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 ←8話:帝の帰還 →1話:決意の聖痕
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「ChaosTrigger~天神復活と破滅の魔道書~」
Chapter23 信じるあるべきのために

9話:暗黒の飛翔

 ←8話:帝の帰還 →1話:決意の聖痕
「アァ~クセェ、クセェ!芝居はようやく終わったかァ?!」

突然に穏やかな空気をかき乱す、神経を逆撫でる好戦的な声。
一気に戦場へと引きずり戻された者達は一斉にあたりを見渡し始める。

「その声はマヴガフか!どこだ、どこにいる!」

拳を握り締めて構えを作りながら相手の気を探り怒鳴るゲイル。
だが案の定、この場にあの禍々しいマナはなくて、刺すような鋭い眼光が天空の遥か彼方から突き刺してくる。

「テメェらが想定どーりに動いてくれたおかげでマジ楽だったわ!礼を言うぜェ~?ヒャハハハ!」

ゲラゲラと嘲り笑う声がエントランスに響き、彼らを包み込む。
もはやその声はかつて五賢刃として仕えた紳士的なものではなく、本性を顕にした悪魔の哄笑。
甲高い声が耳を劈き、シャニーは怒りを噛締める。

「マヴガフ、一体何をしようとしているんだ!ハデスの鍵はもうこの世から消し去ったぞ!」

手にした弓をぐっと天へと突きつけて見せ付けてやる。
「バ~カ!」途端である、ますます悪魔の狂喜が喉が裂けんばかりに空を包む。
まるで余裕を崩さないマヴガフに、シャニーの顔にも不安がよぎる。

「テメェのママゴトで俺様を止められるとでも思ってんのかヨォ!!」

まるで次元の低い連中である。今までは利用価値があったから生かしてきたものの、
これほどにレベルの低い連中に合わせるのにも随分骨を折ったものだ。
正義、正義とチャンバラゴッコに命をかける。無知とは幸せなもの。
何も変わりはしないのに。迎える運命は、自分が握っているのだから。

「聞えてるか?ロダシャナキんとこの死に損ないヨォ!テメェのマナ、よぉ~やく回収できたわ~。」

どこかのチンピラかと思うような馴れ馴れしく、蔑んだ絡みつくような声。
彼は嬉しそうにアルトシャンを呼び、舌なめずりするとまたケラケラ笑い出す。
だが、舐められた方は思わずうっとすると、とんでもない事実に表情を失う。

「まさか私とアンドラスの?!くっ、マヴガフよ、一体何をしようとしているのだ、答えよ!」

彼が回収したと言っているのは、恐らくはハデスの血族としてのマナに違いない。
もしかしたら、マヴガフはこのタイミングを狙っていたのかもしれない。
手のひらで踊らされていたと分かると、怒りが顔を朱に染める。
あの男のために、どれだけ娘が悲しみ、そして自分が胸を痛めたか。

「いつまで総統気分なんだよテメェ!」

だが、返ってきた言葉はその心を蹴り飛ばすような荒々しいものだった。
威嚇に牙をむく蛇眼が見えないのに睨んできている気がする。

「クソ羽如きに勝てねぇテメェがハデスの一族??
 恥曝しって知ってるカァ?!素直に死んどけば生き地獄を味わわなくても良かったのにヨォ、マゾな奴だぜ!」

二重人格と思うほどに壊れた挑発的な言葉がこれでもかと襲い掛かる。
天を劈く奇声。腹を抱えて笑っていることが易々想像出来て誰もの顔に怒りが滲む。

「人間の分際で俺様を止めるとかマジ受けるんですけどォ!テメェらの運命は俺様が決めんだよ!」

人間はいつでもそうだ、世界の中心に必ず自分がある。
そしていつでも自分の下に正義があり、常に真実を自分のみが見つめていると錯覚する。
考えれば考えるほど、愚かしくて笑いが止まらない。
嘘の楽園で生かされる操り人形がやれ正義だの真実だの。

「そんな事はない!私たちがお前を止める!ハデスを復活なんてそんなことはさせない!」
「テメェに何ができんの?ねえ何が出来んの?言ってみ、それ言ってみ?ヒャハハハ!!」

愚の象徴、希望の熾天使がついに食いついてきた。
その言葉の何と力強い事か。善神に作られた操り人形の筆頭の言葉が力強ければ強いほど、
マヴガフの口元は釣りあがり、嘲笑が空にこだます。
これほど強い希望なら、最高に楽しいショーで極上の絶望を舐め取れる。
楽しみだ、実に楽しみだ。楽しくて楽しくて体は震え、よろけて、
マヴガフは腹を抱えて体を捩じらせながら空を仰いで狂喜を叫び続けた。

「散らばってた俺様のマナがあり、そして・・・その器もテメェらのマナのおかげで完成した。
 後はウゼェ封印をぶっ壊すだけなんだぜ!」

アルトシャンたちは本当に良くやってくれた。
彼らのおかげで随分と時間を作れたもので、すでにメインショーの準備は整った。
後は役者が揃うのを待つだけ。だからこそ、こうして招待しているのだ。

「残念だったわね。私たち精霊がいる限り、封印を解くことは叶わないわよ!」

だが、エルピスの高飛車な笑みがマヴガフの狂喜を嘲笑った。
一度はその鼻につく女の勝ち誇った笑みに舌打をしたマヴガフだったが、
すぐに蛇の如く口元が狂喜に裂ける。ここにも一人いた、極上の恐怖を味わわせてやりたい相手が。

「おいエルピス、そこで指をくわえて見えてろや?もうテメェらが何をしようと意味ネェんだよ!!」

ゲラゲラと笑うマヴガフからついに邪悪なるマナが堪えきれずにあふれ出し、
あっという間にこのルアスにさえもその波動が吹き荒れて明星の空を曇天に包み込む。

「なんですって?アリアン、封印の様子に変化はないわよね?」

これはただの虚勢ではない。吹き荒れた破滅のマナに不安を抱いたエルピスは
早速相方に状況を確認し始める。その顔に滲む不安を舐めるように見つめる蛇眼。
彼の視線はすぐに別へと向けられる。
もっともっと、彼女達古からの宿敵の顔を絶望で沈めて楽しむ為に。

「アルトシャンく~ん、キミは思い当たる事あるよナァ?俺様が暇で各地を飛び回っていたと思うか?」

絡みつくような声が降り注ぐ。ぐっと唇を噛み、その声を浴びていたアルトシャン。
怪しいとは思っていた。だが、気づいた時にはもう手遅れだった。
マヴガフの行動が明るみに出たときには、もう既に身動きが取れなくなっていた。

「お前は暇を見つけてはあちこち奔走していたが・・・まさかハデスの復活のためだったとはな。」
「ルアス、スオミ、ミルレス、そしてサラセン・・・。
 五賢刃がエルピス共の注意をひきつけてくれたおかげでスムーズにことが進んだわ。」

いつでも騒ぎの裏で暗躍し続けた。
全てが思い通りになってさぞご機嫌なことだろう。声が弾み神経を逆撫でる。

「フェアリーゼも、ヤアンさんも、アルトシャンにアンドラス、それに兄さんやお父さんまで・・・!
 あなたのせいでどれだけの人が苦しんだか!」

彼の野心のせいで多くの人間を利用されて争いに飲み込まれ、要らぬ悲しみや血が流れた。
これ以上は黙っておれず、怒りを吐き出すシャニーを嘲笑う声。

「全ては俺様のため、人形がどれだけ壊れようと知ったことじゃねーよ。」

善神の進化のために創られた人形、所詮道具が何を一丁前名ことを。
少々違うとすれば、善ではなく悪神が道具を使っただけであり、
道具にとって見れば神界の役に立って道具冥利に尽きるはずだろうに。
ガラスに爪を立てたような邪悪な笑いがこだましてくる。

「大丈夫だ、安心しな。俺様が復活したら、ぶっ壊れた分は再生してやんよ。
 もちろんまたぶっ壊すけどナァ!ケヒヒヒッ!」
「・・・下衆が!!」

愉快に堪らず腹を抱え、天を見上げて叫ぶ悪魔の声が響き渡り、
ゲイルは思わず怒りを握り締めて拳から煙が上がる。
その様子を蛇眼で見下ろしたマヴガフの口元がさらに蛇の如く裂け釣り上がる。
愉快、実に愉快。そして快感だ。彼らの怒りが、絶望が、どくどく自身に流れ込み、力が漲る。

「いまやすべての準備が整った!
 そして今、散らばっていた俺様のマナと創造のマナも手元にある。感謝するぜ~!」

動きの悪い連中に合わせるのにはずいぶんと骨を折ったものだが、
これでもう、この道具たちともオサラバだと思うと気分がいい。
彼の勝利宣言とも取れる快哉にゲイルが吼えた。

「なんだと?!シャニーもアンドラスもここにいるってのに、創造のマナが手に入るわけないだろ!」

アンドラスを配下におこうとしていたのは、創造のマナを得るため。
今その彼女が今この場にいるというのに、一体何故。
ケラケラと笑う声が耳に触る。マヴガフは冥土の土産をくれてやることにした。

「俺様がな~んでその人形を生かしていたと思う?わかんねえよなぁ!」

最高のショーが目の前に迫り、興奮を隠し切れない。
見ろ、人間共の絶望を。だが、こんな仮初の生温い絶望などほんの前座。
彼らが真実を見たとき、どんな顔をするだろう。面白すぎて息が苦しい。

「マナを回収するときに、同時に創造のマナをいただく為よ! 血の浄化をしようとすることなんざお見通しなんだよバカめ!」

誰もが表情を失い、瞳が固まる。全てがあの男の掌の上。
マヴガフはアンドラスに血の浄化を図る瞬間をずっと待っていたというのだ。
何もかもが全て、愛した事も、憎んだことも、全てが全て、あの男の描いた筋書き通りだった・・・。
違う、違うかもしれないが今、目の前にある現実は拭えなかった。

「見ろよ!我らネクロ教最高傑作を!なんってなァ!!」

それでも何とか否定しようとする愚かな人形共に、真実を見せてやることにする。
ふいにぼうっと燃え上がる紫焔。そこ映し出されたのは、
マナに蒼髪を逆立ててその彫りの濃い鋭い蛇眼で覗き込んでくるマヴガフだ。
彼は覗き込みながら手を後方へ伸ばして彼らの視線を絶望へと誘う。

「これは・・・一体・・・。」

黒くて巨大な物体がそこにある。最初は何か分からなかったが、
紫焔に映し出される光景が徐々に視線を高くしていくと、何か生き物である事が分かってくる。
そしてついに、今はまだ眠る目を見つけたときシャニーは息を飲んだ。

「ふっふっふ、面白れえよなぁ。生ける者全てに分け隔てなく希望のマナは降り注がれる。
 例えそれが敵対する相手であろうとも、熾天使が生きている限りな。」

まるでお前が創り上げたと言わんばかりのマヴガフの言葉にシャニーの体が震えてくる。
にっと一つ笑ったマヴガフは映った生き物の全体を映し、正体を叫ぶ。

「これこそが創造の錬金術から生まれた最強の生命体。様々なドラゴンの長所を織り込んだ至高の器!」

すぐには言い放たれた真実を飲み込むことが出来なかった。
だが、映し出された生き物は確かに邪悪な翼を畳み今も眠っている。
この世界のどこかに、この恐ろしい悪魔が生まれてしまったのだ。

「創造のマナで命を注ぎ込んで俺様が融合する!何が起こるか分かるかァ?!」

だが、まだ生まれただけ。
本当のショーはこれからと、マヴガフの狂喜が最高潮に吼え、目をぎらつかせて口が哄笑に裂ける。
「笑いが止まんネェ、ギャハハハ!」見るからに恐ろしい力を持っていると分かる巨大さ。
これにマヴガフが、ハデスが融合するというのだ。その後どうなるかなど易々想像がつく。

「そうはさせないわよ!いくら器があろうとも方陣がなければただのお人形よ!」
「鈍クセエ精霊だな。俺様のダイモニオン・エムブレムがありゃ、造作もねえよ。」

エルピスがまっすぐにマヴガフを指差して彼の野望を否定して見せ、
マヴガフも呆れ顔で黒の魔道書をエルピスに見せ付ける。が、それでも動じない。
神界のマナを使っての命の創造など、それ相応のマナと方陣が必要だ。
マナは確かに彼の手元にある。だが、そんな巨大な方陣など描けるはずもないのだ。
方陣さえなければ、自分達精霊がこの下界にいる限り、ダイモニオンとのリンクなどできないはず。

「わかっていないのはあなたね。いくらその黒の聖典があろうとも、結界を打ち破るほどの・・・?!ま、まさか!」

ところが、エルピスは得意げにマヴガフに言い放っていたその中で気付いてしまう。
突然高飛車が止まり、見開かれた翠緑が震えだす様にふっと笑うマヴガフ。

「ふふふ、やっと気付いたのかよ。俺様は今まで各地を回り、輪廻転生術の方陣を引いてまわっていたんだぜ!」

何も黒の魔道書の開放を進める為だけで時間を使っていたわけではない。
全てが、このショーのための下準備の時間。
善の僕共がやれ正義だの愛だの御託を並べる間に、随分と時間を稼ぐことが出来た。

「そして今・・・ここルケシオンでその線は完成し、ひとつの陣となる。」

またひとつ、彼らに絶望を浴びせてやる。
彼らがいるのはルケシオンからは遥か遠いルアス。
今、彼らの手の届かないところで、絶望の印が結ばれようとしているのだ。
どんな気持ちだろうか、考えるだけで口元が悦に釣り上がる。

「ば、ばかな・・・父さんたちがいるはずのルケシオンに何故お前が・・・。」

一番に声を上げたのはシャニーだった。
ルケシオンは父をはじめとして磐石の守りを誇っているはずだった。
それなのに、こんな邪悪な男の侵入を許してしまうなんて。父たちの安否が気になって、彼女の顔は蒼褪めていた。

「そういえばルケシオンの海賊達が帝都を守るためにセイン様と合同で戦っていましたわ!」

帝都防衛戦を思い出してデムピアスの遠征を伝えるアンドラス。
それを聞いたシャニーは唇を噛んだ。ノカン達の侵攻さえもが、恐らくはマヴガフの仕業。
デムピアスらをルケシオンから遠ざける為に仕組まれたものだったに違いない。
今も彼に糸を引かれ、操られているかと思うと悔しくて拳が震える。

「バカな連中!リステヒンもデムピアスも同類だぜ、同類!目先しか見えてねえ!」

ゲラゲラと笑う声はシャニーを煽るかのようだ。だが、これだからこの人間という道具は使いやすい。
目の前しか見えないから、ちょっとエサを撒いてやればすぐに群がってくるのだ。
父を貶され、怒りで睨み上げてくる熾天使の無様な顔を舐めるように見下ろしたマヴガフは満足そうに目線をきる。

「さて・・・メインショーの前にまずは実験をしねーとな。魔法陣が役目を果たすに足りるものか・・・。」

飛び切りの憎悪、絶望。彼らから湧き上がる負のマナを味わいながら、彼はダイモニオン・エムブレムを手に取る。
もっと楽しみたいではないか。次は・・・恐怖と真実と言うものを彼らに味わわせてやろうと、横目でもったいぶりながら彼らの反応を楽しむ。

「テメェらのお友達をここに招待してやるとするか。ふふふ・・・そこで見てろや。」

一体何が始まるのか、恐々とした眼差しで紫焔に映るマヴガフへ視線を注ぐ。
その不安と恐怖に塗れたマナたちを全て黒き聖書へ取り込むと、彼は魔道書とマナの融合を図る。

「ダイモニオン・エムブレムオープン・・・リミッター解除。
 セイクリッドポータル接続・・・各ストロングフォルト連結!全方陣展開!」

マヴガフがダイモニオン・エムブレムを起動した途端だ。
空に邪悪なる赫赤の魔法陣が浮かび上がったではないか。
「な、ななな、なんだ?!この地響きは!」その魔法陣から降りてくる赤き光が大地へと突き刺さり、血の如き赤き道を作っていく。
ゲイルでさえも悲鳴を上げる大地に揺さ振られてよろけてしまい、慌ててシャニーをそばに引き寄せる。

「くっ・・・吐き気がするわ・・・っ。このマナは・・・う、うあああ?!」
「エルピス?!」
「チャッチイ結界だなぁ?オィ?」

その横で悲鳴を上げるエルピスに声をかけたときには、もう彼女は膝を突いていた。
頭が割れそうなほどの激痛に襲われ、頭を抱えのた打ち回る。
その様子をそばで見ているかのような甲高い悪魔の哄笑が響く。

「いいぞ・・・出でよ!俺様の忠実なる下部よ!」

いとも簡単に精霊の結界を破壊したマヴガフは、そのままの勢いで下界に結んだペンタクルと
天界から降り注ぐ光を連結させて地上に方陣を完成させた。
もう、止められる者は居ない。それを見せ付けるかのように、彼は魔法陣から巨大な何かを召喚する。

「・・・くっくっく・・・私はこのときを待っていましたよ!」

邪悪なる飛翔。赤き翼が魔法陣から飛び出してきて、その猟奇的な眼差しが水晶越しに宿敵の姿を見つけて歓喜を叫ぶ。
さっと着地したメタルゴシック調のコートに身を包んだ男は、長い髪を払うと
視界に映る金髪の乙女をその赤き瞳に移して面長に挑発的な笑みを浮かべた。
「フ、フェンネル?!」それは2年前の戦争で封印したはずのハデスの化身だった。

信じられない光景が目の前に映し出されている。あの悪魔を封じる為に一体どれだけの血が流れたか。
それが今、あの男はいとも簡単に蘇らせて見せたのである。

「フェンネルだと?!くっ、マヴガフ、貴様本当にハデスを復活させるつもりなのか!」

フェンネルはハデスの使徒であり、かなり神に近い高位の悪魔だ。
― 今更そんなこと聞くんじゃねーよ?
見下した笑いを鼻から抜いて焦燥と叫ぶメルトをなめるように見つめるマヴガフ。
連中はまだ分かっていないらしい。この程度、ただの前座に過ぎないことを。

「シャニー?元気にしていたか?くっくっく・・・今度こそ貴様を頭から噛み砕いてやるぞ!」

封印の中に閉じ込められている間、ずっとあの小娘の顔ばかり思い描いてきた。
そう、自分をアストレアで射抜いたあの憎き熾天使の顔だ。
いつでも思い描いては、形がなくなるまで自らの爪で引き裂いた。
それが今、実現できるのである。邪悪なる笑みが黒く滲み、滴り、溢れ出す。

「バ、バカな・・・フェンネルが・・・蘇るなんて・・・。」

刺し違える覚悟でようやくに封じた悪魔。それが今目の前であっさりと。
色を失った瞳が震えて、シャニーはこれが夢であればと何度も心の中で祈った。
それを見切ったマヴガフはひとつ笑うと蘇らせた使徒に早速命を下す。

「おい、出来損ない、シャニーのとこに行って遊んでやれや。」

夢、確かに夢だ。悪夢と言う名の現実だ。
そしてこれこそが真実、嘘の鏡の中でぬくぬく生きてきた連中が見るべき真のあるべき。
まずは今まで信じてきた真実が嘘だと言うことを教えてやるべく、
絶望を味わわせてやろうとしたのだが、フェンネルの握る短剣はマヴガフへ。

「復活させていただいたのは感謝していますよ。でも・・・ッ。」

さすがハデスの化身か、電光石火に繰り出された一撃は正確無比にマヴガフを狙う。
だが、マヴガフはポケットに手を突っ込んだまま
迫り来る短剣をその彫りの濃い蛇眼で睨み好戦的な笑みで睨み据えたまま。

「お前のような人間に指図されるのは気に触りますねえ!」

肉を抉る感触が伝わってくるはずだった。
「?!」ところが、突如マヴガフを守るように目の前に浮かび上がった短剣。
その刀身にぼうっと紫焔が吹き上がると蛇頭と化してフェンネルの短剣に喰らいついた。

「テメェ、俺様が誰か分かってねえのか?化身の分際でヨォ・・・どうなんだ、アァ?」

シャニー達を苦しめたハデスの使徒だが、今回はあまりに相手が悪すぎた。
マヴガフのマナが具現化し、無数の邪蛇が彼を取り巻き喰らいつくその時を今か今かと待ちわびる。

「こ、このマナは?!」
「死にたくなきゃ命令に従うことだな?ヒヒヒ。」

自身に命を下すとはなかなか面白く、マヴガフの口元には悦がたっぷり滲む。
以前の自分が目の前にいる。だが、自分はフェンネルとは違う。
この出来損ないの使徒の体から抜け出したハデスのマナは、
悪神界の理を司る魔道書を操るいわば悪神界の理そのものとなった。今、ようやくに神に“戻った”のである。

「仕方ないですねぇ。」

眉をゆがめながらも大人しくマヴガフに従う。
フェンネルも分かっているのだ。ハデスのマナを失った今、マヴガフに勝てるわけがないことは。

「ま、でも・・・ハデス様のご命令なら、思う存分切り刻めるというものですよ!!」

だが、今また神は加護を与え、この世界に自らを呼び戻した。
その力を見せつけるように今まで封印の中で溜め込んできた憎悪を暗黒のマナと融合させて爆発させた。
迸る黒き波動。周りを全て死滅させ、砕き、塵と化す邪悪なるマナが迸って空を震わせた。

「やべえぞゲイル。ルアスにまで今のフェンネルのマナの波動が押し寄せたじゃねーか・・・。」

遥か遠いルケシオンで迸った咆哮が今、このルアスの地を駆抜けていった。
ごくりと息を呑んだレイが悪友に声をかける。だが、ゲイルから返ってくる言葉はない。
ただルケシオンの方角を見つめ、息を詰まらせるばかり。

「シャニィー!?たっぷりと遊んであげよう!待っていろ、今から迎えに行ってやりますよ!」

2年前より随分と女らしくなった顔を水晶越しにのぞこんだフェンネルは舌なめずりして悦を叫ぶ。
きっと今彼女の腹に短剣を突き刺したらあの頃よりもっといい声で歌うに違いない。
暗黒のマナに全身を包み、悪魔の姿へと戻ると赤き翼を駆って飛び出す。

「いけない!みんな、急いでルケシオンへ戻ろう!フェンネルに好き勝手を許したら人々に犠牲が出ちゃう!」

彼の飛翔に真っ先に反応したシャニーは仲間に次の目的地を叫ぶ。
彼がルアスに及ぶその前に迎え撃ち、食い止めなければならない。
今の自分たちならきっとできる、そう信じて誰よりも早く一歩を踏み出す。
「合点承知だ!エルピス、大丈夫そうか?」相棒の拳に自らの拳を合わせて、意志は同じことを伝え、
ゲイルは今も膝をついたままのエルピスの横にかがんで肩を貸してやる。

「くっ・・・頭がズキズキするけど・・・そんな事言ってられないわ!名医もいることだし、道中で回復させるわ!」

最も毛嫌うマナに自身のマナの流れを引き裂かれてダメージは大きい。
だが、世界の最大の危機を前に今立ち上がらずにどうする。己を叱りつけて立ち上がったエルピスはレイに手招きした。

「おっけーおっけー、エルピスのお姉さまの為ならオレ様ひと肌もふた肌も、いや全裸でも・・・。」

任せてくれと一言言うだけで、どうしてこの男はこんなにも喧しい。
ぎっと睨みつけてやると、彼は背筋をそりあがらせて手を上げる。

「おいおい冗談だって!」
「こんな時に冗談を言っている暇があったらとっとと治療に入れ!」

メルトからも叱られてしまい、しずしずとエルピスの治療に入る。
その間も止まっていることは惜しく、既にシャニーたちは歩き出していた。
メルトもその後を追おうと一歩踏み出した時だ。

「メルト殿、我々もルケシオンへ同行させてはくれまいか?」

そこには娘の肩に手をやりながら、まっすぐに見つめてくる総統の眼差しがあった。
その眼光はこれまでの冷酷な剣帝のものとはどこか違う、
だがそれでいて以前よりますます強い意志を放って戦友へと訴えかけてくる。

「マイソシアを蹂躙されることを黙って見ているわけにはいかぬ。」
「シャニー!私からもお願いします!もうこれが悲しみの終わりになるように私も力になりたい!」

父の横から飛び出すかと思うほどの勢いで、ぐっと両手を胸元で握りしめるアンドラス。
今こそ、愛する者を守る為に戦う時。そう決めた覚悟の眼差し。
相手が神界の力であることは、絶対的な力であることは分かっている。だがそれでも、守りたい。

「もちろんだよ!人々を守りたい気持ちは同じ!ようやく一緒になれたんだ、がんばろうよ!」

拒む理由がどこにあるだろうか。今までずっと同じものを目指してきた。
それがただ、すれ違ってきただけ。今そのすれ違いはなくなり、同じ道を歩む仲間となった。
さっと差し出されたシャニーの手。仲間を迎え入れる笑顔に吸い込まれるようにがっしりと握手した。

「アルトシャンもアンドラスも、敵の時は厄介だったが味方となればこれほど頼もしい剣もない。」

その横から伸ばされたのはメルトの手だった。
ようやくに、自分が知っているアルトシャンに戻ったことをその表情から、言葉から悟り彼は仲間として彼を迎え入れた。

「頼むぞ。」
「うむ。また貴殿と背を任せあうことになろうとは思ってもいなかったが、今はとても晴れ晴れした気分だよ。」

何か、どこかずっと歪んでいたものが正されて、まっすぐに戻ったようだった。
敵対していた者たちが融合し、手を取り合う姿を見たシャニーはひとつ頷く。
これこそ、自ら目指し続け、これからも目指すもの。その為の大きな戦いへ、彼女は駈け出し、ルアス城を後にする。



「シャニー!無事だったか!」

外で待っていたセインは、妹の姿を見つけるや否や駈けだす。
共にいたヴァンもまた、ふっとひとつ笑うと持たれていた壁から身を起こして後を追う。
「・・・やはりあいつはその手を選んだのか・・・。」何も変わっていない。甘いところも、その甘さに多くの人々を惹きつけるところも。
アルトシャンが彼女の後ろを追って出てくる姿に全てを察したヴァンは、内心ライバルに拍手を送った。
彼女はアスクの未来を守ったのだ。民に仕える騎士として、素直に感謝する。

「アルトシャン様・・・。」

セインもまた、アルトシャンと生きて再開したことに言葉を詰まらせていた。
一体どうやって切り出せばいいだろう。

「お前にもずっと苦労を掛け続けた。無能な剣帝を許してほしい。」

だが、先に均衡を破ったのはアルトシャンだった。
彼はセインの顔をまっすぐに見て詫びたのだ。目を真ん丸に見開くセインに手を差し出して。

「な、何を仰います!私こそ・・・申し訳ありません。言葉でいくら詫びようとも贖罪にはなりませんが。」

差し出された手を取る資格など、国を裏切ったものにはない。
深々とアルトシャンに頭を下げたまま詫びる。本当は自分から先に詫びねばならないのに。
だが、その彼の前にずいっと更に差し出された手。

「セイン、こんなことを言うのは実に身勝手だと分かっている。だが、また私と共に戦ってはくれまいか?」

騎士団の中で誰よりも信頼し、息子のように手塩にかけて育ててきた。
それなのに、自分は部下の言葉を聞かず、部下は背を向け去って行った。
目が覚めた今、互いの過ちを赦し、アルトシャンは再び国の、世界のあるべきの為にセインを求めたのだった。

「これほど名誉なことが他にあるでしょうか!ぜひ、剣帝の剣として!」

セインもまた悟っていた。アルトシャンが、自分の知る敬愛するアスクの英雄に戻った事を。
差し出された手を包み込むようにして英雄の帰還を祝福した。

「うむ、頼む。」
「アルトシャン様とまた同じ道を歩めるなど、夢にも思っていませんでした。」

お世辞でもおべんちゃらでも何でもない、心からの歓喜。
ずっと自分のことを厳しくも、いつでも目をかけて育ててきてくれた恩師。
違えたままではなく、再び交わった道に感謝するばかりだ。
「ヴァン、貴殿もお願いできるか?」セインと握手しながら、ヴァンにも声をかける。
時間の無駄と言いたげにイライラと腕を組みながらこちらを睨んでくる彼の答えは相変わらずぶっきらぼうなもので、
その口調は弾みも沈みもしない。「オレは元々あんたになんか槍を捧げたつもりはない。」

「ヴァン!」

こんな時にまで彼のマイペースが出てしまい、すぐに叱るセイン。
だがヴァンの態度は相変わらずで、視線を逸らしたまま顔を見ようともしない。
見かねてセインが彼の許へ行こうとした途端だ。

「オレが槍をささげたのはアスクの民だ。
 お前が改心しようとしまいと、オレのやるべきことはなんら変わらない。」

視線を逸らしていたわけではなく、ヴァンが見つめていたのは街だった。
常に民に目を向ける彼にとっての正義は民を守れるかどうか。
それ以外に秤はないと、彼はきっぱりと言い切った。

「よく言ったヴァン。さすが絶対の守護者を継ぐ者だ。」
「フッ、年寄りは引っ込んでいるんだね。頼むから足手まといにだけはならないでくれよ。」

息子の成長を褒めるメルトだが、どうにも素直にはなってくれない。
鼻であしらうとヴァンは背を向けてしまった。それでも、しっかりとその視線は街を向いて。
神の加護を受けた守護者かどうかなど関係のないこと。
俺は俺の道を行く、背中がそう語っている。

「その心意気やよし。ルケシオンまでは距離がある。軍の錬金艇で一気に突撃しよう。」

アルトシャンは一行を引き連れて内門を抜け、中庭を通り外門の上を急ぐ。
その時だ。不意に下から轟いてくる声。それらは間違いなく自分の名を呼んでいる。
立ち止まり、見下ろせばそこにはルアスの民が広場にひしめいて口々叫んでいた。

「見よ、アルトシャン。人々の歓声を。彼らはこの瞬間を心待ちにしていたのだ。」

かつてのように横に並び、民達の声を受け止めるメルトとアルトシャン。
まるで自らが犯した罪を民が許してくれるかのようで。
改めて、人というものが持つ力を目の当たりにして思わず目じり熱くなるアルトシャン。

「お父様、民はお父様のことを慕っています。そしてシャニーたちとの協力を望んでいます。」

そっと目を瞑り、声の一つ一つを聞く。名前を呼んでくれている。
そう、まだ彼らに許される資格はない。これから歩んでいかねばならないのだ。
静かに視界を開けば、新たな道を告げる朝日が曙の空に生まれていた。

「今まで・・・気付いてはいた。だが、我が使命のため、過ちに気づくことを避けていた・・・。
 全てが終わったら・・・まずは民に詫びねばならない。」

民の声が聞こえていなかったわけではない。
そして、己の進もうとしているものが道から外れていることも。
道を外れてでも世界の為に。その思いで突き進んできた。
だが、独りで闇の中を歩んでも正しい道は見つからない。それを思い知り、彼はルケシオンの方角を睨む。
「だがしかし、今は為すべきを果たすのみ。」ふいに歩き出し、先陣を切ったアルトシャンはずんず
んと進み軍の飛行場へ赴くと、
既に準備された錬金艇に乗り込んで早速指揮を取る。
その横顔はまさに大国の長であり、もう影に取り付かれたやつれた顔はそこにない。
そっと横に寄り添うアンドラスの肩に手を置きながら、アルトシャンはマイクに叫ぶ。

「目標!ルケシオン!いざ、参る!」
「メインエンジン始動!」

アルトシャンの指示にセインが各セクションへ命令を伝え、巨大な機械が唸りをあげだす。
光る計器、唸るエンジン、そして動き出す視界。
あっという間に離陸した錬金艇はルアスの町を飛び越え、雲を裂いていく。

「いよいよなんだ・・・待ってろ、フェンネル・・・マヴガフ!」

ようやくに長かった旅がひとつの終着点を迎えようとしている。
ぐっとトパーズを握り締めたシャニーは今一度祈った。
この戦いに早く終わりが来るように、と。


 一方、ルケシオンではマヴガフが最後の調整に入っていた。
黒き魔道書を見下ろしてふっと笑うマヴガフだが、その最後のページを開いて舌打する。

「ふふ・・・フェンネルめ、行ったか。精々時間稼ぎをして功を積めや。」

結局、ルネアからの連絡は何もない。
この最後のページに生成された新たなトリガーが一体何なのかさえ分からないとは何とも腹立たしい。
少しでも、それを知るための時間が欲しい。「もっとも・・・使えねーゴミの処分なんざとっくに決まってるがナァ。」
誰でもいい、時間を稼げるなら、誰でも。それならば、どうせ殺すことが決まっている者を差し向ければ手間が省けるというもの。
いくら出来損ないとはいえども、フェンネルでは今のシャニーの相手にならないことなど分かっていた。
時計を見下ろす・・・やはりルネアは来ない。やる事を先にこなしたほうがよさそうだ。

「さて・・・そろそろメインショーに・・・ん?」

ダイモニオン・エムブレムを手に立ち上がり、魔法陣に対した彼はマナを流して起動させる。
だがその途端だ、彼はすぐに違和に気付いてその蛇眼を歪めた。
魔法陣を流れるマナの波長が乱れている。
かすかな異常だが、それでも万全を期して水晶で各地に敷いた魔法陣を確認してまわる。
すぐに出る舌打。その異常は、思いもよらずすぐそばにあった。

「・・・どうやらまだ始末しなきゃいけねえネズミが一匹残っていたようだぜ・・・。」

水晶に映る一人の男の背中。必死に魔法陣へ攻撃を加えているではないか。
ナイフを突き立てるように、彼はその鋭く切れ上がる黄金をその背に向けて不機嫌を顕にした。
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