅ぶ事を。
だが彼は・・・その一人として戦うことができるだろうか。犯した罪を背負って。

「それでいいんだよ。」

彼女の切なる祈りの言霊に、レイはふっと笑いかけて涙を頬から拭ってやる。

「平気で父親を殺そうと出来る人間なら、私は君を愛したりはしていない。」

改めて静かに白衣の中に包んでやる。ゲイルがシャニーにするように、大きく包んでやることは出来ない。
だが、自分なりに捧げる事のできる最高の愛、最も伝えたい想いを篭めた。

「私たちからアンドラスの無事は伝える。だから人々を守ってあげて。」

最愛からの言葉に、アンドラスは決心することにした。
そして、見上げた視界を見渡せば、誰もが自分を見つめている。頼む、その言葉が聞こえてきそうで。
それをはっきりと声にして伝える熾天使が手を伸ばし、そしてしっかりと握ってきた。

「今人々を託せるのはあなたしか居ない。同じ希望のマナを宿す同士のあなたしか!」

避けようのない、どちらも手放したくない想い。絶望したくなるような瞬間。
だが、人はそれに答えを返さねばならない時がある。
今、多くの決断の勇気を奮ってきたもうひとりの自分が、彼女の抱く愛を託してきた。しっかりと受け止める。

「・・・分かった。私の生きる意味は民を守ること。あなたの願いどおりにしましょう。父上のことをお願いします。」

だが、しかし同時に自分が諦めた希望を今、もうひとつの光に託す。
独りでは、決してなしえない二つの願い。それが今、強い握手と共に交わされた誓いに動き出そうとしている。
暗黒から導く光が今、ようやくに対立を越えて前を向き歩き出したのだ。

「でも!」

早速シャニーたちが駆け出そうとしたときだった。アンドラスはまだ手を離さずにシャニーを引き止めた。
「避難を一通り終えたら、私も登城します。それはいいですね?」まっすぐにシャニーを見つめて問うてきている。
だが、彼女には応とはとても言えなかった。父と対峙する事の悲しさを知っている彼女にとっては。

「アンドラス、君は来てはダメだ。戦いが終わるまで身を隠すんだ。」

何より、彼女には最愛の人がいる。彼を差し置いて答えるわけには。
駈け戻ってくるレイ。彼は彼女の双肩をしっかりと掴むとしっかり見つめて諭しだす。

「民のために、お父様にも生きてもらわなければならない。私から説得差し上げれば、きっと分かってくださるはずです。」

戦いに行くわけではない。熾天使が見せた光と同じように、いや、本当はずっとこうしたかったのかもしれない。
今まで愛してくれた父を、今度は自分が救うのだ。剣ではなく、愛で。

「あなた達だけでは、きっとお父様は剣を収められない。私が直接行って無事を伝えなければ。」

アスク帝国総統、誇り高き武人である父がここまで来て敵と和解の道を選ぶとは思えない。
最後まで武人として生きようとすることは目に見えている。
彼もまた、自分と同じ道を辿ろうとしているのだから。

「分かったよ、あなたの意志を私は受け止める。」

揺るがぬ決意をしっかりと見つめて、シャニーは歓迎を微笑みに載せるが、それは束の間の事。
「だけど、やらなければならないことを優先しなきゃいけない。」じっと見つめると、そこには自分とそっくりの眼差しがある。
もうそこには存在価値に飢えて怯えた弱い瞳はない。

「もちろんそれは心得ています。民の安全を確保する事を最優先にすると約束しましょう。」

世界を喰らおうとしている蛇から愛する者たちを守りたい想いは同じ。
剣を引き抜き、十字を作って誓ってみせる。一度は諦めかけた未来の憧憬。
同じ道を歩みだしたと思うと、どうしてこんなに心が渇望するのか。頼れるものが目の前にたくさんいて、自分を見つめてくる。
仲間、飛翔の翼は力強く羽ばたき始める。

「だからそれまでは持ちこたえてください。お父様はお強い。レイ、鬼神殿、それに海賊や影武者、頼みましたよ。」

父のことが、そしてその父の許へ向かうレイ達のことが心配で心配で仕方がないが、
その不安をぐっと押し込めて、アンドラスは信頼の証を言葉に篭めて頭を下げた。

「影武者って言うのは気に入らないけど任せなさい。」

レイから腕を治療してもらったエルピスはひとつ腕を回して完治を確認すると、
アンドラスに応を返しながらレイのお尻を一つ叩く。「このスケベは必ず私が守ってあげるから。」
びっくりして尻を退くレイにふっと笑いかけてやると、ありがたそうに苦笑いが返ってきた。
できればアンドラスの前でスケベだなんて言って欲しくなかったが。

「そうと決まれば早速行くぞシャニー!アルトシャンをとめて、マヴガフを抑えるぞ!」

しっかりと相棒の手を握り、ルアス城へと引くゲイル。
「はい!」まっすぐな瞳、そして力強い腕。今まで多くの危険から自分を守ってきてくれた最愛の言葉に自然と言葉が返る。
仲間として、相棒として、いや夫として、まっすぐに彼に返事を返す。
絶体絶命から帰還し、最愛と共に道を歩める幸せ。それがずっと敵対してきた者との融合への喜びが加わる。

「この戦い、誰も犠牲にはしない。させない!みんな幸せになるんだ!」

もう2年前と同じ間違いはしない。自分を含めた全てが幸せになる為に生まれてきた。
誰一人として、世界のためのギセイの為に生まれた命なんてないのだ。
強く叫び、二人の光はかけて出し、それに仲間も合わせてかついに決戦へと旅立つ。

「レイ、本当にごめんなさい。私はあなたに嘘をついてしまった。」

今生の別れではない。だが、決戦を前に分かれる愛を誓った二人は互いに手を取り名残を惜しんでいた。
「ああ、君は私を裏切った。」最愛からの裏切りと言う言葉は、胸にズシンと響いてアンドラスの目を弱らせる。

「だけど、今は君は生まれ変わった。もう、ハデスに怯える影じゃない。」

振り向く。心の底から、小さくなるシャニーの背中に感謝を繰り返す。
ずっと闇にもがき続けた心を救い上げた光。なるほど、人々が希光と呼ぶに相応しく温かく、柔らかく、そして強い。

「ええ、私もひとりの人間として愛を、幸せを守るために戦います。だから、民も、お父様も救ってさしあげたい。」

もう一度正面を見下ろせば、そこにはようやく目覚めた真澄の光が羽ばたいている。
アスクを守る光が己の意志ではっきりと言ったのだ、幸せになる。皆も、自分も。

「必ず、私が行くまで必ず生きて。
 そしてお父様を助けてください。お父様が一番・・・疲れ果てた救われるべき人なのです。」

ずっとマヴガフに縛り上げてきた。ずっと大勢の中にいながら誰にも助けを求められなかった。
そして今もきっと、父の周りには部下はおれど仲間はいない。
疲れ果てた眼差しがまぶたに浮かぶ。笑って欲しい、その祈りをレイはしっかりと受け取った。

「分かっているよ。私もシャニーちゃんもアルトシャン様を倒しに行くわけじゃない。信じるさ、最後まで。」

レイもずっとアルトシャンと仕事をしてきて、意志を聞いてきた。
彼の本当の気持ちも少しは分かっているつもりだ。彼は本当に世界のことを考えている。
道を外れたとは言え、アスクの人々を導くことのできる、必要とされる人であることに変わりはない。
シャニーもそれを分かっているからこそ、対話を最後まで求めているに違いない。

「待って!」

仲間として出来ることは、その意志を支え、共に歩む事。
名残を惜しみながらもアンドラスから手を離しだっと駆け出した途端だ。

「あなた達に神のご加護がありますように・・・。」

後ろから呼ぶ声に振り向けば、駆け寄ってきたアンドラスがそっと口付けをしてくれた。

「・・・君にも、イア様の祝福があらんことを。」

愛情を同じように返してやり、しっかりと抱きしめあう。
いつでもこんな風に愛を捧げられる世界を為すのだ、我らが手で。

「では、また会おう!」

だっと駆け出して仲間を追うレイは、もう振り向くことは無かった。「あぁ、レイ・・・。」
その小さくなる背中に、見えなくなるまで手を伸ばし続けたアンドラス。ふいにその目が強さを取り戻す。

「・・・私も果たす。己が目指すあるべきの為に!」

ずっと、嘘の仮面に隠し続けたあるべき。
仮面を棄て去った今、渇望がめらめらと心に揺らめき、描いた夢が動き出す。
彼女は残った騎士達に早速指示を出し、エルモアを駆ってルアスの町へと消えていった。
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