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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter23 信じるあるべきのために

4話:最後の会議

 ←3話:強行突破 →5話:あるべきのために
 静かに町を見守るアルトシャン。くまなく町を見下ろす眼差しは鋭くて瞬きさえしていないかのようだ。
町の中で戦火が上がる様子も無く、彼はただひたすらに来るべき時を待つ。

「戦闘音が途切れたな・・・。この様子だと親衛隊が敗れたか。」

先ほどまで城内から聞えてきていた金属のこすれあう音や錬金術の炸裂する音がぴたりとやんで、心を震わせる静寂が訪れていた。
報告はない。つまりは、もはや親衛隊の一人残らず倒されたということ。

「いよいよなのですね、アルトシャン様。」

その静寂の中に、気配もなく現れる影が姿を現した。
背後に突如現れた気配も、アルトシャンはただ町を見下ろすだけ。
気配だけで何者か察していたが、いざ声が聞こえてくると眉間にシワを寄せた。

「イスピザードか。まだこんなところをふらふらしていたのか。」

もう、一般の騎士は総員をルアス都内の治安維持に向かわせた。
城の中にはネクロ教団で構成する、親衛隊と言う名の監視役しかいなかったはずだ。
それなのに、今最もこの場にいてはならない右腕が姿を現したのである。
「あんまりな仰り方です。」もちろん、イスピザードも悲しげな表情をしながらアルトシャンの背後で跪く。

「私は最後までアルトシャン様をお支えする覚悟です。」

自分の生き方を変えてくれた恩人一人を置き去りになどどうして出来ようか。
短剣を引き抜いて十字架を作りながら忠誠を誓う。
後ろ目でその姿を見下ろして、アルトシャンはまたすぐ町の遠望へ視線を戻す。

「お前とは本当に長い付き合いだったな。今までよく私を支えてくれた、礼を言う。」

町の外では、錬金艇が交戦する様子が見える。
片方は帝国の艦だが、明らかに防衛線を張っているのは白の騎士団の艦だ。
イスピザードだけではない、その息子にもアルトシャンは感謝を含ませていた。

「なんの。もちろんこれからもお支えしますよ。一刻も早くハデスの開放を阻止し、国づくりへと戻りましょう。」

本心を口にしながら、イスピザードは主の心を探っていた。彼の言葉には、決別の意志が見え隠れしていている。
シャニーたちとの決戦を前にそれを発する意味など、ひとつしかない。

「いや、お前はこの場にいてはならない。早急に立ち去るのだ。」

案の定、彼は傍にいることを許してはくれなかった。
負け戦に大事な部下を巻き込むわけには行かないということなのだろうか。
彼が全てを言い終わると、イスピザードは立ち上がり主の傍に駆け寄った。

「どうしてですか?何故そのようなことを仰るのですか?」

何故、それを問われたアルトシャンの目元が厳しくなる。
だが、ようやくに視線を町から外した彼はイスピザードを見下ろすと重くハッキリした声で伝える。
もうこれ以上、辛い思いをしなくて良いのだと。彼はイスピザードがシャニーと交戦したことを知っていた。

「お前は実の娘と戦うことは出来まい。今まで散々苦労をかけた。たまの労いだと思ってくれ。」

今度の戦いは、死ぬか、殺すかの瀬戸際の戦いとなる。
家族同士で殺し合いをすることの恐ろしさと悲愴さを誰よりもよく知るアルトシャンは、
イスピザードに同じ道を歩ませまいと計らった。だが、イスピザードも退かない。

「どうされたのですか。今が一番大事なときであるはずです!」

配下を全て自分から遠ざけたり、自分までをも戦場から脱出させようとしたり。
アルトシャンはまるで死のうとしているようにしか思えなかった。

「お前は私の部下であるから離れられないというのか。ふっ、困った奴だ。」

あまりにもイスピザードが強く迫ってきて、アルトシャンは呆れ笑いを鼻から漏らす。
国のことを本当に考えてくれているものがいる。
彼らを今まで裏切り続けてきたというのに、それでも忠誠を誓おうとしている。
縛られ動けない自分が情けなかった。

「違います!私はアルトシャン様にご恩があるからです。そのご恩に報いぬまま去ることなど出来ません。どうかお傍に!」

シャニーたちが刃で解決を図ろうとするとは思えないが、アルトシャンは恐らくそれを許しはしないだろう。
武人として最期まで誇りを持って立ちはだかるに違いない。それを止めたい。部下として、恩を受けてきたものとして。
「ならぬ。」だが、決して主は許してくれはしなかった。

「今この場で、総統の命に背いたお前を罷免処分とする。」
「ア、アルトシャン様!」

視線を外して、再び町を見下ろし始めたアルトシャンはさっぱりと言い切った。
もちろん懇願して撤回を求めてくる部下に視線を落とすことも無く。

「大事な一戦を前に本当に一体どうされたというのですか!」

今までのアルトシャンと何かが違う。以前の彼らならば、決戦を前に総力を集結させて迎え撃っただろう。
それが今何故、すでに敗北したかのように振舞うのか。

「これでお前を縛るものは何も無い。娘の許へ行きたければ好きにすればいい。」

だが、アルトシャンにとっては、既に敗北したも同然であった。
それはもちろん、あの邪悪なる化身に、そして身動きの取れない自分自身に。
まだイスピザードには未来がある。娘を守ってやれる温かい光となって欲しかった。
仮にあるべきの為にこの戦いに勝利しても、その先は真に茨の道。
娘をこれ以上巻き込むわけに行かない。恐らくは、もうハデスの血族ではなくなったはずだろうから。

「娘の許へは赴きますが・・・それは全てが終わった後です。今は行くべき時ではないと考えています。」

アルトシャンの慈悲をイスピザードは首を振って拒否すると、共にルアスを見下ろし始める。
今はこの人々の営みを守るために全てを注ぐべき時。親子の温もりを手に入れるのは、闇を払った後でもいい。
いやむしろ、闇を払わねば永遠に温もりは返ってこないのだ。

「今はこうしてあなた様のお傍でお支えすることこそが我が天命。」

再び短剣を引き抜き、十字を作って跪く。
アルトシャンの視線が静かに町を離れ、側で忠誠を誓う男へと注がれる。
その眼差しが一段と厳しくなり、静かにマントを翻すと体も正面を向けた。
「して・・・その心は如何なるものか?」ハデスの血族であり、あるべきの為に多くの命を犠牲にしてきた。
アンドラスが生まれ、世界の素晴しさに気づいた今もなお、これからもその道を貫こうとしている自分へ何をこの男は求めているというのか。

「ハデスを封じた後の世界のあるべきのため・・・アスクを導く光を守るためです。」

躊躇いも無く、何の世辞も含ませず。
イスピザードが求めるものは、アルトシャンがあるべきの為に世界を動かす事。
ところがもちろん、それを求められた側は当惑をその表情に隠しきれなかった。

「お前は私を光と言うのか。散々地方に圧政を敷き、ハデスの復活に加担した私を。」

ネクロ教の布教禁止令を廃したことでマヴガフの暗躍が急速に加速した。
ハデスの血族として誰も愛せず、人間界の腐敗ばかりを見続けてきた男が目指したものは
世界を神に返して新たな理を引き直し世界再生を図ることだった。
今の光を否定する自分自身を、イスピザードは光と呼んだ。
だが、彼が言う光と言うのは別のところにある。

「地方の理解を取り付けるには時間がかかると思います。ですが、アルトシャン様はこれからも世界の為に不可欠なお方です。」

アルトシャンは愛することを知った。愛のためにこの世界を守ろうとしている。
だからこそ、彼はハデスを一人で抱え込み、この世界から消し去ろうとしている。
彼自身も闇の先で光となるべき人物のはずだが、それを彼は拒んでいた。
武人として、最期まで誇り高く、潔く生き抜くために。

「どうかこの戦の以前を思い出し、国の為に戦ってください。これからは・・・愛した者を守るために。」

ダガーをしまうと、何度も何度も頭を下げるイスピザード。
この額は地面について、ぶつかるたび聞えてくる音がアルトシャンを揺さ振る。
ここまで自分を必要だと心から言ってくれる者が、過去いただろうか。
「お前という奴はどうしてそこまで・・・。」思わず目じりに浮かぶ熱いものを悟られぬよう拭う。
― 愛した者の為に。
脳裏に浮かぶのは、あの朗らかで、慎ましやかな笑顔。あの笑顔の為に人々が生きることを許してくれるというのか。

「分かった、そこまで言うのであれば罷免は撤回する。」
「はっ、ありがたき幸せ。」

主の決断にイスピザードは涙を隠さず慶び、再び頭を下げる。
そこへさっと差し出された手。見上げればアルトシャンの厳しい眼差しがあった。
配下としてではなく、国を守る同志として彼はイスピザードを立ち上がらせたのだった。

「ロダシャナキ卿の血を引き継ぐアルトシャン様なら、きっとよい国をお創りできると信じております。」

ようやくだが、ほんの小さな一歩だが、未来へと歩みだした。
このアスクの英雄がいなければ、ハデスを倒した後にこの国を導けるものがいない。
ルケシオンがあそこまで復活したのは、光を束ねる翼があったからだ。
英雄ではない、一人ひとりの想いを形に変え道を作る翼。それがこのアスクにも必要なのである。

「もちろんだ。私はハデスにこの世界を委ねたりはしない。その為にも・・・この一戦は負けるわけには行かぬ。」

ところが、それでもなお戦おうというのだろうか。
いや、やむを得ないのかもしれない。ここまでハデスの復活が進んでしまっていては選択を量るしかないのだ。
ハデスを打ち滅ぼすか、復活の鍵を滅ぼすか。

「そして・・・おまえもやはりこの場にいてはならぬのだ、イスピザードよ。」

再びじっと見下ろしてくる剣帝の眼差しは実に鋭いもの。
そして、それは拒絶を許さぬといわんばかりの覇気をもって貫いてくる。
「どうしても私をお傍には置いていただけないのでしょうか・・・?」そこまでする理由が、もう彼には思いつかなかった。
困惑と悲しさを目元にたたえて、彼は主を見上げ懇願した。彼から視線を外し、部屋を出て広間へと向かうアルトシャン。

「私はここで彼らを迎え撃たねばならない。だが、もっとしなくてはならないことが別にあるのだ。」

決戦の場所へと向かうアルトシャンの足取りははっきりとし、一歩一歩踏みしめるようだ。
だがそれでも、彼の不安は既に別の場所へと向かっている。
ここで果たすべきは帝国の総統としての責。

「そういうことであればお任せください。必ずやアルトシャン様のご期待に応えて見せましょう。」

今の一言で、もう既にイスピザードには主が何を求めているか察していた。
静かに頭を下げると、それ以上主の後を追従することをやめた。
今も頭を下げる彼に一度立ち止まり、後ろ目で命を下す。

「マヴガフを追うのだ。情報によれば白の騎士団も今帝都に姿を現しているようだ。」

予想通りの命が下りた。本当はアルトシャンもあの邪悪を追いたいのだろう。
だが、あまりにもやるべきことがひとりでは多すぎた。まずはあの熾天使のマナを見定めなければならない。

「つまりそれが意味するところは・・・今マヴガフを監視出来ているものが誰もいないということだ。」

今まではセインが多くの役割を担ってくれていた。だが今は彼の手さえも借りなければならない状況。
己の失敗に言葉を重くしながらもアルトシャンは冷静に現状を分析し、先の一手をこの右腕に託したのだ。
光を裁いた後も、光に敗れた後も辿らねばならない道筋を起す為に。

「なるほど、それは一大事にございます。分かりました、私めがマヴガフを追います。」

娘のことは心配だ。だが、彼女ならきっとうまくやってくれると信じた。
あの調和の光で、この愛の為に剣を握る固き武人の誇りと向き合ってくれると。
今は彼女を、そして世界を守るために最も為すべきを果たす時。

「頼むぞ、このままでは奴は本当にハデスを復活させる。」

今までの言動からして、いつその時が訪れてもおかしくはない。
その前に、その前に、何が何でもその復活の鍵を破壊してしまわなくては。
もうすでに、あの男は手に負えないところまで神に近づいてしまっている。
数万の兵を送り込んでも無意味だ。そんな使命をたった一人に任せることへの罪悪感を今は威厳に隠す。

「はっ、アルトシャン様もご武運をお祈りしております。では、また全てが終わった後に!」

ふっとその場に風となって消える、かつて盗賊王と呼ばれた男。
彼は暗に言い残していった。必ず生きて、生きて欲しいと。
難しいことを言う。ふっとひとつ口元に笑みを浮かべたアルトシャンが前を向くと、そこにはあったのは厳しい剣帝の眼差しだけだった。

「イスピザード・・・すまぬな、お前にも苦労をかけ続けた。」

もう誰もいないエントランスで、アルトシャンは聞えずとも右腕に詫びた。
紆余曲折あった。あるべきの為に突き進んできたつもりだった。だが、愛を見つけた今、目指していたものが恐ろしい。

「だがお前は理解してくれた、お前の忠義、私は忘れぬ。」

それでも、世界の未来の為に今為すべきは変わっていない。
ハデス復活の阻止。それこそが今なすべきこと。
これから待つ決戦で勝利するも敗北を喫しても、結果鍵は破壊される。
願わくば勝利し、娘と共に未来を歩みたい。

「アンドラスも大した娘だ・・・まさか一人で錬金術研究を亡きものにするとは・・・。」

最初は何もできない、何も愛することも出来ない本当の人形だった。
だが、もう今では自分の後を託せる自慢の娘だ。
このルアスの中のどこかにいるというのに、その眼差しが恋しい。

「シャニーが今ここに向かいつつあり、
 そして奴にアンドラスが討たれたと言う報告もない・・・きっとうまく行ったのだな。」

アンドラスがシャニーと激突することはアルトシャンも予想はしていた。
だが、彼は敢えてシャニーがアンドラスを攻撃する事を防がなかった。
すべては彼女の未来のため。そしてその思惑がうまく言ったならば、もう何も心配はない。

「アンドラス・・・お前だけが私の希望だ。お前は強く生き、国を支えていくのだ。もはやお前を縛るものは何も無い。」

この声は娘には届いていないかもしれない。
だが、こうした声なき声を娘は耳を傾け受け止めることが出来る。
大勢の声を受け止め、共に未来を創っていける若い力が今この国にはある。
これほど心強いものはないではないか。「後はこの世界を創ってしまった我々オトナが・・・清算するのみ。」
そんな若い者達の足にまとわりつく黒い影。今自分が出来ることは、その闇をもろとも葬り去ることだけだ。

「来い、希光よ。ハデス復活の阻止には、私か貴殿か・・・鍵である我々いずれかが消えねばならぬ。」

少しずつ大きくなる駆け足。ハデスの血か、活性の光か。あの男を阻止する為の決断の時。
それは同時に、人間を管理するか、信じるか、世界の分岐を決める時でもある。
戦いに来るわけではない調和の光に敢えて剣を握りなおす。

「どちらの信じるあるべきが世界を創っていくべきか、今こそ決める時だ。待っているぞ。」

確実に大きくなってくる足音、そして互いを呼び合う者達の声。
訪れるその時を前にそっと目を瞑る。思い出されるのは娘との時間。
もう戻れない幾つもの日々。これからもっとたくさんを創るべく、彼はその時を待った。
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